匿名さん 2023-04-29 15:14:24 |
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ダメじゃないか!そのままにしてたら!
( その布巾の正体を聞けば、曖昧な意識の頭の中が一気に覚醒し、カッと目を見開いて上記のように声を上げて。いや、放っておいたらダメなのはそうなのだが、救急箱の場所を教えてなかった自分も悪いのだと気づけば、のほほんと笑みを浮かべながら呑気に朝ごはんの用意ができたと告げる相手に「 来なさい。 」と、それだけ伝えれば、切った手に負担をかけさせるわけにはいかないため、手を引かずにある場所へと歩き始めて。というのも向かったのは台所。既に朝食の穏やかな香りが立ち込めるその場所の一角に戸棚があり、そこから救急箱を取り出せば「 見せてみなさい。 」と、どうやら処置は己がするようで。患部を見せて貰えば、それほど大きい傷ではないのだが、白魚の手に傷がついているのがなんとも痛々しく、そして愛おしくて。救急箱からまずは消毒液を取り出せば「 染みるぞ。 」と液を含ませた綿で消毒していき、それから異様に手慣れた手つきで処置を済ませていって。 )
っ、ひ、…
( ジン、と傷口にしみた消毒液にびくりと体を硬直させて小さな悲鳴を上げてはぎゅうと蘇芳色の瞳を瞑って。包丁の切れ味が良かったせいか、切った時の痛みより今の方が余程痛く感じてしまう。椿は生理的に出てきた涙で瞳に膜を張りながら、侍女でありながら主人に手当をさせてしまっている事実にだんだんと申し訳が立たなくなってきてしまい。「 ありがとう、ございます…。 」とよわよわ彼にお礼を言えば、怪我をし慣れていない自分とは対照的に手馴れた手つきの彼に慣れてるのかしら、なんてぼうっと考えて。遊郭では下手をしたら折檻というのが日常だったが、マァ当然のようにその後の手当に必要な消毒液だったり包帯などは支給されるはずもなく体に折檻の痕の残った遊女たちも何人書いた記憶がある。ここはそういったものは使っていい場所なんだ、と改めて再認識しては自分の手当を真剣な顔で進めてくれている彼を見つめて。 )
( 染みる消毒液に耐えきれないのかピクピクと跳ねる指を、処置がしやすいように優しく包み込むように抑えて、消毒の後は絆創膏をぺたりと貼れば「 よし。 」とひとまず応急処置は終えることができたようで。痛みで張り詰めていた気が緩んでいく相手がへなへなとお礼を述べると「 どういたしまして。これから気をつけるように。 」と、食事を用意してくれるのは嬉しいのだが、そのせいで椿のしなやかな指が傷付くのは見たくないと、相手の身を心配するがそのことは口にせずにいて。手当も終わったことでさぁ食事だと救急箱を直せば「 さぁ、ご飯にしよう。 」気を取り直すように振り返り、未だに湯気を立ち上らせる暖かな朝食をいただき、外出の用意をしなくては。 )
はい、昨日と献立は同じになってしまいましたが、召し上がれ。
( 綺麗に、丁寧に絆創膏の巻かれた指をきゅ、と包むようにしては彼の言葉にふわりと微笑んで。ぱたぱたと炊飯器の方に駆け寄り彼の分と自分の分のご飯をよそって、それぞれ完成した料理たちをテーブルに並べていけば彩りの良い食卓が完成する。卵焼きは少し形崩れをしてしまったが、マァ昨日初めて1人で作ったものにしてはしっかりと形が作られており、味噌汁はアクシデントこそあったものの味としては昨日と遜色ないものができたのではないかと割と自信作で。「 おみそ汁の具はおとうふとねぎです。あとね、お魚は上手に焼けました。……卵焼きは、少し難しかったんですけれど、 」と1つずつ自分一人で何とか作った料理たちを説明していけば、どうかしらと彼の顔色を伺うようにそっと上目遣いで彼を見つめて。 )
ふむ。
( 椅子に付けば、食卓に並べられたのは昨日の朝食と同じ献立。たった一度とはいえ、変に冒険せずに作り慣れたものを作った相手の堅実さに心の中で敬意を表して。上記のように品定めをするように一度並べられた皿全てを眺めて、気になる出来のものはあるが肝心なのは味だと思えば「 いただきます。 」と静かに手を合わせて。まずは味噌汁を一口。「 ふぅ。 」と流れ込んできた熱を吐き出すように一息つけば次は卵焼きを、その次は焼き魚を。そうやって並んだ皿に一通り手をつければ「 うん、美味い。 」穏やかに笑みを浮かべながらそう呟いて。昨日の朝食に比べれば拙いところはあるものの、椿が切り傷を負ってまで作ってくれた想いが染み込んでくるような味と暖かさで、それからも次々に相手の作ってくれた朝食を食べすすめて。 )
─── …よかった。
( 〝美味い〟と、彼の優しいテノールの呟きが鼓膜を揺らせば、まるで春の花がじんわりと咲くようにパッと微笑んで。昨日彼と作ったばかりとはいえ、人生で初めてのひとり料理。形が崩れたり指を切ったりと失敗こそあったもののこうしていちばん美味しいと思って欲しい人にそう言って貰えたのが嬉しくて、椿はなにだかふわふわと宙に浮かぶような気持ちになって。これで一安心だと自分も箸を取れば、彼に続くように少しずつ食を進めて。この調子ならばきっとほかのお料理もひとりで作れるようになるかもしれないと、御屋敷の中に料理の本がないか今度探してみようと思案してはもうすっかり指先の痛みや朝の妙な怠さのことは忘れてにこにことご機嫌そうで。「 早くほかのお料理も作れるようになりますね 」と、寝起きのぽやぽやとした可愛らしさはすっかりなりを潜めてしまった傾国の美丈夫にふわりと微笑みかけては、こんな風に穏やかな朝が毎日来たらいいのになあとぼんやり思って。 )
向上心はいいことだ。けど無理はしないように。
( 焼き魚の塩味と脂を味噌汁で流し込んでいると、花のような笑顔をパッと咲かせてこれから料理のバリエーションを増やすという相手に、上記のようにその勤勉な姿勢は敬意を表するが今朝のように切り傷を増やしてまではしてほしくないという、椿の白魚のような手に傷がつくのは我慢ならんという半ばわがままのようなものも混ざっていて。そうして二人で穏やかな朝食の時間を終えれば「 ご馳走様。 」と優雅な所作で手を合わせて挨拶をして。「 片付け、俺がやるよ。 」と、寝坊して相手に朝食を作ってもらった身として、これくらいはやらねばと思えば相手と自分の分の食器を流しに盛っていって洗い始めて。 )
……ご馳走様でした。
( 自分で作った料理を食べるのも悪くない。……とは言っても、こうして料理の元となる材料は全て主人が労働して稼いだものなのだから無駄遣いをしないようにしなければと考えながら自分も両手を合わせて。と、片付けを率先して担当してくれようとする彼に思わず目を丸くしてしまえば慌てて彼の後をぱたぱたと追って「 そ、そんな!家事は私のお仕事ですから…! 」と止めようとするも既に洗い始めてしまった彼を見て〝気を遣わせてしまった〟と眉を下げてはその隣にちょこん、とちまく立っては「 お皿拭きは私がやります。…ありがとうございます、 」と、本当はちょっぴり傷口に水が染みたりするのが怖かったので彼の申し出は願ってもいないことだったのかふにゃりと笑って。それに2人でやった方が直ぐに終わって早く出かけられるし、と彼には言わずに自分の中だけで呟いては布巾を持ってこくん、と頷き。 )
手、切ってるだろ。絆創膏が剥がれたらダメなんだからこれくらいやるよ。
( 皿を持てばぱたぱたと慌てる相手に、そんな状態のおなごに水仕事なんてさせられないと頑なに譲らずに己がやろうとして。一人暮らしの賜物か、手慣れた手つきで皿を洗っていると、水拭きだけでもと食い下がり、隣に立ちはだかる相手に、働き屋の癖が抜け切っていないのだなとやれやれと小さく息を吐き、まぁ水を扱わないそれくらいならとこちらも折れれば「 ん、じゃあ頼むよ。 」と泡をゆすいだ皿を相手に渡していき。作業する人間が増えれば仕事が進む速度も比例して早くなり、思いの外早く片付けが終われば「 よし、じゃあ出かける準備をしようか。 」と待ちかねた時間に備えようと。「 そうだな…1時間後くらいに出発するから、それまでに支度をすること。いいな? 」と時間も決めれば己もその準備をするために私室へと向かって。 )
お任せくださいな!
( 彼から直々に頼まれればぱあっと表情を輝かせてこくんと頷き、次々に渡される食器たちを丁寧に布巾で拭いていき。随分と手際の良い彼をぽけーっと眺めてはお独り暮らしが長いのかしら…と邪推しつつも皿を拭く手は止まることなく動き、自分一人で行う時よりも余程早く作業が終わり。1時間後に出発だと告げられれば「 畏まりました。お洒落して参りますね。 」と人懐こい笑顔を浮かべながら小さくガッツポーズをして見せて。彼と同じく私室へと向かえば、もう着る服は既に決めていたのかクローゼットから直ぐに白いワンピースを取り出して。ふんわりとしたパフスリーブに細腰をキュッと強調させるような切り返し、ひらりと広がる全円スカートは何枚ものレースが重なっているようなチュール素材で襟元は可愛らしい丸襟となっている可愛らしいこのワンピースはこの屋敷に来た日に彼が選んでくれたものである。靴は可愛らしいパールが足首を彩る白のパンプスを履いて、髪は美しく波打った黒髪を惜しげも無く下ろして顔周りを耳にかければ、頭に白いレースの中に金の小花刺繍が散りばめられたカチューシャをつけてコーディネートは完成。白粉やら頬紅を軽くはたいて、大人過ぎず子供過ぎないさくらんぼ色の紅を引いて化粧も完成。大きな姿見でなんどもくるくると回ってどこもおかしな所がないと確認すれば、準備が出来たと玄関の方へと向かって。 )
( ふんすと鼻息を荒くしそうなくらいに気合いを入れて、愛い笑顔を浮かべながらお洒落をしてくると宣言する相手に、おハナさんがとびきりの服を選んでくれたのだからそれはそれは大層な美女が出来上がるのだろうなと、その気合いの入れように思わず笑みがこぼれてしまえば期待が高まって。さて、自分の方はというと、外出なのだから仕事行きよりもカジュアルなものをと黒のスラックスに爽やかな水色のカッターシャツを身につけ、上から黒のジャケットを羽織れば、せっかくなのだからと普段はやらない髪のセットをして、オールバックに整えれば額にかかっていた髪が上げられたためか精悍さに磨きがかかり。仕上げにいつものように花の香水を振って準備完了といったところで、集合場所の玄関へと向かえばそこには天女と見紛うほどの椿がいて。てっきりおハナ特選の服を着るかと思っていたのに、こちらが選んだ可憐な白ワンピースを身に纏う相手を見ればなんだかむず痒くも嬉しく感じ。顔に白粉と頬紅がはたかれれば、もともとが化粧いらずの美貌だというのに更に磨きがかかっていて、これでは遊郭に通う男どもを手玉にとることなど赤子の手をひねるようなものだろう。つくづく、相手の美貌に畏れを感じればあまりの美しさに一瞬言葉を忘れていたのかハッと我にかえり「 綺麗だ…。綺麗だよ。椿。 」と感嘆の息を漏らすように相手を褒め称えて。 )
( / 服装の表現がお粗末で申し訳ありません…。椿様の表現には驚かされてばかりです。
外出の流れなどいかがいたしましょうか?ひとまずなんでも揃う百貨店のようなものに行くよう考えておりますが、それ以外にどこか行かせますか? )
、─── っ、…。
( 物語の中で少女が王子様に恋をするときに花が散るようなよく有るようなことだが、成程これは。いつも下ろした前髪をオールバックに整えれば切れ長の月のような彼の黒瑪瑙がよりハッキリと強調されて彼の視線が射抜く全てを恋に落としていくような感覚にすら陥ってしまうほどの美しさ、それからふわりと香る花の香水も合わされば桃源郷に自分が迷い込んでしまったのかと思ってしまうような感覚に陥り椿の呼吸と周りの時間がはた、と止まってしまったかのようで。此方を綺麗だと評する彼の言葉にすら桃のような優しい甘さを称えているようで、椿は少し見惚れたあとによわよわと目尻を下げては「 直政様も、…とても素敵です…。 」と恥じらう乙女のごたる桃色の頬を隠すようにもじもじと足元に視線をやれば、嗚呼どうしようこのままじゃ今日1日彼を見られないわと自身の天の川のような黒髪を肩からさらりと落としながらきゅ、と胸元で両手を握り。 )
( / お褒めいただきありがとうございます…!!
とんでもないです、男性のお洋服の構造や説明がとても難しい中此方でも鮮明に脳裏に浮かぶような文章とても助かっております…!
そうですね…!相当色んなお店が集まっているでしょうし、椿が百貨店に行ったことないでしょうから、本日はひとまず百貨店だけでいいんじゃないかなぁと思います…! )
( お互いのことを褒め称えれば、2人してまるで付き合いたての番のようによわよわてれてれと甘ったるい空気を醸し出し、そのむず痒さにこちらも頬を赤らめながら、相手の生娘のような反応と言葉を受け取って。こちらははたちを超えたというのに、まるで思春期同士の交際のような椿との時間に、調子を狂わされてばかりだと自嘲気味に心の中で思えば、相手が水揚げを済ませてしまったのならいったいどれだけの男が群がったのだろうかと鳥肌を立たせて。と、このまま2人でもじもじしていたのでは一向に外出に出ることができないため「 んんっ 」と咳払いをして気を取り直せば「 よし、行こうか。 」と声をかけながらいつものように、相手に手を差し出し、その手に相手のちいちゃな手が乗せられればその手を引いて屋敷を出て。 )
( / いえいえ…!こちらはファッションに疎くて調べながら手探りでやっておりますので変なところがないか不安です。
了解しました!以前言っていた水族館や遊園地などはまた今度ですね! )
─── …はい、
( 彼の暖かくて大きな手に包まれれば、本当に絵本の中の王子が姫にするようにいつもの様にエスコートをされてふにゃふにゃと微笑んで。屋敷の外に出ると今日も気持ちの良い日本晴れで、花街にいた頃にはこうして健康的にお天道様の下を歩き回るなんて想像もできずになんだかくすぐったい様なまだ慣れていないそわそわとした気持ちが胸を踊らせて。そう言えば、とふと彼の方へ視線を向けては「 今日はどちらに行かれるんですか、? 」と、良いところとは言われていたが具体的な行き先を聞いていなかったと思い出したのかふわりとした黒髪を揺らしながら緩く首を傾げて。舞に必要な道具などどこに売っているのかしらと、常に身の回りに道具があるのが当然の生活を行っていた椿には想像がつかずただただ不思議そうに長いまつ毛に縁どられた蘇芳をぱちぱちと瞬きさせて。 )
( / 私も男性の服装については全く疎い側ですのでどうぞお気軽にやっていっていただければと…!!
そうですね…!以前仰っていた看病のくだりも今回でやってしまおうかなと思っているので、また次回に回せればと……!)
( 外に出れば穏やかだった朝の陽射しが燦々と輝く日光になっていて、この様子だとジャケットは要らなかっただろうかと思いながら、相手の手を引いていて。そうして車の中までエスコートし、自分も車に乗っていざ!と車を走らせると、傍の相手がまるで遠足を翌日に控えた小学生のように期待を胸にしながら問いかけてくれば「 そうだな…。 」と、なんでもそろう百貨店に行くことは計画していても、相手に一口に百貨店と言っても想像が出来ないだろうからとどう説明したものかと考え込み。しばらく考え込んでもうまく説明できる言葉が見当たらず、諦めて「 なんでも揃うところ。まぁ、行ってみてのお楽しみだな。 」と、簡潔な説明だけをしては相手の期待を煽るようにはぐらかし、「 おハナさんの店より大きい、とだけ言っておこうかな。 」と、相手が想像するところを見るのも面白そうかと思ってヒントだけ出して。 )
( / なるほど!帰ってきて疲れが溜まって…という感じですね! )
おハナさんのお店より……大きい……。
( 彼の言葉にぽつりと不思議そうに瞳を丸くしたものの、今まで自分の中での大きな建物と言えば郭しか思い浮かばなかった自分にとっておハナの店でさえお城と見まごうほどに大きかったというのに、それ以上とは。むむむ。と端麗な眉を寄せながら真剣に悩むものの、やはり外に出たことのない自分には想像がつかず。「 直政さまはよく行かれるんですか、? 」と、ふと隣の彼を見上げてはその場所に彼はよく行くのかと。もしかして舞に必要な道具だけじゃなくてもっとたくさんの他の品物が売ってるのかもしれないわ、と名探偵ぶって正解の分からぬ問題を当てようと世間知らずながらも自分の中でだんだんと情報を整理していって。……マァ今のところおハナの店より大きいことと舞に必要な道具が売っているということしか分からないのだが。 )
( / そのような形にしていこうかなと思います…!!!
よろしくお願いします…!! )
そうだな…。
( 運転している最中、隣からそこを贔屓しているのかと問いかけられればフロントガラスから目を離すことなくなにやら考え込むように遠くを見つめて。確かに贔屓にしてはいるものの、よく行くかと問われるとそうでもない。ちょうど赤信号で止まればどう言ったものかと悩み果て、頭の中に浮かんだのは「 特別な時に行ったりするな。 」と、なにか大事な時に赴くことが多いと、更に相手の想像力を煽るような台詞を吐いては赤から青に変わった信号を確認すれば発車させて。そうして運転すること数十分。「 よし、着いた。 」と呟いた時に見えるのは五、六階建てはあろうかという高さの百貨店で。おハナの店のように外観は豪奢とは言わないが、それでも見るからに清潔で上等な外観で、何より、賑やかささえ伝わってくるような大きさで車から降りれば「 さぁ、行こう。 」と助手席の相手に手を伸ばして。 )
( / 了解しました!こちらこそよろしくお願いします! / 蹴可 )
とくべつなとき……、
( ふむ、と彼の言葉を復唱しながらそれぞれ貰ったヒントたちで自分の中の知りうる限りの建物を想像するも、矢張りどのヒントをとっても遊郭しか出てこず首を捻り。だって女を買うのはお金がかかるから特別な時だけって姐さんのお客さんが言ってたし。そんなこんなと思考の海にどっぷりと使っている間に目的地に到着したらしく、彼の言葉でふっと意識を浮上させては目の前にドンと鎮座する大きく上等な建物にぱちぱちと何度も瞬きをして。入らなくてもこの店には上等な人間しか入ってはならないというような謎の威圧感を感じるし、確かにこれは特別な時でなければ足を踏み入れてはいけないのかもしない、と少々怖気付いては、いつものように優しく差し出された彼の手におずおずと自分の手を重ねて車から出ると、「 あの、……私、ほんとに、ここに入っていいんでしょうか… 」と不安に揺れた蘇芳で彼を見上げてはどうしよう、と言いたげに問いかけて。 )
( 相手がこちらの手を取る時はその小さな手できゅ、と本当に力を入れているのかわからないくらいの力量で握り返してくるのだが、今回はそれに拍車をかけているような、おずおずといった感じで手を取ってくれば、いつもと違う様子に首を傾げて。不安に惑う蘇芳をこちらに向けながら、そのおかしな様子の原因を問いかけてくると「 なんだ、そんなこと気にしてたのか。 」と、身請け初日であられもない姿で夜這いに来たり、約束を破った主人に確たる態度で対応したくせにこんなことでおろおろしだす相手におかしなものだと思わず笑みをこぼしながらそう言って。まぁ初めての場所にはそれなりの不安というものがあるのだろう。その不安を解消してあげるように繋いだ手を優しく力を込めて握り「 大丈夫。ほら、普通の人だって入っていってるじゃないか。 」と、百貨店の入り口を指差せば、さすがに整った服装ではあるが、今の椿の服装に比べればいくらかグレードが下といったもので。 )
だから大丈夫。俺と、おハナさんの服を信じろ。
直政様と、おハナさんのお洋服を…。
─── … はい!
( 彼が指した通り、あの大きな建物には少し金持ちの一般人…遊郭で言うのであれば散茶の女、頑張って格子の女を買えるであろう服装の人々や家族も入っているのを見かければ先程よりも焦った心は少しだけ落ち着いて。それに引き続き彼から告げられた言葉にぱちり、と瞬きをすれば彼の夜空のような黒瑪瑙とそれから自身の着ているふわりと広がる可愛らしい白のワンピースと、それから艶々と美しく光るヒールを見て。するとなぜだか先程まで自分の胸中を閉めていた不安はどこへやら、だんだんとその不安の芽たちはそっとまた地中に眠っていってしまい。優しく自身の手を握ってくれる彼の手にまた応えるようにキュ、と握り返してはいつものような花のような笑顔をぱっと浮かべてはこくりと浮かべて。自分には魔法のかかったお洋服と魔法使いさんが着いているんだ、と実感すればなにだかとても勇気が湧いてくるようで、これもまた彼の魔法なのだなとふと思えばやわやわと目尻を下げて微笑んで。 )
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