殺人鬼 2023-04-15 18:52:00 |
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それは出れるとは言わ…がっ…!?(相手も生きて出たいという意味はわかっているだろうに呆れたように吐き捨てる最中、突然伸ばされたかと思うと首に掛かり力を込められ呻き声が出て。)ぐっ…ぁ…。げほっ!げほっ、ごほっ!(言い返したくても首を絞められ軌道を圧迫されているせいで声にならず苦しげな声を洩らすだけで。力が抜け解放されると膝から崩れ落ちるように床に手を付き急に入ってきた酸素に激しく噎せ。咳き込みながら何とか呼吸を整え。やはり相手は人を殺すことを何とも思っておらず簡単にやってのけるのだと再認識して。)
ふふ…いいですねぇ。その苦しそうな姿。私に首を絞められた瞬間のキミ、実に美しかったですよ。私も絞殺のイイ感触を知りましたぁ…思わずあのまま絞め殺したくなってしまいましたよ(激しく噎せ必死で呼吸を整える彼の姿を恍惚とした表情で見下ろす。彼にはこういう姿が似合う。怯えたり苦しがったり。自分は彼と一つ屋根の下で暮らして大丈夫だろうか。気分屋な自分など我慢出来ずに彼を殺してしまいそうな予感がしてならない。そういう意味では理性との戦いだ)怖かったですか? 苦しかったですか? いずれにしても今の感覚、覚えておいて下さいね。今後の役に立つでしょう(今後の役に立つとはつまり、自分が気に入らない行動を取ったら容赦なく絞め殺すぞという脅しで。直截的に言った方が脅しとして伝わるのかもしれないが、彼は遠回しに言ったとしても理解出来る子なので問題は無いだろうが)
けほっ…、後ろから襲うのが好きだったり絞め殺すのが好きだったり…本当、悪趣味だな。(呼吸が整えば絞められた後を摩りながら恨みがましいような目線を向け。本来ならこのままぶん殴ってしまいたいがその先がないのではそれは得策ではなく。確かに自分を殺さず連れ去ったのは気分だとも言っていたのを思い出し。まだ数時間を過ごしただけでは何が相手の琴線に触れるのかわからず。しかし相手の口振りから生きている限り外に出す気はなさそうで。)こんなもん忘れたくても忘れ等んねーよ…。(忘れないというのは実際は恐怖よりも苦しみのほうで。いっそ早々に気でも失ってしまえば苦しみも相手の興味も削がれたかも知れないが。しかし紐やコードならともかく手で首を秘められては気絶するとしてもなかなかな時間が掛かり。相手がどうかはわからないが殺しのプロは相手がギリギリ気絶しない力加減を知っているとも聞いたことがあり。)
悪趣味とは褒め言葉として受け取っておきましょう。良い趣味だと自分では思ってますがね。…何なら……蒼クンも体験してみますか。人を殺す楽しさを(ふっと一瞬だけ瞳からハイライトが消え。すぐに我に返る。自分は一体何を言っている。こんな子供にそんなものが理解出来るはずないのに。自分がこの子に惹かれているのか、この子が人を惹く素養があるのか、どうもさっきから自分はおかしいようだ)なぁんて冗談です。さぁ、早く着替えて今日は寝るといいですよ(いつもの微笑みを向けながらナイフで足の拘束を外す。これで彼の縛めは全て解いてしまったが問題ないはずだ。喉元過ぎれば熱さを忘れると言うが、つい今しがた自分を殺そうとした相手に手向かう程愚かな子ではないだろう。ソファに座るとコーヒーを全て飲み干し、携帯に目を落とし)
冗談だとしても本気だとしてもお断りだ。人なんて殺しても楽しいなんて絶対に思えねーしな。(相手の瞳からハイライトが消えたのは気付かなかったのかはっきりと断り。それはそうだ。今まで普通の学生として生きてきたのだから人を殺したいだなんて思うはずもないしそれが楽しいだなんて思えるはずもなく。普通なら冗談だろうが相手は人を殺し先程、自分も殺されかけた相手で。)いや、着替えって言っても…。(これで戒めは完全に解かれたが今はこの家の状況も全くわからない状況。逃げたとしても外まで辿り着ける確証はない。出入口を探している間に捕まったから次こそ殺されかねなくて。そして問題の着替え。別に男同士なのだからそんなに大きな問題はないのだが見られながら着替えるというのはどうにも抵抗心があり。)
んふふ…そうですよねぇ…今はまだ…(はっきりと断った彼に小さく呟き。今はまだ、というのはいずれ抵抗が無くなるだろうということだ。人間は環境に順応すると、それが普通だと錯覚する。それがどんなに異常な環境であっても。携帯の画面にネットニュースを表示させ、目を走らせる。数時間前に自分が殺した相手の遺体が発見されたことが報じられていた。幸い彼のことや自分のことについては報じられてはいなかった。殺人も好きだが、自分の犯した殺人がどのように捜査されているのかをニュース越しに見るのもまた面白い)どうしました?私は携帯の画面を見ています。キミの着替えは視界に入りませんのでご安心を(携帯の画面に目を落としたまま言う。単に情報収集も兼ねて彼の着替えを見ないようにするという自分の気遣いはいまいち伝わらなかったようだ。それもそうだろうと内心では納得する。彼にとってみれば自分は殺人好きの異常者。そんな自分が気を遣った所で彼は警戒しかしないだろう)
今もこれからも変わらねーよ。(監禁されたとしても殺されかけたとしても人を殺したいと思ったこともない人間な人殺しを楽しめるようになる訳がないと信じていて。監禁がいつまでなのか、相手の機嫌がいつ変わるのか。それは定かではないが遅くとも明日にはここに人が来る。願わくばその人がまともな人であるのを祈るばかりで。人が来たところで相手の招待を知っていようと知らなかろうと相手の殺人衝動や言動を理解してしまうような相手ならば運良く接触出来たとしても監禁から手助けしてくれる可能性は落ちる。相手のこともよく知らないままに更に知らない人に会うのはリスクもあるがずっと閉じ込められているよりはマシで。)……そうか。(本来ならば相手に背を向けて着替えたいところだが後ろから襲うのが好きだと言っていた相手に背を向けるのは危険過ぎて。ボストンバッグの中に入れてある着替えで一番上にあったスウェットを取り出すと手早く着替えてしまおうと着替え始め。服を脱ぐ前に相手がまだ携帯を見ていることを確認してから手早く上下のスウェットに着替え。)
変わりませんかぁ(彼の返答の受けて再び呟き。会話をしているように見えるが実は頭の中では別の事を考えている。恐らく彼は事務員に接触しようとするだろう。彼を拘束していた部屋は休憩室として使っているため、使えない。かと言って二階に監禁しておいたら物音で怪しまれてしまう。どうすれば良いか暫く考えた結果、一種の博打のような考えを思い付いた)着替えはできましたか。一つお知らせが。キミをあの部屋に監禁しておくと、怪しまれる可能性が高いです。ですから…私の親戚で司法試験合格を目指しながら事務所でアルバイトをしている「天瀬蒼」として仕事を手伝って下さい。もちろん、いつでも私の側にいてもらいます(これは博打だ。それも自分の命運を賭けた大博打。彼が隙を突いて逃げ出したり、何らかの方法で助けを求めたらすぐに破綻してしまうだろう。しかし他に有効な対策手段がない以上、こうするより他ない)
そんなの当たり前だろ。(何があっても殺人を楽しめるなんてそんな気はせず。標的が自分にしろ他の人にしろ相手はまた殺人を犯すだろう。それがもし監禁されている自分の目の前で行われたら。その時、自分は正気を保っていられるのか。とはいえ自分に見せつける必要性はあまり感じられないし人が出入りするであろう自宅で殺すのはあまりにもリスクが高く。だがそうするも少なくとも相手が出掛ける際は誰かを殺しに行くのかと思えてしまいそうで。)え…、は?親戚?アルバイト?(突然の相手の提案に頭が追い付かず。そもそもアルバイトと言っても自分には法律の知識は一切なく。事務員と接触する機会は思ったより早く得られそうなものの自分が法律の知識がないことを露見しては逆に怪しまれそうで。しかし自分としては怪しまれてるほうが助かる可能性は高く。)
法律知識が必要な仕事は私と事務員でしています。キミにはお茶出しやコピーなどといった簡単な仕事をお任せしますのでご安心を。その仕事をしながら常に私の隣に居てください。…ああそうそう。事務員のお姉さんは育休から明けたばかりです。もし小さい子供を遺して非業の死を遂げたとしたら大変ですねぇ…(コピーやお茶出しなど元々は事務員がやっていた細々とした作業を彼に任せることで、事務員には書類と一日中睨めっこしててもらおう。彼と接触する機会をなるべく減らさなくてはならない。彼はこの期をチャンスと捉えているかもしれないから忘れずに釘を刺しておく。自分の行動で無関係な人間が、幼い子供を遺して殺される。彼は自分を普通だと称した。普通の人間ならば迂闊な真似は出来ないはずだ)
いや、ちょ…そういう事じゃ…。…っ!(理解が追い付く前に話が進んでいくことにこめかみを押さえ。それならば自分でも出来るが高校生で司法試験というのは無理があるように思えて。とは言え弁護士故か元々か何かと頭の回る相手。事務員に疑れても言い逃れは用意しているだろう。事務員と言うからにはそれなりの年齢の人を想像していたが相手がそんなに年齢が言ってないことを考えると事務員が若くても不思議はなく。そして育休との言葉。失敗して犠牲が自分だけならいいが下手すれば他に被害が及ぶことを危惧して。)
ぜひキミには節度のある行動をお願いしたいですね。…では寝室まで案内しましょう。と、その前に…(ポケットから結束バンドを取り出すと彼の手を強引に後ろに回し拘束する。同じように足にも結束バンドの拘束を施し。流石の自分も睡眠中に脱走されては対処出来ない)寝室は二階にあります。私の寝室ですがダブルベッドですので、そこまで窮屈には感じないと思います(何の前置きもなく彼を担ぐと階段を上り始め。平均的なスタイルをしているとはいえ、普段あまり運動--殺人は一瞬で済むことが多いので大した運動にはならない--をしないので階段を上るだけで少し肉体に負荷が掛かる。階段を上りきって突き当たりのドアを開け、寝室へと入る。寝室は一人でも二人でも快適に過ごせるように広めに作ってあり、ダブルベッドが鎮座している。ベッドにそっと彼を下ろす)では私はまた後で来ます。おやすみなさい
弁護士の台詞とは思えねーな…。…っ!チッ…。(相手の台詞に苦々しく歯噛みして。目にも止まらないような早業で手を拘束されると動きが制限され足もあまり難なく拘束されてしまうと思わず舌打ちが洩れ。)は?あんたの?(どこか物置かそんなところに押し込められるのかと思っていれば告げられた場所は相手の寝室で。最早、担がれるのは一回も2回も変わらず手だけならまだしも足を拘束されていては辛うじて足先は動いても階段を上がるのは無理で。そもそもどこがどの部屋なのかはまだ把握出来ておらず。確かに連れられた部屋には一人で使うには大きなダブルベッドが置いてあるが問題なのは大きさではなく。相手の寝室、相手のベッドということは相手と同じ場所で寝るということ。それはそれで命の危機を感じ。)ちょっと待っ…!行っちまった…。
……僕は何やってるんだろうね(寝室から退去すると浴室へ向かう。シャワーを浴びながらぽつりと呟く。殺人の現場を見られたことなんて今回が初めてでは無いのに。見られる度にこの手で殺めてきたのに。それが彼の場合はそういう意欲が湧かなかった。代わりに捕まえなくてはという感情が上がってきた。どうも自分はおかしいようだ。体調でも悪いのだろうか。今日はとりあえずこのまま寝よう、とシャワーを止める。)……独占欲。(バスタオルで身体を拭きながら以前弁護した女性のことを思い出していた。女性は会社の同僚に一目惚れし、何とその同僚を自宅に監禁し続けたのだ。その後、同僚は度重なる女性からのアプローチを断り続け殺されてしまった。面会の際に女性は『一度好きになった相手は捕まえて手元に置いておきたい。独占欲をコントロール出来なかった』と説明した。今回のことを当て嵌めるのなら、自分は彼に一目惚れしたことになる--バカバカしい。そこまで考えて苦笑し、考えるのをやめた。バスローブに身を包み寝室へ入ると溜息を吐きながら、既に彼がいるベッドに入り込み)
さて、どうしたもんか…。(どうするも何も手足を拘束されている状態では出来ることは限られており。出来そうなことと言えば何とかして上半身を起こすくらいで。取り敢えずは降ろされたベッドに寝転がったまま部屋をぐるりと見渡す。部屋自体はなんてことないシンプルな作りで。取り敢えず殺人の痕跡が部屋にはなかったことに安堵して。これからやるべきこと、脱出するための段取りを考えるもどの考えも何かしら鬼門がありこれでもない、あれでもないとぐるぐると堂々巡りをしている内に疲れが出たのか段々と意識が薄れ。)んん…?(漸く深い眠りに落ちそうな時に誰かがベッドに入り込んでくる感覚にまだ夢現な状態で目を開き。相手の人影は見えるもぼんやりとした頭では相手が殺人鬼だとか自身の置かれた立場だとか大した状況も入ってこず。頭の中に浮かんだのは相手が戻ってきたということくらいで。考えることをやめたのか諦めたのか眠気が勝ったのか、ベッドの上は広くとも拘束されているという窮屈な体制を少しもぞもぞと動かせばまたゆっくりと目を閉じて意識を夢の中に潜らせれば次第に寝息をたて。)
……おやすみなさい。蒼クン(自分がベッドに入り込んできた時には既に彼の意識は夢中へと移動しつつあった。次第に寝息が聞こえてくれば、少し上体を起こし彼の頬を撫でながら呟く。なるほど。この子はこんな顔をして眠るのか。もっと彼のことを知りたい。知ってどうするのかは自分にも分からないが、とにかく彼に関することは何でも知っておきたいという欲に駆られる。これは単なる好奇心なのか。そんなことを考えていると次第に思考が朧気になってくる。今日は疲れた。色々なことがあり過ぎた。ただでさえ仕事で疲労していたのに、ストレス発散のために行った殺人の現場で、彼と出逢ってしまった。そして今まで意識したこともないような感情や思考が次々と溢れ出る。身体より精神に疲労が蓄積してしまった。今日はどうにかできたが、明日からが肝心だ。如何に彼を自分の元に置いておくか。自分はまだ捕まるわけにはいかない。そして彼を逃がす訳にもいかない。もう少し新しく手に入った遊戯を楽しみたい。そんなことを考えながら意識を夢へと走らせる)
(/とりあえず失礼します。ようやく一日が終わりましたが、ここまでで何か不満などありますか?今後の展開に関して要望がありましたらぜひ!)
ん…今、何時…っ!?あ、そうか。俺、昨日…。(ふと意識が浮上するもまだ真っ暗だということは夜なのだろう。何時もの癖で携帯で時刻を確認しようと手を伸ばそうとしたところで手が動かないことに気が付く。混乱する頭で今までのことを思い返しぜば昨日、襲い連れてこられた上に結束バンドで手足を拘束されていたことを思い出し。状態を少し上げ寝返りを打てば目に入ったのは自分を拘束した人物本人で。本当に眠っているのかもしくは起きているのか。眠っていたとしても今の状況では何も出来ないものの微かな喉の乾きを覚え。軟禁状態ならば自分で飲みにいくことも出来ただろうが今の自分の状態は監禁で。だからといって相手を起こすのも憚られ。もし寝起きが悪くて機嫌を損ねたら、と思うと少しの乾きは我慢して寝てしまったほうがいい気もして。幸いにも我慢出来ないほどの乾きではない。もう一度、寝返りを打って相手に背を向けた状態になり。いくら後ろから襲うのが好きと言っても寝ている時には襲ってこないだろう。相手は襲われたときの顔が好きだと言っていた。寝ている時に襲われてはそれどころではない。一撃で殺さないのであれば見れるかも知れないがそれはリスクが高く。相手が自分相手にそんかリスクの高い方法を取るとも思えず。)
(/一旦ここで起きるも良し、次の日に起こされるシーンでも良しです!事務員の存在はどうしましょう?基本、蒼は殺人鬼様の傍にいることになると思うので事務員の存在は無視でも可ですが。)
……ん(眠りに就いていると隣で声と動きを感知し、眠りから覚める。元から眠りは浅い方であったが、彼のことが気掛かりで余計に浅い眠りだったようだ。背を向けている彼の顔を上から覗き込む)眠れませんか? 何かあったらいつでも起こして下さいね。万が一のこともありますからね…で、どうしました?(極度の緊張状態に置かれると人間の体は異変を起こす。持病の有無や年齢にも左右されるが、そのまま死亡してしまうケースもある。以前弁護した男性はこの原理を利用して高齢の父を死に追いやった。自分が朝起きたら彼が冷たくなっていたらなどと考えたくもない。死体の処理は慣れているが、この少年を失うこと何としてでも避けたい。)
(/事務員は蒼クンにとって都合のいい存在として使って頂けたらなーと考えていました。蒼クンの脱出を手助けするような、そんな感じで!)
…っ。(相手の微かな声と身動ぐ気配に反射的にぴくりと肩が動くもそれ以上は敢えて反応しなかったものの、上から顔を覗き込まれ話掛けられてしまっては無視することも出来ず、恐る恐る口を開き)いや、眠れねーのもそうだけど…水を…。(浅くは眠っていたもののこんな拘束された状態ではぐっすり眠れるはず等なく。相手が自分が逃げ出すことを警戒しているのはわかるし逃げ出せる隙があるなら今すぐにでも逃げ出したい気持ちはあり。だがそれを素直に訴えたところで相手がそれを許可してくれる可能性等、皆無に等しく。それはわかっているので取り敢えず起きた原因でもある喉の乾きを訴え。流石に水くらいはもらえるだろう。)
(/わかりました!話の展開にもよりますが使えそうなら使って脱出を試みたり殺人鬼様を油断させようとしたりしてみたいと思います!)
水…?ああ。喉が渇いたのですね。暫しお待ち下さい(するするとベッドから滑るように離れると寝室を出てリビングへ向かう。コップに水道水を注ぎ、寝室へ向かう。彼は自分が声を掛けた時、怯えたように身体を震わせた。きっと自分がいきなり顔を覗き込んできたから怖かったのだろう。気分屋な殺人鬼と隣同士で安心して眠って下さいと言う方が無理なのだ。彼の怯えた表情は暗くてよく分からなかったが、きっといい表情をしていたに違いない。それを想像すると自然と笑みが零れる。ああ、もっと彼を怖がらせたい)…お待たせしました。お水ですよ(寝室に戻ると彼を片手で抱き起こし、ゆっくりとコップを傾け水を飲ませる。手の拘束を解いても良かっただろうか。否、手が自由になっただけでもできることは広がってしまう。少なくとも従順になるまでは就寝時の拘束は必要だろう)
(/分かりました!ちなみにですが…展開などについて萌えや萎えなどはありますか?)
…わかった。(水を持ってきてくれるという相手に小さく頷きを返し。自分で出来ば良かったが水を汲む場所もわからない上、そんな簡単に拘束を解いてもらえるとも思っておらず。食事の際に解かれた手の拘束を解かないのは相手が自分の見ていないところで拘束を解くのは危険だと警戒しているのだろうか。今のところ、脱出について考えてはいるものの基本的には相手に従っているし壊された携帯以外に通信機器も持っていない。家族が探してくれるというのは絶望的だし返されたボストンバッグにも必要性最低限のものしか入っていない。警戒が強まればそれだけ拘束も強まりそうで。)ああ、どーも…。(水を待ってきた相手が手の拘束を解いてくれることはやはりなく。もしかしたは飲む際は外してくれるのかも、と抱いていた淡い望みは届かず。それでも喉の乾きはあるため素直に飲まされ。緊張や何やらで思っていたよりの喉が乾いていたようで喉が潤うと一息付いて。)
(/塩対応や流血するレベルの怪我等、その辺りは萎えに当たりますがやり取りしている中でその心配はないかと。こちらにも何かご要望等あれば遠慮なくどうぞ!)
人間は緊張すると自律神経や交感神経の動きに乱れが起こるために喉が乾くことがあります。やはり殺人鬼が背後にいると落ち着いて眠れませんか。(つい出来心で首を絞めたり脅かすようなことを言ったからだろうか。水を飲んだ後に一息吐いた彼を見て、僅かばかり罪悪感が生じる。やはり手足を拘束していてはリラックスして眠れないだろうか。かと言って拘束を解いてしまえば彼は逃げようとする。寝室のドアは中から鍵を掛けることは出来るが、外から鍵を掛けることは出来ない造りで。窓がないので外へは脱出できないが、籠城でもされたら面倒だ)キミがリラックスして眠れないのなら私はリビングで寝ることにしますが…どうしますか(強制的に拉致しておいて何がリラックスだ、リラックスして眠りたいから解放してくれ、彼が言いそうなことが二つ三つ頭の中に過ぎってくる。微笑みを湛え彼の顔を覗き込みながら尋ねて)
(/それは良かったです!こちらとしては要望は今のところ無いので大丈夫です!)
いや、それもあるけど殺人鬼云々じゃなく…。(相手が人を殺した殺人鬼だから。その理由もないとは言えない。しかしまだ現状に理解が追い付いていないのも理由の一端で。状況を理解する間もなく襲われて、理解する間もなく監禁され、理解する間もなく殺人鬼である男と同じベッドて寝ている。連れ去れた当初より幾分落ち着いてはいるもののまだ混乱がなくなった訳ではなく。家族は元より自分を心配して探すような友人や恋人もおらず。誰も探さなければこのまま一生このままなのか。そうなると流石に不安はあり。)…この拘束でリラックスは無理があるだろ。(相手が別の場所で寝ようが同じベッドで寝ようが拘束が解かれないことは変わらず。外してくれないことはわかっているが拘束がリラックス出来ない原因だと訴え。)
(/では一旦、背後は失礼しましょうか。また何かあればその都度どうぞ!)
ん…? …ふふ…んふふふ…手足を縛られていれは眠れませんか。うーん。外して欲しいのなら外しますが…キミを気絶させなくてはいけませんねぇ…。意識のある状態で外すと逃げるでしょう?(大方の予想通り彼の所望は拘束の解除だった。自分の予想が当たるとクスクスと静かに笑う。確かにリラックスできないだろうが、逃亡されては叶わない。代替案として気絶を提案してみる。無論、彼はそんな案を受け入れるはずがないだろうが)知ってます? 首絞めを5秒~10秒程度行うと気絶するそうですよ。私はこういう行為に関しては我慢ができなくて…殺してしまったら許して下さいね。どうです? 試してみますか?(彼の首に手を宛てがい、静かに笑い。指で彼の頸動脈をなぞりながら、そこから伝わってくる脈を直に感じながら楽しそうに喋り)
逃げるってもここが何階でどこが出口かもわからないけどな。(拘束されているから仕方ないとは言え最初に拘束されていた場所、キッチン付きのダイニング、現在の寝室と移動する際には相手に担がれていたし動けないのだから動き回ることも出来ずまだどこが何の部屋なのか全くわからない状態で。逃亡したい気持ちがあるというのは相手もわかっているだろうと隠すことなく。)いっそ殺すなら一思いに殺して欲しいもんだが…死ぬ間際まで苦しめられんのか…。(最後の言葉は無意識に出た言葉で。死ぬ間際までというのが家庭環境のせいなのか他にも原因があるのか今も自分なりに苦しんでいるということを表しており。)
出口の場所はいずれ分かってしまうでしょう。だからご安心……いえ、全くご安心じゃあないですね。私としては。(今は拘束されているが雑用に従事するようになれば、必ず彼は出口を探ろうとする筈だ。そうすれば自ずと出口の場所やこの家の間取りを覚えてしまうだろう。たとえ自分がいくら気を付けていても。それ自体は良い。仕方の無いことだと割り切っている。少なくともこの家から出さなければ、だが)…キミはここに来る前誰かに苦しめられていたのですか。例えば…ご家族とかに(彼の無意識から出た言葉にぴくりと眉を小さく上げ、彼の顔を見つめる。質問しても彼のことだ。関係ないと言ってそっぽを向いてしまうかもしれないが、好奇心でつい尋ねてしまう。自分としては苦しめているつもりは毛頭ない。他人の死を遊戯のように扱うようになってから自分の死に対しても恐怖心が無くなったからだ。ただ彼はまだそうでは無い。他者から甚振りを受けることに嫌悪を感じている。だとしたら、あまり意地悪するのも可哀想だと首から手を離す)
それまでに生きていられるか、だな。(自分は今は相手の気紛れで生かされていていつ気紛れで殺されるともわからない状況にあるも思っていて。相手が殺人鬼だとわかってる以上、相手が自分を殺すつもりがないことなど知る由もなく。確かに相手の傍にいることを前提とすれど拘束さえ解ければ出口を探すことは可能で。問題は出口を探し自分が脱出するまでに相手に殺さずにいられるかどうかで。)別に…小さかれ大きかれ悩みなんて人それぞれあるもんだろ。(相手に見つめられては若干、居心地の悪さを感じ顔を俯かせ。相手の読みは強ち間違ってもいないが素直に受け入れると自分が家族から感心を持たれていないことを再確認するようなもので。そんなことは百も承知だが敢えて自分から口に出して傷を抉るのは好ましくない。相手に言って理解されるとは思っていないし同情されるのも嫌で。自分は絶対にない。だがもし自分が家族に愛されていて家族が必死に探してくれるような、そう、まるで妹のような存在だったならば相手は逃がしてくれたのだろうか、なんて考えてしまう。)
ふふ…如何に私が気分屋だとしても今すぐキミを殺す訳ではありません。大体、私は気に入った人は大切にしたい主義でしてね…(彼の言葉に苦笑しながら答える。自分にとって彼は既に気に入った人間リストに入っており、大切にしたい人間の一人である。そんな彼を即座に殺すわけが無い、なんて拉致されてきた彼には伝わるわけないだろうが)そうですねぇ…私も日々色々なことで悩んでいますねぇ。どう弁護するか、何を食べるか、どうやって人を殺すか…悩むことが多すぎです。ただ私は円満な家庭で育ったので家庭の悩みは分かりません(彼は同情もされたくないだろうから、素直に涼し気な顔で分からないと答えておく。自分は歪んでいると自身でも思っているが、唯一愛情というものは真っ当に受けた。一方で彼は至って一般的な人間である筈なのに、愛情というものを受けていない。そう認識した時、無意識のうちに手を彼の頭へと伸ばし、数回撫でてしまい)
その言い方だと俺はあんたに気に入られたように聞こえんだけど…。(相手の言う通り気に入られているのならば大切にされるのかも知れない。しかし監禁されている状態で。気に入られたということは更に逃げ出せる可能性が低いことを示していて。)前半二つはともかく最後は可笑しいだろ…。それが普通なんだよ。ただ何で普通に育ったあんたがそんな風になったかは知らねーけど。…え?何…。(別に理解されるとは思っていないし自分のような家庭環境が異常なのは理解していて。そう、相手のような家庭が普通。そんな普通の家庭で育った相手が殺人鬼だというのはさておき。家庭環境としては相手のほうが恵まれているはずなのにどうしてこうなったのか。伸ばされた手にまた何をされるのかと身構えるも頭を撫でられると訝しげな不思議そうな表情を浮かべ。)
……あっ、失礼。あはは…ご迷惑でしたね(はっと我に返ると素早く手を離し。自分は何をやっているんだという羞恥に囚われる。力なく笑うと気まずそうに咳払いを一つ。)…私はキミを気に入っています。その上で一つだけ申し上げます。家庭とは子供を養育する一組織に過ぎません。キミの居場所はその組織の中には無かっただけの事。他の場所で…いえ。ここを居場所とすれば良いのではありませんか。ではおやすみなさい(いつもよりやや早口で言いたいことだけ言うと、彼の手の拘束を解いて逃げるように寝室から出て行く。階段を下っている最中、余計なことを言ってしまったと後悔する。まだ気持ちの整理が付いていない彼に--彼の場合は整理が付いても考えは変わらなさそうだが--あんなことを言っても仕方ないでは無いか。羞恥心と後悔の念に脳内を支配されながら、リビングのソファに倒れ込む。大きく溜息を吐くと目を瞑り、意識を夢中へと滑らせる。現実逃避をするとは、こういうことなのだろうか)
いや、迷惑と言うか…。(突然撫でられた意味も理由もわからず迷惑というよりは困惑のほうが強く。ただそれは撫でられたことが久しくなかったからなのもあり。最後に撫でられたのも思い出せないくらいで。)………何がしたかったんだ?(早口に言いたいことだけを告げ出ていった相手に一人首を傾げ。一組織と言われて理解は出来たとしてもそう割りきれるのならば悩んではいないし苦労もせず。手の拘束を解かれたのは眠れないと言ったことへの配慮なのだろうか。しかし足の拘束を解かれないところを見るとやはり逃がすにはないのかと再認識し。相手と寝るのも落ち着かないがこの大きなベッドに一人で寝るというのもなかなか落ち着かず。手が自由になったところで携帯も無いし寝室であるこの部屋には暇を潰せるものがある訳でもない。そもそも監禁されているのだ。娯楽になるもの等あるはずもなく。)
(彼が眠れない頃、夢を見ていた。学生の頃の夢。まだ自分が自らの異常性に気付き始めた頃のこと。自分をいじめていたクラスメイトの一人を屋上に呼び出して突き落とした。いじめが苦だった訳では無い。特別クラスメイトに憎悪があった訳でもない。ただ自分の前では嘲笑と侮蔑の表情しか見せない彼は理不尽に殺された時どんな表情を見せるのか。それが知りたかった。振り返った彼を突き落とした時、下に降りて彼の遺体の表情を見た時。自分は快感を覚えていた。何て愛おしいんだろう。もっとじっくりと観察したかったが人の気配がして、すぐにその場から退散した。家路に着いている時、胸の高鳴りは止まず息も荒かった。あの感覚が忘れられない。あの表情が忘れられない。もう我慢できなかった。それから自分は人目を盗んで殺人を繰り返し、その度に快楽を享受するようになった。)……ん(目が覚めると一瞬、いつもの寝室の景色じゃないことに戸惑う。ああ、そうか。寝室は彼一人にしていたのだ。足の拘束は解いていないので脱走はしていないだろう。ゆるゆると身体を起こしながら窓を見ると、外は少し明るくなっていた。現時刻を確認するために携帯を手に取る)
(相手が出ていった後。少し頭を整理する。やるべきことは拘束を解くこと、事務員と接触すること、出入り口の確認及び道順の把握、脱出の手順、脱出した後の行方と問題は多くどれから手をつけていいの頭の中でぐるぐると考えが巡り。どのことに対してもやりようはあるが問題はそれが成功する感心がないことと失敗した際のリスクが大きいこと。この中で一番出来そうなのは事務員との接触ではあるが果たして相手の目に着かない場所で2人きりで話す機会が出来るかどうかで。ベッドの上に座っても寝転んでもいい案等、そうそう思い浮かんでくるはずもなく。それと考えるのは相手の不可解な言動の数々。気は休まらないが衣食住を与えられ監視されながら生きるのか、気は楽だし衣食住も与えられているが感心すら持たれず妹との差を見せつけられ苦痛を感じながら生きるのか、それともいっそ何も感じない安息の死か。どれを選んでも後悔しそうで幸せな結末は思い付かず。)…ん、あ、俺、寝てた…?(色々と考えている内に少し眠ってしまったらしく。携帯は壊され手元にないし部屋を見渡して見ても時計らしきものはなく今が何時かわからず。今が朝なのか夜なのかもわからない上、相手がいつこの寝室に来るのかもわからず。取り敢えずまた相手の傍で着替えるのかと考えると憂鬱な気分になり。)
…6:30か。…準備しないと(のそのそとソファから起き上がると浴室へ向かいバスローブを脱ぎ捨てシャワーを浴びる。バスタオルで身体を拭きながら自室--自室は寝室へ向かう階段を上がり、左にある--へ向かい、クローゼットから適当に服を選び着用する。髪をセットし、リビングへ向かうとトーストとコーヒーを用意する。いくら料理の腕が壊滅的とはいえ、トースト程度は作れる。彼はコーヒーを飲むのだろうか。一瞬考えるも彼を起こしてから直接聞こうと、寝室へ向かう)…おはようございます。おや、起きてたのですか(ドアを開けると彼の目は開かれていて。何やら浮かない顔をしているが、それには特に触れず。断りもなく彼を抱き上げるとリビングへ連れていく。昨夜の自分の奇行もあり、そこはかとなく気まずさを感じるも表情には出さないようにして。自分は大人だ。自分の感情くらい制御出来なくてどうする)朝はコーヒーにしますか。それとも別のものを飲みますか?
はぁ…。(思わず溜め息が漏れる。こんな状況ではそれも仕方なく。少しうたた寝をした程度でろくに眠れず寝不足でクラクラする頭を何とか回転させ。自分は動けず相手も寝ていると不気味な程、無音で。そんな中でベッドに転んでいれば微かな足音が聞こえ。相手が来たのかと上半身を起こすもどうやら足音は部屋の前を通りすぎていき。それから暫くしてまた足音が聞こえたかと思うと今度こそ寝室の扉が開かれて相手の姿が。事務所も兼ねているとは言えこの家に済んでいるのは相手だけなのだから相手以外のはずはなく。)…はよ。まぁ…。(短く素っ気なくも一応、挨拶は返し。起きていたのかとの言葉にもこれまた短く素っ気なく更に曖昧に返し。こうして抱えられるのももう何回目か。昨日は1日、抵抗してみたものの何もならなかったことで抵抗しても無駄だと悟り余計な体力は使うまいと抵抗せずキッチン付きのダイニングまで運ばれ。ダイニングに付けば何やら鼻腔を擽る匂いがして。相手の問い掛けにそれがコーヒーの匂いだとわかり。あまり朝食は取らないため胃に良くないと普段は飲まないが飲めなかったり嫌いな訳ではなく短く告げ。)コーヒー…ミルク付きで。
ミルク付きですね。分かりました。(どうやらコーヒーで良かったようだ。自分は些か彼を子供扱いし過ぎだろうか。コーヒーを煎れながらそんなことを考える。思春期の男子というのは子供扱いされることを特に嫌がる時期だろう。となれば大人と同じ扱いをしてあげた方が良いのだろうか。そんなことを考えながらコーヒーにミルクを少量入れる。あまり入れすぎると子供扱いしているようで彼に怒らせそうだと余計なことを考えたからだ)お待たせしました。さぁ朝食にしましょう…と、その前に。いつまでも足を縛っていては可哀想ですね(コーヒーを置くとハサミで足の結束バンドを解き。長時間拘束していては身体的な負担があるだろう。彼の場合、一晩中拘束していたのだから尚更。無論、脱走されないように目を光らせておく必要はあるだろうが)
あ、砂糖はいらないから。(ミルクを入れるのは胃を考えてのことで。コーヒーを飲むのならばあまり甘いのは好きではなく。何も言わなければそのまま砂糖を入れてしまうかもしれないので事前に伝えて。ミルクも入れすぎるとカフェオレになってしまう。それなら最初からカフェオレを頼む。料理は出来ないと言っていたが自分からコーヒーを淹れてくれるということはコーヒーも淹れれない程、家事音痴という訳ではないのだろう。コーヒーの香ばしい香りにこの非日常の中に日常を感じ。)どーも。…え?(不意に外された足の拘束。久し振りに解放された足を何度か伸ばしたり曲げたりして。正直、拘束を解かれるのはまだまだ先だと思っていため昨日散々考えていたことも何も出来ず。取り敢えず今は解放された足を解すくらいしか出来ず。複雑な思いでコーヒーをすすり。)
ん…どうしました? まさかこんなに早く解かれるとは思っていなかったとか?(彼の反応を認めるとトーストを頬張りながらくすくすと笑う。彼の反応は国選弁護の担当より素直で助かる。犯罪者と高校生を同一にするのもおかしな話ではあるが、普段から色々とやりづらい人間と仕事をしているので尚更彼の反応が分かりやすいのが助かる)んふふ、もっと表情が明るく輝くものだと思っていましたが…あまり嬉しくなさそうですね? もっと縛られていたかったですか?(トーストをコーヒーで飲み下すと複雑そうな表情をしている彼を揶揄うように小さく首を傾げる。普段は一人の朝食に誰かがいるということが新鮮で、つい話しかけてしまう。これが俗に言うウザ絡みというやつだろうか。)
え、あ、まぁ…正直…。(上手い言い訳も思い浮かばずここで意地を張っても意味がないと小さく頷き。とはいえ予想外に早すぎてまだ屋敷の中を全然わかっていないため走って逃げることも出来ず。家の出入り口さえわかっていれば手足の拘束が解かれ自由になった今こそ逃げるチャンス。しかしここには昨日来たばかりでまだ何もわからないのが悔やまれ。)いや、それはねーけど…。(複雑な感情を抱えてはいたがそんなに顔に出ていただろうかと眉を寄せ。自由になりたいと思っていたのがやっと叶った。嬉しくないはずはないがあまりにも早い展開だったため拍子抜けして。とは言っても警戒してる相手の様子から逃がしてくれる気はないようで。)
一つ質問をします。キミは一刻も早くここから出ていきたそうですが…ここを出てどこに行くつもりですか?(戸惑う彼に単純な疑問をぶつける。高校生故に所持金だってさして持っていないはずだ。この辺りの地理もよく知らないだろう。そんな状態でどこに行こうと言うのか。どこかに彼の家以外の行く宛てがあるのか。それとも特に決めては無いが、とりあえず殺人鬼の家から出て心の安定が欲しいのか。もし後者なら、丁重にもてなして我が家のように思わせてあげるのに。自分には彼を殺害するつもりなどこれっぽちも無いというのに。やはり自分が気分屋だということが、何が引き金になって殺されるか分からないから怖いのだろうか。だとしたら自分の性格について言及するのはやめておけばよかったと後悔する)
どこ…って。寮の改装工事が終われば…寮に戻るし…。(そう。今、実家にいるのは普段使っている学生寮が改装中なため。折角家族と離れるために寮のある場所を選んだのにタイミングが悪く。とはいえ老朽化も進んでいたためかなり大掛かりな工事で今のところはっきりとした復旧はいつになるかわからない状態で。初めのうちは実家での扱いも気にしないようにしていたが何日もすると溜まりたまった鬱憤が爆発して最悪の場合は満喫や野宿でもと家を飛び出した先で出会ったのが今、目の前にいる相手で。しかし今、聞かれているのは現状帰る場所があるのかどうか。その答えはあの地獄とも言える実家しかなく。監禁されていたということも殺されかけたということも相手が気分屋だということも全て原因の一端ではあり。相手に抱いている感情は恐怖なのか他の何かなのか今の状況では自分でもよくわからず。)
そうですかぁ…寮が改装中ですか。なるほど、だから居たくもない実家に居続け、それが耐えられないから家出したと。それは災難でしたねぇ(寮が改装中でなければ自分に遭遇することもなかっただろう。しかし居たくない程の実家とはどういうものだろう。仮に聞いたとしても答えてはくれないだろうが些か気になる。そういえば、とこの前仕事で知り合った調査会社の人間を思い浮かべる。あの人間に彼のことを調べさせてみよう)ああ、そうそう。高校生でしょうから勉強は必要ですね。参考書を買いましょうか。勉強で分からない所があればお教えしますよ(彼の身分を忘れていたがまだ現役の学生だった。であればやはり勉強を見てあげた方が良いだろう。勉強は人生の選択肢を広げる--自分自身が気まぐれで弁護士になろうとした時に分かったことだ)
別に…いつものことだ。(捜索願が出されないという家族との不仲のかことはつい口に出しはしたが家族内で何があったかは話してないのに居たくないという相手。そうか、相手には家出しているとそう見えるのか、なんて客観的に捉え。家に居たくないというのは間違いではないのだが実家に居続けた訳ではなく親戚を頼ったりしてなるべく家にはいないようにしたりはしていて。)あんたが?(そんな勉強の心配をするのなら解放してくれたらいいのに、なんて思ったが決して口には出さず。弁護士をやっているのだから頭はいいのだろうが相手に勉強を教えるなんて出来るのかと訝しみ)
おや、怪しんでますね?ご安心ください。学生時分はこれといった趣味も、打ち込む部活も、気の置ける友達もおらず、いつもクラスメイトに虐められてばかりでしたから、勉強しかすることがありませんでした。一日のほとんどを勉強に費やす…みたいな調子でしたから。ですから知識の面では問題ないと思いますよ(彼が訝しんでいるのは自分の知識面なのか、人格的な面なのかは分からなかったが、とりあえず知識面では無問題なことを伝えておく。本当に学生時代は何もすることが無かった。自分が他者とは違う感覚を持っていることが自覚出来ていたので、尚更友達を作る気にはなれなかった。あの頃の自分は楽しめるものを何一つ持っていなかったので、人生に希望を見い出せなかった。だがクラスメイトを転落死させてから、自分の楽しみを見つけた。理不尽に命を奪い、その表情を愛でるのが自分にピッタリな遊びだと気付いた。そして人生に希望を見い出せるようになった。そう考えると学生生活も悪いものではなかった、とコーヒーを飲みながら微笑み)
そう、なのか。でも学生時代の勉強なんて覚えてんのか?(自分は少数ながらも友人と呼べる人物はいて。家に呼んだことはないが煩わしい家族を一時でも忘れたくて放課後遅くまで遊んだりしていた。それなのに友達もいなく寧ろ虐められていた、と聞けば置かれている環境は多少似ているのかも、なんて思い。殺人をするようになったのもその影響なのかと考え。だが相手の家族仲は良好だったはず。自分に取って友人がそうだったように救いになる家族はいなかったのだろうか。元々そんなに頭がいい訳ではないが随分昔に習った公式なんて現役の自分でも忘れていて。それなのに社会人になった相手は未だに覚えているのか疑問で。自分は学生にはよくあるテスト期間にならないと自主的に勉強なんてしないタイプで。集中力自体はそこそこあるので集中してしまえば勉強もある程度捗るのだが持続力はそんなにない。平均点が取れるくらいの学力はあり。)
大抵は覚えています。もし忘れていても参考書を一読すれば思い出しますよ。それに…依頼人の中には学生もいましたからね。ちょっとした雑談の中で授業の話をすることもあったものですから(弁護士の仕事は依頼人が望む判決に導くこと。そのためには相手の全てを知らなければならない。相手に本当のことを話させるために、リラックスさせるためにそういう雑談をする。だから学生時代に勉強したことはあまり忘れずに済んでいる。雑談というのは相手の心を緩和させる効果がある。丁度、今のように。携帯を取り出し画面を確認するフリをして、無音カメラでさりげなく彼の顔を盗撮する。続いて調査会社の人間にメールで彼の顔を添付して家族構成や待遇などの細かい情報が欲しいと調査依頼を送る。仕事の早い人間だからすぐにでも成果を上げてくれるだろう。ここまでを3分程度で済ませると、何事も無かったかのように携帯を仕舞いトーストを口に運ぶ)
頭がいい奴は違うな…。え?学生が弁護士に依頼…?……戴きます。(確かにテレビで見る裁判などでは未成年が加害者だと聞くこともあるが大学生ならばともかく高校生は親が依頼人なのかと思っていて。それとも依頼をしたのは親でも相手が弁護をするのは学生だとそういう意味なのだろうか。相手がここまで自信満々にいうということは本当に覚えているし参考書を読むだけで理解できるのだろう。自分は集中力が上がった時に参考書とにらめっこしながら少しずつ解ける程度で。集中力のない時はいくら参考書を読んでも頭に入ってこないのは実体験としてわかっており。なんて考えている中で写真を撮られているなんて微塵も気付かず。相手が携帯を触っている間は逆に見つめられる視線も感じることなく助かるくらいで。あまり朝は食べないが出されたものを食べないのも失礼にあたるかとコーヒーをもう一口飲むと一言告げてはトーストを齧り。)
例え中学生でも高校生でも裁判は起こせるんですよ。例えば、親権喪失又は親権停止の裁判です。虐待などにより親の管理下から逃れたい場合、子供本人が申立人となって家庭裁判所に審理を求めることが出来るのです(眉間に皺を寄せながら説明をする。自分はそういう裁判が嫌いだ。仕事だからと感情を押し殺しても、受け付けない部分がある。家庭環境だけは良かったから、親の愛情は浴びるように受けて育った。だからどうしても子供を大事に出来ない親、自らのエゴを暴力を伴って子供に押し付ける愚かな親に対しては生理的に嫌悪してしまうのだ)…もっとも、そういう親子の愛憎劇は私のメンタルが削られると同時に相手方に殺意を覚えてしまいますので滅多には引き受けませんが。……やはり請け負う仕事は殺人犯の弁護が良いですね~(侮蔑の表情をしながらコーヒーを飲み干すと一転、微笑みながら嬉しそうに言う。彼ら殺人犯の手口や動機を聞いて思いを馳せながら仕事をしている時が一番仕事が上手くいくからだ)
へぇ…でも弁護士って雇うだけて金掛かるって聞くけど。(相手が珍しい顔をしたことを意外に思い。自分の親は無関心ではあるが食事を与えなかったり暴力を振るう訳ではない。ただ会話が極端に少なく用がなければ関わらないし家にいようといまいと構わない存在としてあつかわれているだけで。しかしそれは虐待に入るかどうか微妙なところで。自分の親権を持たなくていいとなったら寧ろ自分の両親は喜ぶのではないのかとすら思え。)あんたが殺人の弁護すんのも変な話だけどな…。(それとも同じ殺人を犯したもの同士、気持ちが分かるのだろうか。昨日の話を聞く限りでは相手は快楽殺人鬼だが動機がそれ以外の場合でも弁護をするのは楽しいのだろうか、とそんなことをぼんやり考え。考えたところで自分には理解出来ない感情で。)
私はその手の裁判では最低額で、それも分割払いを可としていますので金額はあまり負担にならないようにしています。弁護士費用はこちらが自由に決められますが、私はあまり金銭欲がありませんのでそこまで高くは設定しません(金銭があっても独り身で趣味も金が掛からない。事務員からはもう少し上げるよう進言されたこともあるが、その度に断ってきた。唯一、この家だけは高い金を投じて建築してもらった。それ以外で金遣いが大きくなったことは無い)殺人犯の弁護、楽しいですよ!。無論、私と似たような人間は少ないですけどね。でも殺人の手口が惚れ惚れしてしまうくらいに美しいものもありますから…私は同じ人の命を奪った者同士として、彼らの行いに最大限の敬意と賞賛を与えたい。そしてその証が無罪判決や検察の求刑を下回った減刑なのですよ(目を細めうっとりとした表情をしながら一つ息を吐く。どうもこと殺人の件となると声のトーンを落ち着かせられない。法廷ではそれが熱弁に聞こえ裁判員達に印象を与えるが、ここではまるで逆だろう。今まで多くの殺人犯を弁護してきた。彼らは手口も動機も何もかもが異なっていたが、自分はほとんどの案件を検察の求刑より下回った判決を勝ち取ってきている)
ふーん…それで儲かるの?(あまり興味なさそうに呟き次の質問を投げ掛け。別に相手のことが気になる訳ではなく弁護士という普段は関わることにない職業への疑問だがそれが相手にど写るのか等頭になく。最低限と言ってもそれなりに金額は掛かりそうだが学生でも少し余裕があれば払える額なのだろう。自分には無理そうだと思い。)人を殺した奴を弁護をする奴の気が知れねーよ…正当防衛とかの場合はともかく。(流石に自分だって相手を殺さなければ自分が殺させれるなんて状況になれば抵抗するかもしれない。目の前の相手のようにこちらが混乱している間に拘束だの首を締めるだのしてくる人を殺しなれている人物には通じないかもしれないが、とは思うだけに留め。何故相手は人を殺すという恐ろしい行為をこんなに楽しげに話せるのか、一生理解出来ないな、と昨日から何度思ったかわからず。思わず重い溜め息を零し。)
ええ、それなりに。弁護士の収入源は着手金、報酬金、手数料、実費、相談料や顧問契約の顧問料など多岐に渡りますからね。最低額にしたとしても十分です(彼は興味無さそうだが質問を投げ掛けられるとその都度にこやかに答える。自分としては朝食の席に普段はいない話し相手がいるので満足だ。コップを片手に席を立つと再びコーヒーをおかわりし戻ってくる。いつも朝食のコーヒーは一杯だけにしていたのに)…ふふ。弁護士が殺人犯を弁護するのはそれが仕事だからです。如何に悪人だろうと公正なる裁判を受ける権利があります。そこに弁護士の存在は欠かせません。私の仕事は軽蔑して構いませんが、他の弁護士の仕事は理解してあげてください(重い溜息を零した彼を一瞥するとふっと微笑む。自分が異常者だと言うのは理解している。そして思想は違えど尊敬する弁護士もいる。だからこそ彼の自分と他の弁護士を混同する発言に対してやんわりと苦言を呈する)
へぇ…難しいことは俺にはわかんねーけど…。(丁寧に説明をしようとしてくれているのは何となく伝わるが初めて聞く情報が多すぎて一向に頭に入ってこず。相手はあまり表に感情を出さないがどことなく嬉しそうな雰囲気が感じ取れトーストを齧りながらも何がそんなに楽しいのだろうかと不思議に思い。)別に弁護士がおかしいとは思ってねーよ。けど…人を殺しておいて弁護されたいって…何か…。(相手が殺人犯だろうと明らかな罪人だろうと弁護するのが弁護士の仕事。それは理解している。理解は出来ても受け入れがたいのは犯罪を犯してもあっさり認めず高いお金を掛けてでも弁護士を雇って少しでも罪を軽くしようとする人たちで。)
ふふ。ずっと私の隣にいればすぐに覚えますよ(彼は一日のほとんどを自分の隣で過ごすことになるだろう。今は分からなくてもその内理解できるようになるはずだ。無論、余計な法律知識や制度を知られて法的行動に出られては困るが)んふふ…。確かにキミの言うことも分かりますよ。しかし…罪人は悪足掻きせずさっさと刑務所に入れ、死刑台の露となって消えろ…。理屈は分かります。しかし私は個人の幸福追及の元には法を犯しても致し方ないと考えていますので、彼らを弁護します(今まで様々な犯罪者を担当してきたが、誰も彼もが一様に自分の幸福のために罪を犯していた。もちろん自分もその一人だ。そして人間は日々自分の幸福のためにあらゆることを選択している。自分にとって犯罪はその延長線上にある一つの選択肢に過ぎない。こんなことを言っても彼は不愉快そうな表情をするのだろう、とコーヒーを一口飲みながら彼の表情を予想する)
……それは俺に法律を覚える気があればの話だろ。覚える意欲がなければ意味ねーよ。(何か物事を覚えるにはそれを覚えようと興味が湧くことが必要で。逃げないように、相手の目の届くように、という目的のために傍にいることになったが本当に将来法律家を目指してる訳でもなりたい訳でもない知識を理解するつもりは毛頭なく。)いや、そこまで言ってねーけど…。その幸福のために他の誰かが不幸になってんだけどな…。それはいいのか?(刑務所にというのは言っていたとしても死刑に関してまでは言葉にしてなく。突発的な無作為な殺人は元より計画的な殺人であっても遺族や大切な人に取ってはそれは不幸な出来事で少しでも重い罪を願う人もいるだろう。それでも失った人は戻らないが大切な人を殺され軽い罪で済んでしまっては救いがないのでは、相手に限らず弁護が通ればそういうことになり。仕事だとわかっていてもどうにも納得はいかず心中がモヤモヤして。)
おや…それは…残念ですね(一瞬眉を下げる。彼が法律を覚える気がないというのはこちらとしては好都合だ。同時に自分の専門を興味が無いと言われてはどこか複雑な気持ちになる。以前まで自分はこんなに構ってちゃんだったわけではないのだが)んふふ…。誰かの幸福は誰かの不幸で成り立っています。誰かの選択が誰かを不幸にしています。合法か違法か、大なり小なりの違いはあれどです。そこに特別を感じる必要はありません。……キミも誰かの幸福の踏み台にされていると思ったから家出したのではありませんか?(微笑みを湛えたまま小さく首を傾げる。つい意地悪でねちっこい声で彼の過去に迫ろうとする。自分も不幸な目に遭ってきたが、それ以上に幸福を享受してきた。だからこの世で自分を不幸にしていいのは自分に殺された被害者遺族であるべきだと心に決めている)
あんただって俺が本気で法律を学ぶとは思ってなかっただろ。(相手が自分が法律を学びに来ているとカモフラージュするのは事務員に監禁されているのを知られないため。監禁するのに余分な部屋があるのかどうかは知らないがどうやら地下室のようなところはないようで。自宅としても使用しているようなので地下がある方が異様で。)俺は…ちょっと違う。踏み台にされているからじゃなくて踏み台にされたくねーから出たんだ。(その発言は何れ踏み台にされることを表しているのだがあくまで踏み台にされる前に動いたことを主張して。逃げだとわかっていても誰かの踏み台になるくらいなら逃げを選び。干渉されていないのだから果たして踏み台になるのか踏み台にすらならないのかは定かではないが。)
ええ…まあ。そうですね。そう思ってたはずなんですがね(しゅんとした雰囲気を誤魔化すためにコーヒーを飲む。自分は彼に法律を学ばせるつもりは無いはずだが、心のどこかでは学んで欲しいと思っていたのだろうか。なんてことを一瞬だけ考えすぐに頭から振り払う)なるほど…。踏み台にされる前に、ですか。ふふ。他人の踏み台にされるのが嫌だから逃げる。精神衛生上は賢しい判断です(彼の説明に一応理解を示したフリをしておく。どんなに逃げようと生きている限りは踏み台を回避することは出来ないからだ。事実、自分も彼を踏み台にしている。彼からすれば自分に囚われたことは不幸だろうが、自分としては幸福だ。彼はそれを分かっているのだろうか。自分としては理解した上で受け入れて欲しいのだが)
…?急にどうした?(今までに饒舌に話していた相手の歯切れが急に悪くなったことに不思議そうか表情浮かべ。先程話した内容を思い返すも今まで大きく変わったような内容を言ったつりもりはないが何か気に障ったことを言ったのか、言ったのならどうしようかと悩み。)まぁ毎回逃げる訳にもいかねーけど…。(今回は踏み台になる前に逃げたが踏み台になる可能性はこの先も何度かあるだろう。その中ではきっと逃れられない状況や事情がある場合もあって当然で。そんな相手は誰かの踏み台になったことはあるのかと考え。今まで相手に殺された相手かそれとも今まで弁護してきた人間かあるいは両方か、それとも踏み台にされてたのか。何だか相手には余計なことまで話してしまっている気がして。)
いえいえ、なんでもないですよ(流石に勘付かれたかと気まずそうに首を横に振る。気を付けていたはずだったが歯切れの悪さをうっかり表出してしまったことに自分でも戸惑う。彼も不思議がっているだろうが、自分も不思議がっている。彼を自宅に置いておくことのデメリットは、自分が変化していくことだろう。明らかに彼をここに連れて来てから、自分はどこかおかしい)ふふ…。いずれ逃げられない時が来ますよ。……さて、ずっと家にいるのも何ですから、参考書を買いに行きましょうか(皿とコップを片手に席を立つ。ふと時計を見ると8:00を過ぎていて。もちろん道中で彼が脱走や他者と接触を図ろうとする可能性は大いにあるが、家に一人にする訳にもいかない。それにそんなことをさせないように目を光らせておけばいい話だ。もしそんなことをしようものなら、キツいお仕置を与えてあげることにしよう)
まぁ話したくねーならいいけど…。(相手は殺人鬼だからこそ話したくないこともあるんだろう。どうせ理解出来ないなら、と深く聞くつもりもなく。自分だって全てを話している訳ではないのだから自分だけ話さず相手には全て話して欲しいなんて都合のいいことを考えている訳ではないしそんなことを言える立場でも間柄でもなく。ただ気になったのは濁されたから。濁したり口ごもったり言い掛けてやめたりされると気になるのは人間の性で。)…え、俺も?俺も行くのか?(てっきり外には出してもらえないものだと思っていたので意外そうな声を上げ。外に出るのに拘束具を着けて行く訳にもいかないだろうから手足は自由なのだろう。その上、外。外で自由ならばいくらでも脱走の機会がありそうで。しかし同年代なら殴ったとて学生同士の喧嘩で片付くが流石に歳の離れてる相手を街中で殴れば通報されかねず。かと言え早い段階で脱走しようとしてその後、ずっと警戒されるのも避けたく。)
ええ。蒼クンのために行くんですから当然ですよ。予め言っておきますが逃げようなんて考えない方が身のためです。キツいお仕置がありますから(言いながらさっさと軽く洗い物を済ませると冷蔵庫に取り付けてあるラックの中から車の鍵を取り出す。ここから書店まで30分以上はある。ゆっくりドライブでもしながら行くとするか、なんて呑気に考えていて)では、行きましょうか~(有無も言わせず彼の手を引きながら、カーポートへと向かう。玄関を出てアプローチ用の階段を降りると、そのすぐ右手にカーポートがある。鍵を開けると助手席に彼を押し込むように乗せ、自分も運転席へ乗り込む。少しばかり強引に乗せないと隙を見て逃げられる恐れがあるからだ。エンジンやシートベルトを掛けたりしながら、彼が走行中の車から脱走を図るなんて無茶はしないだろうかなどと様々な脱走のシチュエーションを考えていて)
…因みに、だけど。そのお仕置きの内容って聞けたり…。(はっきり言って暴力的なものなら耐えられる自信はあり。自分から手を出すことはないとは言えそこそこ腕はあるため喧嘩をすることも決して少なくはなく。きいたとろこてで教えてくれそうにはないがお仕置きの内容によっては脱走も考え。)え、ちょっと待っ…。(引き留める間もなく車に押し込められてしまえばもう引き返すことも出来ず。てっきり後部座席に押し込まれるかと思ったが押し込まれたのは意外にも助手席。エンジンを掛けられ車が走り出してしまえばもうどうすることも出来ず。こういう時、映画等では走行中の車から飛び足したりするが映画は映画。フィクションで安全面にも考慮してあるはずで。自分がやったところで上手くいく保証はないしもしも下手をすれば怪我だけでは済まない可能性もあり。)
んふふ。それは内緒です。ただ賢い蒼クンなら私にお仕置をさせる状況は作らないと思いますがね(車を走らせながら妖しく微笑む。年頃の男の子だ。いい加減暴力にも抵抗しようとするだろう。とすれば彼に与えるお仕置は暴力的なものはなるべく避けようかなんて考え)ちょっと失礼…………ふふふ…(しばらく車を走らせると突然路駐する。視線の先には昨晩自分が遊びを行った現場が。現場には規制線が貼られ、警察が出入りしていた。一頻りその様子を眺めると満足そうに笑い、車を再度走らせる。近頃はああして犯行現場に出入りする警察官の様子を見ることも楽しみの一つとなっている。彼らの焦燥や怒りに震える表情がたまらなく好きなのだ)
……まぁわかってたけどな…はぁ…。(やはり教えてもらえることは出来ず。隠すこともなく溜め息をつき。今なら手足も自由。どうとでも出来るが運転中というのが問題で。運転中に手を出したら危ないのは子供でもわかるし自分が運転出来るならいいが免許もなければ技術も習っていなくて。)どこに…本当に悪趣味だよな。(急に駐車した相手にどこに行くつもりかと尋ねようとすれば目に入ってきたのは警察が世話しなく動く姿。昨日の光景を思い出せば若干、気分が悪くなり。それもそうだ。人が殺される姿を目の前で見るだなんて初めての光景。出来れば一生、出会いたくはなかった光景で。それを見た満足そうな相手の姿にポツリと呟き。)
ふふ…悪趣味ですか。確かにそうですねぇ…。自分の遊びの後始末を他人にさせているのですから、悪趣味と言えば悪趣味ですね(事件を捜査する警察を観察して悦に入ることではなく、自分の遊びの後始末を警察にさせていることが悪趣味だと思っていて。後始末という言い方をしたのは自分は絶対に警察には捕まらないという自信があるからで。自分にとっての警察の役割は遺体を遺族に引き渡すだけである。そこに脅威を感じたことは無い。自分は指紋はもちろん足跡や毛髪などにも細心の注意を払っている。何より、自分は同じ地域で同じ手口で連続して遊びを行うことは無い。異なる地域で異なる手口で不定期に遊びを行っているため、警察は自分の犯行が全て同一犯だと言うことに気付いていないだろう)…とは言えケジメは必要です。ご遺族の方が私へ復讐を果たせることを心からお祈りしておきましょう。…これも悪趣味ですか?(ふっと微笑みが消えると、真剣な眼で呟く。家族を殺された怒りはいかばかりか自分には想像できないが、きっと相当な憎悪を抱くに違いない。自分は被害者を踏み台にし、一時の幸せを享受した。ならばその遺族が自分を踏み台にし復讐を遂行することで、一時の幸せを享受する権利があって然るべきだろうと、本心から思っている)
いや、そこじゃ…。(否定しかけるも言っても無駄だと思い直すと口を噤み。最後に事件現場にちらりと視線を向けると後は車窓の外に流れていく景色を眺め。監禁されて1日しか経っていないのだから街並みが変わっている訳もないのだがとても久し振りで懐かしい感覚に陥り。それと同時にまだ1日しか経ってないことを再確認して。相手が飽きたら解放される可能性はあり。だが多分、相手は1日やそこらで飽きはしないだろう。何ヵ月、何年。それとももっと、と考えただけで気が滅入り。娯楽はなくとも衣食住は保証されているし相手が殺人鬼でさえなければ普通の暮らしと大差はないが自分は普通の暮らしとは掛け離れていたため今までと違うこの状況が未だ受け入れられず。)悪趣味以外の何だって言うんだよ…。(復讐は何も生まない、なんてよく聞く台詞だがそんな綺麗事が通じるのなら憎しみや恨み辛み等この世には存在しなくて。相手が殺した人間が何かしら理由があるのか無差別なのかはわからないが後者なら殺された本人も遺族にとっても悲劇でしかないだろう。前者ならば理由によっては世間に同情されることもあるかも知れないがそれでも遺族には恨まれるのは当然のことで。)
悪趣味ですかぁ。やはり私を理解してくれる人はこの世に一人もいないのでしょうね。少しだけ、ほんの僅かながら残念ですね(軽快に笑い飛ばすものの、少しだけ寂しそうな表情を浮かべ。少しだけ、ほんの僅かなどと保険を掛けたが、実はそれなりに残念に思っている。性格的に気の合う仲間はいるが、思想で気の合う仲間などいない。数多くの犯罪者と接して来たが、それでも見つからない。自分もこんな異常者でなければもっと心を許せる存在がいたのだろうか。彼の蔑むような口調が何故か自分の心を抉る。今までは誰かに理解されなくても何とも思わなかったが、彼から理解されないと僅かながら心が痛む。年齢を重ねると人間は感傷的になると聞いたことがあるが、まさかそれだろうか。いや自分はまだ30だろう、そんな年齢じゃないはずだなんてハンドルを握りながら考えを巡らせてみる)
…殺したことに後悔、とかしないのか。殺さなければ良かった、とか。そもそも何で…。(相手の様子に少しでも後悔や罪悪感を持ち合わせれいるのかと声を掛け。そもそも後悔や罪悪感があるのならそう何度も繰り返さないはずで。わかっているのにどちらか片方でも少しでもあってほしいとは願わずにいられず。次に浮かぶ疑問は何故、殺人を犯しているのか。先程も浮かんだことだが何か理由があったのか、その理由は殺しても仕方ないと思える程の理由なのか。理由がないのならば本当に快楽を得るためだけのものになり。しかしまだあって1日。相手のことをそれほど知っている訳でもない自分がそこまで踏み入ったことを聞いていいのかも微妙なところで。また聞いたところで理解や共感が出来なければ、相手の機嫌を損ねる返答をすれば今の僅かな自由すらも無くなるかも知れない。そうなれば脱出するのは更に難しくなり。)
後悔? そんなことをしないために集中して人を殺す。それが私の流儀です。殺した後に後悔しては被害者に失礼ですから(改めて言われると後悔なんて考えたこともなかった。いつも自分の流儀に照らし合わせて悔いのない様に遊びを行っているから)何で、ですか…。人殺しは遊びです。私にとっては快楽を伴う遊び。被害者達には何の恨みも共通点もありません。ただそこにいたから殺す。平穏に暮らしている人間を理不尽に手に掛ける。その行為に快楽と幸福を感じる…それが私の動機です。(前方の信号が赤になったのでゆっくりと停車する。ここの信号はスクランブル式なので通常よりも待ち時間が長い。そんな暇を紛らわすように彼の質問に滞りなく答える。動機を知りたがっている彼に一応は説明しておく。しかし二言目には理解できないというのだろうか。その時ふと思った。そうか。理解できないのなら、理解できるように変えてあげれば良いんだ)
…そうか。聞くんじゃなかったよ。(やっぱりというか予想通りの言葉ではあったが恐らく相手には道徳心とか倫理観とかそういうものは当てはまらないようで。その集中を他のことに向けれないものかと考えずにはいられず。)悪趣味にも程があるな。けど俺は殺さなかったんだな。俺もただ居合わせただけの人間だけど。(意味も理由もそこにはない。相手にあるのはただ人を殺したいという気持ちだけで。自分は幸か不幸か殺されなかったが監禁されながらでも生きてて喜ぶべきかいっそ殺されていた方が楽だったのか。今なっては考えても仕方ないことで。例えば今、停車中のこの車から逃げたとして。捕まればお仕置きとやらは確実。しかしお仕置きと称するからには死ぬことはないのだろう。つまり死の安息というのは選べず。)
確かにキミも居合わせただけでしたね。昨晩は適当な理由で取り繕いましたが、普段の私であれば流儀に反しても口を封じていたでしょう。しかし私にそれをさせなかった…。私の気分と言えばそれまででしょうが、キミを見ていると殺害欲が湧きませんね。不思議と。だから私にとって蒼クンは『特別』です(明らかに引いている彼を尻目に楽しそうに喋る。これ以上隠していても仕方が無いので彼への殺人行為は事実上有り得ないことを伝えてみる。しかし気分屋な自分の発言だから、と真に受けは貰えないだろう。ただそれでも良かった。とにかく自分の心情は伝えておきたかった。特別、という言葉は殊更強調して。彼を特別だと認識させることで、脱走を起こさせない様に…などという戦略は一切なく、ただただ本心から出た言葉。彼がどう受け取るかは大して重要では無い)
流儀…特別…か。それは喜んでいいのやら…。(相手が口にした単語をいくつか復唱して。殺害意欲が湧かないということは今のところは殺される心配はないということ。特別という言葉をそのまま捉えるべきか特殊と言ったほうがいいのか微妙なところで。その言葉はどこまで本当でどこまで信じていいのかまだ判断するには相手に関する情報が足りなさすぎて。人柄も性格もわからないのだからそれも当然で。自分が知っているのは初日に名乗られた名前と仕事は弁護士ということだけ。こちらも学生だということと下の名前しか告げておらず。)
喜んで良いに決まっています。少なくとも特別ということは他とは違う、唯一無二ということですからね。唯一無二。いい響きでしょう!(ようやく信号が青になり前進する。やはり半信半疑の彼に微笑みを浮かべながら言う。とりあえずは自分の心情について伝えることは伝えた。後は彼のことを聞きたいが、家庭環境など複雑なことに関しては教えて貰えないだろうし、何よりいずれ調査会社が明らかにしてくれるので特にこちらから踏み込むことはしない)私は蒼クンの趣味・嗜好が知りたいですねぇ。最近の高校生事情には疎くていけません。蒼クンは何が好きなんですか?(他愛もないことを聞いてみることにした。流石に自分の趣味嗜好を偽ろうなどとは考えないだろう。自分を除いては。彼が比較的答えやすい質問を投げかけては、質問の答えをウキウキした様子で待っていて)
そんなに嬉しいか?唯一無二って…。(何処か嬉しそうな様子の相手に何がそんなに嬉しいのかと不思議そうに呟き。唯一無二。こんな場面で使われるとは思っておらず。本来なら大切な人や物に使われる言葉で。殺人鬼の特別になったのだから特別=唯一無二というのは間違っていないのかも知れないがどうにも腑に落ちず。家族は勿論のこと学校でもそこまで言える友人はいなかったが相手が相手なだけに素直に喜べず。)俺の趣味?趣味か…。ゲーセンとか…?(家庭環境もありあまり何かに打ち込もうと思ったことがなかったため友人たちと何度か遊んだことのある場所しか思い浮かばず。それこそ両親が離婚する前や再婚する前は趣味らしいこともあった気はするが。家族にほとほと愛想を尽かしてからはどうやって家から遠ざかるかばかり考えていて。)
世の中、替えが効くことばかりです。自分じゃなければダメだなんて事は、そうそうありません。しかし唯一無二ということは替えが効かないのです。だから重宝される。そのポジションに自分が置かれる…そう思うと嬉しいじゃないですか(正直、自分の仕事も他の弁護士がやっても同じようなものだ。ただしそれは一般人にとってだ。自分の弁護は殺人犯にとっては非常に有効だ。普通の仕事と熱量が違うため、弁護も熱を帯びる。それが裁判官や裁判員たちの心に響く。だから殺人犯達にとっては唯一無二の存在と言える)ゲーセン…! 久しぶりに聞きました、その言葉。ゲームの腕はからっきしで…最後に行ったのは十年以上前になりますかねぇ…。どんなゲームが得意ですか?(久しく聞いてなかった懐かしい単語が耳に入ると目を輝かせる。恐らく大学生時分に行ったのが最後だ。特に子供の頃からゲームに熱中したことはなかったため、ゲームの腕前ななんて上がる訳がなかった。実家に帰省した折、甥とゲーム対決をしたが自分が下手すぎた為に早々に愛想を尽かされた思い出が甦る)
唯一無二なんてそうそう見つかるもんじゃないだろ。ましてやただ居合わせただけの人間に。(唯一無二とは時間を掛けて相手と信頼を築いてこそだと思っていて。相手とはまだ知り合って1日しか経っていない上、信頼とは程遠く。確かに人を殺しているところに居合わせることなどなかなかないがそれはたまたま。やっぱり実家にいるとろくなことにならいことを強く感じされられただけで。)割と何でもジャンルは関係なくやるけど…こんなこと聞いてどうすんだよ?(他愛ないような会話だが相手が何故、そんなに自分に興味を示すのかわからず。聞いたところで相手の得になるようなことはないし相手と一緒に行くこともないだろう。そもそも弁護士をやっている相手にゲームをやっている暇があるのかすら謎で。最初の出会いのせいかそんなのんびりした日常を過ごしている姿は想像出来ず。)
んふふ…………そうかもしれませんねぇ(一瞬『運命』などという言葉を使いそうになったがすぐにやめた。自分はロマンティストではないし、恐らく彼もその類の言葉は信じないタイプだろう。素直に彼の言葉を笑って頷く。こんな言葉を使った日には怪訝な顔で首を傾げられるに決まっている)ただの雑談です。それと互いのことを知るため。私は融和の為にキミのことを知りたい。キミは私がどんな人間なのかを知ることで私を分析しやすくなる。敵に関する情報収集は基本です。どうです? お互い悪くないでしょう?(自分のメリットと相手のメリットを開示して、利益が一致していることを確認させる。交渉の際の基本的なテクニックだ。とは言え、彼と融和の為に雑談したいというのは本音で。こちらとて日常会話にまで計算を働かせていてはリラックスも何も出来ない。緊張の糸は仕事の時に張っていれば良い。その他の時間はリラックスしていたい)
だいたい俺はそんな風に思う余裕ねーよ。(上手く脱出や脱走が出来る手順を考えないといけないこの状況でそんな余計なことを考えている余裕はなく。出会った殺人鬼、たという意味では唯一無二なのかも知れないがそういう場で使う言葉でないことは確かで。だからと言って他に唯一無二と呼べるような人物がいるのか問われれば口を噤んでしまいそうで。)俺と融和?なんでまた…。それに情報集中って言ってもな…。(何故そんなに自分を気に掛けるのか不思議でならず。相手にはまだ自分の名字すら明かしてない状況で。確かに話していく内に相手の行動パターンなどがわかれば脱出しやすくはなるかも知れないが問題はそこまでの時間を相手と離れて過ごすことが出来るか。主に相手の手元で過ごすことを余儀なくされている現状で相手が長らく自分から目を離している隙は作れそうになく。)
ふふ…確かにキミにとっては自分の人生が掛かっているようなものでしょうからね(彼はきっと脱出のことで頭が一杯なのだろう。努力は評価するが、いずれ水泡に帰すことをいつまでも考えている彼を可愛く思う。計画が自分によって粉砕された時、彼はどんな表情をするのだろう)折角一つ屋根の下で暮らすんです。険悪な雰囲気は嫌じゃないですか。仲良く暮らすことにデメリットはないでしょう。ねぇ?(片手を彼の方へ伸ばすと、からかう様に頭を撫でる。自分にとってはデメリットはないが、彼からすればデメリットしかないだろう。それに殺人鬼と融和なんて受け入れられないに決まっている。少なくとも今は。これから時間をかけて変えていってしまえばいい。彼を一瞥すると妖しく目を細める。不穏なことを考えていればようやく書店へと到着する。適当な所に駐車をすると、ゆっくりとした動作で車のエンジンを消す)
まぁこのままだとあんた次第だしな…。(喧嘩はしたことがあっても当たり前だが人の命を奪うようなことはしたことがなく。殺すか殺されるかなんて考えたくもないがそんな状況になった時、躊躇ってしまう自分と躊躇いのない相手では明らかに差があり。)俺にメリットもないだろ。(頭を撫でられるなんていうのはいつぶりかわからないがそれが相手でなければ照れ臭くも多少は安心感や頼もしさがあっただろう。しかし今の状態で安心感なんて抱ける訳もなく。デメリットはないというがそれはメリットがあってこそ成り立つものでこれ以上に自分の情報を相手に渡したとしてもメリットなんて思い付かず。そんなことを考えていれば車が速度を落としたことに顔を上げ。本来ならば直ぐ様にでも車から降りて逃げ出してしまいたいが今はリスクが高く。)
うぅん。残念ですね。私はキミと融和したいというのに(溜息を吐きながら軽く笑う。やはり今はそう簡単に雑談もしてくれないようだ。この子を自分なしでは生きられない様に変えるのには相当な時間が必要だと気付く。だが時間を掛けるのは嫌いじゃない。何年掛かろうが自分のものにしてみせる)さぁ。着きました。では行きましょうか(運転席から降りると助手席の方へ回り込み、ドアを開ける。彼の手を優しく握ったかと思えば、やや強引に彼を車から降ろす。少し乱暴かもしれないが、突然の逃走を防ぐには有効だろう、なんて考えながら手を優しく握ったまま書店ヘと入る。確か学参はこっちだっただろうか。普段は足を運ばないコーナーなので、記憶を頼りに歩みを進める。傍から見たらどのように見えるのだろう。叔父と甥か、父と子か、兄と弟か。いずれにしても彼が囚われの身であることを周りに勘付かせない様にすることが重要だ)…くれぐれも、余計なことは、しないように(歩きながら耳元に顔を寄せ言い聞かせるようにゆっくりと囁く。一語一語区切って発声することで、彼に忠告をする)
出会い方が違ったら融和出来たかもな。(殺人鬼としてでなく弁護士として出逢っていたのならこんなに警戒することもなく。かといって弁護士に頼るようなことはないが。家庭環境に関しても誰かに相談する気はなく。例え誰かに相談したことで改善出来たとしても今更受け入れられたとしても困るだけで。)ちょ…離せっ。(握られた手を店内に入るなり振りほどき。ここは自宅から離れてはいるとは言っても同じ学校の人間が居ないとも限らず。男と手を繋いでいた、そんな噂が流れでもすれば家庭環境が嫌で寮付きの高校を選んだ意味がなく。寮でも変な噂が流れ居づらくなればそれこそ今度こそ自分の居場所はなくなり。今は逃げるよりも周りの人間におかしく見られないようにすることで頭がいっぱいで。一緒にいるくらいなら変に思われないのかも知れないが手を握られていては変な意味に捉えられる可能性もあり。)っ!こんなとこで目立つことはしねーよ。(耳元に囁かれた言葉に背筋にぞっとしたものが走り逃げるにはまだ時期尚早と行動に移していないものの相手からじりじりと後退るように距離を取り。)
おや…ふふふ。私と手を繋ぐのは嫌ですか。それともヘンな噂を立てられるのが嫌ですか。やはり年頃ですねぇ(彼に振りほどかれた手を後ろに組みながらクスクス笑う。彼の気持ちも理解できる。同性と手を繋ぐことに抵抗があるのだろう。自分は男性とも女性とも恋愛関係になることができるが、彼は違うのだろう。しかし自分の傍から離れることは無いというのに世間体を気にするのは、相手がやはり年頃だからだろうか。それとも彼には自分から離れられるというビジョンがあるのだろうか)学参はここでしたか。ほら、もっと近付いてお好きな参考書を選んでください(距離を取る彼を尻目に学参コーナーに到着すると、彼に手招きをする。あまり距離を取られると逃走される恐れがある。彼にその意思があるのか否かが分からない以上、警戒は怠れず)
うるせーな、どうだっていいだろ…。(相手がどういう行動に出るかと思ったが振りほどいた手を再度握られることもなく取り敢えず安堵の息を吐き。あとは車を降りてから店内に入るまでの間を知っている人間に見られていないことを願うばかりで。一応、振りほどいた後に周りを見渡したが見知った顔をいなさそうで。そもそも寮生活を初めて間も無く寮が改装中になったため、他学年や他クラスの人たちはあまり詳しくはなく。)参考書なんてわかんねーよ…。(そもそもそんなに勉強は好きではない。テスト前になれば勿論、そこそこ勉強はするがそれは必要に追われ仕方なくやっていることで。普段、参考書を買うことはなく相手から少し距離を保ったまま手近な参考書を手に取りパラパラと捲り。)
んふふ。いいですねぇ。その思春期ムーブ(彼の口の悪さは思春期男子特有のものか、それとも自分への反抗心故かは判然とないが。いずれにしても自分は反抗されるのが嫌いでは無い。自分にとっては小動物の威嚇に思えてならない。自分と彼の身長差は4cmしかないが、それでも可愛らしく思える)その出版社の教材は学生に人気らしいですよ。要点がわかり易く明記してあるそうですから(彼が意図的に距離を取っていることを分かっていながら、わざわざ身体を近づける。きっと邪魔がられるだろうが、僅かばかりの意地悪をしてみる。いつも独りで来ている書店に誰かと来ている。それだけで心が満たされている気がする。独りは嫌いでは無いが、それなりに孤独を感じていたのだなとようやく自覚する。彼の言う通り、出逢い方が違えばもっと融和に近付けただろうと思うと、それはそれで惜しい気もする)
あんた、変わってるって言われねー…?(今の行動の何が良かったのか。自分が取った行動は相手の手を振り払っただけ。それが良かったのかと怪訝そうな表情を浮かべ。何にしても普通の感覚ではなく。そもそも殺人鬼という時点で感覚が普通の人と違うのはわかっていたが日常生活でもこんなに感覚が違うとは思っておらず。ただ相手に監視されている時点で日常生活とは言い難く。)参考書なんてどれも対して変わらねーけど…。(相手が寄ってきた分、距離を空け一て定の距離を保ち。今、逃げたところでどうにもならないのはわかっているのでまだ逃走する気はないが相手とあまり傍にいるのは良くないと漠然とした不安があり。それは誰かに見られるからなのか他の理由なのか自分でも曖昧で。相手と距離を保ったことで別の参考書を手に取るも先程の参考書と何が違うのか良くわからず。普段の勉強に参考書を使わないため参考書の良し悪しなんてわからないのも当然で。)
普通の人には特に言われませんが、勘が鋭い犯罪者や頭が切れる検事には言われたことありますよ。やはり賢い人には人間の本性が薄らとわかるのでしょうねぇ(自分が変わっていることを自覚しているので、普通の人間と同じように振る舞っているのだがどうも気を抜いた時に分かってしまうらしい。彼と一緒にいる時は隠す必要も無いので、存分にありのままの自分でいられる)そんなことはありませんよ。きちんとそれぞれ違いがあるはずです。自分のレベルに合わせた参考書から入ることが大事ですよ(そう言って彼が離れた分、また歩み寄る。彼が自分の傍にいることに不安を感じているのは、とても良く伝わってくる。だからこそこんな意地悪をしたくなる。参考書が分からないという彼に自分も探す手伝いをする。彼はきっとテスト前にそこそこ勉強するという多数の高校生と同じだろうが、地頭は良いはずだ。どんなタイプのものが適当だろうかと、いつの間にか真剣に考えていて)
ああ、やっぱ変わってるんだな…。(そういった人たちに変わっていると言われるということは変わっていると思った自分の感性は間違ってないことを自覚し。しかし変わっているというだけの認識で流石に相手が殺人鬼だとまで見抜く人はいないだろう。それはそうだ。見抜かれていれば今頃、大騒ぎになっているはすで。)参考書なんて勉強嫌いな奴から見たらどれも一緒──…何でそんな近付いてくんだよ。(距離をとっても詰めてくる相手に更に距離をとり警戒心を顕にして。もし同じ学校の人に見られ怪しい噂を立てられたら溜まったものではない。広い世界にはいるのだ、男子高校生でも所謂パパ活のようなものをしている人は。父親だと言って誤魔化すには相手は若すぎるし親戚と嘘をつくことも出きるがどうやら自分は嘘が下手なようで嘘をついてもバレやすい。ただ心を痛めないように表面を繕ってきたからか隠し事は隠し通せるが。)
人の眼は侮れないものです。私の正体を見抜いた人間もただ一人だけですがいますから…(懐かしそうに目を細める。当時はそれなりに驚いたが、今となってはただの思い出に過ぎない。大衆へ露見するのを防げた時点で大した出来事ではなくなった)ん…? そうですねぇ…キミが迷子にならないようにするためと…ほんの小さな意地悪…でしょうかね。ふふ…(彼の言葉に参考書から目を離すと一瞬考えて、からかうように言う。もちろん大して広くもない書店で彼が迷子になるなんて微塵も思っていない。自分から逃走することを迷子と表現することで、必ず連れ戻すという意志を含めている。クスクス笑いながら意地悪をしていると告白すればまた一歩彼に近づく。彼に言わせればこれも悪趣味の部類に入るのだろうか。嫌がられているはずなのに自然と嫌な気はしない。むしろ嫌がる彼を可愛らしく思う。自分はキュートアグレッションに片足を突っ込んでいるのだろうか)
へぇ…俺の他にもいたのか。知ってる人。(自分以外にも相手の正体を知っていた人物がいたのに驚き意外そうな声を上げ。自分は見破ったというよりはただその現場に居合わせただけできっと普通に出会っていたら気づかないだろうというのは心の内に秘め。)小学生や園児じゃないんだしそんな大型店でもない書店で迷子になるか。(もし大きいショピングモール等ではぐれた際は見付けるのはなかなか困難かも知れないがここは至って普通の書店。やたら大きい訳でも複雑な造りをしている訳でもない場所で迷子になりようがなく。取り敢えず相手とは一定の距離をとっていたいのか参考書の売場から外れそうでも足を止めることはなく相手が近付いた分だけ後退り。この意味もない悪戯に一体、何の意味があるかはわからないがこの光景は周りにどんな風に見えているのかとちらりと周囲に視線を向けるも特にこちらを気にしている人はおらず。)
えぇ。私の大学時代の友人でした。友人の誼みで殺しはしませんでしたが社会復帰はできないようにしました。聡明だっただけに残念に思いましたよ(ため息混じりに心底残念そうに言う。友人の観察眼にはいつも感服していたが、あの時ばかりはそれを呪った。自分なりに葛藤した上でクスリ漬けにして路上に放置した。現在でも入院治療中だと聞いたが、会いに行く気は起きなかった)参考書のエリアはこちらですよ。んふふ…私と一緒にいるのがそんなに嫌ですか?(他人の視線が全くないことを確認すると、それを良いことに少し大胆なことをしてみる。さっと手を伸ばし、腰に手を回して引き寄せる。彼があまりに離れていくので、顔を寄せて微笑む。彼が自分と距離を置きたい理由も分からないではないが、それでも距離を取られると良い気はしない。自分から離れないで欲しい。傍にいて欲しい--そこまで考えた所で我に返る。自分はそんな想いを持ってなかったはずなのに)
うわ…最低だな…。友達だったんだろ?(その友人だというのが相手の正体を受け入れたのか拒んだのかは定かではないが、社会復帰が出来ないと言うことは余程のことをしたのだということを自白したようなもので。それだけでも信じられないのにそれを友人相手にしたと言うのなら尚更信じられず。)ちょっ…離せって…!(先程、視線をやった際には誰も見ていなさそうだったがいつどこで誰が見ているかもわからない場所で腰に手を回す相手に目立たないように小声ではあるが睨み押し返し。相手の腕から抜けると先程より警戒が高まったのか相手との距離を更にとり。頭が警鐘をならしている気がする。しかし今は相手も自分のことを監視しているため逃げるタイミングではない。隙をついたり目を離した隙でなければ逃げてもすぐ捕まる可能性が高く。それでも十分な距離は確保して。)
友達だったからこそ、殺せませんでした。クスリ漬けにして廃人にする位なら一思いに殺せたらどれ程良いか…あんなに苦しい思いは二度としたくないですねぇ(既に過去のことで大した出来事でないにしろ、それなりに思うところがあり表情が翳る。一思いに殺害した方が自分も友人も苦しまずに済んだのでは無いかと本気で思っている)はは、キミは冗談が通じませんね。……では、これらを買いましょうか(更に距離を置いた彼を見て笑うと、適当に五教科の参考書を選ぶ。自分が意地悪をし過ぎたせいで参考書を選ぶ所ではなくなってしまったようだ。きっと自分への警戒を一層強固なものにしたに違いない。少しからかっただけで怯える様はやはり小動物を思わせる。参考書を片手に「何か他に欲しいものはありますか?」と何事も無かったかのように近付き)
どちらにせよどっちも幸せにはなれねーな。(クスリ漬けにされたとしても殺されたとしてもその友人とやらにとっては救いがないだろう。そして相手もその友人も幸せにはなれていない。そんな2つの意味での言葉で。どちらにしても自分には遠い世界の非日常だがそれをしたのは紛れもなく目の前にいる人物で。)勉強って大人になっても使わないってよく聞くよな。どうせなら将来に役立つこと教えてくれりゃいいのに。(例えば親元を離れて一人で生きていける方法、だなんて決して口には出さないが。今、自分に必要なのはそういった知識で。殺人鬼からの逃げ方、なんてどこでも教えてないだろうな、なんて考えがふと過り。現在の勉強が社会に出て使わないなんて勉強したくない学生の常套句でもあり。他に、と言われても今まで集めていた漫画等も手元にないしこんなことになるとは思わず金銭もあまり持っていない。もしかしたら買ってくれるつもりなのかも知れないがそれでは餌に釣られているようで。)
(どちらも幸せにはなれないという言葉にピクリと眉毛を動かす。彼の言う通り、友人はおろか殺人に幸福と快楽を感じる自分ですら幸せになれなかった。そしてあんな思いはしたくない。であるならば、自分はこれからは両者が幸せになる道を探せばいいのではないか。彼と自分共通の幸福を探せばいいのではないか。異常者が正常者になることはできない。だが逆は成立するのではないか。つまり彼をこちら側の人間へと変え、共に幸福を追求するのだ。それが己のエゴとも自覚できず、名案を思い付いたかのようにニコリと目を細める)将来に役立つとはどのように決めるのですか? 将来のことが分からないからオールジャンルで勉強が必要…だと私は思っています(彼と同じ年頃の時は勉強しかすることがなかった自分にとっては、学生の常套句は知る由もなく、真面目に返答をする。彼からの返事がないので「ではお会計をしましょう」とセルフレジの方向へゆっくりと歩き出し)
…おい、あんた、どうかしたか?(先程まで饒舌だった相手が急に黙ったことが逆に不気味な気がして恐る恐る声を掛け。具合でも悪くなったのかそれとも自分の発言が何かしら気に食わなかったのか。でも顔色が悪い訳ではないし不機嫌そうな様子でもなく。まだ僅かな表情の変化を読み取れる程、相手と親しくもなければ聡くもない。家庭環境のせいか家族にも早々に見切りを付けあまり関わって来なかったからか他人の感情の機微に敏感な方ではなく。これが友人だったりあからさまに態度を表に出す人ならば別だが。それがわからない程、鈍くはないが相手はなかなか底が見えず。)あんたみたいな専門職はそうかもな。(専門職は専門的な知識が必要な上、何かしらに精通していなければ出来ないだろう。高校で学べる知識はたかが知れているため、夢がはっきりしている人間は専門学校などで学んだりするのだろう。一方自分はまだ将来ははっきりと決まってないし進学するにも奨学金でいけるような頭もなく。)
いえ…なんでもありませんよ。ふふ(彼の声で我に返ると何事も無かったかのように取り繕う。不安そうな彼の表情を見るに、自分が急に黙ってしまったことに恐怖を感じたのだろうか。でも大丈夫。これは私のキミのためなのですよ。キミも幸せになれますから--心の内でそう呟く)いえいえ。勉強とは己の選択肢を広げる為にあるのです。例え高校の勉強であろうとも…もちろん、私の元にいるキミにも選択肢は用意されていますよ(セルフレジで手際よく参考書をスキャンする。自分の言う選択肢の前提は自分の傍にいることで。脱走するというのは選択肢の内に入っていない。なぜなら彼は自分と共にいるべきなのだから。自分が共に幸せを見つけてあげなければならない存在だから。スキャンを終えると財布からカードを取り出し、手早くカードで支払いを済ませる。参考書を丁寧に袋へ入れると彼へ手渡し)
本当か?別に何ともねーならいいけど…。(何がきっかけでこの状況が変わるかわからない以上、取り敢えず脱出や脱走のタイミングを掴めるまではこうして外出まで許されている現状維持が最適で。そうなると相手が気紛れで機嫌を損ねたり気分が変わったなんてことは好ましくなく。出来る限りいつも通りにしようと務め。)別に…高卒の資格さえあればどこか働き口はあるだろ。(私の元、ということはもう暫くは解放するつもりはないということで。思わず溜め息を付き。会計の際に何も言わないということはやはりここの代金は奢ってくれるのだろう。将来の選択肢、だなんて。この監視下と監禁から抜け出すこと、出来るだけ家には近寄らず平穏に過ごすこと。今はそれだけで精一杯で。もし将来的にやりたいことがあるのなら解放してくれるのかと問いたい気持ちを抑え。手渡された参考書を反射的に受け取り。)
高卒であっても大卒であっても勉強ができる子は重宝されます。だからやっておいて損は無いですよ(これではまるで親のようだ、と内心思う。いや彼にとっては親とはこういう存在ではないのだろう。ならば自分を監禁しておいて勉強を薦める殺人鬼、位にしか思っていないのだろうか。先程から自分の機嫌を伺っているのはよく伝わってくるが、そういうことをされるのは苦手だ。自分が気分屋なのは認めるが、高校生の一挙一動に気を悪くすることは滅多にないというのに)では帰りましょうか(少しまた意地悪をしてやろうと思い付くと、店を出た瞬間にくるりと振り返り、彼の肩に手を伸ばすと、ぐっと引き寄せる。ただし今度は力を強くして。嫌がられるとさらにやりたくなるものだ。かと言って受け入れても続ける。これこそまさに気分で。彼はとても嫌がるだろうがそのままの状態で車まで歩き)
別に重宝されたい訳じゃねーし…就職さえ出来たらそれでいいんだよ。(目的は先ず就職することらしく。就職して稼ぐことさえ出来れば一人暮らしなり何なりして家族と関わらずに過ごすことが可能になり。今は寮が改装中で実家にいるとは言っても直ればわざわざ家に戻る必要もなく。ただ高校生のアルバイトなんかでは到底賄えない学費を高校くらいは卒業させないと、という見栄や体面のためとはいえ払ってくれているのは有り難く。だか高卒の資格さえあればある程度の働き先はあるため大学に行く学費等は期待出来ず。)だからあんまり近寄るなっての…。(生憎今回は脱走するタイミングがなかなか掴めず不発に終わり。書店を出た瞬間に抱き寄せられた肩。思い切り突き飛ばしたいところだが往来で目立ちなくはない。片手で相手の胸元を押し返しもう片方の手で肩に置かれた相手の手をひきはがそうとして。小声で、しかし相手にははっきりと聞こえるくらいの声量で反抗しながら見知った顔や制服が周りにいないかと視線巡らせ。)
キミは重宝されたくないのですか? 誰かにとって唯一の存在になりたくはありませんか?(自分は自己顕示欲、承認欲求が強いのだろうか。それとも両親の教育だろうか。誰でもできる仕事であっても常に唯一になれるものを求めてきた。大抵の人間は気持ちだけでも理解してくれるものだが、彼はそういった気は無いのだろうか)こうしておかないとキミが迷子になってしまうかもしれませんからねぇ…できるだけ傍に置いておかなくてはいけません(引き剥がそうとする手や胸元を押し返す手など意に介さずスタスタと歩く。迷惑そうな顔をしている彼に微笑みを向け。車に到着すると助手席のドアを開けて彼を押し込むように、しかし手つきは優しく、助手席へと乗せる。助手席のドアを閉めると運転席へと乗り込みエンジンを掛ける)
いや、別に特別になりたいとは…それに特別がいずれなくなるなら最初からなくていい。(自分だって両親が離婚するまでは両親にとっては特別だったはずで。それでも離婚で父の特別ではなくなり母の再婚で母の特別でもなくなった。特別になったところで何れ終わりが来るのならば最初から特別になんてならない方が楽で。)だから幼児じゃないっての。すぐそこで迷子なるか。(確かに書店から駐車場に停めてある車まで少し歩くとはいえ50メートルかそこらの距離。相手を見失う距離でも場所でもないのに迷子になりようもなく。ただここが見失いやすい場所ならば。こちらから見失いやすいということは相手からも見失いやすいということ。それならば脱走のチャンスはあったが上手くはいかず助手席に押し込められ。)
なるほど。なくていいのですか。……私ならずっと特別扱いしてあげるのに(彼には特別になりたいなどという想いが軽薄で。やはり家庭で誰の特別にもなれない、いないものとして扱われているのだろうか。だから特別になりたいという欲求も起こらない。その事に関して少なからず落胆すると、ぽつりと無意識に呟く)んふふ…私から離れたがっていますから迷子になりやすいと思いましてね。私から離れられないようにですよ(自分とて多少の恥ずかしさは感じている。敢えてするのは彼が自分から離れないようにと、彼を困らせて楽しむという二点があるからで。車を発進させると来た道を引き返し始める。来た時よりも車の往来が多く、信号でもよく引っ掛かる。用が済んだらさっさと帰りたい派であるので、車を走らせて暫くして軽い渋滞に巻き込まれると大きく溜息を吐く)
なくても困らないしな。なんか言ったか?(特別を失くした日からもう特別を作ることはやめたが作らなければ失くすこともないため、特に困ることも失くすことに怯えることもなく。特別なんてないほうが楽なのかも知れない、とすら思い始めていて。そんな中、相手が何かを呟いたような気がしたが内容までは聞き取れず聞き返し。)だからって肩を抱く必要はないだろ。(書店に着いた際に振り払ったのは自分だが迷子にならないようにというのならば手を引くくらいでも良かったはずで。離れたがっているのは否定出来ないが今の現状は殺人鬼と目撃者。わざわざ言葉にしなくともそう思ってしまうのは当然で。助手席に無理やり押し込められてしまえば自分に出来るのは行きと同じく車窓から流れゆく景色を眺めるだけで。行きのスムーズさに反して帰りの進みは遅く同じ道でもこんなに違うのかなんてことを思い。)
ん…? いえ、何でもありませんよ(彼の言葉で無意識のうちに独り言を言っていたことに気付くと首を横に振る。同時にどうやれば彼を自分の特別だと認識させるかを考える。褒めるか、甘やかすか。とりあえず勉強を教えて、問題が出来れば褒めてあげよう。たくさん褒めてあげれば、そのうち自己評価も上がって、特別だと気付くのでは無いか)より密着させた方が容易に離れられないでしょう? 今のキミは反抗的ですからねぇ…私も出来ればお仕置なんてしたくないので、なるべく逃げられないように考えた結果です(キミの為ですよ、と言わんばかりの顔で彼を見つめる。仕置をしたくないというのは本心だが、なるべく手間を掛けたくないというのが実の理由で。車が動かないので早々とハンドルから手を離し、深々とシートに寄り掛かっており)
…?そうか。何でもないならいい。(聞き返しても言わないということは自分に向けて話した訳ではないのだろうと解釈して。自分だって独り言を言うことはあるしその内容までわざわざ聞く必要もなく。しかし何故相手はいきなり特別だなんて話をしてきたのか内心不思議に思い。いや、そういえば相手は昨日からやたらと自分に対してお気に入りやら特別という言葉を使ってきていたことを思い出し。)密着なんてしなくてももっと他にいくらでもやりようあっただろ。(しっかり腕を掴んだり何かしら密着しなくても済む方法があると訴え。自分たちを知らなく今後会うこともない人たちばかりならばここまで気にしないかも知れないが。自分だってお仕置きは嫌だが知り合いに勘違いされるのも嫌で。)
やりようですか。キミはわがままばかりですねぇ(年頃の男子らしく恥ずかしいのだろうか。それとも相手が自分だからだろうか。自分がやりたいから、そんな理由では不満なのだろうか。いや不満なのは密着されることだろうか。だったらもう少し素直に言うことを聞いてくれれば良いのにと思ったが敢えて口には出さず)…ヒマですねえ。あっ、そういえば蒼クンは好きな人とかいたんですか? どんなタイプが好きですか?(渋滞にハマって何もすることがないので、彼の学校生活について聞いてみる。彼の嗜好について知りたいので好きな人について聞いてみる。この手の話は盛り上がりやすいと聞いたことがある。伝聞なのは学生時代から今日に至るまで、恋バナなんてしたことがなかったからだ。彼は素直に答えてくれるだろうかと期待しながら返答を待ち)
…寧ろこの状況で謙虚な奴がいたら見てみたい。(どう頑張ったところで今、自分が相手の支配下に置かれていることは変わらず気持ちだけでもしっかり持っていないと相手に屈する気がして。そう考えての反抗なのだがそれを我が儘と捉えられるのは心外で。ただ反抗心がプライドからなのか強がりなのかは定かではなく。)……は?唐突だな。好きな…いや、好きな奴もタイプも特には。(相手の唐突な問いに一瞬、面食らったような表情を浮かべ。しかし好きな人やタイプと聞かれてもこれだと思い浮かぶような人物はいなく。実際のところ、まだ同性の友人の遊んでいる方が楽しいし恋愛に差程、興味はなく。友人と遊んでいれば家族のことを考えなくて済む、というのが大きな要因かも知れないが。思い浮かぶ対象がいない以上、特にないと答える他なく。)
この状況だからこそ、では。キミは私が人を殺す所を目撃して拉致されました。普通ならば殺人犯に拉致された時点で恐怖で反抗なんてしないのではありませんか? キミ、余程精神力が強いのですね(昨日から思っていたことを彼にぶつけてみる。拘束した上で拉致した時点で自分は彼が恐怖で精神を病むのではないかと予測したが、実際は自分を睨めつけて反抗心を顕にする。多少驚いたが面白かった)やはり最近の子は恋愛に淡白ですね。友達と遊んでいる方が楽しいのでしょうか。…まあ私も恋愛にはあまり縁はありませんが(最後に人を好きになったのなんて覚えていない位前だったと思う。何にも代え難い娯楽を手に入れてからは、恋愛のことなんてすっかり頭から抜けていた)
あんたの思い通りに動くだけなら生かされてても心がないのと同じことだ。心まで明け渡してあんたの言いなりになるつもりはねーよ。(相手の思い通り、それは自分の中では相手の人形になり下がるの同意で。自分の意思も思惑も持たず従順にしていれば大切にされるかも知れないがそんな生活は望んでおらさず。感情を押し殺して生きていくより少しリスクはあれど抵抗することを選び。)さぁ…俺はそんなだけで他は知らねーよ。(あくまで興味がないのは自分のこと。高校生ともなればちらほらと恋人が欲しい、なんて言ってるいる生徒もおり。幸いにも自分の周りの友達はそういったことは言わないが。)
ふふ…良いですね。そのはっきりとした意思。蒼クンのそういう所、好きですよ(堂々と言い放つ彼を見て目を細める。どうやら彼は自分に反抗し続けるようだ。ならば当然脱走も次々と図るだろう。だったら自分はその強固な意思に敬意を持って、全力で阻止しよう。いずれ自分のものになってくれるまで)キミはスタイルも良く顔も可愛いのでモテそうなイメージでしたが、興味無いのですか。もったいないですねえ。宝の持ち腐れですねえ(あまり容姿に言及すると気を悪くされるかもしれないが、本心で思っていることなので遠慮なく口にする。ようやく渋滞が緩和され始めると、ゆるゆると上体を起こしてハンドルを持つ。アクセルをゆっくりと踏み込み、そのまま道なりに車を進める)
…そりゃどーも。嬉しくねーけど。(褒められているのか馬鹿にされているのかそれとも子供の戯言と思っているのか相手の声音からは一切読み取れず。相手がいくつかは知らないが相手より子供なのは間違いなく戯言だと侮られているのならはば寧ろ都合はよく。警戒されるよりは侮られるほうが隙は突きやすく。)言っとくけどスタイルがいいかどうかはともかくとして男子高校生に向かって可愛いは褒め言葉じゃねーから。(確かに自分は腕っぷしはともかくまだ少し幼さの残る見た目は格好いいという部類ではないだろう。自覚はしているものの相手に指摘されては分かりやすく不機嫌な声を出し。声が不機嫌なのは無意識なのか意識的か。車窓に流れる町並みがスムーズになったことが渋滞の緩和を知らせ。)
おやおや。気を悪くしてしまいましたか。申し訳ありません。しかし事実としてキミはとても可愛らしい…おっと、これではまた気を悪くしてしまいますね(あからさまに不機嫌に返されると、クスクス笑いながら彼の顔を一瞥する。幼さの残る顔立ちをコンプレックスに思っているのだろうか。照れ隠しで言っている風には見えないので、本当に可愛いと言われるのが嫌なのだろう。やはりカッコイイと言われたいのだろうか。自分が学生時分は可愛いからもカッコイイからも程遠い存在であったため、あまり理解出来ず。あまり彼の機嫌を損なっても大変だから、可愛いと言って困らせるのは時々にしよう。そんなことを考えながら車を走らせていると、ようやく自宅に着く。渋滞に巻き込まれたせいで些か疲れを感じ、エンジンを止めると、ふうと息を吐く)着きました。さあ家に入りましょうか(運転席から降りると回り込み、助手席のドアを開けて言う。助手席のドアを自分で開けるのは気遣いもあるが、彼の突然の脱走に対応するためもある)
…その言い方は謝る気ないだろ。(全面に不機嫌を顕にした声を出したにも関わらずまた可愛いと口にしかけた相手に投げやりに呟き。小学生くらいまでは可愛いと言われてもあまり気にしなかった気もするが中学生ともなると思春期なため可愛いは複雑だし格好いいと言われるのも照れ臭く。高校生となった今では可愛いは最早、褒め言葉ではなくなり。相手が褒め言葉のつもりで口にした言葉だとしても自分はそうは受け取れず。だからといって格好いいと言われても素直に受け取れるかどうかは別で。知らない道とはいえそんなに長時間走ったわけではないということは自宅からもそう遠く離れた場所ではないのだろう。とは言っても普段通らない場所。土地勘もなければ周りに何があるのかもわからない。脱走するにしてもこの辺りの地理を覚えるのが先で。)……ああ。(相手の家に入る。受け入れたくはないが今は従うしか選択肢がなく。返事をするのも認めるようで癪だが無言でいるのも何か違う気がして短く返し。)
んふふ…正解です。……さあ、早速ですが勉強しましょうか(投げやりな彼の反応を見て満足そうに笑う。彼は嫌なことは嫌だと正直に反応してくれる。愛想笑いも取り繕うこともしない。おかげでこちらは普通に会話できる。ただ彼の考えていることについては、注意して見ておかなくてはならない。表情は素直だが、虎視眈々--被害者である彼にこんな言葉が適当か否かは分からないが--と脱出の機会を探っているに違いない。今は情報が不足しているため自分に従っているが、時が経てば必ず何かするに違いない。彼の企ては必ず全力で阻止すると決めた以上、益々彼から目が離せなくなる。リビングに彼と入った途端に勉強をしようなどと言う。自分は勉強を苦だと思ったことは無いが、彼からすればきっと勉強は苦痛に違いない。苦痛なことをやらせるのは可哀想だ。それでも学生に勉強は必要だから、と自分と彼の分のコーヒーを入れながら自分に言い聞かせる)
今から…?明日で良いだろ…。(先程の書店での遣り取りに若干、疲労の色を滲ませ。主に原因は気疲れで。周りに見られていないか、脱走出来る隙はないか、それに比べて相手の意地悪という嫌がらせと色々と気を張っていたせいで折角、拘束も解かれ外に出れたというのに余計に疲れた気がするだけで。家に着き監禁されている身ながらも少しでも身体を休めたいと思っているのところに掛けられた勉強という言葉。持っていた参考書が入った袋を机の上に置き椅子に腰掛け。正直要らぬ気を回して疲れたこの状況で好きでもない勉強に集中できる気はせず。そもそもテスト前に勉強するだけで平均的は取れていたため普段の予習復習やテスト前以外の勉強なんて進んでしたことはなく。確かに監禁されている以上、授業を受けることは出来ないがそれはテストとて同じことで。それともテスト期間には学校に行かせてくれるのだろうかと一瞬、過ったがそんなに甘い訳もなく。学校になんて行かせては脱走しても大丈夫だと言っているようなもので相手の性格からしてそれらないだろうと思い直し。)
明日からは事務所での仕事があります。ゆっくり勉強を見てあげられるのは今日位ですから。……でもそうですねえ…少し休んでからにしましょうか。疲れたならソファで寝ても構いませんから(勉強が苦痛な気持ちは分からないが、彼の顔に疲れの色が見えれば少し考えたあと、休むことを提案する。自分と関わると疲れるのだろうか。監禁されている状況で、自分のような異常者と話していれば疲れるのも当然かもしれない。少し可哀想に思う。だが可哀想な目に遭っている様が何とも可愛らしい。出来ればもっと可哀想な目に遭わせたい。だがそれはエスカレートしていくと、彼を獲物の一人にしてしまいそうで。いくら気分屋で衝動が抑えられない時がある自分でも、彼を手に掛けてはいけない。そんな気がする。一瞬沸いた殺人欲求を誤魔化すためにコーヒーを一口飲む)
別にわざわざあんたに付いててもらわなくても…それに勉強なんてしなくても何とかなるだろ。(余程、勉強が嫌なのか相手に教わるのが嫌なのか頑なに首を縦には振らず。そもそも弁護士ということから頭が良いことはわかるが教師のように教えることは出来るのかとちらりと視線を向け。勿論、教師でも教えるのが下手な教師はいるし自分たち生徒側にしてもある程度の理解力が必要なことはわかっていて。自分は理解力が凄いと言うわけではないが教師の言っていることはなんとなく理解出来るレベルで。確かに昨日は色々とあって眠りは浅く今日も疲れたのでソファーの誘惑に眠りたくないという訳ではないが相手の前で無防備に寝たらどうなるかわからない。殺されることはないにしろ用心するに越したことはなくて。)
その目…さては疑ってますね? 弁護士ごときが勉強を教えられるのかと。ご安心ください。親戚の子の勉強を何度か見ていますので。勉強は大切です。何においてもまずは勉強が必要です。頭を使わないと怠惰になってしまいます(彼の視線に気付くと誇らしげに言う。親戚の子供の勉強を見ているだけで偉くも何も無いのだが、彼の疑いを払拭できるはずと期待に満ちた目で。彼がソファに移動しない所を見ると、勉強が如何に大切かを説く。頭を使わなければ、脳は活動を低下させてしまう。そして怠惰になる。怠惰は無気力を呼び、無気力は人間としての感情を失わせる。人の命を奪っている自分が、怠惰も何も説得力に欠けるだろうが、今まで何人もそういう人間を見てきた結果で。彼を服従させるのならば無気力でも構わないが、自分が望んでいるのは融和と共存なので、彼には学ぶことを大切にして欲しいのだ)
いや、あんたは得体が知れない部分もあるし…もしかしたら弁護士の資格とは別に教員免許でも持ってるのかと…。勉強意外でも頭を使うことはあるだろ…。というか親戚の子っていくつだよ?(普通に考えれば弁護士と教師では選択する学部も違うし専攻も違ってくるので不可能だが高校生になったばかりな上、進学する気は全くない自分にはそこまで大学に関して詳しくはなく。頭を使わなければ鈍るというが相手にバレない脱出の方法、脱出のルート、家に戻るにしろ警察等に逃げ込むにしろその後の身の振り方等と勉強以外でも考えることは山積みで。だがその内容まで話してしまうと警戒を強めかねないし拘束も強まるかも知れない。その結果、食事の際も手の拘束を解いて貰えず相手に食べさせてもらうしかないという状況になるかも知れないと思うと口が裂けても内容は言えず。親戚の子を見ていると言っても幼かったり自分よりかなり年上なら意味がなく。)
生憎、教員免許には興味がなかったもので。弁護士資格は興味があったから取ったんです。…彼は中学生ですから…14歳といったところでしょうか。……まあ2歳差程度ですから誤差の範囲ですよ。誤差。(他人の子と接する教員よりも、殺人犯と密に接する機会が多い弁護士の方が惹かれた。仕事をしながらでも自分の遊びの参考がいくらでも見つかるから。彼らが起こした事件の資料に目を通していると、自分ならこうすると妄想をし、それを実行に移す。弁護士としては最悪だが、自分としては最高だ。胸が高鳴り、ゾクゾクとした感覚が背を伝う。親戚の子供についての質問を受けると何となく察する。彼はきっと自分とその子の年齢差を気にしている。口にしてから思ったが、中学生と高校生では教科の範囲も、学習する単元も違うので一概に比較できない。中学生と高校生という言い方ではなく、2歳差という言い方をして誤差の範囲だと主張し)
それ、取ろうと思えば取れたってことか。中学生
?いや、2歳差でも中学と高校じゃ色々とちがうだろ。中1と中3とかならともかく。(相手の言い草だと興味がなかっただけで教員免許も興味があれば取れたように聞こえ。しかし相手が殺人をする際にもっと楽しめるために弁護士になった等とは考えも及ばないため、知る由もなく。弁護士というのは基本的に加害者の味方で。それが仕事だとは理解していても被害者の遺族からは恨まれてもおかしくなそうだとも思い。相手はその辺は平気なのだろうか。それともそれも仕事だからと割り切っているのか。それとも相手自身もそうだから、なのだろうか。等と考えを巡らせ。親戚の子供が中学生と聞いて更に懸念は増え。同じ中学生同士や高校生同士ならば2歳差でもあまり気にならないがそれが中学生と高校生となると別で。)
古今東西の試験というのは堅実に勉強し続けければパスできるのですよ。……論より証拠。とりあえずやってみましょう!分からないところがあったら聞いてください(頭の良し悪しはあれど、堅実に勉強を続けていれば如何なる試験も突破できる。自分はそう考えていた。自分は勉強を生活の一部に組み込み、毎日学び続けた。その結果司法試験を1回で合格することができた。主張の根拠はそんな実体験からきていて。彼に痛いところを突かれれば誤魔化すように、袋の中から英語の参考書を取り出し、適当な所を開いて彼の前に置く。ついでに胸ポケットから取り出したペンも同じところに置き。開いたページは長文の問題。ざっと目を通した感じ、中学英語の応用といったところか。教師の言っていることが何となくでも理解できる彼ならば、問題なく解けるのではないかと予想する)
学生はそうかも知れねーけど弁護士や教師は専門的な知識がなきゃ受からねーだろ。いや、教師は違うのか?でも免許をとるくらいだし…。(確かに堅実に勉強していれば満点や学年トップとまではいかなくてもそれなりの成績を維持できるだろう。だが自分は特段、成績に頓着があるわけではなく。ただ赤点だらけだとあの無関心な親達に文句を言われるかも知れない。いい点を取っても無関心な癖に悪い点を取ったらと文句というのは理不尽極まりないが。目の前に置かれた参考書に反射的に目を向ければ目に入って来たのは長文の英語。恐らく長文読解の問題なのだろう。全く出来ないという訳ではないが得意でもなく。得意でもなく好きでもない上、英語の問題の中でも面倒臭そうな問題にうんざりした表情を浮かべ。家の差別的な環境に縛られるのが嫌で寮のある高校生に入ったというのに寮は改装、家出すれば監禁され。何故、こんなことになっているのかと重い溜め息が零れ。)
教員免許を取るだけの試験ならばそこまで難易度は高くないですよ。採用試験が難しいのです。それに専門的な知識だって毎日時間をかけて勉強すれば必ず理解できます。その英文のように(教員免許取得試験ならば自分は受かるだろうが、採用試験となると苦労するだろう。自分とて最初は法律用語や判例といった専門的な分野を理解するのに、大いに苦労した。毎日勉強を続けて理解することができるようになった。ただ、それは学生という身分で時間があったからで。社会人になってから勉強を始めていれば、もっと合格に時間が必要だっただろう。うんざりとした顔と大きな溜息を見ると、彼は英語が嫌いなのだろうかと思う。いや授業内容は何となくで理解できると言っていたので、得意でもなければ苦手でもないのだろう。いくら時間が掛かってもいいから長文を解いて下さい、と言外に告げる)
時間を掛けてって…それはもう学生時代から夢がある奴の話だろ。それにそういう職種に就くにはそういう学科のある大学に行くべきで…。(大学。学費の問題さえなければ、両親がもっと自分に興味を持ってくれていれば大学進学を考えることもあったのだろうか。とはいえたらればの話は考えても時間の無駄だと理解しており。昔はよく考えていたが考えたところでそれは願望でしかなく叶うことないもので。妹が大学に行きたいと言えば両親は快く学費を払ってくれるだろう。だが自分が言った場合はどうだろう。高校くらいは卒業してないと体面が悪いということで払ってもらっているがもし大学でも寮に入るとなると寮費も掛かり。流石にそうなるとアルバイトで賄うのは無理そうで。それならば就職したほうが早く家族とは離れられ。就職してお金がある程度貯まれば即家を出るつもりで。言外に相手の圧を感じると緩慢な動作でペンを取り嫌々ながらも参考書に目を移し。)
弁護士も教員も大学に行かずとも、成ることはできるのですよ。教員は制限付きですが。大学に行かずとも勉強さえ出来れば成れるものは多いのです。…キミには夢は無いのですか? あ、私から逃れたいなどというのはナシで。(自分は大学に行って試験を受けたが、自分の同期弁護士には予備試験を経て司法試験に合格した者もいる。彼に夢を聞くが、何も言わないと自分から逃れたい願望を上げるに決まっているので、しっかりと条件を付けておく。この子はきっと親から受けた仕打ちで、夢も希望も持てない子になってしまったのだろう。しかしそんな彼を自分が変えてあげるのだ。きっと彼も喜ぶに違いない。自分の幸福を彼にもシェア出来れば、幸福になれるに違いない。そんな歪みと傲慢を含んだ目で、参考書に取り組み始めた彼を見つめる)
へぇ…まあ大学に行く予定もねーし俺には関係ねーな。夢…?別に一人でそれなりに暮らせれば。(大学に行くには自分には問題が多すぎて現実的ではない。特に今、なりたい職業やほしい資格がある訳でもなく。相手に釘を刺されなくてもそんな相手の警戒を強めるようなことを言うつもりはなく。勿論、相手の元から逃れたいというのは目下の目的ではあるがそれは一先ず今の話の中では出さず。まだ高校生になったばかりだからなのか家庭環境のせいで諦めたのかはわからないが夢と言うほどのことはなく家族のいないところで慎ましやかでも質素でものんびりと暮らしていければそれで満足で。そのためにはある程度のお金がいる。今はまだ入学して少しして寮の改装等のゴタゴタで見付かっていないがバイトも探そうと思っていたところで。)
一人で暮らしたい、ですか。でもそれは叶いそうにありませんね。ここでそれなりに暮らす、ではダメなのですか(一人でそれなりに暮らしたいという願いは、現状を見れば自分から逃れたいことと同義じゃないか。内心でため息を吐く。自分は彼を殺害する意思も、安易に暴行する意思も持ち合わせていないのに。自分は彼を丁重に扱っているのに。どうして分かってくれないんだろう。どうして逃げたいなどと思うのだろう。ここで暮らすことはダメなのか訊ねる。普段はあまり感情を顕にしないのだが、不満そうに苛立ちの混じった声で訊ねる。訊ねてからはっと我に返る。落ち着け。彼は単に願望を口にしただけ。そもそも聞いたのは自分だから深い意味は無い。拉致同然に連れ込めば快く思われないのも当然だ。だから落ち着け。感情を抑えないと。心の中で忙しなく自分に言い聞かせ)
…あんたはまだ殺人を続けるつもりだろ?俺はそれを何でもない顔で流せる程、大人じゃない。(相手は今まで何人殺して来たのだろした時の手際からして初犯でないことは明らかで。自分を殺さないとはいえ自分以外の人間をこの先も殺していくのだろう。自己の欲求を満たすために。自分が相手のやっていることを知らないのならば結果がどうであろうと考える余地はあったのかも知れない、とは思い。しかし殺人に関しては目撃者、監禁に関しては当事者で。それを何でもなかったような顔をして何事もなかったように日々を過ごせる程、大人でもなく図太くもなくて。ただ一人でそれなりに暮らす、というのは相手に出会う前からの夢であり且つ目標ではあり。一人で、というよりかは家族と離れて、のほうが正しくはあるが。相手が自分の情報を頼んだ人物が調べたら家庭環境のことも全てわかるだろうがそんなことは勿論、知る由もなく。偶然居合わせだけの自分を気に入られた実感はまだ無く。)
では……キミも人を殺してみませんか。私と一緒に。んふふ…その快楽を知りませんか(彼が躊躇するのなら、こちら側に引きずり込んでしまおう。そう思った矢先、携帯が通知音を知らせる。画面に目を遣るとメールが届いていた。調査会社からのメールだった。彼の自宅、本名や家庭環境などの概略が書いてあった。本名は東雲蒼だということ。父と母と妹と同居していたこと。しかも父と妹とは血縁がない。そして両親は妹を贔屓していること。どうやって短時間のうちに調べたのかは謎だが、さすがこの調査会社は全幅の信頼を寄せていいと再確認する。とにかく彼のことについて知っていることが広がったのでグッドだ。早速このカードを使おう)キミにも消えて欲しい人間はいるのでは? 例えば…差別的な父親、それを黙認している母親、その恩恵を受けている妹…。酷い人達ですね。キミも相当嫌な思いを沢山してきたはずですねえ…?(微笑みを貼り付けたまま、一言一言力強く言う。彼は彼らを憎んでいるのだろうか。こんな扱いを受けてまで憎まないのだとしたら、彼は相当な人格者ということになるが果たして)
だから…人を殺したりする訳ねーって言ってるだろ…。何度言えばわかるんだよ、あんたは。(自分が誰かを殺したりする意思はないと伝えたはずで。こんな話になっては参考書に集中するどころではなく回答途中にも関わらさず少々乱暴に参考書を閉じ。そこに聞こえた携帯の通知音。自分の携帯は相手に壊されて使えないのでなったのは相手の携帯とわかっているのについ反応してしまうのは現代人の癖や依存症故なのか。とは言え相手の仕事は弁護士。初めて食事をしていた最中に掛かってきたようなクライアントからの電話や依頼主、または依頼者からの連絡だろうと思い。別にそれらに興味もなければ知る必要もなく。相手が殺人鬼ということは世間にバレていないのでそれ関連の連絡がくるはずはなく。)…なっ、んであんたがあいつらのこと知ってんだよ…。それにあんな奴らを殺したことで一生を棒に振るなんて馬鹿げてる。関わらないのが一番だ。(あいつら。それは両親と妹のことだがとても家族に向けるような呼び方とは思えず。出来ることならば顔を合わせたくもない。だが家族を手に掛けたところで満足どころか虚無感が募りそうで。)
キミが首を縦に振るまで何度でも言います。ふふ…棒に振るから嫌ですか。つまり倫理的にダメだとは思っていないのですね? では棒に振らなければ…捕まらなければ良いのですね?(こじつけも甚だしいが、こういうことは相手に思い込ませれば良いのだ。相手が言及しなかったことは無言の肯定と捉え、追求する。法廷で検事も弁護士も使う常套手段だ。尤も、男子高校生に通用するかは分からないが)私は既に二十人以上殺したでしょう。もはや数も分かりません。ですが捕まっていません。疑いの目すらも向けられたことは無い。…私がキミの一生を棒に振ることがなきように協力してあげます。あんな人達、殺してしまいなさい…東雲蒼クン(彼の手を取って囁くように言う。ふと思った。自分はどうして彼の家族にこんなにも憎悪を抱いているのだろう。縁もゆかりも無いのに。この感情が何なのかは分からないが、彼が蔑ろにされたという事実だけでも腹立たしく思う)
そういう問題じゃねーんだよ。関わりたくねーんだよ、俺は。寮の改装が終われば会うこともなかったんだ。こんな状況でなければな。(憎さはあれど殺す気はなく。そもそも殺すという思考に至ること自体が自分にとっては不思議で。暫く家出をして寮の改装が終われば一切合わないつもりで。高校生のバイトで貯めたお金でどこまで出来るかはわからないが出来るだけ早くにバイトを見つけてお金を貯めてあの家を出て家族と離縁しようと思っていた矢先の監禁で。)…いらねーよ。殺さなくても目の前から消えてくれればいい。(あくまで自分の目的はあの家族との関わりを絶つことで蔑ろにされていたことに対する報復や復讐を考えている訳でもなく。相手がどれだけ殺してそしてどうやって捕まらずにきたのかはわからないがそれでも相手と同じことを自分がするなんて考えられず。)
…キミは両親が離婚して現在の家族構成となりました。血が繋がっているのは母親だけ。その母親は新しい父親と一緒に妹を贔屓している。その腹から産んだ子よりも、血の繋がっていない『他人の子』を選んだ…。キミは負けたんです。赤の他人に愛情を奪われた。愚かな母親のせいで。(拒否する彼を見て何かが切れた音がした気がする。堰を切ったように言葉を浴びせる。いつもの冷静さは失われ、ねちっこく言葉を区切って喋る。落ち着け、やめろ。ともう一人の自分が囁く。恐らく理性というやつだろう。実際、彼が自分の言う通りに殺人を犯せば、当然捜査が入り、行方が分からない彼が疑われる。そうすれば彼と一緒にいる自分も疑われる。彼とは既に書店に共に行っているため、防犯カメラにも映っているだろう。だがそんなことを考える程の余裕は既に無くなっていた。子供を蔑ろにする親なんか居なければ良い。それは彼が身をもって知っているはずだ。なのに。どうして。この子は親を殺さないのだろう。人間を殺せる悦びを知ろうとしないのだろう)
…だから?だから殺せって?あいつらからの愛情なんてとっくに諦めた。今更、そんなもんもらっても仕方ねーよ。勝ち負けとも思ってねーし。(たった一人の母親。離婚した当初は子供心ながらに自分が母親を守ってあげなくては、と思っていた。しかし母親が再婚し自分を蔑ろにしておきながら血の繋がりすらない妹ばかりを可愛がっている姿を何年も見せられれば自分が愛情をもらえることはないのだと悟り。それならば愛情がほしいなんて感情も失くなり。相手の言っていることは間違っていない。何かしらの手を使って調べられたのだろう。だが今の自分の置かれている家庭環境まではわかっても感情までは調べられなかったようで。妹が贔屓されているのも自分より他人の子が選ばれたのも愛情を奪われたのも母親が愚かなのも全て合っている、わかっている。それでも1つだけ間違っていること。自分は友人もいたし匿ってくれる親戚もいた。そんな自分の人生が負けだとは思わず。)
…ぁ。…そうですね。キミの人生です。私に勝ち負けを判定する権利はありませんでしたね。申し訳ありません(彼の言葉で、まるで冷や水を浴びせられたかのように、急速に冷静さを取り戻して。ようやく冷静な判断ができるようになれば、自らの発言を詫び。少し熱くなり過ぎた。そもそもこんなこと言ってはいけなかったのだ。彼をこちら側に招こうと躍起になり過ぎた。羞恥心と自己嫌悪が胸中で渦巻く)…………私は少し溜まった仕事をします。この部屋から出ず、大人しくしていて下さい…(か細い声で呟くと気まずさに耐え切れなくなり、リビングから出て行く。リビングの戸を閉めた途端にその場に座り込む。彼を我がものにしようとして失敗した。法廷でこちらの主張を却下された時より喪失感がある。大きく溜息を吐くと、頭を抱える。一人の男子高校生に感情を乱されるとは、自分はこんなに未熟ではなかったはずだが。他人に理解されなくても何の痛痒も感じなかった。だが彼に理解されないだけで、自分自身を完全に否定されたように感じる。同時に喪失感と孤独感が襲う。そんなことを考えている内に普段の労働の疲れからか、ドアに寄りかかったまま、うつらうつらと船を漕ぎ始め)
まあ勝ち負けがあったとしても勝っても負けても大して変わんねーよ。もし勝ったからってその後の人生が全て上手くいく訳じゃねーし。(妹が勝者で自分が敗者だとして何が変わるのか。勝者だからといって羨望や尊敬を抱かれる訳でもない。敗者だからといって同情や憐れみを向けられる訳でもない。何も変わらずその先の人生を進んでいくだけで。ただ珍しく動揺や困惑を見せた相手に不思議そうな目を向け。考えても相手の胸中なんて分かる訳もなく。)何してんだ、あんた…。(一人部屋に残されてしまったが鍵を掛けられた訳でも拘束されている訳でもない。まだこの部屋の構造は分かってないが今なら逃げれるチャンスなのではと思い付き。ボストンバッグは手元にないがそれはこの際、仕方なく。逃げられるのならばボストンバックくらいの犠牲は受け入れ。部屋でじっとしているようにと言われたが相手の言葉に元々従う気はないしこのチャンスを逃せば次のチャンスはいつくるかわからず。暫く悩んだ後、静かに席を立ち出来るだけ音を立てないように扉まで近付くとそっと開き。このまま逃げられると期待を抱くが相手が寄りかかっていためすぐにつっかえ隙間から様子を窺うと相手の姿が少しだけ見え。しかし動かないことから眠っているのか気絶しているのかと恐る恐る声を掛けて相手の様子を見て。)
んぅ…………おや。何をしているのですか(ぱっと気が付くと背中に違和感があった。振り返ると扉が少しだけ開き、彼が隙間から覗いていた。どうやら少し居眠りをしていたらしい。それにしても。部屋に居るように言ったはずなのに、なぜ扉を開けたのか。やはり脱走するためか)悪い子ですね。私は何もしないように言ったはずですが(先程の昏い感情の蘇りと、中途半端な睡眠を取ったことで増長し眠気のせいで不機嫌そうに言う。さっと立ち上がるとリビングへ入る。彼の返答を待たず、その肩をガシッと掴むと自分の所へ引き寄せ、そのままソファへ倒れる)……少し私とお昼寝しましょう。キミも疲れたでしょう(彼をさながら抱き枕のように、しっかりと抱きながらも変わらず不機嫌そうに。しっかりとホールドした状態だと彼の体温が直に伝わって来るため、心地よい)
いや、それはこっちの台詞なんだけどな…。(何をしているのか問いたいのはこちらで。仕事をしてくる、と言っていたはずの相手が何故こんなところで扉に寄り掛かっていたのか。そのせいでここから抜け出すことは阻まれ。相手の警戒を余計に強めてしまったかと内心思ったが顔には出さず。)そんなこと言われても部屋に一人で残されてどうしろって言うんだよ。(勿論、これがチャンスだと部屋の外には出ようとしたがそれは予想外の形で阻まれたので実際に自分に出来たことは椅子から立ち上がり歩いたくらいで。相手がリビングに入ってきたことで今回の脱出は失敗だと諦め。)へっ、うわっ…!危ねーな。というか離せって。(肩を掴まれたかと思えば反転する視界。気付いた時にはソファの上で相手に抱き締められていて。相手が男だからなのか殺人鬼だからなのか腕の中から逃れようと?き。)
大人しく勉強をするなり、飲み物を飲むなり、疲れを癒すなり…。できることはあったはずです。キミは悪い子です。本当に悪い子だ…少し静かにしてください(逃げようとする彼をがっしりとホールドすれば、いよいよ抱き枕のような感覚がしてきて。ため息混じりに彼に囁くと目を瞑る。自分は彼を簡単に説き伏せられると思っていたのに、こんなにも苦労するとは。彼の発言を思い返してみれば、余程他人に縛られるのが嫌なのだろう。自宅で抑圧--彼に言わせればこの表現も適当では無いのだろうが--された反動だろうか。自分は縛ろうとするつもりは無い。ただ彼に理解し実行して欲しいだけ。そしてその快楽を知って欲しいだけ。それだけで良いのに。それが彼には縛ることと同義で苦痛なのだろうか。彼に拒絶される度に不安に駆られる。お願いだから僕を拒まないで--そう言ったら彼はきっと軽蔑した表情を向けるだろう。気が付けば身体が小刻みに震え)
離せって…。あんな状態で集中できるわけねーだろ。人ん家の冷蔵庫を勝手開けるわけにもいかねーし…休むってのも何があるかわかんねーのに休まらねーよ。…あんた、具合でも悪いのか?(実際に先程までは逃げることを優先していたものの頭の中は混乱していて。家族のこと、家庭環境のことをあまり考えたくなくて家出してきたというのにこんなところで思い出させられるとは思っておらず。監禁されたという衝撃が大きくてあまり考えなくて済んでいたのも事実で。 勉強をするにしても飲み物を飲むにしても休むにしても寮の自室や実家のようにすることなど出来ず。気が休まらないのは実家も同じだが蔑ろにされていたとはいえ身体的暴行や食事抜き等の虐待を受けていた訳ではなく。このような状況でも勝手に他人の家の冷蔵庫を開けるのを躊躇ってしまうのは最早性分とも言えるべきもので。抱き締める力が強まっても逃れようと抵抗するも抵抗している最中、相手が震えているのに気付けばドア先で寝てしまっていたことといい体調でも崩しているのかと声を掛け。)
ええ、とても具合が悪いです。キミのせいでね…。分かったらその律儀な心で、今だけはこうさせて下さい。後生ですから…(家の主が構わないと言っているのに冷蔵庫を開けられないという律儀さと育ちの良さは教育によるものだろうか。それとも彼が自分で会得したものだろうか。自分としては後者が望ましいが、意外と以前まではまともな家庭であったのかもしれない。具合が悪いのかと問われれば小さく頷き、これまた小さな声で呟く。自分はこんなにメンタルが弱くなかったのだが、彼のせいでめっきり弱くなった気がする。こんな感情になったのは人生で初めてだ。初めてのことと言うのは戸惑いを覚えるもの。そしていずれそれに慣れれば大丈夫。そう自分に言い聞かせても、これに慣れることはできなさそうで。考え事をしながら彼の体温を感じていると、急激に眠気が襲ってくる。起きた時に彼が居てくれるか、居て欲しい、そうでなければ--そんなことを想いながら、意識が夢の世界へと渾然していき)
はぁ?何で俺のせいなんだよ。いや、だから…。(相手の体調不良が自分のせいと聞けば訳がわからないといった様子で。それはそうだ。監禁されたら脱出しようとするのは当然のこと。だが自分はタイミングを窺っていて未だ実行に移せずにいて。先程の機会もこの部屋から出ることすら出来ず失敗に終わり。だから脱出する自分を警戒した気疲れでの体調不良はありえなく。だが相手の胸中の葛藤や困惑なんてわからないため、他に心当たりはなく。そもそも本屋にいた時と家に帰ってきた辺りまでは普通の様子で。律儀の心と言われてもこれは小学校高学年辺りでは当たり前のように身に付いていたので本当の両親が別れる前か幼い頃に母に教えられたのだろう。相手にとっては律儀でも自然の内に身に付いていた自分には普通のことで。反論している途中にも関わらず相手は眠ってしまったようで。今なら逃げられるかも知れないが相手の腕から抜け出した気配を感じられたら目が覚めてしまうのではないか、と悩み。相手は寝入ったばかり。脱出するかどうかは別としてもう少し眠りが深くなった頃に抜け出そうと考え。)
(彼が再び脱走を企てている最中、既に意識は夢の中で。いつものように朝起きて仕事の支度をする。彼を起こそうと思い寝室を開けるが、そこに彼の姿は無く。焦って家中を探しているとインターフォンが鳴る。彼が戻ってきたのかと思い、ドアを開けると警察官が。引きずられるようにパトカーに乗せられ、自分は逮捕されてしまう。そこまでは良かった。なぜならこれが夢だと自覚していたからだ。俗に言う明晰夢というものだ。だから余裕綽々と警察の取り調べにも応じたし、死刑も受け入れた。実際、自分が逮捕されたら同じように振る舞うだろう。その意味でも夢特有の意外性はなかった。拘置所に収監されていると面会が来た。彼だった。彼は酷く冷たい表情をしていた。無機質な目。ぞっとした感覚がすると同時に彼は口を開けて、自分の全てを否定し出した。彼の言葉を聞く事に、まるでナイフで刺されたような鋭く熱い痛みが襲う。否定をされる毎に過呼吸のような状態に陥ってしまう。お願い。やめてくれ。一頻り喋ると彼は席を立ち、振り返りもせずに暗闇へ行ってしまう。喪失感と孤独感が同時にやってくる。彼が居なくなれば、自分が存在できなくなるかのような不安が襲う。夢の中で叫んだ「行かないで」という言葉は、現実でもぽつりぽつりとうわ言のように呟いていることに、当然気付けるはずもなく)
よっ…と。寝てる、よな。ん?何だ、寝言か?(相手が深く寝付いたのを確認すると相手を起こさないように出来るだけ最小の動きで相手の腕から抜け出し。キツい体制でいたため、肩腕を軽く回して解し。ぐるりと部谷を見渡すもこの部屋に自分のボストンバッグは見当たらず。ここが家からかなり遠いとしたら最悪何泊か野宿になるが監禁されているよりはマシかと思いこれからまず何をするべきかと考えていると相手が何か言ったのが聞こえ。どうやら魘されているようだが起こすと脱出は明らかにアウト。かといってこのまま放っておくのも後味が悪くどうしたものかと暫し考え。魘されていたとしても夢なのだからそんなに気にすることはないかも知れないがもしこれが体調不良からのものだったらと思うとなかなか身限れず。かといってこの部屋を出てもどこに何の部屋があるのか。階数、大きさ等何もわからないのでは介抱する道具を探すことも出来ず。しかし今はまたとないチャンス。こうしている間にも相手が起きる可能性はあり今すぐにでも脱出したい気分ではあり。昨日はずっと足を拘束されたせいで一人になる機会はあってもどうすることも出来なかったが今は自由。とはいえ気掛かりが1つ。相手はどういう方法を使ったのかは知らないが自分の家族のことや家庭環境のことを知っていた。もし住所まで特定しているとしたら実家に戻ったとして相手が家族と接触したら。体面は取り繕っている両親は相手の弁護士という肩書きにあっさり丸めこまれるだろう。その上で何かしらの理由をつけ自分が必要だと言われれば喜んで差し出されることは目にみえ。)
……ん…は…(いよいよ本格的に眠りに入ってしまえば、彼が腕から抜けたことも脱出をしようとしていることも気付かない。夢を見ているせいで寝苦しそうに、何度も体勢を変える。今までこんなに寝苦しいことは無く、いつも快眠だった自分には苦痛でしかない。夢の中では相変わらず彼によって苦しめられていて。とっくに彼の姿は見えないのに何度も名を叫ぶ。やがて喉が枯れ、叫ぶことすらできない。自分の肩を抱き、その場に震えながら蹲る。そんな孤独で惨めな夢。こういう悪夢を見ている時に限って、中々醒めてくれない。夢だと自覚しているのに醒めないとはどういうことだろう。この夢に感情移入し過ぎているからだろうか。自分は彼が居なくなるのを恐れている。だから夢ごときに振り回されるのだ。やはりあの時手に掛けるべきだった。気分で生かしておくべきじゃない。でも今更手に掛けることは出来ない。出会って2日程度しか経っていないのに、こんなにも心を乱されるとは。そんなことを考えていると、段々と眠りが浅くなってきて)
頼むから寝ててくれよ…えーっと、どっちだ…?(相手が寝ているのを再度確認してから音を立てないようにそっと扉を開け。しかし思っていたより広いのかどっちに行けば出入り口に行けるのか。部屋数が少なければボストンバッグのある部屋も探そうかと思っていたがとても前室探している暇はなさそうで時間が絶つにつれ焦りだけが募り。逃げれるチャンスと魘されている相手。気の毒には思うがどちらを優先するかなんて決まりきっていて。相手の様子が気にはなりながらもそろりと部屋を出る。ボストンバッグがないかは両隣の部屋を調べてなければ諦めようと覚悟を決め。苦しそうには見えたが結局、相手が発した寝言は「行かないで」の一言のみで。口を動かしてはいた気はするが口から言葉が紡がれることはなく。体調が悪いと悪夢を見やすいというが人を殺すことすら快楽と捉えてしまう相手が怖がるような夢、ましてやその悪夢に自分が関わっているなんて思いもよらず。先ずは右隣の部屋を音を出来るだけ立てないように開け足を踏み入れるもボストンバッグは見当たらず。次は左隣の部屋に向かい同じように足を踏み入れボストンバッグを探し。)
……ん…(数分後、ぱっと目を開ける。時計をチラと確認しそれなりに長い時間眠っていたことが分かる。中途半端に睡眠を取ったため、頭がぼうっとしている。ぼうっとした頭を覚まそうとゆるゆると上体を起こし、冷蔵庫へ向かう。この時点でまだ彼が逃げ出したことは気付いていない。冷蔵庫を開けミネラルウォーターを取り出すと、コップに移すのも億劫なのでラッパ飲みする。何度か回数を分けて飲んでいると、冷たいおかげで頭が徐々に冴えてくる。そしてハッと気が付いた。彼はどこだ--自分が抱き締めていたはずの彼の姿がどこにも見当たらない。不覚だった。彼の入眠を確認してから、眠るのだった。なぜそんなことにも思い当たらなかったのか。様々な感情が奔流のように溢れ出す。リビングを出て2階へ上がり、寝室へ向かう。彼がソファではなくベッドで眠っているという希望的観測を抱いたが、寝室に彼の姿はなかった。2階の部屋を順番に開けるも、どこにも彼の姿ない。1階か。弾かれたような勢いで階段を降りる)
ここにもない、か。諦めるしか…ん?まさか…。(一通り見たがボストンバッグは見付からず諦めて部屋を出ようとした時に聞こえた微かな扉の開閉音と近づくいてくる階段を降りる足音。ボストンバッグを探すのに集中していたため、今まで気づかず。まさかこんなに早く目が覚めるとは想定外で。急いで部屋を出たところで鉢合わせてはヤバい。まだ出入り口の場所もわかっていないのだから上手いこと鉢合わせずに抜け出せたとしてもここは相手の家。どこにあるかわからないものを探している内に見付かるかも知れず。かといって足音は段々と近付いてくるため、ここにこのままいては見付かり。どうしたものかと部屋を見渡すも役に立ちそうなものは目の届く範囲にはなく。そんな中、目に入ったのはクローゼット。一旦、ここでやり過ごすしかないとなるべく物音を立てないようにクローゼットに入り出来るだけ見付からないようにクローゼットの中にある荷物の奥に身を潜め。一時的にもやり過ごせれば何とか言い訳して相手の元に戻ろうと考え。勿論、脱出を諦めた訳ではなく今回は断念するというだけで。)
どこに……どこに行った…(まずリビングを出て右隣にある部屋を探す。細かな所まで目を遣り、彼の痕跡がないと分かると、左隣の部屋に入る。こちらも細かな所まで目を遣り、部屋から出ようとするが、ふとクローゼットの存在が気になった。映画やドラマではあるまいし、こんな所に隠れる人間は居ないと思っていた。でも今は違う。明確に人の気配を感じる。はぁとため息を吐き、クローゼットを勢い良く開ける。何も異変は感じられなかった。気のせいか、と思ったが荷物の位置に若干のズレが生じている。普段なら見過ごすか、気のせいかと納得するが、今日は違う。自分は彼の行方を探しているので、僅かな異変でも検証しなければ気が済まなくなっている。荷物に手を掛け、クローゼットから放り出す)……こんな所で、隠れんぼですか?(果たしてそこには彼がいた。人間の直感とは恐ろしいものだと思ったが、彼の姿を見るなり安堵と怒りと様々な感情が沸き上がる。溢れ出そうな感情を抑えたまま、声を掛ける。いつもの微笑みではなく、目当ての獲物を見つけた獣のように目をギラギラとさせ「お仕置が必要ですね」と呟き)
(/ 蒼くんに対してはどんなお仕置がいいでしょうかね。要望ありましたら遠慮なく!)
(相手の足音がすぐそこまで響いているのを感じ。隠れる場所がここしかなく。咄嗟に隠れてしまったがそれをすぐに後悔し。暗くて狭いところ、それは自分にとって小さい頃のトラウマを思い起こさせるもので。昔、まだ本当の両親が離婚をしていない頃。近所に空き家がありそこは子供たちには格好の遊び場で。自分も例にれずそこで遊んでいることが多かった。しかしある日、空き家の中に落とし物をして取りに戻った際、放置されていたことで老朽化していた床が抜けたことがあり。高さはあまりなかっため、大怪我には至らなかったが足を挫き更に抜けた床の残骸やらで幼い自分ではどうにも出来なく。日も暮れてきて光も届かない、回りは残骸で思うように動けない。結局、帰りが遅いのを心配した両親が一緒に遊んでいた友人の証言で探しに来てくれて事なきを得たが。)え…あっ…違っ…。(トラウマを思い出しかけていたところでクローゼットが開き荷物を退かされると踞った状態で身体を震わせ。相手に見付かった恐怖とトラウマの恐怖、それと暗闇から解放された安堵で感情がごちゃ混ぜになり何とも言えない表情を浮かべ。やり過ごせた訳ではないがやり過ごせた際の言い訳も頭からすっかり飛んでしまい何かを言おうとするも言葉にならず。)
(/蒼はプライド高そうなので首輪とか相手の所有物のような扱い等、肉体より精神にくるほうがお仕置きになるかと。勿論、規約やマナーの範囲内で。)
しかし私の過失でもあります。なので今回はそれなりで許してあげます(散乱した荷物の中にガムテープを見つけた。テープを取り出すと彼の手を後ろ手に回し、拘束する。続いて足首にもテープを巻いておく。もっと厳重に拘束しても良かったが、そもそも自分の不用意が招いた事態なのと、予想以上に震えている彼を見て多少は溜飲が下がった。そのまま立ち去ろうとしたが、どうもまだ不満は霧消しそうにない。ちら、と再び散乱した荷物に目を遣る。すると犬用の首輪があった。以前、より親しみやすい事務所を目指すために犬を飼育しようとして買ったものだ。結局事務員が犬アレルギーだと判明し、買い損となった首輪。首輪を拾い上げて彼と交互に見つめる。ゾクゾクとした感覚が背を伝い、昏い感情が起き上がる)……キミは私のモノです(言うが早いか彼に首輪を取り付ける。人に首輪を付ける行為など、そのテの映像作品でしか見たことがない。好意を寄せていた同僚を拉致し、首輪を付けて監禁した男を弁護したことがあった。しかしその時は人間に首輪を付けて何が愉しいのか、まるで分からなかった。しかし今なら分かる。首輪を付けている彼を見ると、自分の中の支配欲が満たされる気がする。自分はDVなどはしないが、この程度の行為だったら許容範囲だろうか。尤も、彼がどう思うかは別として)
(/了解です)
なっ…おい…。はぁー…。…え、それって…首輪?(相手の傍から離れ部屋を出たこと、そして隠れるようにしていたのを見付かったことで予想はしていたがやはり元の拘束状態に戻されてしまい溜め息を付くしかなく。やはりよくも知りもしない相手の家でボストンバッグを探そうとしたことが間違いで。ボストンバッグなど早く諦めて家から出ることを優先すれば良かったと後悔するも後の祭りで。立ち去ろうとした相手が足を止めたのを不思議に思い相手の行動を何気なく目で追っていれば相手がテニしたのは首輪で。何でこんなところに、昔に飼っていたペットの形見か、なんて疑問を抱くも何故、今そんなものを手に取ったのかわからず。かと思えば自分の首元に伸びてきた相手の手。何をされるのだろう、殴られるのか、と思わず目を閉じて身構えるも訪れたのは首への違和感で。)…は?何言って…俺はモノじゃ…。(相手の手が首元から離れて反論しようとするも首元の違和感が気になり。手が拘束されているため、触れて確認する事も出来ないが今の流れからして自分の首に付けられたのは間違いなく先程、相手が手にしていた首輪で。人間に首輪を付ける。たまに漫画やアニメ等、ホラーやサイコパスのテイストがあるものでは見たことがない訳ではないがまさか現実で、しかも自分の身に起こるとは思わず。普通のペット用の首輪なら手が自由ならば取り外し可能かも知れないが後ろ手に拘束されてはそれも叶わず。)
いいえ。キミは私の所有物。ふふ…所有物たるキミには実によく似合いますよ(首輪を付けられ困惑する彼を見て満足そうに微笑む。手足を拘束され、首輪を付けられる。更にはその行為に困惑し、抗議する。そんな彼の姿は更に自分の支配欲を刺激する。他人を自分の支配下に置く、あるいは自分の好きにできる状態にするということは、こんなにも愉快なものなのか。それとも対象が彼だからそう感じるのだろうか。先程まで自らの意思で行動していたが、今は自分のモノになっている。そんな可哀想な彼が愛おしく思い、手を伸ばして彼の頭を優しく撫でる。ただ撫でるのではなく、首元や背中まで手を伸ばす。まるで犬を撫でるかのように)私から逃れたいなどという愚かなことをしたキミは、今日一日その状態で過ごしてもらいます。それからキミはモノですので、私が話し掛けるまでは一言も喋らないで下さい。モノなんですから、そんなこと当たり前にできますよねえ?(彼を撫でながら徹底してモノ扱いする。表情は微笑んでいるが、口調がどうしても厳しくなってしまう。自分から逃れようとした。その事実だけで十分に腹が立っている。自分に非が無ければ、もっとこれ以上のことをしていただろう)
馬鹿にしてんだろ。似合っても嬉しくねーよ…。(口の悪さは健在だが心なしか勢いは弱くなったようで。首輪が似合うなんて言われても喜ぶ訳がなく。相手の所有物とはペット的な意味合いなのかそれとも本当にモノとしてしか見ていないのか。ペット的扱いなら拘束はされない気もするが脱出しようとしている前科があるため、警戒されるのは仕方なく。相手の満足そうな表情は自分を見つけられたことによるものなのか首輪を着けたことによるものなのか。所有物の意味を聞くのも相手の表情の意味を聞くのも恐ろしく。頭を撫でられるのには小さく肩を竦めただけに留めたが首元に下ろされた瞬間、ぞわりと悪寒のようなものが走り。)は?そんなの受け入れる訳ないだろ。(この状態とは拘束された状態だろう。それは想定内で。だがこの場所で、と言われないということはまた狭い暗闇に1人残される訳ではないのだろう。表には出ないが心のどこかで安堵して。しかし相手の条件は受け入れがたく。)
…聞こえませんでした? キミはモノです。モノは意思を持ちません。キミは受け入れ無ければなりません。これはほんの軽いお仕置なのですから我慢して下さい(悪口の勢いが弱まって少し安堵していた矢先、受け入れられないと言う言葉が聞こえれば溜息を一つ。首輪を掴んで、ぐっとこちらへ寄せれば呆れたような目をして言う。なぜ同じことを二度も言わせるのだろう。ただでさえ苛立っているのに。彼の首輪は非常によく似合っている。彼はバカにされたと感じているようだが。自分は心から思っている。首輪がよく似合っているからこそ、大人しくモノ扱いされれば良いのに。一日我慢すれば、自分はそれで終わりにするつもりなのに。思春期男子というのは、こんなにも聞き分けが無いのか。自分は反抗期も特に無かったため、他人の言うことを聞かない彼が心底不思議でならず)
だから受け入れられる訳…ぐっ…!?…ってぇ…。(相手の溜め息に溜め息を溜め息を付きたいのはこちらのほうだと言いたくなるのをぐっと堪え。首輪を掴んで引き寄せられれば小さな呻き声を漏らしその際、首輪に少し首筋が擦れピリッとした痛みが走り。モノとして扱われることをすんなり受け入れるなんてその方が自分としてはどうかしていて。それを受け入れて終えば生かしたまま壊される、つまり心は死んでいるようなもので。脱出しようとしていたのだから拘束は想定内。しかし首輪なんてあるとすら思っていなかったので首輪を嵌められたことは想定外で。モノ扱いされる為の首輪が似合っているというのは自分の人間性を否定されている気がして。ただそれは実家にいても同じで。だからこそ反抗したくなる。家族の元を離れたことさえ否定されているようで。)
…あまりDVじみたことをするのは遺憾ですが…言うことを聞いてくれないので仕方ないですね(忠告をしても尚自ら言葉を発し、仕置きを受け入れようとしない彼を見てゆっくりと首を横に振る。テープを再び持つと、彼の口に何枚か貼り付け、口を塞いでしまう。喋ろうとするのなら喋れなくしてしまえばいい。これで意思の疎通はほぼ出来なくなった。本来なら視界も塞いでしまいたいが、そこまでするつもりは無い。取り敢えず四肢が拘束されていれば、それで良い)この部屋は本来は応接室として使っていました。ですが弁護士事務所は離れに移管しましたので、今はご覧の通り物置部屋として機能しています。モノは物置に閉まっておかなくてはなりません。特に大きなものはクローゼットに(暫く放っておけば大人しくなるだろうと思い、この部屋で、クローゼットの中で過ごすように言う。もちろん彼のトラウマのことなど知る由もなく。彼に向けているはキミが悪いんですよと彼の非を責めるような冷たい目をしていて)
何するつも…んんっ…!(ろくに動かない状態ながらも後退るが大した距離稼ぎにもならずあっさりと口を封じられてしまい。鼻まで覆われている訳ではないので息は出来るが四肢を拘束しれ口まで閉じられては自分の出来ることなんてもぞもぞと身体を捩るくらいか相手を恨めしく睨むくらいで大した抵抗にも名ならず。声にならない声をあげるも当然、それが相手に伝わるはずもなく。足や腕をもぞもぞと動かして見ても解ける気配は一向になく。)んーっ!…んんんっ…。(反論したいのに出るのは潜もった声ばかりで。事務所を移管したことも相手の冷たい目も今は然程、問題ではなく。この部屋で過ごす。それは問題ない。だがそれがクローゼットの中だとなるとまた別で。自分から隠れただけでも思い起こしてしまったトラウマ、一晩もいればまともにいられるか危うく。)
これでキミが良い子になってくれる子を願っていますよ。では、また(必死で声を出そうとする彼の姿にぞくりとした感覚を覚えるも、頬を一撫でしてクローゼットを閉める。あれ以上彼の姿を見ていたら、きっともっとエスカレートしていたに違いない。彼の様子を見て何となく察する。きっとあの中が苦手なのだろう。だがそんなことは関係ない。苦手なら苦手で構わない。そちらの方が仕置きになる。クローゼットを閉めるとさっさと部屋を出て行く。離れへ向かい、溜まった仕事を持ってリビングで作業をする。何かしていなければ彼のことを思い出してしまいそうで。彼のことを思えば、再びぞくりとして感覚に包まれ、彼を更に甚振ってしまうかもしれない。だから書類仕事で気を紛らわせようとする。最初は彼のことが気掛かりで、何度も顔を上げて彼が監禁されている部屋の方を見ていた。しかし次第に意識が仕事へと移って行くと、彼を監禁していること自体が朧気となってくる。そんな調子で仕事を片付けていき、全て終わった時には既に20時近くなっていて。一旦様子を見に行こうかと席を立ち、クローゼットに手を掛ける)
んんっ…んっ…!(動ける範囲で動いても体力を消耗するだけで。暗い狭い場所。少しの間は大丈夫でも徐々にトラウマな蘇り。膝を抱えて踞ってしまいたいが腕を拘束されているせいで膝を抱えることも震える身体を抱き締めて抑えることも出来ず。いつまでここに閉じ込められるのか。数時間、数日、或いはもっと。いや、数日以上ということはないと頭を振り。殺す気がないと言っていた限り食事を取らせず餓死させるなんてことは考えられず。1日くらいならば食事を取らなくても死なないため、数日間という可能性はありえる。しかし数日間もトラウマを思い起こさせるこの場所に閉じ込めれるとなると出る頃には正気でいられるかどうか自信がなく。数分が数時間にも感じられ身体の震えを抑える術もなく。こんな時に思い出すのはかつての父親で。離婚する前は自分は母親より父親に懐いていた気がする。そして父親も自分をとても大切にしてくれていて。空き家に閉じ込められた時も助けに来てくれたのは父親で。離婚した際に実家が近いという理由で母親に連れられた。こんな詳細まで相手は知らないだろう。相手の情報は今の家庭環境についてのことが主だったらしくあまり昔の話は持ち出されず。外から聞こえた物音に顔を上げ。)
気分、どうですか?(クローゼットを開け、彼の姿を認めると、屈んでガムテープをゆっくりと剥がす。震えている彼を見て些かやり過ぎたかもしれないと一瞬だけ反省するも、これに懲りてくれればグッドだ。自分は融和を目指している。そのためには彼に反抗心を持ってもらっては困る。このお仕置がどれ程の効果があるか分からないが、少しずつ牙を削っていければ良い。まずはミリ単位でも大人しくなってくれれば良い。しかし一方で焦れったいのも事実。ではもっと効果的に削るには、より精神的なダメージを与えれば良いのではないか。適度にケアをしてあげれば、精神に深刻な異常をきたすことはないだろう。彼のような健常な人間がダメージを負うもの。やはり自分の遊びを間近で見てもらおうか。彼を大人しくさせながらも、自分のことを分かって貰える。一石二鳥じゃないか。そんな歪んだ考えを思い付くと、口角を少しだけ上げ)
…ぷはっ。この状況で気分良く見えるか…?(ガムテープを剥がされると大きく息をして。勢いはなくまだ震えが治まっていないものの相手に反抗的なのは相変わらずで。しかし精神的に疲労しているのは明らかで。口では反抗的な言葉を投げ付けるも身体を捩ったりすることは特になく。それは疲労からなのか動いても無駄なことを悟ったのか。相手は一体、何を考えているのか。これが猟奇的な殺人鬼であれば逃げた罰として足を切り落とされてもおかしくないかも知れない、なんてドラマか何かで見た光景を思い出し。相手は自分を殺さない、とは言ったが傷付けることはどうなのだろう。まだ傷付けていないだけなのか傷付ける気はないのか。相手にとっては自分が脱出することが一番の不都合だろう。今回は未遂とはいえ暴力は振るわれなかった。首輪をされクローゼットには閉じ込められたが首輪はともかく暗くて狭いところが怖い、なんて相手には伝えていないし知らないだろう。本当は震えているところなんて見せたくないが勝手に震えるものは仕方なく。)
おやおや。随分震えていますね。クローゼットの中が怖かったんですか?(震えている彼を一頻り眺めると、さっと手を伸ばして頭を撫でる。大事なものを触るかのように丁寧に。精神を疲弊させ震える彼の姿は、僅かな罪悪感と突き抜けるようなゾクゾクとして感覚をもたらした。どうして怯えている彼はこんなにも可愛らしいのか。幼い顔立ちをしているからだろうか。自分に反抗しているからだろうか。もっとこういう目に遭わせたい気持ちもあるが、エスカレートして取り返しがつかなくなったら元も子もない。限度を弁えなければ、いずれ彼を完全に壊してしまうだろう)もう20:00ですが、お腹空いてませんか?(ずっと拘束されていて当然水分も取れない状況だったため、健康面を少し不安に思い。空腹でなかったとしても、水分は摂取させなければならない)
違う…別に…クローゼットが、じゃねーよ…。(相手の伸ばされた手に思わず身構え。頭に乗せられた手を恥ずかしいのか怖いのか緩慢な動きで退かし。相手の問いにはフルフルと力なく首を振り。嘘はついていない。ただクローゼット限定でなく暗くて狭いところ全般が駄目だと口にしていないだけで。ここまで震えているのだからトラウマを知らない相手がクローゼットに関して何かがあったと勘繰るのは仕方のないことで。そして何の変哲もないクローゼットで怯えているとなればそう思うのも当然で。元々、相手に怯える様子を見せていれば相手に怯えているという原因もありえたが今もそんな様子はなく。)もうそんな時間…。(今夜もここで過ごすことになるのかと落ち込み。食事について聞かれれば意識していなかった空腹感を感じ。しかし昨日の夕飯は手の拘束を解いてもらえたものの今回はどうなるのか不安が過り。)
ふふ…では暗闇が苦手ということですか? それは少し可哀想なことをしましたね(口調は申し訳なさそうだが、表情は喜色満面で。クローゼットが苦手でないのなら、暗闇が苦手なのかと邪推する。彼の苦手なものが一つ知れて気分は良い。あまりこういうことはしたくないが、自分から逃げようとするのなら、今後も彼の苦手なものは用意するつもりで)何か食べたいものはありますか? ひとまず、リビングへ行きましょう(彼を抱き上げるとリビングへ入り、椅子に座らせる。コップに水を注ぎ、ストローを挿して彼の前に出す。手足の拘束を外すつもりは無いので、拘束されたままでも飲めるようにして。警戒しているとはいえ、自分の隙を突いて逃げ出すかもしれない。今も拘束がきちんと施されているか不安さえ感じる。不安な思いは彼も同じだろうが、彼がいなくなってしまえば自分は永遠に後悔する。そんな気がするので絶対にこの家から逃がす訳には行かない)
特に思ってもねーことを…。顔、笑ってるぞ。(申し訳なさそうな口調とは裏腹に表情は嬉しそうな相手に怪訝な視線を向け。暗闇が苦手であることはバレたが狭いところが苦手なのはバレていないことに小さく安堵する。二つの条件が揃って射なければ苦手ではあっても多少軽減され。かといって今後もお仕置き場所がクローゼットになればバレていなくとも条件は揃ってしまい。)食べたいもの…あまり重くないものなら何でも…。(精神的疲労を抱えているせいか空腹感はあるのにそれ程、食欲は湧かず。取りあえず軽いものを口に入れて休みたい気分で。コップにストローを挿された状態で目の前に差し出されればやはり拘束は解いてもらえないことを確信して。しかしそれならば食事はそうはいかず。手が片手の拘束や前で拘束されているのならスプーンやフォークなどで食べるなんてことも出来るが後ろ手で両手を拘束されているとなるとそれも叶わず。まさか手を使わず犬食いのような真似をする訳にもいかず。)
ふふ…許してください。キミがあまりにも私好みの表情をするので、つい(自分の身に何が起きたかも理解できない表情を見て楽しむ。それが自分が殺人をして得ている快楽だ。獲物に大きな抵抗をされない点でも一石二鳥だ。だが不条理に蹂躙され、不安や苦しみを感じている表情も好きだ。彼がいれば、そんな表情を間近で見られるのでこちらの精神衛生上はとても良い。尤も彼にとっては真逆の感想になるだろうが)ああ、ではサンドイッチなんてどうですか? 丁度クライアントから頂いたものがありますので(立ち上がると棚からサンドイッチの入った紙袋を持ってくる。若い女性を中心に人気になっているブランドのものらしいが、自分には全く分からない。大体、サンドイッチにブランドが存在するのも知らなかった。紙袋を彼の前に置くが、拘束をしていることを思い出した。犬用の首輪をしているとはいえ、犬食いをさせるのも気が引ける。第一、食事のマナーとして不適切なことはしたくない。かと言って拘束は例え一時的にでも今日は外したくない。暫く考えると、徐ろに紙袋からサンドイッチを取り出す。それを彼の口の前まで持って行く。拘束を解かずに彼に食事を与えるには、こうするしかない)
嬉しくねーよ…あんたはどこまでも悪趣味だな…。(相手好みというのはトラウマによって苦しんでる顔を差すのだろうか。それならば本当に悪趣味だとげんなりして。痛みならある程度は我慢出来るが精神的な、しかもトラウマともなれば自分の意志だけではどうにもならず。トラウマ以来、なるべく狭くて暗いところにはいかないように気をつけていた自分にとって今回のことはイレギュラーで。)…は?何、考えてんだよ。あんたは…。(サンドイッチならば具にもよるがそんなに重くはないと納得して。何やら大層な紙袋に入っているが正直、食に頓着や拘りがあるほうではなく。だが大層な紙袋に入っているからには高そうで。弁護士としてのクライアントと聞けば偉い人のイメージで。さっき、前科があるのだから拘束を解きたくないのは当たり前だろう。確かにこのままでは自分では食べられない。だからといって相手に食べさせてもらうのは恥ずかしいのか違和感からなのか抵抗があり。見た目は普通のサンドイッチと大差はない。貰い物ということは怪しいものが入っている可能性も低く。犬食いするよりは相手に食べさせてもらったほうが互いにいいと思っても割り切れず。)
悪趣味ですかぁ。私としては純粋な趣味だと思ってますがね(彼は悪趣味だと感じても自分にしてみれば普通の趣味の範疇だ。ただあくまで主観的で、客観的に見れば彼の言う通り悪趣味だということは理解している。自分が世間一般の人間から切り離される存在ということも理解している。ただ趣味を共有できる人間が極端に少ないのが残念でならない。せめて彼にそれを理解して欲しい--そう願うのは傲慢だろうか)キミの拘束は解きたくない。でも食事は与えたい。そう考えれば自然とこういう形に落ち着くでしょう? ほら、私の腕も疲れてしまいますから食べて下さい(意外そうに少し目を丸くする。彼のことだから割り切って食べるものと思ったが、意外にも抵抗があるようで。やはり同性の自分に食べさせて貰うのには嫌悪するのだろうか。段々と伸ばした腕が疲れて来るから、と体の良いことを言って彼に食べさせようとする)
…あんた、純粋って言葉の意味、知ってるか…?(普通でないのはわかっていたがここまでとは思わず。最も相手が本当にその趣味を純粋と思っているかどうかは分からず。自分は基本、相手が嫌いな人間であればあるほど関わろうとしないので嫌いな相手がどうなろうと知ったことではないし好意的な人ならば大事にしたい。なので好き嫌いもなく殺人という人を傷付けることが趣味という相手が殊更信じられず。)手を前にするとか…それなら拘束されてても自分で食えるし…。(本来なら拘束を解いてほしいところだが今、はっきりと解きたくないと言われた以上、それは期待出来ず。昨日は解かれて食事が出来たから尚更、抵抗があるようで。そもそも幼い頃は分からないが家族にそんな風に接されたこともないため、正解がわからず。)
ええ、もちろん。私の主観では純粋な趣味ですよ。客観的に見たらキミの言う通り悪趣味でしょうけど。ねぇ蒼クン? 人を殺めることはどうしていけないのでしょうね?(まるで怪物を見るような目で問う彼に、屈託のない笑みを向ける。ふと彼の倫理観について興味が湧き、到底弁護士とは思えない質問をする。元より人間が幸福追求の為なら法を犯すことはやむ無しと考えているため、違法なことをしているという罪悪感は一欠片のない)それは出来ませんよ。前手の拘束はリスクがありますからね。ほら、あーん(尚も拒否する彼にサンドイッチを更に近付け、食べさせようとする。前手に拘束すると、他の拘束を解こうと思えば解けてしまうので、後ろ手以外は考えられない。それにしてもそんなに戸惑う状況なのだろうか。同性の自分よりも異性に食べさせて欲しいのか。こういうことをされたことがないから戸惑っているのか。彼も戸惑っているだろうが、自分も高校生の考えることは分からないので戸惑っている)
何で?倫理観の問題だろ。モラルとか常識とかマナーとか…そういった枠に当てはまらないから。(自分だって世間一般がいう普通の生活からは掛け離れているのだろう。親が小言が多くても過干渉でも無関心のほうがずっと少数派で。悪趣味という自覚はあるらしい相手に内心、意外に思い。そういった感情はないものだと思い込んでいて。所詮は世間一般が作った枠に当てはまっているかどうかで。)前も後ろも拘束されてるんならどっちもあんまり変わらねーよ…。(拘束されて力の入らない手では足の拘束を外すことも出来ず。とはいえやれることの範囲は確実に増えるし動きやすくなるのは自分でも理解していて。もしかしたら、と微かな希望をを抱いた願望にも似たような提案は当然、却下され。食べることを促されるようにサンドイッチを更に口許に近付けられれば暫し逡巡した後、観念したように渋々といった様子で口を軽く開き。)
やはりキミも倫理だと思いますか。では、もしも人を殺すことで幸せになれるのならどうです? 親から虐待を受けていた子が、クラスメイトから虐められていた子が、その苦しみから逃れる為に人を殺す。こういう仕事をしているとよくあるケースですが(敢えて他人の例を上げて再度質問する。自分は何の抑圧も苦しみも受けていないので、この例には当てはまらない。よくあるケースと言ったが本当はあってはならないのだろう。だが生来の異常性と、犯罪が目の前に存在する法曹の世界に身を置いているため、同情はあれど悲しさはない。むしろ抑圧から解放され、彼らが殺人に目覚めて欲しいとさえ思っている)美味しいですか?(口を開きサンドイッチを食べる彼の姿は、ハムスターを連想させた。美味しそうに食べている訳でもない、大して頬張っている訳でもない。なのに彼が食事をしている姿は可愛らしい小動物に思えるのだ。幼い顔立ちがそうさせるのだろうか。ふっと小さく笑うと、愛おしそうに見つめる)
…殺した時点でその先、幸せになれるとは思えない。殺したその瞬間だけはすっきりするかもな。でもよくあることだとしても同じことをするつもりはねーよ。殺したい欲求がある訳でもねーし。(普通の人間ならば相手を殺した罪悪感や耐え難い重圧に潰されてしまう、というのはよく聞く話で。相手のように快楽目的で殺人を犯している人間は別かも知れないが。家族は嫌いだ。だけど常日頃か離れて暮らしたいとは思っていても殺したいと思ったことはなく。殺したところで自分が罪悪感や重圧に耐えきれず潰されてしまう可能性は多いにあり。そんな十字架を背負ってまで殺す意味は自分にはわからず。)まぁ…不味いことはないけど…普通にサンドイッチだな、としか…。(正直、食にあまり拘りがない自分としては食べたのが高級なサンドイッチだとしても味の違いなんてわからず。品物として売っている以上、不味いということはないだろうが特別おいしいのかと言われるとそこはわからない、としか答えようがなく。相手に見られながら食事をしているのがどうにも落ち着かず視線を反らすように飲み物を飲み。)
なるほど。キミ達はそう思っているから、私と違って人を殺そうと思わないのですね。でも覚えておいてください。殺人という大きな行為は、大抵小さいきっかけで起きるものなのですよ(キミ達、と複数形を使ったのは自分と区別するためだ。きっと彼も異常者と健常者の間には明確な壁があると思っているのだろう。だが自分からすれば彼と自分には壁などない。彼も自分と同じになり得る。直接的に言うと反感を持たれそうなので間接的にそれとなく告げる)同感です。私も一つ食べてみましたが、普通のサンドイッチです。ブランドものと言われてもピンと来ませんでした(彼同様、自分も食事に拘りはない。自分が料理が絶望的にできないことと、必要なエネルギーを摂取する行為に過ぎないと思っているからだろう。会食などで高級な料理を口にしてきたが、イマイチピンと来なかった。美味しいが、それ以上でも以下でもない。彼と感想が合ったことが嬉しいのか、少しだけ声が高くなる)
小さかろうと大きかろうと結局はそいつの人間性だろ。無差別殺人なんて理由なく人を殺す奴もいる時代だからな。殺された方はいい迷惑だけと。(無差別殺人をやる人間にもきっかけはあるのかも知れないが自分と同じような境遇に置かれた人間だって立派に育っている人間はいて。寧ろ何の問題もないと思っていた人間が殺人を犯すこともあり。弁護士という立場ながら殺人を犯す相手も後者なのでは、と思い。結局、殺す殺さないを決めるのは本人の意思で。)まぁ食べる人が食べればわかるんだろうけど…俺が食べてもなぁ…。(自分も簡単なものは出来るが得意でも好きでもなく。高校には購買も学食もありお弁当がなくても特に困ることはなく。妹だけお弁当を作ってもらえる、なんてことはなく自分も妹ももらっているお小遣いでやりくりしていて。妹はまだ中学生なのでお昼は給食だが。私立ならお弁当の学校もあるかも知れないが普通の生活ができるとはいえ裕福ではなく。環境は決して普通ではないが。)
キミは徹底して人間性を信じるんですね。んふふ…そういう所、可愛くて好きですよ(嫌味でも皮肉でもなく心から思う。口元に手を当ててクスクスと笑う。自分は人間性とは胡乱なものだと思っている。職業柄、人間性と呼ばれるものがただのハリボテだったことを何度も見てきた。それに自らがどんな人間なのか、それすらも理解できない。人間は自分が思うほど自分のことも他人のことも理解出来ていない。ふと気になった。彼の仮面を剥がした先には、どんな表情があるのだろう)高級品やブランドとはそういうものなのでしょう。私も高級なコーヒー豆より、インスタントの方が美味しいと感じましたし(彼の反応を見ていると、分かる人間だけが分かれば良いというのがブランドものだと改めて感じる。片手でサンドイッチを差し出しながら、もう片手で紙袋からサンドイッチを取り出し、一口食べてみる。何か味が変わったように感じられると思っていたが、全くそんなことは無かった。咀嚼して飲み込むと「やはり分かりませんね」と呟く)
自分も人間だしな。だから俺は殺しはしねーよ。相手を殺して束の間の幸せが得られたとしても。(誰かを殺した後の人生。想像してみたところで相手のいうように警察に捕まらなかったとしても後悔、罪悪感、重圧に悩まされながら怯えて生活する人生しか思い浮かばず。自分が望むのは質素でも慎ましくてもいいから何かに縛られることのない人生で。それを叶えるにはここから抜け出すことが先決なのだが脱出が成功、あるいは相手の気まぐれで解放されたとしても余計なことをせず高校生活を送りながらお金を貯めて余計なことには手を出さずにいるつもりで。)美味いかどうかは好みだろうけど…慣れ親しんだ味のほうが安心するっていうのはあるかもな。サンドイッチも。(決して美味しくないとか嫌いなものが入っているとかそういうことではなく。ただサンドイッチ1つ取っても安くても普段、自分が買っているようなパンやサンドイッチのほうが美味しく感じて。食べさせられているという状況や一緒に食べている相手にもよる、とは口に出さず。何かで読んだ、食事は何を食べるかより誰と食べるか、という言葉は本当なんだと感じ。一切れは食べきったもののそれ以上、食べるきは起こらず。)
実に見事な意思表示ですね…ええ…(今度は少し皮肉っぽく言ってみる。彼に向けた目を昏くしては暫く見つめる。束の間の幸せ。束の間であっても幸せを享受できるのは素晴らしいことでは無いのか。束の間を持続可能なものにしてしまえば問題ない、などと口には出さぬも胸中で幸福論を展開する。彼はきっと罪責に怯える日々が続くと思っているのだろう。自分は殺人で罪悪感を感じたことは殆ど無いので、そんな気持ちこそ理解できない)慣れ親しんだ味ですか。キミにもそういうのはあるのですか?(彼も自分も一切れを食べ終えたので再度サンドイッチを差し出すが、彼は一向に食べようとしない。もう要らないという無言の意思表示を受け取ると、差し出したサンドイッチを自分で食べる。慣れ親しんだ味なんてフレーズが耳に入ると、つい興味本位で尋ねてみる。彼の家庭での食事事情は分からないが、少なくとも痩せ細っている様子はないので、食事は与えられていたのだろう。元より彼に無関心なだけで、肉体的虐待をしていた訳では無いのだろう。それでも家族の一人を空気同然に扱い、一人を寵愛するなど精神的虐待だが)
あんたみたいな好きで人を殺してる人間には理解出来ねーだろうがそれは俺からしても同じだ。(相手が自分の考えを理解出来ていないように言うがそれは逆も同じで。自分も相手の考えは理解できず。殺人が楽しい、なんて自分にとっては未知の感覚な上、今後も得ることがないであろう感情で。自分だって嫌いな人間がいない訳ではないがそれならば関わらなければいいだけのことで。ただこ恐らくこの考え方は家庭環境のせいだろう。妹のほうが好ましいからと自分をいないもののように扱う家族。それなら自分も嫌いな人間はいないものと考え。)…特にはないな。ただ高価なものより庶民的なものが口に合うってだけで。(昔はそれなりに好き嫌いもあった気がするが中学生になる頃には殆んど好き嫌いもなくなり今の環境になってからは作ってもらえるだけマシだと思うしかなかったので選り好みをしている場合ではなく。恐らく今の家族は自分の好きなものも嫌いなものも知らないだろう。相手が無関心だとわかってからは世間話をすることも自分から話しかけることもなく。話すだけ無駄なのならば話さないことを選び。痛みにはある程度慣れているため、暴力で済むならばその方が楽だと思っていた時期もあったが今はもうそんな感覚するなく。)
そうですか。では次の食事からは庶民的なものを選ぶことにしましょう(予想していた通り懐かしい味を聞いても彼は無いと答えた。分かってはいたが少し落胆する。異常者の自分ですら家庭の温かみは知っているのに、健常者であるはずの彼が知らない。何とも皮肉でやりきれなくなる)なるほど。理解できない、ですか。では…キミに見てもらうことにしましょう。私と一緒に来てください(不気味に微笑むと彼を担ぐ。来てくれなんて言葉は柔らかいが、彼の反応を確かめないまま強引に連行する。リビングから車へ移動するとあっという間に彼を助手席に押し込み、車を発進させる。一分と掛からなかった。理解できないというのなら、実際に理解できるようにしてあげなければならない。まだ先の犯行から三日と経っていないが、場所を変えるので大して問題では無いだろう。今日は少し遠出するか。とアクセルを踏み市街地を抜け、郊外に入る)
俺は別にいいけど…食に拘りないって言ってもあんた、庶民的なものとか食ったことあるのか?(食に拘りがないと言っても学生の自分と弁護士の相手では立場が違い。相手はファーストフードやカップ麺等食べたことはあるのかと視線を向け。自分と相手のいう庶民は違う気がしてならず。そう考えてしまうのは常識すら違うからなのか。)見見るって何を…おい、どこ行くんだよ?(急に担ぎ上げられ両手足を拘束されているため、大した抵抗もなく助手席に押し込められ。あれよあれよという間に車に乗り込んだ相手の運転で車は走り出し。どこに行くのか行き先も告げられないまま走る車はどうやら郊外に向かっているようで。時刻はもう夜。こんな時間にこんなところに来てまで相手が自分に見せようとしているものは一体なんなのか。まさかこの先、自分がこんな状況になることになったきっかけの光景をもう一度、見せられることになるなんて思っておらず。)
ふふ、もちろんありますよ。特に私は料理が壊滅的ですし、多忙なこともありますからね。インスタント麺に頼ることが多いですよ。(彼の質問に小さく笑う。弁護士といえども毎日豪勢な食事という訳では無い。多忙であれば食事は栄養よりも速さを優先させる。特に自分は料理ができないので、多忙でなくてもファーストフードやインスタント麺を頼る傾向がある)この先に橋があります。そこに行きます(自分が何を見せられるのかを把握できていない彼に場所だけを伝える。敢えて目的を言わなかったのは、彼が気付いた時の反応が見たかったから。そうやって三十分程度車を走らせ、街灯もろくにないような田園風景広がる道を進むと目当ての橋に着いた。橋の手前の道に入り車を停車させ、エンジンを切る。この橋は飛び降り自殺などが発生し、ネットでは心霊スポットととして取り上げられている。故にその手の趣味を持った者が肝試しに訪れる。おまけに監視カメラも、通る車も滅多にいないため、以前から目を付けていた場所だ。人が来るまでの間に、後部座席に移動して準備を進める。帽子を目深に被り毛髪を落とさないようにする。足跡が残るといけないので、足カバーを嵌める。飛沫が検出されないようにマスクをする。これで完璧だ。不意打ちが成功すれば、自分の痕跡は限りなくゼロに近付く)
今は宅配サービスもあるだろ。金は掛かるけど。(コスト面を考えると毎度、宅配や出前を取るのは学生に取っては厳しいが相手は弁護士。そういったコスト面の心配はないだろう。今や料理が苦手な人でもインスタントや冷凍食品等便利なものが多く。流石に壊滅的と言いつつもインスタントすら出来ないということはなさそうで。)橋?見せたいものって橋なのか?橋なんて見ても…。(橋に向かうという相手に頭の上に疑問符を浮かべ。何か特別な橋でそれを見せたいと言うことなのか、それとも違う目的があるのか、と頭を悩ませ。こんな郊外にある橋が特別なものとは思えず。それを見せたいとはどういうことなのか、と考えている内に車は停車して。顔を上げて見れば確かに橋はあるが何の変哲もない普通の橋で。しかし周囲には人気はなく夜と言うこともあり少し不気味には感じ。気づけば相手は運転席を降りて後部座席に移動しており。何をするのかと見ていれば帽子、足カバー、マスクと見ようによっては不審者のような格好をしていて。いや、相手は殺人鬼。とすれば不審者よりずっと質は悪く。不審者も人を殺すことはあるが相手の場合はそれを目的としていて。それならばまだ変質者くらいのほうがマシな気がして。少なくとも変質者相手ならば命の危険は少なく。その代わりと言ってはなんだが精神的に大きなダメージを追うことには違いないが自分にとっては家族程、精神を削られることはなく。)
宅配は苦手です。時間が掛かる場合がありますので。以前一時間以上待った挙句に、届いた料理が無惨な状態になってました(もっと良質な宅配サービスもあるのだろうが、やはり届く時間が安定しないので苦手だ。それにやはり料理はそのお店で楽しみたい。冷凍食品やインスタント麺ならば一定時間待てば、すぐにでも食べることができる。一分一秒でも惜しい程多忙を極めている時は非常に助かる)キミには引き付け役になってもらいます。人が来たら必死で助けを求めて下さい(ナイフをポケットに仕舞うと、助手席の彼を抱き上げて車から降りる。橋の欄干に彼を寄りかからせる。両手足を拘束された少年が橋にいれば、自ずと注意はそこに向かうだろう。彼を救助しようと駆け寄った人間を後ろから殺める。頭の中でシミュレーションをすると、ゾクゾクっと身を震わせる。彼を放置すると、自分は街灯が当たらない所に行き、闇に身を潜める)
頼んでからの調理だろうからある程度待つのは仕方ないけど…中身がぐちゃぐちゃなのは嫌だな。(待つのは出来ないのだから仕方ないという考えで。ファーストフード、特にハンバーガー等ならば早い可能性はあるが。しかしやっと来た商品を食べようと思ったら中身がぐちゃぐちゃでは空腹にも関わらず食欲は失せそうで。飲食店の商品である以上、見た目も損なわず届けてほしいという気持ちはあり。)は?惹き付け…いや、待っ…。(制止も待たず自分を橋に放置して身を潜める相手に困惑して。今は人の気配はないが人が通れば異様な光景に遠巻きなんなり注目を集めるだろう。しかし上手く行けば協力してもらって逃げ出すことも出来そうで。自分に執着しているかと思えば自分を部屋に一人にしたり眠ったりこんなところに放置したりと逃げる可能性があることを簡単に実行して。一体、相手が自分をどうしたいのかわからず。)
……!(しばらく様子を伺っていると、向こう側から青年が一人で歩いてきた。出で立ちなどを見るにやはり心霊スポットの噂を聞いてやって来たのだろう。周囲は街灯がうっすら点っているとはいえ、手入れが為されていないため、時折点滅する。やはり不気味なことこの上ない。それに心霊スポットとして知られているという事実が、不気味さを加速させる。ゾクゾクとした感覚が背を伝うとポケットからナイフを取り出す。青年は彼に気付くと慌てて駆け寄って何やら会話をしている。何の会話をしているかは興味もないが、恐らく拘束されて放置されている彼が助けを求めようとしているのだろう。拘束を解こうと青年が前屈みになった。今だ。瞬時に判断すると車の影から飛び出し、音を立てないようにゆっくりと青年に近づく。そして後ろから口を塞ぐと、その背中にナイフを突き立てる。深く、鈍い音が心地よく聞こえる。青年のくぐもった叫び声も美しい旋律のように聞こえる。ナイフを抜くと夥しい量の血液が流れる。そのまま青年は彼の足元に倒れる。敢えて心臓の位置は狙わなかったため、青年は絶命できず呻き声を上げながら、這って逃げようとする。その表情や様子を見て胸が高鳴り、息を荒くする)
…!おい、あんた。俺のことはいいから逃げ…!(放置された自分に出来ることはなく。暫くすると足音が聞こえ反射的に顔を上げ。どうやらこちらに向かって歩いてきているのは青年で。通りかがった青年が自分を見付け驚いたように声を掛けてきて。それはそうだろう。自分だって同じ状況ならば声を掛けずに立ち去るなど出来ず。拘束されて橋の上に放置されるなんてどう考えても普通の状況ではなく。だが今の自分はこうして拘束されていても殺されることはない身。しかし目の前の彼は何もしていない、寧ろ自分を助けてくれようとしているのに相手の欲求のために殺されてしまうかも知れず。縄を解いてくれようとした際に相手が近寄ってくるのを見え逃げるように伝えるも既に時遅く。気が付いた時には相手がナイフを突き立てた位置から血が溢れており青年は自分の足元で蹲るように倒れ。止血して病院に連れていけば助かるかも知れない。しかし自分は)拘束されているので青年を介抱することも出来ず。こんな時だというのに刺した本当はこの上なく幸せそうな顔をしていて恐怖と怒りが心の中に込み上げ。しかし青年の呻き声にはっとして。相手はまだ相手を追って殺す気だろう。混乱した顔を見てから殺すのが好きだと言っていたのを思い出し拘束された手足を無理矢理動かし青年を庇うように覆い被さり。これでは青年も動けないが今ここで殺されるよりはマシで。)
(/遅くなり申し訳ありません…!仕事のほうが立て込んでおりまして…!)
(一頻り青年の苦しむ姿を楽しむと、そろそろトドメを刺そうとナイフを振り上げた時だった。彼の身体が急に動き、青年に覆い被さってきた。突然のことに体の動きが止まる。なんだ? この子は何をしている? 常に自分の思う通りの行動を取るにはどうすればいいかを考えて行為に及んでいたが、あまりに想定外のことがあるとどう対処すればいいか分からなくなってしまう)蒼クン…? そこを退いて頂けますか? 私の獲物が刺せないではありませんか(いつもの余裕そうな声色ではなく、困惑と焦りを含んでどこかぎこちなく声で言う。どうしてこの子はこんな行動を取ったのか。一歩間違えれば自分が刺される可能性もあったのに。疑問が奔流のように溢れる。彼にはただ目の前で傍観して欲しかっただけなのに、こんな突拍子もない行動に出るとは思わなかった。早くしなければ青年は出血多量により死亡するだろう。人を殺したという結果には違いないが、この手で直接命を奪いたい。それが自分の幸福に繋がる。だというのに青年を庇った彼に僅かに苛立つ)
(/自分も返信遅いので大丈夫です! 返せる時に返してください!)
(咄嗟に反応してしまった行動に自分も僅かに困惑して。ただ自分がなんとかしなければなんの罪もない相手が死んでしまうということだけは理解して。恐らく時間は稼げたとしてもこの出血では青年は助からないだろう。しかしそもそも自分を助けようとしなければ、もっと早く逃げるように伝えていれば、と後悔の念が押し寄せ。その後悔の罪滅ぼしのつもりなのか、それは自己満足でないのか、と考えるも今の自分にはこれくらいしか出来ず。)…断る。俺が退いたらあんたはこの人を刺すだろ。それをわかって退ける訳ねーだろ。(自分の選択は間違っているのか正解なのか。少なくとも相手の行動を止めることには成功して。このまま我慢が効かず自分を傷付けてまでも青年を殺すのか出血多量で相手が死ぬまでこのままで待つのかは相手次第だが。自分の意思でこの場から動くという気はなく。自分を傷付けないと言っていた相手の言葉が本心なのか気紛れなのかはわからないが自分のせいで無関係の人が死んでしまうくらいなら自分が犠牲になるほうを選び。救うことは出来なかったがせめてこれ以上の痛みは与えたくなく。自分が退くのは相手が青年に何もしないと約束するか青年がこと切れてしまうかのどちらかだと告げ。)
蒼クン。遅かれ早かれその青年は死にます。人間が死亡する程の失血は、意識があるうちは大いなる苦痛を伴います。ですから…トドメを刺してあげた方が彼のためでしょう?(彼を無理やり退かして手に掛けることも一瞬考えたが、彼を傷付けるのは抵抗がある。出来れば傷一つとして付けたくない。だが同時に折角渉猟した獲物をみすみす見殺しにすることもしたくない。自らの手で命を奪ってこそ、幸福感を得られるのだから。失血死に至るまでの時間は失血をしてから20分から30分程度だという。かなり深くまでナイフを刺したので、この場合はもっと短い可能性もある。いつもより早口で、そして苛立ったような声色で彼に言う。お願いだから言うことを聞いて欲しい。ふと殺人鬼相手に迷わず制止に入ったことを考えると、彼は普通の男子高校生とは違うのではないかなどと場違いなことを考える)
…そんな気を遣うくらいなら最初から刺したりしなきゃ良かったんだ…。何で…なんの罪もない人があんたのために殺されなきゃならないんだよ…。(苦しまないためにトドメを。相手の言ってることはわかる。ここがもう少し人通りが多ければ、相手が2人以上できていたなら他の人に救急車を呼んでもらえれば助かったかも知れないと思うとやりきれず。だけど何もわからないまま殺されるのはあまりにも気の毒で。彼が早かれ遅かれ死ぬにしてもこれ以上、青年の体に傷を付けられるのは避けたく。相手の言葉を聞いても青年の上から退く様子は一切なく。相手が痺れを切らせば自分ごと刺される可能性もなくはない。ただ死にたくはないが自分が死んだところで悲しむ人はおらず。青年には悲しむ家族や恋人がいたのかも知れないと思うと更にやるせない。口調は苛立っているものの相手が自分を無理矢理退かそうとする気配はなく。)
何度も言ったでしょう? 私は人を殺すのが好きです。理不尽に命を奪われた表情が好きです。だからこの青年を刺しました(まるでそれが当然であるかのように、何の表情も変えずに言う。今回も今までと同じように殺し、その表情を楽しむつもりだったのに。彼の予想外の行動で全て台無しになってしまった。チラと青年を見ると、もう既に虫の息だった。今刺した所で大して何の反応もせずに絶命するだろう。すっかり興醒めして深くため息を吐くと、血塗れのナイフをポケットへと仕舞う。前に回り込み、青年の表情を伺う。虚ろな目をしていた。自分が望んだ恐怖と困惑に見開かれたこの世で最も美しい表情ではなかった。やはり短い間に殺さねばならないか。再びため息を吐くと、青年の頬に手を添える。耳元に顔を寄せ「痛くしてごめんなさい。来世では幸せになれると良いですね」と呟く。命を奪った相手に謝罪と慰めを贈る。それが殺人をした後に決まってやることだった。自分がやっていることが犯罪であり、許されないものだということは理解している。ただそれは一般論として。自分の中だけの特殊論ではその限りではない。罪悪感はないが、せめて最低限の態度は示すべきだと考えている。傍から見たら掛け値なしの異常者だろうが、主観では自らの良心に従い、幸福を追求しているだけだ)
何度も言ったでしょう? 私は人を殺すのが好きです。理不尽に命を奪われた表情が好きです。だからこの青年を刺しました(まるでそれが当然であるかのように、何の表情も変えずに言う。今回も今までと同じように殺し、その表情を楽しむつもりだったのに。彼の予想外の行動で全て台無しになってしまった。チラと青年を見ると、もう既に虫の息だった。今刺した所で大して何の反応もせずに絶命するだろう。すっかり興醒めして深くため息を吐くと、血塗れのナイフをポケットへと仕舞う。前に回り込み、青年の表情を伺う。虚ろな目をしていた。自分が望んだ恐怖と困惑に見開かれたこの世で最も美しい表情ではなかった。やはり短い間に殺さねばならないか。再びため息を吐くと、青年の頬に手を添える。耳元に顔を寄せ「痛くしてごめんなさい。来世では幸せになれると良いですね」と呟く。命を奪った相手に謝罪と慰めを贈る。それが殺人をした後に決まってやることだった。自分がやっていることが犯罪であり、許されないものだということは理解している。ただそれは一般論として。自分の中だけの特殊論ではその限りではない。罪悪感はないが、せめて最低限の態度は示すべきだと考えている。傍から見たら掛け値なしの異常者だろうが、主観では自らの良心に従い、幸福を追求しているだけだ)
(/背後より失礼します。ちょっと多忙でお返事遅くなりそうです…!早くてもお返事、来週末辺りになりそうですので取り急ぎご報告だけ…。もし長らくお待たせしてしまうことに不満等ございましたらお相手解消して再募集して頂いても大丈夫ですので…!主様にお任せ致します。)
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