匿名さん 2023-03-29 23:07:00 |
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お前が優柔不断だって忘れかけてた。…見るくらいなら別にいいよ。
( 潜めた声音で名を呼ばれ顔を上げれば、視界の隅に少女の姿を捉えて歩み寄って行き。迷っている様子の相手に余計な一言を添えるも、隣に立てば了承するように首を縦に振り。比較的即決型の自身からすれば共感は難しいものの、少女から見るに端から端まで陳列されたぬいぐるみやマスコット達は同等に魅力的に映るのだろう。可愛い、愛らしい、それらの単語がしっくり当て嵌るぬいぐるみ達が、自分を選んでと言わんばかりに瞳を煌めかせており。不慣れな頼まれ事に力不足感は否めず、少しの間を空けて少女に訊ね )
イルゼの中で予算は決まってるの?
デイヴはすぐ決めちゃうもんね。私には即断即決なんてできないなあ。
( いつもながら自身と彼は殆ど反対に位置している。好むものも、性格も、何もかも違う。だからこそ気になると言えばそれまでだが。彼を少し見上げながら値札のひとつを指差し、大体の予算を伝える。マスコットキーホルダーひとつくらいなら負担も少ないはずで、鞄に付けられるなら二人と二匹でお出掛けできる──そんな希望で満ちた瞳は期待で煌めき。選べないなら選んで貰ってそれを参考にしようと考えて、ゆるりと首を傾げて意見を求め )
決まってる!今日は色々回るつもりだから、このくらいの価格で決めたいなって思ってて。お揃いにするならデイヴの意見も聞きたいんだけど、どの子ならお迎えしたい?
人に贈るものなら僕だって時間を要するよ。自分の買い物なら一目でピンと来たものを選ぶけれど。
( 少女の言葉に軽く訂正をするも、実際プレゼントの類いだって少女に比べれば即断即決なのだろう。指を差された値札の値段に了解の旨を添えてひとつ頷き予算を把握して。このまま市街地を巡るとなれば案外丁度いい値段であることを確認し、殆ど意識せずに少女のブロンドの髪色によく似たマスコットに手を伸ばし──かけるも、ハッとしては隣に並んだ黒を基調としたデザインのマスコットを手に取り。居た堪れない心象を噛み締め、再度口を開く。手の平の上で転がったテディベアを立て直し、見やすいよう少女の方へ正面を向かせ )
僕はこの子が良いな。首元のリボンがチェック柄で小洒落てる。
それが凄いんだよ。私はいつもどれにしようーって迷っちゃうから。
( 何もかもが気になって、どれもが魅力的に見えてしまう。そんな揺らいでいる状態のため、彼の心情を察することなどできるはずもなく。彼が選んだマスコットは黒くて格好良いデザインのもの。格好可愛いのが彼によく似ている、だなんて言葉は言わずに留めておいて。それならば己もテディベアにしようと、手を伸ばしたのは隣にあったクリーム色に近い色合いのテディベア。金色にも見える色合いが可愛らしく、首元のリボンが緑のチェック柄なのもお揃いっぽくて好ましい。彼に倣って正面を向かせたテディベアを見せ、満足そうに頷いて )
可愛い!その子もデイヴに選んで貰って喜んでいるよ。私はこの子にしようかな。この子もチェックなの、良くない?
いや、イルゼらしいというか。今日は時間もあるし付き合うよ。
( 双眸を輝かせ商品を眺める様子を見るに、微笑ましさから不意に溢れた言葉は至って飾り気のない本心に違いなく。自身の黒髪に良く似た色合いのマスコットに親近感を覚えながら、少女の腕が商品棚に伸びるのを待つ。──遂に選ばれたテディベアは先程食指を伸ばしかけたもので、少女の手の平に転がったそれに思わず瞠目してしまい。奇遇にも首元のリボンは色違い、自身が選んだテディベアが身につけるリボンは赤色で。満足そうな笑みを湛えた少女に、緩みかけた口元を抑えるよう意識しつつ応じるも、最後らしくもない台詞が口を着き )
そうだといいんだけれどね。うん、イルゼにしては良いセンスじゃないか。本当に揃いだ、一層このテディベアが気に入りそう、……な気がする。
ありがとう、デイヴ!
( 勿論待たせてしまうのは宜しくないことであるが、他の店に移動しても即決できないであろうことは容易く想像がつく。それでもきっと許してくれるはずだと甘える心算でいて。彼の持つテディベアの隣に己のテディベアを並べるようにしてみると、思った通りとても可愛らしい。反対なようでお揃いだと喜んだのも束の間、彼から素直な言葉が紡がれると目を丸くして。彼も嬉しいと思ってくれているのだと思うと更に喜びが沸き上がってきて多幸感で満たされる。とはいえ、茶化すのも指摘するのも何か違う気がする。特に何事もなかったように受け流すことで嬉しさを自身の中に仕舞い込み。スキップでもしたくなるのを抑えつつ、早速とばかりにレジへ向かって会計を済ませて )
うん、きっとお気に入りになるよ。この子たち連れてたくさんお出掛けしよ。
はいはい、どういたしまして。
( 今までの外出や日々の会話で少女が少しばかり優柔不断な性分なことも把握済みであり、互いに気負うことが無いようにさらりと流すだけの返事をして。揃いで選んだテディベアは愛らしく、色味からして自分達の様。但しそんなことを口にする腹積もりは一切なく、口から溢れる前に嚥下するように押し黙り。続いて会計を済ませ、普段より一層機嫌の良い雰囲気を醸す少女の言葉にひとつ頷き。ふと頭を過ぎった何気ない案を添えて、反応を窺う前に雑貨店から出る為に扉を開いた状態で抑え退店を促し )
ああ。せっかく迎え入れたなら、そうしてやりたいものだね。例えば、そうだな──インスタントカメラでもあれば、更に思い出に残せるかもしれない。
( 入店のときも退店のときも、扉を開けてくれる。然り気無い心遣いが嬉しくて、「ありがとう」と一言軽くお礼を告げて。店を出たところでの提案は自身からすると予想外なものであり。本人に直接聞いたわけではなく、ただの偏見とイメージではあるのだが、それを素直にそのまま吐露し。出掛けた記録や思い出が残るのは好ましいもの。早速鞄で揺れるテディベアを指先でつんと押しながら、すぐに肯定の意を示して。写真撮影は専らスマートフォンであり、丁度良いもののある店は見当もつかない。今度は彼に連れていって貰おうと緩く首を傾げて )
インスタントカメラ!良いねえ、持ってないからそれも買いに行かなきゃ。デイヴ、写真とかあんまり好きじゃないのかと思ってた──どこなら買えるんだろ?ねえ、案内してくれる?
( 少女が扉を潜り抜けた後に倣うようにして退店し。途中聞こえた短な礼に首を傾げるも、ワンテンポ遅れて腑に落ちる。一瞬の言動。敢えて掘り起こすのも違う気がしては、大した反応は示さずに店外へ出て。思いの外カメラに対する反応が良いことに瞬くも、恐らくイメージで象られた少女の言葉に首を横に振る。まだ少女と親交が浅かった頃は、よく一人きりで街を出歩いており、その応酬で興味の惹かれる店や場所はまだ真新しく記憶に在る。少女の頼みにひとつ返事で頷くも不穏な単語が度々顔を出す。施設内でもふと覗ける少々の諦観を感じさせる言葉は、殆ど無意識で発話していて。現在地から大凡西側に位置する行先を視線で示し。マスコットを着けた鞄を開き、乾きを訴える喉にペットボトルの水を何口か流し込み、視線をやや下げて然り気無く気を遣い )
人並みだな。別に撮るのも撮られるのも苦手ではない。ほら、生きてた証が遺せるだろう。──店ならよく知ってるから案内なら任せなよ。ここから少し歩くけれど、体調に問題はない?
そっか、それなら良いや──けど、デイヴはこれからも一緒に生きるんだから、もっと思い出を作るの。
( 苦手なのに無理しているわけではないのは良かった。最近はお互い遠慮しなくなっているし、今更無理されても困るのだが。しかしながら、続いた言葉には寂しさと辛さに眉をひそめる。今は出掛けられるくらい好調のためそんなに不安があるわけではない。わざと言っているのでないと理解していても、心が締め付けられる感覚に俯いて。証でなくて思い出なのだと、増えていくものなのだと、強調する。存在証明のためでなく、彼自身が楽しんでくれるのが良いと。何度かこの手の話題は耳にしたことはあったのに、なぜこんなにも熱くなってしまうのだろう。両の拳は震え、声に熱が籠る。こんな心算ではなかったのに。自身の中で彼の存在が大きなものになっていることを自覚すると、深呼吸をして「ごめん」と一言。水筒を取り出して喉を潤すといくらか冷静さを取り戻し。勝手に一人で心配して怒って、幼稚さに羞恥を覚えて上手く目を合わせられず )
うん、任せる。体調は大丈夫だから、行こ。
背後より失礼致します。いつもありがとうございます、交流とても楽しませて頂いております……!今回イルゼが少々怒ったようになってしまいましたが、問題ないでしょうか……?毎度こうなわけではなく、普段は「行きたいところいっぱいあるんだからまだまだ死んじゃだめだよ」「話し相手いなくなっちゃうんだから生きてね」と緩く受け流しているような感じをイメージして頂ければと思います。ここで湿っぽくなるのは解釈違い、という場合は書き直しますので遠慮なく仰ってくださいませ……!
…思い出、…を作る……。
( 瞬間胸元が重くなるような感覚に支配される。本心であることは確かだが、気の緩みから少女の逆鱗を掠めたようで。治療に対し前向きなのは間違いない。ただ改善の見込みにお茶を濁す医師に、処方された薬を服薬すれど濫りに鱗が発現する病に、いつしか思考は諦観が蝕んでおり。一度口から溢れ落ちた発言は取り消せやしないが、せめて場を宥めようと詰まった息を深く吐いて。熱が籠った声で自身を引き留めるような言葉に返す言葉を失いかけ。正直な所、思い出と生きた証の違いの線引きが曖昧な自身には、少女の全てを汲んでやることなど出来やしないのだろう。但し確かに少女と過ごした日々は形に残したい、あわよくば永遠に続けばいい。その一心は触れ合う度に大きくなる本心で。反芻するように呟いた後に目線の合わぬ少女に小さく頷き、現在必要であろうことを伝えて )
ならいいや。…人通りの多い道も使うから、ちゃんとついて来て。
こちらこそ、いつもありがとうございます…!お待たせしてしまう日が近頃多い中、こうして交流を続けてくださり頭が上がらぬばかりです。デイヴ諸共心より楽しんで物語を紡がせて頂いている次第です。イルゼちゃんの反応ですが、解釈違い等はなく展開や描写も含めとても素敵だと思っております!普段の様子も承知致しました。書き直しは一切合切不要ですので、このまま交流が出来ればと…!
( 治療はいつまで続くのか。既に三年続いた奇病との生活は、研究施設にいる今、一人で悩むよりもずっと楽になっていた。服薬や気怠さからは逃れられない。辛くないわけではないけれど、打ち明けられる相手がいるだけで心が軽くなる。奇病の厳しさを共有できるのが救いであり、彼が来たばかりの頃に只管話しかけに行ったのは記憶に新しい。彼の存在が、話をすることが当たり前の日常になっている。だからこそ、もしもこの日々が終わったらと考えるだけで酷く苦しい。ただ己がそんな前向きでないことを口にするべきでないことは理解しているし、口にしたくもない。明言してしまったらきっと我慢ができなくなるだろう。決壊して困らせるのだけは避けたかった。これ以上は言わないと心に決め、彼を見上げて。小さく頷くと、手を差し出してみて )
大丈夫、子どもじゃないんだからはぐれないよ。でも、人多いから手繋いだ方が良いかも。
反応や普段の様子など、問題ないようで安心致しました。ふわふわと楽しい中でも奇病の重苦しさやお互いの信頼感など、デイヴくんの一言をきっかけで描写できているのでとても有り難いです……!また何かありましたらその都度確認やご相談できればと考えておりますので、宜しくお願い致します!特に何もなければ、背後会話への返信は不要です。
子供だよ、お前は。
( こちらを見上げる透き通った緑が、陽の光を反射して宝石のように輝く。一瞬目を奪われるも風が通り過ぎ、数秒後に盛大な溜め息が溢れ落ちて。怒りを顕にしていた少女は切り替えが上手いらしく、自身の“気分を害したかもしれない”という、ちっぽけな懸念など比べ物にならない。目は口ほどに物を言う。誰かが綴ったその台詞は事実らしく、確りとこちらを見詰める緑は強い意志を秘めているようで。普段通り余計な言葉を纏いながらも、一回り程小さな手の平をそっと握り歩み出し。先刻よりも道を行き交う人々が増えたことから、見るに時刻は昼過ぎなのだろう。小柄な彼女の言う通り、繋いだ手は殆ど命綱の役割を果たすようで )
デイヴが大人なんだよ。
( 重苦しい雰囲気は霧散して、すっかりいつも通り。先程までと同じように、ただ今のときを楽しむだけ。余計なことは何も考えずに着いていきながら、辺りへと視線を向ければそこには沢山の人がいる。もし手を繋いでいなかったなら、人波に流され、簡単にはぐれて迷いかねないくらいで。先導する彼の頼もしさに、やはり兄のようだと再認識する。こうして己のことを思いやってくれるのも、受け入れてくれるのも、何もかもが有り難く。憶測で物を語りつつ、決して手は離すことなくゆっくりと歩みを進める。二人の鞄ではテディベアがゆらゆらと揺れていて )
人いっぱいだね。今日なんかあるのかなあ、それともいつもこんな感じ?
当たり前。僕はお前の友人兼保護者として、こうしているんだから。
( 繋いだ手を胸下辺りまで掲げるように持ち上げ、緩々と揺らしては強調して見せ。小生意気且つ淡々とした普段通りの物言いは空気に溶け込み、春の陽気に包まれ綻んでいく。それにしても今日は一段と人通りが多い。少女が疑問に思うのも当然で、視線を巡らせ合点がつけば繋いだ手の先──少女を振り返った瞳は珍しく好奇心に満ちており。殆どの時間を施設内で過ごす身分ゆえに知識は浅いが、施設に入る以前は春を迎えた時期に祭典を行っていた筈だと記憶している。上機嫌な時にだけ呼ぶ愛称を用いて、不器用ながら説得を試みようとして )
イル、向こう側──端から端まで出店が出てる。何かの祭典だと思うんだけれど。…寄ってもいい?
私たち、2歳しか変わんないのに。
( 保護される必要はないとばかりに主張するも、こうして人通りの多い場所で離れないように手を繋ぐのは大人と子どものそれであり。不服そうにぶつぶつと文句を言うも、離されては困るとそれ以上は何も言わず。不意に振り返った彼の瞳がキラキラと輝いていて、まるで少年のようで。きっと何か面白いことがあるのだろうとすぐに察しがついた。そんな中でもあまりに控えめな主張に笑ってしまいながら、当然だと即肯定の意を示す。奇病に罹ってからというもの、外出が減って祭典など殆ど記憶にない。ただし期間限定の催しをスルーする理由など見当たらない。何があるのだろうとすっかり乗り気で )
出店かあ、良いね。勿論、まだ時間はたっぷりあるんだもん。折角だから全部見て行こうよ!
その2歳が大きいんじゃないの。
( その上小柄だから、口が滑って溢れかけた言葉を寸で喉奥に引っ込める。不貞腐れたような言葉を吐く少女に小さく笑うも咳払いで誤魔化し。了承を得たが勝ち。水を得た魚のように、混み合った道を器用に潜り抜け時折少女を振り返って。再度確りと手を握り直し、目指すは出店の並ぶであろう広場で。楽器隊が高らかに鳴らす陽気なファンファーレに背を押され、ついに辿りつき。ざっと広場の様子を見るに、食べ物に限らず生花、手作りやホームメイドの小物達やアクセサリーなど、恐らく少女も楽しめるであろう店があることに安堵して。幾分か歩を緩め、時計塔に視線を投げつつ述べて )
そう言ったからには付き合って貰うよ。と言っても、全て見ていたら日が暮れてしまうからね。門限までになにか掘り出し物と出逢えるといいんだけれど。
デイヴが大人すぎるの。
( 完璧に色々やってのけてしまう彼に、何か苦手なことや弱味はないものか。そんな思考すら幼稚さが滲み出ている気がして、すぐにかき消して表には出さず。先程までとは比べものにならないくらい上機嫌な彼。足取りは軽く、此方を見てくれはするものの逸る気持ちが抑えきれていない。辿り着いた広場は着飾った人々や華やかな出店、陽気な音楽に良い匂い。五感を刺激してくるその光景にテンションが上がらないはずはなく。彼に倣って時計塔に視線向けると、回りたいところを絞ることに。辺りを見回し、見える範囲で候補を指折り数え )
門限破ったら外出禁止!って言われちゃうもんね。お腹すいたら食べ物のところ行っても良いよ。あとは古本屋もありそうな気がする。
自分では年相応だと思うけれど。まあ、普段あんな場所に収容されていたら娯楽は本に偏ってしまうから、頭ばかり歳を食ってしまうかもしれないな。
( 共感できず終いに、半ば首を傾げ独り言ちるように告げ。最も施設内に同年代の患者は現在居らず、比較対象はいないのだが。残念な気がしてならない分、治癒方法が確率していない未知な奇病患者が少ないことに当事者ながら安堵する。少し逸れた思考は一旦頭の片隅に置き、目の前の華やかな世界へ意識を向けて。指折り数える少女の鈴の鳴るような声は、賑やかな周囲と乖離するように鼓膜に届き。門限つきの外出なんて子供のよう──然れど門限までに帰らねば、呆気なく外出許可を取り下げられるだろう。古書の響きに表情に出ずとも嬉々とした雰囲気は隠し通せず頷くも、ひとつ疑問が浮かび上がり声を潜め少女に訊ね )
それじゃあ門限だけは厳守として。…イルゼは服薬している間は普通に食事ができるのかい?
快適と言えば快適だけど、ちょっと窮屈だよね。デイヴ来るまでなんて、ほんとに誰もいなかったからずーっとつまんなくて。来てくれて良かったって思っちゃったもん。
( 医師と看護師に世話をされながら、ただ過ぎていくだけの日々。楽しみなんて何もなくて辛いだけ、なんてときもあった。勿論その中でも楽しみを探す努力はしていたのだが。そのため奇病の患者が来ると聞いて、不謹慎にも喜んでしまった。奇病の仲間が増えるのは、良いことではないはずなのに。へらりと緩い笑みを浮かべつつ、当時の心情を吐露して。行くところをなんとなく決めたら、後は時間の許す限り回れるだけ回ろうか。近くのところから行こうと足を踏み出すも、奇病に関連する会話にぴたりと止まって彼にのみ聞こえるくらいの声量で返答し。同じ味を共有できないのは心苦しいが、己が無理したところで迷惑を掛けるだけ。彼が我慢するのもまた本意ではないと、食べ物の屋台が並ぶ方へと視線向けながら勧め )
普通に食べたらしんどくなっちゃう。生の野菜やフルーツなら大丈夫なんだけど、加工したのは無理──でも、見るのは平気だからデイヴは遠慮しないで食べてね!
僕はお前と仲良くなる気なんて起きなかったけれど。
( 当時のことを思い返しては肩を竦める。奇病が発現してからの環境の変化は著しく早く、厳格で冷徹な父親が施設に自身を投げ入れるまではあっという間だったと記憶しており。奇しくも父親似と自負する自身だからこそ一つの愛の形だと今は理解出来るが、当時は荒んだ心境で奇病の苦しみを共有する相手が居たとしても親交を深めるなんて欠片も思っておらず。結局少女に絆された現在では、幾分か態度も柔らかくなっていて。ゆえに、偶然鉢合わせた祭典すらも全て楽しんで欲しいと願ってしまうのは身勝手だろうか。健気な返答へ了承の意を込めて首肯し、顎に手を添え須臾思考を巡らせた挙句薄い唇を開き )
ああ、分かった。この規模の出店なら新鮮な果物くらい売っていそうだよ。そこも見るとしよう。…僕も久し振りに食べたいし。いい?
今は仲良くしてくれてるから良いの。
( 最初は素っ気なかった彼も今ではお揃いをしてくれるくらい己のことを信用してくれている。厳しい物言いにも優しさが滲み出ているからこそ、それが嬉しくてもっと一緒にいたいと思ってしまう。今更距離を置かれることもないだろう、なんて自信の元、同じ気持ちであると疑う素振りも見せずにさらりと言ってのけ。施設にいたら制限されてしまう事柄も多く、今のような祭典など次いつ巡り合えるかわからない。こくこくと頷いては、早速とばかりに彼の手を引いて近くの出店へと足を進める。食べ物の話をしたからか、目に止まったのは新鮮なフルーツの生ジュースの店で。薬のおかげで少しは共有できるのだと胸が高鳴る。看板と傍に立つのぼりを指差しながら振り返り )
うん。色々見て、食べて、お土産も買って、いっぱい思い出作ろ!──わあ、あれ美味しそう!
…お前ね。
( 恥ずかしげも無く言って退けた少女の平然とした態度に、こちらが擽ったさを覚えて徐ろに顔を背け。他人との距離を詰めるのが苦手──というよりも、必要性を感じないドライな性質が為、正反対な思考を抱く少女へ稀に憧れを持つ。脳内でぐるぐると回る言葉達が喉に詰まり、最早お手上げとばかり続く言葉を見失い。なにせ嬉しく無いと言えば嘘になるのだから。一呼吸置いて落ち着けば、手を引く少女に抗うこと無しに着いて行き。早々に辿り着いた新鮮なフルーツジュースの店を眺め、最初に立ち寄るには丁度いいと振り返った少女に口角上げて頷き。看板に視線滑らせメニュー表を眺めては双眸を細め見定めてはぽつりと溢し )
せっかくだし飲もうか。ん、種類が豊富だな…。
( 同じ言葉が返ってくるのを期待したわけでもないし、怒らせてもいない。ただ照れているだけだろうと推測しては、追い掛けることも問い詰めることもせずにただ幸せそうに笑み溢し。普段飲むことがないのもあり、フルーツジュースのラインナップの多さに目を丸くして。どれを選んでもきっと美味しいはずで、何が良いのかとまた迷う。定番も期間限定も己にとっては物珍しいものであるが、滅多に外出しないのであれば多少豪華でも許されるだろう。否、自分で調整すれば何の問題もないのだが。期間限定の文字に釣られるようにして、数あるうちのひとつを指差し。優柔不断にしては早い決定で、隣の彼へと視線向け )
こんなにあるんだねえ、知らなかった。メロンジュース、良いなあ……デイヴは何が良い?
( ぱ、と花咲くような笑みを背けた視界端に視認しては、純真無垢がゆえの行為に小さく息を吐き漸く正面に向き直り。それにしても種類が豊富なジュースに感嘆の溜め息さえ洩れる。施設内の食事は病院食よりはマシだが、栄養士管理の元最低限のメニューで構成されていたと記憶しており。毎日口にするもの以外の嗜好品めいた飲み物──その上少女と味覚を共有できるというだけでも特別感が湧き、まじまじとメニュー表を眺めて。隣に並ぶ少女のぼやきで期間限定のポップが貼られた箇所に目を留める。沢山の種類の中でも一際目を惹くそれに感嘆しつつも、メニュー表を指差して選んだのは好物である林檎のジュースで。早速注文をしようと少女の手を自ずと引き、人の良さげな店主に声を掛けようと )
普段こんなもの目にすることもないからね。僕は…──そうだな。在り来りだけれど、林檎ジュースにしようかと思ってる。
良いね、林檎ジュース。( 手を引かれると、店主に注文して支払いを済ませ。店主がミキサーを動かすのすら特別に思えて、わくわくしながら出来るのを待ち。その最中、店主に「仲の良い兄妹だね」なんて声を掛けられると、あえて否定せずに「そうなんです」と肯定してよそ行きの笑みを見せる。実際に友人でもあり兄妹でもあるような関係性なのだから、強ち間違いでもなく。やがて目の前に差し出されたジュースを受け取ると、待機列から離れたところで一口飲み。普段飲まないこともあり、新鮮で瑞々しい果汁がとても美味しく感じられ。これだけでももう充分すぎるくらいで、テンション高く身振り手振りで美味しさを表現しようと。ただし語彙力が伴っておらず、子どもが頑張って親に力説しているかのようで )んー、最高!生ジュースって凄いね、めっちゃジューシーだよ。
いつもお世話になっております…!お返事の前に少々ご相談したい事柄があり筆を執りました。募集を掲載されていた際に、家族愛や友愛をメインとされていらっしゃったことは把握済みで、それを踏まえ可能であれば恋愛要素の追加をお願いしたい所存でして…。愛らしいイルゼちゃんとの交流を続けるうちに息子共々惹かれており、お互い奇病で危うい思いをし幾度も結び直した赤い糸…との要素があれば依存が深まるかな、と独り画策しています。
完全にこちら側の我儘ですゆえ、無論お断り頂き、家族愛・友愛をメインに据えてやり取りを続けるルートでも構いません。よろしければ、ご一考してくださると幸いにございます…!
此方こそです、いつもお世話になっております……!私としても、恋愛要素の追加は一案としてありなのかなと思っておりました。ツンデレなデイヴくんが可愛くも格好良くもあり、とても楽しませて頂いております(笑)ただ、イルゼは現時点ではデイヴくんを頼りになるお兄ちゃんとしてしか認識していないため、恋愛関係に至るまでは長い時間を要することになると予測されます。暫くもだもだとして上手くいかない歯痒い状態が続くかと思いますが、それでも宜しければ此方としては歓迎でございます。
また、少し気が早いですが、今は祭典で思いきり楽しい時を過ごしているところですので、この次は何かしらハプニングを起こせたら良いなあ、などと考えております。色々お話しつつ物語を続けていければと思っておりますので、今後とも宜しくお願い致します……!
お褒めの言葉、ありがたく頂戴致します。イルゼちゃんも、ただ可愛らしいだけじゃない魅力溢れる女の子で、とても楽しい時間を過ごさせて貰っております!デイヴ自体自身の感情に蓋をしがちで、ガツガツ責める!などの方針は不向きだと思われます。ただ緩やかで暖かな想いを少しずつイルゼちゃんに与えるような、最悪気付かれない恋愛でも良いかな、と考えおります。一先ずは恋愛要素を追加し、雰囲気や距離感を掴んでから詳細を決めたい所存です。ゆえに時間をかけて構築していく形でも問題ございませんので、物語に沿いながら不器用な恋愛模様にお付き合いして貰えますと幸いです…!
私も類似したことを考えておりまして感動しております(笑)嵐の前の静けさとして、存分に現在を楽しんでおきます。都度ご相談できる関係性で在りたいと思いますので、こちらこそ今後とも宜しくお願い致します!( こちらのレスは蹴って頂いても構いません )
…ふ、そんなにかい?
( 少女の後ろに並んでいたこともあり、暫し遅れて会計を済ませ。片手に林檎ジュースを携え少女の元に辿り着けば、嘸かしメロンジュースがお気に召したのか上機嫌な姿に瞬き。身振り手振りに拙い語彙、健気にも伝えようとしてくれている様子に思わず柔い笑みを溢してしまい。思いの外穏和な声が口をついたことには気付かず、好奇心の赴くまま林檎ジュースを一口飲み。砂糖などの添加物で加工されたジュースとは段違いに美味であり、その瑞々しさに感動さえ憶え。一度首肯すれば共感の旨を伝え。既に列を成し始めた出店を振り返り、目に焼き付けるように店名を記憶する。次回の外出で立ち寄れるように、そして今度は店舗に少女を連れて行けるようにと思いを馳せる。先程よりも道を行き交う人々が増えたことに若干の不安を感じながら提案し )
ああ、新鮮さを売ってるだけあるね。イルゼ、此処で立ち飲みも詰まらないだろう。時間も限られていることだし、他の出店を見て回りながら飲もう。
( 彼が発した砂糖菓子のように甘く優しい声に瞬きをひとつ。祭典の賑やかさがそうさせるのか、声色やら表情やらがいつもより柔らかいように思えて。勿論自身などはずっと場に浮かれて表情が緩みっぱなしのため、最早論外であるのだが。ステージでもあるのか、人が増えてくるのがわかった。たとえ時間があったとて、もしどこも行列ができてしまったら見られる店が限定される。効率良く回るにはどうすればいいだろう、と考えながら辺りを見回し。生ジュースの店は己が来たくて手を引いてきたわけで、それならば次は彼の行きたいところに行こうと。望みであればどこへでも着いていくような心算で尋ね。子どもらしい振る舞いであるものの、人が多いからと言い訳しつつ、至極当然のように手を差し出して )
そうだね!回れるうちに回らないと。次は、うーん……どこが良い?
イルゼ、人の感情には鋭いですが、恋愛はそもそも経験不足で自分の気持ちにもデイヴくんの気持ちにも全然気付かなそうですね……寧ろ攻めるとしたら気持ちに気付いた後のイルゼの方かもしれません。相手の想いに気付かないまま突っ走っていく可能性すらありそうです。背後としては、無自覚光属性の子だと思っているので()
今後についてはまたお出掛け編が終盤に差し掛かった辺りでお話できればと考えておりますので、宜しくお願い致します!
さっき、…勘違いじゃなければなんだけど、向こうに知り合いを見つけたんだ。カメラを扱っている店の店主で年配の方なんだけれど。少し付き合ってくれないかな。
( 至極当然のように差し出された手に視線を落とし、“迷子防止の為”と腑に落ちたのは数秒後。どうやら祭典の華やぎ浮かれた空気に惑わされ、少々頭の回りが遅くなっているようで。ジュースを持ち替えその手を握りながら、応答すべく頭を悩ませつつも口を開き。つい先刻、人混みの合間に見つけた年老いた知人。一人で外出する際に立ち寄ることの多いカメラ屋の店主の姿がそこにあったが、よく確認する前に人波に紛れてしまい密かに惜しい思いをしており。賭けに乗じることになるが、連れ添ってくれるものかと窺うように顔を覗き込み )
運が良ければインスタントカメラくらい買えるかもしれない。…イルゼが良ければ一緒に来て欲しい。
なるほど…!では恋愛感情に蓋をしがちなデイヴも段々と恋慕の気が溢れてしまい、らしくない言動も増やしていこうかなと思います。元の性格は変わらず、冷静で厳しい言葉も吐く子ですが、偶に見せる顔がイルゼちゃんだけに向けられたものだったり…と。イルゼちゃんが勘づくまで、長い気でアタックしてみようかなと考えております。が!こういったアクションが苦手でした場合、仰って頂ければ方向性を変えてみますので遠慮なくお申し付けください!
そして無自覚光属性、イルゼちゃんにぴったりです(笑)
畏まりました!こちらこそ、宜しくお願い致します…!
インスタントカメラ!さっき言ってたもんね。行くに決まってるよ。
( 彼の行きたいところに行きたいのだから、断る理由などないわけで。どこを指定されたとて着いていく心算であったが、実際口をついて出た言葉がカメラに釣られた風になっているのには気付かず。一人では寄ることのない系統の店。彼の知り合いがどんな人なのか、扱っているのがどんな品であるのか。触れてこなかっただけに未知であり、興味が沸いてきて。真っ直ぐ此方に向けられた藍の瞳が透き通っており、きらきらと輝いている。好きな物事に対する期待に似た感情が見えるようで、微笑ましく思い。目的が決まったのなら行動あるのみ。こうしてはいられないと、案内するようにお願いし )
どっちに行ったのかわかる?早くしなきゃ見失っちゃうかもしれないし、急ご!
優しいのは妹のように思ってくれているからだと信じて疑わなそうですし、気付いたら気付いたでびっくりするでしょうね(笑)特に苦手などございませんので、ぜひやりやすいようにして頂ければと思います!
確か西側に──頼むから僕の手を離さないで、イルゼ。
( 快諾を得られ満足気に小さな笑みを湛え、鞄を背負い直す。揺れたテディベアさえ上機嫌に見える程で。問いかけには短に、但し視線で追って正確だと確信出来る方角を伝え。案外身軽がゆえに高揚感で今にでも駆けたいが、今日は別。宝物のように握った少女の手を僅かに力を入れ握り、次いで唇から溢れ落ちた言葉はまるで口説き文句のよう。それに気付かぬまま、人混みの中を掻き分けるようにして進み、時折少心配になれば女を振り返り。小柄な少女が苦しくないか、見間違いじゃないのかと心配事は尽きないが歩みを進めているうちに、比較的空いた場所に辿り着き )
お返事が遅れてしまい申し訳ございません…!想定外に忙しなく、漸く纏まった時間が取れましたので遅れ馳せながらお返事を置いておきます。恋愛のくだりについても把握致しました。またご相談させて頂くと思われますが、何卒宜しくお願いします!
大丈夫、離さないよ。
( 人混みの中でも、確かに握った手のお陰で迷わないし不安もない。一人だと息苦しく思っただろうが、一緒なら心地よさすら感じられる。心配して振り返る彼に対して小さく頷く。ただしまったく問題ないというわけでもなく、空いたところまでくると安堵したのか溜め息を漏らして。まだ目的地までは少しあるが、取り敢えずはピークを過ぎたはずであり。微笑みを浮かべて彼を見るも、歩みを止めることはせずに。探し人が知人でないために近いのか遠いのか定かでないものの、確実に近付いているだろう。きょろきょろと辺り見回し、それらしい店がないかどうかと探して )
デイヴいなかったら押し潰されちゃってたかも。
お忙しい中、返信ありがとうございます……!引き続き、無理せず緩く交流できればと思っておりますので宜しくお願い致します!
…よく着いて来れたね。それだけは褒めてあげるよ。
( 人混みを縫って歩き、華やぐ喧騒から遠退いて。現在地が出店よりも服や骨董品の類いのマーケット風の店が多く構える場所だと気づけば、視認出来る距離に探し人の影を見つけ。重ねて目的地に近いこともあり、安堵の溜め息を吐き後ろを振り返り。殆ど同じタイミングで聴こえた小さな溜め息に、小柄な彼女が自身に着いて歩くのは僅かばかり大変だったと認知し、普段通りの調子は崩さず、己なりに気にかける言葉を紡ぎ。中央通りから逸れたことで人波も収まり、余裕が生まれたことで何処と無く隣人と歩幅を合わせ口を開く。精一杯の心配りは届くだろうか否か。相も変わらず刺々しいと指摘されればそれ迄なのだが、返答を待ちすがら提案をひとつ )
当たり前。僕に感謝してくれても良いけれど、…──押し潰されたお前を見るのは気分が悪いし、少し疲れただろう。目的地ならもう見えてるから、ゆっくり歩いても問題無いよ。
とんでもございません…!こちらこそ、引き続き宜しくお願い致します。一旦背後は引っ込みますが、何かあれば遠慮なくお声掛けください!
こんなに凄いとは思わなかった……ここまでよく迷わずに来れたね。
( 背の高い人や子ども連れなど多くの人に囲まれるのは、それだけでも体力を消耗する。たくさんいるからこそ、好奇の目を向けられないのは助かるが、動きづらいのは難点で。あと少しならば早く目的地まで到達したいという気持ちと、僅かな疲労感を天秤にかける。カメラを購入しで直帰するわけではないため、無理は禁物だと考えて言葉に甘え、少しばかり歩調を緩めることに。余裕ができたことで息がしやすくなり、気分が和らぎ。軽口を叩きながらゆっくり進み )
ぎゅうぎゅう詰めにならないように気を付けなきゃ。のんびりしても探してる人は逃げないよね?
女神様にでも微笑まれたかな。実は僕も驚いてる。
( 戯れ言も案外本物なのかもしれない。見知った人影を見失わぬように開いた眼が、今更春風由来の乾燥で潤み。緩慢な瞬きを幾つかすれば徐ろに水分を帯びた双眸で目的の人物と路上にあるがゆえに少々簡略化された店構えを視認し。兎に角今は少女と逸れず辿り着けたことが何よりの安心感を齎し、繋いだ手に微かに力が籠る。ゆったりした歩幅に合わせ少女の軽口に応じて。陽光を浴び柔い風に触れるブロンドが眩い。もしもインスタントカメラが購入出来たのならば、単なる平穏な日常を切り取りたいと切に願い。歩を進めていれば目的地に到着し、店主の紳士的な装いの老人に声を掛け )
…帰りはマシな道を探そうか。逃げないよ、彼も歳だからね。僕達なんて孫みたいなものだろうし、イルゼに会えたら喜ぶんじゃないかな。──お久しぶりです。
祭典の女神様!無事に帰れますように、あわよくば掘り出し物にも出会えますように……って、さすがに欲張り?
( 晴天で催しに巡り合えたこと、それが既に恵まれているのではないだろうか。更に望むのは我が儘で、でも今日くらいはと願ってしまう。辿り着いた目的地にいたのは人の良さそうな老人。離すタイミングを失った手は店主を前にしても繋いだまま。急いで離すのも何となく違う気がして、気にしないことにして。彼の知人であっても己にとっては初対面。警戒せずとも丁寧に接する必要はあるわけで、軽く頭を下げて挨拶をする。淑女の仮面を被り続けるのは難しく、すぐに隣の彼へと尋ね。興味は店に並んだ商品に向けられているものの、さすがに勝手に触れるようなことはせず見るだけで )
初めまして、こんにちは──ねえデイヴ、どういうのが良いの?
僕がいる限りイルゼは帰れるから、他の願い事に費やして。
( 店主と一言二言交わせば生暖かな視線が繋いだ手に注がれていることに気付き。瞬間込み上げる熱が耳殼を仄かに染め上げ、逃れるように並んだカメラに視線を移して。気付いている筈の少女の平然とした様子が恨めしく、同時に知り合い程度の仲であれど面識のある人物に見守られていることが擽ったい心持ちを抱かざるを得ない。意識をカメラに集中させ、陳列棚の端に三つ程置かれたインスタントカメラを指差し。先ずは説明を、と口を開く間に店主が三つを手にしてこちらに向き直り。何事かと見詰めては、どうやら在庫処分にするから気になるのならば貰ってくれないか、ということらしく。あからさまに動揺の色を隠せぬまま少女を一瞥し )
見えるかい、端にあるのがインスタントカメラで──…いや、僕達に譲るなんて。せめて支払わせてください。
じゃあ掘り出し物が見つかるようにお願いする!何か良いものが見つかりますように。
( ふと視線を移すと、彼の耳朶が僅かながら赤みを帯びており。いつも冷静な彼が照れているのが微笑ましく、楽しくなってしまえば離さずにいようと決め、繋いだ手を軽く揺らしてみて。陳列された目当ての品を見ていたところで、店主の動きを不思議に思い。こういった分野に詳しくない己でも、店主の持つそれらが安物でないことくらい理解できる。不要ならば喜んで受け取るが、譲り受けるのはまた別で。動揺している彼とは対照的に落ち着いた声色で丁重に断り、商品のあった場所の値札を一瞥して財布を取り出し )
あれがインスタントカメラ──同意見です。お気持ちは有り難いですが、タダで譲って貰うだなんて此方の気が済みませんから。
これだけ店が集まってるんだから、お前の願いは叶うよ。
( 繋いだ手がゆらり。ご機嫌な隣人は店主の視線に気付いているのか否か。照れから来たる熱を逃がそうと首元へ空気を入れる為ぱたぱたと扇ぎ。少女が普段見せない大人びた対応に驚愕したのは店主だけではなく、間違いなく自身も同様で。陳列された一眼レフ等のカメラとは価格構成自体が異なる旧型──廃棄寸前の型落ちのインスタントカメラだが、以前店で見た記憶の新しい商品の一つであることは間違いなく。それを譲ろう等と以ての外、歳上の威厳として片手で少女の財布をしまうよう促し、自身の財布を取り出せば、店主は少々悩んだ挙句、「これを譲る代わりに、若い君達の撮った風景を現像させて欲しい」とのこと。店主の昔気質で頑固な人柄が発揮されてしまうと、どうにも引けない状態で )
そうだね、きっと見つかる!うん、そんな気がしてきた。
( 財布を仕舞い、それから店主へと向き直る。しかし、話し合いは平行線。購入させて貰いたい自分たちと譲る心算の店主、どちらも引かないのであればどちらかが折れるしかない。それは変わらずとも、譲る代わりにと付け足された条件に、それならばと好意を受け取ることに決めて。当然支払うべきであろうが、代金以外でも返す方法は幾つもある。このカメラで景色を、一瞬一瞬を切り取り、それを共有する。手土産を持って訪れれば、感謝を伝えることくらいはできるだろう。彼に確認を取ることもせずに店主に考えを伝えると、決定後に彼へと視線を向けて形ばかりの問い掛けを )
じゃあ、これからたくさん写真を撮って──たくさんの思い出を持って、また此処に伺います。それで良いよね?
…僕もいい古本と出逢えそうだ。
( 前向きに物事を捉えられる少女の影響か、全く意識せず溢れた独り言ちは珍しく期待を湛えており。押し問答のような時を経て折れたのはこちら側。少女の年齢不相応なまでの大人びた態度に仰天を隠しきれずにいて。自身が店主との対話を試みる前に解決へと導かれ、こちらを窺い見る透き通った緑に「構わないよ」と首肯しては財布をしまい。大層満足気な店主から受け取ったインスタントカメラのひとつを少女に手渡し、自身の分と余ったカメラを鞄に詰め込めば頭を垂らし改めて礼を述べ。人の良い笑みを浮かべる店主に見送られ他の客人の邪魔にならぬよう端に寄り、今度は自身から手を差し出し )
ありがとうございます。日を改めて必ず二人で店に伺いますので。──イルゼ、行こう。
良いものに出逢えるよ、だって今日は最高の日なんだから!
( 物事は無事に丸く収まり、上手い具合に折り合いをつけることができた。彼に確認を取らずに勝手に進めたことは良くないだろうが、それだってきっと大丈夫。全幅の信頼──というよりは、考えを押し通す我が儘さから来るものかもしれない。受け取ったカメラを嬉々として鞄に仕舞い込み、店主へとお礼を告げる。店を離れると、先程までの大人びた態度は何処へやら、いつもの笑みを浮かべて彼の手を取り。目的の達成が何より嬉しくて、何を見るのか、に加えて何を撮るのかを考えて期待に胸を膨らませ。楽しくて仕方ないとばかりに表情緩ませながら、首を傾げて行き先を問い )
ありがとうございます──うん、行こう!次はどうする?
相変わらずお前は能天気だね。けれど…そうだな、せっかくの外出が祭典と被るなんて偶然は中々ないだろうし、そうであって欲しい。…とは僕も思うよ。
( 最高の日。無駄に含みを持たせる訳でも無く、ただ純粋に発されたであろう言葉に朗らかな人柄が反映されているようで。そんな少女の人徳もあり収束へ導かれた一件に一息吐き、普段通りの少女に仄かに口元に笑みを湛えては尊重すべく口を開き。自分達が施設に戻った後も、祭典は差し詰め三日は続くであろう。また改めて外出希望を届け出るのは問題ないが、日頃施設や病室の行き来ばかりで、満足に同年代と比べ体力が無いことは確か。それならば今日この瞬間を目一杯に楽しんで──そしてカメラに収めて帰りたいのが本音で。疾うに飲み干し、荷物と化した林檎ジュースのプラカップを片手に )
俺の我儘を通して貰ったし、順にするならイルゼが行きたい場所で構わないよ。まあ、一つ意見を出すならゴミを棄てたい所ではあるけれど。
祭典だし、良い天気だし、デイヴとお出掛けできてるし──最高になる要素しかないもん。
( 完璧なまでに揃った条件に、彼の同意。一緒にいる二人が互いにそうであると認識しているのならば、寧ろ良い日にならないことの方が不自然であり、約束されたようなもので。人混みをくぐり抜ける忙しないときのせいで、言われるまで認知されていなかったカップは気付けば邪魔ものになっており。身動きが取れないわけではないが、片手が常に塞がっていることを考えると長居には不向き。取り敢えず話はそれからと、近くにあるゴミ捨て場へと足を進めて。指定の場所に投げ入れては、気を取り直して気になるものを探し。目に止まったのは手作りのアクセサリーが並べられた店で、指を差して示し )
確かに、これずっと持ったままだったし、まずは棄てちゃおっか──ねえ、あそこ見てみたい!
楽しめてるなら何より。
( 恥じることも無く告げられた言葉に瞬きを一つ。少女曰く“最高になる要素”に自身も紛れていることに、僅かな照れ臭さと嬉しさに頬が緩みかけるも、寸で表情筋を稼働させ普段通りを装い。倣うように空のプラカップを指定の場所に捨て、跳ねるような声音にふと顔を上げて。傍らの少女が指差す先へ視線を滑らせれば、どうやら手作りのアクセサリーを販売している露店の模様。現在地から然程遠くないそちらを眺めては、特別嫌厭する理由もないが為一つ返事で了承をして。やはり少女程の年齢の女性は惹かれるものがあるのだろう。繋いだ手を握り直し歩みを進めようと一歩前進し )
構わないよ。ほら、見に行こう。
デイヴも楽しんでるでしょ?わかってるんだよ。
( 顔色ひとつ変えない冷静な彼だが、嫌でないことくらい知っている。少しずつ理解してきているわけで、悪戯っぽい笑みを浮かべて様子を窺って。了承を得られるとアクセサリーの店に歩みを進め。遠くない場所に位置しているためすぐに辿り着いた。同年代の少女やカップルが幾らかいて、混んではいないがそこそこの客数を得ている店で。ブレスレットやネックレス、髪飾りやピアス、イヤリングの類いまで様々な商品があり。普段ならきっとすぐに自分のものを見ていたが、今目に飛び込んできたのは深い青の飾りがついたメンズ向けのシンプルなブレスレットで。そっと持ち上げると、彼の目の前へと掲げてみせ )
これ、デイヴに似合いそう。
背後から失礼致します。環境の変化があり私生活が慌ただしく、この先満足に返事が描けない時間が増えてしまうと思われます。ひたすらお待たせしてしまうのも心苦しく、この二人の物語は中途半端ではありますが、ここで終えさせて頂きたい所存です。イルゼちゃんはとても魅力のある愛らしい子なので、他所でのご使用もこちらと致しましても構いません。
最後になりますが、楽しく心躍るような時間をありがとうございました…!主様が素敵な也ライフを送れますことを心よりお祈り申し上げます。
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