匿名さん 2023-03-24 20:11:47 |
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…っわ、すごい、自分でするのと全然違う!さすがプロのう、で…。
( 鏡に映る華やいだ姿は普段自分でやるメイクとは似ているようで全然違う、自分以上にわたしのことを理解したメイクだった。存分に引き出された魅力に瞳をまあるく、それでいて輝かせながら少し前のめりに鏡に映る自分に夢中になるけれど、その瞳に、目元しかわからないが柔らかな相手の表情が映ればキュンと胸がなって、ある程度言われ慣れているはずの褒め言葉にじんわり頬が熱くなり )
…水瀬さん?
( 心地良い達成感に浸る最中、出来栄えへの感想を失速させた相手に違和感を覚えれば訝しげな視線を送り。見ればチークの赤みがやや強いように感じられ、手直しの必要があるか否かを見極めるようにじっとその顔を凝視して )
え?あれ、すみません…えへ、なんか照れちゃって。
( 名を呼ばれはっとすると目の前の鏡も相手の顔も見ていられず、視線を斜め下にずらしてみるけれど照れからは逃れられるものじゃない。はにかみながら正直に伝えるものの、照れ隠しなのか胸上まで伸びた髪をくしゅっと両手で軽く持ち上げて表情をちょっとだけ隠し )
…え。…あ、すみません。つい。
( 自分の発した言葉の意味合いと彼女の受け取った意味合いの差に気が付いたのは、その心情を吐露された後。世間一般で使われるニュアンスと区別なく使用してしまったことに対する謝辞を述べるも、やはり言葉足らずの応答は果たして相手にどう伝わるだろうか。「次から気を付けます」と反省すると共に流した視線の先には電源を入れておいたヘアアイロン。思いがけず甘酸っぱくなった空気を切り替えるようにそれを手に取ると、一心不乱にストレートアイロンを通し始めて )
ヘアセットまで一気にやっちゃいますね。
あ、いえっ可愛くしてほしいとお願いしたのはこっちなので、うん、ばっちりってことですよね!…メイク、綺麗に仕上げてくださってありがとうございます。
( 謝られてしまえば髪を握っていた手をぱっと離し、左右に慌ただしく振って謝ることではないことを伝えようと。なんなら出来栄えにものすごく感謝したいくらいだ。ちゃんと顔を見て謝礼を述べたいものの次の工程に移りあまり動けないため、鏡に映る相手を見つめて未だはにかみの残る表情で笑みを浮かべて感謝を伝え )
や、それが仕事なんで。
( 礼を言われるようなことは何もしていない、と伝えるべく発した返答は、伝え方の細部にまで気が回らないせいで思いの外にべもなく響き。高熱のヘアアイロンから目を離さなかったために鏡に映る表情も結局認識出来ずじまいで、手際良くヘアセットを終わらせては最後にメイク用ケープを取り外し )
──完成です。
そうですけど、そうなんですけど…っ、!
( あまりにも素直に言葉通りに受け取っては、目を波線のようにしながら両手の人差し指同士をつんつんとくっつけつつなんだかもどかしい気持ちに。そうこうしている間に出来上がったヘアセットも、打ち合わせである程度の想像はできてはいたけれどそれを越える仕上がりにまた瞳をきらめかせ、鏡へ前のめり気味に見つめながら )
髪型もかわいーっ…!仕上がり綺麗すぎる…逆巻さんメイクもヘアセットも天才すぎません?毎回お願いできたらいいのに…っ!
( 漸く目を向けた鏡の中には何やら言いたげな相手の顔。しかしそれはすぐに興奮気味に喜色を帯び、直前のことなど忘れてしまったかのようにころりと表情を変え。同時に飛び出した大袈裟ながらも屈託のない賛辞に満更でもない心地になれば、マスクの上からでも辛うじて感じ取れる程度に相好を崩し、応えるように前向きな姿勢を示して )
俺で良ければ、いつでも呼んでください。
いいんですかっ…!でもこれだけ腕がよかったら逆巻さん、絶対他にもひっぱりだこじゃないですか?
( いつでも、と快諾を得られればぱあっと周りに花が咲いたような笑みをこぼしながら、鏡越しではなく振り向いて相手を見つめ。しかしながら懸念材料は多く、契約料が高そうだとかそもそも依頼する権限は事務所側だしとかいろいろと考えつつも、懸念の一つを少し窺うように小首を傾げながら口にして )
ひっぱりだこってほどでは。実際水瀬さんの所属事務所にもよくお世話になってますし。
( 得意先は数件あれど、自身を随分高く買っているらしい彼女の思い描くような人気とは程遠く。見栄を張るでもなく真率に答えると、緩慢な手付きで道具の後片付けへと動き始め。時計は先方に事前に伝えていた終了時刻を指し、マネージャーが担当アイドルを迎えに来るまでは束の間の暇。営業をかけるような商魂も持ち合わせが無ければ、ドレッサーに浅く腰掛けるように身を預けつつ、仕事を終えて気が抜けたせいかすっかり愛想の抜け落ちた表情と口調に戻って )
じゃあ…っ!またすぐに一緒にお仕事できるかもしれないですね!
( じゃあ、と期待に満ちた声で両手をぱちっと合わせ、ドレッサーに身を預ける相手に嬉々とした表情を向け。こんなにも魅力を引き出すヘアメイクをしてもらえたなら、撮影の成功は約束されたようなものだから。扉の向こうから慌ただしい足音が聞こえてくるとノックの後にマネージャーが顔を出し、振り返ればその出来栄えにマネージャーもまた目を見張りつつも撮影への移動を促す。可愛くしてもらったね、なんて和気藹々とした会話をしつつ、スタジオへ向かおうと椅子から立ち上がっては部屋から出る前に誘うように小首を傾げて )
あ、マネージャー。はい、今行きます!…逆巻さんも一緒に向かいましょう、撮影中もお直しの時の為にいるんですよね?
…すね。その時はよろしくお願いします。
( 実情を知ってターンダウンするどころか一層声を弾ませる相手に引きずられることなく、マイペースに平坦な声で応答すれば見計らったようにメイク室のドアが開き。邪魔にならぬよう後からそっとスタジオへ向かおうとしていたところへ、思わぬ誘いが掛かれば「え」と短く声を洩らす。マネージャーもこの子がそう言うなら、とでも言いたげに此方の準備を待っていて、断る理由も見つからずにワゴンから手直し用のウエストポーチを拾い上げると、二人の後ろをついて歩き )
…はあ。じゃあ、すみません。ご一緒させてもらいます。
わーい、行きましょっ。
( 返答に満足したようににっこりと人懐っこい笑みを浮かべれば、三人仲良く…とまではならなかったけれど揃ってスタジオへと向かう。マネージャーの話を聞くには他のメンバーは個人撮影を終えており残すは自分の個人撮影と集合写真の撮影らしい。しかし少々時間が押している状況のようで、それを聞いて通常ならプレッシャーを感じるところではあるものの不思議と微塵も感じず、むしろやる気に漲った様子で両手をぐっと拳つくって )
…そうなんですか、でもきっと予定通り終わりますよ!逆巻さんのおかげでいい写真になる自信しかないもんっ。
( 前を行く二人の会話を流し聞きながら辿り着いたスタジオでは、様々な立場の大人達が忙しく動き回っていて。どうやら時間が押しているらしいと事情を聞き伝えるマネージャーの側、悠揚迫らぬ態度で傍観者を気取っていれば、唐突に自身の名が話題に上ってぎょっと目を丸く。ちらりと此方に視線を寄越されては、何か言うべきかとメイク室での少女の言葉を借りて )
…ええ、〝ばっちり可愛く〟しておいたんで。
えっへへ…もちろんわたし自身も頑張ります。みなさん撮影よろしくお願いしますっ!……───
( 相手からの太鼓判も貰えたところで、撮影に携わる大人の面々へ向かって深々と頭を下げてから用意されたセットへと立ち、双眸を伏せてひと呼吸。双眸を開けて瞳が真っ直ぐにカメラを捉えた途端からシャッターが切られ始め、軽やかなシャッター音の度に表情やポージングを少しずつ変えながらもカメラマンの指示には的確に応えていく。自身の神経は指先まで張り巡らせながらも、白く、清らかで柔らかな時間がそこには流れ、直前まで少しぴりついていた現場の空気も不思議と徐々に落ち着いて )
( 撮影が始まれば周囲の視線は自然と踊るようにポーズを変える少女へと集まり。メイク室での緊張が嘘のように柔らかな表情を見せる姿は堂々たるもので、スタジオの壁際から感心と共に撮影風景を眺め。その一方で先刻まですぐ近くで化粧水の話をしていた相手とは思えぬ変わりように、改めて別世界の人間との認識を強めて )
( 存分に魅力を引き出してくれたメイクのおかげで緊張することもなく、順調に撮影が進んだ様子で個人撮影を終え。その後のメンバー達との全体撮影の為にセットの調整をするのか僅かではあるけれどお直しを含んだ休憩を貰っては、担当である相手の元へと子犬さながらに駆け寄って。といえどメイク技術のおかげか大きくお直しする箇所もなく )
お直しお願いしますっ!
お疲れ様です。
( 撮影は小休憩に入り、人懐っこく駆け寄ってくるクライアントを飛び出す絵本を見た時のような小さな衝撃と共に迎え入れる。順調に撮影が進行しているおかげか上機嫌に見える彼女の前髪を優しく払うと少し屈み、瞼の上に乗った色彩に焦点を合わせながら見学の感想を零して )
シャドウ、やっぱりこの色にして正解でしたね。
っ…ですね!さっき画像確認したら、馴染んでるのに引き立ってて普段より目が大きく見えて…!
( 先程は鏡越しに見た技術に集中していたけれど、屈んでいることもあって今は正面からほぼ目を合わせたような状態。視線が絡みあうような錯覚にほんのり頬を色付かせてしまいながら、昂る気持ちを表すように両手の拳を胸前でぐっと握りつつメイク技術やセンスを称賛し )
しかし結構撮るんですね、宣材写真って。数枚撮って終わるものかと思ってました。
( 自分から振った話題を軽く受け流しつつ、ウエストポーチから取り出した柔らかなブラシで全顔を優しく撫でる。派手に動くことがないおかげか大きく崩れてはいないものの、やはり時間経過による微細なクオリティの低下は免れず。日常生活であればいざ知らず、高性能のカメラで映されるとなれば念入りに手直しを施して。それから今触れている顔が撮影の間中ずっとクオリティを落とさなかったことを思い出せば、気になったことを率直に尋ね )
ずっと笑顔作ってて疲れたりしないんすか。
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