匿名さん 2023-03-24 20:11:47 |
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!っ…だめ、連絡しないで。…ください。
( 牧さんに連絡してしまえば当然仕事を休まされて今日の仕事に穴が開くことになるし、折角の出演依頼を急遽休むことになれば皆に迷惑が掛かってしまう。咄嗟にペットボトルを持っていない方の熱っぽい手のひらで相手の腕をぎゅっと捉えては、そんなの絶対にだめ、と確固たる意志を持った瞳を向けて。一拍の間見つめてははっと我に返り、熱があると肯定する言動を取ってしまったことに気まずそうにそっと手を離すと少し俯きがちにぽつりぽつりと言葉を紡いで )
…わたしなら大丈夫です。今日乗り切れば明日はオフだからゆっくり休めるし…みんなに迷惑掛けたくないんです。
…でも、
( 手に熱が伝わると同時に切実な瞳に見据えられ、逸らすことも出来ずにただただ真っ直ぐにその奥の強い意志を透かし見る。固く握られていた手を離されてはやや気圧されながらも純度の高い憂患の念が唇から転び出るけれど、続く言葉は無く、判断をつけかねるかのように沈思して )
逆巻さん、時間なくなっちゃう!今日のメイク、汗に強めだと助かります~…お願いできますか?
( その間もヘアメイクの準備時間は少しずつ短くなっていく。こうしてはいられないと顔を上げると、沈黙を破るように明るく振る舞った声で呼び掛けて。普段と違う顔色のせいで多少なりメイクはしづらいだろうなあ、と申し訳ない気持ちはもちろんあるけれど今は相手にお願いするほかない。少しだけ眉尻を垂らしながら、明るく努めるけれど少し儚いような笑みを浮かべて頼み )
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( / 大きな地震が何度か続いておりますが大丈夫でしょうか…? )
…分かりました。
( あくまで現場に出るつもりでいる相手の頼みに頷いてしまったのは、プロとしての仕事を全うしようとする姿勢に共感を覚えたから。急かされて尚黙り込むも、苦渋の決断により腹を括ってはスキンケアからメイクアップを再開し。手際良く、そして丹念に、平常時を上回る集中力で汗に強い且つ赤みの目立たない粧いを完成させれば、最後に悄然とした面持ちで念を押し )
…一応普段通りに見えるようにはしてますけど、出来る限り早く終わらせて、すぐに休んでください。
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(/ ご心配ありがとうございます…!此方は影響なく普段通りに過ごしております。背後様のお住まいは大丈夫でしたか? )
───…すごい、やっぱり凄いです逆巻さん。
( 普段以上に集中した強い眼差しからプロ精神を感じ──かっこいいなあ、と熱に浮かされた頭で思った。もしかしたら無意識にぽつと呟いたかもしれないけれど本人の意識としては定かではなく。そうして丹念に施されたメイクは流石と言った出来栄えで、すっかり温くなったペットボトルをカウンターに置けば見惚れるように鏡へと少し前のめりになって頬に触れ、尊敬と感謝を込めてすごいと何度も言葉にして。振り返って直接目を見て改めてお礼を告げると、程よいタイミングで牧さんがいつも通り呼びに来ては、手を掛けた背凭れにぐっと力を込めて立ち上がり仕事現場へと向かい )
わかりました、本当にありがとうございます。あ…はーい、今行きます!
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( / それならよかったです!!こちらは多少揺れまして物が落ちることはありましたが、怪我はありませんのでご心配なく…!また大きな余震などがあれば、滅多にないとは思いますが停電の可能性もなくはないのでその時はご連絡が遅くなるかもしれません。無言失踪するつもりは毛頭ございませんので、急にパタリと返信がなくなった時は何らかで連絡が取れない状況と思っていただければ()
そしてひな季ですがお仕事中に倒れさせようかと思いますので、待機ロルかついて来ていただく感じのロルにしていただけると助かります! )
( 今回ばかりは出来栄えに満足げな表情を見せることも、賛辞を素直に受け取ることもなく、後ろめたさを内包した曖昧な笑みで応じ。異変を塗り潰した普段通りの笑顔から目を背けるように扉に背を向けると、微かに息を吐き出しながら椅子へと掛けて。それから数分後、彼女に加担した以上無責任に放って帰るのも気が咎め、そして何よりその後の様子が気掛かりであれば、自身も遅れて現場の戸を開き )
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(/ ひぇ…大事はないとのことで一安心しましたが、しっかり対策なさってくださいね…。背後様の御身が第一ですので、此方のことはどうぞお気になさらず、安全が確保できてからお返事くだされば幸いです!
ロルの方ですが、展開について把握致しました。そっと様子を見に行かせていただいておりますので、任意のタイミングで進めてくださればと思います…! )
───…っ、
( ──照明が熱くて、眩しくて、くらくらする。冷たいペットボトルを当てていたおかげで多少の熱が引いたような感覚でいたけれど、一時的な気休めにしかならず身を焦がされるような感覚に陥る。それでも彼が様子を見に来ていることも気付かないほどに集中して、なんとかメンバー達とのダンスシーンのあるMV撮影を終えた後のこと。急に目の前が暗くなって力が入らなくなり、遠くでなんだか騒がしい。何かあったのかと思うけれど、実際には自分が倒れて周りが動揺と混乱に陥っていたからで。不幸中の幸いか、倒れた先にメンバーがいて咄嗟にその子が受け止めるように共に倒れたため怪我もないけれど、すぐに酷い熱であることが周りに伝わって )
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( / 災害意識の薄い地域ですので、対策をきちんと見直さなきゃなあと思いました…。お心遣いありがとうございます…!
やりやすいバトンタッチもありがとうございます。引き続きよろしくお願いします! )
( その場の誰もが彼女たちのパフォーマンスに高揚する中、一人別種の緊張感を胸に抱えながら撮影を見守る。先刻瞳の奥で揺らめいた仕事への執念の成せる業か、踊る少女は表情も動作も、細かな仕草の一つさえ完璧なアイドルで。感動を上回る憂惧が胸を満たすも、無為に長引くこともなく終了の声が掛かれば、彼女の仕事が恙なく済んだことで愁眉を開き。二割増しで疲れたような心地がしてのろのろと出入口へと向かう折、物音と同時に周囲にどよめきが起こるとその中心を振り返る。少女が高熱により倒れたのだということは誰の目にも明らかで、様々な声が飛び交っては彼女が控え室へと運ばれてゆく。咄嗟にその一団を追い掛ければ、せめてマネージャーの手が空くまでの間だけでもと看病を申し出、了承を得るなり傍に寄っては意識確認のため呼び掛けて )
──水瀬さん。
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(/ いつ何が起こるか分かりませんからね、特に自然災害は…。背後様がご無事で何よりです…!
はい、引き続きよろしくお願い致します!/こちら蹴り可です )
は…い、今…───
( どうしよう、倒れちゃった、最後まで撮影できたっけ。熱に浮かされた頭の中でそんな言葉達がぐるぐると回り、何度か薄く双眸を開ける度にぼんやりとした景色が変わる。やがて少し広めの控え室のソファへと寝かせられたようで、運ばれていた間の不安定な感覚が落ち着いて。は、と熱っぽく少し荒い息を唇の隙間から漏らしつつ、ふいに名前を呼ばれた気がしてはまた薄く双眸を開けてみる。ぼんやりとしたシルエット。呼ばれたから行かなきゃ、と働かない頭で思えば起き上がろうとしてみるけれど、体が鉛のように重く少しだけ上体を起こすもまたソファに沈み込んでしまって )
……あれ、?
( 朧げながらも呼び掛けに反応があることを確かめては、何を見ているのかも定かではない双眸に自身の存在を認識させるよう起き上がりに失敗した手を握る。その熱さに胸が痛むも、顔にも声にも出さぬよう努めて冷静な態度を貫けば、言い聞かせるかの如くゆっくりとした語勢で説明して )
水瀬さんの仕事は無事に終わってます。これから色々準備するんで、俺が戻るまでここで大人しくしててください。
……そっか、よかったあ…。
( 仕事はちゃんと終えられたことを聞けば安心しきって、一瞬だけ熱のしんどさを忘れたように表情を和らげながら弱々しい声で呟いて。自分の手よりも幾分か低い温度の手も、優しくて心地良くてどこか安心する。けれどどこかへ行ってしまうらしい。説明されたと思うのになんだったっけと曖昧な思考のなか、とりあえず短く了承を伝えるけれど言動はちぐはぐで〝いかないで〟とでも言うように握られた手をキュと握り返しながら朧げな瞳で静かに見つめ )
うん、…。
( 内容を理解したらしい返事に立ち上がるべく手を離そうとした刹那、力の抜ける指先を追い掛けるように手のひらに圧力が加わるのを感じ。早くも次の行動へと向いていた意識が手元へと引き戻され、それから何かを訴えるような目元へと流れる。何処となく心細げな瞳と視線を交わすと、上げた片膝をまた地につけて )
…どうしました?
…そばに、いてくれないの…、…。
( どうかしたのか聞かれるけれど自分でもよく分からない。んん、と小さく唸った声を漏らしながら、ゆっくりと双眸を何度か瞬かせつつ回らない頭で考えて。風邪を引いた時は心細くなるとはよく言ったもので、恐らく離れて暮らす両親が恋しいのかもしれない。普段の活力がない今、弱気な心は剥き出しの状態。細っこい声でぽつりと呟くなり体力の限界に達したのかゆったりした瞬きのあと双眸は開かれず、すや、と寝息を立て始めるけれどしっかり手は握られたままで )
…あ、お疲れ様です。逆巻です。水瀬さんの件ですが──…
( か細く揺れた声は二人しか居ない空間で一層閑寂に響き。いつも元気と愛嬌に満ち溢れた少女の知ってはいけない秘密を知ってしまったかのような背徳感に、こんな状況にも関わらず緩やかに鼓動が速まったのを自覚して。瞠目する自身を余所に眠りに落ちる彼女の寝顔は安らかにも悲しげにも見え、葛藤の後にスマホを取り出しては代わりに必要品の準備を頼みつつ、そっと手を握り返し。その後届いた氷嚢やタオル、薬、各種飲料を受け取れば、片手で器用に汗を拭いたり額に氷嚢を乗せたりと甲斐甲斐しく看病にあたって )
───…ん、ぅ…。
( どれほどの間眠っていただろう。幼い頃お気に入りの毛布を握って寝ているような安心感の中にいた。ひんやり冷たい氷嚢に多少の熱が移ったようで僅かながら熱が下がるけれど、汗として排出された水分を埋めようとする喉の渇きで目が覚める。睫毛を震わせながらゆっくりと双眸を開ければ、視界に映るのは自分の手と誰か大人の──。状況を把握するように流した視線の先にいる人物に思わず目をまんまるに見開いては、ぱちくりと瞬かせてそれから手をパッと離し〝あれ、わたし、なんで?〟と言葉にならない声を漏らしつつ、別の熱が出そうになりながらまだふらつく上体を起こそうとして )
…えっ。あれ、わっ、なんっ…?
( スマホで正しい看病の方法を調べる傍ら、時折目を遣っては頼りなげな寝息を立てる少女を見守る。何百回目かの瞥見の折、その口から小さく呻くような声が漏れれば追って両眼も開かれ、続けて何かに気が付いた様子でそれは一層大きく見開かれ。彼女のその表情に一瞬面食らうも、身体を起こし掛かる動作を見るなりそっと背中に手を添えて介助すると、気遣わしげな面持ちで顔を覗き込み )
おはようございます。…少しは気分、良くなりましたか?
お…はよ、ございま…、ん…っけほ、けほ。
( 相手の親切な介助のもと、ぽすっとソファの背凭れに身を預けては半ば溶け気味な氷嚢が太ももへと落ちる。ひんやりとした表面上の感覚が残っている額を片手で押さえながら、ぽやぽやとした頭を働かせつつ肯定の返答しようとするけれど、渇いた喉のせいで言葉をつっかえさせては口元に手を添えて小さく咳き込み )
( 寝起き特有のものに思われた若干の掠れ声は、どうやら喉の渇きに起因するようで。咳き込む姿を見ればテーブルの上に用意されたスポーツドリンク、ミネラルウォーター、オレンジジュースのうちから一つ目を選び取り、片手を動かせなかった先程までの名残か左手だけを使って相手へと差し出して )
大丈夫すか──これ、飲んでください。
──…、ありがとうございます…。
( こくんと頷くと、差し出されたスポーツドリンクを両手で受け取ると早速喉の渇きを潤していく。カラカラの体に沁み渡って生き返るような感覚にほっとしたのちに漸くお礼を告げては、きょろりと軽く部屋を見回し。後に知るけれど、牧さんの姿は見えないのはメンバーを先に寮へ送り届けているかららしく二人きり。手のひらに残っている感覚を見つめてちょっとだけ考え込むけれど、疑問よりも先に浮かぶのは謝罪。無理して結局周りに迷惑を掛けることになったことに、視線と眉尻を下げながらちぢこまって )
えっと。わたし、倒れた…んですよね。……すみません、大丈夫って言っておきながら、結局迷惑かけちゃった…。
( ペットボトルの中の飲料を細かく嚥下する少女を見ては、一先ず意識が明瞭になり、自力で水分を摂れる段階まで至ったことに密かに胸を撫で下ろす。胸懐にあるのは疑いようもなくその思いのみだったけれど、彼女の方からメイク時のやりとりについて言及されれば静かに首を振り。協力した自身が気にしていないと答えるのも不適当に思え、テーブルから市販の風邪薬を取り上げると、下手な話題転換をするかのように相手へと手渡して )
辛い思いをしてる時にまでそんなこと考えなくていいから。…今は早く治すことだけ考えてください。
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