薔薇の乙女 2023-03-09 22:09:21 |
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はい、どうされました?
(いきなり名前を呼ばれ相手の目を見て微笑む。おそらくこのマリアと呼ばれた少女は、自分のこの姿に見惚れている。その熱情に浮かされた瞳を見ればすぐ分かる。此方だってそうだ、認めたくは無いがマリアの姿に目を奪われている。絹のような艶やかな金の髪、どんな宝石にもかなわない煌めきを持ったブルーサファイアの瞳、まるで陶器のような白い肌、薄くさくらんぼ色の唇、全てが目を追うごとに輝いて見えて。相手の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出す。世間話くらいしないと変だな、と「この薔薇園は貴方の物ですか?」と聞いて)
元々は母の庭園でしたが、今は私が管理しています。
…今日みたいに美しい満月の日は特に、嬉しそうに咲くんですよ。
( 彼の言葉にふと庭の薔薇達に目をやり立ち止まれば、淡い月明かりと自身の持っている?燭の柔らかい炎に照らされている薔薇たちが映る。どの花も血液のように真っ赤な花弁を開き、噎せ返るような薔薇の強い香りを放っている。決して薔薇の品種に詳しいわけではないが、ここの薔薇はなぜか年中咲き誇っていた。`魔法の薔薇なのよ`なんて母は笑っていたが、いったいどういう構造なのかわからないまま母は逝去してしまった。『薔薇がお好きなのかしら』と考えながらそっと薔薇に手をやり、花を摘む。そういえば今日は薔薇の剪定をしていなかった。そのまま5,6本ほど満開に咲き誇っている薔薇を摘んでいると、「 あッ、…。 」ピリ、と爪先に鋭い痛みが走る。どうやら棘で指先を切ってしまったようで、白魚のような指先から鮮血がぽたり、と滴り落ちる。最近はこんなことなかったのに、と痛みよりも驚きが勝ってはいるものの、なぜか血は止まることなくマリアの手の甲をつ、と流れ落ちて。 )
成程、そういえば今日は満月でしたね
(マリアに合わせて自分も足を止める。元々は母親の物という言葉に反応して、おそらく母親は最悪の形を迎えているのだろう…もしかしたら父親も、なんて勝手に考えてしまう。可憐に咲き誇っている薔薇達はいつも自分がよく見ている血の色によく似ている。でも薔薇は普通このような甘く人を誘惑するような香りをしていただろうか、と考え込む。花にはあまり興味がある方では無いが、普通のそこらの植物と同じような匂いしかしない物だと思っていた。マリアのあげる、悲鳴にも似た小さい言葉にも欲情してしまう自分を殴ってしまいたい。「大丈夫ですか?」と声をかけるが、血液を見てしまったら理性が崩れ去ってしまうそんな音がした。薔薇よりも重く甘い匂い、とめどなく流れる血液の色さえどんな物よりも綺麗なものに見えて、生唾を1度飲んだあと動けずにただ、マリアの手を見るしかできなかった)
ぁ、…いいえ、よくあることですので…。
( じくじくと痛む指先を優しいサファイアブルーでじっと見つめては、少し困ったように眉を下げて此方を心配してくれている彼へ微笑む。此方の手──もっと言ってしまえば傷口をただ見つめる、指先から流れる血液と同じ赤色の瞳を見ては『血が苦手な方なのかしら』なんて考え、なにか傷口を抑えるものはないかと思案して。なんせロウソクのみを持って外の空気を吸いに来てしまったのだ、傷口を抑えるハンカチもなければ何も所持はしていない。マリアはできるだけ彼へ傷口を見せないようにと流れる血を拭うこともなく薔薇を持つことによって指先を隠せばまるで薔薇から血液の香りが甘く漂うような錯覚に陥る。薔薇の香りと血液の香りが混ざり合ったこの空間は確かに男性には少しつらい状況なのかも入れない、と「 御見苦しいところを… 」と謝罪して。だがしかし傷が深かったのか「ん、」と小さく顔をしかめては、兎に角手当よりも先に早く彼を案内しなければと小さくは、と息を吐いて。 )
これは早めに手当をしなければ
(もう理性なんて千切ってその傷口に噛み付いてしまいたい、そう思えば思うほどに自分の心拍数が上がっていくのが分かる。心臓を抑えて胸の鼓動を沈めようとするが、そんな自分を嘲笑うようにマリアの血液は自分を誘惑してきて。辛うじて震える手で偶然持っていたハンカチをマリアの指に押し当てて「痛くないですか?」となるべく優しい声色で聞く。「まずは水で流しましょう、水場を教えていただいてもよろしいでしょうか」と、マリアの指にハンカチを巻いて、その手を優しく引いてみせて)
ぁ…ありがとうございます…。
( そっとハンカチを傷口に巻かれては、彼の優しい手に引かれる。ご自身もこのような場所に迷い込んで困っているにも関わらず此方の手当を優先してくれる彼にキュウ、と胸が締め付けられるような感覚を覚える。なんて優しい方なのかしら、と最初に警戒してしまった自分を猛省し。「 水場はこちらです、 」と彼を案内すれば、月明かりに照らされる薔薇園の中を冷徹さすら感じる美貌の男と薔薇の乙女が歩くという、絵画にも似た光景を月だけが見降ろしていて。ドキドキと高鳴る胸は傷口が痛むからだろうか、それともこの美丈夫のせいだろうか。ぽっと薔薇色に染めた頬を彼に見られないように、マリアは薔薇の道を歩いて。水場まで無事に到着すれば、「 ごめんなさい、ご迷惑を… 」と彼に深々と頭を下げたあとに抱えた薔薇を左手に持ち直せば、傷口を水で洗い流して。 )
いえ、これくらい構いませんよ
(また笑顔を作って相手の目を見る。なるべくは傷跡を見ないようにして、心情をかき乱されないようにと相手の手を引いて真っ直ぐと歩き出す。すぐに噛み付いてしまえばいいだろう、と自分の中の本能が囁くが聞こえないふりをして。マリアがずっとドキドキとしているのは嫌でも、繋いだ手から伝わる心音で分かっていた。水場を案内され「ありがとうございます」とお礼を言って、到着した水場にて自然な手つきで優しくとった相手の手を洗浄する。水に流されていく血液にまた心臓が高鳴る。正直、こんな齢の少女なんかに惑わされる訳ないだろう、と見下していないと平常を保てなくて「痛かったら直ぐに行ってください」と、傷跡を優しく指で撫でて)
ッあ、……ぅ……、
( 彼の大きな手に傷口を撫でられればびくり、と肩を跳ねさせて嬌声にも似た小さな声を思わず零して。だが手当をしてもらっている手前痛いだなんて言葉は吐けず、ぱさりと地面に薔薇を落としては声を我慢するかのように左手で口元を抑えて。「 ごめんなさい、……平気ですから、んッ…… 」と、やはり出来たての傷口に水が染みるのかぎゅう、と目を閉じて。痛みで出た生理的な涙に睫毛が濡れては平気だから続けてと。この庭の手入れをし始めた時にこんな怪我は慣れたはずなのに、やはり自分で手当をするのと誰かに手当をしてもらうのでは痛みの波が来るタイミングが読めないのか声を抑えることができず。淑女としてはしたない、とふるりと首を振ればさくらんぼ色の唇をキュ、と閉じて。 )
っ!すみません、大丈夫ですか?
(自分が人間じゃないからこそ、人がどのように痛みを感じるか分からずにかなり強く触っていたようで。マリアの小さな口から発せられる嬌声にも似たその悲鳴のような声に反応してしまう。なるべく優しく、と自分の頭の中で唱えて水で洗い流す。「平気な訳ないでしょう?」と空いている手でマリアの目の縁に溜まった、硝子のように瞬いては、はらはらと落ちていく涙を指で拭って。心配する感情も少しはあるが、加虐心の方も煽られているのも自分の中で感じている。「本当にすみません、人の手当てをする事に慣れてなくて」と謝る自分の声もか細くなっていくのを感じながらも、マリアのその健気に痛みに耐える姿にいたたまれなくなって)
い、いいえ…!
デーヴィト様はとてもお優しくて、…っ
( 落ちる雫をそっと拭う手がとても優しくて、なにだかマリアは更にきゅうと胸が苦しくなる。両親が死んでからこの広い敷地にたった一人きりで生きてきた彼女には、自分に触れる彼の体温がとても懐かしいものな気がして痛みとは別に涙がまたほろほろとこぼれる。「 わたくしの不手際でこうなってしまったのですから、むしろ謝らなければいけないのはわたくしの方です、 」もう傷口がスッカリ綺麗になったのを確認しては、まだ涙にぬれる瞳で謝罪と御礼を彼へと告げては花が綻ぶようにふわりと微笑んで。もうすっかり彼に対しての警戒心は抜け落ちたのかその笑顔はとてもやわらかで、まるで優しい春の日差しにも似たその笑顔はこの世の穢れや汚いところを一切知らないように純白で。 )
お優しいなんて、そんな事ないですよ
(本当にその通りだった。今の自分は彼女の血を、身体を狙っている。そんな自分が優しいなんてお門違いだ。相手の体の一部に触れてしまった時に、自分の体に電撃が走ったようなピリッとした感覚に一瞬マリアの体から手を離して。自分でも初めての感覚に戸惑いを隠せなくなってしまう。今夜は全てが初めてのことが多くて、どうしたんだ…と胸に手を当て。マリアの瞳から涙がまたハラハラと落ちていくのを見て、まだ痛いのかと勘ぐって「痛いのであれば医療機関を利用した方がよろしいかと思いますが…」と提案をして。不手際なんて、薔薇なんて棘のある植物に素肌のまま触れていたら誰だって怪我をしてしまうだろうに。傷口が綺麗になって少し安堵して、相手の顔を見ると罪悪感を覚えてしまった。マリアは本当に何も知らない無垢な少女だ、だからこそこんな汚い自分が触れていいものじゃないと、考えれば考えるほど心臓が痛くなると同時に、こんな純白という名前が似合う彼女を汚してしまう、という感覚にゾクゾクしてしまう自分もいる)
いいえ、違うんです。
……その、デーヴィト様の手が、暖かくて。
( 初対面の男性にこんなことを言ったら、はしたない女だと思われてしまうだろうか。それでも他になにか言い訳を思い浮かんだわけでもなく、これ以上彼を心配させる訳にも行かず、バカ正直に自分の感じたことを話して。白い陶器のような頬は、彼のブラッドレッドの瞳に見つめられて朱に染まっておりふるふると首を横に振って。「 長い間、1人でしたので。誰かの体温が心地よくて。……すみません、こんな。 」と濡れた睫毛をそっと伏せては困ったように眉を下げて。それに何よりも、物語の中から出てきたようなこの美貌に見つめられてしまってはどんな少女だってドキドキと胸が高鳴ってしまうものなのだ。先程から鳴り止まない豊満な胸をきゅ、と抑えるように手を置いてはぺこりと小さく頭を下げて。 )
…ありがとうございます
(暖かいなんていつぶりだろうか、本来自分の体温は無いに等しいのに、彼女の口から暖かいと言われた。つまり、体温が上昇しているということだ、そんなことなんてこの何百年間無かったのに。女性の扱いには長けていると思っていたのに、プライドを崩されていく気分にクラクラしてしまう。愛想のない言葉を零して、ようやく相手の目元から手を離して。長い間1人、そんな言葉に自分を重ねてしまう。気がつけば自分もそうだった、いつの間にか1人になって、いつの間にか寂しいなんて感情もなくした。「それは心細かったでしょう」と知りもしないのにそんな声をかけて微笑んでみる、その顔が少しだけ物寂しげに見えて。月の明かりに薄暗く照らされた、その白く透けてしまいそうな首から目を離せない自分がいる。「今夜だけは俺がいます」とまたマリアの華奢な手をそっと取って)
デーヴィト様…。
( こちらを見つめる2つのブラッドレッドから、目が離せなくなる。月明かりを背負い、薔薇園の間中で此方の手を取る彼はあまりにも美しく、蠱惑的であった。?──だがそれと同時に、どこか物悲しそうな。自分と同じ境遇に彼がいるような気がして。マリアはそっと彼の手を自身の頬にそっと当てては「 では今宵は、わたくしも貴方の為に在りましょう。 」と、まるで幼子を寝かしつける母のように優しい声色で言葉を零し。ふわりと微笑むその姿は名前の通り聖母マリアのように淑やかで慈愛に満ちており。今夜は互いのためだけに此処に在ろうと。出会ったばかりの男性にこんな事を言うのは初めてだし、はしたないと思われてしまうかもしれないけれど。それでもこの美しい方が寂しい想いをするよりはずっと良い、と。 )
(最早、自分の名前を呼ぶマリアの声すら愛おしい。誰にも渡したくない、そんな感情が自分の体を支配する。生まれてこの方、神なんぞには祈ったことなどないが、どうかこの時間だけは止めて欲しいなんて願ってしまう。マリアの柔らかい桜色の頬に自分の手が触れる、試しに撫でてみると絹のようなさわり心地に擽られるようで。「許してくださるのであれば、俺も」ずっと共にありたいなんて言葉をすんでのところで飲み込んで。そんな言葉を口にしてしまえばもう戻れなくなる、そんなふうにふと思ってしまった。「…風が冷たくなってきましたね、貴方の体にきっと毒です、急ぎましょう」と、また歩き出して)
……行って、しまわれるの ?
( 歩き出した彼とは対照的に、ピタリと足を止める。ぽろりと溢れてしまった小さな言葉はほぼ無意識に出た言葉だったのか、自身も驚いたように目を見開いて口元抑えて驚いている。今まで両親にだってこんな突然わがままを言ったことはなかったのに、今夜初めて会った男性にそんなことを言ってしまうなんて。マリアは先ほどまで穏やかな笑顔を浮かべていたのが嘘のように、生娘のように顔を真っ赤に染めては「 あの、いいえ、違くて……その、…… 」と必死に言い訳を探そうとするが何も出てこない。小さな呟きだったしもしかしたら彼は聞こえていないかもしれない、という期待を込めれば申し訳なさそうに彼の方をちらりと見上げて。 )
…え、
(いきなりそう言われて足を止めて、マリアの方を振り返る。マリアの動作を見て、きっとあちらも無自覚に出てしまった言葉なのだろうと察する。引き止められることなんて、一夜を過した女性から言われることはよくあったし、そんな言葉一つなんかに惹かれて立ち止まることなんてなかったのに。今の自分はどうだ、動けずにいてしまう。言い訳をこぼすマリアに、意地悪するような顔で「俺に行って欲しくないんですか?」と口元に手を当て、くすと笑ってマリアの口から言わせるように仕向けて)
ぁ、…う、…
( 彼に聞こえてしまっていた。熟れた果実のように赤く火照った頬や体は柔らかなブロンドに映え、月明かりが惜しげもなくそれを晒すように照らしている。彼の視線から逃れるかのように一歩後ろに下がってしまっては、胸の前でぎゅっと手を組んではくはくと言葉の出ない唇を動かして。そして暫くして意を決したようにキュ、と唇を噛みしめては、彼のロングコートの裾をちまこく掴んでは耳を澄ませなければ聞こえないような小さな声で「 今夜は、俺がいると、…先ほど言っていたのに、…うそつき、 」と。震える声でぽそりぽそりと小さな子供のように告げた言葉は、淑女というよりは幼いレディのような一言で。周知からか潤んだ瞳で彼を見つめれば、`いかないで`とそのさみし気な瞳が訴えかけているようで。 )
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