匿名さん 2023-03-08 21:19:11 |
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ビジネスパートナーにそんな物が必要とは思えませんが。
(不思議な事を言われたかのように眉を下げて見せる、例えるなら神に力を与えられた奇跡の子と仕える神父、そんな物語を演じる役者同士に個性や生き方の相互理解なんて必要ない筈、と。赤いスープと白いパンが並ぶ食卓、いつものように食事に感謝する祈りを捧げようとしてふと手を止める、「あぁでも、貴方が望むなら何だってお答えしましょう。」彼の願いを叶える為なら当然のこと、先程自分が使った“ビジネスパートナー”の単語には早速矛盾した台詞、そしてその矛盾に自分から目を塞ぎ、代わりに彼への忠誠心のような何かだけを心底信じきったかのように、其方を見上げる瞳は深い真紅、燭台の炎がゆらりと反射したせいかぬらりと光って
ビジネスパートナーだからこそですよ。互いのことを知らない二人が、果たして同じ目標に向かって効率的に協働することができるでしょうか?
( 困惑した様子の貴方を前にして、ひとまずは使い古しの共通言語を持ち出すこととしようか。貴方に一歩遅れる形でいつのまにか定位置となった向かい側の椅子を引き、大きな身体を少しばかり縮めるようにしてそこへ腰掛けるのだった。眼前の食卓の風景は質素ながら確かな温もりがあり、漂う湯気と香りはごく分かりやすく食欲を刺激してくる。早速とスプーンを手に取りたいところだが、ここでは食事の前に祈りを捧げる習慣があるのだった。いい加減覚えてもいい頃合いではあるが己の所作は未だにどこか覚束なく、貴方のやりようを観察してからそれをなぞるという次善の策自体が、いつのまにやら習慣になっているという情けない現状がある。いつものように見守ろうかというところでその手はふと止まり、己の視線は濡れたように光る真紅のまなこに吸い寄せられるのだった。そこに映る感情は、見定めようとする度に揺れ動く万華鏡にも等しい。傍目から見れば見惚れてでもいるかのような数秒が過ぎ去ると、ふ、と吐息のような笑みを漏らして気の抜けた笑顔を象った )
では物覚えの悪い俺にどうか呆れずに、もう一度祈りの所作を教えていただけますか?
喜んで。
(手を組んで頭を垂れる、彼が同じように真似をしているか確認するようにそちらをちらりと盗み見ると少し口角を上げてまた瞼を閉じ。澱みなく口から零れるのはややもすれば呪文と聞き紛いそうな祈りの言葉、教えて欲しいとの頼みに応じてかいつもより随分ゆっくりとした調子で流れる決まり文句達。それらが終わると顔を上げ、まるで悪事に誘うかのような表情で尋ねる、「これを覚えられたら次は異国の書物の読み方でも教えて差し上げましょうか、」異教徒の言葉は穢れだという宗教的見方が根付く我らが宗派ではあるが、自国の優位性の再証明やら多民族の啓蒙やら耳障りの良い言葉達の上に、異文化研究が好奇の目を持って受け入れられ始めているのも事実、それらの知識故に助命を許された自分のように、彼も何かしら役に立てられるだろうと
───……。
( 所作自体はそう難しいものではないが、この聖句がとかく曲者だ。常より緩やかに流れる異国の歌のようにも聞こえる言葉の羅列を復唱にてどうにか追いかけると、ようやくのこと夕食にありつけるのだった。口元へ運んだスープの出来に満足げに微笑んでいると、意味深な言葉に誘われて蠱惑的な表情を浮かべる貴方の方へと視線を持ち上げた。薄暗く決して広くはない部屋の中で灯りといえば燭台ばかり、ゆらめく炎に照らされて、それこそ国家転覆でも企むかのような凄みのある雰囲気なのだが、いかんせん役者の質が悪かった。己が困ったように言葉を吐いたなら、途端にここは下町の居酒屋くらいの気安さと雑多さだ )
先生は俺の学のなさを甘く見てますね。この国の言葉でさえ読み書きが十分とは言えないのに、異国なんてそれこそ気の遠くなる話でしょう。
まずは普通の絵本からですね、
(猫舌なのか湯気の立つスープにはまず手をつけず、パンを手でちぎりながらそう返し。自身は小さい頃から教育を受けていた身の上ではあるが、彼のように学校にもまともに行けず育った元子供達もこの国には少なくない。「読み書き計算もある程度出来なければ、悪い大人に騙されますよ。」、一回り以上年下の、何も知らない青年を拾って言葉巧みに教会で囲っている大人が何を言うか、白々しい台詞を吐いて微笑んでみせる、もっと悪い大人に陳腐な現実を吹き込まれないようにする為なら、毒気のない笑顔を作ってやるのも簡単なこと
……現状をお伝えするとともに遠回しな拒絶をしたつもりでしたが、そうは受け取ってもらえませんか。俺はとにかく学問には向いてないんですよ、
( トントン拍子に話が進みそうな気配に、情けなく眉を垂らして弱音を吐いた。基本的にどこもかしこも凡庸な己が、際立った学才を秘めているなんてことはもちろんない。食前の祈りの有り様からも明白な通り物覚えはあまり良くなく、加えてこの歳まで生き抜くのに学のなさが障壁になった経験がないからか、やる気にも欠けた問題の多い生徒なのだった。貧しい国で育った子どもの宿命なのだろうか。貴方と出会い質素ながらも衣食住が足ることを知ったが、それでもやはり学問は二の次三の次、豊かで恵まれた一握りの人間が享受するものといった感覚には根強いものがある。柔らかな白パンに齧り付きながら聞こえてきた声に顔を上げると、その言葉の眩しいほどの正当性と微笑みから漂う圧に、己の大きな身体が萎れたように見えることだろう。嚥下してから口を開き )
観念しろって言われた気分ですね……。
ちゃんと出来たらご褒美をあげましょう。
(年少者に何かを教えてやった経験は無いが、人々に教えを説くのも立派な聖職者の役割の一つ。今でこそ彼を手に入れてから周りに集まる信徒たちも増えたが、それまではほぼ人の寄り付かない寂れた教会に1人、存在意義を自問自答する日々であった為、神父めいた台詞に自分で機嫌を良くしたのか笑顔を見せる、作り物の綺麗な微笑みではなく歪めた口元から牙のような犬歯が覗くそれを。普通の青年のように見える彼、普通だからこそ自分のようにある程度の訓練さえすればすぐに知識が身につくだろうと、無意識で残酷な認識の相違、彼がご褒美だと言われて何を求めるのか思いを耽けらせながら、スープを冷ますように息を吹きかけてから口に運び。
それは流石に子ども扱いしすぎですよ。
( かくなる上はこれ以上管を巻くことなく貴方の提案を受け入れることとしよう。スープもパンも、自らの分はあらかた腹に収め終えたなら、残りのチーズをごくゆっくりと口に運び始めるのだった。マナーという言葉さえ知らないような酷い食事の仕方は貴方のそばに来てから幾分改善されたものの、未だどこか荒っぽさの残る大きな一口と、幼い頃から当たり前のように身につけた上品な一口では、食事の進行に差が出るのは当たり前だ。いつものように貴方よりもだいぶ早く食器を空にしてから、それでも同じ食卓に並び続けるという些細なことに、己が今他人と暮らしていることを実感したりする。これも信徒からの貰い物である濃厚なチーズに歯を立てながら、ふと明日の予定を勘案してみるのだった。なお、こうしてチーズを口にするのは、何もせずにこにこと貴方の食事風景を眺めていると至極居心地悪そうにされたからに他ならない )
明日は、教会に来る信徒はいないはずでしたね。俺は街に出て奉仕する予定だったので、教えてもらうとすれば夜になるでしょうか。
明日夕食を頂いた後、少しやってみましょう。
(彼の提案に少しの間自身の明日の予定を頭の中で組み立てた後そう答える、そろそろ溜まった煩雑な事務仕事を片付けなくてはいけない、小さいとはいえ何かと手のかかるこの教会の運営も、直接目が届かない代わりに口喧しく報告義務を迫る中央への返報も、ただ書物と祈りを通じて教えに浸ってだけいたいという願いの妨げとなるもので。食事の終いに少し切り出したチーズが羊の物だとその甘みに気付き、もうそこまで来ている春を思う、早く、早く自身の計画を進めなくてはならない、その計画に不可欠な彼がこの生活の歪さに勘づいて巣立つ小鳥のように遠くへ飛び立ってしまう前に。「街に出るのなら気を付けて。」食べ終えた食器をまとめながらそう声をかける、“人の多い街には悪魔が居ますからね”と相手に聞こえるかそうでないか位の声で付け足した、極力彼の自由にさせてはいるが少々それに不安というか、仄暗い靄を心の中に抱えていることもまた常で
ええ、どうぞお手柔らかに。
( 逸る気持ちとは裏腹に捗々しい変化を見せない現状が原因か、信徒を前に取り繕うのにも少々限界が出てきたような貴方の窶れ具合を前に、これ以上仕事を増やすことは本意ではないが、学ぶことで貴方へ何かを還元できることに期待をかけておこう。互いに足並みを揃えた夕食が終わりに差し掛かると、てきぱきと皿を流しへ運び後片付けの準備を整えるのだった。腕まくりをして食器や調理器具の濯ぎに取りかかれば、聴覚は食器同士の当たるささやかな高音や流れる水音などのごく穏やかな生活音に占有されるはずなのに、それでもなぜか貴方の囁きが紛れることなく耳に届く。手は止めず、視線も作業を続ける手元に落としたまま、常と変わらぬ調子で言葉を紡いだ )
さて、俺の契約相手はすでに定まっていますから、悪魔に誑かされるようなこともないと思いますよ。……片付けが済んだら食後の香草茶を淹れましょうか。ここで飲まれますか?
貴方のお茶を飲むとよく眠れます、
(時折自らを気遣うように入れてくれるハーブティー、何を煎じているのか詳しくは分からないが妙に落ち着く甘い香りがいつも印象に残る、記憶の中の恐怖や実際に現実に引き継がれる痛みに震える夜も、そのお茶を飲めば体の中が温まってすっと意識を手放すことができた、静かに微笑むように、少し苦笑いのような表情を見せてそう答えて。彼の手によって片付けが済んだ机の上に置いた教典の黒い革表紙をつ、と指先で撫でる、彼が戯れに使った“契約”の言葉、一時の、緩やかかつ絶対的な快に足首を縛られて動けないままでいるのは此方だというのに、貴方は随分可愛らしく大仰な台詞を吐くものだと半ば感心さえするほどに
えっ、本当ですか?俺にもよく効くのでお出ししてたんですが、先生にも効果があったのなら何よりです。……嬉しいな、これで今夜はゆっくり休んでもらえますね。
( 貴方によって保障されたささやかな豊かさを享受しようと何気なく嗜好品の提供を提案しただけだったが、少しばかり意外な反応が返ってきたので思わず作業の手を止めて寸の間驚きに浸る。すぐに洗い終わった皿を棚に戻す作業を再開しながら、じわじわと湧き上がってきた喜びに口角を上げた。貴方がなかなか労わろうとしない貴方自身に、こうして働きかけることができるのは幸運なことではないか。軍人時代の同僚に教えられたその香草は、こちらに腰を据えるようになってからさほど労せずして栽培できるものと知り、以来裏庭に常備してあるのだった。片付けを終えたなら、さっそく香草を入れたティーポットへ湯を注ぎ入れようか。次第に辺りへ漂い出す穏やかな香りを楽しみながら、のんびりと煮出されるのを待つ。ふと視線を上げた先の貴方は、携帯していることが多いからかそれなりに使い古された風の教典を撫でながら、何か物思いに耽っているようだ。何を考えているのですかと問うのは簡単だが、今はそう安直な踏み出し方もどこか躊躇われて、そちらを望洋と眺め遣るばかり )
でも少しまだやりたい事があるので。
(ざっと掴んだハーブをポットに入れそのままお湯を注いだ彼の手付きを見ていた、彼の作る料理やお茶は量を細かに量る様子は無いのに、何故だろう、自分が神経質に作るそれらにはない温かみがあると感じられて。今日は早く寝ろ、とでも言いたげな彼の台詞をふいと交わし、届いていた書簡の封を開けて。夜もずっと更けて窓の外の鳥も眠ってしまっても起きて何かしらの作業をしているのが日常、勿論日々の雑務に忙殺されているというのもあるが、知人から譲ってもらった書物や論文を読んでいる間は実状を忘れられる、ふと顔を上げれば此方を眺める相手が視界に映って。彼は自分のように虚の世界へ落ちゆく術を知っているのだろうか、それともそんな必要などないからその瞳は真っ直ぐな光を湛えているのだろうか、濁った視線をぼんやりと向け返す
そう仰るであろうことは承知の上ですよ。まあまあ取り敢えず、一杯ぐいっといってしまいましょう。
( こういった攻防はもはや日常茶飯事といえた。次第に色づくポットの中身をちらりと確認してから、念押しにもう少しばかり蒸らすのがポイントだ。素朴なマグカップを二人分用意しながら、およそ茶を指しては用いないような俗っぽい言い回しで、あまり効果のないように見える説得よりもよほど確実な薬効を頼りにすることを宣言するのだった。十分に蒸らした茶は揃いのマグカップへ。ぐいっといってもらうためにはしばし冷ます必要があるだろうと上げた視線は、繊細な手つきで書簡を手繰る貴方へと射止められた。そばで不規則に揺れる蝋燭の炎から、ふと、夜半に喉の渇きを覚え出た廊下で、貴方の部屋から漏れる光を目にしたことを思い出す。軍人の身の上にも夜間の作戦は珍しくなかったものだが、家を持ち慎ましやかに暮らす人々というのは普通、蝋燭の消費を嫌って日暮れと共に眠りに落ちるのだという。夜に親しいという互いの共通点は、この村にあっては紛れもなく部外者の証なのかもしれなかった。どこか焦点の合わないようにも見える瞳とかち合うと、気付け薬を飲んだかのように数度瞬いてから眉を下げて微笑み、程よく冷めた香草茶を食卓へ運ぶのだった )
……すみません、見過ぎましたね。先生の瞳を眺めてると、時折思考の波に攫われそうになる。……そこから掬い上げてくれるのも先生だから、何度も向かっていってしまうのかもしれませんが。
見て気分の良いものではないでしょう。
(彼の謝罪の言葉に、困ったような恥じるような、でもどこか世間を相手をせせら笑う余裕を含んだような表情を浮かべ視線を下に外す、不吉な赤色、人を悪に誘う呪いの色は奇跡の子にも有効なのか、冷ますためにふっとゆっくり息を吹きかけたお茶の、水面に浮かんだ茶葉の欠片が不安定に揺らめいて。それに比べ自身を見た目も中身も凡庸だと卑下する彼の瞳は、いつか見た森の中の美しい鹿のようだと先程感じた、こちらをじっと見つめる無垢な獣と同じそれは、自身の全て、悪事も秘密も欲も、何もかもを曝け出してしまいそうになる深い色彩、誘惑の呪いは寧ろ其方にあるのではないかと思えるほどに。「さて、貴方は早く休んでくださいね」、明日も奉仕の予定がある相手を寝室へと促す台詞、自らの体力を代償に共鳴者を作る必要がある、その上痛みに喘ぎ縋る者たちを相手にするのだから精神の摩耗も無視はできないだろうと考えて
生来があまり考え込まない質なので、困惑はしますね。俺にとって先生の瞳は、鏡のようなものなんでしょう。
( 宝石のように艶やかな瞳を前に、何かが過ったように見えたとて、それはそこに反射した己の姿にすぎない。己の言葉に小波立った貴方を前にしたものの、そんな心に寄り添うような器用さなどは一切持ち合わせていない己は、迷うまでもなく正直な言葉を紡ぐまでだった。淹れたての香草茶の出来を確かめるがごとく、無作法にもその場に立ったまま少しばかりマグカップを傾ける。常と変わらぬ出来に一つ頷くと、残りは自室まで携えていくことにしようか。こちらが寝かしつけようとしていた貴方の方から就寝を促されてしまえば、自分でもそろそろ眠りに就こうかと考えてはいたが、少しばかりの懸念に寸の間思考する。曰く、睡眠導入剤として優秀らしい香草茶を相棒にここで仕事をこなして、貴方はきちんと寝室まで辿り着けるだろうか、と。そう簡単に懸念は消えないものの、そこまで世話を焼くのはさすがに礼を欠いたように思える。首を振って心配をも振り払うと、柔らかく笑みながら貴方の前を辞することにしようか。身体を清潔に保てるような準備は一日の最後の仕事だ )
水を張った盥はいつも通り寝室の方に用意しておきます。それじゃあ、おやすみなさい、レイ。
?えぇ、おやすみなさい。
(きちんと自室で休息を取るように、そんな促しが暗に込められた彼の眠りの挨拶に、夜更かし気味な自分の不摂生生活を指摘された気がして一瞬返事に言い淀むもそちらに顔を向けて同じように返して。そして最後に付け足された自分の名前、舌の上で甘い飴でも転がすような響き、自分では無い誰でもを言い表せる二人称や役職や、ましては侮蔑ですらないそれを、こんな風に飲み物を片手に気を抜いている日常の隙間に聞く時、誰かと一緒に暮らしているのだという事を改めて実感させられる。彼が出て行ってしまってからお行儀悪く頬杖をついて、冷めきったお茶を一口、自分は彼の、人を惹きつける不思議な魅力や痛みを消し去る奇跡の力に神性を見出している筈なのに、こうして彼と共に過ごすうちに、誰か時間をゆるやかに重ねてくれるパートナーを自分は求めていたのではないかと勘違いしそうになる、なんて低俗でありふれた勘違いを
……。
( 少しの間を置かれて返された就寝の挨拶には、奇妙な充足感があった。ひたすらに平穏な暮らしというものが、きっとこういうところに滲み出るからだろう。月明かりを頼りに進む廊下で、知らず知らず口元は笑みの形を象っている。手元のカップを置きに一度は部屋に戻ったが、その後すぐに大きな盥を手に中庭へ出た。ちょうど月に雲がかかり、手元も怪しいような具合だが、慣れ親しんだ作業のおかげでさほど苦労することはない。井戸から汲み上げた水で満たされた盥が二つ。育ちゆえかこまめに身体を清める貴方に感化されるように、いつのまにか己にも身についた習慣だった。それぞれの部屋へ運んだあとは自室に戻り、蝋燭をケチりながらごく簡単な水浴びを済ませる。すっかり冷めてしまった香草茶を情趣もなく一気に煽ると、そのままのっそりと寝台に入った。悪夢に飛び起きることがあるとしても、寝つきは比較的いい方だ。夢の世界へ転がり落ちるほんの少し前まで、伏せた瞼の裏には夕焼けのように赤い瞳がちらついていた )
(/ かしこまりました。
(明くる朝、まだ気温も低い時間帯、夜遅くまで起きていたにも関わらず浅い眠りからすっと目を覚まし身支度を整える。自室から聖堂へ、澄んだ空気の中進む廊下はまだ人間も動物たちも眠っているようでしんと静まり返っており、真面目な神父はその目を盗むようにふわりと小さく欠伸を洩らす、日課となった毎日の習慣、聖堂の重い扉を開ければ大きな窓から日光が冷たい空気の中矢のように射し込んでいて。神が最も嘆くという罪、つまりその愛と万能性への懐疑心を抱いた今でさえ、ひとり跪いて祈りを捧げるその仕草は機械仕掛けの人形ように正確無比、神が見放し堕落しきったこの世界ではこの行為だけが、自身に巣食う暗い衝動の熱を冷ましてくれるように思える、さてどれだけの時間、そうして頭を垂れていただろう
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