主 2023-02-11 00:33:03 |
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名前:霧ヶ崎 爛(キリガサキ ラン)
性別:男
年齢:18歳
身長:190cm
職業:浪士/裏職/孤児荘管理主
能力:狼化(狼に姿を変える事ができる)/眼孔(鋭い眼付きで相手の動きを一定時間封じる事が出来るが封じる時間の長さにつき体力を消耗する)
容姿:銀髪の短髪に黒の手拭いを巻き付けている
少しあどけなさが残る顔立ちだが眼付きは吊り目がちで鋭
く瞳は紅い
銀の菊の刺繍が片方の肩に施された黒い着物を少し着崩し
ており灰色の袴に黒のブーツを着用している
常に煙管を咥えており、真っ白の刀を腰に下げている
性格:一見不良浪士に思われがちだが自分の信念は貫き通す性格
言葉少なく口下手で人付き合いが下手
実は子供好き、女性には優しくと心掛けてはいるものの怖
い印象を与えてしまいがち
名前:菊 露草( キク ツユクサ )
性別:男
身長:178㎝
年齢:22歳
職業:寺子屋 / 密売人
能力:喪失(記憶を消す)錯乱(記憶を改ざん)解読(記憶を読む)
※過度な能力の使用は自身の記憶に影響する場合もある。
性格:寺子屋時は真面目で笑顔、意外と平気で物申す。密売人時は陰湿かつ冷酷。既に自身の記憶に支障あり。基本は気まぐれ。
容姿:寺子屋時は藍色の長髪を後頭部で一つに結び男物の簪で纏め、後ろと右横は胸の辺りまで垂らしている。下ろすと腰辺り。瞳は切れ長の黒色。刺子縞柄の浴衣風に珍しい丸渕眼鏡。右利き用の刀1振。清楚な印象。○密売人の時は黒い袴風の着物で黒い布で口元を覆い顔を半分隠す。髪も短髪に見えるよう細工。帯に挿す蒼い勿忘草の簪が目印。左利き用刀。
備考:記憶消失の欠点からメモを取る癖がある。自身の過去(特に幼少期)の記憶が曖昧。両利き。薬の耐性がある程度ある。
(時刻はまだ薄暗さが残る明け方。とある貴人の令嬢が攫われたとの事で受けた依頼を容易く終えた後。自身の気に入りの場所でもある、林を抜けた先の丘の上の大木にて身体を預けその身を休ませていた。
貴人の令嬢が攫われた、などと町奉公にでも頼めば良いものを…とも思ったがどうやらこの令嬢の父親、あの手この手で地位を守る為にその手を汚く染めていたようで。
今回の依頼は令嬢を攫った者達を一人残らず抹殺し、令嬢を邸宅まで帰す事だった。
段々と空が明るくなり、煙管の煙を溶かしていく。
灰皿に灰を落としゆっくりと立ち上がり林を抜け町へと抜ける。
孤児荘の子供達はまだ寝ている時間とは言え江戸の町の朝は早い。
幸いにも今回の仕事では衣服を汚す事も無く己ながら上手い立ち回りが出来た。
(『兄さん、これ持ってお行きよ』
ふと呼び止められるといつも世話になっている八百屋の女将。
抱き抱えられた籠の中にはたくさんの野菜。
_流石に悪い。金は払わせてくれ。
(財布を取り出すも『良いんだよ!この前うちの主人が酔っ払っちまって倒れてたのを運んでくれたお礼さ。この町は栄えちゃいるが治安が悪くてね。あのままねっ転がってたら金目もん盗まれて殺されてたっておかしくなかった。だから黙って受け取ってくんな!』と強引に押し付けられ。
ありがたく受け取り「なら、何か困った事が言ってくれ」と言うと女将が嬉しそうにぱん、と手を叩く。
『それなら、寺子屋にも野菜を届けてくれないかい?うちの子供達はあそこの寺子屋に世話になってるんだけど、貧乏百姓のうちを気遣ってか金を取らないんだ。』
女将の言葉に頷き籠を受け取る。最近町でもよく耳にする寺子屋の存在は自身も知っていたし、孤児荘の子供達も何度か遊びに行っていたようで一度挨拶にでも伺わなければ、と思っていた所。
金もそれほど取らずに学問を教えるなど物好きな人間がいたものだ、心の奥底でほんの少し馬鹿にしたような考えを浮かべながら寺子屋へと向かい。
( 時は朝方、寺子屋に隣接する住まいにて身支度を済ませた後、寺子屋の教室の掃除をするところ。己の心の内は穏やかではなかった。理由は昨晩の密売人としての依頼にある。依頼内容は何処からか攫ってきたとある貴人の令嬢の身代金をその父親から収奪する仲介に入ること。普通の密売人の依頼として逸脱しているが金の為なら仕方ない。手を黒く染めた頭の弱い父親を脅すことなど容易いことだと軽んじていたが、いざ依頼場所に来てみれば令嬢は居ないどころか肉塊がごろごろ転がった血祭り状態。既に生きた人の気配はなく、痕跡もない。そして何よりも目を惹いたのは一切無駄のない鮮やかな切り口___
『こりゃ、やられたな。敵は何人だ?まさかこの人数を一人ではないよな。全く面倒なことになったもんだ。…勿(ナカレ)、この場の報告は任せた。報酬は無くなるだろうしお役所様が嗅ぎつけて来る前に俺はお暇させてもらうよ。』
「おい待て、ッ…逃げ足だけは早い。」
と共に連れ立った組織の男にとんずらされて面倒な事後報告を押し付けられた挙げ句、当然のことながら報酬はおじゃん。無駄足を取らされたが故に穏やかではない心がここにある。
_でもあの切り口は本当に多人数でやったのか?と、そろそろ子どもたちが来る時間か。
( 気持ちを切り替え一つに結んでいただけの長髪を簪で結い上げると外へ出る。
『あ、菊にぃ!見て見て!俺こんな高いところ登ったよ!すごいでしょ!』
「…なんでまたそんなところに!危ないからじっとして、そんなに動かないで…!」
外に出て幼い少年の声が聞こえてきたかと思えば、少年は寺子屋の門近くの大木の上に登りキャッキャッとはしゃいでおり。
元気は何よりだが落ちれば骨折は免れない高さ。はやく降ろさせねばと思った矢先、少年が足を踏み外しその小さな体が大きく下へ傾いていく__、
大木までの距離は走っても間に合わない。でも“キズを付ける訳にはいかない”
無理でもと大きく大木に向かって足を踏み込み__ )
(寺子屋にて、中より声はするものの、もう幾度と無く叩いた門は一向に開く気配は無い。
やむを得ないと門を勝手に開けると、瞬時。眼前に落下してくるは孤児荘の少年。
野菜の入った籠で受け止めると少年はこちらを見るなり少し驚いた様な表情で『あれ?兄ちゃん何でここにいるの?』と。
お前…あれほど危ない事はすんなって言っただろうが
(軽く頭を小突き、正面を見ればこの寺子屋の主であろう相手の姿が見え軽く会釈をするも己が口を開くよりも先に相手の背後より大きな声が響き。
『こら!!!!!遊び回らないって約束したから連れて来たのに!!!!!ごめんなさい先生………って!兄さん!?どうしてここにいるの!?』
向こうから走ってくるは孤児荘の年長の少女。
最近やたらと寺子屋に通い詰めては『私…将来は寺子屋の先生になりたいなぁ…』なんて頬を染めながら言っていたのも、相手の容姿をまじまじと見ては「そういう事か。」と。
自分の小さな一言に少女は顔を真っ赤に染めると己の肩を勢い良く叩いて来て。
少女が少年を引き摺る様に中に入って行ったのを見送ると相手に一歩近づき野菜の入った籠を渡す。
街角の八百屋の女将からだ。渡してくれって頼まれたんだよ。
(相手に渡した籠とは別のもう片方の籠の中の大根は先程少年を受け止めた際の衝撃でぽっきりと折れていて。
自分が説教せずとも後でみっちり少女に説教を喰らうであろう事を安易に想像しては相手に今更ながらの挨拶をする。
最近あいつ等があんたに学問を教わっていると聞いた。俺はあいつ等の親みたいな者で…まぁ、話すと面倒になる。
月謝はこれまでと合わせて町外れにある孤児荘に請求してくれ。
そこが俺の家だ。
(元々の口下手もあり要点だけをつらつらと話す。よくよくと相手の顔を見れば、町娘が騒いでいる役者も顔負けの容姿。これまで学問になど興味も示さなかった孤児荘の少女がこの寺子屋に通い詰めるのも安易に納得が行った。
自分よりは年上であろう落ち着いた雰囲気と、一見女性と言われても疑わぬまでの整った顔立ち。
優しげな雰囲気を身に纏ってはいる物の気になる点が一つあり。
己は鼻が効く。
昨日令嬢が囚われていた屋敷には鼻に五月蝿いまでの香が焚かれており、僅かにその香の香りが鼻を突いた。
香の香りは風呂に入ろうとも微量に残るものだ。
しかし野蛮な者達が集まる様なあのような場所、眼前の相手に縁があるとはとても思えない。
きっと自身に香りか染み付いているままなのだろうと己を納得させると用事は済んだと言わんばかりに裾を翻し。
( 間に合わないかに思われたが偶然なのか綺麗に少年を籠で受け止め現れた長身の相手に小さく目を見開く。折れたのは大根で少年がケロッと無事な様子に胸を撫で下ろし、わいわい騒ぎながら中へ入っていく少年少女とすれ違う形で相手に近づき野菜の入った籠を受け取って。
目の前の相手が己に付いた匂いに気付き、己の心中を損ねる張本人だとは夢にも思わない。凛とした端正な顔立ちにすらりと伸びた長い手脚、月の似合う男だと一目見て漠然と思い、職業柄相手の刀を見て良い値が付きそうなんて考えていれば、相手は既に背を向けており
ちょっと、待って。…少しの間此処に居てくれる?すぐに戻ってくるから。
( そう声を掛けて小走りに住まいへ戻れば野菜の入った籠を置いて代わりに小さめの風呂敷袋を手に戻ってきて相手に差し出して「野菜を持ってきてくれたのと少年を救ってくれたお礼。昨日甘味処の店主に小豆の乗った団子を頂いたんだけど食べ切れなくて。孤児荘の子たち全員分はないけどお兄さんのお腹を満たすくらいはある。甘いものが好きならいいんだけど。あとお兄さんの噂は聞いてる。子どもたちの奥様方が長身で色男で、まだ若いのに子どもたちを世話して立派だって。あと、ちょっと目つきが悪い。きっとお兄さんのことだ。…ああ、つい長く話をしてごめんね。」と人良さげに目元を和らげ、少しの揶揄いを混じえて相手の目を見て軽く肩をぽんぽんと叩いてやりもう一度風呂敷袋をどうぞ、と差し出し直して。)
(相手に渡された風呂敷袋を受け取ると「ありがたく頂くよ」と読めない表情のまま礼を言う。
風呂敷袋を受け取る際に更に色濃く香った香の匂い。
自身は相手と向き合ってからはまだ一歩も動いていない。
目の前の、優しげな雰囲気を纏いながら悪戯っぽく微笑む相手に、心情まさかなと思いつつも「…あんたは牡丹の花が好きなのか?」と問う。
今や牡丹の花の香りは花街を中心に江戸中を魅了している為珍しい香りでは無い。
しかし昨夜の屋敷に立ち込めていた香の香りは花街で使われている香と比べて遥かに上等な物で、その香りの強さは別格だった。
寺子屋の先生ともあろう相手が花街に入り浸っている姿など到底想像も付かない上に、相手ほどの容姿の持ち主であれば金なぞ払わずとも女は選び放題だろう。
常日頃の疑い癖が悪く出たなと反省する。
_いや、悪い。僅かにあんたから牡丹の香りがしたんでな。誰かと擦れ違った時にでも付いたんだろうよ。
(言葉では謝ってこそいる物のまるで相手が花街にでもいたかの様な事を匂わせる様に「男同士と言えど野暮な事を聞いたな。悪かったよ。」と人の悪い表情で口角を上げる。
風呂敷袋をひらりと軽く掲げ「ご馳走さん」と言うと今度こそ裾を翻し寺子屋を後にして。
(孤児荘にて、縁側に座り込み煙管を燻らしていると先程の相手の事が不意に頭に浮かんだ。
見目は、美しいという表現がぴったりなのだが何処と無く怪しげな雰囲気があって。
そんな事を考えていれば玄関先に黒い着物に身を包んだ男が立っているのに気が付き其方へと向かう。
『昨夜の報酬だ。』と投げ渡されたのは布に包まれた小判が十両ほど。
それと共に一枚の紙を渡される。
『昨夜の貴人はお前を大層気に入っていたぞ。なんせ令嬢に傷一つ付けずにご丁寧に気絶させて連れ戻したんだ。今夜もお前に仕事を頼みたいとの事だ。』
紙の内容を読めば昨夜の貴人が裏で売り捌いている阿片の密輸場の護衛だった。
_こりゃ確かに町奉公にも頼めねぇってこった。
(下らなそうに呟くと男は何も言わずに其の場を後にして。
面倒だが金の為。
縁側に戻ると昼寝から起床した幼い少年が目を擦りながら自分の膝の上によじ登って来て。
思い出した様に相手に貰った団子を一本やると「兄ちゃんや姉ちゃんには言うなよ。」と。
こく、と頷き嬉しそうに団子を頬張る少年を膝に乗せたまま、頭の中では今宵の依頼の策を練っていて。
_牡丹?
( 相手が去ったあと訝しげに眉を寄せて一人ぼやく。
此方を何処か探るような物言いとなにやら鼻につく言葉と表情。始めは何のことかと思ったが、ふと昨夜赤い鉄の異臭が立ち込める匂いの中に香った牡丹の匂いを思い出す。異臭の中でも強く香ったのでその時はやけに強く香るものだと引っ掛かりはしたが、今朝方には気にも留めていなかった。
まさかその匂いに気付いたか。だとすれば相当鼻が利く。
顔立ちも良く優れた嗅覚、もし同じ密売人ならたんまり稼げるに違いない。
ただあの言い方は少々気に食わない。まだ己より年下だろうに可愛くない、と相手と昨夜のことは特に結びつかず、そう会うこともないだろうと気にしないことにして。
『せんせー、おはよー。』
「ああ、おはよう。…あ、その花の髪飾り綺麗だね。」
『うん!お母さんがね、使えなくなった手拭いで作ってくれたの。』
「それは良い。…ところで先生、なにか匂うかな?」
『えー?んー、何も匂わないよ?』
(手を振り寺子屋にやってきた少女の視線に合わせて身を屈めて話し一応匂いについて聞いてみるも少女は首を捻る。
子どもたちが分からないのならいいかと呑気に思いつつちらほらとやってくる子どもたちを出迎え寺子屋の中へと入っていき。
( 時は其の日の晩、仮眠を取り向かうは夜の仕事。
昨晩は思わぬ損失を被ったため今宵は失態を繰り返せない。なのに今宵の依頼もどうやらまたあの貴人が関わっているらしい。その内容は阿片を買い取る男の代わりに密輸場へ出向き阿片を手に入れるというもの。何でも依頼主である男は役所の人間。当然役所の人間が阿片に手を出しているなんて知られる訳にはいかない。素性を明かせぬ男の代わりに己が密売人として密輸場へ行くことになっていて。
まだ来てないか…。
( 密輸場である街中の飲み屋へ来れば迷わず奥の部屋へ足を向ける。襖を後手に閉じ、しんとした室内を見回しては一人呟きひとまず部屋の真ん中に置かれた木彫りの机の下手に座り。顔半分を隠す黒い布を目元まで上げ直しつつ、さっさと終わらせて帰ろうと売人が来るのを待って。)
(其の晩、子供達が寝静まったのを確認すると、昼間の男から受け取っていた漆黒の着物に着替える。
孤児荘を後にし密輸場である格式高い飲み屋の裏口まで辿り着けば売人である、貴人の男の側近と落ち合う。
『その髪と眼は人目を集める。どうにかならんのか。』と煩わしそうに言われるも此れは生まれ付きの物。
黒い布を投げ渡され、頭部を覆う様に巻き付けると売人の後に続いて中へと入る。
廊下の奥、如何にも金持ちの宴会にでも使われる様な広い部屋の金の襖を開けると黒の着物に身を包んだ男が姿勢良く佇んでおり。
『此処までで良い。御前は部屋の外で見張りをしていろ。』と命じられこくりと頷く。
『四半刻経っても出て来なかったら中へ入れ。』と耳打ちされ己の腰元の真白の刀に手を乗せたまま襖を閉める。
(内部にて、売人が相手の正面に腰を下ろすと小さな布袋を机の上に置く。
『御前は…、代理の受取人か。嗚呼、先程の男なら気にするな。ただの護衛だ。御前が此方に危害を加えない限りは動かんさ。』
相手から金を受け取り懐に仕舞えば売人は人の悪い笑みを浮かべる。
『御前は此奴を求めてはいないのか?何、使いの駄賃として安くしてやろうと思ってな。』
どうやらこの男、眼前の相手自身にも阿片を売り付けようと目論んだ様で。
しかし相手も仕事上で此処へ来た身、一筋縄ではいかないだろうと思った男は襖の向こうにいる己を呼び、店主から酒を受け取って来る様に命じて来て。
無言で承知するなり此の店で一番高い酒を店主から受け取ると先程の部屋へと戻る。
『御前も呑まないか。』と売人である男に己も誘われる。
_酒は、弱いんだ。
(静かに答えると『つまらん男だ。』と一言。
受取人である相手の顔は良く見えない物の、まさか朝に出会った“寺子屋の先生“である事など到底知る由も無く。
売人に酒を渡しては護衛の持ち場に戻ろうと其の場を後にしようとして。
( 手早く済ませて帰ろうと待っていれば襖が開き、現れた売人と共に連れ立つ相手の姿におやと思う。髪こそ隠れているがあの人を惹きつける深紅の瞳と真白の刀。まさかと心がざわつくが核心は持てず、平静を保ち机の上に置かれた布袋の代わりに代金が包まれた布袋を懐から取り出して机の上へ置き。
そして、此処で一つ試してやろうと。
随分良い酒だな。代人に売りつけなければいけない程商売が上手くいっていないのか?…まあ良い。物には興味がある。安くしてくれるなら乗ってやってもいい。__其処のお前は興味ないのか?
( 寺子屋の時よりも抑揚はなく抑えた声、皮肉を混じえて存外あっさりと話に乗ってやる。勿論阿片など毛頭興味もない。ただ情報源として何かと使える。それにもし護衛の男が“孤児荘の管理主”なら__、他人のどうこう等関わらないのが得策。己自身の正体も気付かれる可能性もある。だが子どもに優しい男が裏に手を染める人間の可能性があり、どんな男か気になって。
此の場を後にしようとする相手に声を掛け、代人として受け取った阿片の入った袋をゆらゆらと揺らし「お前も興味があるなら俺が此れから買う分の分け前をくれてやってもいい。積った疲れも忘れられるし気分も良くなれる。」と変わらず感情の読み取りづらい声色だが、己の毛嫌いする人を阿片の闇へ陥れる売人の物言いを真似て誘い。)
(さっさと部屋を出てしまいたかった物の、相手の発言に足を止めては眉を顰める。
酒や阿片といった類の物は常人よりも効き易いという事もあり断ろうとするも口を開く前に売人に襟を掴まれ引き寄せられる。
『腹が立つ男だが…“御前も興味があるなら”と言ったのを御前も聞いていただろう。大人しく従え。』
其れは所詮『興味があると答えろ。』と言う意味。小声でこそある物の売人の声色には圧が強く込められていて。
『御前が一言答えれば今夜の売り上げは約二倍だ。報酬も増えるぞ。早く言え。』
襟首を掴む売人の手に力が込められる。
小さく舌打ちをすれば相手に向き直り、心底嫌そうに眉を寄せたまま「分かった。“興味がある”。此れで良いか。」と。
売人は満足そうな笑みを浮かべると持参していた風呂敷袋から小さな布袋を取り出し『一両で構わん。“次”があった際は定価の金額を貰う事になるから大事に使う事だな。』と相手に言い。
売人が徐に布袋を開け、約三分の一の量を己の分け前用にと相手と自分の目の前で分量しようとしたその刹那。
その独特な阿片の香りに鼻が貫かれ思わず袖で口元を覆う。
瞳孔が開き始め己の牙の違和感を感じ、耐え切れず売人の男に「分け前は、_ッあんたが持っててくれ。後で受け取りに行く。」と吐き捨てる様に言い一目散に其の場を後にして。
(時刻は既に深夜。足早に街を抜けいつもの丘に向かうも深夜見回りの町奉公の者に腕を掴まれる。
『なんだ御前。そんなに焦って…それにその身形、怪しいな。』
此方を訝しんでいる様子の町奉公の男に頭を覆っていた布を強引に奪われる。
己の顔を提灯で照らすなり町奉公の男は尻餅を付き『ば…化物!!!』と叫んだ。
腕が解放され未だ恐れを成している男になど目もくれず街を走り抜ける。
林を抜ける頃には自分でも気付かぬ内に四足で走っており、真白の刀を咥えたまま漸く丘に辿り着く。
其の頃には既に人間の姿は忘れており、銀毛の狼の姿で。
大木の下にて崩れ落ちる様に倒れると、ゆっくりと呼吸を整える。
阿片の香りは、特に苦手だった。
先程の町奉公の男の“化物!!!”と言う叫び声と共に、幼少期、阿片に狂った父親の姿を思い出す。
疲れた身体に冷たい風が心地良く感じ、やけに近い月を見上げては暫く身体を休めていて。
__わからない奴だ。
( 相手が去った方向に視線を向けぽつりと呟く。
先の態度からするに阿片には然程興味はない。それに気になるのは実際に阿片を目の前にした時に反応。深紅の瞳が揺れ動き、その瞳の奥底には動揺とはまた違う怖れに似た何かを感じた。もし朝方に会った男であれば鋭敏な嗅覚により、先の反応も納得できるが…。
『全く、まだ護衛は終わってないってのに。まあ、良い働きはしてくれた。御前も早く代金を出せ。』
「わかってるよ。“次”も期待してくれ。…ところでさっきの護衛の男の名を知っているか?」
『さあな、ただ腕はすこぶる立つらしい。ついこの前あった令嬢を攫った輩たちを切ったのも彼奴だと噂になってる。…と話し過ぎたか。酒もくれてやるから持って帰れ。』
( 売人の男は己が渡した金を受け取ると相手のことを気に入ったらしく一癖ありそうだがまた雇おうか等と口にしながらその場を去っていき。
一人になり、面白いことを聞いたなと思うが深追いする有益はない。
何かと気がかりはあるが敢えてこれ以上探ることもないかと分け前の阿片と酒を手に宵闇へと出て、依頼主のもとへ立ち寄ってから丘の向こうの月を背に家路に付いて。
『間違いない、向こうの丘の麓で見たんだよ。あれはこの世のものじゃなかった。今にも襲ってきそうだったよ。』
『まさか、御前の見間違いじゃないのか?寝ぼけてたんだろ。』
( そんな噂が飛び交うのは翌日の昼時の街中、己は寺子屋の子どもに団子をせがまれて少年少女を一人ずつ引き連れ甘味処へ向かうところ。噂も耳に入ってきたが、昨夜は相手の変化した姿は見ていないため特に気に留めず相手の苦しみも知る由もない。
『菊にぃ。僕ね、孤児荘の女の子と仲良くなったんだけど、その子すっごく可愛いんだ。どうやったらもっと仲良くなれるかな?』
「そうだなぁ、その子の好きが何か見つけて一緒にお話したり、一番は素直な気持ちを伝えることじゃないかな。」
( 無垢な少年の手を引きのんびりした声で答えながら脳裏には今宵の依頼について過る。
依頼は“孤児荘の少女を連れ出し売りに出すこと”。どうやら己は何かと相手に縁があるらしい。面倒だなと心中嘆息を付きながら「その女の子にも団子を持っていくといいよ。」と微笑み甘味処へ向かって。)
(あの後、漸く人間の姿へと戻れ明け方孤児荘へと帰路を辿る。
早朝にも関わらず街は町奉公の者で溢れており、急ぎ早に孤児荘へと向かうと入り口に昨夜の売人の男が立っており。
『御前の分前分だ。わざわざ届けに来てやったんだ。本来であれば護衛の任を途中で放棄したのも同然。…だが御前の一言で売り上げは上がった訳だからな。今回ばかりは見逃そう。今回だけだぞ。』
渡された小さな布袋を受け取り眉間に皺を寄せる。
男が去った後、己の部屋にあった小さな木箱に布袋を仕舞っては更にそれを押入れの中の金庫へ押し込む。
此れはいずれ何らかの仕事で約に立つかもしれない。
今夜は久し振りに夜の仕事は入っていない。
縁側で煙管を燻らせていると、ぱたぱたと二人の少年少女が此方へと走って来て。
『あっ、兄ちゃんまた煙管!姉ちゃんに駄目だって言われてたじゃん!』
『臭くなっちゃうよ!!!』
わらわらと騒ぐ二人に近付くなと手をひらりとやっては「なら御前らがあっちに行けよ。」と。
『違う違う!そうだ兄ちゃんに用事があったの!この前隠れてお団子食べたんでしょ!』
『こっちは全部聞いてるんだからね!!!ずるいーーー!!!』
ぎゃあぎゃあと騒ぐ子供達に、先日縁側にて一緒に団子を食べた幼い少年が口を滑らせた事を察する。
二人の様子は口で宥めた所で治る気配は無いし一つ溜息をつくと二人に上着を着てくる様にと命じて。
(二人を連れ向かうは甘味処。街中には物珍しい貼り紙が貼られていた。
“化物、注意”
何とも抽象的と思うも描かれた絵のお陰で“化物”が己を指している事は容易に分かり。
僅かに気分は落ちた物の街の活気の良さに何処と無く安堵し甘味処に到着して。
子供達の分の団子を選んで店前の椅子に座ろうかと店を出た其の刹那、子供達の『あっ!!!菊せんせーーー!!!』と叫ぶ声に目をやれば向こうから相手と寺子屋に通う子供達の姿が見え。
途端に孤児荘の少女が自分へと駆け寄り『ねぇ!私の三つ編み、拠れてないかな。』と焦ったように聞いてくる。
寺子屋の子供達が此方へ走ってくる中、何処か余所余所しそうに髪型を気にする眼前の少女と寺子屋の少年が目に入れば、自然と僅かに表情が和らぎ。
_嗚呼、先生か。どうも。
(先日相手に何となく嫌みをぶつけたばかり。無表情のまま挨拶を済ませれば椅子に腰を下ろし足を組む。
相手の顔を見るなり何故か頭に浮かんだのは昨夜の受取代理人のあの男。
雰囲気が何処と無く相手に似ており、何の確信もない物の不思議な違和感が拭い切れず少し離れた場所で遊び始めた子供達に視線を向けると煙管の煙をふ、と吐き。
ああ、偶然だね。…お兄さんも子どもたちをお団子を買いに?
( 甘味処へ近づいた時、店内から出てきた人影に小さく目を見開く。
子どもたちが先に走っていくのに助けられて後に付いていき、ふと少年少女を見る相手の表情が目に付けば、こんな顔もできるのだと意外に思い。かと思えば次には少々ぶっきら棒なご挨拶。昨夜の相手の姿と重なり、やはり他人の空似でも無ければ同一人物であることに違いないだろうと。
子ども達の笑顔を見てると癒やされるよね。…ああ、お兄さんもまだ子どもと言えば子どもか。
( 隣に座って良い?と問いかけながら返事を待たずに拳3つ分ほど開けて腰掛け、少女の三つ編みを『かわいいね。』と頬を染めて褒める少年の微笑ましい光景に双眸を細める。
煙管を燻らす姿が絵になる横顔を見遣り、また1つ揶揄ってやれば店内から聞こえる黄色い声。
『ねぇ、あの背の高い殿方、少し冷たい雰囲気がとても素敵だと思わない?』
『本当、素敵。…あの方が今噂になってる化物を退治してくれたら最高よね。』
『化物…、ここだけの話、実は私の父さんが昔にも見たって言ってたわ。同じ化物かわからないけれど怖いわよね。』
そんな若い町娘の会話。後半は声量を抑えていたが何となく聞き取れて。
「色男は仕事が多くて大変だ。…お兄さんはどう思う?あの噂。」
つい茶化しをいれてからりと笑い、今宵の依頼のこともあるし相手の人柄をもう少し知っておこうかとまさか噂の当人とは思わず、少し顔を覗き込むようにして聞いてみて。)
(端正な顔立ちに似合わない、揶揄いの様な、嫌味の様な言葉を紛れさす相手を何処か気に食わない気持ちで再び煙を吐き出すも、自分には町娘の会話など興味を持っていなかったからか耳に入っておらず。
しかし“あの噂”と言った言葉にほんの僅かに眉を寄せる。
たった一晩で江戸中に広まった噂と言えば一つしかない。
_何だ先生。化物なんて信じてんのか?随分可愛い性分なこった。
(どう思うか聞かれただけだが相手が噂をさも信じているかの様に、隣に座る相手に向き直り見下す様に馬鹿にした様な表情で言い。
冷めて己の舌に丁度良い温度になったお茶を啜れば「化物なんて、いる筈ねぇだろ。」と静かに言う。
再び相手の顔を見詰めると、やはり昨夜の受取代理人の男と何処となく重なり。
目元が似ている、否、似ているどころか瓜二つ。
しかし昨夜の男は短髪だった筈。
徐に手を伸ばすと相手の髪を軽く引っ張る。
途端に、自分でも何をやっているんだと思いぱっと手を離せば「あ、悪い。鬘かと。」と素直な感想を述べるも「(何を言っているんだ俺は。)」と正気に戻り軽く咳払いをする。
(子供たちが団子を平らげたのを確認しては店内に皿を置きに行く。
寺子屋に通う少年が『今度孤児荘に遊びに行っても良い?』と自分の着物の袖を引き聞いてきたのを見詰めると「おう。いつでも来な。」と僅かに表情を和らげて答えて。
二人が寺子屋の子供達に手を振る中、引っ掛かりが取れぬまま相手の横を通り過ぎようとした際に、常人では感じ取れぬ程の阿片の匂いがほんの僅かに感じ取れ、ばっと相手に向き直る。
何の確信も無い、ただ僅かな胸騒ぎがし「あんた、昨夜は何をしていた。…呑みにでも…行ってたか?」と。
冷静を装う為か無表情は崩さないまま問い掛ける。
基本他人の私的な問題毎には興味など毛頭ないが、己に関わっている可能性があるとなると話は別。
真っ直ぐ相手を見つめたまま相手の返答を待って。
…お兄さんも言うね。吃驚した。
( 普段誰かに馬鹿にされても特に何も感じないが何故か相手に言われると気に触る。表情に出さないものの髪に触られた時は素で思わず目をぱちりとさせて、動揺していない口ぶりだが素直に零し特に嫌な顔はせず。
( 寺子屋で待つ子どもたちの分の団子を買って少女に持たせ、やはり子どもには柔らかな表情をする相手にこの後のやりづらさを感じつつ、ひとまず此の場を離れようとしたとき、問われた言葉に目を瞬かせる。
心中、疑われてるのだと気付き研ぎ澄まされた嗅覚に舌を巻き先程髪を触ってきたのも合点がいき。
少しわざとらしいくらいにはてと首を傾げてゆらりと髪を揺らした後、表情を消してじっと相手の瞳を見て其れから一歩二歩と爪先が触れ合うくらい距離を詰めて。
…ふっ、お兄さん、牡丹の香りと言い、髪を触ったり昨夜のことを聞いてきたり、もしかして俺に惚れてる?誘うならもっと上手く誘わないと。
( 消していた表情を一変、口元を緩めて冗談を口にすると、相手の白い頬に片手を触れさせて軽く指先で撫でてやる。今宵の依頼のこともある。このまま記憶を操作しても良かった。然しそれはせずにするりと頬をなぞるように手を離してひらつかせ「なんてね。ちなみに噂の化物がどうかは別にして…信じてるよ、俺は。あと昨夜は教鞭の準備をしてた。もしかしてまた何か匂う?あ、色々聞かれたし俺は君の今夜の予定が知りたいな。」本心を混じえて答えてやるが、後半は息を吐くように嘘を述べ自身の手の甲の匂いを嗅いで肩を竦ませる。続けて脈絡はないが揶揄いで押し切ろうとそれっぽく情報を聞き出そうと視線を向けて。)
(妖艶な表情で頬を撫でられれば、其の手は冷えた為かひんやりと冷たく、相手の揶揄いが何故かまた勘に触り。
_あんたみたいな生意気な男は好みじゃ無いんだ。“顔だけ”ってのはあんたの為にあるような言葉だな。まぁ、本気で惚れた相手にはもっと上手くやるさ。
(所詮己もまだ“子供”なのか、腹立った気持ちを隠すように相手を見下しいつもの馬鹿にした様な表情で言い放ち。
「今夜は空いてるぜ。何だよ、先生の方こそ俺を誘いたかったのか?」と皮肉を混ぜるかの様に此処で相手をあえて“先生”呼びにして。
寺子屋の子供達と『また遊ぼうね!』と約束をしている少年少女達を呼び戻しては相手への怪しさが拭えないまま其の場を後にして。
(時刻は夜、久し振りに依頼は入っておらず縁側にて月を見上げながら煙管を燻らせる。
殆ど手入れの必要ない己の刀は妖刀と呼ばれており、人の生き血を吸って切れ味に磨きがかかる仕組み。
綺麗に拭き上げた後、刀を鞘に収めては明日の依頼の内容が記されている紙を見詰める。
依頼相手は先日の貴人の娘である令嬢直々からの物。
内容は街で見掛けた男に一目惚れをしたので其の男を一晩買いたいとの事。
金に物を言わせようとする所が、さすがあの男の娘と言ったところかと内心悪態を付く。
しかし、一目惚れをしたとやらの男の特徴を見ては目を見開く。
“艶やかな長髪で切長の瞳、寺子屋の先生をしている”
大きな溜息を漏らしては今一番関わりたくない相手が対象である事に絶望し、依頼の紙を燃やす。
相手と自分は面識がある故に仕事上では関わる事が困難なのだ。
しかし流石は貴人の令嬢、報酬はかなりの額。
どう相手を引き出そうかと頭を悩ませつつ自分の寝所へと入る。
まさか今頃相手が孤児荘の少女を狙っているなどとは分かる由もなく、そのまま瞳を閉じて。
(深夜、カタリ、とした小さな物音に目を覚ましてはまた鼠が入り込んだかと。
聴力と嗅覚は常人の何倍にも感じ取れ易い為、こういった無駄な物音でも目を覚ましてしまう。
台所に行っては水を飲み干し再び自室へと戻る。
僅かにはだけた寝巻きからは幼き頃の凄惨な出来事を物語るような傷痕が大量に残っており、寝巻きを治しては再び寝床へと着いて。
( 人も町も寝静まる時刻、この季節の夜は虫もあまり鳴かず静かで肌を撫でる風が冷たい。
今自分は密売人の格好をして孤児荘の裏手に回ってきたところ。
正直、気は向かない。子どもの密売ということもあるが、相手が関わっていることが大きい。
相手が分かりやすく裏に染まりもっと悪どい輩ならやりすかった。しかし、昼間の相手の大人びたようで子どもっぽさが垣間見える言動や子どもを見る目。顔だけで生意気なのはそっちだろうと言い返したくなるが何故か憎めない。
それでも依頼とあれば相手がどんな人間だろうと関係ない。対峙するならば其れまで。
相手は気配や匂いに敏感、意味を成さず逆効果の可能性もあるが匂い消しの薬草の煙を纏ってきた。
孤児荘の間取りは大まかにだが孤児荘の少年少女にそれとなく聞いてきたため、割りとすんなり建物内に侵入することに成功する。気配を消す呼吸法で壁に添って忍び足で子どもたちが眠る部屋へ向かうところ、カツンとほんの微かに足先に何かがあたる。ひやりとして下を見ればそれは木で作られた小さな駒。コロンコロンと何度か右に左に振れて静かに動かなくなった其れに安堵したのも束の間、あろうことか相手が起きてきて。
幸いにも死角だが背筋に冷や汗が伝う。念のため手鏡で相手の様子を伺い、見辛いが鏡に映った白い肌に痛々しく刻まれた傷跡に小さく目を見開いて。
一体なんの傷跡なのか、生意気な表情の裏に何かあると言うのか。いや、どうせ裏の仕事で付いた傷跡だろう。
ほんの一瞬、気配を消すことを忘れかけるも、相手は此方に気付いているか否かその場を離れていき短く息を吐き出す。
何故年下の餓鬼にこうも惑わされないといけないのかと苛立つ感情を抑えて少女の眠る場所へ行けば其処からは早く、少女の枕元へゆっくり座り「ごめんね。」と一言声を掛け、懐から身体に影響のない睡眠薬を吸い込ませた布で少女の口を覆い更に深い眠りへと誘い。そしてその小さな身体を片腕に抱き上げて素早く孤児荘の裏手口へと出て。)
(孤児荘は広い。其の上造りは決して新しくはない。
鼠の音に起こされるのは日常茶飯事だが、ほんの僅かに何者かの気配が入り混じっておりこの状態で寝付ける筈も無く入り口の門へと向かうもしっかりと施錠されていて。
其の流れで裏口へと向かうと扉下の土の擦り具合から何者かが潜入して来た事は間違い無く寝巻きのまま駆け出す。
昼間とは打って変わって静かな街、自分が依頼を受ける際には裏通りを通る。もし先程侵入してきた者が同職であれば、と裏通りに曲がったのと同時に先方に見えるのは孤児荘の少女を抱える黒い着物の男の姿。
歯をぎり、と鳴らし全速力で走り相手に正面に回れは刀を眼前の男に向ける。
_何処の者だ。
(雲に隠れていた月が顔を出すと同時に相手の顔も照らされる。
相手はつい先日会ったばかりの代理受取人の男。
子供を抱える相手の隙を付き、一瞬で切り掛かってははらりと落ちる黒い布。
しかし顔を背けられたまま此方の隙を付き逃げられてしまってはまた一から探す手間になり。
焦る気持ちを抑え一度冷静になる。幼い子供を攫うのならばきっと売りに出す筈。
敢えて孤児荘の子供を狙ってきた辺りを見ると己に恨みがありそうな存在。そしてあの男はあくまでも依頼人なのだろうなと。
急いで真っ直ぐ向かったのは花街の奥にある少女の買取場。
売られてきた子供は其の美しさや肌の白さにより欲しがる店は多く、一度競売に出される事もある。
相手が孤児荘の少女を受け渡し、報酬を受け取り其の場を去った途端、競売の管理者である男に近付き背後から首元を腕で押さえ込む。
_其奴はまだまだ餓鬼だぜ?しかもお転婆と来た。仕込むのに何年掛かるかわかんねぇぞ。そんな餓鬼よりも、俺の方が面白い見世物できるぜ?
(甘い言葉で囁き疑う様な視線を向けてくる管理者に「最近の化物の正体は狼人間らしい。俺が其の化物だと言ったら?」と囁くと管理者は興味ありげな視線を向けて来て。
「まぁ待てよ。条件がある。其れが呑めないなら大人しく其の餓鬼は受け渡すよ。まず其の餓鬼は俺に預ける事。そして見世物をやるのは一回きりだ。顔を知られる訳には行かないから面か何か用意してくれ。どうだ?此の餓鬼を仕込むまでに数年かけた所で売れるか分からない、其れよりも一夜でボロ儲けの方が良い話じゃねぇか?」と。
男の前でほんの僅かに狼化すれば男は人の悪い笑みを浮かべあっさり了承してくれて。
(孤児荘の少女を横抱きに抱えたまま孤児荘へ到着すると寝室にそっと寝かす。
明日は相手を令嬢の元に運んだ後は、見世物の仕事。
花街にてお祭り騒ぎで行われる事を予想しては令嬢が相手と外に出てくるのだけは阻止したい所。
令嬢の依頼内容は相手を一晩買いたいと言う事だったし所詮行われるのは男女の営み、外へ出る事は無いだろうと僅かばかり安堵しては裏口の鍵もしっかりと施錠し漸く自室へ戻る。
子供達だけは何としても守らないといけない、自分の様な思いをする子供はいなくて良い。
無意識の内に歯を食い縛っては静かに眠りに着いて。
( 無事に住まいの自室に戻れば普段感じない疲労感に床にどすっと座り長めの嘆息を零す。
月夜に照らされる刀を構える相手の姿、真白の刀と紅い瞳の対比が酷く美しく魅せられるも伝うのは冷や汗。令嬢を攫った組織を全滅させたのが相手なら子どもを抱える己が刀を交えて勝つ見込みは絶望的。
そしてやはり相手は強かった。的確な刀さばきで黒布は舞い、その時に僅かに付いた口元の掠り傷を親指でなぞる。
相手が受けた依頼や管理者と交わした条件などは露知らず、明日は管理者に売り渡した少女を裏ルートを使って安全な里親へ引き渡せねばならない。勿論、其処に組織は介入していなく個人的にしてるだけ。相手の行動によりその手間も省ける訳だが、まだその事は知らずに寝支度を済ませて眠りに付いて。
( 翌日、直ぐにでも少女の安否のため管理者の元へ行きたかったが策を進められるのは日が暮れてから。少女が怖い思いをしていないといいがと、必要のない心配をしつつ口元の掠り傷を白粉を使って隠す。
寺子屋の格好で町へ向かい馴染みの古本屋の敷居を潜れば店主である優しげな白髪を生やした男が近づいてきて
『おー、菊先生。丁度良かった。子どもたちに良い教本が入ったんだよ。』
「そう思って来たところだよ。…お、本当に良い本だ。状態も良い。子どもたちも喜ぶよ。」
『それはそうと聞いたかい?今夜の見世物の話。』
「見世物?」
『まぁ、あまり表沙汰にはなっていないようだけれど、さっきお侍様方が話しているのを聞いてね。噂の化物を見れるとか。』
「…へぇ、」
『おや、興味ないかい?』
「いや、少し思うところがあっただけだよ。…本ありがとう。これはおまけ。」
( 緩く肩を竦ませて二冊の教本を風呂敷に包むと代金と共にお礼の林檎を渡す。本屋での用は済んだため自身の夕餉の食材でも買おうかとさっき聞いた話を考えながら八百屋へ足を向け。)
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