匿名社畜さん 2023-01-19 21:11:57 |
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へえ…──あ、良い香り。
( 鼻腔に届く芳ばしい出汁の香りに頬緩め、寄りかかっていた姿勢を正して促されるままに席へ腰掛け。自身の起床時間に合わせられた朝食、その上料理の腕が立つ幼馴染が用意する食事は毎回密かな楽しみであり )
じゃあ、いただきます。
( 以前の相手の食事には決して無かった筈の一汁三菜。毎日帰宅が遅い相手には、バランス良い食事をと考えて毎回欠かさずそれを出すよう心掛けていて。合掌した後、まず先に相手の反応を窺うのは毎度の癖になっていて )
…どう?
ん、いただきます。
( 合掌した後真っ先に食指が向いたのはだし巻き玉子。口内で解れてふわりとした食感と鼻に抜ける出汁の良い香りに自然と頬が緩み。窺う視線を交わらせ親指を立てると同時に賛辞の言葉述べて )
すげぇ美味いよ。天才。この出汁巻き、好物になりそう。
良かったあ~…、和食の時は絶対作るね!
( 相手の反応に安堵の表情浮べ、それに続くように自分も箸を進めていき。我ながら上手く出来たと自画自賛、黙々と朝食を食べ進めていく中でふと思ったのは今日は休日という事。特に予定の無さそうな相手に視線を向け )
透くんは休みの日って出掛けたりしないの?
っはは、絶対って。あー…でも甘い味付けのも食ってみたいかも。作れる?
( 素直な反応に肩揺らし朗笑し、一旦箸を止めてはリクエストを。窺うように視線を皿から上げた所、ぱっちりとした双眸が此方を見詰めている事に気付き。端的な説明に干物然とした言い分を添え解答すれば、逡巡した挙句粗削りな形で問うて )
飲みに誘われりゃ出る事もあるけど、大概は家ン中。休日まで肩肘張りたくねぇし。……どっか出掛ける?
甘い卵焼きは得意!この私に任せなさ~いっ。
( 甘い味付けのリクエストは自分の中で唯一得意としている物でトンと胸を張り笑顔見せ。相手の休日の過ごし方を相槌を打ちながら聞いていれば、まさかのお誘いに若干噎せそうになりながらも内心は嬉しく思わず質問攻めに )
うわあ…完全に干物じゃん。ま、社畜だもんね、仕方ない…っ、え!?いいの?無理とかしてない?
よっしゃ、じゃあ約束な。
( 頼もしさすら感じ得るその笑顔に無意識的に口角が自然と上がり。マグカップに注がれた珈琲を一口分嚥下した後に、想像以上の食いつきに刹那驚愕はするものの、次いで愉快そうに喉を鳴らし笑い。単なる気紛れを装い息抜きを、と願うさまは密かに胸奥に隠し )
落ち着けっての。お前に対して今更してねぇし、気も使ってねぇよ。…行きたい場所とか無いの、場合によっては車出すけど。
うん!よーし、次も絶対美味しいって言わせる!
( 無意識なのか自然と上がった口角に嬉しさにやる気は一気に急上昇。喉を鳴らして笑う相手に、余程自分の反応が変だったのかと不思議そうに首傾げ。行きたい場所を問われると更にテンションMAXに。幾つか候補があるのか、指折り数え伝えていくとある疑問が生まれ )
無理落ち着いてられない!えっとね、隣街のショッピングモールでしょ~、水族館もありだし…ん?待って、なんかこれデートみたいになってるじゃん!
良いじゃん、デートで。相手は俺じゃ不満?
( 次々と出先の候補が挙げられていくのを食事の合間に見守っていた筈が、突拍子もなく告げられた単語に口許抑え噎せて。ふう、と落ち着けばにまりと悪戯な笑みを湛え、やや挑戦的な雰囲気を醸しながら応じ )
べ、別に?そこまで言うなら〝デート〟してあげてもいいけど。
( 否定されると思っていれば、まさかの挑戦的な態度に負けじと敢えて上から目線で対抗し。そうと決まれば善は急げと言わんばかりに早々と朝食を済ませ食器を片付けるべくキッチンに。先程のやり取りを思い出し、妙な緊張感を抱けば相手にバレないように深呼吸を )
…ふぅ、落ち着け私…。
っ、ふ…
( 歳頃の少々幼さ残るふてぶてしさに堂々と笑顔で応戦するも、食事を終え食器を手にキッチンへ消える相手を見送れば堪らず笑い声零し。皿に残された最後の一口を食べ終え、両手の平を合わせて「ご馳走さまでした」と唱えるなり机上を簡単に片付け始め。使用した皿を洗うべくしてキッチンに向かえば、つい先刻席を立った同居人の後ろ姿を視認し、相手の動揺など何処吹く風で話し掛け )
菜月、皿くらい俺が洗っておくから。準備して来いよ。……あ、朝食美味かった。ご馳走さま。
ぅわ!びっくりした…。あ、うん。じゃあそうさせて貰おうかな。準備してくるね。
( まだ相手は座っていると思っていたのに急に背後から話し掛けられビクッと身体を跳ねさせ。その勢いで〝美味かった〟の言葉に対して上手く反応できず素っ気ない返事になり。普段は食器を洗う相手の姿を余り見る機会もなく、つい余計な一言を言ってしまいがちだがどうも今日はそうはいかない。ここは素直に甘えさせて貰うことにし「お願いします」と小さく付け加えればそのまま準備をしに自分の部屋に向かっていき )
あ、やべ。
( 〝デート〟の単語に啖呵を切った相手の面影はなく、素っ気ない態度に首を傾げて見送り。さて眼下に映るは二人分の食器。泡立てたスポンジを片手に順調に洗い進めていた筈が、掴み損ねた皿をシンクに落とし見事割れてしまい。生活力のなさを酷く実感しながら割れた皿をビニール袋に入れる最中ですら食指の腹を切るも俄然気に留めず。災難あれど自ずと引き受けた役割を果たし、自分も支度をすべく一先ず洗面所へ移動し )
よし、準備完了。
( 一応仮にもデートという事でお洒落は必須だと乙女心に気合いが入り、クローゼットからお気に入りのニットワンピースを取り出し着替えるとその上にコートを羽織り。メイクも軽くする程度に抑え香らせる程度の香水も付け最終確認のため洗面所へ。先客が居たため邪魔にならない所で順番待ちしていれば相手の指に気付き )
あれ、なんか血が出てない?
ん?あ゛ー…さっき皿割っちまって。そん時かな。
( 後は外出用の服装に着替えるだけ。自室に戻ろうと踵を返す直前、ふと鼻腔を衝く仄かに甘い香りに背後を振り返り粧した幼馴染を視認し。指摘され初めてやや深く切れた様子の指の腹に気付き、何処か煮え切らない短な説明を試みて。続いて満遍なく破片を拾い片付け相手のテリトリーは安全だと云う旨を伝え )
割れたもんは片付けたから、キッチンは今まで通り好きに使ってくれて構わねぇよ。
早く手当てしなきゃ!ちょっと待ってて!あ、血出てるからちゃんと水で流してよ?
( 相手の指を手に取り傷口を確認。その後指示を出すと返事を聞く前に洗面所を足早に出て、リビングに常備してある救急セットから消毒液とガーゼ、絆創膏を手に取り直ぐに幼馴染の元へ )
いいって。手当する程深い傷じゃねぇし──あ~…駄目だ、菜月全然聞いてねぇ。
( 傷を確認する為か躊躇いなく掬い上げられた末に行く宛てを失った右手を揺らし、手当は不要だと手招くも然して背を向けた彼女には意味をなさず。眉間に皺を拵えながら言いつけ通りに従えば、蛇口を捻り傷口を水に晒し )
お待たせ、切った所手当するよー。
( きちんと自分の言った通りに傷口を洗っている幼馴染の姿を見守り。そっと手を取り水で濡れた部分を優しくタオルで拭い消毒液をかけ、清潔なガーゼを軽く押し当てたあとに絆創膏を優しく巻いてやり )
…はい、終わり。お皿洗ってくれてありがとう。もう、次から私がやるから透くんは何もしないでね!
どうして手当すら慣れてんの。はいはい、キッチンは菜月に任せる。後はまあ、うん、…ありがとな。
( 優しくされど手早い処置に目を瞠り、手許に視線を落としたまま本心が独り言ち。若干の不服さを噛み締めつつ同意しては、煮え切らない面持ちで礼を述べ。準備万端な様子の相手と、未だに部屋着の自身を見比べては自室の方親指で指し示し )
着替えて来るから、ちょっと待ってて。ついでに何処寄りてぇかも考えといてくれたら、お兄さん超助かる。
え、これくらい普通じゃない?…ふふ、どういたしまして!
( 手慣れている事に疑問を抱いた様子の相手にきょとんとした表情で淡々と答え。何やら不服そうな面持ちの相手を見て口許を抑えながら微笑し、着替えに行くという言葉に片手をひらひらさせて見送ると、行き先を決めるためスマホを開いて何やら検索し始めて )
はーい、いってら~。うーん、どこに連れてって貰おうかな…。わ、これ美味しそう!
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