匿名さん 2022-12-28 19:47:12 |
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(先程と同様に、また視界が光で覆われ――気が付いた頃には深い森の奥から抜けていた。彼に手を引かれ足を進めるとあっという間に街中へ。これまでと違い、すれ違う人達の中で自分を蔑むような視線を向ける人は誰一人として居ない。それでも過去のトラウマからか、自然と繋いだ手に力を込めて相手の後ろにつく。彼の口から最初に回るお店を聞けば嬉しそうに頷いて)
うん、おそろいのやつがほしい!
あはは、そうだったね。
( 相手の手に力が入るのを感じると、大丈夫だというようにこちらも少しだけ相手の手を握り返して。自分はローブで顔を隠しているが、彼のように変装しているとはいえ顔を覆うものがないというのは勇気がいる。彼に合わせ歩いていると子供用から大人用まで揃う服屋に辿り着き、早速入店し。入店すると女性の店主が話しかけてきたものだから、とりあえず彼に必要な普段着を何着か見繕って欲しいことと、ローブも頼み。)
暫く服を見てまとっか。欲しいものがあったら言って。
(彼に連れられて初めて入った洋服屋。中はかなり広く、一般的な白シャツから何処ぞのマニアックな制服まで、店内のあちこちに様々な種類の洋服が並んでいた。そこには初めて見るものも少なくなく、彼が店主と話しているあいだ、興味深そうに部屋のあちこちをきょろきょろと。どうやらお目当てのローブ等諸々が手に入るまでは暫く時間が掛かるらしい。欲しいもの、欲しいもの…ぶつぶつと呟きながら店内の商品を物色していたが、突然ぴたりと動きを止める。視線の先には黒猫のワッペンが付いた紺色のオーバーオール。所謂一目惚れというやつで、彼を商品前まで呼んでくるとその商品を指差して)
ルミエ、これ
オーバーオールだね。
気に入ったなら、1回着てみたらどう?
( 自分も服類を眺めていたところ相手から声がかかりそちらのほうへ。可愛らしい黒猫のワッペンがついたオーバーオール、彼がこれを着たらさぞ似合うだろう。どうせならここで試着をしてみてはどうか、と提案し。すぐ着ているところがみてみたいという自分の願望もあるのだが。店主に頼むと快く試着をさせてもらえることになり。)
(店主の手によって流れるように試着室へと連行される。実際に着てみると奇しくもサイズはぴったりで、流石はオーバーオール、動き易いうえに着心地も抜群で。試着したことでより一層これに愛着が湧いてきた。彼にこの姿の自分を見て欲しい、そう言わんばかりに大きな姿見の前でくるりと一回転し、そのまま相手へ駆け寄っては)
おーばーおーる、どう?
すごく似合ってる。
動きやすそうだしいいね!
( 試着室から出てきた相手の姿。やはり想像どおりぴったり似合っていて、とても可愛らしい。駆け寄ってきた相手に微笑むと似合っていると頷いて。店主にこのオーバーオールもお願いしますと伝えると、もし気に入っているならこのまま着ていってもいいと言われ、どうするか尋ねてみて。)
気に入ったならこのまま着てく?
うん、そうする!
(彼からも好感触だったこのオーバーオールは、あっという間に自分のお気に入りとなった。問い掛けには嬉しそうに頷いて、その喜びを表現するかのようにその場でぴょんぴょん跳び跳ねる。にっこり笑って彼へ「ありがとう!」とお礼を)
どういたしまして。
( 相手の笑顔に思わずこちらも笑顔になる。店主から普段着、下着などを渡され支払いを済ませ。その中には彼が所望していた黒のフード付きローブも用意されていた。どれもピッタリと彼に合いそうだ。支払いも済ませたので、店を出ると朝ごはんをまだ食べていなかったことを思い出し。相手にお腹は空いていないかを尋ねて。)
そういえば、朝ごはん食べてこなかったけど、お腹すいてない?
(その問い掛けに反応するように、タイミング良く鳴るお腹の音。彼に言われて気付いたが、そういや朝から何も食べていなかった。服屋のある通りには飲食店もいくつか並んでいるようで、風に乗って漂ってくるいい香りがより一層食欲をそそる。空腹もそろそろ限界に近く、繋いだ手を軽く引っ張って)
……おなかへってる。なんか食べたい
よし、じゃあ。なにか食べよう。
( 口よりも正直なお腹の音にクスッと笑って。この辺りには美味しいお店が何件かあるし、連れて行ってあげようと思うも、できるだけ人目がつかない店がいい。とすると、1本裏の道にある自分の行きつけの喫茶店へ向かう。店に入ると、自分たち以外は客はおらず、迷うことなく2人がけの席に座って。)
ここは僕がよくくるところなんだ。おすすめはパンケーキ。
ぱんけーき…うん、それにする!
(パンケーキ。昔絵本かなにかで読んだおかげで、その存在自体は知っていた。勿論食べさせては貰えなかったけれど、挿絵として描かれていた金色のそれはよく覚えている。密かに憧れていた、久し振りに聞いた名前に二つ返事で頷けば)
ルミエは?ルミエはなに食べるの?
僕も一緒にする。
( 自分も同じようにパンケーキにすると決まれば、マスターに声をかけまとめて注文をする。ついでに珈琲と、相手には何かジュースをと頼み、マスターが去っていくのを見送るとローブのフードを取って。この店は自分が幼いときから来ていた店で、ここのマスターは自分のことを差別せずいつも美味しい珈琲をいれてくれる。窓の外を眺めて、相手に街の中で気になる店はなかったか問いかけ。)
どこか行きたい店はあった?
(彼が注文を済ませるのを、店の内装を眺めながらそわそわと待つ。主にアンティーク調の家具で構成されたこの喫茶店の雰囲気はどこか彼の自宅とも相通じるものがあり、この店が彼の行きつけだというのもなんとなく分かる気がした。そんな中に投げ掛けられた自分への問い。どんな店があったかを思い出すべく、朧気な脳内でここに来るまでの道筋を辿る。暫く考え込んでから口を開き)
…本屋さんにいきたい!ルミエがいっぱい持ってるみたいに、おれも本ほしい
そうだね。昨日行こうって言ってたし。この後行こう?
( 本屋に行きたいという言葉に、そういえば昨日そんな話をしていたなと思い出して頷き。町の中には本屋がいくつかあるが、自分がよく使う本屋がこの近くにあるため、そこに行こうと予定をたてて。そう考えていると、ちょうど飲み物とパンケーキがそれぞれ届き。バターと、メープルシロップが別々についてきて、好きな量を自分で乗せられる。バターひとつと、シロップを。)
このメープルシロップがおいしいんだよ。
(無事この後の予定も決まったところで、丁度パンケーキも運ばれてくる。絵本で見た何倍も色鮮やかで艶々だ。どう食べるのが正解か分からなかったので、彼の真似をしてあたたかい金色の上にバターをひとつ。さらにその上からメープルシロップをたっぷりとかけてみた。ふかふかのそれをナイフで一口大に切り分けてぱくりと)
!!!……おいしい!
でしょ?
昔からここのパンケーキは美味しいんだよ。
( 相手から自然に溢れる美味しいという感想を聞くとこちらも嬉しそうに笑って。昔からこのパンケーキは変わらない、バターとメープルシロップの相性が最高だ。自分も切り分けるとパクパクと食べ進めて。また、合間に飲む珈琲も美味しい。こんなに美味しいパンケーキ、家でも作れたらいいのに、なんて思うもなかなかうまくいかない。)
(口の中いっぱいに広がるメープルのいい香り、変にしつこくないすっきりとした甘さ。それは子供心を掴むのには十分すぎるほどで、数口食べただけで既にこのパンケーキの虜となっていた。直ぐに食べ終わらないようにとゆっくり、一口一口を丁寧に咀嚼するも、気が付いた頃にはお皿の上に何もない。パンケーキと一緒に届いたオレンジジュースを飲み干せば、幸せそうに息を吐き)
おなかいっぱい…ごちそうさま、
ごちそうさまでした。
気に入って貰えてよかった。
( こちらも全て食べ終えると、珈琲のカップにそっと口をつけ飲み干す。相手にも気に入って貰えてよかったと少し嬉しそうにすれば、ふとこの街と彼のことについて昨日から気になっていたことを尋ねる。この街で育ったであろう彼、いくら髪や目の色を変えてもほんとうに知っている人が見れば、気づく人もいるかもしれない。そうなると面倒だ。ともすれば、彼が住んでいた辺りに近付かない方がいいだろう。)
…クロスはこの街で育ったんだよね。
どこら辺に住んでたの?
えっと……
(この街に住んでいたのは確かだが、そもそも外に出して貰える機会自体あまり多くなく。確か家から抜け出したあの時も自分が今何処に居るかなんて一切考えず、この場所から一刻も早く逃げる為ただ闇雲に走り回っていたら、いつの間にか森の中へと迷い込んでいたのだった。少ない情報で懸命に記憶を辿り、「この近辺には住んでいなかった」ことを伝えようと)
あんまりおぼえてない…けど、この近くじゃないよ。おれの居たとこはもっと、お店もすくなかったから
そっか。
いや、もしクロスの家の人と会ったら良くないかなと思ってね。
( 子供が自分の家の位置を正確に覚えている、なんて方が珍しい。彼の反応は当たり前だ。一応先程の質問の意図を説明すると、とりあえず彼の住んでいた所がここら辺でないことが知れただけでも良かった。再びローブのフードを被ると、マスターへお金を支払い、そろそろここから出ようと提案し。)
そろそろ行こうか。
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