役に立たせて（〆）

また忙しくなったり何かあったら呼んで。ではごゆっくり。
（元気過ぎるくらいの相手の声に苦笑を浮かべながら調理場に繋がるドアを開ける前に何かあれば呼ぶように、と伝え。一通り仕事はこなしてくれるとはいえ、まだ雇ってから日の浅い相手は急なイレギュラーには対応しきれないだろうと考え。事によっては店長である自分が対応しなくてはいけないこともあり。幸いなことに今のところはいいお客様ばかりで問題ないが、クレームがくる可能性も０ではなく。調理場に入ると、必要なものを用意して）
さて…用意するのはあれとあれと…。あとは…。

いらっしゃいませ！あ、此方の商品はご予約のお客様だけでして…
（順調に接客をしていたが、予約の品を受け取りに来たお客様の商品と同じものを頼もうとするため説明をするが特別に用意しろという注文が入って少し困ったような笑顔で対応して。何度も予約をしてくれれば早くて明日にでも渡せると言っても今渡せと言われて。ただこの商品は手間がかかるため個数の制限があって渡せない事は知っているため何度も断っていたが困ってしまい、助けを求めて）
店長…予約必須の品を今出せっていうお客様が…ごめんなさい、何度も説明したんですけど…

よし、あとは…ん？
（ある程度仕込みや準備を終わらせ後は仕上げさえ終えれば追加で出せるという段階で一息つき。集中していた意識が途切れたことで周りの状況を
確認しようとすると、何やら店内のカウンターから少し騒がしいような声がして。そんな中、調理場に顔を覗かせて自分に助けを求める相手の姿が見え。危惧していたイレギュラーが起きてしまったかと思わず溜め息をつき。とは言え聞いた内容はこちらに一切の非がないもので。クレームとまでいかなくてもそういうお客様はいたことがあり）
…わかった。後は俺が対応するから。汐留くんは他のお客様の対応をお願い。

はい…
（少ししゅんとしながら相手に任せて、他のお客様の対応について。様子を見ていたお客様から少しドンマイと言われながら個包装や品出しをしつつ相手がどう対応するのか次に活かすためにも少し見てみて）

──お客様、お待たせ致しました。店長の久住と申します。ご予約限定の商品をご希望ということですが…。
（予約限定のものを欲しいという人物がどういった感じなのかを確認した後、いつもの雰囲気を変えることなく相手の傍までいくと小さくお辞儀をして。相手の希望が予約限定の商品で間違えがないかと再度確認し、確認が取れれば声を潜めて何かを告げ）

…？あ、こちらの商品ですね！
（ギリギリ聞こえる距離にいたが、声を潜めたのでどう対応するのだろうと思っていると購入すると言うお客様が来たため笑顔で対応して。プレゼント用のラッピングは普段以上に丁寧にするためゆっくり、けれど素早くラッピングするとお会計をして）

畏まりました。少々お待ち下さいませ。
（お客様に一言告げて一旦調理場に戻ると数分後、お客様のお持ち帰りの際に渡す箱を持って出てきて。それをお客様に渡すと満足したのか帰っていき。出入口付近まで見送り相手が見えなくなるとカウンターに戻って安心したように息を付き）
ありがとうございました。……はぁ、良かった。

店長、あのお客様どうしたんですか…？
（カウンターに戻ってきた相手の元に行くと少し不安げに尋ねて。様子を見る限り他のものかもしくはあのお客様のご要望であるものを渡したのだろうかと思いながらお客様も今は商品を見ているため、尋ねてみて）

ん？ああ、予約のものが欲しいって言っていたけどあの商品に拘っている訳じゃなさそうだから、珍しいケーキが欲しいんだろうと思って。それで新作モニターって名目で試作品をお渡ししたんだ。試作品は予約したって手に入らないからね。
（話を聞いた中では予約のケーキではなく普通のケーキと違うものが欲しかったそうで、それならばと近々の内に新商品として出そうと思っている試作品がいくつかありそれのモニターをと願い出れば相手は快諾して。何せモニターにでもならない限り、作った本人と従業員くらいしか食べることが出来ない試作品は予約のケーキよりずっと珍しく）

えぇ…僕も店長のケーキ食べたかったです
（成る程、と思いながらもモニターとしてまだ自分が食べていないケーキをあのお客様が食べたのだと思うと羨ましくて思わず本音が出てしまうと少し慌てて口を塞ぎながら自分の発言に苦笑いをして。大好きな相手が作るケーキを一番に食べれるのはやはり羨ましいので自分もまた食べたいと少し強請って）
…すみません、でも、僕も食べたいです！店長も店長のケーキも大好きなので！！

ああ、大丈夫。皆が食べる分はまだあるから。お客様にお渡ししたのは俺の分。試作品は皆に食べてもらわないと商品化するかどうか決められないしね。
（相手の言葉に小さく笑い。元々キッチン、ホール問わず従業員には食べてもらう予定で自分の分も含め全員分作っていて。一応、自分は１度は食べたが食べながら意見を聞いて改善点や変更点等を検討したいと思っていたが、自分の分をあげて丸く治まるのならそれに越したことはなく。作っているのは自分なのでレシピはあるし材料さえあれば作ろうと思えばいくらでも作れて）
休憩中でも閉店後でも好きな時に食べてくれていいよ。

じゃあ、僕と一緒に食べましょ、食べながら言われたほうがわかるんじゃないですか？
（相手の言葉に少し考えてから相手と食べたいという下心が７割あるが提案してみて。折角相手が作ったのなら一緒に食べたいため遠慮されないようにぐいぐいと遠慮しないで欲しいと伝えて）
それに、今回は僕の対応が上手くいかなかったからです、遠慮せず一緒に！

一緒に？それは助かるけど…でもそれだと汐留くんの食べる量が減るけど…俺のケーキ、食べたかったんでしょう？
（一緒にという言葉に少し揺らぐも先程、相手が自分のケーキを食べれないと思い込んで落ち込んでいたことを思い出せば、1人で食べれたほうが嬉しいのではないかと首傾げ。自分の分はお客様に渡したのでなく、それなのに一緒に食べるということは相手の分を分けてもらうことになり、それは申し訳なさがあり）
いや、今回のことはイレギュラーだから仕方無いよ。汐留くんが悪い訳じゃないし…。

いえ！大好きな店長と一緒のケーキを食べれるなんて死んでもいいくらい嬉しいので、ぜひ！！
（確かに減ってしまうけれど、相手と食べれるなら一口だけだったとしても幸せだと思ったためぜひと言って。相手と一緒に食べれるならあのイレギュラーなことも幸運だったと思いながら少し首を軽く振ってから人懐っこい笑顔を見せて）
それに、イレギュラーに立ち向かう方法も分かりましたから、だめですか…？

はは、汐留くんに死なれたら俺が困るかなぁ。じゃあ…少しだけ分けてもらおうかな。
（相手の大袈裟な言葉に思わず小さく笑いを溢し。申し訳なさは残るもののもし商品化したとしたらこの先も食べれる可能性はあり、皆の意見を取り入れた今より一層良いものを食べて貰えると考えれば、やはり今回の試食は必要なことで。もし商品化されたら今回のお礼に奢ってあげようだなんて考えて）
今回のイレギュラー対応はたまたま試作品を作ってる最中だから使えた方法だから一般的な解決法ではないよ。

そうしてください！！
（死なれたら困ると言われて一瞬胸を抑えてから少しだけ分けてもらおうかなと言う相手に大きく頷き、元気よく返事をして。たまたま試作品を作ってたから出来た対処法だと言われてそれに気付いて相手のためにも次からは頑張って対処しなければ、と思い少しだけ首を傾げて）
確かに、偶然が功を成しましたけど普段はどんな風にするんですか？

汐留くん。元気なのはいいけどお客様が吃驚するからちょっと声量を落とそうか。
（相手が好意を示してくれるのは嬉しいが、あまりにも素直で真っ直ぐ過ぎる相手は自分と違い、隠し事や嘘が下手なのだろうと思い。自分はもうすぐ三十路ということと店長ということもあり、それなりに世渡りは学んできた。でも目の前にいる彼にはそんな打算は感じられず。取り敢えず業務中なのもあり声量を注意して）
まぁお客様にも寄るから一概には言えないけどやっぱり代替案は必要だよね。

はっ、すみません…気をつけます
（相手の注意を受けて少しだけ声を顰めて。お客様も少しくすくすと笑っていて赤くなりながらお客様にも謝罪を言って。どうしても思ったことをそのまま実行・発言してしまうため嬉しいと声も大きくなってしまうため気をつけないと…と思いながらもう一度相手の方を向いて）
代替案…頑張って今度は考えてみます

元気なのは汐留くんの長所ではあるけどね。
（小さく困ったような苦笑を浮かべながら肩を竦めるようにおどけて。店内にいる常連さんは相手がどんな人物かわかっているし、新規さんも気にしていないのか我感ぜずといった感じの人と微笑ましさを覚えているのか常連さんと一緒になって笑っている人が殆どで、 幸いにも不快感を感じていそうな人はいなく。相手が憎めないキャラであるのは自分も知っていて）
ただこれは店長である俺の仕事でもあるからそこまで気にしなくて大丈夫だよ。今回の汐留くんの対応は正しいんだから。

僕もそう思うけど短所でもありますね…
（相手の言葉に笑顔を浮かべて、長所だと言われて嬉しいものの、短所でもあると反省はしていて。お客様たちの微笑ましげな視線などに赤くなりながら落ち着くために両手の頬に手を当てて冷ますと照れ臭そうに笑って）
また店長頼った時はお願いしますね