匿名さん 2022-09-03 19:19:45 |
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【 ラギー・ブッチ 】
(照れるでも謙遜するでもなく、まるで言葉だけの喜びを返されればさらりと流されたような錯覚を覚え、絞り出した言葉のちっぽけさを改めて実感する。こんな言葉、お世辞も含めて今まで何回も言われてきたのだろう。やっぱり可愛げがない。花冠を被せて褒めでもしたらきゃあきゃあと無邪気に騒ぐスラムの子供たちを思い出す中、唐突にフードが取られぺたりと反射で耳が伏せり、彼女に合わせて足を止めるとこちらを覗く紫の目に射抜かれ身が竦む。くっきりした二重、すっと伸びる睫毛。どうにも落ち着きを欠いてしまうのは慣れていないからだ。いつの間にか口内に溜まった唾液を嚥下し、向けられた要望を反芻する。言われるがままにその名を口に出し──考えなしの頭に敬称の問題が突き付けられる。果たして呼び捨てにしていいものか。かと言ってヘレナさん、なんてのもむず痒い。無言でいるわけにもいかず、結局覚束ない着地をすると、訝しげに眉を寄せ満足を問い。)
……。ヘレナ───…くん。…で、いいッスか。
【 ドロシー・エルリッチャー 】
部屋まで、……。
(言葉に詰まるような反応に少し首を傾けるが、その先に続く言葉を聞けば内心で納得し、僅かに目を細めて。まるで子犬か小さな子供みたい。素直に求めてくれるのは愛嬌があるし、枯渇した愛情の受け皿に水が注がれていく感覚を覚える。しかし留学して早々男を部屋に連れ込んでいた、なんて噂が流れようものなら、今後の愛に溢れた学園生活に支障を来すこと請け合いだ。彼が愛故の独占欲を燻らせ、噂の流布が目的だというのならまだしも、どう見てもそんな様子はない。部屋に上げてアプローチするほどの難度でもなさそうだし、ここで迎え入れる道理はないだろう。いかにも気恥ずかしそうに顔を俯け視線を逸らし、羞恥と申し訳なさが入り混じった小さな声でぼそぼそと呟くように述べると、ちらりと顔色を窺って。)
でも、……男の子を部屋まで案内するのは、…。ううん、変なことされるとか思ってるわけじゃないの。でも周囲の目もあるし…。
【 ヘレナ・アンティパス 】
くん?…まあ、あなたがそう呼びたいならそれでいいよ。これからよろしくね、ラギー。
( 先程より生意気な色を欠いた瞳や、フードを外したおかげで顕になった伏せった耳。自分を見詰めて唾を飲み込む様子を観察するように眺め、その動揺を理解する。自分の要求通りに名前を口にし、敬称に悩んだ末に"くん"なんて言葉を選ぶ彼に少し驚いたように目を瞬かせる。君付けで呼ばれるのなんて初めてだから、なんだか少し新鮮だ。しかしそんなことよりも、彼が先程までの態度を翻して自分の要求を素直に飲み込んだことのほうが面白い。そのぎこちない態度もずっと素直で可愛げがあるように見える。そんな考えから上機嫌に笑みを浮かべて答えを返す。学園生活での退屈しのぎの相手くらいにはなるかと思案すると、彼から視線を外して寮へ足を進め )
──────
【 セベク・ジグボルト 】
あ…っ、す、すまない!そういうつもりで言ったわけでは…!
( 部屋まで荷物を運ぶというのはあくまで厚意のつもりだったのだが、恥じらうような素振りとともに彼女が口に出した言葉で自分の不躾さに気が付く。先程会ったばかりの人間の女の部屋に押し入ろうとしていると、彼女に思わせてしまったかもしれない。その情けなさと恥ずかしさとで顔が熱くなるのを自覚しては、すぐにそんな下心はないと否定する。
しかし、ここで別れたら次は一体いつ会えるのだろうか。この学園の中で生徒はたくさんいるし、すれ違う機会がいつになるかもわからない。自分から彼女に会いに行って人間にうつつを抜かしていると思われるのも不本意だ。そんな考えから彼女と離れるのに名残惜しさを感じてしまって、しばらく考え込むように黙った後抱えた教科書の束にかすかに力を込めてはそんな気持ちを小さく吐露し )
その、…お前とまだ一緒にいたい、もう少しくらい話したりできないか…?
【 ラギー・ブッチ 】
舎弟と思ってんじゃねーだろうな……。オレはこき使われるのなんか御免ッスからね!
(あからさまに上機嫌な笑みが小憎たらしいが、それすらも美しく感じるのだから容姿の優劣は残酷だ。言動としては腹立たしいというのに怒る気にもなれないのもその整った見目のせいだろうか。どうにも調子が狂う。ずっとフード被っててくれねぇかなあ、と内心で不満を燻ぶらせ、こちらの情緒を掻き乱していることなど露知らず好き勝手に進んでいく彼女の後姿に声を上げて。何となく隣を歩くのが癪で、あまり距離を詰め過ぎないように少し後方を歩き華奢な背中とゆらゆら揺れる式典服の長い裾を物言いたげに見詰め続け。)
【 ドロシー・エルリッチャー 】
(弱々しい気持ちの吐露を聞き、僅かに目を伏せて幾度かまばたきを繰り返し、徐々に目が弧を描き頬が熱を持ち始める。思ったよりも熱烈なのはその素直な気性によるものだろうか。嬉しくはあるが、こういうタイプは扱いに困る。熱しやすく冷めやすいタイプかもしれないし、あまり飴を与えすぎるのも考えものだ。しっかりと目を見詰めたまま懐からメモを取り出すと、ここ数日で書き慣れたSNSのアカウント名を綴り一枚千切って差し出す。丁寧に二つ折りにすると有無を言わせず彼の胸ポケットに押し込むと、身体を寄せて積まれた教材の底部分に両手を添え、言葉なしに離すよう促して。)
…今日はこれから予定があるから、また今度。連絡してくれる?
【 ヘレナ・アンティパス 】
舎弟?そんなわけないでしょ、使用人が必要ならもっとましなのを雇うし。
( 舎弟だろうが奴隷だろうが、自分が彼をこき使うつもりだと思われるのは不本意だ。そのつもりでいられては彼も反感を抱くだろうし、自分から尽くす気になってくれる方が都合がいい。そんな考えから彼の言葉をはっきりと否定してみせる。そもそも、使用人を雇うなら彼よりも教養があって素直な人材の方がいい。そんな言葉を口にしながらも、自分の後ろを歩く彼と視線を合わせるために振り返り、そのままの姿勢で歩みを進める。
なぜ自分の後ろを歩くのだろうかと思いながら彼のことを眺めた後、先程よりも楽しげな口ぶりで問いをかける。こうして生意気だった彼の優位に立つのは気分がいい。そんな気分に浸りながら彼を見つめて首を傾け )
ねえ、私の隣に立てる身分じゃないって分かった上で遠慮してるの?そうじゃないんならさっきみたいに隣を歩いてよ、これじゃあお喋りもしづらいから。
──────
【 セベク・ジグボルト 】
っ、…分かった。後で僕から連絡してやろう!
( 長い睫毛に縁取られた彼女の淡い桃色の瞳を見据え、自分の気持ちが少しでも伝わるようにと密かに念じる。赤く染まる頬が愛らしくて、思わずうっとりと情けない溜息が漏れそうになる。そんな彼女が自分の目を見つめ返してくれるのは、受け入れようとしてくれている証拠だろうか。
そんな淡い期待をしてしまいながら彼女の行動を待っていると、胸ポケットにその手が触れる。自分の鼓動の速さに気づかれてしまうのではないかと思って一瞬身を引きそうになるものの、それが連絡先であることを理解するとその言葉に従順に頷く。連絡をすればまた彼女とこうして会えるのか。今別れなくてはいけないことは寂しいが、これが最後でないと思えばだいぶ気が紛れる。そう思うと大人しく彼女に教科書類を渡して )
気をつけて運ぶんだぞ、人間。
【 ラギー・ブッチ 】
……あのねぇ。そこまで言うんならご身分相応の相手を探したらどうッスか。
(“使用人”という単語が当然のように出てくる辺りに根本的な価値観の違いを感じる。仮にも自分を使用人という立場と比較するといいうことは、きっとこちらを一般家庭出身程度に認識しているんだろう。貧民じゃ貴族様に仕えることすら中々叶わないのに。
振り返りながら歩く危なっかしいお嬢様のために渋々歩調を上げて隣へと並び、怒りでも悲しみでもなく、単純な呆れを言葉の節々に纏わせ上記の提言を述べて。更に言うのならば良心ですらある。ふと視線を下へと落とし位置を確認してから、唐突に相手の細い手首を無遠慮に掴み、彼女の視界に入る位置まで持ち上げる。傷一つない白魚のような小さい手の側に見えるのは、スラムで生活する中で形の歪んだ無骨な手。男と女という差はあれど、少しは言葉に説得力が増しただろうか。目を細めながら淡々と述べ、一息吐いて腕を離してやるとひらりと掌を見せて。)
オレ、多分ヘレナくんが思ってる以上に育ち悪いッスよ。アンタみたいなお嬢様には想像つかないくらい。……別にそれを恥じる気は更々ないッスけど。
【 ドロシー・エルリッチャー 】
ありがとう。
(聞き分けが良くて助かった。確かに教材を受け取り安定するよう持ち直すと、穏やかに優しく笑みを浮かべてみせ。これで十分だろうと身を翻し歩き始めればすとんと表情が抜け落ち、小さく溜息を。よくもまあ見た目だけで人を好きになれるものだ。一目惚れという感覚は経験したことがない自分には何とも言えないが。マジカルペンを取り出し荷物を纏めて浮かせ、自由になった両手で肩に掛かる髪を軽く撫で付けると、その色を見れば顔も声も記憶が霞み始めた理事長のことをぼんやりと考え、鏡を抜け寮へと帰って行った。)
……そんなに好みだったのかな。理事長先生と趣味が合うのね。
(/ お世話になっております!主様の繊細な描写にいつも楽しませていただいています~!毎回素敵なヘレナさんとセベクに悶絶しながら楽しくお返事を練らせていただいていますが、描写やキャラの言動など、気に掛かる点は何なりと仰ってくださいね。特にラギーに関して、もっとこういった風に接してほしい…等ご要望がございましたらいつでもお申し付けくださいませ。ちょっと恋心足りなさすぎかな、と自省していたりはします…()
ドロシーの方は一旦ここで〆とさせていただきたいので、ご返信は不要です。一目惚れでうきうきなセベク堪りませんでした~!ご提供ありがとうございました!
今後の展開についてですが、アズールをご提供いただきたいのですが可能でしょうか?先日ぼやいていた契約云々の話を早速やりたいと思いまして…。アズールと交流したことをきっかけに、ジェイド、イデア、ジャミルなどと接点を作っていこうかと思っています。特にジェイドについては、ドロシーが妙な内容の契約を持ち掛けたことで興味を持ってくれたりするといいかなと…!ドロシーに若干押され気味のアズールを面白がっていたのに、いつの間にか自分がズブズブに沈んでる…なんて良いなぁとぼんやり考えていますが、いかがでしょうか。)
【 ヘレナ・アンティパス 】
ラギーは特別。私、あなたのことが気に入ったから。
( 隣に戻ってきた彼に満足げに微笑むと、後ろ歩きをやめて前へ向き直す。彼に言われる前から自分は身分相応の相手を探すためにここへ来ているのだ。彼は品も身分もないようだから、せいぜい退屈しのぎの話し相手か用心棒程度に過ぎない。しかしそんな感情をはっきりと口にすることはせず、上機嫌な笑みとともに特別なんて都合のいい言葉を持ち出す。
そのうちふいに自分の手を掴まれると、一瞬驚いたように目を丸くする。見せられた掌は自分のそれよりも随分無骨に見えて、手だけでこれほどに違いが現れるのかと思ってしまう。今度は自分から彼の手を取り、労るように自分の指を添わせてその手を撫でる。自分の周りにいた男は身なりや装飾品を褒めれば喜んだが、きっと彼は違うのだろう。少しの間彼の手を見つめ考えを巡らせてから微かに笑って述べては、すぐに飽きたようにその手を離して )
知り合いの男の手はみんな指輪や装飾だらけでごつごつしてたけど…そういう手よりずっと握りやすい。育ちが悪いのも案外悪くないかもね。
(/こちらこそお世話になっております~!私の方も毎度楽しくお返事拝見してロルを書かせてもらってます…!今のところどちらも素敵ですし特段の要望はございません、お気遣いありがとうございます。
セベクを動かした経験がそれほど多いわけではないので少々不安でしたが、そう言っていただけてよかったです…!こちらこそドロシーさんがあざと可愛くて毎度わくわくしながら返信読ませていただきました、ありがとうございます!
次の絡みについても承知いたしました!ドロシーさんからアズールに契約を持ちかけに来る感じで合ってますでしょうか…?調子を狂わされるアズールの描写もいつの間にか惚れ込んでるジェイドの描写もとっても楽しみです…!ぜひそれでお願いいたします!)
【 ラギー・ブッチ 】
(胡散臭いフレーズに思わず鼻で笑ってしまいそうになる。会って数時間もしない内に特別扱いされて喜ぶほど無邪気でも純真でもないが、流石の彼女もそれは分かった上での軽口だろう。相手が食えない性格ということも分かっているし、追及の必要もない。
離したはずの手が再び触れれば一瞬身を強張らせ、細い曲線が肌を這う感覚に尻尾の毛が立つのが分かる。異性との触れ合いに対して何とも不釣り合いな表現とは分かってはいるが、幼い頃に虫と戯れた記憶が蘇ってくる。その指が細く艶やかだからだろう。色白のそれが肌を伝う動きを眉を寄せてじっと凝視していたが、ふらりと離れてしまえば魔法が解けたように力が抜け、彼女の最後の言葉について少々得意げな笑みを浮かべて。先程からのわざとらしい発言への意趣返しとして質問を付け加え、自然と口角が上がる口元を手で隠して視線を投げ。)
…当ったり前。掃除も料理もできない金持ち連中なんかと比べないでほしいッスね。
やっぱりヘレナくんも家事なんかできない口ッスか?包丁握ったことある?
【 ドロシー・エルリッチャー 】
(学園で生活する内、時折耳に入るオクタヴィネル寮長の噂。何やら対価さえ払えばどんな願いも叶えてくれるとのこと。あまり良い噂は聞かないが、評判なんてどうだっていい。望んだものが与えられるのなら何を差し出したっていいし、望みが果たされなければ契約は反故になるだけだ。クラスメイトのオクタヴィネル寮生がたまたま寮長に近い位置にいるようで、話をつけてもらって数日。
無事に相談の時間が設けられ、約束の日時に寮へと訪れる。話は通ってあるようで、すんなりとVIPルームへと通され、一足先にソファへと腰を掛けて寮長の到着を待ち。ポムフィオーレとは随分と違う雰囲気に室内を観察する中、扉が開く気配に振り向くと彼の姿を捉え、席を立ち愛想よく目を細め。)
───初めまして。お時間を割いてくださってありがとう。
(/ お優しいお言葉ありがとうございます!そう言ってくださって安心しました、何かございましたらいつでもどうぞ◎
わ~~嬉しいですありがとうございます!こちらもヘレナさんとの絡みが楽しくて仕方がなく…!ヘレナさんがレオナの前でどんな態度を見せてくれるのか今から楽しみです。今でなくとも構いませんので、主様も今後の展開のご希望があればいつでもご教示くださいませ。
ご快諾ありがとうございます!その認識で間違いありません◎ついでと言っては何ですが、契約の話が終わり帰る際にジェイドに鏡まで送ってもらえたらと考えています。送迎の間に少し話したいなと思いまして…!
先レス出させていただきましたので、不明瞭点等なければ続けていただけると幸いです。特に返すことがなければ背後会話は蹴ってくださって構いません。引き続きよろしくお願いいたします!)
【 ヘレナ・アンティパス 】
そんなの触ったことあるわけないでしょ、傷でもついたら良い家に嫁げなくなるかもしれないし。
( 掃除も料理もできない金持ち連中、なんて前置きをした上でかけられたその質問に頷いてしまえば、まるで自分が金だけを持つ能無しのようになってしまう。それに少し不満げにしつつも、わざわざ嘘をつくのもと思案して正直に答える。実際幼い頃から料理も掃除も使用人にやらせるものだったし、包丁は危険だからと手にしたこともない。くだらない傷が理由で良家に嫁ぐチャンスを無くすとしたら、自分としても親としても不本意だ。実際貴族の娘として間違った教育を受けたわけではないだろうと思案しながら、瞼の裏に残る彼の手と比べるように自分の手を眺める。傷やささくれのない肌、形を整えて丁寧に磨いた艶のある爪。綺麗だと誇るはずの手も、彼からしたら無能の証左にされてしまうのかもしれない。そう思うとなんだか恨めしくなって溜息を吐き )
──────
【 アズール・アーシェングロット 】
( 自分のもとに契約に来る人間はたいてい前もってある程度調べてある。というのも、自分の”慈悲"を求めそうな人物をあらかじめ割り出したり、もしくは双子を経由して契約に来るよう誘導したりしているからだ。もちろん、それと関わりなく自分の元へやってくる人物の頼みも拒むつもりはない。しかし、それがあまりに予想外の方向からとなると身構えてしまうのももっともだろう。
この学園にて留学生として学んでいる得体のしれない女子生徒──ドロシー・エルリッチャーの訪問なんて想定外だった。何を欲しているかも分からない彼女とは安全策としてなるべく距離をおいておきたかったのだが、彼女自ら自分を頼りに来たとあれば断ることもできない。この機会にその腹を探ってやるつもりで、約束した時間通りにVIPルームへ入室する。愛想のいい笑顔に自分も商売人特有の笑みを返すと、社交辞令を並べて )
初めまして、ドロシーさん。こちらこそわざわざ足をお運びくださってありがとうございます。前々からぜひお話したいと思っていましたから、このような機会を得られて大変光栄です。
──それで、本日は契約のご相談…ということでお間違いありませんか?
(/展開の方承知いたしました!絡み文のご用意もありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします~!
それとこちらの方なんですが、ラギーとの絡みが一段落次第、寮内の説明が終わって新入生たちが解散になった上でヘレナがレオナの部屋に行く、といった形での展開を考えています。差支えがあれば遠慮なくお伝え下さいますと幸いです~!)
【 ラギー・ブッチ 】
ふーん。美味い飯が作れることより、絵とか音楽とかの方が優先されるんだもんなぁ。理解できねぇや。
(まるで当然のことのような否定は、庶民である自分には俄かに信じがたい返事で。こんなに整った容姿をしていても、ただ手に包丁傷一つあるだけで価値が落ちてしまうものなのだろうか。理解も共感も得難い価値観は考えているだけでも疲れてしまいそうだ。頭の後ろで腕を組ぼんやりと思案していると、脳裏に自然と祖母の姿が浮かんでくる。手に傷がないことよりも、100個の名画を知っていることよりも、山菜や草花の食べ方を多く知っている祖母の方が余程立派だ。
生っ白い手を見詰める彼女の姿を少し眺め、そういう世界に生まれた者なりに大変なのだろうと無理矢理に理解を覚え、これからの学園生活で今までの努力を無駄にしてしまわないよう助言を述べるとふいと視線を逸らして。)
……ま、サバナクローじゃ絵も音楽もなーんの意味もなさないッスけど。綺麗な手が汚れないように気をつけるんスよ。
【 ドロシー・エルリッチャー 】
ふふ、お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいものね。
ええ、ご相談に。……と言っても、私、まだ契約についてよく分かっていないのだけど。
(すらすらと並び立てられる聞こえのいい言葉を聞き流し、一瞬気恥ずかしそうに目を伏せてから再び視線を向けて。挨拶がわりの言葉を交わし終えると再びソファへと腰掛け背を伸ばし、彼の確認には首肯を返す。直後に浮かべる気恥ずかしげな困り笑顔は堅苦しい雰囲気を解きほぐすためのものだ。さて、どう切り出そう。こちらとしても生涯燻り続けるであろう欲を吐露するのはリスクがある。商売として取り組んでいる彼が他言するとも思えないが、表面上だけでも言質がほしい。真っ直ぐに、値踏みするようなニュアンスを敢えて隠さず言葉を向け、相手の動向を窺い。)
対価さえ払えば何でも望みを叶えてくれる…って本当なの?望んだものがとても貴重なものでも、尽力してくださる?私、本当に切望しているの。
(/ 今後の展開、把握いたしました◎お好きなタイミングで展開を進めてくださればこちらも合わせてレオナと交代いたしますね。レオナでヘレナさんと絡めるのも楽しみです!のんびりとお待ちしております…!)
【 ヘレナ・アンティパス 】
それはどうだか。
…それじゃあそろそろ解散みたいだし、私は少し用事があるから。また関わることがあったらよろしくね。
( ここでは絵も音楽もなんの意味もなさないなんて口ぶりに首を傾ける。自分はサバナクローで他の男子生徒を押しのけて頂点に立ちたいわけではないし、最初から興味があるのは夕焼けの草原の第二王子だけだ。彼がどんな人であるかはわからないが、自分の知る金持ちと同じような人物であるのなら自分の今までが無駄になるとも限らない。
そのうちに上級生による寮の説明が終わると、新入生たちが割り当てられた各々の部屋へ帰っていく。一日の緊張と新しい暮らしへの昂りでざわめく新入生たちを眺めては、早速王子様へのご挨拶にでも行こうと思案する。そのためにラギーに片手を振って別れを告げ )
──────
【 アズール・アーシェングロット 】
ええ、もちろんです。…ただ、貴重なものであれば対価も相応になってしまいますよ。それでよろしいんなら、ぜひドロシーさんのお力になりましょう。
( 自分で言うのも何だが、自分の契約にはあまり良い評判がない。それなのに彼女は好き好んで自分と契約を交わしに来た。事前調査の甘い人間なのか、それともどんな対価をもってしても叶えたい望みがあるのか。そんな思案を巡らせていたところで彼女の口から出たのは"契約についてよくわかっていない"なんて言葉。ということは、詳しいことを知らない状態で自分との契約に来たのだろうか。そんな予想が浮かんでも警戒心が緩む様子はなく、かと言ってそれを顕にすることもないままにこやかに受け入れる。何でも叶えてくれるのかと、貴重なものでもいいのかと尋ねてくる彼女にいつも通りの商人口調で説明をする。彼女から手に入れるとしたら何がいいだろうか。整った見目を利用してラウンジの手伝いをさせれば売り上げも向上するかもしれない。そんなことを思いながら彼女を見据え )
それで、ドロシーさんは何をお望みなんです?
【 ラギー・ブッチ 】
はいはい、暇潰しくらいになら付き合うッスよ。それじゃ。
(首を傾ける彼女の様子に、何に疑問を呈しているのかが分からずこちらも首を捻って眉を寄せる。この弱肉強食のサバナクローで芸術への教養に何の意味を見出しているんだか。冗談ならそれで構わないが──と、らしくもなく彼女を心配している自分に気付きはっと我に返り。女生徒で特別枠とは言え、この学園に入れる程度の人物なのだ、余計なお節介は不要だろう。
そうこうしている内に移動が終わり、簡単な寮の説明の後に部屋割りが発表される。場所と同室の生徒の名前だけを簡単に押さえると、ひらりと手を振って立ち去るヘレナにちらりと一瞥を向け、小さくなる背中に返事を告げる。自分も自室へと行こう。ハイエナだからと言って舐められないようにしなくては、と息巻きその場を立ち去って。)
【 ドロシー・エルリッチャー 】
ええ、対価は勿論お払いします。お金でもいいし、魔法でも、時間でも……家宝だって構わない。それほど貴重で、尊い物なのよ。
(改めての説明ににこやかに頷き、理解の証明として幾つか例を挙げてみせる。ゆっくりと眦を下げて柔らかく笑い、彼の姿を見て──というより、いつか優しく愛を囁く彼の姿を夢想すると、頬に薄らと赤が差し。さて、と改めて要件を口にしようとするが、流石に羞恥心が心を擽る。初対面の相手にこういったことを言うのは初めてだ。手慰みに髪を指先に絡めて眉尻を下げ、細波の立つ胸中を落ち着けるように一つ溜息を吐き決心を。身を乗り出して彼の両手をそっと纏めて包み込み、先程と変わらず真っ直ぐに青の双眸を射抜きながら、万が一にも相手が聞き漏らすことのないよう一語一語丁寧にはっきりと言い切り、薄い手袋の上からそっと手を撫でて。)
───愛、です。貴方からの。
【 ヘレナ・アンティパス 】
…キングスカラー先輩、1年のヘレナ・アンティパスです。今お時間よろしいですか?
( そういえば、彼がなんの獣人であるのかを聞き忘れた。耳の形は犬のようにも見えたし、雑種の犬の獣人か何かだろうか。まあ、今度機会があれば聞いてみればいい。
あんな同級生のことより、自分にとって重要なのは紛れもなく王族の彼だ。彼の部屋の前へ着くと一度足を止め、式典服に忍ばせておいた手鏡を取り出す。そこに自分の顔を映し、化粧のよれや髪の乱れがないかを丁寧に確認してから再度それを式典服の中へしまい直す。まずは挨拶程度に彼がどんな男なのかを探ろう。そんな考えとともに浮かぶ緊張を自信で落ち着けては、部屋の扉をノックする。先程よりも少し甘さを含めた声で自分の名前を名乗っては、彼の反応を静かに待ち )
──────
【 アズール・アーシェングロット 】
…は?
( 対価を何でも払うという言葉に誘惑される反面、一体何を求められるのかという警戒心も募る。まるで何かを恥じらうような素振りや、見ていてむず痒くなるような視線に目を細め、彼女の要望を聞き逃すまいとじっと耳を傾ける。彼女は成績に困って契約を求めに来るようなたちではなさそうだし、危ない魔法薬の類だろうか。そんなふうに予想を立てていたというのに、あまりに突飛な願望を突きつけられたことで思わず驚いたような声が漏れる。商売人として繕っているはずの笑みも今回ばかりは剥がれ落ち、目が丸くなる。それをどうにか落ち着けて咳払いを一つすると、彼女の言葉を解釈し直す。
愛、と彼女は言ったが、あまりに唐突すぎて具体的に何を欲されているのかが分からない。少なくとも、それは会ったばかりの男に要求するものではないだろう。彼女の意図が率直に理解できない、そんな事実さえも気に入らず、眼鏡のフレームを上げながら確認するように問い )
僕からの愛、ですか?…ドロシーさん、すみませんがそれはどういう意味です?
【 レオナ・キングスカラー 】
(やっと長ったらしく退屈な入学式が終わり、世話のかかる新入生たちへの説明も済ませた。流石の入学式は寮長という大層な肩書きのせいでサボることも許されない。部屋に戻るや否や窮屈な式典服を破るように脱いで床へと適当に放り投げ、魔法で寮服に着替えてベッドへと直行する。あの退屈な式典の中、何度欠伸を噛み殺したことか。マットレスに体を沈めて脱力し、瞼を下ろせばすぐに心地よい微睡みの波に意識が揺られ始め、僅かに寝息を立て始め──その矢先、ノックの音に引き戻される。ぴんと耳を立てて音を拾い、その名前に心当たりががつくと舌打ちを。寮長会議の際に伝えられていた、今年限りの“特別枠”とやら。唯一の女生徒ということで留意するよう言付かっている。まさか夕焼けの草原出身でもない女がサバナクローに寮分けされるとは思わなかった。面倒だが、女は女だ。大儀そうな声を隠さず入室の許可を与えると寝返りを打ち扉の方へと背を向けて。)
あぁ?ヘレナ……、チッ、例の特別枠か。
勝手に入れ。短く済ませろ。
【 ドロシー・エルリッチャー 】
貴方に私を愛してほしいの。……駄目?
ああ、上辺だけの言葉が欲しいわけじゃないのよ。今貴方に「愛している」と囁かれたって何も嬉しくない。気持ちが伴っていないもの。勿論愛が育まれるまで十分に待つつもり。一日二日で生まれる愛なんて紛い物よね。
(随分と意表を突かれたらしく、べりりと音を立てて作り笑いが剥がされる瞬間を目撃し、つい笑みが零れてしまう。咳払いの後、掌の中から彼の手がするりと抜けてしまえば残念そうに肩を落とし、大人しくソファへと座り直して脚を組み、彼からの質問に対する端的な答えを返して小首を傾げ。しかしすぐに言葉足らずだと気付き、それこそ商売のように上っ面だけの甘い言葉を囁く彼の姿を想像しくすくすと肩を揺らして笑い、愛についての持論を語り始める。愛情の尊さについて語れと言われればいくらでも時間を費やせるところだが、ある程度のところで留めてふうと一息を。改めて相手と向き直ってにこりと微笑むと、最も端的に言い表して正面を見据えて。)
……つまり、貴方の時間をくださる?これなら分かりやすいかしら。
【 ヘレナ・アンティパス 】
随分お疲れのようですね。…ご挨拶がしたかったんですけど、今私が話しても覚えていてくださるかが心配です。
( 部屋の中から聞こえた声は、自分の知る貴族がするような口ぶりで話していなかった。むしろどこかもっと野蛮な色さえ感じる。それに一つの計算外を感じて一瞬眉を寄せるものの、すぐにそんな表情を繕い直す。そして言葉通りに扉を開けて足を踏み入れると、目に入ったのは自分に背を向けて眠る寮長の姿。これが夕焼けの草原の第二王子だろうか。半ば人違いを疑いながらも彼を気遣うように静かに扉を閉めると、足音を鎮めながらベッドサイドの椅子へ腰を下ろす。
王族という家柄はたしかに魅力的だ。しかし、この様子を見るに彼はその家柄に見合う品を持ち合わせていないかもしれない。いくらいい家柄を得ても、それを貶められては意味がない。場合によっては彼よりも良い男を探す必要があるし、今晩のうちに見極めをつけて学園での身の振り方をなるべく早く定めたい。そんな思案を巡らせながら彼の背中を品定めするように見据え )
ねえ、せめてこちらを向いてくださらない?
──────
【 アズール・アーシェングロット 】
…なるほど。あなたの要求の理解はできました。
( 彼女の手の温もりが残る手を半ば奇妙に思いながらも、愛についての彼女の熱弁に耳を傾ける。恋人がほしいという契約なら何度か受けたことがあるし、しっかりとそれを達成できた。しかし、自分の愛がほしいというのは初めてだ。彼女は自分のことが好きなのだろうか。否、関わったことのない男を好きになるだなんて正直意味がわからない。
これから彼女に愛情を抱くようになってほしいのだろうという理解こそすれども、彼女がそれでどんな得をするのかは分からない。彼女の表情を見る限り適当な効き目の惚れ薬で誤魔化すことはできなさそうだし、彼女と時間を共にしてそれらしい素振りを見せでもすれば満足するだろうか。そんな思案を巡らせながらも、合点のいかない気味の悪さを消化したい気持ちから彼女に問い )
それにしても、何故僕なんです?あなたの寮には整った顔のインフルエンサーもいますし、男子校の中ならいくらでも男はあなたの手に入るでしょう。よりにもよって関わったことのない僕に愛を求める理由が分かりません。
【 レオナ・キングスカラー 】
挨拶なんかしなくたってお前のことは覚えてる。これで十分か?
(瞼の裏の暗闇を見詰めながら、背中越しに音を拾いその行動を把握する。挨拶だと宣う声に機嫌は悪くなる一方だ。先程の寮内を案内している最中に戯れついてくるのならまだしも、全て終わった直後に来るのが気に入らない。お察しの通り疲れているのだ、早く寝かせてほしい。彼女が零した不安にぶっきらぼうにアンサーを返すと、溢れた不満が尻尾に表れマットレスを叩く。少しの後、深く溜息を吐くと観念したように上体を起こし、不機嫌であることを表情にありありと表しながら相手へと体を向ける。なぜか腰を落ち着けるその姿を目に留めると一瞬眉を寄せ、長話なのかと予想を立て再び溜息を漏らして。一刻も早く寝たいというのに、こうして向き直り姿を見ると絆されてしまうのは出身国の性か。胡座をかいた膝の上に肘を突いて彼女を見据え、一先ず突き放すことはせずに相手の出方を窺って。)
……用があるなら今全部済ませろ。何度も来られても困るんでな。
【 ドロシー・エルリッチャー 】
廊下ですれ違ったときにお顔を拝見して、それ以来貴方のことが頭から離れない───なんて、思い至らない?一目惚れのご経験はなさそうね。
(こちらの言葉を未だ飲み込みかねている彼の様子を微笑ましげに眺める中、不可解そうな質問には一瞬きょとんと眉を上げ、しかしすぐに笑みが帰ってくる。胸に手を当て瞼を下ろし、以前の記憶へと浸り懐かしむような声音で例を挙げた後、曖昧に暈して笑ってみせ。彼が指しているインフルエンサーとは恐らく寮長のことだろう。顔は思い出せないが、以前話した際に“綺麗だ”と思ったことは覚えている。カリスマモデルに愛されるというのも悪くはないが、芸能人ともなれば既に相手がいてもおかしくない──と、そこまで考えてはっと口元を押さえ。そうだ、恋人がいる可能性が頭から抜けていた。いざとなれば躊躇わないにせよ略奪は趣味ではない。しっかりと本人に確認を取らなくては。軽く身を乗り出して切なげに声を揺らし、拗ねたように唇を結んで。)
……もしかして、既に心に決めた方がいらっしゃるの?どんな方?私よりお綺麗なの?
【 ヘレナ・アンティパス 】
本当?それは嬉しい。…でも、書類上だけの認知じゃ寂しいですから。
( 特別枠の女子生徒となれば当然寮長は承知しているだろう。そう考えて彼の言葉に納得しながらも、自分のことを覚えているという言葉に嬉しそうな声色で応える。とはいえせいぜい入学時の情報を知っている程度だろう。それでは距離を縮めることもままならないとばかりに付け加えつつ、自分の要望通りにこちらを向いた彼に満足げに表情を和らげる。
自分の知る貴族とは雰囲気が異なるが、百獣の王らしい雰囲気はあるかもしれない。そう彼を見て思案しながらも、彼の緑の目を見据えて言葉を選ぶ。そもそも今この瞬間に済むような用事でもないし、度々彼に声をかけるつもりなら十二分にあるのだが、あくまで簡単に自分の用件を告げて愛想良く微笑み )
それなら単刀直入に申しますが、あなたと親しくなりたいんです。夕焼けの草原の王子様がどんな方なのかを知りたいし、私がどんな女なのかも知ってほしいの。…今全部済ませるのはちょっと難しい用事ですし、これから少しずつ用を済ませようと思って。だから、今日はそのためのご挨拶に来ました。
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【 アズール・アーシェングロット 】
ええ、残念ながら。…僕に一目惚れしてくださったとおっしゃるのなら、光栄に思いますよ。
( 彼女は自分に一目惚れしたというのだろうか。生憎なことに、彼女の言葉通り自分は一目惚れの経験なんてない。それに、一目惚れ自体馬鹿馬鹿しいことだろう。見た目以外に何も分からない人間に惚れて理性を欠くなんてあまりにリスクが大きすぎる。自分なら恋をするにしてももう少し相手の吟味をするだろうと思いつつも、やはり彼女の意図が読めずに一瞬微かに眉を寄せる。その理由もなんだかどこか胡散臭さを感じるし、どこまでも何を考えているか分からない女だ。そんなことを思いながらも愛想よく言葉を返す。
しかし、もしもこの得体のしれない女の弱点を知れたら有用かもしれない。そんな考えを静かに巡らせているうち、どこか本当に切ながるような様子で相手がいるのかなんて問いをかけられるとその目を探るように見てからにこやかに否定する。そのうえで契約への了承を口にしては、彼女を観察するように見つめて対価についての考えを巡らせ )
いいえ、そんな方はいません。ドロシーさんは今までに見たどの人魚や人間よりもお美しい女性ですよ。ですから喜んで契約を結ばせていただきますとも。
【 レオナ・キングスカラー 】
───…なるほどなァ。
(耳聞こえのいいおべっかがこびりついた言葉を受け流し、思わず小さく鼻で笑って。随分と正直に物を言う。明らかに権力目当てで、王室という立場しか見ていないのが明け透けだ。これが相手が庶民で、裕福な生活を夢見て媚を売ってくるのであればまだ可愛げがあるが、相手は曲がりなりにも貴族筋の出身。家のことを考えれば継承権も下がった第二王子はそれはそれは丁度いい存在だろう。屈辱に内頬を噛みながらも、こちらからも利用してやろうかと惟る。丁度雑用係が欲しいと思っていたところだ。床に広がる式典服をちらりと一瞥し、それから再び彼女の方へと視線を戻すと、少しの間勘案に口を噤んで。──矢張り駄目だ。それが仕事だとすればまだしも、女を都合よくこき使うのは想像しただけでむず痒くって仕方がない。だらしないと叱責する義姉の姿が自然と浮かび振り払い、雑用は適当な1年生でも捕まえてやらせようと考え直す。さて、どうやって誤魔化したものか。つまらなそうに大きく欠伸をし、皮肉っぽく間伸びした口調で返し、直接的なお断りの文言は口に出さず、分かるだろうと言わんばかりに双眸を細めてみせ。)
生憎だが俺はこう見えてシャイなもんでな。お国柄、女に周りをちょろつかれると落ち着かない。
【 ドロシー・エルリッチャー 】
まあ。ふふ、お上手。
(否定の言葉に安堵を覚えるよりも先に、分かりやすいお世辞の言葉に反応して舞い上がってしまう。同じような契約を持ちかけられさえすれば、どんな見目の女性にも同じ台詞を吐くことは分かっているが、それでも容姿を褒められると嬉しいものだ。その言葉が心からの真実になる日が待ち遠しい。すぐに熱くなってしまう頬を両手で覆って気恥ずかしさに身を捩り、自身の頬の柔らかさを確かめながら見上げるように窺うと、仕切り直しとでも言うようににこりと笑って。
「対価についてだけど、」と一言前置きをして会話を委ねる。さて、ご自分の愛情をどの程度の価値だと考えているのだろうか。ゆっくりと手を下ろし、客たるこちらの了見を示して。)
魔法でもお金でも物品でもお支払いします。……それか、貴方と同じように時間でも。
契約が履行されるまでの間、ここのカフェで働く形でも構いません。少し貴方に有利な気もするけど、万が一の場合解消もしやすいし、…よく働く子の方が好きでしょう。
【 ヘレナ・アンティパス 】
使用人はいないの?こんなふうに服を放っておくなんて…
( 彼の視線が床に落ちたのを見て取ると、自分もその先へ視線を向ける。そこに床に落ちている式典服を目にすると、率直な疑問を口にする。彼は第二王子だとしても王族だし、学園に入るのに使用人の一人くらいつけられなかったのだろうか。そんなことを問いながら受け取ったばかりのマジカルペンを取り出し、式典服を魔法で持ち上げて適当な箇所へ移動させる。
シャイだから女が近くにいると落ち着かないというのは、おそらく嘘か自分を誤魔化すための言葉だろう。そんな風に察して自分への拒絶を読み取るものの、ここで大人しく引き下がるわけにはいかない。彼の意図に気付かないふりをして楽しげに微笑むと、彼を気遣って身を引くなんて言う素振りは見せず、むしろ彼に興味を唆られたとばかりに口にして )
ふふ、百獣の王子様がシャイなの?可愛らしいところもあるんですね。…ますますあなたのことが知りたくなっちゃいました。
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【 アズール・アーシェングロット 】
ふふ、照れる様子も可愛らしいですね。
( 恥じらうように頬に手を当て、身を捩る素振りは可愛らしい。しかしそれがどこまで策略であるのかを思うと、素直に可愛いとは思えない。この女は腹の底で自分を馬鹿にしているかもしれない。もし本当に惚れでもしたら、愚かな蛸だと言って自分を嘲笑うかもしれない。そんな卑屈な考えを巡らせながらもそれを匂わせることはなく、にこやかに彼女が求めるであろう褒め言葉を口にする。
しかしそんな彼女が自ら対価について持ち出すと、眼差しに物欲に満ちた商売人の色を滲ませる。彼女が挙げる対価の中で最も自分に利益をもたらすのが何なのかがまだ分からない。相手の得体が知れない以上慎重に取引をしたいところだと思案を巡らせているうち、契約の履行までここで働くという彼女の提案を耳にすると納得したように小さく首を縦に振り )
なるほど。…それでしたら、しばらく信頼関係の醸成も兼ねてこちらで働いていただくことはできますか?僕もあなたのことをまだよく知りませんしね。もちろん給料は相応にお支払いしますが、いかがです?
【 レオナ・キングスカラー 】
……おい、勝手に片付けるな。女にされると落ち着かないことこの上ねえ……。
(拙い魔法で移動する式典服を暫く目で追い、酷く落ち着かない心地を覚えるとがしがしと髪を掻き乱して。重い腰を上げて寝台を下り、相手が移動させた式典服を脇に抱え、皺も気にせずクローゼットへと乱雑に放り込む。他国の者から見れば奇異に映るだろうか。戸を閉めると再びベッドへと戻り、仰向けで横臥すると今度は瞼を下ろして。
己に取り入るための安い甘言は無視し、彼女が式典服を片付ける前の疑問に対しての答えを述べる。実際は王宮関係者に学園まで付き纏われることを嫌った己の言動が要因なのだろうが、自身の存在が軽んじられているというのもあながち嘘というわけでもない。これが第一王子であればどれだけ嫌がっても使用人はつけられるだろう。そんな考えを巡らせると、ッハ、と嘲笑的な笑みをが自然と零れ。)
第二王子風情に使用人なんか勿体ないんだろうよ。何を期待してるか知らないが、俺の権威なんてそんなもんだ。
【 ドロシー・エルリッチャー 】
お給料まで出るの?ふふ、無賃も覚悟していたんだけど。
(さらりと誉め言葉を言ってのけるのは心がこもっていない証拠だろうか。あまり喜んでみせるとつけ上がりそうだ。笑みだけを浮かべて受け流し、関心は既に契約内容のことへと推移して。契約についての悪評は幾つか耳に入っていたため、無賃金でと言われることも考慮していたが、流石にそこまで悪辣というわけでもないらしい。これで内容は固まっただろうか、と胸ポケットからペンを取り出すが、そこで言い忘れに気が付くと食指を立て。契約期間を定めなければどちらに取っても利用することができてしまう。気を払うべきは契約内容の穴を突かれないように、なのだろう。ペンに嵌め込まれた魔法石の縁を指先でそっとなぞりながら是非を問うような視線を向けて。)
ああ、契約期間を決めてくださる?ある程度決めておかないと、貴方の胸三寸で永遠に働くことになってしまうもの。更新するかはちゃんと考えないとね。
【 ヘレナ・アンティパス 】
不思議。私のところじゃこういうことは大概女がするのに。
( 自分の出身地では女の使用人くらいいくらでもいたし、この程度の家事ならそういう連中にやらせていた。夕焼けの草原では女性の権利が強いとも聞いたことがあるが、女性に片付けられるのが落ち着かないと言うのはその影響だろうか。せっかく片付けた式典服がクローゼットに押し込まれるのを眺め、少々粗野な人物なのかもしれないと思案を巡らせる。
第二王子に使用人はいないと話す彼の声音に自嘲的な色を感じた気がするが、彼は第二王子の立場に引け目を感じているのだろうか。さりげなく彼の寝転がっているベッドの縁へ移動し、閉じられた彼の瞼を眺めながらはっきりとそんな疑問を口にする。王族というのは魅力的だが、彼に王位が巡ってくる可能性は低いだろう。それはあまり面白くないが、彼に王位への野望があるのかは純粋に興味がある。そう思案しながら彼の表情を見つめ )
王族も大変ですね、生まれた順番で継承権が決まるなんて。…キングスカラー先輩は、第一王子に生まれたかったんですか?それとも、今の生活に満足してる?
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【 アズール・アーシェングロット 】
ええ、ドロシーさんのような方に無賃労働を強いるのはさすがに気が引けますから。
( 彼女の言うとおり、無賃で働かせることもできはした。というか、無知な他の生徒にならきっとそうしただろう。しかし彼女はあまりに未知だ。下手に無賃労働を強いて後で対抗措置を取られでもしたら面倒だし、そもそも敵に回していい人物かどうかもまだ読み切れていない。あくまで慎重な姿勢から彼女の言葉を微笑んで肯定しては、早速契約書の支度をしようとする。
その矢先に彼女から契約期間についての言葉が出てくると、やはり自分の判断は正解だったと確信して目を細める。大概の生徒は大して契約書に目を通さず、得られる報酬に目を眩ませてサインをするだけだ。その点彼女は冷静なようだと察しをつけつつも、彼女を見定めるために必要な期間を思案して案を持ち出し )
そうですね…ひとまず、平日の出勤日は一日二時間以上、休日には四時間以上の勤務を一ヶ月…ということでいかがです?
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