六彩 2022-08-28 11:47:18 |
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こんにちはー!
(人気パティスリーのショーケースに張り付いて数十分。店員さんの迷惑そうな視線に耐えながら悩みに悩み抜き、何とか厳選したケーキを持って家庭科室のドアを開ける。食器棚も布巾も整然と並ぶその部屋の中には、制服姿の先輩が中央の作業台にぽつんと座っている。迷いのない足取りで彼の前まで歩いて行くと、目の前に買ってきたばかりのケーキ箱を置き、いそいそと開いて中身を披露。上から覗き込んだ色彩豊かな八個のケーキに再度うっとりと目を細めては、待ち切れない様子で急かすように騒ぎ立てる)
見てください先輩、人気店のケーキ買ってきたんです。一緒に食べましょう!
(換気のためにと軽く開いた窓から吹き込む温かな風に擽られ、くふりと欠伸を洩らす穏やかな昼下がり。家庭科室の作業台で新作ケーキの図案を描き出していると、元気な挨拶とともにドアが開け放たれる。目を遣らずとも声の主は明白。それは、後輩の声がいつもいつも不必要なほどに大きいからだとか、声を聞き分けられるほど親しい間柄だからだとか、決してそんな理由ではなく、単に家庭科部の部員が僕と彼女の二人しかいないからだ。いつにも増して上機嫌に見える彼女は、最短の動線で僕の前まで来ると手に持ったケーキ箱を作業台の上に置き、まるで見せびらかすかのように開く。中に見えるのは無論、ケーキ。色とりどりの宝石のようなそれらに否応なく目を惹かれるが、食欲より先に疑問が湧き、それをそのまま口に出す。一応断っておくと、今日、家庭科部に来客の予定はない)
……多くないか?
これでも厳選したんですよ、十五種類もあったから悩みに悩んで……
(仕切りで分けられたスペースに収まって自らを主張するケーキ達は、宝石さながらに綺麗だ。しかし先輩はそれを一瞥しただけで、身を乗り出すことも、ジュレに負けず劣らず目をキラキラさせることもなく、二人で食べ切るには多い数量のことに言及してくる。宝石を前に、値段ばかり気にしているような趣の無さだ。大袈裟に苦渋の表情を浮かべ、身振り手振りも交えて、わたしがいかに悩んだのかということを先輩に伝える。何故そこまで悩んだのかといえば、両親がパティシエで、自身もパティシエ志望であるサラブレッドの先輩にいつでも気軽にケーキの再現をお願いしようという魂胆からなのだけれど、それを悟らせぬよう両手の拳を体の前に持って来ると、先輩の瞳をじっと覗き込んでかわいい後輩アピールを試みて)
先輩の顔を思い浮かべながら、一生懸命選んだんです……!
半分にもなっていないじゃないか。
(ぶんぶんと手を振り回しながら後輩が熱のこもった演説をする。ボディーランゲージのつもりなのだろうが、話の内容が内容だけに弁明か駄々を捏ねているようにしか見えない。何の説明にもなっていない説明に、溜め息をこぼしながら容赦なく切り込む。過ごしやすくなってきたとはいえ、九月の昼下がりはケーキを常温で放置しておけるような気温ではない。家庭科室に冷蔵庫があることがせめてもの救いだけれど、学校の備品を無断で使うわけにもいかず、職員室まで許可を取りに行くことを考えるとまた溜め息が出る。そして、僕に本日三度目の溜め息を吐かせたのは、態とらしく付け足された後輩の一言。まるで僕の為、とでも言いたげな言い草にすかさず反論する。彼女の魂胆など、ケーキフィルムのように見え透いている)
僕がケーキを再現するところを思い浮かべながら、だろ。
●振り返り・感想
心情ロルって何だ? 何なんだ? 怪しいところが多々ある。黒寄りのグレー。情景とか行動とかの外側の描写だけに限定すれば良かったのかもしれないけど、「一人称視点の小説風」の時点でかなり心情に寄っている気もする。キャラクターの感じたこと・考えたことが書けないから、見たことと行動や表情、あとは状況説明くらいしか情報がないし、三人称視点の一人称を「わたし」「僕」に変えただけのものになりそうだよね。
……ふふ、いい子ね。
(帰宅中、道端に捨てられた犬が目に入るとその前に屈み。最初三匹に見えたその犬は、よく見れば頭が三つある一匹であり、三つの頭の上を彷徨わせた後に真ん中の頭に手を乗せ。途端、段ボールの中でぶんぶんと勢いよく左右に動く尻尾に気が付くと頬が緩む。暫し三頭犬と戯れた後、見知った顔が通り掛かると三頭犬を抱き抱えて立ち上がり、彼に見せるように向きを変えて)
ねえ、この子、もらってくれない?
……ええと、ごめん。僕も普通の犬だったら両親に掛け合ったり、他に引き取ってくれる人を探すのに協力したいところなんだけど……
(前方にクラスメイトの背中を認め、どうやら何かを覗き込んでいるらしい姿勢に興味を惹かれつつもそのまま通り過ぎようとしたその時、見計らったかのようにこちらを振り返る彼女と目が合い。少々面食らいつつも彼女の抱える捨て犬らしき生物へと目を落とせば、一つの体から生えた三つの首に絶句する。その生物を一般的な犬と同等に扱っているように見受けられる彼女の言動も相俟って混乱しきりだが、何とか返答を絞り出せば、困惑の表情を口元だけ笑わせたような曖昧な笑みを浮かべ。あまりの状況に素通りすることも出来ず、進行方向へと向けていた体を彼女と謎の三頭犬の方へと向かい合わせれば、ちらりと足元の段ボールへと目を落として)
……と、言うか。どうして地獄の番犬がこんなところに捨てられているのかな?
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