ビギナーさん 2022-08-20 17:26:05 |
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寂しい?なんだ、それ。
(夜風に紛れるように、そう相手に問う声と共にオレンジ色の粒子が空を舞ったかと思えば屋上の手すりに腰を下ろすパラドが形成される。相手の方をじっと眺めたまま暫く足をばたつかせた後、ひょいと手すりから飛び降りて相手の方へ近付き、「ブレイブは寂しいのか?寂しいってなんだ?」と再び不思議そうに問いかけた。寂しい、という感情はバグスターであるパラドには今ひとつ理解できないものであるらしく、子供のようにあどけない表情で首を傾げており)
そうだ。大切な人に会えなくなり……独りになって心が落ち着かない。…といった感情だ。
(今日はやけにパラドに会うなと内心驚きつつも、平静さを保っている。しかし相手が問いかけた意外な質問に、思わず目を丸くした。寂しい、か。己の感情に内省すると、余計に考え込んでしまいそうだった。それはピースを1個失くしてしまい、永遠に完成しないジグソーパズルのようなものだろうか。感情のように曖昧に定義された哲学者的な存在を、口で説明するのはやはり難しい。考える素振りをすると、「研修医、…もし永夢に会えなくなるとしたら、お前も…この気持ちが分かるはずだ」と途切れ途切れのオルゴールのようなか細い声で言い)
ふうん…よく分からないな。
(相手からの説明にますます首を傾げ、眉を顰めてしまうが続けられた言葉にぴくり、と反応しては「…永夢がいなくなるのは、ダメだ。心が躍らない」とごく小さくぼそりと呟いた。その後は相手にまた視線を戻し、「じゃあ、ブレイブはその人に会えたら寂しくなくなるのか?」と相手の白衣から覗く白いガシャットを指差す。続けて「…グラファイトはブレイブを仲間にしろって言ってるけど、俺は別にどうでもいいんだ」と独り言ちるように屋上の手すりに再び腰を下ろし)
それは…
(核心をつく問いを受けて、白衣のポケットをまさぐりながら口篭る。勿論小姫が生き返る方法が存在するのならば知り得たいが、現実は御伽噺のようにそう都合の良い話ばかりでは無い。
ふと決意を鈍らせるような夜風が頭部を掠り、ブラウンの前髪が目元にかかった。目を離した隙に落ちてしまいそうな、危うい位置に座っている相手に視線を向ける。その独り言には「…俺の方こそお前と争いたくはない」と返していて)
でも俺はバグスター、ブレイブ達の敵だ。
(真っ直ぐな視線を相手に向けたままごく簡潔にそう答え、手すりから手を離すとその手を相手に向けてひらり、と振った後、相手が見ている中ではあったが夜の闇に溶けるかのごとく、屋上からスローモーション再生のように地面へと落下していく。柔らかな黒髪が風に煽られ、服の裾がバサバサと揺れる音を立てながらもパラドは「ブレイブ、またな」といつものごとく無邪気に笑い、落ちる中途でオレンジ色の粒子に肉体を変化させ、また夜風に紛れるようにして消えてしまい)
そうだな。俺達は分かり合えない…
(最後の悲哀が込められたような笑顔が目に焼き付いていた。相手の落下していった方向を見つめ、手すりを握っている手に力がこもる。そう、彼等は人間の敵でドクターは切除しなければならない。世界の条理に抗うことなんて不可能で、胸に波が打ち寄せてくるような感覚を覚えた。
CRに戻って冷蔵庫を開けると、誰かが入れてくれたのだろう、食べかけのケーキがラップに包まれていて、わずかに目元を緩ませ)
ただいま~
(相手とー我ながら随分とドラマティックな別れ方をし、グラファイト達の元へ戻る。帰ってきたのを見つけたらしい二人から揃って早くブレイブを仲間に引き入れてこい、とせっつかれるものの何処吹く風、彫刻のように整った相手の顔を思い出しながら頬杖をついてにんまりと微笑む。「…あの顔が歪むの、見てみたいなあ」正直相手の顔を歪ませる感情は何でも良かった。怒りでも、悲しみでも喜びでも、この奇妙な感覚を満たせるのはそれだけだと感じており、駄々をこねてグラファイトから相手の恋人のデータが残ったガシャットを受け取るとポケットへ突っ込んでしまい、「待ってろよ、ブレイブ」と宣戦布告するように天井を指差しては楽しげに自分のガシャットを回し)
はぁ、俺は何故ここにいるんだ。
(最後にパラドと遭遇してから数日。本人はガシャットの件をすっかり忘れたかのように、診療や外科治療を淡々とこなしていた。その日は勤務時間にも関わらず、病院の近所にある公園へ来ていた。先程親父が「最近顔が暗いぞー、飛彩。思いつめてるようだから、ちょっと風にでも当たってきなさい」と休息を促してきたからである。当初は乗り気では無くて首を横に振ったが、経験豊富な父親の助言を軽視することはできなかった。ベンチに座り、肩の力を抜いてそっと目を閉じる。風が吹く度に街路樹や植え込みの葉がさわさわと音を立てて揺れていて)
また会ったな、ブレイブ。
(グラファイトから借りる、もとい半ば奪ってきたような借り物のガシャット片手に上機嫌そうなパラドは、そんな相手の顔を覗き込むようにしてひょい、と姿を現す。黒のボディにラベルの貼られていない空白のガシャットを相手のー閉じられているが、そんなことは関係ないらしいー目前に突きつけ、「グラファイトから借りてきたぞ。恋人のデータはこれに入ってる」と口に出すなりそれを起動させる。軽快な起動音を立てたガシャットからは白い光のホログラムが投影され、それは次第に人の形を作っていく。やがて形成され終わったホログラムには言葉通り、女性の姿が映し出されていて)
今度は何だ。俺は今忙しい。
(子どものように明快な相手の声に内心倦厭しながらぼやき、目を開けた。すると何かが形作られるような、泡のような音が聞こえた。途端、黒いガシャットから無数の粒子が零れ落ちて、よく知っている人の姿が目に映る。文字通り狼狽し長い夢から覚めたような顔つきを浮かべており、その名前を叫んで駆け寄って)
…小姫!
…
(退屈そうな表情のまま、ホログラムの幻影に駆け寄る相手をじっと見つめていたが、ふとガシャットの電源を落としてしまう。電源が落とされたことで幻影は消え、「協力するなら、ゲンムがこのデータを復元してやるってさ。どうするんだ?ブレイブ」と半ばうんざりしたような声色でグラファイト達から口酸っぱく言われた勧誘文句を口に出す。最後に「…一緒に来てくれ」ごく小さく、少しだけ縋るような瞳で相手を見つめ)
だから言っただろう、協力する気はないと。小姫は俺のやり方で取り戻す。俺の心を弄ぶな!
(彼女の元へ手を伸ばすが、蒸発していくのを見届けるほか無かった。冷静沈着な飛彩にしては珍しく激昂して、相手の顔を睨み返す。退屈そうな相手の表情が癪に触るようで、形の整った瞳は今、歪んだ鏡のような光を放って淀んでいる。ガシャットを持つ相手の手首を強く掴んでから突き放し「もう放っておいてくれ」と震え声で、切ない表情を浮かべながら俯き)
嫌だ。ブレイブ、お前を見てると心が躍るんだ。
(思った通り、相手が普段浮かべる澄ました表情が頼りなく歪む様は妙に心が満たされるような気がした。強く突き放されて一瞬ふらつくのも構わず相手の近くまで歩み寄ると相手の顎に手を掛け、無理矢理持ち上げて自分の方へ向けるといつも通り、無邪気極まりない笑みとあっけらかんとした声色で「じゃ、またな」と手を振り、例のごとくオレンジ色の粒子に変化して消えてしまい)
心が、躍る…?
(相手の名前を呼び止める気力もなく、先程まで触られていた顎の辺りを指先でなぞって眉を顰めた。相変わらずパラドの真意が理解不能だった。何故ここまでして俺に付き纏うのだろうと考えながら、聖都大学附属病院までの道を黙々と歩き、気づけばCRへと辿り着いていた。ポッピーピポパポにいつにも増して怖い顔をしていると指摘、いや心配されたが、お構いなしにデスクチェアに腰掛け、苦渋に満ちた表情を浮かべていて)
…
(今日はどうやらグラファイト達の元へは戻る気にならないらしく、適当な公園のベンチに腰を下ろしてゲーム機を起動する。足を組みながら器用な手捌きで画面上を埋め尽くすような弾幕を躱し、ステージ1をクリアしたところで空を見上げると自分のデュアルギアガシャット、そして黒のガシャットをその眼前に持ってきては目を細め、「…面白い」と呟いてみて)
…ではお先に失礼します。
(長時間に渡る手術の後、当直医の引き継ぎを完了し同僚と挨拶を交わしたところで帰路につく。今日は気分転換に少し回り道をしてから駅へ向かおうと思い、公園内の遊歩道を歩いていた。当然ながら、そこに相手がいることは思いも寄らず)
……
(暫くゲームを遊んでいる内に眠くなったらしく、ベンチに身体を投げ出しては幼い子供のように眠っている。誰かが親切で掛けてくれたらしいブランケットを膝に掛け、片手には電源の入ったゲーム機を握ったままあどけない表情を浮かべており)
おい、風邪をひくぞ。
(相手と関わっていると必ず厄介なことに巻き込まれると解っているはずなのに、幼気な寝顔が理由無しに放っておけなくてベンチの隣に座り、話しかけてしまった。発せられた声は病院で患者の子どもに接するかのような、実に穏やかなもの。そうは言っておきながら、バグスターは風邪をひかないのではないかと後々思ったが)
…うん?
(パラドは急に声を掛けられたことに眉を顰め、勿体ぶるように瞳を薄っすらと開いては声の主を探すかのごとく周辺に目を遣る。がすぐに相手だと分かったらしく、まだ眠気の覚めていないらしい声色で「…なんだ、ブレイブか」と呟いては大きな欠伸をしつつベンチから立ち上がって)
起こさない方が良かったか。
(折角起こしてやったのに。俺に会って嫌だったのか。そう思ってややむくれた顔つきを浮かべながら、膝の辺りで手を組んで座り、その眠たげな顔をまじまじと見ている。そういえば、先程パラドの片手にはゲーム機が握られていた。それに熱中した挙句寝落ちした姿が容易に想像できて、パラドのことを他愛無いがほんの少しだけ可愛げのある奴だと思い)
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