ビギナーさん 2022-08-20 17:26:05 |
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……ああ。
(相槌を打ち、そっと見つめ返す。これ以上無理に笑わないで欲しいと願った。告白が相手を苦しませているのは百も承知だった。話が途切れて居心地が悪くなった場を紛らすように大きく伸びをし、空元気な声で「楽しかったな、ゲーム」と一人呟く。それから「じゃあ……帰るか。また今度な」と別れの挨拶をし)
あ…はい!
(暫く重苦しい沈黙が流れていたが、静寂を破る相手の声に答えると手を振って相手を見送るが少しの間そこを動けずに立ち止まっていた。頭の中では先程の好きだ、との言葉が繰り返し流れており、自分でもその感情に説明がつかないようで帰路についてクッションに顔を埋めてもずっと考えているままで。普段なら起動するゲーム機も電源をオフにしたまま一人考えていてー大我の『告白』を聞いていなかったニコはゲームセンターから出てくるとその姿を見つけ、「成功したの?」と歩み寄って)
情けねぇ所見せちまったな。
(永夢と公園で別れてから独り言を残すも、それは都会の喧騒に飲み込まれていった。雑踏の中を歩いてゲームセンターの方面へ戻り、ニコと合流する。その質問にはただ一言「返事待ちだ」と答えて苦笑いを浮かべ)
(「…なにそれ。」ニコは拍子抜けしたような表情でそう呟き、大我の背を追うようにして歩き出す。ーその頃永夢は携帯を開き、「今日は誘ってもらって、ありがとうございました」と打ったメール送信画面でしばらく固まっていた。次の言葉が思い付かないのか、数分間はそうしたままだったが「今日は誘ってもらって、ありがとうございました。告白の答え、今度絶対言いますね」とやっとのことで打ち終わり、最後にお気に入りのマイティのスタンプを付けて送信し)
まぁ……告白、はした。
(眉に皺を寄せて強がった様子で返答し、ニコのペースに合わせて歩く。そして付き添ってもらったお礼にと「今度なんか奢ってやるよ」と言い出した。ゲーム病クリニックに戻ると、スマホの通知に気づいてアプリを起動する。永夢からのメールを読んだ途端、仮眠用のベッドに身を投げ、気恥ずかしさが悟られないようにうつ伏せの体勢をとっている。気もそぞろでメッセージを送るのにしばらく手間取ったが『こちらこそ。今日は一緒に遊べて嬉しかった』と返信し、普段はあまり使わないゲームキャラのスタンプを添えて)
…どうしよ…
(相手からの返信が返ってくると携帯を持ったまま、ますます困ったように眉を顰めてはクッションにぼふぼふと頭を繰り返し打ち付けてそう呻く。気持ちを切り替えるように手元にあったゲーム機を引き寄せ、電源をオンにするととりあえず中に挿さっているゲームを起動して遊び始めるが、どうにも気分が乗らないらしく、普段なら難なくクリアできるはずのステージでもミスとゲームオーバーを連発してしまう。ー「やっと告白したわけ?」ニコは呆れたような表情で大我のことをそう笑い、普段陣取っている部屋に戻ってしまうと早々にゲーム機を起動して)
あいつ。今頃何してっかなぁ。
(ベッドから起き上がって診察室へ戻る。誰も居らず冷房が効いてひんやりとした部屋全体を、窓際に立って見渡しながら考え事をしていた。片想いが成就するかは皆目見当がつかないが、抱え込んでいた気持ちを相手に伝えたことで、ずっと止まっていた刻が動き始めて一歩前へ進める気がした。それが内心淋しくもあって)
…今度の休み…はいつだっけ…
(ミスばかりでステージ1から少しも進めないゲームの電源を切り、ぼんやりと壁に掛かった可愛らしいイラスト付きのカレンダーに目線を投げてそう呟く。大抵の日付は予定があることを示す赤いバツ印で埋め尽くされているが、奇跡的にバツ印のない日付が一つ。それは今日から3日後の日曜日で、「…明々後日…うん、決めなきゃ…」と元気のない声で漏らし)
はぁ、溜まっているのを片付けるか。
(これでは夕方まで暇を持て余しそうなので、PCを立ち上げてワクチン開発に関連した書類に目を通したほか、衛生省へのメール対応を行っていた。所謂残業をしているというよりは、気を紛らしていると表現するのが正しいかもしれなかった。作業中は口寂しく、個別包装のチョコレート菓子をつまんでいて)
…
(何を考えるでもなく、ひたすらダラダラと怠惰にゲームをプレイしていたがふと思い立ったように残った作業をこなしてしまうと、相手から送られてきていた受信フォルダ内のメールを見返す。何度か読み返した後、「大我さん、明々後日って空いてますか?その日に告白の返事、させてください」と普段とは違った大人しい文面を打ち込むと申し訳程度に首を傾げているゲームキャラのスタンプを)
メール?誰からだ。
(先程まで黒かった携帯画面に、通知音と共に白いポップアップが表示されているのに気づく。送信元が永夢だと分かると溜息をついて目を細めて文面を読む。それから『その日は休診日だから空いてる。』と打ち込み、続けて『わかった。待ち合わせ場所はどうする?』と質問を添えて返信した。遂にこの時が来るのかと思うと胸騒ぎを憶える。表情には出ていないが、心中は浮き足立っている様子で)
わ…返ってきた…
(しばらくしてポン、と軽快な音を立てて返ってきたメールには待ち合わせ場所を問いかける質問が添付されていた。思わず呟いて少し考え込んだ後、この前誘われたゲームセンター近くの公園にする旨を返信すると携帯をクッションめがけて投げ出し、気だるげな声を上げながら瞳を閉じて)
例の場所か……
(指定された場所は先日相手に好意を伝えた所で、届いたメールには『了解』とだけ返信する。さて、日曜日はどうなることやら。携帯を放り投げ、天井の蛍光灯を仰いでおり)
考えてても仕方ないか。
(しばらくは瞳を閉じたまま返事をどうするかと考えていたが、決心を決めたように頬を張って立ち上がる。そのままゲーム機に向かうと今度はどのステージも難なくクリアしていき、ゲームクリアのナレーションとエンディングロールを眺めていて)
(やはり時というものは待ってくれないようで、運命の分岐点である日曜日が訪れる。今朝の寝覚めは何とも言えず、心地よく眠れたのか、はたまた悪い夢でも見ていたのかあまり覚えていなかった。スマホで天気予報を確認すると本日は曇り時々雨。降水確率は低く帰りに雨に降られることは無さそうだが、不安定な天気が何かが起きるのを予兆している、そんな気がしなくも無かった。電車の中では珍しく物思いに耽っていた、俺はあいつの笑顔が見たいだけで烏滸がましい真似はしたく無かったのだと。数十分後、公園には想定していた時間よりも早く到着した。その場のベンチに腰掛けて広場にある古びた時計を眺めており)
早く着きちまった。ゲームでも……はぁ、 する気になっていれば、よかったんだがな。
あっ、大我さん!
(相手から数分遅れて待ち合わせ場所へと着くと、既に相手がベンチに座っているのを見つけて元気よく手を振りながら声を掛ける。「待たせてすみません!」と慌てた様子で頭を下げつつ相手の方へ駆け寄ると、相手の隣に腰を降ろして様子を伺うような目線を投げかけ、「…それで、その。告白の答え…なんですけど」と切り出して)
永夢……!
(今しがた考えていた相手が実際に現れるとなると腹を括っていても面食らったらしく、黒色の目を見開いた。頭を下げた永夢に対しては律儀な奴だという好印象を持ちつつも、慌てた様子で「謝るな。俺が早く来たんだ」と制止した。続けて彼の言葉に耳を傾けて無言で頷きながら、自身の両手を組んでその答えを待っており)
…その、やっぱり…いきなり付き合う付き合わない、とかは…考えにくくて。
(相手が己の話を待ってくれていることに気付くと、時々口籠りつつもはっきりとした口調でそう口に出す。その後慌てたように「あっ、でも…それで大我さんが嫌い、とかそういうのはなくて…まずは「お試し」…みたいな感じじゃダメですか?」と反応を伺うように向けられた瞳は変わらないままではあったが、声は真っ直ぐで)
ああ。それで、いい。
(聞こえるように明瞭な声で相槌を打った。永夢ではなく赤の他人に恋をしていると装って相談を持ちかけて、帰りにいきなり告って。……本人は相当戸惑った筈なのに、好意を拒絶せずに寧ろ受け入れてくれた。それが素直に嬉しかった。相手の提案に対しては「『お試し』か、悪くないぜ。……ははは、すげー優しいんだな」と返し、肩の力が抜けたのか、普段の大我なら見せないであろう照れ笑いを浮かべており)
そんなこと、ないですよ…
(相手が受け入れてくれたことを理解すると大きく息を吐き、固まった表情を解して胸を撫で下ろしながらも続けられた言葉は首を横に振って否定する。「…ちょっとビックリはしましたけど、好きって言ってもらえて嬉しかったですよ。」どことなく恥ずかしそうにはにかんだ笑みを浮かべつつ、相手を真っ直ぐに見つめ)
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