匿名さん 2022-07-30 16:42:56 |
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「さあて、今日の話題は何だったかなあワイアード。」
(彼女はそんな二人の様子を気に留めるでもなく右肩に乗せた人形に語りかける。勿論人形は物も言わずガラス玉の瞳を彼女に向けているだけだが、彼女には何かが聞こえているらしく笑顔で頷くと「そうだ、それだそれだ。最近私の庭に成ったスイカの形が変だった話だね。」人形の方を向いたまま取り留めのないことを語り出し、男は適当に相槌を打ちながら彼にそれとなく目線を向けて「……ニコラさんは腕は確かなのだが、精神が少々あちらの方向に向かっていてな。」と面倒そうに呟いて)
…そろそろ次の件の時間です、行きましょう。
(人形劇を半ば放心したように眺めていれば、調査官の呟きにはっと目が覚めすっかり温くなってしまった紅茶を啜って。このままでは埒が明かない、まるで忠実な部下のように、自分たちには次の予定があるのだというような口ぶりで彼女の一人劇場を遮って。卓に立てかけていた刀を掴んでそのまま立ち上がろうと
「うん?アルバートくんから今日は仕事がないと聞いているが…なあ?マリーナ。まだ話し足りないのになあ。」
(話を遮られたニコラは不満げな様子ではあったが、不思議そうに首を傾げながら男に確認を取るかのように今度は左側の人形に問いかける。男はニコラの話しかけている人形を見ると顔を強張らせ、彼の腕を引いて無理矢理再び椅子に座らせる。満足げな様子で頷いたニコラを見ると胸を撫で下ろし、彼の耳元に向かってごく小さな声で「……ニコラさんが左肩の人形に話しかけているときは刺激するな。きみの刀は彼女の一存で使い物にならなくなるぞ」と囁いて)
……はい。
(今日は化け物退治はしないと聞いていたのに十分彼女も怪異じゃないか、話が違うと調査官を睨みつけて。心做しか人形からこちらをじっと見つめてくるような視線を感じる気もするし、彼女の話は無難な世間話のようで、脈絡なく散らばるオートマティスムめいた内容で聞いていて疲れるし、もうどうにでもしてくれ、と諦めたように天を仰げば吊り下がる小さいシャンデリアが獲物を捕らえる蜘蛛の巣のように放射線状に光を瞬かせていて
…それはそれは。すみませんが、ニコラさん。もう失礼させて頂いても?
(男は彼の目線をしばらく無視してニコラの話に付き合っていたが、ややあって溜息を一つ洩らしながら彼女の話が一段落したところでそう呼び掛ける。「うん?何故だい?」そう問い返す彼女に男は素知らぬ顔で「貴女の作った物の品質は知っていますが、所持者の彼には試し斬りをさせないと。所持者の腕が悪くて貴女の武器を扱えなくては本末転倒でしょう。」とそれらしい理由を並べ立てる。ニコラは再び少々不満げな顔を見せるが、今度は右肩の人形に話しかけて「アルバートくんたちは帰るそうだよ。ほら、さよならをしたまえ」と腕を持つとひらひらと左右に振ってみせる。男は一礼をして屋敷の玄関ホールを出ていき、疲れたように大きく息を吐いてスポーツカーに乗り込み)
十分お化け屋敷じゃないですか、何なんですかあれ。
(車に乗り込むやいなや、上記の文句を並び立てて。最後は人形が少し動いた気がしたのは疲れによる気のせいだろうか、もしそうなら彼女のようになってしまう前にリフレッシュ休暇が必要だ、そんな内容のことをうだうだ考えていたら貰ったばかりの刀が目に入って。「あぁ、お礼言ってませんでしたね、」きっと彼は用意してやった分せいぜい死ぬ気で働け、とか何とかいつもの傲慢な台詞を返してくるのだろうけれど、鞘を指先で撫でながら礼を言って
…ニコラ・シェーンベルク。精神はあれだが怪異研究の第一人者にして対怪異武器及び施設の開発者だ。
(男はスポーツカーのエンジンを蒸かし、心做しかその場から早く離れたそうにスピードを上げつつ例の彼女ーニコラの説明を滔々と語る。彼の武器についての礼には特に何を言うでもなく軽く頷くとそのままスポーツカーを走らせて所属機関へと戻って)
俺がこんな目に合わされてる元凶ってことか。
(様々な糸が繋がって今この仕事を強制的にさせられているのは勿論だが、彼女がこのオカルトじみた研究を始めたのもその糸のうちの1本だと、彼女の説明にある種の責任転嫁らしき相槌を。機関へ着けば刀を担いで車から降りると、「刀?基本使ったことないんですけど大丈夫ですかね、」と今更過ぎる一言を調査官へ投げかけて
試し斬りでもするか?
(男は嘲笑するような声を上げつつ機関の中に入り、地下に降りると研究所に足を踏み入れ、研究員たちに「手頃な怪異を出せ」と命じる。頷いた研究員が如何にも好戦的そうな狼の怪異を独房から放出して)
(刀を鞘から抜いて邪魔な鞘を地面に放るように落とせば、その金属音が合図となったかのように怪異が飛びかかってきて。黄色の瞳が自分の何処を捉えているか、硬そうな毛に覆われた筋肉がどう動くか、それらを本能的な感覚で分析するこの一瞬は快楽とも勘違いしそうなほど脳が冴える、首筋の太い動脈めがけて振るったその刀は軽く。その軽さ、そして空気を裂く鋭さに口の端を上げたところで、刀が血をその身に浴びせられる一点を渇望するような意思を不意に感じたがもう止まらない、
言い忘れていたが、それは痛めつければ痛めつける程強くなる怪異でな。
(男のその言葉を肯定するかのように狼の怪異は痛みか怒りか雄叫びを上げ、首元からのおびただしい出血が一瞬のうちにして止まる。そして間髪入れずその身体が一回り程大きくなったかと思えば毛が鋼のように太く鋭く変化し、彼に向かっていく。男はその姿を腕組みしつつ壁に凭れて眺め、研究員たちは何やら記録しているようにタブレットを操作している中で狼の怪異は力任せに丸太のような太い腕を振り上げ、彼を叩き潰そうと試みる音と「コアを壊せば動きは止まる」と男の声が同時に重なり)
そういうのは先言っとけよ。
(またもや情報伝達ミス、するすると傷口が塞がっていく怪異に目を見開けば苛立ったように上記を述べて。人間相手ならもうとっくに終わってるのにこれだから化け物相手は疲れる、と顔に飛び散った怪異の血をぐいと拭って次の一手と隙を伺いながら相手の振り下ろされた腕を避けて。「だからそのコアってどこ、」言いかけた所で、より気性の激しさを増した相手の爪が目の前を掠って、このままだと舌を噛みそうだと口を噤んで
まあ、所詮試し斬りだ。
(男はそう呟くとショルダーバッグから拳銃を取り出し、後ろから狼の怪異の左眼球を狙って引き金を引く。発射された銀の弾丸が怪異の眼球を貫通すると怪異はその場に倒れ込み、動きをぴたりと止める。駆け寄ってきた研究員たちがその怪異を担ぎ上げ、再び独房に放り込んだ所でまだ銃口から白煙の立ち上る拳銃を床に向けながら彼の前に近付き、「ニコラさんの武器だ。間違いはないはずだが?」と厭味ったらしく問うて)
勝手に動いて気味が悪い。
(武器が勝手に軌道を決めるはずがないのだが確かに言葉にできない違和感を感じた、床に座ったまま彼を見上げ忌々しげに呟いて。血を欲しがるコレは自分に戦いを終わらせる一点は狙わせず永遠に刀を振り続けさせるのではないか、そんな死神とのダンス、というのは流石に考えすぎだろうか。鮮血を纏った刃を眺めると彼女は変わらず美しく、その様に舌打ちを。
…ほう?
(男は彼の言葉に少し興味を唆られたらしく、ショルダーバッグに拳銃を戻すと代わりのように怪異についての書類を取り出し、ぱらぱらと捲る。しばらくしてくっ、と喉の奥で押し殺すような笑い声を出すと「成程。あの人らしい…どうやら怪異をベースに制作されているらしいな、その刀。怪異番号9768番、千子村正の特徴と合致するぞ。」彼には興味がないかのように尚も書類を捲っていたがふと思い出したように簡易化された書類を放る。そこには見るからに禍々しい気配を放つ抜き身の刀の写真が貼られており、情報には「血を求めて彷徨う」「所持者の命を奪う」と物騒な文言が並んでいるが男は「心配しなくてもニコラさんの武器だ。そういった悪い特徴は排除されている筈だが。」と誰に言うでもなく呟いて)
ムラマサぁ?
(聞き慣れない響きに怪訝な声をあげて、資料の文字を指で辿りながらじっと紙面を見つめれば、どうやら持ち主を呪ういわく付きの刀を自分は手にしてしまったようで。こんな事なら街のガンショップで中古のジャンク品の銃でも買った方がまだ良かった、そんなことを考えながら振り落としてもなおその刀身に薄ら残った血を服の端で拭えば、拾い上げた鞘に納めて。怪異や変人上司たちだけでも付き合いきれないのに、相棒が妖刀だなんてますます頭痛が酷くなる、とこめかみを抑えたのはほとんど無意識
そんなに心配ならニコラさんに連絡するか?
(男は彼の手から書類を取り上げ、その書類で彼の腰に下がっている村正を指してはそう嘲笑する。そのまま興味をなくしたらしい男が怪異を独房に戻していく研究員に向かって「研究に進展はあったか?」と問うと研究員たちは頷いて思い思いに話し始める。男はその話を腕組みしつつ聞いていたが、ふと思い出したように落ち着いた色合いのスマートフォンを彼に向かって放り投げ、「仕事用だ、壊すなよ」と言って)
呼び出したらすぐ来いって事ですか。
(ぽんと受け取ったそれは連絡用のスマートフォンで、仕事道具や社用携帯まで用意してくれるいたせりつくせりの職場と言えばそれまでだが、何時でも手元まで引っ張ってこれる鎖と言えなくもない。そういえば逮捕前に持っていた携帯やら何やらは証拠として押収されたまま返ってこなかったな、と今更ながらに思い出して。「もう俺帰りますよ。」研究員たちと小難しい話をしている彼にそう声をかけて、大きな猫のような伸び、だとすると腰元の刀が鳴らす金属音はさながら首輪の鈴
まあ、そんなところだな。
(男は振り返りもせず答え、彼の帰るという言葉にも無反応で『彼女』の元に向かっては楽しそうに怪異のことを語り始める。『彼女』もまた楽しげに男の話を聞いており、しばらく奇妙な雑談会を開いた後にオフィスに戻ってはまた書類を整理する作業と栄養サプリメントを喉に流し込む作業を同時にこなして)
サプリばっか飲んでたら早死しますよ。
(オフィスのソファにだらしなく横になって調査官が簡単に書き直した例のファイルを読みながら嫌な忠告を。読む、といっても読解が常人の半分程のスピードで眺めるといった表現の方が正しいのかもしれないが。怪異を相手にするのならノリと勢いと本能的な感覚に身を任せた今までのやり方だとそれこそ早死する、とファイルを開いてみたものの対処法を全て暗記できる自信は更々なくて
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