匿名さん 2022-07-30 16:42:56 |
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きみの死刑が即時執行されるだけだ。
(男は目線を窓から外さないままごく普通の声で億劫そうに答え、ややあって横目の視線だけを彼に送ると「きみに選択肢はない。即時死刑にされてもいいなら殺すがいいさ。」と心底どうでもよさそうな声色でそれだけ言うとしばらくして車はレンガ造りのアンティークな建物の前で止まり、運転係の男は無言で車を降りて男と彼に降りるよう促す。男は慣れたように降りると先に建物に入っていき)
ご丁寧な説明どうも。(今回会ったような得体のしれない回復機能付きの化け物たちと戦っていたら多分いつか死ぬ、逃げても死刑、刑務所に戻っても死刑、選択肢がないというよりもゴールが惨たらしい死体という1つしかないだけ。窓の外をやけに大きなカラスが羽ばたいていて、神様の演出力ってやつに感心をしていたら車が静かに停まって。人形のように表情を変えない運転手が指し示す先を、スタスタと我が物顔で建物に入っていく調査官を追えば
戻ったぞ。
(男はどうやら自分のオフィスらしい、高級なアンティーク家具で揃えられた品の良い部屋にずかずかと土足で足を踏み入れる。オフィスには当然と言うべきか誰も居らず、男は部屋の中心に置かれているソファに我が物顔で腰を下ろすと「きみの部屋は向こうだ。さっさと確認したまえ。」と端にある木製の扉を指差し、すでに興味をなくしたらしく、自分は報告書を完成させる作業へと移っており)
はい、(連れてこられたオフィスに人影はなく、代わりに分厚い本や書類の束だけが調査官の友人かのように部屋に馴染んでいた。書類仕事に再び取り掛かった彼に、護衛ではなくそういった雑事を手伝ってくれる部下の方が必要なのではないか、とも考えたが、字すら大して読めない自分が口を挟むのも、と大人しく支給された部屋へ入ると、必要最低限ではあるがそれなりに質の良い家具がこざっぱりと置かれていて。まあ雨風を防げるなら何処でも良いと考えているような自分にはすこし贅沢すぎるような物
…ふむ、この件はこれで…
(男はどうやら報告書をまとめ終わったらしく、本棚から赤いブックカバーの掛けられた洋書を一冊取り出して頁を捲ると報告書と見比べ、何やらぶつぶつと呟いていた。しばらくそうしていたがやがて本を置き、やるべき作業はそれで終わったのか凝り固まった眉間を揉みながらコーヒーメーカーで珈琲を淹れ、黙って啜った後に彼を案内した部屋に向かって「感想くらい言ったらどうだ?」と不躾な声を上げて)
雇い主の事務所とひとつ屋根の下、って所以外はいいですね。
(与えられた自室からオフィスへ戻ると珈琲の香り、今日は目まぐるしく色々なことが進みすぎたせいで眠い、と漏れそうな欠伸を噛み殺して。冷徹かつ他人に興味なしといった彼が部屋の感想を求めるのはすこし可笑しい、と思ったがそれも多分媚びへつらいが苦手な自分へのあてつけ、のようなものだったのだろうけれど、それに素直にアリガトウゴザイマスと尻尾を振る質ではないと皮肉っぽい返事を
ふん、食事が欲しければ自分で取りに行けよ。
(男はコーヒーを啜りながら、自分から聞いた筈の感想を鼻で笑うとオフィスの外にある、これまたレンガ造りのカフェテリアを顎で指す。カフェテリアにはスーツ姿の人間が何人かおり、各々食事を取っているようだが当の男本人は冷蔵庫から携帯用カロリーバーと栄養サプリメントを取り出すとまとめて口に放り込み、コーヒーでそれを流し込んだだけで次の作業らしい、洋書と睨み合いながら廃棄処分にするらしい怪異の情報をメモにひたすら書き写す作業を始め)
煙草も食堂で貰えます?
(彼のデスクのすぐ正面に椅子を引っ張ってきてはその背もたれに顎を乗せたまま、仕事の様子をだらりと眺めて。ワーカホリックらしい彼の食生活や、どこの国の物なのかすら分からない細かい煤のような文字が並ぶ頁、そして勝手に使っているこの椅子も、全てが自分とは別世界。そんな微妙な居心地の悪さを感じていると元々はギャンブルに勝った時位しか買えなかった贅沢品の煙草が刑務所帰りの今は恋しい、いや、失礼不遜極まりない新しい雇い主に振り回されたこの数時間でストレスが心を蝕んでいるせいかな、と失礼な事を考えながら。
…
(怪異の情報を書いていた手が止まり、ゆっくりと目線を彼の方に向けた男は舌打ちをしつつデスクの引き出しから純銀のオイルライターとそれなりに高い銘柄の煙草を、まるでゴミでも捨てるかのようにデスクの上に放り投げる。その後は何を言うでもなく男は怪異の情報を書き写す作業に戻り、本を変え紙を変えては半ば永遠にも近いような時間その作業に没頭しており)
ああ勿体ない、(手の中でずしりと重いライターや、吸ったことの無い銘柄の煙草をゴミのように乱雑に扱ってしまえる姿に、改めて彼との立場の違いを思い。部屋の隅に置いてあったやはりこれも高級そうなガラスの灰皿の傍で火を付ければ、オイルの独特の香りと、遅れて現れた甘苦い煙に頭がくらくらとする程の陶酔を。しばしの快楽を甘受した後は、伸びひとつせず仕事に没頭する彼をただぼんやりと椅子で眺めているうちにどうやら瞼を閉じてしまっていたよう
…強さは申し分なし。これなら僕の調査も捗るというものだ。
(作業を終わらせた男はひとつだけ伸びをし、天井を見上げると男にしてはかなり珍しく、あからさまに上機嫌そうに呟いた。そのまま己のソファへと戻ろうとしたところで目の前の彼が寝ているのに気付いたか、一瞬そちらに目線を移すが関係ないと判断したかそのままソファへと向かうと横になり、掛けてあるブランケットを上から被るようにして暫しの仮眠を取り始め)
(ぱっと目を覚ます、少し眠ってしまっていたよう。雇い主の前で居眠りとは護衛失格だなんだと嫌味ったらしい言葉の槍が降ってくるかと思ったのに、仕事用のデスクに当の彼は既に見当たらず。もう自宅に帰ったのだろうかと辺りを見渡せば、ソファに薄いブランケットだけを被って仮眠する彼を見つけて。いつもこんな所で寝ているのだろうか、身体が悪くなるだろうと自分も座ったまま居眠りしたせいで変に凝り固まってしまった腕をぐるぐると回しながら、無防備に眠る彼を見下ろした
……
(男は暫くの間眠っていたがようやく視線に気付いたか、眉間に皺を寄せた不機嫌そうな顔つきで彼を睨む。「雇い主を見下ろすなんて、随分といい度胸じゃないか。」表情は不機嫌そうなまま、だが声色は表情より更に不機嫌そうにそう吐き捨てるとソファから降り、肩にずっと掛けていたショルダーバッグから書類を取り出して読み込み始めかけたところで彼に目線を遣り、「今日の仕事は終わりだ。さっさと部屋に戻って寝ろ。明日使い物にならなくては僕の調査が滞る。」彼に支給された部屋を指差しながら書類に視線を戻して)
あんたは帰らないんですか。
(仕事はもう終わりというのは有難い話だが、再度仕事に取り掛かろうとする彼の姿が少し気になって。というよりも犬にする【ハウス】の命令のような彼の口ぶりが気に入らず、反抗的にただ話を続けたかっただけかもしれないが。あくまで自分の中では雇い主と臨時雇用、業務以外では見下した視線も反抗的な態度もやめる気はないと、細めた目でそう尋ねて
…僕が帰らないことときみに何の関係が?
(男は視線を読み込んでいる書類から上げようともせず、ごく冷たい声色でそう言い放つ。暫くの間は黙って書類に目を通していたがようやく目線を上げ、彼の姿を目に留めると「…後一時間もすれば帰る。それで満足か。」心底面倒くさそうな声を上げてまた書類に目線を戻し)
家族は?
(自分たち位の歳になれば妻子が居たって別におかしくない、まあ自分だってそんなもの居ない癖に余計なお世話とも言える質問だったかもしれないが、ただの世間話というか、早く帰ってやらないと心配するだろうという気持ちから何の気なしの軽い質問を。どうせ面倒臭そうに、君に教えてどうなる、だの無愛想な答えが返ってくるだけなのだろうと予想はつくけれど
……鬱陶しい。
(男は書類を捲る手を少し止め、書類に目線を向けたままごく小さな悪態を吐いた後に顔を上げると彼を冷ややかな視線で睨み、「僕に家族が居るように見えるのか?それにここは僕のオフィスだ、泊まり込もうが僕の自由だろう。」半ば自虐するように鼻で笑い、目線と同じように冷たく言い放つ。その後はまた書類に目線を落とすと読み込む作業に戻り、もう話しかけてくれるなと言わんばかりの不機嫌そうなオーラを纏い)ゝ
はいはい、じゃあまた仕事があったら呼んでくださいよ。(想像通りの無愛想な反応に小さく肩を竦めて。これじゃあ家族どころか友達だって居ないんだろうな、ともし口に出してしまえばまた冷ややかな視線の矢がぶっ刺さってきそうな無礼を心に浮かべて。与えられた部屋の扉を開けながらひらひらと手を振り、上記を述べ
……
(彼の声には答えず、暫しの間無言で書類を読み込み続けていたが漸く書類を置いて背筋を伸ばすと「…後はこの書類を詳しく書き込むだけか。」そう独りごちてデスクに腰を下ろし、本棚からまた分厚い洋書を取り出すと中に挟み込まれている参考資料と見比べつつ書類に情報を書き込んでいく。それでようやっと最後の作業が終わったらしく、またソファに戻るとブランケットを被って、次は本格的に眠り始め)
(部屋の備え付けの簡易シャワーを軽く浴び、一時はうとうとと微睡んだものの、どうも寝付きが悪く部屋の扉をそっと開け。デスクの明かりは消えておりもう帰ったのかと思えば、やはりソファに丸い人影を見つけ。眠っている姿は悪態、暴言、無茶ぶりだらけの先刻とは違い随分と大人しく見える、とひとり少し笑って。そしてずり落ちかかっていたブランケットをそっとかけ直してやったのはただの気まぐれ、月光が柔らかく差し込む部屋の中、彼が眠るソファの端に腰かけて昨日とはまるで違う今日を反芻し
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