匿名さん 2022-07-30 16:42:56 |
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…『彼女』を知っているか?
(男はその態度を見、少し思案した後「それ」にそう静かな問いを投げる。それはごく普通に肯いたかと思えば「ああ、ーーーのことかい?知っているとも、ぼくと似たようなものだもの」とどうやら性別は少年らしい、澄んだボーイアルトの若々しい声で答え、返答を聞いた男は微かに眉を顰めて少年をまじまじと見つめた後、少々荒っぽく「…かつて我らが我らとして有る以前より、世界を統治していた古の神々の一柱」と呟く。少年はまたごく普通に頷いただけであり、「うん、どうやらそうらしいね。だけれどもぼくは今「怪異番号2536番」らしいからね、向こうにいる君の…友人?部下?よくわからないけれど…彼に斬らせてしまっても構わないよ」と何処までも穏やかな笑みを浮かべてみせる。男は少々躊躇するように唇を噛んだ後、彼に手振りで斬りかかれ、と指示を)
また勝手に、
(忌々しげに呟いた、訳の分からない言葉が飛び交って、訳の分からないまま、自身を戒める鎖が解き放たれた猛犬のように飛び出して。生きている物全てに存在する隙の切れ端、ただそれを目掛けて突っ込む、自分をここまで連れてきた唯一の技は、かみさま、に通用するのかと浮かんだ迷いがその歩みを半歩鈍らせる、血を欲して止まらない刃に半ば引き摺られるように相手の首筋に向けまっすぐ叩き込んで
…回収する。
(少年は身動ぎも怯えもせず彼の刀を受け止め、首筋から赤い血潮を噴く。多量の血液を失った少年の体がぐらり、と大きく揺れ、手にしていたランタンが地面にゆっくりと滑り落ちた。ランタンのガラスが割れ、地面に倒れた少年の影からずるりと漆黒の蛇じみた姿が這い出てきては男と彼を威嚇する。男は青龍刀を組み立てて構え、その蛇に向かって正面から向き合うと彼に「…後ろに回れ」とまた指示を)
…蛇退治なんか聞いてませんけど。
(切った手応えは人にしてはあまりに軽く、質量はまるで紙で出来たハリボテのようであるのに、噴き出す血の熱はやけに現実的で、目の前の事象が夢か幻覚だと思い込む逃げ場を奪う。何時だって冷静な相手の指示に軽口を叩きながらも、鎌首を擡げ調査官を見つめる蛇の後ろ側へと回り次の指示を待って
…恐らくこれは彼の眷属だ。
(「…禄に知識もない凡人が怪物だ、とでも見間違えたのだろう」男は倒れた少年の体を見下しながら簡潔にそう答え、蛇に似た姿を取る黒い影の胴体辺りを青龍刀で突く。攻撃を受けた黒い影が怒りに満ちた声を上げ、男に襲いかかろうとしたところで男は「合わせろ」と次の指示を投げて青龍刀の刃を振りかざし)
下がっといて貰えるのが一番楽なんですがね、
(誰かと息を合わせて、なんて苦手以前に経験がない、護衛対象様は大人しく後ろに隠れておいてくれ、といつも浮かぶ不平を呟きながら。やけに大きな蛇が調査官に飛び上がるように影を重ねた瞬間、その太い胴を真っ二つに切り裂こうと刃を滑らせて
…ふん。
(彼の言葉など聞く気もないようで、男は断末魔を上げ、倒れたままの少年の影に戻っていく黒い蛇をじっと眺めていた。そうして完全に蛇が少年の影の中に戻るとその体に「…貴方の肉体を回収、及び研究に回します」と誰に言うでもなく声を掛け、手を伸ばすと少年はゆっくりと起き上がっては相変わらずの穏やかな微笑みで「すごいねえ、君たちは。ぼくの『ニヴルヘイムの蛇』を傷付けるなんて。」と称賛の言葉を投げる。そうしてそのまま男から車の位置を聞き出すと自分の足で先んじて霧の中を歩き出し、「着いてこい」と彼に声を掛けた男はその背中を黙って追いかけ)
どうせ最初から話し合いで済んだでしょう。
(称賛する言葉の中の“君たち”に対してぎろりと睨み付けて、黙ったまま少年の後を追いかける調査官の少し後ろからついて歩き。蛇も人もわざわざ叩き斬った意味があったのだろうか、刀の柄にぬるりとまとわりついた血の温さに顔を顰めて、とんとん話に場が進むこの状況に自分は果たして必要だったのだろうかと
…上への報告に必要なんだ。
(男は振り向きもしないままそう答え、ショルダーバッグから探り出した書類に何やら書き込みながら「…無抵抗で連れてきたとなるとあの役立たず共は洗脳だのを疑ってくるからな」と心底腹立たしそうに漏らす。すっかり車に乗り込んでしまった少年を尻目に男はその隣へ腰を下ろし、運転係の男に向けて顎をしゃくり)
でっち上げたらいいのに。
(助手席から覗くルームミラーに映る少年は、にこにこと笑顔を浮かべたまま、首筋の傷は薄い線すら残さず消えさっているようで、嘘っぽい笑顔と相まって、服の暗い染みが芝居道具の血糊のようだと感じ。一瞥した後視線を外してぐっと椅子にもたれかかって。体力面では比較的楽な仕事であったがいい加減振り回されて疲れた、と毎回抱く感想を
…ぼくは真面目、だからな。
(男にしては珍しく、冗談めかすようにそう鼻で笑うと少年に目線を投げて「お顔を拝見しても」とごく普通の声色で問う。少年も特に反応を見せずフードを脱ぎ、澄んだ翡翠色の瞳が特徴的な美少年の顔立ちが姿を現した。男はそれを見るなりショルダーバッグから取り出した書類と眼の前の少年とを見比べ、「…ありがとうございます」と殊勝に礼を述べて)
(彼が誰かに敬語を使う所なんて今まで何度見ただろう、どちらにせよ似合わない仕草にこちらがむず痒くなる事は変わりなく。そういえば檻の中のあの蛇女に対しても随分親しげにしていたな、と思い返しながら。後は恐らく捕まえたコレを牢屋にぶち込んで終わり、汚れをシャワーで落として浅い眠りに無理やり身を沈めて、とそんな事を考えながら、ランタンに似た屋外の街灯を眺めて
…
(男は彼の顔を確認すると窓の外に視線を投げ、脚を行儀悪く投げ出しながら、いつの間にか降り出した雨の向こう側を覗くかのようにぼんやりと車外の景色を眺めていた。フードを脱ぎ去った少年は少しの間こそ大人しく膝に手を置いて座っていたが、ややあって後部座席から身を乗り出すと相変わらずの穏やかな笑顔を助手席に座る彼に向け、「ねえ、君は彼のなんなんだい?友人?部下?それとも…」と好奇心を隠そうともしない声色で問いかけ)
…黙ってないと舌切るぞ。
(ぐいと身を乗り出し大きな目をこちらへと向ける少年に、鬱陶しさを隠すことなくそう述べて。化け物を眠らせる何時ものシールもどきを貼ればいいのに、とも思うがどうやら神の領域側に近いコレには効かないのだろうと推測しながら、手は刀をいつでも抜けるよう柄を握ったまま。どちらにせよ友人では無いし、部下と答えたら訂正の一言が後ろから飛んできそうであるし、機関内での蔑称の犬を名乗るのも癪であるし、と答えにくい質問に無意識に眉根を寄せて
…彼はぼくの護衛だ。
(男はいかにも面倒そうに少年の方を向き、彼の代わりにそう答える。答えを聞いた少年は首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべながら「護衛?…友人や部下とはまた違うんだね。人間の関係性って友人や上下関係だけじゃないのかい?」と質問の対象が彼から男に変わっただけで態度を変える様子はない。男は助け舟を出すべきではなかったか、と言わんばかりの溜息を漏らして少年と談笑(という名の一方的な質問)を始め)
(知らない言葉が飛び交う車内、会話の内容を無音にすれば和やかな場に見えるだろう、しかし感覚的な何かが後部座席に乗るモノに警戒のアラートを発しているせいでどうも落ち着かずに足をそわそわと組み直して。どちらにせよ雇い主である彼が、興味対象である怪異の調査が進んだことで上機嫌でいてくれるのなら自分はそれで良い、とふっと息を吐いた
…着いたか。
(暫くして車が停まり、疲れたような表情で少年の相手をしていた男が顔を上げて尋ねると運転係の男は小さく頷く。運転係の男がエスコートするように少年を先に車から降ろし、機関の中へと消えていったのを見届けた男は車を出、彼に向けて「早く降りろ。…食事くらい奢ってやる」と顔は向けず、声色も少々冷えてはいるもののそんな言葉を投げかけ)
ろくに働いてないのでいいですよ。
(車から降りたところで煙草に火をつける、カチッと軽い音と共に暗闇の中一点だけが眩しいほどに光って。「あれが俺たちのかみさまですか、」何気なく尋ねるような口調と、脅された子どものような躊躇が籠った発音が同居するような話し方、視界に煙草の先の灯りがチラついてうざったそうに目を細めながら車へともたれかかって。
…少々違う。
(男も珍しく煙草を取り出し、高級そうなオイルライターで火を点ける。彼と同じく車に凭れ掛かり、脚を組んで所在無さげに煙を吐き出す姿は不思議と絵になっており、男は青い瞳に映る一筋の煙を見つめながら「…彼は、所謂キリスト教圏の神々とは違う。バビロニア神話、ケルト神話…と言っても分からないだろうが、まあ早いところ邪神だな。」と答え、誘いを断られたことに何を言うでもなく、まだ吸える部分の残っている煙草を地面に投げ捨てては革靴で踏み潰し)
…あれを消したら褒められる?
(邪神、つまり自分たちを管轄している神に敵対する存在だと噛み砕いた上でそんな質問を。なんて、誰に褒められたいと言うのだろう、神か周りの人間か、自分ですら具体的に思い描けていないのにふと口から洩れた問に、「あぁ、何でもないです。」と自嘲するように笑って。フィルターぎりぎりまで吸い込んだ煙はぴりぴりと辛い、誤魔化すように小さく咳をして顔を伏せて
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