匿名さん 2022-07-30 16:42:56 |
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…命名はニコラさんだ。文句があるなら彼女に言ってくれ。
(男は彼の問いに苦々しい表情でそう答え、コーヒーを飲み終わるとカップをメーカーの注ぎ口に戻すとデスクに置いたままだった自分のペンダントを首に提げ直す。そのまま白衣を羽織り、「…行くぞ」といつもよりは穏やかな声で彼に告げ)
何に『呼ばれる』んですか。
(確かに存在自体が悪趣味な都市伝説のようなあの女史ならこのふざけたネーミングも有り得る、部屋の隅に立てかけていた刀を取って彼の返答に頷き。何かに呼ばれて海やら沼やらに引きずり込まれる怪談話なら度々あるが、まさかそれらを大の大人が現実問題相手にする羽目になるのだろうか、と眉をひそめて。
…聞けば分かる。
(男はそれだけ言い残すと車に乗り込み、相変わらずの鉄仮面をした運転係の男に「出せ」とだけ命じると運転係の男はいつもの通り何を言うでもなく頷き、車のエンジンをかける。男はしばらく揺られながら黙っていたが、思い出したかのようにショルダーバッグから取り出した書類を彼に向かって放り投げる。「…読んでおけ。死なれると困る」と言うだけ言って男は顔を窓の外に向けて)
これ、なんかよく分からんが知り合いに呼ばれた気がする、って話で合ってます?
(車に揺られながら何とか、実際にその怪異に遭遇した調査員のレポートから作られたらしき部分を指と目で追えば、研究者たちがその酷さに頭を抱えそうな程乱暴に纏めた要約を述べて。そもそも食堂のメニューが読めて、その勘定計算が出来れば十分、位に考えている自分にとって毎度資料は絶望的なまでにまどろっこしすぎる。調査員αだの友人βだの、に「この丸字のアルファベットみたいなの何なんですか、」とそれ以上の読解を諦め、不満げな声をあげて
…大まかにはな。
(男は彼の解釈に若干呆れたような目線を投げかけるものの、続けて「…正確には人間の声を模倣する怪異、だ。肉親や友人の声を真似て誘き寄せた人間に危害を加える。」とそう洩らす。光に照らされたペンダントの反射が薄暗い路地に差し込んで)
親や友人、ねぇ。
(自分は誰の声が呼んでくれるのだろう、そんな事を考えながらの相槌は自分でも思っても見なかったほど無機質なもので。何かが光ったとそちらに反応すればただの野良猫、人間ふたりはそそくさと猫が静かに飛び逃げる傍を、ひたりと濡れた足音を立てて。「そんな怪しいのに誰がついて行くんです、」言いかけた途中で分かりきった答えが浮かぶ、愛しい相手と再び会える可能性に賭けてしまう人間の愚かしさ、お菓子欲しさについていく幼児みたいで、馬鹿馬鹿しさに笑えると
…僕には見当もつかない。
(男も呆れたように溜息を漏らすと路地を黙って歩き、中途まで来たところで彼らの背後から「やあ、奇遇じゃないか!二人とも、こんなところで何をしているんだい?」と底抜けに明るいニコラの声が路地に響く。男は反応することなくショルダーバッグから手帳とペンを取り出し、何かを書き付けるような素振りを見せるが高価そうなペンの鏡面仕上げされた本体に微かに映り込む背後の影は極限までニコラに似ていたが、彼女の視線は肩に乗せた人形ではなく真っ直ぐに二人を見ているようで)
なかなか面白いですね。
(1度しか会ったことはないが彼女の声とそっくり、刀をすらりと抜き楽しそうに笑って。「見世物にしたら流行るんじゃないですか?」、もう会えない人の声がもう一度聞けますとか何とか売り文句をつければ、寂しい人間たちが集まるだろう、何時ものようにメモを取り始めた彼の隣で、声の方向へ振り返り指示を待つように一歩踏み出して。
…
(男はメモを取りながら少し黙り込む。ニコラを真似た怪異が「おお、私の刀じゃないか。使い心地はどうだい?」と刀を見ても怯むことなく貼り付けた笑顔で彼に近寄ろうとしたところで男はショルダーバッグから拳銃を取り出し、怪異の方に向けては「…無力化だ。殺すなよ」と指示を出し)
注文の多い雇い主だな。
(ニコラには悪いが、彼女に似た出で立ちをして同じ話し方をしようとこちらが躊躇する原因にはならない、ただ刀の事やお互いの関係性を知られている事が頭の中を覗かれたようで気分が悪いと考えるだけで。殺すな、と言われ不満を隠すことなく零す、対人間の時もそうだが、生きたまま無力化というのが1番難しい、半ばしぶしぶ刀の峰で相手の鳩尾をバットで打つような動きで殴打しようと
…
(怪異は「何をするんだい!」と怒りを帯びたようなニコラの口調で零しながら彼の刀を避けようとするが、男の拳銃がそれを牽制するように銃弾を発射する。その銃弾は怪異の右肩に乗せられた人形を撃ち抜き、人形の砕けた頭部が散ったのに気を取られた怪異は彼の刀を避け切れず、微かな呻きを洩らして)
(自分と調査官、2人を相手にしていると2人の共通の相手にしか変化できないのだろうか、もしそうならニコラか運転手の姿位にしかならない相手は大して脅威ではない、少し興ざめ、そんな気持ちを抱いて。護衛対象も後ろで大人しく援護に留まってくれているしやりやすい、と冷静に状況を判断して。そのまま腹部を庇う様に前のめりになった怪異へ畳み掛けるように、胸部へ蹴りを入れて。
…「真似ている」うちに無力化しろ。
(男が顔を歪めて「…マズい」と言うか否か、ニコラの姿だった怪異は蹴られた痛みに呻きながら後退る。その姿にノイズが入り、ニコラ、運転係の男、男の肉親や友人ーと取り留めなく変わっていくのを目に留めた男はそう言い、舌打ちと共に拳銃を彼に当たらぬよう配慮はしつつ乱射して)
努力はしてます、
(瞬きする間に姿が変わる、大体昔よく行っていた飯屋の店主なんか自分の頭の何処から探してきのだろう、と変化した姿のひとつに感心のようなものを。真似をしているうちに、と調査官は言うが次の段階はどうなるのだろうとふと思うが自分の仕事はただ目の前の存在にダメージを確実に叩き込むだけ、後退る対象に刀を構えたまま近づいて
……きみにしては上出来だ。
(そう呟いたかと思えば運転係の男が怪異の少し後ろから姿を見せ、男に向かって黒い布に包まれた何かを放り投げる。男はそれを受け取り、布を解いて中のものー青龍刀のような形状をした武器を取り出しては構え、彼の後ろに着いてじりじりと歩み寄り)
(落ちていた空き缶を拾い上げ怪異の顔前を目掛けて投げつければ、そちらに意識を向ける瞬間に一気に対象を壁際まで追い詰めて。その間も怪異の姿はくるくる変わる、親、施設の人間、昔の雇い主、いわば子どもの時の悪い大人たちに成り代わられた所で自分が刃を突き付けるその冷たい温度が変わる訳では無いのに、と醒めた目つきのままで。「後はあげましょうか、これ。」いつもの封じ手ではなく別の武器を持ち出した彼に、視線は怪異を捉えたままそう尋ねて
…お膳立ては必要ない。
(男はそう吐き捨てて構えた青龍刀で怪異の首らしき部分を両断したーように見えたが、怪異は傷一つ追わずにその場へと倒れ込む。「…ニコラさんの新作だ。」とだけ呟いた男は取り出したシールを怪異の額部分に貼り、結局はニコラの姿を取ったままぐったりとして動かない怪異の脚を持つと「…きみは頭を持て」と指示をし)
…何となくあの人の趣味が分かってきました。
(自分の村正といい彼の新しい刀といい、劇の小道具チックというかただの武器にしてはどこか大仰というか、彼女なりの浪漫なのだろうか、自分には理解できない物語性のようなものを感じる、と考えて。そして噂の彼女、に化けた怪異は薄目をぼんやりと開けた人形のような表情で、相対する自分ではなくもっと奥深くの何かを見つめているような、そんな気がして頭を抱えたままふと目を逸らして
……
(男は怪異を持ち上げたまま車のトランクに放り込み、トランクを閉めてから後部座席に腰を下ろしては運転係の男に「…出せ」と指示を出す。例のごとく頷く運転係の男を余所に男は彼の方に視線を向け、「…あまり抱え込みすぎるなよ、引き込まれるぞ」と気遣っているのかそうでないのか分からない発言だけを投げかけて窓の外に視線を移し)
あんたこそ、アレに誘われるかと思ってました。
(あの怪異は自分の記憶の奥底に沈めた人間たちにすら変化したのだ、その瞬間に、自分の隣に居る調査官がもう失ってしまった誰かの姿に手を伸ばしやしないかと少しひやりとしたのは事実、例えば金鎖のペンダントに記憶を結びつけたその人、とか。そうなってしまったなら自分は引き留められる自信はない、そんな仮定を想像して、淡々と上記の台詞を述べて
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