匿名さん 2022-07-30 16:42:56 |
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…きみは自分の立場が分かっていないらしい。
(男はいつもの調子に戻ると読み終わったらしい書類をショルダーバッグに戻し、冷蔵庫からいつものカロリーバーと栄養サプリメントを取り出すと口に放り込んでどちらも飲み込んでしまう。「明日も仕事だ。」と彼に声を掛けるとパソコンのキーボードを叩き)
立場もなにも、ただの…バイトみたいな物でしょう。
(パサついたバーと薬を一気に飲み込む彼のお決まりの食生活に顔を顰めては自分も冷蔵庫から紙パックのジュースを取り出し、行儀悪くストローを噛みながら上記を述べて。そう言えば何時だったか機関内ですれ違ったここの職員に、あれが新しい犬か、とかなんとか侮蔑めいた物を吐かれた事をふと思い出して。しかし流石にその蔑称を自身で名乗るのは癪に障るので、何となく思いついたアルバイトという気ままな立場を挙げて。
バイト、ね。僕はバイトに命を張れと言うほど腐ってはいない。
(男は呟くように零し、触っていたパソコンを閉じると彼の方に目線を向けてそう言い放つ。カロリーバーの封と栄養サプリメントの袋をゴミ箱に捨てるとソファの背凭れに掛かっているブランケットだけを持ってはデスクの椅子に戻って革張りの背凭れに背を預け、そのまま仮眠を取り始める。ショルダーバッグは留め具が開いたままデスクの上に放置されていて)
(化け物が何をほざく、そう思うも何も言わずただ尖った歯で飲み終えたパックのストローを噛み潰すだけで。ぽいとその残骸を見ずにゴミ箱へ投げ捨てれば、いつもならば世話焼きというか細かい性分で開けっ放しにした鞄を整えてやる等する所、眠り始めた彼を一瞥、そのまま窓を開けると煙草に火をつけて。今頃晴れた空に舞う煙を見上げ
…
(男が本格的に寝入りだしたところで「…失礼します」と書類の束を抱えた運転係の男が控え目なノックと共にオフィスに顔を覗かせては眠っている男と煙草を吸う彼をそれぞれ一瞥、彼の方に近付くと表情は相変わらずの鉄面皮、だが声は問い詰めるような悲痛な響きを持ったもので「…貴方は彼のことをどう思っていらっしゃるのですか?」と問う。書類をデスクに置くと彼の方に歩み寄り、返答次第では容赦しないと言いたげな様子を見せ)
なんだろうな、化け物、死神、
(最初に出会った時から人間の匂いが薄いと感じていた、街には時折そういう人間も見る位で納得していたのだが、職業を知って、代わりに彼に付き纏う匂いの正体に気付いた時の寒気は今も覚えている。煙草の紙フィルターの側面の小さな穴を指で塞げば肺を塞ぐ濃い濃い煙に視界が揺れる、忠実な運転手の顔は酷く悲しげで、2人を隔てる煙が無かったら見れたもんじゃない、わざと彼の主人を酷く揶揄する言葉で挑発するように
「死神…ですか」
(彼の言葉を反芻するように小さく呟いた運転係の男は、デスクで眉間に皴を寄せて眠っている男を起こさぬよう声を顰めて「…貴方には、そう見えているのですか」と静かな声で零して)
こいつに巻き込まれるか飽きられるかして死ぬんだ、当然だろ。
(仕事中に怪異に喰われるか、もう要らないと捨てられるか、そんな結末が見えた生き方しかできないのは自分が悪い癖に、酷く子供じみた台詞だと言っていて自分でもおかしくて、最後の煙を吐いて少し笑って。この男はどうして自分が罵られた時のように辛い顔をするのだろう、と、自分は人の弱点や隙を察知するのは得意だけれどどうやらこの答えはいくら相手を観察しても浮かばない、
「…失礼します。これを届けに来ただけですので」
(運転係の男は背に隠した拳に血が流れるのではないかと思うほど深く強く爪を立てた後、普段の鉄面皮に戻って彼に軽く頭を下げる。そのままオフィスを立ち去っていき、その音で起きたか男もデスクチェアから身体を起こしてデスク上の書類に目を留めると「……あいつが来ていたのか。起こせばコーヒーくらい出してやったのに」とだけ独り言のように呟いてその書類を再び読み込み始め)
随分と親しいんですね。
(彼との話は言わないでおこう、寧ろ貴方を悪く言って怒らせましたなんて誰が言えるだろう、日頃無表情な人間の方が激昂の揺らぎが涼やかな瞳によく映えて面白い、と思い返して1人口角を上げて。まあ2人の関係なんて自分には無縁な話、自分から無難な台詞を吐いておいて薄ぼんやりとした表情で窓枠にもたれかかって
…あいつは、僕の護衛で一番長続きしたんだ。
(彼の言葉にぼそりと呟くような言葉を返し、側にあったショルダーバッグからハンカチを取り出すとペンダントの薄汚れた細い金鎖を丁寧に拭き始める。所々凹みのあるペンダントに映る男の顔は歪んでおり、しばらくそれを続けた後にハンカチを仕舞っては書類をデスクに置き)
何人潰したんですか?
(人を傷つける台詞ばかりが口から出る、恐らく過去に傍に居た誰かを想って、そんなにも優しい手つきで鎖を撫でる事が出来る彼が羨ましくて妬ましいだけ。こんな時は煙でも飴でも何でも口に放り込んで塞いでしまうのが得策なのだけれど、生憎手元にはもう何も無い、苛立ちに下唇を小さく噛んで。「あぁなんでもないです、すいません。」雇い主を挑発するなんてらしくない、馬鹿な行為、鈍い痛みに目覚めた理性が叱る、目を伏せたまま誤魔化すように呟いて
……構わないさ。
(男にしては珍しく弱気な呟きを漏らすと椅子から立ち上がり、ブランケットを片手にソファへと移動しては横になってソファの上に丸まる。「…僕はもう、寝る。きみも早く寝たまえ。」男は彼に向けてそう言い残すと男は彼に背を向け、背凭れに顔を向ける形になりながら寝息を立て始め)
…おやすみなさい。
(嫌味な返事、もしくは解雇通知が来ると思って一瞬身構えたのに相手は大人しく眠りに入ってしまって。大体雇われの用心棒なんて、例えるなら雇い主のペットの金魚以下の弱い立場な訳で、羨ましいとかずるいとかそんな幼稚な理由で噛み付いていい訳がない、考えるのはそんな自己保身の反省と、ほんの少し、彼の弱々しい声への罪悪感。化け物退治の仕事は人間を丸くするのだろうか、なんてまた自身の感情を馬鹿げたことで塗り潰して、自分も眠ろうと自室へ
…
(男は彼がいなくなるとむくりと起き出し、首に提げたペンダントの鏡面部分を握りしめては静かに瞳を伏せる。「…分かっている、分かっているとも。」半ば自分に言い聞かせるようにそう呟くとペンダントから手を放し、再びソファの背凭れに顔を向ける形で眠りに落ちては朝まで起きることもなく)
(ろくに眠れなくとも早朝の鳥の声や車の音に自然と目が覚めるのは体質、今日はほとんどないに等しい食欲を売店の野菜ジュースで濁して。お化け退治やら苦手な雇い主やらで此処に来てから大抵気分が優れない、元々楽しい人生でも無かった事を忘れているのは単なるご都合主義。オフィスで眠る当の雇い主の首からいつも肌身離さずかけている鎖がゆるく垂れ下がっていて、ソファの足元へしゃがんでそれに手を伸ばそうと
……
(男は彼の手が鎖に触れかけたところでようやく目を覚まし、「…何をする気だ。」と寝起きゆえか本当に不機嫌か、ブランケットの隙間から覗かせた瞳で彼をじろりと睨みながら起き上がる。大きな欠伸を一つ、肩にブランケットを被ったままコーヒーメーカーの方まで歩み寄って)
別に、
(不意にかけられた声にびくりと肩を上げる、好奇心に殺される猫のような気分、それこそ本物の猫ならぺろぺろと毛繕いでもしてこの場を誤魔化すのだろうが、ただの人間はバツの悪そうな顔をして手を引っ込めただけで。床にそのまま片足を立てた形で座れば頭をソファに凭せかけて何の気なしに上を向く、聞き慣れたコーヒーメーカーの電子音と共に始まるいつもの朝、「今日は?」言葉少なに尋ねたのは仕事の内容で
…怪異番号5980、「呼び声」の無力化及び研究所までの輸送。
(男は淡々と答えて自身にはブラックコーヒー、彼の方のテーブルにはカフェモカの入ったカップをことりと置く。男はその後しばらく黙ってコーヒーを啜っていたが、「…気になるなら見ればいい。大したものじゃないがな」と呟いたかと思えば首に提げていた金鎖のペンダントを外してデスクに置き)
呼び声?
(マグに息を吹きかけて冷ましていれば、耳に入ったなんとも御伽噺チックな単語にそう聞き返して。カフェモカを口に含めば自分好みのミルクの甘みに、いつかコーヒーを彼に頼んで反故にされた時のオーダーを覚えていたのか、それとも偶然か、そんな事を考えて。「人の御守りに汚い手で触るもんじゃないでしょう。」先程はそう、熱に浮かされていたというか、どうしようもない下世話な好奇心に振り回されていただけ、カフェモカの熱さが心を落ち着かせてくれたようで、ちらりとそれに視線を送るだけで触れもせずに
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