匿名さん 2022-07-30 16:42:56 |
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全く、対象遣いの荒い護衛だ。
(彼の言葉を聞いた男は面倒そうに息を吐き、自身の前に立つ運転係の男を力任せに押し退けると怪異の方に躊躇なく足音を鳴らして近付いていく。喉を押し潰され、声にならない悲鳴を上げる泣き顔の少女に顔を近付けると顔を伝う自身の血に気づいたらしく、それを懐から取り出したハンカチで拭いながらショルダーバッグから例のシールを取り出して少女の額に貼り付ける。少女はしばらく弱々しく暴れていたがやがて動きを止め)
何回やっても気分が悪い。
(少女が完全に沈黙したのを見ると刀を収めて。子どもを虐待しているようで気が咎めるというのもあるが、所と時代が変われば人為を超えた存在として崇められるような力をもった怪異たちをこの手にかける度、神殺しとして呪われ得る、と本能的な畏怖が魂を脅す、ような、そんな妄想を言葉にして上手く表現出来る訳がなくただ言葉少なに呟いて。
…余計なことを考えるな。
(男は励ましているのか何なのか分からないが彼の肩に手を置き、何度か叩くと運転係の男に「先に戻っていろ」と指示を出す。運転係の男は何を言うでもなく頷き、そのまま廃墟を出ていくが男は残って彼の背を強めに叩くなり運転係の男を追うようにして廃墟を出ていき)
(足元に転がっていたコンクリート片を軽くつま先で小突くように蹴飛ばして。確かに昔は何も考えず斬れと言われた物を斬り、消せと言われた者を片付けてやってきた気がする、色々と考えすぎなのだろうか、首に手を当てて回せばバキバキと骨の鳴る音。恐怖、不安、躊躇、仕事に不要なそれら全てを忘れようとかぶりを振って、自分も彼らの行った方へと進み
……やかましい。
(運転係の男が相変わらずの鉄仮面で後部座席の男を見やり、「…珍しいですね、貴方が他人を気遣うとは。槍でも降ってくるんでしょうか」と感情の読めない声ではあったが茶化すような声を掛ける。男がぶっきらぼうな声でそう返した後彼が車に乗り込むのを待ち、「下らないことを言っている暇があるならさっさと出せ」いつも以上に不機嫌さの漂う声でそう指示すると、運転係の男はそれ以上何を言うでもなく車を発進させ)
(雨の雫が車の窓を流れ落ちる、その向こう側にはビニールや黒の傘の群れの中にひとつ鮮やかに咲いた赤い傘の少女、彼女の横顔が先程自分が喉を絞めた少女に見え、開いた瞳孔で追って。よく見ると髪色も目鼻立ちも全く違った、息を吐いて目線を伏せれば「今日はこれで終いですか。」と後部座席の彼に質問を
……本来はまだ一件あるが、きみが使い物にならないんじゃ困る。僕とこいつで解決してくるから、さっさと帰って寝ろ。
(男は雨が伝う窓の外を底知れない瞳で見つめていたが、彼の言葉にそう答えてはショルダーバッグから取り出した箱入りのアイマスクを投げ、運転係の男を顎でしゃくって脚を組み直す。運転係の男も彼の方に横目を向けて「…ええ。ゆっくりお休みください」と感情のない声を掛けて)
護衛役が居ないと上に止められるんでしょう。
(そうは言ったものの、運転手の男もなかなか動けるようであるし、もしかしたら自分は彼に不要なのかもしれないなと思い直し。アイマスクの紐を指にひっかけくるりと一度回して「まぁ、機関に着くまでは寝てます。」と折衷案を述べて。神経は未だ興奮していて眠気は無かったけれど、強制的な暗闇に身を落とせば少しは思考が静まる気がしたからで
…この男も「元」僕の護衛だ。怪我で運転係になったがな。
(男は聞いているのかいないのか分からない彼に向かい、そう言葉を投げかけては運転係の男に目線を投げる。運転係の男は事も無げに頷くと「…はい。少々足を怪我しまして」と足首から先が義足らしい金属の脚に置き換わっているのを見せてはスラックスを戻し、エンジンを一層吹かし)
へえ、
(道理で素人なら裸足で逃げ出すような化け物相手にも顔色ひとつ変えず主人に付き合うわけだ、と頬杖をついたままそちらをちらと見やり。特に何も指示しなくても場が回る2人の様子にさぞかし長い付き合いなのだろうとは思っていたが。道の様子を窺えば機関まで後数十分程、眠れるなら眠ろうとアイマスクを目元まで下げて
…
(しばらく車に揺られながら機関に到着し、車のカギを開けたまま彼を置いていくと運転係の男と男は別の車に乗り換えて次の現場へと向かう。「…怪異番号6754、でしたね」と運転係の男が確認を取ると後部座席に乗り込んだ男は満足げに頷いて「ああ、流石だな。言わなくても分かるか。」と運転係の男に対しては随分素直に誉め、それを聞いた運転係の男は「…新しい方も、誉めてもよろしいのでは」と男に静かな声でそう問う。男は「…あまり深入りすると、「危うく」なる。お前のようにな」と返し)
(いつものようにオフィスに戻れば刀を薄紙で拭いてやり。今日は血肉を喰らう事が出来なくて残念に思っているだろうか、こいつも調査官も皆自分に期待することはきっと同じ、ただ冷たくそこに黙っているだけの彼女をつるりと撫でてやり。今日逢った怪異はどんな物語を有していたのだろうと自分用の資料ファイルを開けば、その種類の多さになかなか見つけられず、割り振られたナンバーを聞いてメモしておけばよかったか、と思っても遅い
(男二人が目的地に着くと、そこにはあからさまに「何か」出そうな、どんよりとした雰囲気が漂っていた。運転係の男は金属製の棒を構え、周囲に警戒の目を走らせているが男は気にすることもなく我先にと進んでいく。今回の怪異は少年の姿をしていたらしいが、男が声を掛けるより先に運転係の男が手にした棒でその怪異の頭を粉砕してしまう。運転係の男は暴れる少年を容赦なく打ち据え、「止めろ」と男が止めるまで無言で痛めつけていた。男は原形を留めないほど痛めつけられた怪異にシールを貼り付け、車に放り込むと機関へと戻ってきて)
(資料の中から先程のポルターガイスト現象を探すことを諦め、ファイルを机に放り出せばソファにそのまま横になり。明かりが妙に眩しいけれど消すことも微妙に手が届かない所に置いてある借り物のアイマスクを取りに行く事も億劫で、腕で目元を覆えば、恐らく聞き覚えのある車の音。留守番中何もしていなかったのかと笑われるだろうか、と考えるも天気のせいか頭が重いとただ怠惰に横たわったまま
……よく眠れたか?
(男はオフィスに入ってくるなり彼の姿を見つけ、無愛想にそう声を掛ける。白衣を脱ぎ、ハンガーに掛けてコーヒーメーカーからブラックコーヒーを注ぐと一気に飲み干して「…ほら」とアイマスクを彼の方に放り投げて)
この仕事は疲れます。
(腕で目元を覆ったまま質問への回答になっているのかいないのか、分からないような返事を。怪異の瞳を覗き込む度、その呼吸をはかる度、精神が削られるような疲れが溜まる。何かを守るため救うためだとか、存在に惹き付けられているからだとか高尚な理由もなく、首の紐に急かされるように走るには少し重荷すぎる仕事だと考えてしまうのは、刑務所に入っている間に腑抜けてしまったからだと、自分の中で取り急ぎ設定した答えで目を背けて
…まあ、そうだろうな。
(男が珍しく彼の言葉に同調するような言葉を溢したかと思えばコーヒーメーカーでエスプレッソを淹れ、彼の近くにあるテーブルにカップを置くと自身はデスクに脚を組んでまたショルダーバッグから取り出した怪異に関する書類の確認作業に移る。「僕だって疲れていない訳じゃない。」呟くようにそう口から漏らして)
じゃあもう止めましょう、
(ぜんぶ、舌足らずに我侭を言う子供のような台詞、どうせいつも嬉々として調査に出向く彼に言ったって無駄な事は分かっていたけれど。重い半身をなんとか起こして、いつものように書類仕事に向かう彼を眺めて。コーヒーの匂いに混じって薄ら血のような臭いにすんと鼻を鳴らす、自分ナシで済ませた案件の物か、それとも彼自身か。
そういう訳にはいかないな。
(男はあっさりとそう言い放つとコーヒーを飲み干し、一旦立ち上がるとコーヒーメーカーの方にカップを戻して彼を見据える。その瞳は底が知れず、底無し沼のような昏さを纏ったもので普段の男と比べると明らかに異様な姿であった。「…僕にも事情がある。」と呟いただけでデスクに戻るとハンカチで頬を伝う血の筋を拭い、また書類に目を通す作業に戻り)
俺を刑務所にまた戻してくれてもいいんですよ。
(雇い主本人の瞳が、光の下で見れば青い宝石のように輝くそれが、化物と同じ、吐き気がする程澱んでいるというのも気に入らない、こちらを見つめる彼を獣のような鋭い視線で射抜き返して、口は何度目か分からない解雇の打診を冗談混じりの軽い調子で。自らの命の蝋燭を握る彼にもう少し媚びた方が良い世渡りなのだろうか、という気もするが此処に居るとどうも思考が誤方向へ暴走する、
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