匿名さん 2022-07-30 16:42:56 |
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さてな。
(男は一言だけそう返すと尚もディスプレイと睨み合いをしながらキーボードを叩き続け、しばらくして一段落ついたかオフィスを出るとまだ煌々と明かりの輝くカフェテリアに入り、面倒そうに代金を払ってからどうやら明日の朝食にするらしいローストビーフサンドを受け取ってはオフィスに戻る。デスクにその紙袋を置くとそのままソファに丸まってブランケットを被り、本格的に寝入り始めて)
(目が覚めると外はどんよりと暗く、言う事を聞かない呪いの刀と、やはり話が通じない傲慢な上司との仕事を思えば泣きたいのはこっちだと、ぽつりぽつり涙を零す天に向かって愚痴を吐いて。シャワーを浴びた後オフィスの冷蔵庫に入れてあった水のボトルを取りに向かえば、ソファに眠る上司の頭だけが毛布から覗いているのも既に見慣れた光景で。こんな狭い所で毎日寝ているせいで疲れが取れずいつも不機嫌なのでは、と失礼な事ばかり思いつくのは相手の影響だろうか
…
(男は彼が起きてきてからしばらくして、また例の寝起きの悪さを発揮して彼を怪訝な眼差しでじろりと睨んだ後大きく伸びをしてデスクに置いてあった紙袋を掴むと中からローストビーフサンドを取り出し、食べ始めた所で「…数を間違えた。」と小声で呟いたかと思えば彼の方に紙包みのサンドイッチを放り投げる。その後はいつものようにコーヒーメーカーに向かい、ブラックコーヒーを啜って)
あのねぇ、物を人に投げるなって教わらなかったんですか。
(子どもを諭すような口調で小言を言いながらサンドイッチの包み紙を開けて。昨日見た履歴書の生年月日を思い出す限り彼の方が自分より年上で、きちんと学校も出ているのだけれど、それとこれとは話が別。もしくは他の人の前では丁寧で、犬にオモチャやエサを放りやるようなやり方をするのは自分に対してだけなのだろうか、それもそれで大問題だなと考えながら一口齧って
…はっ。
(男は変わらずコーヒーを啜りつつ、鼻で笑うようにして彼の言葉を一蹴すると空になった包み紙を丸めてゴミ箱に放る。その後、首に掛けられた細い金鎖のペンダントを何かに縋るように握り締め、瞳を伏せたのも暫しの間ですぐにいつもの男に戻ると出発の準備を整え、舌打ちを一つ。態度は悪いものの男にしては珍しく彼が食べ終わるのを待つつもりになったらしく、ソファに不機嫌そうな態度で足を組み、枠組みが微かに軋むほどの勢いで尻を降ろしてはショルダーバッグから今日の仕事対象らしい怪異の書類を読み込んでいて)
今日は楽できそうな案件ですか。
(食べかけのサンドイッチを片手に彼の読む資料を覗き込めば、ずるりと中身が傾きかけたサンドイッチを資料に零してしまう前に器用にぱくりと口に入れて。天気も悪いことだし、きみは役に立たないから留守番だ、とでも言ってくれた方がずっといい、そんな一縷以下の有り得ない望みをかけながら上記を尋ねて
きみの実力次第だな。
(男は冷めた声色でそう返し、気だるげな眼差しを彼に向けて書類をショルダーバッグに戻すと「村正を持て。今度は僕の拳銃は貸さないぞ。」と立て掛けてあるニコラ特製の村正に視線を投げ、それを指すように顎でしゃくる。その後自分は立ち上がり、彼を待つことなく機関の外へと歩いていき)
じゃあ駄目じゃないですか、
(刀を担いで彼の後へ続く、出来ることなら信用出来ないコレは使いたくないが仕方ない、まだ真新しい癖に手に吸い付くように収まりが良い点も尚更腹立たしく。廊下の窓を叩く雨音は朝よりも激しさを増した気がする、対人間に対しては雨の音や匂いは自分の気配をかき消してくれるからやりやすいと感じていたが、怪異に対してはどうだろうか、
…まあいい。乗れ。
(男は彼が車に乗るのを待ってから例の運転係の男に指示を出し、車をしばらく走らせては一軒の廃墟の前で車が止まる。男は廃墟に一瞥を寄越してから車を降り、廃墟の中に躊躇することなく入っていっては車にいる彼の方に目線を向け、「早く降りろ。調査対象の怪異はこの中にいる」と冷たく言い放ったかと思えば姿は見えなくなり)
…正気かよ。
(本物の心霊スポットのようなおどろおどろしい雰囲気はこの悪天候のせいだけでなく建物自身が持つ何かが奏でているのではないかと思えるほどで。躊躇するうちに彼はどんどん進んでいってしまい、毎度の事ながら護衛される側ならされる側らしく自分を放ったらかして行かないで欲しい、と低気圧のせいもあってか重い頭を抱えながら自分も中へ。室内は薄暗く埃っぽい空気が充満していて一刻も早く自室に帰って眠りたい、という怠惰な感想は今回だけの話ではないけれど
…ふむ…
(男は彼の声など微塵も聞いていないようで、廃墟に我先にと侵入したかと思えばもう埃がかなり厚く積もった机や椅子に素手で触れては何やら興味を惹かれたように呟いたりと完全に自分の世界に入り込んでいる様子であった。とその時、ぴしりと廃墟全体に小さな家鳴りのような物が走ったかと思えば、そんな現象に首を傾げる間もなく先程まで男の触れていた椅子や机が宙を舞い、男や彼の方に向かって飛んでくる。男は間一髪で避け、ますます興味を惹かれたように「念動力…所謂PK現象か。興味深い…」と不気味な笑みで呟いていたがややあって彼を呼びつけるとショルダーバッグから拳銃を取り出しつつ乱暴な口調で「背後に着け。こいつは厄介な相手かもしれないぞ。」と命令し)
こういうの何て言うんでしたっけ。
(映画で見るようなオカルト現象まで起きるとますます自分がしがみつく現実との剥離に目眩がしてくる、重力を無視し目の前を滑空してきた分厚い本を叩き落として。こうも狭い部屋でその上護衛対象も居るとなれば長い刀は振り回しにくい、さてどうするべきか、調査官の背後へと音もなく飛んできた椅子を部屋の隅へと気だるげに蹴り飛ばして、「あぁ、思い出したポルターなんとかです。」、と呑気な声をあげて
…ポルターガイスト、だ。
(男は自身の顔を掠めるように飛んできた果物ナイフを避けたものの、その後ろに隠されるようにして飛んできた辞典のような厚さの洋書を避けきれずに頭に角の直撃を食らう。男は頭部から血を一筋流しながらも周囲に冷えた眼差しを送り、「…そこか」と呟いたかと思えば天井に銃口を向けて引き金を引く。耳を劈く音が鳴り、姿は見えないものの何かが天井から落下してきて)
(けたたましい銃声と落下音に首を竦める、真横で突然発砲されたせいできんと響く耳鳴りに眉を顰めながら刀の柄に手をかけて。「あんたが居ると邪魔です。」怪異との乱闘騒ぎに巻き込まれたくなかったら近づいてくるなとでも言いたげに、彼を手で制止しながらなにかが落ちたあたりへゆっくりと近づけば。姿が見えないそれの気配を感じようと自身の呼吸を無意識に止めて
…ほう?よっぽど自信があるらしいな。
(彼の言葉を聞いた男の顔には明らかな苛立ちが見え、声もいつも通り冷えたものではあったが嘲笑うように鼻を鳴らすと壁に凭れかかり、ショルダーバッグから取り出した書類に何やら書き込み始める。姿の見えないその怪異には男の銃弾は当たっていなかったのか、相変わらず透明な姿のまま焦ったように果物ナイフや椅子、近くにあったものを次々と彼に向けてPKで投げ飛ばし始め、果てはソファやベッドといった大きな家具までを宙に浮かせ、重力を無視した軌道で彼を排除しようとしているらしく)
余計なこと言ってるとうっかりぶっ刺しますよ。(宙に浮く大きな家具たちに器用に飛び移りながら、小物は刀で弾き返し。ただ自分に襲い来る物たちを避けているような動きで、自分が跳ね返した物の軌道、特に不自然に急角度で折れ曲がる物たちを目で追いながら。追う側、追われる側が決定した時点で勝負はもうついている、姿は見えなくても、汗、鼓動、恐怖、相手が発するそれら諸々のシグナルを追い捜す瞬間に生を実感する、と言ったら悪趣味だと笑われるだろうか
…
(男は珍しく彼の嫌味にも言葉を返さず黙ったまま書類に書き込みを続けており、怪異はすっかり彼に怯えた様子で標的を彼から男に変え、変わらずメモをし続ける男の顔めがけて書籍の塊を飛ばす。辞書のような分厚さを持つそれらが直撃すれば無事では済まないだろう、と思わせる勢いで飛んできた書籍は男の前で何かに叩き落とされたかのようにバサバサと床に零れ落ちる。そんな事態にも目線一つ上げない男の前には例の、鉄仮面の運転係の男が立っており、その手には同じくニコラのものと思われる金属製の棒が握られており、「…こちらはお任せを」と感情のない声で彼にそう言ってみせ)
どーも。(物音に振り返ればいつもの運転手と目が合って、彼が居なければそれ位てめェで避けろだのなんだの余計な口喧嘩が増えるところだった、とばかりに口角をあげて。そのまま部屋の隅でふわりと浮いた華奢な化粧台の上へ飛び乗って、壁に何も無い空間を串刺しにするように刀を突き立てる、「捕まえた。」その虚になにかが見えているかのような確信を湛えた瞳でじっと覗き込んで
…ほう。
(男は運転係の男に守られつつ、彼の行動に感心したような声を洩らしては顎に手を当てる。突き刺された壁から透けるように姿を現したのはまた幼く見える少女で、涙を目の端に溜めて潤んだ瞳を彼に向けては「…やめてよ…」と涙混じりの声を上げてそう嘆願するが男は冷たく「騙されるなよ。この怪異は人間を疑似餌にする習性がある。これはどうやらこの怪異が最後に食った人間の姿らしいな。」と彼に指示を飛ばし)
早く何とかして下さい。
(ただの用心棒なら切った張ったの相手も武器を持って目を血走らせた野郎ばかりだった、前回もそうだったがどうしても純粋な子どもに見つめられると、その瞳に映った自分を見ると動けなくなる、例えそれが怪物が化けた姿だと分かっていても。命乞いをする少女の声をもうこれ以上聞かなくて済むようにソレの喉をぐっと押し潰すように抑えて、調査官がいつも取り出す封印の道具を急かすように
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