匿名さん 2022-07-30 16:42:56 |
通報 |
いつ死ぬか知れない命だ。興味はない。
(彼の忠告もどこ吹く風、男は尚もカロリーバーを齧ってはサプリメントをコーヒーで流し込み、書類を捲ってはまとめ直す作業を続けながらどことなく楽しそうな雰囲気を纏っている。デスクに放り出されたショルダーバッグからは例の拳銃がはみ出しており、替えのものらしい、美しい装飾が施されていたらしい銀の銃弾が入った弾薬ケースが覗いていて)
…仕事中毒、
(既に書類を読むのにも飽きてしまったからとソファの後ろから顔を出して彼を眺めていれば、自分に言わせれば肩が凝りそうな作業を随分愉しそうにこなしている、皮肉っぽく呟いて。数日彼と過ごしてきたが結局素性は謎なままで、怪異好きの我儘な変人、というイメージは最初と何ら変わりない。雇い主のプライベートを探る気はないが、こうまでベールに包まれていると奇妙にも思えてくる、と首を傾げたまま
…はい、アルバート。ああ、ニコラさん。貴女の武器は勿論有効活用していますよ。
(男のスマートフォンが突然鳴り、どうやら相手はニコラだったようでいつもとは真逆の丁寧な対応をしては何度か相槌を打ちつつ彼女の世間話に応対する。しばらくしてニコラとの通話を終えると疲れたように長く深い溜息を吐き、スマートフォンを置いてはまた書類整理の作業に移り、ショルダーバッグからはみ出していた拳銃に気付いては中に入れ直し、ボタンを留めて)
そういえば、気になってたんだけど。
(ソファからするりと降りて彼の元へ、丁度拳銃を鞄の中へ入れ、そのまま留め具をかけていた手を掴んで指先から腕の腱までを伝うように眺めて。「あんた強いね、ほんとにただの雇われ調査官?」狼の左目を後頭部からぴたりと撃ち抜く腕は一般人のものじゃない、怪異を相手取る仕事をしていると皆こうなのか、これまで相手が何を掴んで何を捨てたか、推し量るように灰色の瞳にその手を映して
…きみにそこまで教えてやる義務はない。
(手を掴まれると男は一瞬だけ躊躇う様に動きを止めるがすぐにごく冷たく、あくまでもまるで深淵の縁のように底の見えない瞳を彼に向けてそう言い放つ。そのまま彼の手を振り払い、また先程と同じ作業に戻るがふと何かを思い出したかのような様子で「…気になるならきみも『見れ』ばいい。」と独りごちては留め具を開き、先程の拳銃を彼めがけて放り投げる。銃身のごく短いそれはよく見れば弾丸と同じ模様の装飾が施されており)
おっと、
(受け取ったそれはずしりと重く、横暴に人に物をすぐ放り投げる癖を何とかしろ、とまず思うがその件はまたいつかの時に置いておくとして。狼を撃った時の銃はそれだけで美麗な骨董品のように細やかな飾りが刻まれており。字か模様か、不明瞭な刻印を覗き込めば目の中に飛び込んできた金属の鈍い反射光に目を細めて。
……
(拳銃を彼に向けて投げてしまうと、男はすっかり興味を無くしたように作業の終わった書類をショルダーバッグに戻し、またソファに戻って仮眠を取りかけたところでひらりとバッグから一枚の書類が零れ落ちる。それは普段の怪異の情報を書いたものではなく、左上には今より少々若い頃らしい男の顔写真が貼られ、小さく細かい文字が延々と書き連ねてある。どうやらこれは男の履歴書らしく、大半の部分が黒く塗り潰されていて)
…へぇ、
(床に落ちた書類を拾いあげればそれは彼の履歴書のようで、顔写真は変わらず不遜な顔つきをしているが今よりどこかあどけない、面白い物を拾ったと言わんばかりににやりと笑って。肝心な経歴は黒塗りされているが、それでも気になっていた彼の個人情報を知るにはよい資料だと彼に背を向けて経歴を上から順に目で追って。
……
(当の本人は書類を落としたことに気付かず、そのままソファに丸まるとまた背凭れに掛けてあるブランケットを被って仮眠を取り始める。男の経歴には当たり障りのない卒業した名門高校、名門大学の名前がつらつらと書き連ねてあり、その中に特に不審な点は見当たらない。が、大学以降の職歴は全てが黒く塗り潰され、今現在の男の職業ー「怪異対策局所属 怪異調査官」の無機質な文字だけは見えるようになっている。資格欄にも当たり障りのない内容が書かれ、黒塗りされているという点を除けばまるで普通の人間の経歴書のように見え)
いい学校行ってたんじゃないすか。
(ねぇ、?と振り向けば当の彼はいつもの如くソファに丸まって寝息を立てており。履歴書に書いてある本住所も治安の良い高級住宅地として知られている地域だったし、家に帰って寝ればいいのに、とそんなことを思いながら履歴書を机の上に戻して。近くの売店で買った煙草とチープな使い捨てライターをポケットの中へ突っ込み、そのままふらりと外へ。敷地内の中庭から眺める建物はまだ電気がついている部屋も多く、皆さんご苦労なことで、と呑気な感想を
……これは…
(しばらくして目を覚ましたか、男はデスクの上に置かれた自身の履歴書を寝ぼけ眼で掴み上げる。そのままそれをショルダーバッグに戻すと留め具を留め直し、一瞬窓の外を眺めるがすぐに興味を無くしたように本棚から洋書を取り出し、欠伸混じりにゆっくりと頁を捲り)
お、起きてる。
(オフィスへ戻れば見覚えのある人影を見つけて。仕事関連の物なのか分厚い本を抱えるように読む彼に「今日も帰らないんですか。」と尋ねたのは大した理由ではない、ただの雑談のようなもので。僕の勝手だろう、と突っぱねられるのも分かっているしそれに対して苦笑ひとつ零すだけで自室へ戻っていく自分の反応だって見えている
…帰ってもつまらないんでな。
(男は手の中の洋書から目線は上げないまま素っ気なく答え、思い出したかのように彼にじとりとした目線を向けては机の上のショルダーバッグに目を遣り、「…勝手に見たな?」と問い詰めるような声色を向けつつも洋書を手放す気はないようでページを捲り続けていて)
…落ちてたから拾ってあげただけ。
(嘘は言っていない、たまたま個人情報が目に入ってしまっただけ、追い詰めるような視線から逃げるようにすっと目線を反らして。気付いているということは先程は狸寝入りだったのか、プラスチックのライターを手の中で弄びながら、嫌な奴、と心の中で毒づいて。
……ふん。
(男はそんな彼の態度を鼻で笑い、ソファから立ち上がって読み終わったらしい洋書を本棚に戻すと彼が手の中で弄んでいる安物のライターを一瞥、舌打ちをするとデスクから以前に彼に貸した純銀製のオイルライターを取り出し、彼に向かって放り投げては「そんな安っぽいものを使うな。僕の品格が疑われる。」と無愛想にそう吐き捨ててまたデスクに腰を下ろし)
俺の持ち物とあんたに何の関係が?
(受け取ったライターをそのままデスクへと置き返し。純銀のライターは確かに美しく着火した時のオイルの匂いも芳しいが持ち運ぶには重すぎる、オモチャのようなチープな水色のライターをくしゃくしゃに折れたソフトの煙草と共にポケットに押し込み、態とらしく首を傾げて少し笑ってみせて
きみは一応僕の護衛だろう。護衛に安いものを使わせているようでは雇い主の器が知れるというものだ。
(突き返されたライターをデスクから拾い上げ、今度は自分のものらしい高級な銘柄の煙草を懐から取り出すと火を点けながら、男は半ば呟くようにそう言っては「…それに、銀製品は怪異が嫌う。僕はきみに死なれると困る、と前にも言っただろう。」彼に顔を背けて窓を開け、外の暗闇に向けて煙草の煙を吐き出す。瞳を伏せ気味に外を少しの間眺めていたが、すぐに彼の方に顔を戻すと煙草を灰皿に押し当てて消し)
そんなお守りなんかに頼らなくても俺は死にません。
(灰皿から最後に薄ら立ち上る煙が目に滲みる、ひらひらと手で煙を煽り退けて。相手の忠言を単なる迷信とでも、もしくは誰かの思いを背負った持ち物なんて重くて息が詰まる、どちらにせよ目の前の物全てを自分と全く関係ない物のように扱う逃避癖剥き出しの適当な出任せを。とはいえどうやら自分は血腥い物語を観劇したがる悪趣味な女神かなにかに好かれているのか、滅多な事では終劇は迎えそうにない、という確信があるのは事実
そうか。なら、死んでくれるなよ。
(煙草の箱を懐に戻した男はまるでそう答えられるのを知っていたかのように、珍しく口元に不敵な笑みを湛えるとそれを彼に向けてそう言い放つ。ややあって男は冷蔵庫から再び栄養サプリメントを取り出し、噛み砕くようにして飲み込んでは「…明日は仕事だ。精々死なないようにするんだな。」と彼の方を向かないまま吐き捨てるとデスクのパソコンのキーボードを叩き、それきり話をシャットアウトするようなオーラを纏って)
…そういうのをフラグって言うんじゃないんですか。
(自室へ帰ろうと扉に手をかけるとふとそんな事が頭に浮かび。こういう話をするんじゃなかった、もしかすると自分がここまで何とか生き延びてこれたのは明日の生還を言葉に表してくれる人が居なかったからかもしれない、と嫌な根拠の妄想までその後に続いて。そんな事を考えてみても楽しいお化け退治は雨天荒天構わず決行、明日の天気予報は何だったっけ、とっ散らかりがちの思考は次の内容へと
トピック検索 |