検索 2022-07-09 20:46:55 |
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…、 ……左,翔.太.郎、…左,翔.太.郎!
(完璧な地図とは言えないがそう大きく基礎的な設備は変わらないはずだ。頭に入れた地図に従って一般的な廊下ではない配管設備の道を選んで密かに移動することにする。薄暗い道を進んでいると上の方から足音と誰かの声が聞こえた。その瞬間に腕を掴まれ配管の影に隠れるような形で身を潜める。上から覆い被られると視界は狭くなって目の前の相手しか見えなくなる。そのまま小さな声で言いつけられると素直に頷いて静止を保つ。二人で息を殺しながら様子を伺っていればすぐ下にターゲットがいることに気付かなかったようでこの辺に居るはずだと指示が飛んで走り去っていく足音が聞こえた。どうやら上手く潜めたようだがすぐそこに追手がいるのには変わりない。今のうちに移動しようとするも覆いかぶさった相手は何故か動こうとしなくて小さな声で名前を呼ぶ。だが一切反応が無く先ほどまで自信が見られた目は伏せられ、心なしか血の気の失せたような顔で固まっているのを見れば強く名前を呼びながら顔を手で挟んで強引にこちらを向かせる。そのままじっと相手を見つめると「この状況で考え事とは随分と余裕だね」と思ったままの少し棘のある言い方をしながら様子を伺って)
…っ、……次のルート考える分にはいいだろ
(頭の中であの夜の出来事が早回しのフィルムのように何度も駆け巡る、おやっさんに言われた言葉が頭に響いて最後におやっさんが目の前で倒れていく。夢で繰り返しみた光景が頭から離れなくて今が現実なのか夢の中なのか、あの夜なのかもう終わったことなのか、判断がつかなくなってたるで水の中に溺れていくように上手く息が出来なくなる。視点が合わず顔を白くさせていたが何かが頬に触れて無理やり顔の向きを変えさせられるとようやく意識を手元に取り戻した。思い出したように息を吸い込んで浅く短い呼吸を繰り返す、ようやく目は焦点があって相手の顔を呆然と見つめた。少々棘のある言い方ながらも考え事をしていたのだと言われるとようやく自分の現実へと戻ってくる、だが素直に自分の非を認められなくて無理やり手を振りほどくように顔を背けると体を離した。地図情報を把握しているのは相手でルートを考えるも何もないのだが良い言葉は思い浮かばなくて言い訳になっていない言い訳を口にする。改めて周囲の気配を探れば近くに敵はいないようで「いくぞ」とぶっきらぼうに声をかけると薄暗い道を勝手に進み始めて)
……、ああ。
(反応がない事に違和感を覚えてその顔を挟んでこちらを向かせる。何処か遠くを見ていたような目はやっと焦点を結び視線が交わる。繰り返される浅く短い呼吸に何かしら異常が起きているのは分かるがそれを推測出来る材料は持ち合わせていない。相手を見つめたままいつもの口調で声を掛けると反発するように顔を背けられ体も離れていく。こちらに地図の検索を頼むならばルートを知らないはずで理解不能の言い訳に首を傾げるがひとまず動けるようなら進行に支障はない。先走って進み始めた相手に短く返答すれば大人しく後ろについて行った。暫く薄暗い道で二人の足音だけが響く中で進んでいくと行き止まりに辿り着いた。ここからはまた普通の廊下に出る必要があり、誰かに見つかるリスクは更に上がる。「さっきの様子を見る限りこの辺を巡回しているはずだ。上に上がったら一気に駆け抜けるよ」と相手に告げると音を立てないように階段を上がって外の廊下の様子を窺って)
…分かった。ちょっとは時間稼ぎしとくか
(もう何度も繰り返しみる記憶にいい加減慣れなければならないのに未だに体は動けなくなってしまう。だがそんな弱みを相手に見せるわけにもいかない、自分は今おやっさんの代わりとして相手を外に連れ出すという依頼を遂行する頼りになる人間でなければならないのだから。こちらの異変に気づかれないうちに歩き出せば背後から相手がついてくる足音が聞こえる、やがて行き止まりへとたどり着くと目の前にあるのは上にあがる階段だけとなった。ここからはまた監視カメラがあるルート、つまり時間との勝負になるはずだ。相手も同じ考えのようで一気に走り抜けるよう言われると頷く、だがここらに敵が集まっているなら多少敵をどこかへ引き付けておきたい。壁に整備用の工具箱が設置されているのを見れば相手が階段をあがるうちに中から手頃なレンチを取り出す、相手に向かって「こいつを投げたら走れ」と声をかければ自分達が歩いてきた通路に向かって力の限り遠くへレンチを投げつけた。相手に目で合図を出し走り出す、宙を舞ったレンチは遙か後方で配管にでも当たったのか派手な音が鳴った。数人の足音が聞こえて後方に集まっていくのを聴きニヒルに笑えば相手に先導を任せて走り「次どっちだフィリップ?!」と声をかけ)
…、こっちだ! …ッ、この前のド.ー.パ.ン.ト…!
(ここまでは裏の道を通ってこれたがここからは監視カメラのあるエリアを進まなくてはならない。どうにか追いつかれる前に逃げ切るためにも一気に走り抜けることを提案すれば相手は頷くが階段を登っている間近くにあった工具箱を漁る。そこから工具であろう物を取り出して指示を受けると素直に頷いた。相手が工具を遠くに投げ、目の合図を受けて走り出す。遠くの方で派手な音が響くとそちらの方に人が集まる足音が幾つか聞こえた。安直な発想だが効果はありそうだと感心しながら頭に入れた地図通りに角を曲がって最短距離で進んでいく。研究室のエリアを抜けるとひらけたエントランスのような場所に出てくる。今までと違う雰囲気に気を取られていると突如足元に光弾が飛んできてその衝撃に軽く吹き飛んでしまう。床を転がって咄嗟にその光弾の発射元に顔を向ければあの夜見たド.ー.パ.ン.トが宙に浮かびその下には警備兵が待ち構えていた。どうやら待ち伏せされていたようだ。脱出経路が割れていれば当然の出方ではあるが『お散歩の時間は終わりよ』と何処か上機嫌に語るド.ー.パ.ン.トが手をかざすと警備兵がこちらに向かって銃を構える。更にド.ー.パ.ン.トが光弾を手のひらで生み出し、こちらに放とうとするのが見える。何とか体は起こすが避けきるには時間が足りなくて来たる衝撃に体を縮こませて目を瞑るしか出来ず)
っ!!野郎…!…、フィリップ!!
(ダストエリアはゴミを船に乗せることも考えれば建物の端にあるはず、相手の支持に従い駆け抜けていけばやがてたどり着けるはずだ。やがて広いエントランスに出てくる、目立つ場所は早く走り抜けようとしたがその前に光弾が飛んできて軽く体が飛ばされた。咄嗟に受身を取って体勢を立て直せばまるであの夜と同じようにあのド.ー.パ.ン,トと銃を構えた警備兵が見えて一気に怒りが沸き起こる。余裕のある物言いに更に怒りを募らせていたがこちらが動く前にド.ー,パ.ン.トは再びこちらへ光を放とうとする。その時になってようやく相手が体勢を崩していることに気がつけば咄嗟に走り出してその体を抱えると無理やりその場から動かしなんとか光弾を回避した。光弾は次々とこちらへ打ち込まれて相手の体を抱えたまま先程の通路へと駆け込み攻撃をしのぐ。しかしこのままではダストエリアに到達できない、苦々しく思っているとド.ー.パ,ン.ト,は『あの子は痛めつける程度に、実験体の方は殺しなさい』と命令が下って警備兵がこちらへ近づいてくる。ここでも実験体呼ばわりにまた怒りを覚えていると自分たちが走ってきた方からひとりの研究員が警備兵を1人だけ連れてやってきて息が詰まる。息も絶え絶えに『やっと見つけたぞ実験体!』と叫ばれ退路さえ絶たれてしまった。しかし研究員の手には小さなジュラルミンケースがある、外からは分からないのに何かに呼ばれているような気がしてその中身を察すれば小さく笑った。相手から離れ研究員と警備兵に近づくと「いいもん持ってんじゃねぇか」と声を掛ける。その意図が分からず研究員はポカンと口をあけるがその隙にケースを奪い取ってそれを振り回し警備兵のこめかみに当てて意識を奪うと最後に手刀で研究員の意識も奪う。化け物に対抗するにはこちらも化け物になるのが手っ取り早い、おやっさんと同じように。ケースを開けて中身を取り出す、確か研究員はこれをガ.イ.ア.ド.ラ.イ.バ.ーとよんでいた。ドライバーを腰に付けてメモリを構える、そこで相手の方へ目線を向けると「フィリップ、俺は依頼人であるお前を必ず守る」と宣言すればメモリを起動させた。禍々しい声で『JOKER』のボイスが鳴り響きメモリをドライバーに挿入する、すると体は黒いモヤに包まれて次の瞬間には黒い道化師のような化け物が姿を現した。「いくぜ!」と強く叫ぶと通路から飛び出しこちらに迫る警備兵へと向かっていって)
っ、一旦引いた方が…左.翔.太.郎? っ、あれはジ.ョ.ー.カ,ー,ド.ー.パ.ン.ト…!
(初めて間近に迫った死への恐怖に体は動かなくて目を瞑った。だが思っていた衝撃が来る前に体は浮いて相手に抱えられる形で運ばれていく。光弾が次々打ち込まれるのを何とか避け先程の廊下の壁に身を隠すことは出来たが彼らが迫って来ている事には変わりない。強行突破出来ないならば一度退くべきかと考えるが直後背後に別の研究員と警備兵がやってきて挟み撃ちにされる。焦りが募る中何故か相手は小さく笑って無防備のまま研究員の方に近づいて行く。思わず様子を伺うように名前を呼ぶが相手は流れるように研究員の持っていた箱を奪い取って二人の意識を沈める。その手際にも圧倒されたが箱の中からガ.イ.ア.ド.ラ.イ.バ.ーとメモリを取りだしたのを見れば目を見開く。あれは確か上位の研究員か幹部と呼ばれるこの研究所の上位組織の人物がもっている物だったはず、最近実験に使うようになったと聞いていたが実物を見るのは初めてだ。相手はドライバーを腰に巻いて覚悟を決めたような顔でメモリを構える。堂々と自分を守ると宣言する様は何処かあの男に重なるものがあってその横顔に目を奪われる。メモリを起動させドライバーに差し込まれると相手の体は黒いモヤに包まれて道化師を象ったド.ー.パ.ン.トへ変化する。今までJOKERメモリは一部変化した物はいたがド.ー.パ.ン.ト態になった者は誰もいない。初めて見るその姿に動けないでいたがそれも向こうも同じようで『なんで実験体がガ.イ.ア.ド.ラ.イ.バ.ーを使えているの』と困惑の声が聞こえる。壁を飛び出した相手が警備兵を攻撃する姿に圧倒されていたが相手が怪物になろうともこの状況は数でこちらが不利であることには変わらない。周囲を見渡せばこの辺りのセキュリティを司る装置を見つけて念のため警備兵の持っていた銃を手にしてから相手が彼らの気を引いている内にこっそりとそちらに近づいた。侵入者対策用に幾つか機能があるようでそのロック方法を推察すれば再び地.球.の.本.棚に潜ってその方法を探る。得た情報でハッキングに近い事を行い何とか一時的に権限を得ると防衛システムを発動させれば警告音が鳴り、エントランスと奥の廊下を遮る頑固なシャッターが下り始める。まだ戦闘中の相手に「左.翔.太.郎、はやくこっちだ!」と叫ぶと一足先にシャッターの奥の廊下に入り、銃で警備兵の足を正確に狙い撃ちながら相手が来るのを待って)
あいつらは俺を『長持ち』させるためだって言ってたが、どうやらあんたには秘密にしてたみたいだな
(一瞬視界が暗転して視界が晴れると全身に力が漲るのが分かる、感情の昂りで自身の能力が上下することは何となく分かっていてだからこそ負荷をかける実験ばかり受けていたが今はあのド.ー.パ.ン,トに対する怒りで体はいつも以上に素早く力強く動く。警備兵など相手ではなく銃弾を避け時に手で払いながら近づけば拳を奮って次々に意識を奪っていく。困惑の声をあげる怪人には同じく怪人の顔の下でニヒルに笑い煽るように答えてやる、あの時研究員がドライバーを持ち歩いていたのもドライバー使用の申請や承認がされていないせいで不用意に何処かへ置いておくことも出来なかったせいだろう。いつも痛めつけられている研究員が思わぬ追い風となって警備兵を沈めていくが多勢に無勢というものでなかなか勢力を削ぐことが出来ない。宙に浮かぶド,ー,パ,ン,トは『実験体のくせに生意気な!』と叫んで再びこちらに光弾を飛ばしてくる、それを順に避けるが次々に降り注ぐ攻撃を避けきれずに肩に一発貰ってしまうと苦痛の声をあげる、警備兵には十分な力を発揮するがあのド.ー.パ.ン.トには届かないのか『プロトタイプですらないドライバーで私に勝てるはずないでしょ?』とまた余裕の声が降ってくる。このままでは追い詰められるのも時間の問題だ、奥歯を噛み締めていると突然警告音が鳴り響いて場が騒然とする。直後相手の呼ぶ声が聞こえて反射的に走り出した。下がっていくシャッターに向けて全力で走る、警備兵は相手が牽制してくれているが背後から光弾が追いかけてくる。シャッターが閉まるギリギリのタイミングで体を中へと滑り込ませるが無数に降り注いでいた光弾が再び腰へと当たってしまって、シャッターが閉まった直後に地面へと煙をあげながら転がって変身が解除されてしまう。メモリは無傷で排出されるがドライバーからは煙が上がっていてもう使えそうになく「くそ、」と悪態をつきながら無理やり上体を起こして相手と目を合わせる。どう声をかけるべきか暫く迷ったあと「……助かった」とぶっきらぼうに言って)
…短期間に過度な負荷がかかったからドライバーが耐えきれなかったようだ。…? さっき君が僕を助けたように僕もここで君が殺されては困る。二人で一緒に脱出するのだろう?
(この緊急事態に感情が昂っているのかかなり好調に動けているようだがそれでも数の利と空中浮遊しているド.ー.パ.ン.トの攻撃に押されている。防衛システムを起動させ退避を叫べば相手はこちらへ走り出す。相手を逃がすまいと追いかけてくる警備兵は銃で牽制するがギリギリで滑り込んだ身体に追尾してきた光弾が当たって転がりながら変身が解除される。シャッターが完全に閉まってひとまず遮る物が出来れば相手の側にしゃがみこんで様子を伺う。見たところ致命的な傷はない、何時の日か調べたドライバーの機能を思い出せば本体が致命的なダメージを食らう前にドライバーが衝撃を肩代わりして破壊されたのだろう。もう一度使う事は出来ないが窮地を凌ぐことはできた。相手が上体を起こしてこちらを見るがまたしても動かなくなってしまう、だが今回のは迷っているような仕草で僅かに首を傾げているとぶっきらぼうに言葉を告げられて目を瞬かせる。協力すると約束したのだからそれぞれの危機の回避を手伝うのはごく自然なことだ、相手を失ってしまえばここから脱出できる確率は一気にゼロに近づくのだから。利害関係のように淡々と答えるが先ほどの動きは確かに二人で無ければ切り抜けられないようなものだった。ふと脳内にあの男が相手のことを自分にない物を持っている人物だと言っていたことを思い出す。その時はピンとこなかったが今ならば少しだけ分かる気がする。先にこちらが立ち上がると先ほど信頼の証として行った握手でもするように相手に手を差し出してじっと相手を見ながら言葉を掛けて)
ったく、お前はそういう奴だった……こういうのもできんじゃねぇか。あぁ、絶対に風.都.に帰るぞ
(なんとかシャッターが閉まるのには間に合ったものの最後の一撃で地面を転がってしまって鈍い痛みに顔を顰める、しかしあれだけ派手に攻撃を食らった割には痛みは少ない。その理由を相手が淡々と述べるのを聞きながら体を起こした。真正面から礼を言えるガラではなくて一言ぼそりと呟いたが相手からは相変わらず淡々と機械的な返事が返ってきて思わずガクリと顔を俯ける、相手が一般常識すら知らない感情の薄い人間だということを忘れていた。気を取り直して顔をあげる、すると目の前には相手の手が差し出されていて思わず相手の顔を見上げる。相変わらず感情は読めないが先程握手の意味は教えたばかりだ。無意識に口角があがる、相手とまともに話したのは今日が初めてなのに二人であればこの島を抜け出せるはずだと自信が湧いてきた。相手の手を取り立ち上がる、相手がハッキングしたおかげで暫くこの壁が破られることはないだろう。「いくぞ」と声をかけて真っ直ぐに伸びる通路を駆け抜ける、やがて案内板が現れてコンテナが通れるくらいの扉を見つければ「あれだ!」と声をあげて大開の扉を開ける。その瞬間に潮の香りが鼻腔を擽る、海が近い証拠だ。そして目の前に広がるのはゴミが集められたコンテナがずらりと並ぶ光景、ここかゴミを集めて船で運び出すダストエリアで間違いないだろう。奥には船が見えて相手に目で合図を出すと早速乗り込んでしまおうと歩みを進める。しかしその前にコンテナの中に見覚えのあるものを見つけて足を止めた。そこにあったのはあの夜に着ていた服で「俺の服だ!」と思わず声をあげてシャツを手にとった。相手の部屋で上着を脱いでから上半身はずっと何も纏わないままでこの格好で船に乗るのは流石に厳しい。シャツの下にはジャケットもあって手に取り持ち上げる勢いで袖に腕を通したところで体が固まる。ジャケットの下から出てきたのはあの夜、あの瞬間に、おやっさんが被っていた帽子だった。どんなにねだっても被らせて貰えなかったハードボイルド探偵の帽子、それがゴミに紛れていることに酷く胸が傷んで震える手で帽子を拾い上げる。おやっさんの帽子は薄汚れてブリムが一部破れている、主を失い生気さえ失いかけている帽子を見つめるうちに目が離せなくなってまた意識が遠くへと連れていかれるとその場から動かなくなってしまって)
…左,翔.太.郎、……左,翔.太.郎!
(相手に手を差し出して待てばその顔がこちらを見上げる。こういうの、が何かは分からないがこの口角に笑みが浮かんでこちらの手を取って立ち上がる相手を見れば何処と無く満足のいくような不思議な感覚がした。並んだ相手に改めて自分たちの目的を告げられると小さく頷いて通路を進んでいった。その先には大きな扉があって二人でその扉を開ける。その瞬間今まで嗅いだことの無い類の未知の匂いがして思わず足を止める。これが外の香りなのだろうか。検証するように深く息を吸い込んでもその原因が分からず辺りをキョロキョロする。辺りにはずらりと中身の入ったコンテナが並んでここからゴミを排出しているようだ。相手の後ろを続いて歩いているとコンテナの一つに近付いてシャツを手に取る。その服は確かにあの夜に見かけた相手のものだ。その服に袖を通す姿を見守っていると突然相手の動きが止まる。視線を追えば見覚えのある帽子、あの男が身に付けていたハットがあって震える手でそれを拾い上げるとまたそれを見つめて遠い目をする。この様子を見る限り配管設備の道の時の妙な態度もあの男のことを思い出していたのだろう。隣から相手の名前を呼んでみるが反応はない。自分達が移動してきた廊下からは未だに警告音がしていて追っ手が来るのも時間の問題だ。目の合わない相手の顔をじっと見つめ変化が無いことを確認すれば目を覚まさせる為に名前を呼びながら思いっきりその頬を手で叩いた。良い音を響かせると「それを被っていた男はあの日死んでいる、目を覚ましたまえ」と冷静にその事実を告げて)
……ッ、……分かってんだよ…分かってんだよそんなこと!!おやっさんはずっとハードボイルドで誰にも知られずひとりで戦うくらいかっこよくて風.都.の探偵でずっと……俺の、憧れで……それなのに、これだけしか残ってねぇんだぞ!
(事務所の奥で何度見上げたか分からない憧れの帽子、こっそり被ってはまだ早いと怒られ、そろそろ被りたいと言う度にまだ早いと怒られ、羨望の対象でもあった帽子。しかもこれはおやっさんが特別な事件の時にしか被らない白の帽子、それが今薄汚れて形も崩れかけて、まるでおやっさんの、探偵の魂が抜けてしまいそうな姿で手の中に収まっている。頭の中でおやっさんとの会話が鳴り響くのに見える光景はおやっさんが事切れるその瞬間ばかりだった。しかし不意に頬に強い衝撃を受けて周囲の音が聞こえるようになる、いつの間にか止まっていた呼吸は酸素を取り戻すように浅く早い。そして相手の声でこの帽子の持ち主は死んだのだと言われるとまた息を詰まらせた、無理やり息を吐き出しながら奥歯を強く噛むと相手の方にようやく顔を向ける。思考の洪水は止まらなくて浮かんだままを相手にぶつける、囚われた部屋の中でおやっさんは死んだのだとなんとか飲み込んだはずなのに打ち捨てられた帽子を見た途端にあの日言葉を交わす間もなく呆気なく消えてしまった憧れの人に縋り付いてしまう。目線が再び手の中の帽子へと吸い込まれてしまうとたった一つの形見を握りしめて「おやっさんが…消えちまう……」と呟くとその場から動くことさえ躊躇っていて)
……あの男は、鳴.海.荘.吉は僕をここから連れ出そうとして死んだ。あの時意識の中で僕達は話をしていた。もし僕がもっと早く決断をしていれば鳴.海.荘.吉は命を失わずに済んだのかもしれない。…決断しなかった事が罪ならば僕は彼が付けてくれた名前で、自分で決断することでその罪を償いたい。
(頬を思いっきり打って死んだことを突きつければ息を詰まらせ、顔がむく。まるで叫ぶように思いの丈をぶつける相手から一時も目を逸らさずにその言葉を聞いた。勢いのあった声は徐々に萎み、目線が帽子に落ちる。そして小さな呟きが聞こえれば今度はこちらが口を開く。ここは自分が不自由なく過ごす事が出来る場所であの夜まで疑いもなく同じ日々を繰り返していた。だがあの男は初めて自分をメモリを作る為の道具や便利な物ではなく1人の人間として扱い、救おうとしてくれていた。もしもの話など非現実的ではあるが自分が何処かで決断をしていればあの男が撃たれることは無かったかもしれないし、そもそもこの場所に来ることも無かったかもしれない。そう視線を少し伏せてから語り、再び相手の方を見れば真っ直ぐその目を見つめながら自らの罪を口にする。そして自らの意思で贖罪の道を進むと告げれば「あの時、鳴.海.荘.吉はその場から逃げ出すのでもなく多数の銃弾から君を庇うことを選んだ。僕はあの一夜のやり取りしかしていないが君ならば彼がその決断をした意味を理解出来るのではないのかい」と言葉を続けて)
え、…決断の、意味……俺があの時、おやっさんの言うこと聞いてればおやっさんは死ななかった。俺の罪は、おやっさんの命令に背いて勝手に決断した事だ。その俺を生かしたおやっさんの決断の、意味…
(僅かに残ったおやっさんの痕跡すら消え失せそうな光景に一歩前へ足を踏み出すのすら躊躇してしまう。ハットから目を離せなくなっていたが不意に相手が口を開いておやっさんの名前を出せば自然と顔があがって視線を交える、そして意識下で会話をしていたのだと知れば目を見開いた。先程名前を授けられた話を聞いたがどうやらそれは共有された意識の中で行われていたものだったらしい。おやっさんの話となれば聞き逃すわけには行かなくて静かに相手の言葉を聞く、それは相手が罪を数えその罪を償う覚悟の言葉で意思の宿る決断に瞳が大きく揺れた。相手の決断におやっさんの言葉が蘇る、いつも罪人に問いかける時に使う最高にかっこいい台詞だ。おやっさんの言葉に従い相手は今背中を押されて歩き出そうとしている。そしてその言葉が今度は自分の方へと向いた。自分の罪を数える、もしもあの時勝手な判断で動かなければこの結末にはならずおやっさんは死なずに済んだ。この罪を償い続ける義務がある、その為に必要なのは探偵助手ではないだろう。手の中のハットのホコリを払って形を整える、ゆっくりと深呼吸をすると「俺は、俺の罪を償わなきゃならねぇ。そして、街を泣かせる奴らに罪を数えさせなきゃならねぇ。おやっさんに代わって、探偵として」と決断を下すと自らの頭にハットをのせた。おやっさんが自分を生かした意味、それは自分の罪を数え償う事だ。いつもおやっさんが言っていたように。おやっさんの決断に報いるには探偵助手としてではなく探偵としてこの依頼と、そしてこれからの依頼とを解決していくしかない。目深に被ったハットからは微かにおやっさんの匂いがする、いつも憧れて、しかしコーヒーをいれるのは下手で、最高にかっこいいハードボイルドな探偵。それを受け継ぐということはおやっさんを過去へと置いていく行為でもあって「…俺にはまだ、帽子は早ぇのに…」と呟けばハットの下で一筋だけ涙を流して)
…左.翔.太.郎。 僕は見ての通りここに居たことがすべてで知らないことばかりだ。そして君もまだ未熟なのだろう? ならば僕と君の二人でやっと鳴.海.荘.吉のような一人前になると思わないかい。
(鳴.海.荘.吉の話を始めれば相手の顔が上がって視線が交わる。そして自分の罪の話をすればその瞳が大きく揺れる。相手が囚われているのは喪失感だけでなく自分と同じ、あの時の後悔に近い感情だろう。彼が最後にした選択の意味を問えば言葉が紡がれていく。そしてゆっくりと深呼吸をして決断を決めたような顔つきになると彼が被っていたハットを相手は自ら頭に乗せる。顔付きも雰囲気も違うがその姿に一瞬彼の面影が重なった。ハットを目深に被った状態では目元は見えないが頬に涙が伝ったのを見れば無意識に一歩踏み込んで名前を呼びながら顔を覗き見る。あの日に相手に言われた通り、ここで言われるがままメモリを作っていた自分は悪魔だった。そんな自分が彼の言葉を受け、相手の手を取って抜け出すのを決めた今やっと人間になれたのかもしれない。そんな未熟な状態であるが、相手もまた探偵だと名乗りきれなかった半人前なのだろう。足りないものを持っていると言った彼の言葉が脳裏を過ぎれば心が動くまま相手の頬に手を添え涙を拭う。あのド.ー.パ.ン.トと対峙した時、何を決めた訳でもないのに最適の手段を取れた。ならば二人なら一人前になれるのではないかとその目を見ながら口にして)
、誰が未熟…っ、……そう、だな…探偵って肩書きもこの帽子も俺が一人で背負うには重すぎる。でもお前と二人なら、俺はハードボイルド探偵として堂々と立ってられそうだ
(もう何度涙を流したのか分からないのにおやっさんのことを思えばまた涙が溢れてくる、それを他人に見せるのはハードボイルドではなくていつかおやっさんが言っていたようにハットでその涙を隠そうとしたが結局は涙をせき止めることは出来なくて頬に一筋落ちてしまった。相手がこちらを覗き込んでくれば赤い目を見られないように目を逸らす、そんな中で未熟者と言われれば反射的に反論しようとするが直ぐにその語調は萎んでいった。言葉を手放している間に頬に手を添えられ涙を拭われると驚きの目で相手の方をみる、機械的な相手がこんな他人に寄り添う行為をするとは思わなかった。そして二人分でやっとおやっさんに届くのだと言われればまた瞳が大きく揺れた。これからは一人でおやっさんの代わりをやって行くのだと言ってやりたいがここまでたどり着くのだって一人ではなし得なかった。自分と同じようにおやっさんに託され背中を押されて歩き始めた相手がいたからもたつく足をなんとか前に進めてここまで来れたのだ。他人の感情なんて分からないと思っていた相手が決断する事を決めて今自分の涙を拭った、ひとりでは背負いきれない鳴.海.探.偵,事,務.所の探偵という職務を相手とならばきっと背負っていける。同じ罪を償う者としても。ゆっくりと頷いて相手と視線を交える、そして二人ならば歩んでいけると返事をした。ずっと頬に手を添えられたままでだんだんと恥ずかしくなってくれば「いつまで子供扱いすんだよ」とその手を軽く払う、しかし顔には笑みが浮かんでいて「ならお前は今日から俺の相棒だな」とこれから同じ道を歩む相手に新たな関係を持ちかけて)
…、だって君、年上には見えないし。あいぼう…、相棒ってなんだい。
(何かに惹かれるように相手の頬に軽く手を添えて涙を拭うと相手の目が驚きの感情を浮かべる。顔を向かい合わせたまま二人で一人前なのだと告げればその瞳が大きく揺れた。ここを出たとて自分が行く場所はない。ならば鳴.海.荘.吉の意思を継いで同じ仕事をするといっのも一つの手だろう。だがその為には足りない部分が多いが、二番目に手を差し伸べてくれた相手とならば罪を償って新たな道を進めるかもしれないと根拠もない気持ちが募る。目線を合わせたまま二人なら、という単語を聞けば無意識に少し口角をあがって軽い笑みを見せた。この場所に停滞するのではなく先に進んでいくことを決断した所で頬に手を添える今の状況に不満があったのか手を払われた。これが子供扱いに該当するかは疑問ではあるが背丈や顔つきから自分より年上だろうと推測できるもののその実感が一切なく素直な感想を口にした。だがその顔に笑みが浮かんで未知のワードが告げられると同じ言葉を拙く繰り返す。初めて聞く相棒というワード、地.球.の.本.棚で調べればすぐに出るのだろうが今欲しい答えはきっとそれじゃないだろう。そう思えば真っすぐと相手を見つめながらその言葉に込められた意味を問いかけて)
なっ?!どっからどう見ても俺の方が年上だろ!……相棒ってのは同じ目的のために背中を預け合い補い合う、阿吽の呼吸で動けるような最高に信頼できる奴の事だ。そいつといれば一人で出来なかったことも二人分以上にできて何でもできるんじゃねぇかって思えちまう。同じ願いの為に喜びも痛みも分け合う一心同体の相手、それが相棒だ
(いつまでも慰めるよう頬に添えられる手に気恥しさやらで耐えられなくなって手を払うとあろう事か年上に見えないなんて言われて思わずツッこむようにして叫ぶ。相手の正確な年齢は分からないがそれなりに開きのある年齢差のはずだ、それが年上に見えないなんてそれこそ子供だと言われているようなものだろう。まだまだ言い足りない事はあったがその前に相棒の定義を聞かれて目を瞬かせる。そういえば相手には一般常識というものが欠けているのだった。だが改めてその意味を聞かれると考えるように目線が下がる。かつておやっさんにも相棒がいたらしいが最後にはおやっさん自身の手でその相棒は消えてしまって相棒というものを詳しく聞くことはなかった。おやっさんから借り受けた言葉がない以上自分の言葉で相手に伝えるしかない、暫くして目線を上げると自分が思う相棒についてその意味を伝える。話しているうちに熱が篭って途中から願望が乗ってしまって興奮気味に語っていたが、それは相手に望む関係を伝えているのと同義で最後にそれに気がつくと軽く咳払いをする。これではまた年上に見えないと言われてしまいそうだ。無理やり落ち着きを取り戻すと「まぁ、探偵に相棒ってのは付き物だしな」と先程の興奮を誤魔化すように言って)
……なるほど、一番信頼のおける一心同体の人物…悪くないね。ならば今日から僕は君の相棒であり、君も僕も相棒だ!
(年上には見えないと口にすればすぐにツッコミが入る。こういった所は全く彼には似ていないがコロコロと表情を変える様は見ていてとても賑やかだ。そんな中相手が口にした相棒という言葉の意味を聞けば目を瞬かせる。自分から言い出したことにも関わらず目線が下がると僅かに首を傾げるが大人しく相手の行動を待つ。再び目線が上がってこちらを向くと相棒について説明がされる。背中を預けてお互いを補って行動出来るような信頼できる人物、その説明は今まで誰かと人間関係を結んでこなかった自分には新鮮でとても輝いているものに見えて瞳にきらきらとした光が灯っていく。それは相手も同じようで口調に熱が籠って興奮気味に相棒という存在について語る。相手がその相棒という関係をこちらに望んでくれているのだと分かれば今までの説明を自分の中でかみ砕くように呟いてその口端をにやりと吊り上げる。相手の誤魔化しの態度など聞いてもないように一歩踏み込むと今日一番の無邪気な笑顔でお互いがお互いの相棒であると告げた。そんな会話をしていれば突如ダストエリア内の機械が作動してコンテナが動き出す。これらを積み込んだら恐らくすぐにでも出航するのだろう。「急ぐよ、左.翔.太.郎」と声を掛けるとコンテナが運び込まれていく船の方へ近づいていき)
っ、…あぁ。お前は俺の相棒だ、フィリップ
(相棒の定義を説明するうちにその言葉には熱が乗ってしまう、おやっさんの相棒については漠然としか知らず余計に憧れが膨らんでしまっていたせいかもしれない。熱弁する間に相手がこちらと同じくらいに目を輝かせていたことには気が付かなくて、こちらは無理やり冷静になったが相手は興奮冷めやらないようでこちらへさらに一歩近づいてきて目を見開く。その瞬間に視界いっぱいに広がっていたのは相手が好奇心を瞳いっぱいに輝かせ無邪気に笑う姿でその輝きに目を奪われてしまった。相手の部屋で数字の羅列に興奮していた姿とはまるで違う未知を前に興奮を隠さず笑う姿に相手が隣にいれば、相手が相棒ならば、どこまでも道を進めるような根拠の無い自信が胸に溢れた。相手の笑みに釣られるようにこちらもニヒルに笑って頷く、目深に被りすぎたハットを適度な位置に戻してこちらからも改めて相手が相棒であると伝えた。相手と新たな関係を結べば周囲にあるコンテナが動き出す、どうやら出航の時間が近いらしい。相手に声をかけられ船の方へと進み始めたが直後出入り口の扉が勢い良く開く、そして先程の警備兵がダストエリアへとなだれ込んできた。どうやら追いつかれてしまったらしい、『見つけたぞ!』という怒号と共にこちらに銃弾が飛んできて「フィリップ!」と叫びながら相手の体を抱えて動いていないコンテナの影へと隠れる。早く船に乗り込まなければならないのにとんだ足止めだ、しかも警備兵の何人かはメモリを使用してマ.ス.カ,レ,イ,ド,・.ド,ー,パ,ン.トになっていて簡単には船に乗り込めそうにない。奥歯を噛み締めながら唯一の対抗手段であるJOKERのメモリを取り出す。これを使えば敵を蹴散らせるがもうドライバーはない、メモリを直接肌にさせることも知っているがその末路は実験室で良く目にしていた。だがここを切り抜けるためには他に手はない、例えこの身がどうなっても。メモリを握りしめて相手の方をみると「俺が時間を稼ぐからその間に船のコントロールを奪ってくれ」と頼んで)
っ、あと少しなのに…。 左.翔.太.郎、それは駄目だ!
(お互いが新しい関係である相棒であると伝え合って当初からの目的であったこの場所からの脱出のために船へと向かう。だがその直後に出入り口の扉が開いて警備兵が流れ込んでくれば思わず目を見開いた。容赦なくこちらに銃が向けられ発砲されると相手に抱えられてコンテナの影に身を隠す。あと船に乗り込むというだけなのにこれでは近づくどころか動くことも出来ない。どう動くべきか考えていれば相手は先程使ったメモリを取り出す。だがドライバーはここにはなく直で突き刺すと使用すればどうなるかは今までの実験の結果から分かりきっている。その末路を相手に辿らせたくはない。そのメモリを握る手首を強く掴んで初めて相手の言葉に拒否を示す、だが打つ手がないことには変わりなくて『もう逃げられないぞ』という怒号が近づいてくる。じりじりと身を寄せていれば突如獣の咆哮のような声が何処からか響いた。その声になんだと近づいて来たマ.ス.カ,レ,イ,ド,・.ド,ー,パ,ン.トがこちらに銃を向けた途端白い影が横切って火花を散らす。その白い影は身を潜めたコンテナの上に飛び移り何かを足元に投げ捨てていった。それはあの夜相手が持っていたアタッシェケースであれ以来行方が分からなくなっていたものだ。あの時初めて見た未知の仕様のメモリとドライバー、そして使用者は自分と意識を共有することになる運用方法を思い出せば逆転の可能性に口角が上がって指紋認証でそのロックを解除してその中身を相手に見せる。その中には相手が持っている物とはまた違うJOKERのメモリが並んでいて「その覚悟があるのなら、身も心も悪魔と相乗りしてみないかい?」と視線を相手に移しその目を見ながら決断を迫って)
なら他にどうやって、っ!…ぬぁっ!?これ、おやっさんのデスクにあった…
(この局面を切り抜けて風.都.に帰るためにはまたあの怪物になるしかない、命を削ることになってでもだ。こちらから作戦を提案するが相手からは強く否定されてしまってメモリを持つ手首を掴まれる。しかし現状敵に対抗出来るのはこのメモリだけだ、相手を睨み言い返そうとするがその前に周囲に咆哮が響き渡って言葉が途切れた。こちらに近づいていた敵の呻き声が聞こえ直後目の前に何かが降ってくると思わず声をあげる。目の前に落とされたのはあの日自分がおやっさんに届けたジュラルミンケースで目を丸くする、確か捕まった際になくしてしまっていたが何故かそれが目の前にあることに困惑するしかない。しかし相手はそれを見て何かを確信したのか口角をあげて指紋認証でケースを開ける、相手とおやっさんの指紋で開くその中身を相手はこちらへと見せて『相乗り』を持ちかけられた。その意味を理解することは出来なかったが、視線は今手の中に収まるメモリを見た時と同じように、あるいはその時よりも強烈に、JOKERの名前が刻まれた紫のメモリへと強く吸い寄せられる。誘われるまま切札の名前が刻まれたメモリを手にする、あの夜に見た時はこれが一体なんなのかまるで検討がつかなかったが今ならこれをどう使えば良いか奇しくも理解できた。目線をあげて相手と目を合わせる、相手の言うことを全て理解できてはいない、しかし誰よりも相手が提示した手段ならば信じるだけだ。それが自分が悪魔だと叫んだ相手との相乗りだとしても。ハードボイルドな探偵らしくニヒルな笑みを浮かべると「相棒のお前が言うなら乗らねぇわけにはいかねぇな!」と決断を下しドライバーを手に取った。腰に据えればベルトが腰に巻きつく、次いで相手にも同じドライバーが現れるとまた驚くこととなった。理屈を聞きたいところだが今は時間がない、相手の左隣に立ってJOKERのメモリを構えると「いくぞフィリップ!」と声を挙げて)
ああ、変身!!…やはりこのドライバーは二つのメモリを使うとともに君と僕の意識をひとつの体で共有するようだ。
(相手にジュラルミンケースの中身を見せながら相乗りへと誘えば相手は切札のメモリに吸い寄せられるように手を伸ばす。これがどんな物か説明する時間も惜しい、だが相手はどんな物か何となくでも分かったようでニヒルな笑みを浮かべドライバーを手に取る相手を見ればこちらも一際輝いて見えたCycloneのメモリを手に取る。相手がドライバーを腰に巻けば何処からともなく自分の腰にも同じドライバーが現れる。やはり予想通りだ。相手の声掛けに応えながらその右隣に立つとメモリを構えてドライバーに挿入する。メモリは相手のドライバーに転送され、二つのメモリがセットされたドライバーが開くと体から意識が抜けていくような感覚を覚える。次に感じたのは巻き起こる風と左側の意識だ、目を開けば普段より少し高い目線の高さになっていて傍らに自分の体が倒れ込んでいるのに気付く。自分の体を見ればド.ー.パ.ン.トのものとはまた違う緑と紫を宿した装甲を纏っているようだ。やはりこの姿はお互いの意識や思考を共有するようで今の状況を分析する間も左側からは相手の感情や意識が伝わってくる、意識の中で考察を述べていれば驚いていた警備兵が気を取り直しこちらに襲いかかってくる。「詳しい話は後だ、まずはこの状況を切り抜けるよ」と告げれば共有するようになった体を動かしてマ.ス.カ,レ,イ,ド,・.ド,ー,パ,ン.トに攻撃を仕掛けて)
変身ッ!__な、んだこれッ?!どうなってんだ?!お前が俺の中にいんのか?!お前倒れてんじゃねぇか!!
(ドライバーを腰に据えベルトが巻きついた瞬間、何故か隣にいる相手の考えが手に取るように分かった。まるで同じ思考回路を共有しているような奇妙な感覚、侵略されたでも奪われたでもない共有しているとしか言えない不思議な感覚に苛まれていた。繋がった思考から次にどうすれば良いかが頭に流れ込んできてそれに従って相手と共に同じ言葉を叫ぶ。相手の思考通りにメモリを挿入しドライバーを開いて起動させれば体の周りに風が巻き起こる、その風は遠く離れた地のはずの愛すべき風.都を思い出させた。緑と紫の装甲を纏えばガ.イ,ア.ド,ラ.イ,バ.ーを使った時とは比べ物にならないほどの力が溢れて更に右隣には相手の、相棒の気配を感じる。相手の考察をなんとなく聞きながらひとつの体に二人の意識がある訳の分からない状態に思わず顔や体を触るがその質感はいつもの体とは全く違っていて、ふと自分の隣をみれば今意識を共有しているはずの相手が地面に転がっていて思わず叫んでしまった。だが敵はこちらを待ってくれないようで相手の呼び掛けに「あぁ!」と力強く答えると襲ってきたマ.ス.カ.レ.イ.ド.・.ド.ー.パ.ン.トに拳を叩き込む。振り抜いた拳はひとりの時よりも明らかに力強く右隣に相手がいる分遥かに心強い、続いて襲いかかってきた敵も拳一発で仕留めればその体を引っ掴んで後方から援護射撃している警備兵に投げつけてやる。勢い良く飛んで行った敵は警備兵を巻き込んで倒れてしまいそれを繰り返しているうちにあっという間に敵を制圧してしまった。先程は数の力に全く勝てなかったというのにあまりにもあっさり片付いてしまうと「すげぇな…」と呟くしかなくて)
これがこのドライバーの力…興味深いねぇ…。このまま船に乗り込むよ。
(装甲を纏ってからずっと左側の意識は軽いパニックを起こしていて随分と騒がしい。こちらも分かっていないことは多いが相手と共にある姿でこの事態を切り抜けられるための力を持っているのは分かった。相手に呼びかけながら動き出せば力強い返事がされてそのままの勢いで拳を叩き込んだ。次々に襲いかかってくる警備兵をどちらかが察知してはもう一方が拳を叩き込んだり投げ飛ばしたりと息のあった動きで沈め、圧倒していく。そうしていればあっという間に全ての警備兵は床に倒れ片付いた。一つのメモリを引き出すガ.イ,ア.ド,ラ.イ,バ.ーよりもずっと強く二つの能力の組み合わせで何倍にも力を発揮する様は先程相手が説明した相棒の意味によく似ている。その驚異的な力に好奇心を滾らせて右側でニヤリと笑っていたが船の方を見れば全てのコンテナを積み込み今にも出港しそうになっている。それを逃す訳にはいかないと相手に声をかければ変身したまま意識のない自分の体を肩に担ぎ上げる。急いで船の方に走り、勢いのまま甲板に飛び乗ると船はゆっくりと出港を始めて)
俺達二人で一人の体になって、こんなに……え、あぁ、おぅ……
(あれほど苦労した警備兵をこの姿であっさりと倒してしまえば自分でも呆気に取られてしまい敵の居なくなったダストエリアを呆然と眺める。その間にも相手の思考はこちらへ絶えず共有されて何とも奇妙な感覚だ、相手がこの状況に好奇心を擽られているのだって手に取るように分かる。先程相手に相棒の意味を説明したがこの状況はそれを体現するような変身で文字通りの一心同体となっていてただただ困惑していた。未だこの姿には慣れないが相手が船の出港が近いことに気がついて声を掛けられる。相手と思考を共有し当然のように魂が抜けてしまった相手の体を持ち上げる光景にはやはり慣れなくて困惑の返事をしたまま船へと乗り込んだ。ゴミの回収船となれば警備も今まで以上に薄くどうにでもなる状況だろう、このまま船に乗っていればきっと風.都にたどり着ける。あの夜から深く暗い闇に閉じ込められている気分だったが今は相棒と、そしておやっさんの魂が籠ったハットと共にようやくそこから抜け出せた気がした。遠ざかる島の風景にまたあの夜を思い出してしまいそうになっていた矢先、島からひとつの閃光が真っ直ぐこちらに伸びてやってくる。それが攻撃の意思のあるものだと悟ると「伏せろ!」と言いながら身を隠した。相手の体を物陰に隠して顔をあげればあのド.ー.パ.ン.トが息を荒らげてこちらを見下ろし『どうなってる?!なんでこんな結果なんだよ!』と違和感のある喋り方で叫んでいて仮面の下で眉を顰める。怪物の体はノイズが入ったように時より歪んで『なんで絶望していない?!運命をねじ曲げたのに!』と喚いているのを聞けばこちらの脳内にもノイズがかかったような痛みが走って)
っ…さっきと違うような……運命? くっ、…
(時間切れになってしまわないよう自分の体を担ぎ上げて船に乗り込む。ここまでたどり着けば後はやり過ごして本土にたどり着くことが出来るだろう。自分がなすがまま閉じ籠っていた研究所が離れていくのをただただ見つめていたが閃光が目の前に伸びてきて相手の声と動きで物陰に身を隠す。そこには先程のド.ー.パ.ン.トが居てここまで追ってきたことに焦りが募る。だが空中で喚く姿は先程の上機嫌さがなく、その姿がまるで乱れたホログラムのように歪むと目を見開いた。運命をねじ曲げた、という言葉を聞くと酷い頭痛が走って思わず頭を押さえた。相棒と最悪の別れを経験して二人で研究所を抜け出したのは事実だ、だけども今のこの出来事が本当にあったことだっただろうか。一度疑いを持った世界は存在が揺らぎ、各地にノイズが広がって景色に亀裂が走る。世界が真っ白になって壊れた瞬間、全てを思い出した。__ 意識が元に戻って目を開けるとあの日初めて風.都.に降り立った時に使った港の上にダブルとして立っていた。目の前には事件で追っていたDistortメモリのド.ー.パ.ン.トが居て、酷く困惑した様子で信じられないと声を上げている。ようやく全てが繋がると奴の言い分に小さく笑って「僕たちの運命とここに居る意味は君にねじ曲げられるほど軽い物じゃないからね。そうだろう?翔太郎」と相手に話を振って)
___あぁ、その通りだぜフィリップ。俺達は例えどんな運命を辿ってもあの夜の罪を償わなきゃならねぇし、おやっさんに託されたものを投げ出さねぇし、必ず二人で一人の探偵になる。そしてお前みたいなやつに投げかける言葉はいつも同じだ。…さ.ぁ.、.お. 前,の.罪.を,数.え.ろ.!
(閉ざされた小さな部屋からおやっさんに背中を押されて飛び出して相棒と共に相乗りの末島を脱出した、ようやく手に入れた結果のはずなのに今はそれに何処か違和感を覚える。そしてねじ曲げられた運命が元の道へと回帰し幻想が崩壊すると頭痛の後に全てを思い出す。あの日の夜相手と共にボロボロになってたどり着いた港にダブルの姿で立っている、しかしそれは脱出の末ではなくこの事件の犯人を追い詰めたからだ。相手の言葉を仮面の下で聞けばこちらも小さく笑う、話のバトンを受け取るとこちらも自信を滲ませた声で言葉を続けた。あの夜により最悪な分岐を進んだ幻覚を見せられていたようだがどんなに深く暗い闇に飲み込まれようとも必ずそこから抜け出して見せる。おやっさんの存在と一心同体の相棒がある限り何度でもあの夜を乗り越えてみせる。仮面の下でニヒルに笑えば敵に左手を向ける、そして敬愛しもうこの世にはいない憧れの師匠から受け継いだ言葉を犯人へと言い放った。自分の能力が効かないのを悟ったド.ー,パ.ン.トは力でねじ伏せようとこちらへと襲いかかってくる、しかし単純な物理攻撃など二人で一人の姿の前ではなんの脅威にもならない。共有する意識のもと体を動かし敵の攻撃をいなすと連続で拳を叩き込んで最後には蹴りで怪物の体を地面に転がした。地面で藻掻く敵を前に「決めるぜフィリップ!」と右隣へ呼びかけて)
ああ、良い夢を見せてくれたお礼と行こうか。ジ.ョ.ー.カ.ー.エ.ク.ス.ト.リ.ー.ム!!
(抱いた違和感から幻想を脱すれば変わらず相棒である相手と共にド.ー.パ.ン.トに対峙する。能力を掛けた人物に運命を捻じ曲げたIFの世界を見せることで戦意を喪失させ最後には絶望させて抜け殻のようにしてしまうのが奴の能力のようだがダブルとして二人纏めて幻覚を見せようとしたのが敗因だろう。こちらが話を振れば左側から自信を滲ませた声で言葉が続く。出会い方がどうであったとしても、自分達が意志を継いだ鳴.海.荘.吉の存在と世界で一人だけの最高の相棒との出会いさえあれば自分達がここに立っていることに変わりはない。左側の意識と共に左手を向け、罪を数えさせる言葉を声を揃えて投げかけた。能力を看破されたド.ー.パ.ン.トはこちらに襲い掛かってくるが相乗りをしている自分達の敵ではない。息の合った動きで拳を叩き込み、渾身の蹴りをお見舞いすれば簡単に地面へと転がった。相手からの声掛けにこちらもにやりと笑って応じると切札メモリをスロットに刺してマ.キ.シ.マ.ム.ド.ラ.イ.ブを発動させその身体を巻き起こる風によって浮き上がらせる。そのまま必殺技を叫びながら半身ずつの二連撃を叩き込むとド.ー.パ.ン.トの体は爆発し、人間の体に戻った男から排出されたメモリは粉々に砕け散った。これでひとまず事件は解決だろう、変身を解いて少し遠くに倒れた自らの体に意識を戻す。相手の元に向かおうとしてふとそこから見える海に目を奪われる。全てが始まったあの日、幻覚で見たような状況には陥ることは無かったが大切な人を亡くし始めての相乗りをして命からがらこの街に逃げて来たのは変わりない。ここからあの島は見えない、見えたとしてもあの研究所は大きな爆発を起こして崩壊しているはずだ。そうだと分かっていてもやけにリアルな時間を過ごしたことが後を引いてそのまま動けず海を見続けていて)
……またあの夜を経験することになっちまうとはな
(相手に最後の一撃を呼びかければ右側から確かな自信と高揚感が伝わってきてこちらの気持ちも昂っていく、二人ならば二人分以上の力をもって何処までもいけるのだという全能感が全身を包み込む。あの日強く惹かれたJOKERのメモリを腰のスロットに差し込んであの日よりも強い風を纏えば半身ずつの二連撃を叩き込んだ。怪物の体は爆散してメモリが排出されればその体は元の男の姿へ戻る、男は力不足のショックも相まってか気を失っていて当分動くことは無いだろう。変身を解除すればひとまずジンさんへと電話して犯人確保の連絡をする、軽くやり取りをすませて電話を切るが大体いつもこの辺りでやってくるはずの相棒が隣にいない。周囲を見回せば相手は港から見える海へと目を奪われている、視線を向けるその先はあの施設があった場所だ。海風に飛ばされないようにハットを軽く押さえてから相手の元へと近づくと隣に立って同じように海を眺めた。遠い記憶のようで今でも鮮明に思い出せる始まりの夜の記憶、多少運命の分岐が変わってもその結果は変わりはしなかった。良い意味でも、悪い意味でも。相手の方へ目線を向ける、薄気味悪いと思っていたこの顔も今は随分と見慣れて印象も変わったものだ。いつまでも海に、あの夜に、目を奪われたままの相手に「何考えてんだよ」とわざと軽い調子で話しかけて)
ああ、随分と巧妙な再現度で暫く気付けなかったよ。…、全てはあの日から始まったんだね。
(メモリを破壊して事件は解決した。もう少しすれば刃.野.刑事をはじめとする警察が来てあの男は連行されていくだろう。いつも通りの事件の終わりだが目はこの港から見える海に奪われて相手が隣に来ても目が離せないでいた。能力を掛けた本人の記憶から幻を作り出すせいかやけにリアルな出来事だった。少し歯車を?み合わせがずれていれば今回のようなことが起きていてもおかしくはない。何があってもこの場所に辿り着くのだと啖呵をきった気持ちに勿論嘘はないがそれはつまり何度も同じ罪を繰り返してしまうことである。そんな感傷を察してか軽い調子で話しかけてきた相手に思ったままの言葉を口にする。あの施設を抜け出して相手と相棒として探偵業を営むようになって確実に自分の世界は広くなった。そして様々な人と交流したり事件を解決したりする中でメモリの生み出した悲劇や被害を目の当たりにすることが増えた。あの時自分が生み出し続けていたメモリがこの街を傷つけている、そして相棒の大切な人の命を奪った。その罪を改めて突き付けられたような気分だった。海風を浴びながら相手の方に目を向ければ少し迷うように視線を揺らしてから「…僕は、罪を償えているだろうか」とぽつり本音を零して)
なんだよ忘れちまったのか?俺達が涙を拭ってきたこの街の人の顔、ちゃんと思い出せよ
(こちらが隣に並んでも相手の視線は暫く海を見続ける、見せられたのは仮初の幻覚だがそこに記憶という事実が織り交ぜられていたせいで妙にリアルな夢を見てしまった気分だ。あの夜に無理やり戻されてしまったのと同じこの状況でただ黙ってここを去ることも出来ないのはよく分かる。軽い調子で問かければ相手の視線がゆっくりとこちらへ向く、迷うように視線を揺らした後に疑問が投げかけられると軽く笑みを浮かべた。努めて明るい調子のまま二人のこれまでの軌跡を振り返るように言う。ものを探す依頼から大きな事件の手助けまで、これまで犯人に罪を数えさせてきたがそれも全てこの街の涙を拭うためだ。苦い結末だったことがあっても依頼人の悲しみを少しでも取り除けるように少しも手は抜いたことが無い。自分も、当然相手もだ。あの夜の罪は決して消えないもので自分達には償い続ける義務がある、それは永遠に変わらないが「まだ全てを償うには全然足りねぇけど、ちゃんと一歩ずつ確実に進めてる。俺が保証するぜ、相棒」と迷う必要はないことを伝えると相手の頭を軽く撫でて)
…街の人の顔、…一番傍に居る君がそう言ってくれるなら信じられる、
(あの夜のことを繰り返した様なものだった事に加えフィリップになる前の自分のことを思い出したせいで妙に気持ちが落ち着かない。何を考えてるかと問いかけられて胸にじわじわと広がる不安をぽつりと零せば相手は変わらず明るい調子で今までのことを思い出すように言う。今まで色々な依頼を引き受けてこなして、その中で大変なことに巻き込まれた事も苦い結末を見たこともあったが笑顔になってくれた人も大勢居た。二人だからこそ未然に防いだ被害も何個もある。沈んでいた瞳に光が宿って噛み締めるように呟いていればあの日結んだ関係性で呼ばれ、その手で頭を軽く撫でられると残り僅かだった不安さえ溶けて固かった表情を緩める。あの日から今日という日まで相乗りしている相棒が保証してくれているのならばこれで良いと安心出来る。軽くその手に擦り寄ってから改めて相手を見つめると「ならばこれからも一緒に頼むよ、翔太郎」と穏やかな笑みを見せて)
あぁ。こちらこそ頼んだぜ、フィリップ。……よし、お前は先にハ.ー.ド.ボ,イ,ル.ダ.ーで帰っててくれ。俺はちょっと散歩して軽く街を見守ってから帰る
(それぞれが背負った罪は一生をかけても償い切れないものかもしれない、しかし相手は名前を託され自分は帽子を託された以上その歩みを止めるわけには行かない。自分達はこの街の探偵でおやっさんがしてきたことを、街の涙を拭うことを決してやめない。おやっさんと自分達が愛するこの風.都のために。そして二人で積み上げてきたものは振り返れば目に見えるくらいには多くなっている、道は果てしなく遠く長いが自分達で得たものを誇る事だって大事なはずだ。その事を伝えて頭を撫でれば不安げな顔から緊張は消えて穏やかな笑みが宿る、手に擦り寄る姿には笑みが溢れてこれだって自分の守りたいもののひとつだと胸が温かくなる。撫でる手を止め相棒に向けて、おやっさんが名付けたその名前を呼ぶ。その瞬間にあの夜と幻とで見たおやっさんの顔が脳裏に過ぎって僅かに瞳が揺れた。しかし直ぐにまた笑みを浮かべると相手に先に帰るよう告げる。本来こんな所で相手をひとりにするべきではないのだがバイクで帰る分には大丈夫だろう、メッキが剥がれないうちにハットに手を添え目元を隠すと「お前もまだ組織から狙われてるんだし、真っ直ぐ家帰って戸締りしとけよ」と冗談めかして言えば背を向けてその場を去ろうとして)
え、…分かった。だけど最近寒くなってきたのだから用が済んだら早く帰ってきたまえ。
(犯した罪は消えないが自分達が積み上げてきたものだって消えることは無い。これが正しいことなのかは分からないが鳴.海.荘.吉の意志を継ぐためにも自分達が出来ることをしていくだけだろう。過ぎった不安は消えてこれからの事を告げれば相手の顔にも笑みが浮かぶ。そうやってこれからの事に期待を宿したというのに相手がこちらの名前を呼んだ瞬間僅かにその瞳が揺れた。ほんの少し、だけど相棒だからこそその変化に気付く。だが相手はまた笑みを浮かべると先に帰るように促してきて思わず困惑の声が零れた。いつもは一緒に帰るのに、今日に限って突き放そうとする。揺れていたはずの目元が隠されてそそくさと背を向けられると縋るように一歩足が前に出るがその要因に検討がつけばそれ以上は動けなくなる。色々言いたい気持ちも言葉も喉元まで出掛けるが全部飲み込んで受け入れる返事をした。だけどもその背がやけに小さく消えてしまいそうにも見えればいつもの相手を真似て早く帰ってくるように声を掛ける。相手が帰ってくる場所があると伝えるように「待ってるから」と言葉を続けた。十分な距離が出来てしまえば小さく息を吐く、言われたまま大人しく帰る気はなくて相手には悪いがバ.ッ.ト.シ.ョ.ッ.トをライブモードにすればこっそりとその背中を追わせた。どれだけ近づこうとも相手と鳴.海.荘.吉の間の感情は上手く踏み込めないでいる、何とも言えない感情を抱えながら再び海に視線を移して)
心配すんな、風邪ひく前に帰る
(押し殺したものが溢れないうちに背を向けると相手がこちらへ一歩踏み出す音がするがそれ以上は近づいて来ない。それに多少安堵しつつ早く帰るように言われて、ダメ押しで待っていると言われるとまた心は温かくなった。背を向けたままひらりと手を振って返事をすればそのまま真っ直ぐと歩いていく。相手は誰よりも信頼できる相棒で更には何よりも大切な恋人だ。どこよりも安心できるのは相手の隣なのだが今はひとりになりたい。せっかく相棒として励ましたばかりだというのに相手に格好悪いところは見せられなかった。心穏やかではないまま歩いていれば後ろから着いてきているものがあるとは気が付かずに歩みを進める、この時間の港には人気がないがさらに奥へと歩いて波止場にたどり着くとこの世にひとりではないかと思えるくらいに周囲は静寂に包まれて聞こえるのは波の音だけだった。海に向かって、あの夜にいた場所に向かって座れば遠くを眺める。幻の中であの夜を繰り返す事になったがおやっさんの死は変えられることがなかった。あの時おやっさんの言いつけに背いた瞬間におやっさんの運命は決まってしまっていたという事だろう。憧れの人が地面に倒れていく姿が脳裏に浮かぶ、ひとりでその瞬間を思い出せば途端に上手く息が出来なくなってゆっくりと項垂れた。あの夜のことは決して忘れやしないがおやっさんが死んだその事実だけは何度思い起こしても上手く感情をコントロール出来なくなる。それを幻とはいえ再び経験させられた身はまともではいられない、一度震えた呼吸を吐き出せばもう止めることは出来なくて瞳からは涙が溢れた。涙の粒は次第に大きくなり嗚咽が漏れる、ハットに手をやって目深に被るが隠し切れる量の涙ではない。あの幻の中ではハットからおやっさんの匂いを感じたが今被るこれは自分で用意したものでおやっさんの気配は感じられない、そんな分かりきったことが今はどうしようもなく悲しくて寂しくて人目のない場所で大粒の涙を流しながら「おやっさん……」とただ今はいない憧れの人の名前を呼ぶことしかできなくて)
…、……………
(暫くそうして海を見ていたがス.タ.ッ.グ.フ.ォ.ンで相手の様子を確認する。そこには波止場と思われる場所で1人座り込んだ相手が写っている。普段ならば悪戯で追跡をすれば大体は気付かれる事が多いが今はそれ所じゃないらしい。暫く海を見続けているようだが徐々にその顔は俯き、その体が震えたように見えた。そして少し離れたカメラからも零れ落ちた涙が光を反射したのが見えると一人にした方が良いだとか踏み込めないだとか色々悩んで澱んでいた気持ちが一気に吹き飛んで腰がけていたバイクから飛び降りる。この街の涙を拭うことが探偵としての仕事ではあるが、フィリップとなった時最初に拭いたいと思ったのは相棒の涙だ。やるべき事ではなく自分がしたい事をする決断が着けばその足を急いだ。波止場に着けばその背中はすぐに分かった。沈んだ背中に直ぐにでも駆け寄りたい気持ちを押さえつけて、ある時に教えてもらった探偵のいろはで足音を殺して相手に近付く。そしてすぐ側までたどり着けば「喜びも痛みも分け合うのが相棒じゃなかったのかい」と声を掛けながら目は合わせず、嗚咽を零す相手の右横に座って海を眺めて)
…な、…フィリッ、プ……しょうがねぇだろ……こんなの、ハードボイルドじゃねぇし……
(目元の涙を隠すはずのハットを目深に被ってみても到底隠しきれない量の涙が両目から溢れ出す。嗚咽を漏らしている間も脳裏に浮かぶのはおやっさんとの数々の思い出と死の瞬間で周囲を気にする余裕など全くなかった。コントロールの効かない感情のままに項垂れていると突然右隣から相手の声が聞こえてきて思わずそちらを見る、幸い相手の視線は海を向いていて涙でぐちゃぐちゃになった顔を見られなくて視線がこちらへ向かないうちに慌てて顔を逸らした。確かにあの幻の中で全てを分け合うのが相棒だとは言ったが自分でもどうしようもないこの感情をどう処理していいか自分でも分からなくてましてや共有の方法はもっと分からない。相手と相棒としても恋人としても過ごす中で飾らない心のまま隣にいることが出来るようになってはいたが、この痛みはまだ相手にきちんと見せていなかったものだろう。無理やり涙を止めようとしながら時折鼻をすするがそれでも感情は落ち着かない。せき止めようとした涙を時折落としながらゆっくりと右隣へと手を伸ばした。そして指先を相手の手の甲へと触れさせる、いつもの温かさに今は酷く安心を覚えて震える息を吐き出した。暫くそのままで黙った後に「…全然、慣れねぇんだ……おやっさんが死んだこと…」とポツリと言葉を零して)
そんなの今更だろう。……ああ、君がずっと背中を追いかけてきた人なのは知っているよ。
(近づいてもこちらに気付く気配はなく、そのまま右隣に座れば慌てたような視線と声を感じた。敢えてその姿を見ずにただ隣で海の方を見ていれば鼻をすするような音に混じって強がるような声が聞こえる。きっと今の相手にとって鳴.海.荘.吉の喪失はずっと塞がることの無い傷であり、一番心の柔らかい所なのだろう。そこを無闇矢鱈に触るのは躊躇われて視線は前を向いたまま、ただ隣で同じ時を共有しようとすればゆっくりと手が近付いてきて指先が触れる。相手の様に上手く言葉が伝えられない代わりに軽く指を絡めるようにそこを握って自分がそばに居ることを伝えながら暫く海風に当たっていた。それからどれくらい経っただろうか、相手がぽつりと言葉を零したのを聞けば静かな声でそれに応える。地.球,の.本.棚で二人がいつ出会ったのか、弟子入りを申し出て断られる日々も何をしてきたかも文章としての事実では知っている。だがそれでは到底計りきれない程の強い感情や思い出が大切な人との日々に宿ることを相手との関係の中で知っている。いつの日か相手の願った幸せな世界にも鳴.海.荘,吉の姿はあった。そんな存在を亡くしてしまった悲しみや寂しさがどれだけのものか自分には想像することしか出来ない。相手には泣いて欲しくないと思うがそれ以上にさっきのように無理に笑みを浮かべることをさせたくないと思えば「…別に無理に慣れる必要も無いだろう、君のその感情はそれだけ鳴.海.荘,吉を大切に思っていた証拠だ」と言葉を続ける。そしてもう少しだけ距離を詰めるようにして座り直すと「…ここは波の音が大きくて見える海も綺麗だから他の音がしたり何かが触れても気付きそうにないね」と独り言のように呟いて)
大切に…でも、おやっさんは……俺のせいで…
(ひとりでいる為にこんな人気のない所まで来たというのにいざ相手が隣に居ることが分かればその存在を確かめたくて指先を触れさせる、触れた手に軽く指が絡まるとより相手の存在を強く感じてせき止めていたものがじわじわと溢れ出してくる。相手の言葉を拾い上げて繰り返すも後悔は止まらなくて悲しみも寂しさも埋められなくて弱々しく呟く。後悔をして弱音を吐く暇があったら探偵の魂が宿るこの帽子を被ってひとりでも多くこの街の涙を拭って罪を償うべきだと、そう分かっていて実際先程相手にもそう言って励ましたと言うのに、おやっさんの事となると理屈より感情が上回ってしまう。自分でもどうしようもない感情に沈んでいると相手の体がさらに近くなってこちらを慰めるでもない独り言が呟かれた。しかしそれは下手な言葉や行動ではなくこちらの全てを受け入れてくれるもので、きっとどんな言葉を言われても癒えないこの痛みに対して静かに寄り添ってくれる相手の存在がただただ有難く瞳に涙が浮かんで視界が霞む。沈んでいた心に温かなものがじわりと広がっていよいよ我慢が効かなくなる、こちらからも少しだけ体を寄せると体を傾け相手の肩に額を当てて顔を隠す。相手の存在を感じながら視界が塞がればもうダメだった。一筋涙が頬を伝う、そこからはもう制御が効かなくて涙が次々溢れ出すと声さえ我慢出来なくなって嗚咽を漏らしながら再び泣いた。体が震えて大粒の涙が相手の服へと落ちていく。僅かに絡まった指に無意識に力を込めながら何を言うでもなくただただ涙を流していて)
…………、
(伝えたいと思ったことは伝えた。相手から視線を逸らして今から起こることには何も気付かないと前置きを起きながら距離を詰める。きっと相手の抱いた傷や感情はこちらが何をしようとも癒えたり消えるものでは無い、ならば自分が出来るのはただ傍に居て一人では無いことを伝えながらそれを受け入れることだ。黙って海を見続けていれば相手の体が傾いてこちらの肩に額を預け顔が埋められた。それから少しずつ我慢していたものが溶けていくように涙が溢れありのままの嗚咽が聞こえてきた。相手が零した温かい涙が服を濡らしていく、絡めていた指に力が込められるとそっと相手の涙を隠してしまうハットを取って自分の膝に一旦置いておくと繋いでない方の腕を相手の背中に軽く回して震える体を抱きしめ、もう少しだけ体重をこちらに預けさせる。そして相手が感じる痛みや悲しみが少しでも軽くなるように願いを込めて優しく後頭部を撫で始めた。何も言うことなく、その体勢のままただ相手の感情を受け止め生きている確かな体温を共有しながら相手の気が済むまで頭と背中を交互に撫で続けて)
………………
(相手の肩に額をあてて溢れるままに涙と泣き声をあげる。一度溢れ始めてしまえば止めることなど出来なくて、しかし相手が黙って傍にいてくれるのが何よりも温かい。泣きじゃくっている間にハットが取られて背中に腕を回されると温かな体温に包まれる、この世で一番安心できるいつもの心地に体の力は抜けて導かれるままに相手の方に体重をもう少し預けると繋いでいない方の手を相手の胸板に添えてそこへ縋り付くように服を握りしめた。やがて相手の掌が後頭部へと乗ってそこを撫で始める、今だ胸は苦しくて涙は止まらないが頭と背中とを優しく撫でられれば温かな心地はさらに広がって顔を隠しながらも肩へと擦り寄って嗚咽を漏らした。そうやって暫く相手に抱きしめ撫でられながら溢れる限り涙を流していると胸に膨らんでしまった後悔と悲しみと寂しさがゆっくりと相手の体温と共に自分の中へと溶け込んでいく。決して消えるわけではない、ただなりを潜めるだけできっとあの夜とおやっさんを思い出す度に何度でも強く思い出される感情だが、相手の存在を感じながら溢れてしまった分を全て吐き出してようやくぐちゃぐちゃになった感情は落ち着きを取り戻していった。顔は未だに酷い状況で目を合わせることはできない、その代わりに両腕を相手の背中へと回してその体を強く抱き締めると「ありがとう、フィリップ…俺の隣に居てくれて、ありがとう…」と涙で枯れ果てた声で小さく口にして)
…少しはすっきり出来たかい? 僕は君の相棒だからね、どんな時も、これからも、ずっと傍に居るよ
(相手の頭を優しく撫で始めると縋りつくように胸のあたりの服が握られて泣いている相手にただただ寄り添う。そうしていれば少しずつではあるが嗚咽は治まっていき、落ち着いていくように見えた。その様子をこっそり観察しながらも相手を撫でる手を止めないでいれば服を握っていた手から力が抜けていくのが分かり、優しく小さな声で問いかける。相手の両腕が背中に回って強く抱きしめられる、顔は隠されてしまって伺い知ることは出来ないが少しでも先ほどよりマシになっているように見えれば密かに安堵した。こちらからも軽く抱きしめ返していれば泣きつかれたような枯れ気味の声でお礼を言われて小さく笑う、やはりあのまま帰らずに決断して正解だった。あの夜には確かに最悪の別れをしたが同時に新たに結んだ相棒という関係性を口にすれば自らの存在を示すようにぽんぽんと背中を撫でてずっと傍に居ることを告げる。決して彼の代わりになれる訳ではないが思い出して相手が悲しむ所に寄り添うことは出来るはずだ。「だからいつでも頼ってくれ」と言葉を続けると抱きしめる腕に力を込めて見せ)
…、……あぁ、そうだな。お前はあの夜から俺の唯一無二の相棒だ。だから、…またこんな風になっちまいそうになった時はお前の隣にいくから
(整理が付けられないくらいにむちゃくちゃになってしまった感情はようやく落ち着いて嗚咽は穏やかな深呼吸へ変わっていく。優しく小さな声が鼓膜を揺らせばそれだけで胸はもっと穏やかになって小さく頷き応えた。こちらから抱き締める腕に力を込めれば相手からも抱き寄せられる、あの夜に相手とは運命さえ共にする相棒という関係になって今も変わらず隣に存在している。喜びも痛みも分け合う大切な存在、そんな相手から背中を優しく撫でられて改めて傍にいるのだと言われると胸にはまた温かなものが広がった。おやっさんを失った痛みは消えることはなく何かで代替できるものでもない、しかしこの痛みを思い出したとしても今のようにただ傍に相手がいてくれるのなら何度だって顔を上げられるだろう。相変わらず相手に顔を見せないように僅かに顔を肩から外して腕で涙を無理やり拭う、そして顔をあげて相手と目線を交わした。まだ目は真っ赤で頬には涙の跡が残っているが今度は感情を隠すためではない心からの笑みを小さく浮かべて返事を返す。ひとりで泣き腫らしてもいつかは立ち上がって家に帰ったのだろうがこうやって穏やかな気持ちでいられるのは間違いなく相手のおかげだ。相手の頬に手を添えて真っ直ぐと相棒の瞳を見つめると「頼りにしてるぜ、フィリップ」とその名前を呼んで)
…是非そうしてくれ。こうやって傍に居ることしか出来ないけど君の痛みや悲しみも受け止めたい。…ああ、僕も頼りにしてるよ翔太郎。
(自らは相棒だと告げて幻想の中で相手が言っていたように喜びも痛みも分け合う存在であることを伝えるように背中を撫でながら想いを口にする。そうしていれば相手は涙を拭うような仕草をしてから顔を上げる、こちらを向いた顔は目が真っ赤で涙の跡もありのまま残っているがその表情はス.タ,
ッ.グフ.ォ.ンで見た沈んだ物ではなく前を向いた明るい物で自然とこちらも小さな笑みが浮かんだ。自分には何も出来ないからと遠慮がちになっていた節があったが自分の存在が相手の助けになるのならばこれほど嬉しいことは無い。相手が格好悪いと思うであろう部分まで共有して寄り添いたいのだとありのままの気持ちを明かした。頬に手を添えられると自然と視線は相手の方を向く、そして全幅の信頼の言葉と共に名前を呼ばれると胸に温かい物が満ちて嬉しそうに目を細めると同じ言葉と名前を呼んだ。あの夜を再び繰り返す体験をして心を大きく乱してしまったが相手のおかげでまた明日からもこの街の涙を拭って平和を守ることが出来そうだ。穏やかな気持ちではあるがふとさっき相手が先に帰るように言っていたのを思い出すと「風邪をひく訳にはいかないし、そろそろ一緒に家に帰ろうか」と【一緒に】をやけに強調するような口調で声を掛けて)
何言ってんだ、傍にいてくれるだけで十分すぎるくらいだ。…俺ももう、ひとりで抱え込んだりしねぇ
(赤い目のまま視線を交わして相手の言葉には小さくまた笑う、相手は謙遜して傍に居ることしかというがそれが最も重要な事なのだ。ただ隣にいてくれるだけで、抱き寄せてくれるだけで、頭を撫でてくれるだけで、痛みを抱えていた心はもうこんなにも温かい。自分の格好悪い部分は大概相手に見せたと思っていたが今回で無意識に隠そうとしていた所さえ相手に晒して受け入れられて包み込まれて、こうなればもう遠慮するものは何もないだろう。こちらも痛みを分かち合うことに躊躇しないことを相手の瞳を見つめながら誓った。相手とこれからも自分が定義した相棒であり続けることをまた決断したところで海風は一段と冷たくなっていく、そろそろ二人の家に帰る時間のようだ。相手に強く一緒にと言われ帰宅を提案されると口角をあげて「あぁ、俺達の家に帰ろうぜ。もちろん相乗りでな」とこちらからは【相乗り】を強調して返事をした。ス.タ.ッ.グ,フ,ォ,ン.でハ,ー,ド,ボ.イ.ル.ダ,ーを呼び寄せると傍に着けたバイクに先に跨ると相手の方へ目をやって「一緒に帰ろうぜ」と声をかけて)
僕達はそうでなくては。…ああ。じゃあ家まで事故を起こさずに頼むよ、相棒。
(自分が側にいるだけで良いと言われると擽ったい気持ちになる。そしてあの夜に関する傷まで見せてくれて共有することを伝えられると安堵したような笑みを浮かぶ。これからもきっとふとしたタイミングや何かの事件で自分の存在意義に迷ったり過去の深い傷が痛みを発したりすることもあるだろう。だけどその度にこうやってお互いの痛みや体温を共有して分かち合えば良い。改めて相棒という関係性の特別さと何度でも相手の隣に立つことになる運命を噛み締めながら一緒に帰宅するのを提案すれば相手の口角が上がって【相乗り】の返事がされる。あの夜から今日までも続く響きに上機嫌に声を弾ませると相手に続いて立ち上がった。呼び寄せたハ,ー,ド,ボ.イ.ル.ダ,ーがやってくると相手が先にバイクに跨る、そして誘うような視線を受けると嬉しそうに笑って直ぐさまその後ろに乗って相手の腰に腕を回す。1人ではなく二人でこの街に帰ってきてあるべき場所に帰ることの出来る幸せを覚えながらからかい混じりに言葉をかけると頼りになる相棒に腕に力を込めてハンドルを任せて)
(/いつもお世話になっております。そろそろ区切りが近いかと思いお声がけさせて頂きました。念願の初めの夜のお話でしたが出会ったばかりの噛み合わない二人から衝突などを起こしながら相棒だと認め合う所まで出来て本当に良かったです。探偵君がおやっさんのことを大切に思ってるのが凄く伝わってきてそれに影響を受けて変わっていく検索の描写も色々出来てとても充実したお話でした。帰ってきてからもトラウマを刺激されて寄り添う相棒としての二人のやり取りが出来たりと好きな展開の連続でドキドキとワクワクしながらお返事させて貰いました。今回もありがとうございました!
このまま少し進めて夜寝るまでの二人のやり取りをしてもよいですし、ここで区切って新しく話を進めても良いなと悩んでいるのですが探偵様はいかがでしょうか。)
大事な相棒乗せて事故るわけにはいかねぇな。任せとけ
(バイクに跨り相手を誘えばその顔には嬉しそうな笑みが灯って相手は後ろへと乗り込む、腰に腕を回されれば姿が見えなくとも相手の存在を強く感じて自然と笑みが漏れた。揶揄うような言葉には調子よく返事をしてエンジンをスタートさせるとバイクを発進させる。海沿いの道を走りそのまま街の方へとバイクを走らせる、自分達を撫でながら流れていく風.都,の風は何時にもまして心地よくて二人を迎えてくれているようにも思える。あの夜からここまでの道は決して平坦ではなくてこれから行く道だって今日以上に傷ついたり迷ったりする日もあるかもしれない。だがそれも相手が隣にいればきっと歩んでいける、何せ相手は喜びも痛みも分け合う大切な相棒なのだから。何度でも相手に寄り添って何度でも相手に弱音をはいて、そうやって進んでいくのだろう。バイクはやがて市街地を走り抜けて自分達の家の前へとたどり着く、バイクを停めて階段をあがっていけばいつもの扉が見えた。お揃いで持つ鍵で玄関を開けてくぐれば「ただいま」と声に出す。暗い幻に閉じ込められていたのも相まって相手と共にこの家に帰って来れたのが何よりも嬉しくて後ろを振り返り相手が玄関をくぐっているのを確認すればそれだけで口元には笑みを浮かべて「おかえり」と続けて声をかけて)
(/こちらこそお世話になっております。イフなお話でしたがここの二人ならではの初めの夜が出来てとてもとても楽しかったです!本筋ではおやっさんによって繋げられた絆でしたが、今回はおやっさんを通じて少しずつお互い手繰り寄せるように歩み寄って最終的には相乗りする相棒になるまた違った絆の結び方ができたなと思います。検索くんも探偵も互いの得意なことで困難を突破するカッコイイところも出来ましたし、現実に帰ってからもお互い寄り添ってまた歩き出すところまで最後まで楽しませていただきました。好きな展開詰め込みましたがどの瞬間もハラハラドキドキで毎回お返事書くのが楽しみでした。
こちらも迷ったのですが次のお話の前に少しだけ二人だけの時間が欲しいなと思いましたのでこのまま続けさせていただきました!もう少しだけ後のお話を楽しんだあとまた次の展開ご相談させてください/何も無ければこちら蹴りで大丈夫です!)
ただいま。…何だか漸く帰ってきたような気がするね。
(相手にからかい混じりの言葉を投げかければ調子の良い返事が返ってきてバイクが発進する。あの時は知らなかった潮の匂いも街へと続く道の景色も肌を撫でる心地良い風も今では馴染み深い物でここに生きていることを強く感じる。これからも唯一無二の相棒と共に助け合って、時には今日のように寄り添って何度でもその手を取って先に進んでいくのだろう。未知の未来の予想に口元を緩めながら相手に抱きついて走り抜けていく街の姿と腕の中の相棒の存在を確かめていた。そうして言えばバイクは二人の家の前に辿り着く。バイクを降りて階段を上がり、相手が鍵を開けて中へと入ったのに続く。すると先に入った相手がこちらへと振り返って出迎えの言葉を告げる。一瞬目を瞬かせるもその意味を理解すると相手の目を見ながらそれに呼応する返事を返す。靴を脱いで中に入れば肉体的な疲れはそれ程ないがあの夜をもう一度体験した精神的な疲れがどっと出て苦笑いしながら感想を口にする。それを癒す為にか気付けば相手の元に近付いてその身体を緩く抱き締めると「今日はこのままお風呂に入って寝てしまおうか」とくっついたまま提案して)
だな、今朝もこの部屋にいたのに。……あぁ、そうしようぜ。今日は、…まぁ毎日だけど……お前の隣で寝たい
(共にこの家に帰ってきたことが妙に嬉しくて声をかければ相手から返事が返ってきてまた妙に嬉しくなる。靴を脱いで部屋に上がれば相手に同意するよう頷く、実際の時間はほんの短い時間だったはずだが幻の中ではあの夜からの数日間と島を脱出する日を経験したわけで体感としては数日ぶりの帰宅だ。しかも幻の中では薄暗い空間に閉じ込められ命を凌ぎ合う緊迫した時を過ごしたのだから精神的疲労は想像以上に膨れているだろう。相手の体がふらりと近づいてこちらへと抱きつけばこちらからも腕を回して相手の背中をゆっくりと撫でる、先程散々こちらの気が済むまで寄り添ってくれたのだから今度はこちらから相手に返したい。とはいえ緩く抱きつけばこちらも同時に疲労は癒されてゆっくりと息を吐き出す、二人きりの空間に帰ってきたのならば相棒からもうひとつ加わった関係、恋人の距離で二人の時間を過ごしたい。幻のおかげで数日相手が隣にいない気分を味わったのだからその分を取り戻したかった。顔をあげて少しだけ体を離すと視線を交えて「先に風呂入ってこいよ。早く二人でゆっくり寝ようぜ」と声をかけて)
僕も同じくだ。 じゃあ先に入ってくるよ、直ぐに戻るから。
(幻の中で数日過ごし、その場所もあの心休まることのない研究所の中であれば凄く長くあの場所に居た感覚がする。その疲れや緊張を癒す為にふらりと相手に近付いて抱き着くと相手からも腕が回されて背中を撫でられる感覚に無意識に息を吐き出す。今日は他になにかする気にもなれずに早めに寝てしまうことを提案すると相手から賛成の返事がされる。一緒に寝たいと願う言葉にぽつりと毎日であることが付け足されていると思わず笑ってしまうが相手の温かな体温を抱いて眠りたいのはこちらも同意だ。顔を上げた相手に先に風呂に入るように促されると名残惜しそうに腕を解きながら素直に頷く、一人にしてしまう相手に子供扱いするように直ぐに済ませてくるように告げると風呂へと向かった。服を脱いで頭からお湯を浴びればその温もりに疲労が染み出してくる、約束を守るために手早く頭と体を洗ってから流し、十分に体が温まった所で浴室を出た。体を拭いて相手の色である紫の寝間着を身に纏うと髪を拭きながらリビングへと向かう。「上がったよ、翔太郎」と言いながら既に気持ちが溢れると一直線に相手の元に向かうとその頬に軽くキスを落とす。それから相手を見つめ「君も早く入ってきたまえ」と相手にも風呂に入ることを促して)
おかえりフィリップ。…、…あぁ、俺もとっとと入ってくる
(二人の家に帰ってきて正直もう片時も離れたくない気分だったが一緒の時間を過ごすためにも一旦離れなくてはならないらしい。体が離れて失われていく体温に名残惜しさを覚えながらも相手を風呂場へと見送った。相手が体を洗う間に帽子をいつもの場所へとしまう、おやっさんが使っていたものは事務所に置いてあるがこれが探偵の魂であるのには変わりない。しばらくそれを見つめて小さく笑ったあとに目線を外して他のものを片付けて言った。しばらくもしないうちに相手が風呂から上がってくる、いつもより入る時間は短くて早く二人で眠りたいのが伝わればいやでも口角は上がってしまう。もちろんそれはこちらも同じだ。相手は一直線にこちらへとやって来て頬にキスを落とされるとますます口角と気持ちは上がった。次はこちらが風呂に入る番で返事をすると相手の肩に手をかけ頬の中心よりも唇に近い場所へキスを落とす、とっておきは後のお楽しみだ。楽しげに笑みを浮かべながら浴室へと向かうといつもより手早く体を洗って温かいシャワーを浴びる。それでも疲労は取れるのだが全てを流し去るには到底足りない。いつもより早い時間で風呂から上がるといつも通り相手の色の寝間着を纏ってリビングへと戻ってきて「あがったぞフィリップ」と声をかけつつ真っ直ぐ相手の元へ向かえばそのまま緩く抱きついて)
おかえり、…風呂上がりだから温かいね。
(風呂から上がって溢れる気持ちのまま頬にキスを落とすと分かりやすくその口角が上がって気持ちまで温かくなる。風呂に入ることを促すと今度は相手の方から唇の辺りに口付けがされて無邪気な幸せとちょっぴり物足りなさを覚えた。それは後から十分にやってもらおうと考えながら「行ってらっしゃい」と風呂場に行く相手を見送った。一人になれば手持ち無沙汰で何となくカーテンを開けてこの街の景色を見る。あの日はそのまま事務所に戻って事務所の椅子に縋って泣きじゃくる相手をただ見ることしかしなかった。それから暫くは何となくぎこちなく暮らしていて自分もガレージのソファーに体を丸めるように寝ていた。それが今では相手の家に転がり込むようになって一緒に寝ようとしているのだから随分と変わったものだ。感慨深くこの街の景色を見ていれば背後から風呂から上がってくる音が聞こえてカーテンを閉めて振り返る。そこには自分の色を纏った相手の姿があり一目散にこちらに抱きついてくると小さく笑いながら出迎えの言葉をかける。こちらからも腕を回して緩く抱き着くと風呂上がりの体はぽかぽかしてて心地好く、軽く擦り寄りながら感想を口にする。これならばよく眠れそうだと口元を緩め「もっとくっつきたい」と素直なわがままを告げると緩く抱きついたままベットの方に相手ごと移動して)
そうだな。でも、ずっとくっついてないとすぐ湯冷めしちまいそうだ。……俺も
(窓際に立っていた相手のもとへ一直線に向かいその体を抱き締める、この部屋の中で一番外との距離が近いその場所から自分へと意識を引き戻すように抱き締めれば向こうからも腕を回され力がこもる。相手が軽く擦り寄ってくれば擽ったくて笑みを浮かべながらもうここから体が離れていかないように筋の通らない理屈を口にする、だがそれで相手がこの隣から居なくならないのならそれでいい。相手から何とも素直で可愛らしいわがままを言われるとますます口角は上がって相手に導かれるままにくっついてベッドの方へと移動する、ベッドの横まで移動してくれば相手の脇の下と腰とに腕を添えて軽く抱き上げるとそのまま二人の体をベッドへと横たえた。制限の無くなった体は存分にくっつけることが出来てすぐさま背中に腕を回して互いの足を絡ませて出来るかぎり接触面積を増やす。視界には相手しか写っていない、唯一無二の相棒で何よりも大切な恋人。どちらの意味においてもいつまでも隣にいたい、いて欲しい、それが相手という存在だ。ようやく望む距離を手に入れて相手の頭をゆっくりと撫でると「フィリップ」と名前を呼ぶ。呼び慣れたその名前を温かい気持ちと共に呼べるのが今は嬉しくて顔を近づけると短くキスを送って)
…もうすっかりこの距離に慣れてしまったよ。 …ん、幸せだ。
(お互いに抱き締め合っていれば理由になっていない理屈が告げられてくすくす笑う。それだけ離れたくないと思ってくれているのが嬉しくてよりくっついていられるようにワガママを口にすればそのままベットの方に連行した。ベットの横にやってくれば自然な流れで腕が脇の下と腰が添えられてそのまま二人で横になる。それから直ぐに背中に腕が回ってお互いの足を絡ませながらくっつくと視界の多くを占める相手を見つめる。誰かに触れたり触れられることも自分のテリトリーに踏み込まれることも慣れていなかったはずなのに、今ではすっかりこの距離感に馴染んで逆にこの近さで無くては物足りなくなっている。相手の温かい手が頭を撫でて名前を呼ばれると心地良い幸せが胸を満たしてその手に擦り寄りながら口元を緩める。こちらからもぎゅっと抱きついていれば顔が近付いてきて大人しくキスを受け入れる。自分だけが受け止められる恋人としての行為に心は弾んでありのままの気持ちを呟くと自分からも顔を寄せて今度は長く唇を重ねて)
あぁ、もうこの距離じゃねぇと物足りねぇ……ほんと、お前とこんな関係になるなんて思わなかったな
(全身を相手とくっつけながら頭を撫でればその手に擦り寄られて可愛らしい仕草にまた胸を擽られる。探偵助手をしていたときも相手と探偵をやり始めた直後も誰かからカッコイイ男に見られたいだとかモテたいだとか、そんな願望は持っていたが具体的に誰かと特別な関係になるなんて事は想像したことも、そもそも想像することすらできなかった。今その関係のあるのがあの夜に最悪な出会い方をした相手とは夢にも思わなかったが、同じ人から託されて同じものを背負って同じ方向に歩いて、気がつけば悪魔と呼んだ相手は何よりも大切な相棒で恋人という唯一無二の関係になっていた。こちらに強く抱きつく相手に短く口付けを送れば、シンプルな言葉が呟かれてそれだけでまた胸は温かく満たされる。相手の顔が近づいてくれば再び目を閉じて口付けを受け入れる、ただ重ねて体温と幸せを共有する行為に胸が温かくなった分相手の体を強く抱き締めた。やがてゆっくり唇が離れると至近距離で相手を見つめる、眩くも妖しくも輝く愛おしくて時に厄介な瞳を見つめながら「…あの夜、お前と出会えて良かった」と心に浮かぶままを口にしていて)
出会いもだけど最初の頃はピリピリしていてとてもじゃないが仲が良いとは言えなかったからね。 …ああ、僕にとってもあの日君に出会えたのが生涯で一番の幸運だ。
(すっかり慣れ親しんで一番落ち着くようになった場所で相手とくっついて過去を振り返る。今でこそこうやってかけがえのない相棒であり愛おしい恋人でもあるがあの時の出会いは最悪な物だった。相乗りの契約を結んであの施設を脱出して事務所に辿り着いてからもお互いの価値観は全く合わず大切な人の喪失で余裕も無くて大変だった。それでも同じ時間を過ごして少しずつお互いのことを知って、時にぶつかって歩み寄ってそんなことを繰り返しながら今がある。相棒に加えて恋人という関係になるとは思わなかったが一番気を許せる人物で何よりも大切な大きな存在であったのだからある意味必然だったのかもしれない。二人の変わった関係性に想いを馳せながらもう一度キスをすれば相手からも強く抱き締められて幸福に満たされる。ゆっくりと離れてあのまっすぐとした目がこちらを向く、そして出会えて良かったと言われると擽ったい気持ちでいっぱいになって顔を喜びの色に染めながら無邪気に頷く。悲しみや後悔、痛みも色々あったが自分たちにとって運命的な日で間違いなく無ければならない一夜だった。状況を一気に変える切札のようにあの日の相手との出会いが自分の人生を大きく変えた幸運だと告げる。背中に回していた手を後頭部に伸ばして後頭部をくしゃりと撫でると「悪魔と契約したのだから最期の日まで離さないよ」と悪戯っぽく笑って言葉続けて)
そうだな、最初の頃は何もかも分かんねぇから全然余裕なかったし……違いねぇ。あぁ、俺達は二人で一人だ。最期を迎える運命まで、ずっと一緒だ
(相手が昔を振り返れば懐かしさに思わず笑ってしまう。あの夜何とか事務所にたどり着いてからも相変わらず相手は常識知らずで今以上に理屈でしか喋らなくてしょっちゅう言い合いをしていたものだ。それに加えて鳴,海,探,偵.事,務,所.の探偵にならなればいけなくてずっと爪先立ちで日々を過ごしていたように思う。それに関しては今もおやっさんの足元にも及ばなくて必死で探偵をやっているのだが、こうやってその爪先立ちを止めることが出来る時間があるだけで気の持ちようは随分と違う。何度も嫌になるほどぶつかり合いながら二人とも決しておやっさんから託されたものも自分が償うべき罪も投げ出すことはなくて、歩み寄りずっと二人であったからこそ相手とは替えのきかない特別な関係になった。それもあの夜に相手に出会ったからこそ、それを伝えれば無邪気な笑みが浮かんでこちらの胸まで温かくなる。相手とでなければここまで来るどころかあの夜さえ超えられなかった、相手と出会ったあの夜に全てが始まったのは間違いない。同意する返事を返していれば後頭部に手を添えられてくしゃりと撫でられその心地良さに口元に弧を描く、そして悪戯っぽい笑みと共に悪魔らしい薄暗さを含んだ契約をチラつかされればこちらも小さく笑った。もう相手の隣から離れる事なんて考えられない体になっているのだ、それこそ命が消えるその瞬間まで。あの夜の運命を共にしたのと同じように終わりの運命まで一心同体でいたい、背中全体に腕を添えるようにしてグッとこちらへ引き寄せると「覚悟しとけよ」とニヒルに笑ってから緩慢な動きで唇を重ねて)
約束だよ。…ん、……。 僕もだけど、君も大概執着深そうだ
(過去の話をすれば相手からも笑みが浮かぶ。色々と気苦労としたがあの夜から今日までの日々の重みと変化を感じるような一日だった。相乗りをした時の契約は薄暗さを含むようになりながら今も健在だ。きっともう相手からは離れることなんて出来なくて始まりから終わりまで共にあることを確認すれば相手の口元にまた笑みが浮かんだ。ずっと一緒だと言う言葉の響きに胸は満たされて幸せそうに微笑みながら約束だと口にする。更にぐいっと背中ごと引き寄せられニヒルに笑う相手の顔はとてもカッコよくて思わず見蕩れてしまいながらも近づいてくる顔に身を預け、何度目か分からない唇を重ねる。ただ唇を重ねるだけでこれだけ満たされるのも世界中探しても相手だけだろう。こちらも腕に力を込めて強く相手を感じながら唇を重ね、それだけでは想いが溢れてしまうと少し食むような仕草も交えて特別な場所の感触を楽しむ。やがてほんの少しだけ唇を離すと二人で結んだ深い繋がりに揶揄い混じりに嬉しそうに感想を告げ、こつんと額をくっつけ「望むところだよ」と口端を吊り上げながら好戦的な言葉を返して)
しょうがねぇだろ?お前の代わりになるものなんてこの世に存在しねぇんだから。だから、絶対に離さねぇ
(あの夜へと戻されて精神的に負荷のかかった一日だったが相手に心の一番弱いところまでさらけ出して改めて相棒が隣に居てあの日の契約が最期の時まで続くことを確認して、自分の居場所をもう一度確かめることが出来た時間だった。重なる唇の感触は特別に柔らかくて何故だか甘い、そこに食むような動作が加わってより鮮明にそこの柔らかさと温かさとを感じていた。ほんの少しだけ唇が離れて至近距離で見つめ合う、こんなにも決して手離したくないと強く思うのは相手だけで揶揄い混じりの言葉には小さく笑う。額を合わせる可愛い仕草をするのに相手が口にするのは好戦的な言葉でそのギャップにまた胸を擽られる、ともすれば深みに堕ちてしまうような感情でも相手は受け入れてしまうのだからどうしようもない。相手の後頭部に手を添えて決して目をそらせないようにしてから執着も独占欲も隠さない言葉を送っておいた。頭をゆっくりと撫でながら「まずは夢の中でお前を捕まえにいかなきゃな」と冗談めかして言って)
…ふふ、お互いが望んでいるのだから仕方がないね。 それはさぞかし良い夢を見せてくれそうだ。
(幻想によって抱いた不安は綺麗さっぱり消え失せて今ここに相手と共にいる幸せを噛み締める。言葉に出来ない想いを伝えるように唇を重ね、そっと離れてからどうしようもない執着を揶揄うように告げればあっさりと肯定されてしまう。後頭部に手を添えられると視界には相手しか映らなくてその状態で独占欲と執着を煮詰めたような言葉が告げられるとぎゅっと胸が掴まれたような気分になった。何よりも大切な相手を心の一番柔らかい部分まで招き入れていている分、離れてしまえば致命的な傷になるほど相手の形で埋まっていて今やどうしようもなくお互いで絡み付いてしまっている。それはもしかしたら正しくない事なのかもしれないがそんな深い所まで共にある事を望んでいるのだから今更止めようとも思わない。仕方ない、と弾んだ声で告げていれば頭を優しく撫でられて心地良さを覚える。お互いの存在とこれからも続く未来を確かめ合って安心した体は段々と力が抜けて眠気が顔を出す。夢の中でさえ当然のように会うつもりの相手に小さく笑うとその話に乗っかるような形で返事をしながら軽く擦り寄る。まだ少しだけ赤さの残っている相手の目を見つめると「…ちゃんと眠れそうかい?」と問いかけ)
……あぁ。おやっさんに寝すぎだって怒られそうなくらいゆっくり寝れそうだ。…お前がいるから
(薄暗い感情を込めた言葉を送れば相手は当然のようにそれを受け入れて互いに望むものだと言う。もうお互いにもう一人が欠ければ生きていけない、奇しくもそれは歴史が歪められた時に散々見せつけられてしまって悪魔の契約通り最期の時まで一緒にいなければ二人ともまともではいられない。今日無意識に隠していた弱ささえ相手に明かして受け入れられて更に相手の存在が自分の中に深く刻み込まれてしまえばより相手なしでは成り立たない存在になってしまった。だがこれがあの夜から始まって深く深く互いに刻んできた関係なのだから今更どうしようもなく、また変えようなんて気にはならなかった。頭を撫でて夢の話をすれば相手の表情には眠気が顔を覗かせる、このままこちらもゆっくりと意識を沈めていこうかと思ったが相手がこちらを窺うような視線で見ていることに気がついた。そして眠れるかと問いかけられてその声色から意味を察する、どこまでもこちらに寄り添ってくれるその言葉に、心に、胸には特別温かいものが広がって表情が綻んだ。無意識に背に回した手で相手の寝間着をぎゅっと掴みながらゆっくりと頷く。相手がこうやって寄り添って隣にいてくれるなら必ず最後には穏やかで安心して時を過ごすことが出来る。明確な理由を改めて言うのは気恥ずかしくてクサいかと思ったが今は素直に気持ちを伝えたくて一呼吸おいたあとに一言付け加えておいた。重なった額に軽く擦り寄りながら「明日も相乗り頼むぜ、相棒」と目覚めた後の明日も二人でこの街の涙を拭うことを持ちかけて)
…そっか、なら良かった。 勿論だ、明日もその先も二人で一人で、この風.都.を守っていこう。
(幸せな夢の話をして意識も沈み始めようとしていたが今日相手が強いストレスを受けたことを思えばつい様子を伺うように問いかける。なるべくさりげなくを心掛けたが心配が声色に乗ってしまったようでその意味を察してか背中の相手の手が寝間着を握られる。だがその表情に焦りは見られずに穏やかな笑みが浮かんで調子の良い返事がされるのを見るとこちらも安堵の笑みを見せる。相手を一人だけこの場所に置いていくことにはならなそうだ。相手の様子に満足していたが少し間が開いて自分が側にいるからだと理由が告げられるとぱちりと目を瞬かせてからじわじわと嬉しさと照れ臭さか湧き上がってぎゅっと抱き締める腕に力を込めると幼く笑って短く返事をする。重なった額に擦り寄られ明日からの相乗りを持ちかけられると明日からの探偵業にやる気を見せながらこれからもずっと続く二人で一人を口にすると僅かに身体を動かして触れるだけのキスをすると「…おやすみ、翔太郎」と眠りにつく前の言葉をかけて)
(/お世話になっております。引き続きからの家でのやり取りでしたが終始甘く幸せなやり取りばかりでとても癒される時間でした。今までの時間や関係性の積み重ねを噛み締めるような会話も多くて描写の仕方や仕草なども含め探偵君と探偵様のこと好きだとしみじみ感じておりました、ありがとうございました!
次の話ですが今回ガッツリシリアスっぽい話でしたので次はサクッと日常回やギャグっぽい話でも良いかなと考えたりもしているのですが探偵様はいかがでしょうか?)
あぁ。……おやすみ、フィリップ
(相手の問いかけに調子よく答えてついでにいつもは言わない言葉まで口にしてしまう、今日一番心の柔らかな部分まで相手に明かした影響かもしれない。そうすれば相手は嬉しそうに幼い笑みを浮かべて短く返事がされる、心を込めて考えてこちらへ送ってくれる言葉ももちろん優しくて温かくて救われるものなのだが、時にこうやってただ隣にいてくれるだけでも心は癒され満ち足りていくものだ。明日も二人でこの街の探偵をやっていくのだと言えば相手からも意欲のある言葉が返ってくる。自分達が望むことで自分達の義務、しかし隣に相棒がいるならばきっとこの街の涙を拭って笑顔を増やすことができる。相手が体を動かすのをみれば自然と目を閉じて触れるだけのキスを交わす、じわりと温かな心地に包まれて相手の後頭部をゆっくりと撫でるとこちらからも同じ言葉を返してから目を閉じ意識を沈めていった)
(/こちらこそお世話になっております!二人の過去の傷が抉られたあとにいつもの二人へと戻っていく大切な時間が過ごせたかと思います!穏やかで甘い時間でしたが、検索くんが静かに探偵に寄り添ってくれるのが本当に素敵で優しくて…背後共々心を掴まれてこちらも改めて検索くんと検索様のことが大好きだなと実感する時間となりました。今回もありがとうございました!
この後のお話ですがシリアスから逆に振り切れて騒がしいお話が出来ればと考えておりまして、以前から出ていたBL漫画家にモデルをお願いされる話、執事喫茶の臨時手伝いをする話、アキコのデート(?)を尾行する話、あたりがよいかなと思っておりましたが、検索様はいかがでしょうか?)
……やあ、久しぶ、り…な、なんだい。
(あの夜の幻を見せられて酷く心乱されてしまったが何よりも大切な相手と存在を確かめ合ってこの先も一緒に居ることを約束し、安心しながら眠りについた日から一週間ほど。翌朝相手の目は無理やり擦ったりしてなかったおかげでさほど腫れることもなくその日から確かめ合った通りにこの街の涙を拭う探偵業に精を出すようになった。舞い込んできた依頼をこなし街の人の笑顔に安心を覚えるなどして日々を過ごし、今日も相手のパトロールに着いていけば見覚えのある人物が道に立っていた。可愛らしいメイド服に身を包みボードのようなものを持って呼びかけをしている彼女は以前事務所にあがり症を治したいとやってきた元依頼人のことのちゃんだ。あれ以来会っていなくて挨拶しようと声を掛けようとするかその前に彼女が自分達に気付くとぱっと表情を明るくして一直線にこちらにやってくる。その圧に押されると共に嫌な予感を覚えると一歩下がって問いかけると『あ、あの二人に頼みたいことがあって、またお店のお手伝いして貰えませんか…!』と返事が返ってきて)
(/では執事喫茶の臨時手伝いの話はいかがでしょうか。以前のメイド喫茶の系列店かオーナー同士の繋がりって形で手伝いに繋げようかなと思いひとまず上記回させて貰いました!せっかくですので今度は二人で接客の手伝いが出来たらと思うのですが探偵様の希望の雰囲気などはございますか?また執事喫茶には行ったことがないのでかなりイメージ先行になりそうでご了承のほどお願いします。)
よぉ、ことのちゃ……なッ?!ダメだ!絶対にダメだ!こいつは前に十分やったし、な?それに、このハードボイルドな男に可愛い格好は似合わねぇだろ?
(幻とはいえあの始まりの夜を再び経験し、しかし二人で並んで歩いていることを確認した日から一週間ほど。やることは以前と変わりなく事務所に舞い込んできた依頼を順番に解決する日々が続いた。依頼が解決すれば依頼人達は笑顔を浮かべてこの事務所を去っていく、その顔を見つめる相手をこっそりと盗み見ながら順調にこの街の涙を拭っていた。そして本日は依頼もなくいつも通りパトロールへと出かける、すっかり相手と共に歩くのも珍しくなくなっていた。ルートを歩いていると行く先に見覚えのある顔を見つける、向こうもこちらを覚えていたらしくこちらへ走ってくるメイドのことのちゃんに片手をあげて挨拶しようとした。しかし知り合いを見つけた以上のテンションに違和感を覚える、相手も何かを感じ取ったのかたじろいでいて二人して一瞬固まってしまった。直後また店の手伝いをお願いされると思わず間の抜けた声を挙げてしまう。店の手伝いということはメイドをするということ、前回散々相手がメイドになっていろいろと気苦労したというのにまたあれを経験するのは御免で真っ先に相手がメイドをすることを否定する。その後に二人で、と言われたことに気がついてそれもそうそう受けられない話でハットのブリムを人差し指で軽く持ち上げ精一杯かっこいいハードボイルドな男を演出しながらお手伝いを遠慮しようとした。しかし彼女はキョトンとした顔をして直後ハッと思い至ったように表情を変えれば『違うんです
違うんです!今度はメイドさんじゃなくて執事さんのんです!!』と必死に勘違いを正そうとしていて)
(/それでは執事喫茶をお手伝いするお話といたしましょう!そして上手い具合にメイド喫茶から話繋げていただいてありがとうございます!今度は二人とも抵抗なく働けると思いますのでぜひ両方執事の方向でいきましょう。お互いを練習台にしたりしつつ楽しめればと思います。提案しといてなんなのですがこちらも執事喫茶に行ったことがなくイメージ先行になるかと思います…その分好き勝手にやりたいことやってしまえば良いかなと。それでは今回もよろしくお願いします!/なにもなければこちら蹴りで大丈夫です)
執事さん?……なるほど、この前のようなことが執事喫茶でも起きているという訳だね。
(彼女がお願いしてきたのは店の手伝いで瞬時にこの店で臨時メイドとして給仕したのを思い出す。もう必要がなければメイドをしないと約束したのは記憶に新しくか断ろうとするがその前に相手が前のめりになって否定する。よっぽど前回の堪えたらしい。そして今回は相手も含まれていることに気付くとハードボイルド探偵を気取ってお断りしようとしているが彼女の目はキョトンとしてから慌てたように訂正を始める。だがその訂正した内容が聞き覚えのないものであれば今度はこちらが首を傾げた。彼女の話によるとこのメイド喫茶の系列店に執事喫茶というものがあってそこの従業員が体調不良になって今日出勤出来なくなったらしい。普段ならばどうにかなるようだが今日は夜に既に何件か予約が入っていて今の人数で回せないから急遽手伝いを探していたとのことだ。事情は分かったが系列店ということは恐らくメイド喫茶と似たような仕事だろう。執事というあまり聞いた事のないワードへの興味と困っているなら助けたいという気持ちはあるが相手はどうだろうかと顔を向け「…どうする?翔太郎」と問いかけ)
執事?……そ、そういうことかよ。ま、ハードボイルドとは違ぇけどことのちゃんからの頼みなら断れねぇな。その依頼、引き受けるぜ
(メイドさんを眺めるだけならまだしも相手が再びメイドになるのは絶対に反対だ、あの時だってギリギリだったのにさらに自分がメイドさんになるなんてもう精神が持ちそうにない。しかし彼女から慌てて補足説明が入れば目を瞬かせる。手伝いは手伝いでも今度は執事喫茶らしい。系列店で人手が足りない噂を聞いていて自分達を見つけた時に手伝いを思いついたらしい。いつものハードボイルド探偵と執事とは少し違うものだが彼女が困っているのなら助けたい。それに執事の格好なら露出も少なく二人揃って出来る点でも前回よりかなりマシだろう。チヤホヤされる相手はあまり見たくないものだが執事喫茶ならその熱量も多少はマシだろう、と願いたい。相手の目配せを受ければ先程決まらなかったハードボイルド気取りのままで依頼を受ける返事をする。それに『ありがとうございます!すごく助かります!!』と勢いよく頭を下げていて変わらない部分に小さく笑みを浮かべていた。彼女は早速連絡を取ってその後こちらに執事喫茶の場所を教えてくれる。店に出るのは夜の営業時間でそれまでにできる限り執事としてのレクチャーをしてくれるそうだ。また頭を下げる彼女に「任せとけ」と返事をすれば「こっからは執事で仕事だな」と相手に声をかけると店の方へと移動して)
執事といえばメイドと同じく主に仕える物だろう?なら、似たようなものだろうか。
(急に舞い込んできた手助けの依頼だが自分では判断がつかずに相手に選択を委ねる。執事ならば問題が無いようで気取った様子で引き受ける返事をすれば彼女は勢い良く頭を下げていて変わらない元気な所に相手と共に笑っていた。彼女が連絡を取ってくれて話が繋がると今日の仕事場である執事喫茶の場所を教えて貰う。話が纏まり「ことのちゃんもお仕事頑張って」と言ってから彼女と別れて店の方に移動を始める。相手の言葉に頷き、まだ見ぬ執事喫茶の仕事に想いを馳せていればそれほど遠くない店の場所にたどり着いた。教えてもらった店名と一致していることを確認して中に入ってみるとお屋敷のような手の込んだ内装でその雰囲気に圧倒される。遠慮がちに辺りを見ていれば直ぐに執事の格好をした人がやってきて『おかえりなさいませ』と綺麗な礼と共に出迎えられる。彼女の名前を出して手伝いに来た旨を伝えると『お待ちしておりました、ではこちらへ』と接客さながらの態度で裏の控え室のようなところに通される。普段とは違う空気感に妙に緊張しながら待っていれば『急に来て頂きありがとうございます。私執事長の宮瀬と申します』と綺麗な身なりの男性がやってきて挨拶をされるとこちらもつい畏まって「鳴.海.探.偵.事.務所のフィリップと左です」と自己紹介のようなものをして)
そこまでは同じだけどメイドさんみたいにお決まりの呪文とかねぇし、ちょっと畏まった喋り方するくらいで普通の喫茶店と変わんねぇんじゃねぇか?
(相手と共に彼女に教えてもらった執事喫茶へと向かう、執事について軽く会話を交わすがこちらもメイド喫茶以上に執事喫茶については知識がない。メイド喫茶と同じく執事が客を出迎えてくれて接客をしてくれて、とそこまでは同じだろうがオムライスに文字を書くだとか美味しくするための呪文だとかの話は聞いたことがない。それを思えばメイド喫茶よりかは遥かに簡単な仕事かもしれないと軽く考えながら店へとたどり着いた。早速執事喫茶特有の出迎えを受けて面食らっている間に裏へと通され挨拶を交わす、相手が執事に習って畏まった言葉を使っているのが妙に面白くて笑みを噛み殺していれば『早速で申し訳ないのですがお二人には執事としての作法を学んでいただきます』と硬い口調で言われればこちらも妙に緊張してきてしまった。まずは基本的な立ち振る舞いから、と席を立つよう促されて立ち上がる。いつもの様に立っているとツカツカと執事長が近づいてきて『まずご主人様の前に立つ時は常に背筋伸ばして足は開きすぎないように揃えます。手は常に前方で組むように』と指導されながら体の姿勢を正されていき必死にそれについていけば「…立ってるだけでなかなか大変だな」と思わず言葉を零していて)
…ちょっとした修行みたいだ。__ じゃあ一回外に出て中に入ってくるよ
(執事の丁寧な態度に倣って挨拶をしていれば隣で相手が笑いを殺しているのが見えた。それをちらりと見るが執事長から作法を教えられることになると意識をそちらに向ける。まずは立ち振る舞いとして普通に立ってみるが普段は意識しない部分を指導されて姿勢が直されるとそれだけでそこそこ筋力を使う。同じことを相手も思ったのか呟きが聞こえてくれば同意するように返事をした。横などからも確認されこれが基本姿勢と言われた上で『ご主人様が御帰宅された際はこの姿勢のまま腰から曲げこの角度をキープ、一秒待ってから顔を上げて女性の方にはお嬢様、男性の方にはお坊ちゃまかご主人様と言ってお出迎えしてください』と見本が見せられる。メイド喫茶はどちらかというと店の内装や可愛い女の子をメインとした店だが執事喫茶はより本格的なロールプレイが求められるようだ。こちらも一度礼をするように言われてやってみせるとその角度や姿勢などを正される。これを仕事中ずっとやるのかと思えば少し焦りのような物を抱くが何度か行って何となくのコツが掴めた所で『では試しにフィリップ様をご主人様役に実践してみましょう』と提案がされる。すぐ隣で一緒に練習はしたが正面から相手の畏まった姿が見てみたいと思えばすぐに頷いて一回控室から出る。それから少し間を置いて、お客様役として中に入ってみて)
え、俺から?……お、おかえりなさいませ、お坊ちゃま
(ここに着く前にちょっと畏まった喫茶店だろうと軽く見ていたがこれは想像以上に大変そうだ。仕草ひとつひとつにスマートさを出すには体の端まで意識を向けなければならない、相手の言う修行という言葉に大いに同意していた。立った状態からお辞儀するのでも油断すれば手先が疎かになったり足の幅が変わってしまったりと細かいところまでチェックがなされ相手と並んで何度も指導が入る。動作ひとつひとつにきっちり区切りを付けるのを意識しながらなんとかお辞儀に慣れたところでお客、つまりはご主人様をお迎えする練習が課される。相手が扉から出る間に扉の近くにいき姿勢を整えると相手が扉をくぐったタイミングで頭を下げる、お辞儀の角度や姿勢は問題なかったが相手をお坊ちゃまだなんて呼び慣れない言い方で呼んで、しかもその言葉が妙に似合うと思ってしまえば思わず頭を下げながら笑ってしまう。なんとか顔を引き締め直して顔をあげるが『頭を下げる時間が長いですね』と執事長にピシャリと言われてしまい笑顔を即座に引っ込めた。その後交互に複数回練習した後ある程度慣れたところで『それでは今度は左様をご主人様にし、フィリップ様はお席へのご案内をお願いします』と次のステップに進んで)
…慣れないというか何か変な感じだ。 こほん、…ではお坊ちゃま、お席にご案内いたします。
(来店した客という体で扉から中に入ると相手がきっちりとした畏まった様子で頭を下げる、そしてお坊ちゃまと慣れない呼び方をされると新鮮なようなむず痒いような気持になって照れ笑いを浮かべる。これはメイド喫茶以上に慣れやなりきる事が大切かもしれない。その後役割を交代して客として出迎えた相手にぎこちない動作をして指摘を受けたりしてそこそこ出迎えに慣れた所で今度は席へのエスコートの練習らしい。気を取り直すように軽く咳払いしてからイメージを固め、相手に声をかける。歩く間も意識的に姿勢を崩さないようにしてから少し前を進み、テーブルの所までやってくると椅子を引いて「こちらへ」と出来るだけスマートさを意識して座るのを促す。そして座った斜め横に立ってみるとそれらしい行為をした達成感に口元はにやけそうになった。『動きは悪くないですので後は執事らしい表情を身につけましょう』とアドバイスは受けたものの少しずつ乗り気な様子を見せ)
ん、おぅ……なんつーか…メイドさんの時は恥を捨てりゃなんとかなったけど、こっちは独自のルールが多いな
(今度は席までのエスコートの練習になりこちらが客の役だ、改めて相手にお坊ちゃまと呼ばれるのはやはり慣れなくて笑わないように表情を硬くすれば変な顔を浮かべてしまう。そのまま席に案内され席を引かれるとぎこちなくその椅子に座る、相手に恭しく扱われるのはやはりむず痒いものでなかなか練習に集中できなかった。だがエスコートする間相手の動きはスマートで無駄がなくかなり執事らしいものになっている、執事長もそれを褒めるが隙を見せないように注意をしていてなかなかに厳しい指導だ。その後も客の傍に立つ時の立ち位置や言葉遣いなどなど順に叩き込まれていく、なんとか執事長に正されながらそれらをこなした後ようやく『少し休憩しましょうか。私は次の準備してきますので少し座っていてください』と紳士的な笑みと共に伝えられる。執事長は一旦部屋を出ていき思わず息を吐きながら席へとついた。ちょっとした手伝いのはずだったが執事として店に出るからにはそれなりのクオリティを求められるらしい、軽く疲労を覚えながら安請け合いしたことを少々後悔しつつ相手の方へ目をやって)
ご主人様に仕える執事とその御屋敷っていう要素を最重視しているのだろうね。 この姿勢をずっと続けるとは流石のプロ意識だ。
(席にエスコートしている間慣れていないのを誤魔化すためか相手はずっと変な顔をしていてそれにニヤけてしまわないように必死だった。執事長の評価を聞きその後も立ち姿や注文を受ける際の言葉遣いなどを細かく叩き込まれていく。一通り基本的な事を教えて貰ったところで執事長が部屋から出て行って二人だけとなる。大した運動のようなことはしていないはずだがずっと綺麗な姿勢を保っていたせいで既に幾らか疲れている。椅子に座って姿勢を崩すとその楽さに小さく息をつきながら肌見に感じた執事喫茶の特徴を口にする。執事がメインなのではなく帰宅したご主人様を出迎える心地の良い空間が売りなのだろう。本物さながらのプロ意識で姿勢をキープする様に素直な感心しているとふと先程の出迎えの様子を思い出して「君が敬語使ってると何だか別人みたいだ」と思ったことを口にして)
あぁ、この世界観を崩すのはご法度って事だろ?執事もなかなか大変だな。…な、事務所でも時々つかってんだろ?お嬢さんが来た時とかに。そういう面なら俺は完璧かもな
(こちらが体を投げ出すようにして椅子に座れば向こうも疲労を感じているのか直ぐ様執事らしい体勢を崩して座る、慣れないことの連続で練習だけでもそこそこの疲労だ。相手の感想には頷きつつこちらも感想を述べる、メイドさんは非日常的な可愛らしさを楽しむところだったが執事喫茶はもっと独特の世界観で逆方向に浮世離れした空間だ。今は普段着だがここから執事服を着ていざ本番を迎えるとなるとなかなかの重労働になるだろう。一息ついていると相手に敬語が珍しいと言われてしまって即座に反論する、依頼人が来た時、特に女性が訪れた時にはハードボイルドな探偵らしく懇切丁寧に出迎えているつもりだ。そういう意味では執事喫茶とやっていることは変わらない。だがいつもと違う様子に違和感を覚えたのはこちらも同じで「ま、執事なんて浮世離れしてんだから普段とは別人みたいにならなきゃいけねぇのかもな」とまた感想を付け加えていた。暫く休憩しているとドアがノックされて再び執事長が戻ってくる。自然と背筋を伸ばして立ち上がると『それではいよいよ外見を整えていきましょうか』と執事の服を手渡される、所謂燕尾服と呼ばれるそれを広げると思わず「おぉ…」と声がもれて)
君が敬語を使う時はなんというかデレデレした時が多いだろう。…ああ、本当に執事になったつもりでやるべきだろうね。 …これが執事の服!
(敬語が珍しいといえば即座に反論される。確かに使っている場面は見た事が多いが年上の依頼人や初対面の人への聞き込みでもなければ専ら気取ってかっこつけようとした時くらいだ。そういう意味でもこういった敬語は珍しいだろう。きっとその事もまだイマイチぎこちなさが出る要因で普段とは別人になったつもりが良さそうだと相手の言葉に頷いた。そうして軽い会話を続けているとノックの後に執事長がやってくる。相手に続いて立ち上がると今回着る服の一式が渡されて興味深くその質感や形状を確認する。『僭越ながら先程の練習の光景から二人に似合う物をご準備させて頂きました』という言葉通り基本的な所は一緒だが相手の物とはネクタイやデザインが違う所かあってそれぞれ個性が出ているようだ。『着替えた方からこちらで髪のセットをさせていただきます』と言われると早速着替え始める。普段の服に比べてフォーマルな格好で相手のスーツともまた違うかちっとした印象の服だ。首元には黒いクロスタイにエメラルド色の飾りが付いている。グレーのベストを着てジャケットを羽織った所である程度着替え終わると先に支度を済ませようと執事長に向かう。髪をセットして貰っている間、相手ももう一人の執事がやってきて準備して貰うようだ。髪を留めていたクリップが外されて一旦全て下ろすと丁寧に前髪が分けられ、コテなどを使ってこの場所に相応しい身なりへと整えられる。ばっちり執事の格好にして貰うと相手の方を振り返って「そっちはどうだい?」とその姿を確認しようとして)
な、……お、なかなか似合ってんじゃねぇか。新人執事っぽいが清潔感あって出来る奴って感じだ
(敬語を使っているのはデレデレしている時とまたなんとも不本意なことを言われ反論しようとするが思い当たる節がなくはなくて言葉に詰まってしまう、そうこうしているうちに執事長が戻ってきて着替えの時間となってしまった。見慣れない服装なうえコンセプトがしっかりしている店のためか服の素材も相応に良いもので感心してしまう。相手といえば相変わらず珍しい服に興味津々のようで熱心に手渡された服を観察していた。地.球.の.本.棚に突入しないことを願っていたがその前に着替えに意識は移っていったらしくこちらも続いて服へ袖を通していく。ワイシャツを着るまでは同じだが深紫のベストを着て首にはアメジストを思わせるブローチがついたループタイを付けた。ジャケットはよくある燕尾服のようで後ろの裾が別れているタイプのようだ。相手に続いてもう一人の執事に髪のセットを頼むと基本的な形は崩さず少し重めに髪をまとめるようにしてもらいよりきっちりとした印象になった。一通り準備が終わると相手から声がかかり体を向ける、いつもは流れるような髪型を崩して前で分けるスタイルにしてもらい格好もフォーマルになればなかなか様になっている、少々幼さが残るアンバランス感も女性に受けそうだ。胸のクロスタイに光るエメラルド色を見つければ「ちゃんとお前の色も入ってるし、執事長さんのセンスもいいな」と口角をあげて)
なら良かった。翔太郎も普段と少し雰囲気が変わって執事らしくカッコよくなったね。…本当だ。思わぬ所でまたお揃いのようだ。
(振り返ると燕尾服を着込んで大まかな方向性は変わらないもののより上品かつ清潔感のある仕上がりになった相手が居て思わず上から下まで観察してしまう。普段から相手の言うハードボイルド探偵としてきっちりとした格好をしているが重たく纏まったヘアスタイルも相まって洗礼された大人の印象が強くなった。こちらの格好も似合っていると言われると安堵したように表情を緩め、素直な感想を口にする。何度か普段とは違う着る機会もあったがその度に受ける印象は変わって新鮮だ。相手の視線が胸元に向かいクロスタイの飾りのことに触れると相手の胸元にもアメジストのブローチが付いていることに気づいてそれぞれに結びついた色を纏っていることにクスクスと笑う。恰好から執事の物になったところで『二人ともよくお似合いです。では少し早いですが慣れる為にも早速働いて頂きましょう』と執事長から指示を受ける。本番となれば少し緊張するがせっかくやるならばこの機会を楽しむべきだろう。『既に何人かのお嬢様が御帰宅されていますので常に気を配り、ベルで呼ばれたら要件を伺ってください』と初めの仕事を任されると「じゃあ行きましょうか、左様」と楽しげに普段と違う呼び方をしながら控室を後にして)
これだけでも頼もしいもんだな。…えぇ。仕事の時間ですね、フィリップ様
(かつてパーティーに潜入した時にもフォーマルな装いをしたものだが執事となればより一層現実から外れた格好で浮き足立ってしまいそうだ。しかし互いの胸元にはお互いの色が添えられている、執事長が自分達の服装から選んでくれた色合いだろう。ワンポイントいつもの色があるだけでも何処か心強くて落ち着かない装いの中でも地に足をつけてくれる気がした。いつもの色を互いに携えた姿に相手は笑みを浮かべるがそれだけは見慣れたもので服装とのギャップに胸が跳ねてしまった。ここで動揺していてはまた執事長から言葉の鞭が飛んでくる、なんとかいつも通りの表情を取り戻せば早速表に出るように言われた。本番のディナータイムまではもう少しあるがある程度慣れておく必要もあるだろう。相手にいつもとは違う執事らしい言葉で話しかけられるとやはり笑ってしまいそうになるのだが咳払いをしてこちらもそれらしい返事をした。控え室を出て廊下を出ていよいよ客もといお嬢様がいる場所へ入ろうとした矢先、先程こちらの髪をセットしてくれた執事がやってきて『ここならちょうど良いですね。先にブロマイド用の写真を撮っても?』と声を掛けられる。状況が読めず「ブロマイド用?」と聞き返せば執事はカメラをセッティングしながら『今日は月に一度のイベント日でして、ディナータイムにご主人様が気に入った執事のブロマイドをご購入いただけるんです』と解説がなされた。ツーショットの写真撮影もあるらしいが月に一度新規で撮影されたブロマイドを購入できる日が設定されているらしく執事曰く『それはもうお嬢様方が大熱狂で…それゆえいろいろあるのですが』と言葉を濁しながらカメラをセッティングし終えると『まずはフィリップ様から。40ポーズほどいただきます』とさらりと言われあまりの多さに「そんなに撮んのかよ!」と思わずいつもの調子で叫んでしまい)
だから今日は人手が無いといけなかった訳か。え、僕たちは臨時だしそこまで撮らなくても…
(こちらが普段とは違う執事らしい口調で話しかければ軽く咳払いしてから同じように返される。先ほどはむず痒くて仕方なかったが今はそれに見合う服装をしたこともあって心が弾むと自然と笑みが浮かんだ。そのまま仕事にとりかかろうとすると相手の髪をセットしていた執事に声を掛けられる。今日は月に一度の大事なイベントの日のようでその為のブロマイドが必要らしい。恐らくメイド喫茶でいうチェキに近い物であり、大事な収入源だと察しがつけば今日という日時にこだわって人手が必要だった理由も頷ける。何やら言葉を濁す様子が少し気になるものの今日の依頼に付随するものなら引き受けるべきだろう。だがさらりと40ポーズ、つまり40枚の写真を撮ると言われると叫ぶ相手と反対に固まって困惑の声を洩らす。話を聞く限り日頃からこの執事喫茶を訪れている常連客用のイベントであり、今日だけの執事である自分達にそこまで必要ではないと意見しようとするが『いえ、寧ろ今日だけの幻の執事だからこそお嬢様方に沢山売れ…こほん、希少性を感じて頂き購入して頂けるのです』と妙に熱のこもった口調で説明がされる。それでも何とか説得をしてその半分の20ポーズにして貰うと早速撮影がされる。基本の立ち姿から紅茶のポットを持った姿、軽い笑みからクロスタイを直すような仕草など良くわからないようなポーズまで撮影されていけば『とてもいい感じです。では次は左様の撮影に致しましょう』と促され「交代だ」と相手と立ち位置を入れ替わって)
夜に予約集中してたのもそのせいか。……いい練習になるかもな、これ
(ことのちゃんが何処まで執事喫茶の事情を知っていたのか分からないが常連客が喜ぶようなイベントデーに二人も人員が必要なほど執事がいないのはさすがにまずかっただろう、店長の焦りようをことのちゃんも見ていたのかもしれない。重要な日に執事をすることが発覚しますます責任が増していくがそこに写真40枚が課されると流石に叫んでしまった。写真を撮るだけとはいえ40ポーズとなるとお嬢様方の所へ行く前に疲労困憊になってしまいそうだ。なんとか相手と説得して半分の量にしてもらい相手から撮影が始まる。次々ポーズ指定をされ相手の写真が撮られていく、最初こそ固さはあったもののだんだん慣れて来たのか相手の所作もそれっぽくなって様になってきた。最後の一枚もなかなか絵になる佇まいで執事に入り込んでいる、あまり乗り気ではなかったが先に写真でそれらしい格好をすることでより執事という役に入り込めるかもしれない。なんせこの店では世界観を守ることが何よりも大事なのだから。相手に声を掛けられると「おぅ…じゃなくて、はい」といつもの口調を正しながら位置を交代する。二人が会話する間もシャッターが切られていた気がしたがそれは置いておきブロマイドを撮り始める。立ち姿から始まり跪いて手を取る仕草をしたりカトラリーを机に置いたりと店での振る舞いの一部を切り抜いたものが多くなかなかいい練習になった。一通りの撮影が終われば『ありがとうございます。それではホールの方をお願いします。ご主人様方がお待ちですので』とカメラを携えた執事は去っていって「いい準備運動でしたね」と口調は執事のものながら顔はニヒルな笑みを浮かべるとご主人様の待つホールへの扉を開いて)
それでは左様、一緒に行きましょうか。
(20枚という今まで撮ったことの無い枚数の写真を撮り終える頃には執事らしさというのが何となく分かってきた。今撮った仕草をするような人物を意識して動けば良いのだろう。相手に声をかけるといつもの口調を正しながら位置を交代する。少し離れた所から撮影の様子を観察していたがすっかり執事に成りきって居るのか随分と様になっている。一歩下がって仕えるような普段あまり見ない姿を熱心に見ていると様子を見に来た執事長が近くにやってくる。あの写真が今日来たご主人様達に販売されると思うといても立ってもいられず相手が撮影に集中している間執事長に「今日の報酬の一部として今撮ったブロマイドを貰っても良いかい」と交渉する。執事長から紳士的な笑みと共に了承の返事を貰うとますますやる気が湧くのを感じながら相手の撮影が終わるのを待った。撮影をしていた執事が去っていき相手に丁寧な口調で声をかけられると小さく笑いながら頷き、弾んだ声を返すと相手と横に並んでホールへの扉をくぐった。ホールの方もお屋敷のような内装で家具の一つ一つも気品のあるチョイスで統一感のあるインテリアで纏められているようだ。ホールに入った途端何人かのお嬢様からの視線を感じる。その内の一人がベルを鳴らしたのを聞けば早速そちらに向かう、食事を終えた皿があるのに気付くと「こちらお下げしても宜しいですか」と教えて貰った言い方で声を掛けて執事としての仕事をこなして)
__えぇ。今日だけのお手伝いですが、誠心誠意お仕えさせていただきます
(こちらがブロマイド用の撮影をしている間相手は少し離れたところで執事長と何かを話している、内容は分からないが清潔感があり統一感のある装いの二人が並んで立ち話しているのはかなり絵になっていて相手が自分ではない誰かと良い収まりになっているのに少々胸がザワついた。そんな僅かに嫉妬を滲ませた瞬間の顔もこっそり撮られていることには気が付かず無事に撮影を終えれば執事らしい口調で気合いを入れ直してから相手と共にホールへと出た。控え室や廊下もなかなかに浮世離れしていたがホールはお屋敷の様相をしていてさらに別世界のようだ。圧倒されそうになるのをなんとかすました顔でやり過ごしていると相手が早速ご主人様に呼ばれてテーブルの方へと移動する。それを目線で追っていると隣のテーブルの女性のカップが空になっているのに気が付いた。紅茶やコーヒーはポットでサーブされてカップへ注ぐのは執事の役目、テーブルへ近づき「失礼します」と声をかけてから紅茶をカップへと注ぐ。見慣れない執事二人にホールは明らかに色めきだっていて紅茶を注いでいたお嬢様に『新しく屋敷にきた執事さんですよね?』と声を掛けられる。相手の方をちらりと見てから言葉遣いは事務所と同じように、しかしハードボイルドではなく先程教えられた通り執事らしい口調で答えれば『やっぱり!』と興奮気味の返事がされた。事務所ではこういう丁寧な口調をハードボイルド探偵らしく話すと大体変な顔をされるのだが今はその雰囲気はない、一体何が違うのかと少々腑に落ちないままポットを元に戻すと『ということは夜は二人のブロマイド買えるってこと?』と早速先程の写真が出てきて「えぇ」と答えればさらに周囲は色めきだって異常な反応に思わずまた相手の方を見てしまい)
ご挨拶が遅れました、わたくしフィリップと申します。こういった場は不慣れなのですが何なりとお申し付けください。
(今までは学ぶことや下準備が多かったがこれからが依頼のメインであり、重要な接客の機会だ。全てに気を配るようにと執事長に言われたことを守ろうと空いた皿を下げに行く。相手もその隣のテーブルについたことを何となく横目で見ながらそのまま裏に持って下がろうとするが『お名前聞かせて貰って良いですか』とお嬢様に問われまだ自己紹介してなかったことに気付く。最初の方に教えて貰った通りに胸に手をやってから一礼して自らの名を名乗る。接客ならば多少愛想も必要だろうと意識して微笑むようにすれば何となく他の席から視線が、正確に言うと新人と相手に注がれているような気がする。その間相手の方でも会話が進み、先程のブロマイドの件に相手が返答をすると周囲が色めきだつような妙な反応が起こる。無意識に相手の方を見れば目が合うもその要因が分からなくて僅かに首を傾げる。いつもならば直ぐにどういう事か尋ねるのだがご主人様へこちらから過度な声がけはNGらしくブロマイドについて執事の方から聞くのもあまり良くないだろう。名前を名乗ったお嬢様からも『フィリップさん、良い名前ですね。後からブロマイドの方も沢山購入させて貰います!』と妙に気合いの入ったように言われるがイマイチ状況が飲み込めないまま「あ、ありがとうございます…?」と返すしかなかった。執事の誰かに聞こうとも思ったが皿を裏に返しにいくと直ぐにベルが鳴らされてそんな暇もないまままた別のお嬢様の元に向かう。次に頼む紅茶の相談を受け、以前検索した知識から茶葉の特徴や味の雰囲気を説明する。自分達がここに来た時よりもオーダーの頻度が上がっているのを感じながら執事の仕事をこなしていき)
お、…私は左.翔,太.郎と申します。以後お見知りおきを、お嬢様
(相手の隣のテーブルで接客していると相手が自己紹介をしているのが見えてついつい意識が持っていかれそうになる、無邪気に輝く笑顔を見る機会が多い分敢えて控えめに微笑む姿はあまり見られるものではない。執事としてある意味で作っている笑顔なのは分かっているのだがどうにも落ち着かない、執事喫茶ならメイドよりはマシだろうと思っていたが結局相手が他人に取られたような気になるのは同じだったようだ。そんな状態で『あなたの名前も教えてくれる?』とお嬢様から問われて咄嗟にいつもの一人称が出てしまいそうになる、それをなんとか飲み込んで相手に習って微笑みと共に自己紹介した。たどたどしい態度にお嬢様はクスクスと笑いながら『左ね。貴方達がいるならこのままディナータイムも入っちゃおうかな』と上機嫌に返事がされる、ディナータイムに入るのはブロマイドのためだろう。想像以上に今日という日は特別でブロマイドは重要な位置付けにあるものらしい。謎が解けないまま暫く接客を続けていればランチタイムが終わる時間になったようで一旦お嬢様方は退店、もといお出かけしていった。「いってらっしゃいませ」とお見送りの言葉と共に最後のお嬢様が出ていく、相手と先程写真を撮ってもらった執事との三人になり「そろそろブロマイドがなんなのか教えてくれねぇか?」と先程濁された言葉の続きを執事へと聞いてみる。彼は少々迷ったようだったが『実は…ブロマイドが購入出来る特別な日を設けた結果ご主人様には大変ご好評いただいているのですが、少々熱が上がりすぎてブロマイドの売上競走が起こっているのです。特にランキングなど設けていないのですがご主人様の間で【自分の推し執事のブロマイド売上を一番にしたい】という心理が起きておりまして…お気に入りの執事が好きなご主人様同士で徒党を組んでいるような状態です。さらに厄介なのが、その…執事同士でもその争いを重視する流れになっておりまして、ブロマイドの売上が高い者が偉いのだと、なんともお恥ずかしい空気が生まれているのです』と説明がされた。ここまでの店内の雰囲気でいえば優雅で浮世離れした異世界だったが今日この日のディナータイムだけは熾烈な空気になるらしい、とんでもない日に執事になったことを今更思い知れれば「マジかよ…」と絶句するしかなくて)
…つまり、このイベントの日は執事ごとのブロマイドの売上数でお嬢様同士で争っていて上位になりたい執事がそれを煽っているってことかい?
(こちらが接客する間も当然相手は他のお嬢様に向けて接客をしていて、穏やかに会話をする様子を見るのはあまり面白くない。馴れ馴れしく苗字を呼ばれていることに偽名を使うべきだったかとも遅れて思ったが根本はそこではなくてこの依頼が終わるまで我慢が続きそうだ。その後も何人かのお嬢様に挨拶をして紅茶を運んだり軽い会話をしたりしていればランチタイムが終わる時間になって最後のお嬢様を執事達で並んで見送る。一旦店を閉めた形になった所で相手がブロマイドの話を切り出せば執事は少々悩みながらもその仕組みを説明し出す。その中身はなんとも厄介そうな物でブロマイドの数で人気投票のようなものが行われているらしい。認識を確認するように問いかけると『ええ、よりブロマイドを多く買ってくれたお嬢様に過剰なサービスをして更に買って貰おうとする者も居ますし、お嬢様の方も熱が上がって大量購入なさったり見返りを求める方が居たりするのです…』と今まであったことを語られる。ブロマイドの売上の一部は執事本人に返ってくる事を考えれば分からなくもない傾向ではあるがこの落ち着く店のコンセントからは少し外れているようにも思える。そして自分と相手にそれぞれブロマイドを買う意志を示したお嬢様の存在を思い出して「もしかしてさっき撮ったブロマイドで僕達もその争いに参加することになるんじゃ…」と呟けば『執事長も比較的この流れには賛成の立場なので機体を寄せられている左様とフィリップ様も対象です』とキッパリ言われ思わず相手と顔を合わせて)
なんだそれ、ホストに片足突っ込んでんじゃねぇか!……な、おい待て!さすがにそんなこと聞いてねぇぞ。俺は出るからせめてこいつは外してくれ
(ブロマイドを取り巻く状況は今日ここに来た自分達が聞いた限りでも異様な状態だ、最初はなんてことの無いサービスだったはずが徐々にエスカレートしてしまった結果かもしれない。だがこの優雅な空間の中で目に見える形の売上競争が起こっているとは、相手が確認を取るように問いかける内容も肯定されてしまい執事喫茶からかけ離れたイベントに思わずツッこむように叫んでしまう。さらに執事から既にブロマイドを掛けた行為が双方過剰になっていることを聞き二人共が対象だと聞けば相手と顔を合わせる、執事喫茶として想像を超えている上相手も対象となれば聞き捨てならず思わず口を挟んだ。自分だけならまだしもこのまま相手までディナータイムに出ることになればその過剰なサービス合戦に確実に巻き込まれることになる。相手を男女の欲望が渦巻く場に入れたくない。あの執事長はこの件に賛成しているならばあえてこの事実を隠していた可能性が高い。バツの悪そうな顔を浮かべた彼が『私も執事喫茶とは高貴で優雅な空間であるべきだと思いますのでこの流れには反対なのですが…』と言いかけたところで『それはお前がブロマイドの売上を上げられないからだろう?』と背後から声が聞こえてきて思わず振り返る。そこにはひとりの執事が背後に二人ほど別の執事を従え立っていてこちらを見て鼻で笑っていた。見た目は高貴で品があるが明らかにプライドが高そうだ、彼が諸悪の根源だろう。こちらへ近づいてきた彼は執事らしく優雅にお辞儀をし『初めまして荒木と申します。今日はせいぜい私の引き立て役として頑張ってください、臨時雇いくん』と明らかにこちらを見下す挨拶をされると「あ?」と思わず怒りを滲ませた声を出してしまい)
翔太郎! …それで執事内でも派閥が出来てしまっているのか
(高貴な見た目からは想像も出来ないイベントの内容に圧倒され、自分達もその対象だと言われると顔を見合わせる。その熾烈とも思える争いから自分だけ外すように求める相手に腕を軽く引き自分は大丈夫だと伝えようとするがその前に背後から第三者の声が挟まる。振り返れば高貴な見た目の執事とその後ろに付き人のような執事が二人立っていてディナータイムからの出勤なのだろう。こちらに近付いてきてお辞儀をする姿は完璧な執事の装いだが告げられた言葉は明らかにこちらを見下したような内容かつ馬鹿にしたような声色でとても執事らしいものとは思えない。隣で怒りを滲ませた声が聞こえれば相手を抑えようとするが荒木と名乗った執事は『そんな直ぐに感情を表に出すようならばますます私の相手では無いですね。今日は夏目も不在なら余裕でしょう』と言ってから去っていく。後ろに着いた執事も一礼こそするものの一瞬睨みつけるような態度をした後荒木に着いていく。その様子を見届けると彼が小声で『あの方が前回の一位の荒木様でその後ろに居る方達も荒木様のグループの一員です。普段は中立かつ穏便派で二位の夏目様やその他の方も居るのですが今日はお休みなので…』とこの執事喫茶の現状を明かす。執事の方でもより多くのブロマイドを買ってもらう為に派閥よようなものがあるのなら荒木は対抗馬が居ないのもあってますます調子づいているのだろう。先程は抑えに回ったが相手も含め眼中に無いという態度は気に入らない。顎に手をやり少し悩んでから良い考えが浮かぶと悪そうな笑みを浮かべて「翔太郎、臨時執事の立場の僕達が健全な方法でブロマイドの売上一位を取ればあの鼻を明かせると思わないかい?」と提案して)
……いい考えだぜ相棒。あいつにあのまま言われっぱなしは気に食わねぇし、まだちょっとしかホールに立ってねぇがあの雰囲気を壊すのが正しいとは思えねぇ。あいつを止めるためにも俺達で一位を取ってやろうぜ、フィリップ
(明らかに馬鹿にした言い方にこちらが怒りを顕にするとさらにこちらを煽る言葉を嘲笑と共に投げられてしまいますます青筋が立ちそうになる。だが言い返せばさらに向こうの思う壷で荒木達はこちらを馬鹿にし牽制しながらその場を去ってしまう。怒りが収まらないでいると彼はさらに現状を教えてくれる、本来抑止力になるはずの人員が今日は軒並み休んでいるのだという。そうとなれば荒木達はブロマイドを買わせるためにあらゆる手を使うだろう、ディナータイムにはアルコールが出るのを考えればますますサービスは過剰になっていくはずだ。売上が高いからと好き勝手に振る舞う様に未だイラついていると相手から荒木の鼻を明かす作戦が提案されて、一瞬固まったあとにニヤリと自信を滲ませた笑みを浮かべる。売上を振りかざしてふんぞり返っているならその座を奪ってやればいい、しかも荒木達がやっている過剰なサービスではなく正真正銘執事としてだ。執事として働くならば今回の依頼の範囲内、相手が変なことに巻き込まれることもないだろう。今のイベントデーは聞きかじっただけでも明らかにこの執事喫茶の雰囲気にあっておらず将来的に店のためにもならないはずだ、それが分かっているから彼もこのイベントに難色を示していたのだ。二人の会話を聞いて彼は驚きの表情を浮かべ『そんなの無理ですよ!』と止めにかかろうとするが直ぐに勢いが弱まる、そして『一位になるのはかなり難しいと思いますが…でも私は店が前の雰囲気に戻るならお二人に勝ってもらいたい。だから、私からもお願いします』と頭を下げられてしまった。これは追加依頼と捉えて良さそうだ、「任せとけ、俺達で真正面から売上一位を取ってやるよ…じゃなくて取ってみせましょう」と最後は執事らしさを取り戻しつつ返事をし)
ああ、ちゃんと売上を出すなら執事長からも文句は言われないはずだ。二人で40枚なら条件も揃っている、執事としても僕達のコンビが出来ることを見せつけましょうか、左様。
(この状況を引っくり返し鼻を明かす作戦を提案すれば相手もニヤリと笑って話に乗ってくる。あんなこちらをコケにするような宣戦布告を受けて黙っては居られない。荒木を妨害するのではなくイベントのルールに則って勝負するなら文句も言われないはずだ。それに丁度ブロマイドも半分ずつ撮って二人合わせて他の執事と同じだけの種類がある、荒木達に既に固定客がいることを考えれば二人で一人はちょうど良いハンデだろう。そうやって話を進めていれば彼が言葉を挟む、最初は止めようとしていたが今のイベントの姿勢に思うところがあるようで視線を迷わせてからこちらを向くと頭を下げて一位になることをお願いされて相手と一緒に得意げに笑う。今までも何度かこの街で一位をかっさらったのだ、相手とならば執事としても実力を見せられるだろう。相手に倣ってそれらしい口調で同意を示すと『私も微妙ながら協力します』と彼が申し出てくれて頼もしい仲間も出来た。改めて彼に今回のイベントの説明を受ける。基本的な接客の内容は先程のランチと変わらないがディナータイムでは薔薇の花が使われるそうだ。来店時に一本貰い、そしてイベント時限定の料理や紅茶を頼むと更に一輪、またバラの花単体の購入も出来るらしい。その薔薇の花を推しの執事に渡し、その御礼という形で執事は自分のブロマイドを返すシステムらしい。つまりご主人様から沢山薔薇の花を貰えた人物が売上上位であり、イベントの最後にはその薔薇の花束が執事に送られる為推しに豪華な物を送りたいと考えるご主人様が後を絶たないとのことだ。「既に荒木達を好きなご主人様達はそこに薔薇を送るだろうからどちらかというと新規や悩んでいる人にアプローチした方が良さそうだ」と作戦を提示してみて)
そうだな。今日休んでる中立派の夏目って執事が二位までつけてんならご主人様の中でもこの現状を良しとする人とあまり乗り気じゃねぇ人で別れてるはずだ。俺達は夏目派のご主人様を取り込みつつ新規層の薔薇まで貰えれば勝ちが見えて来るはずだ
(向こうはベテランのナンバーワン執事、対してこちらは今日執事になったばかりの新人でブロマイドの数も半分ずつの『臨時雇い』だ。ひとりでは到底敵わない相手だが二人で一人で挑むのならば話は別、二人ならば単純な二人分よりも更に力を発揮できるのが自分達なのだから。新たな依頼も追加されイベントデーの詳細な内容が伝えられる、薔薇の代わりに渡すブロマイドは渡された時点では中身が分からないランダム式になっておりそれが購買意欲を更に掻き立てているらしい。営業の最後にお気に入りの執事が大量の薔薇の花束を抱えている姿はさぞお嬢様方には誇らしいものだろう。相手の作戦に頷いてさらに情報を整理していく、執事に派閥が出来ているのと同じように推す執事によって同じくご主人様内にも派閥が出来ているはずだ。今日は穏健中立派が軒並み休んでいると言うのなら普段彼らに薔薇を渡す層を取り込めるかもしれない。とはいえナンバーツーの夏目という人物に肉薄するほど良い接客をしなければ薔薇は貰えないだろう。これはますます気の抜けない時間を過ごすことになりそうだ。そうやって作戦を立てながらホールの片付けなどを終えいよいよご主人様をお迎えする時間となる。入口にズラリと今日出勤の執事が並べば当然荒木もそこに並ぶわけで相変わらずこちらを嘲笑いながら見下した視線を向けてくる。鬱陶しい目に思わず睨んでしまうと『相変わらず喧嘩っ早いですねぇ、さすが臨時雇いくん。二人が束になっても私の足元に及びそうにない仕上がりです』とまた調子づいた言葉を投げてくる。ますます眉間の皺を深くさせながら「笑ってられんのも今のうちだぞ」と威嚇するように言えば、一瞬の間があったあと荒木と取り巻き達が高らかに笑い出す。不快な笑い声をあげながら『私に勝つつもりなんですか?そのギャグ面白くもなんともありませんよ?』とさらに煽られ思わず「なんだと…!」と体が動きそうになって)
翔太郎、押さえて。だけど君たちよりもご主人様達の心を掴むつもりなのは確かだ。なので今夜はくれぐれも宜しくお願いします、荒木様。
(今回の方向性は決まったもののそれを実現させるのは容易ではない。この現状を良しとしない人達や単純に執事を求めている人にいかに刺さる接客が出来るかどうかが鍵になりそうだ。そうして作戦や彼のアドバイスを受けるなどをしながら片付けをしていよいよディナータイムが近付いてくる。初めに入ってくるご主人様はどうやら予約客が大半らしく全員で出迎えるのが習わしのようだ。それに倣って入口に並んでいると荒木が相変わらず見下した目で見てきて更に調子づいた言葉をかけてくる。相手か好戦的な言葉を投げかけると取り巻き達と共に馬鹿にしたように笑い出してますます偉そうな態度を取る。それに腹を立てた相手が一歩踏み出そうとするのを隣で止めて落ち着かせるように声をかける。だが煽られて火がつくのはこちらも同じで彼よりもご主人様達の薔薇を貰うと宣戦布告すれぱわざと執事らしく丁寧な口調で煽る言葉を送る。『ふん、そんな大口を叩いて負け犬になって恥ずかしい思いをしなければ良いですね』と言い放って顔を背けるのを見ればますます勝たなくてはと気合いが入る。執事長がやってきて『それではご主人様達をお迎えいたします』との声の後、ディナータイムの始まりを告げるベルが鳴ると初めのお嬢様がやってきて皆で一礼し「おかえりなさいませ、お嬢様」と出迎える。そのお嬢様は執事の顔をざっと見るなり『荒木、今日も来たわよ』と声を掛け、それに笑顔で答えた荒木が席へとエスコートする。やはり最初のご帰宅を狙うような固定客が彼には着いているようだ。続いてのお嬢様も取り巻きに声を掛ける中、その次のお嬢様2人組は慣れていないのかキョロキョロとしているのが見受けられると相手に目配せしてから近付き「お嬢様、お席にご案内いたします」と申し出て中へとエスコートして)
、すまねぇ…___おかえりなさいませお嬢様。お早いご帰宅は私も大歓迎です。どうぞこちらへ
(散々な煽られように思わず体が動いてしまいそうになるが右隣からそれを制されて我に帰る、今から優雅で浮世離れした執事になろうというのに心乱されていては勝負に挑む前に負けてしまう。相手に一言入れながら軽く息を吐いて気持ちを整えた。執事長からご主人様を迎えることが告げられれば「いくぜフィリップ」と気合いを入れるように小声で言う、これでこの口調は暫く封印だ。一番最初に入ってきたご主人様は荒木が目当てらしくいの一番に荒木が動くと彼女の前へと踊り出てエスコートを始める。その時点で既に手を取りテーブルへと案内していて特別な雰囲気を醸し出していた。次々お嬢様が入ってきては応援する執事に声をかけホールへと移動していく、しかし次に入ってきたのは自分達が狙う新規客のようで相手に目で合図をすれば彼女達を任せることにした。次に入ってきたのはランチタイムにみたお嬢様で思わず反応してしまう、それを満足気にみたお嬢様は『約束通り来たわよ、左』と声をかけられにこやかに応対した。幸先の良いスタートに彼女をエスコートして席へと案内すれば椅子を引いてメニューを手渡す。その間に荒木と常連客とは異質な存在感を放っていて、荒木をテーブル横に跪かせたお嬢様は『まずはファーストローズね』と薔薇を荒木に早々に渡していて)
初めての紅茶であればやはり紅茶の香りと色を楽しめるダージリンはいかがでしょうか。雑味もなく普段緑茶を嗜んでいらっしゃるお嬢様のお口にも合うはずです。
(相手に目配せしてから二人組のお嬢様を席に案内してそれぞれ椅子を引いて座ったのを見てからメニューを手渡す。この場の雰囲気に圧倒されている二人を見ながらちらりと相手の方を向けばランチタイムに見たお嬢様の姿があってにこやかに対応する様子に少し胸がざわつく。だが荒木に勝つ為にはヤキモチを焼いている場合ではない。視線を戻せば『こういった場所も紅茶も初めてで…おすすめとかありますか?』と問われ、彼女達の飲み物の好みを質問してから絞るとメニューの中からおすすめの茶葉のページを開いて説明する。短い間にメニューの中身を覚えて良かったと密かに安心していると荒木の案内したお嬢様の所ではテーブル横に跪いた彼に早速薔薇を手渡している。一応名目としてはご主人様の奉仕への感謝の気持ちとしてご帰宅の前に渡す物らしいが彼らにとってはチップのようなものなのだろう。ナンバーワンを推すお嬢様の姿を横目に見ながらも『じゃあおすすめして貰ったこれにします』とお嬢様にオーダーを頂けると「ありがとうございます、それではお嬢様に相応しい紅茶をいれて参ります」と穏やかな笑みを意識して浮かべ、一礼してから一旦裏にオーダーを伝えに行く。再びホールに戻った所で荒木達のいるテーブルの前を通ると『あら、新しい執事?』とあのお嬢様に声を掛けられる。どうするか迷ったものの執事ならばどのご主人様にも同じ対応だろうと「ええ、本日だけではありますが新人のフィリップと申します」と自己紹介してから一礼すれば『へぇ…、確かに良い顔してるわね』と何処か値踏みするような視線を向けられ)
同じ、…香り高くてミルクと……あ、アッサムのミルクティーですね!
(ランチタイムのお嬢様と会話を交わしながらちらりと相手の方をみれば初めてのお嬢様二人にうまい具合に紅茶を進めている、順調そうだがあまり見慣れない相手の姿や言葉がこちらに向けられていないのはなんとも胸がモヤモヤする。心ここに在らずなのが見抜かれたのかお嬢様からは『お昼と同じのがいいわ』と言われて固まってしまった。必死に記憶を巡りカップから漂った香りとホールに出る前に詰め込んだ知識をなんとか引っ張り出して正解へとたどり着いたが、思い出せたのが嬉しくてつい顔を明るくさせながら返事をしてしまった。直後執事らしくないことをしたのに気がついて咳払いをするも『及第点ね』と笑いながら言われてしまい返す言葉もない。笑みを作って誤魔化しつつ裏にオーダーを伝えに行こうとしたがその前に相手が荒木贔屓のお嬢様に呼び止められているのが見えた。彼女の値踏みするような目線に表情を崩さないように必死になっていると彼女は荒木に『一日なんて言わずずっと雇ったらいいんじゃない?』と話を振る。水面下でやり合っていることを気づかれないよう荒木は軽く笑うと『何をおっしゃいます、景子様には私がいるでしょう?』と片方の手を取り、もう片方の手を彼女の頬へと添えた。うっとりと彼女はそれを見つめていたがあれは明らかに主人と執事の距離では無い。あれが常態しているのかと横目で見つつ裏に注文を伝えていれば彼女は『でもあなたも私に仕えてくれるんでしょう?』と片手を相手へと差し出す。それは同じことをしろという意味で様子が気になるどころではなくなると思わず勢いよく相手の方を見てしまって)
…ええ、お嬢様の望みであれば精一杯お仕えさせて頂きます。 ですが私などがお嬢様の美しいお顔に触れるなど畏れ多いですから。
(他のテーブルのお嬢様方にも顔を見せに行こうかと思った矢先荒木推しと思われるお嬢様に呼び止められ、足を止めて会話をする。新人だと名乗れば彼女は話を振るが荒木をほんの一瞬こちらに鋭い視線を送るだけで軽く笑みを浮かべると慣れた仕草で彼女の頬に手を添える。主と従者の距離感よりも恋人に近いスキンシップにこれが過剰なサービスかと彼の説明を思い出す。まるで見せつけるような行為のインパクトに固まっていると満足そうな彼女はこちらを向いて手を差し出してくる。これに従えば同じく薔薇が一輪貰えるのかもしれないが自分達が行いたい接客はこれではない。視界の端で相手がこちらを見ているのに気付くと静かに微笑みを浮かべてお仕えしていることには肯定を示す。一方伸ばされた手は軽く包み込むように握ってから荒木のように安易に触れることは出来ないと遠回しに優しく告げる。そのままそっと手を引っ込めるよう促すように手を離すと同じことをしてくれると思い込んでいたのか呆然とするお嬢様に「何かありましたらまたお声がけください」と一礼してからそのテーブルを離れる。常連客と思わしき人達が若干ざわめいたのを感じながら立ち止まったままの相手の元にやって来ると「お嬢様から紅茶のオーダーですか?」と執事としての雑談を装いながら彼女に返した言葉に少し得意げな顔を浮かべて)
…、…え、おぅ……いい感じだ
(荒木がお嬢様の頬に手を添えるのを見て直後相手にそれを要求しているのが聞こえると焦って執事であることを忘れそちらを見てしまう、あぁいうのをさせたくなかったのに早々に要求されてしまうとは思わなかった。あれくらいの接触は序の口という意味だろう。しかし相手はお嬢様の手を取るだけで実にスマートな言い回しで忠誠だけを誓う、お嬢様の気持ちを不快にさせない言い回しといい手だけは取る誠実さといい紳士的で素直にかっこいい。相手には可愛らしいと感じる機会が多いが珍しい感想を抱いてしまって勝手に動揺してしまう。相手はそのままテーブルを離れるが周囲の客、特に荒木を推すグループのテーブルからざわめきが聞こえる、今ので荒木とは違う派閥だとハッキリと周りに認識された事だろう。相手はこちらへとやってきて得意げな笑みを浮かべるが先程とは違う子供っぽい行為のギャップにやられてしまって心臓が跳ねてしまった。同時に全てが自分のものなっていない事実に思わず目を泳がせてしまう。だがここで嫉妬心が強くなれば相手と歩調が合わなくなってしまう、それでは同じ目的を達成することはできない。なんとか一言だけ絞り出すように言うとちょうど自分の紅茶の用意が出来たようで逃げるようにその場を離れてしまった。トレイにロイヤルミルクティーと紅茶についてくる薔薇を持って先程のお嬢様の元に戻る。動揺をなんとか抑えつつ「お待たせしました」と声をかけてポットからカップへお茶を注ぎお嬢様の目の前へ置いて、ついでご主人様につきひとつ用意されている花瓶に薔薇をさした。すると『あのフィリップくんと左は元からの知り合いなの?』と問われて「えぇ」と答えればお嬢様は面白いものを見つけたと言わんばかりに交互にその顔を確認する。楽しげな表情のままお嬢様は薔薇を一本手に取ると『それで、左はどういうスタンスなわけ?』と問われて先程の再現をするように手が差し出された。つまり自分はどちらの派閥なのかと問われているのだろう。相手に習いその手をすくい上げるように持ってその場に膝を着くと「もちろん、精一杯お仕えさせていただきます」と胸に手を添え相手と同じ言葉を口にした。新人二人共が荒木に反旗を翻しているのが示されるとホールはまたザワついていて)
私には勿体ないほど嬉しいお言葉とお気持ちです、お嬢様
(彼女の要求を上手く躱して自らのスタンスを示すことが出来れば立ち止まったままの相手の元に向かい成果を報告しに行く。だが相手は目を泳がせたかと思えば早々に去ってしまう。僅かに首を傾げるがあまり執事同士の私語は良くないだろうと一旦は気にしないことにして客席に目を向ける。すると荒木達のグループとは反対側のテーブルに座るお嬢様がベルを鳴らしてそちらに向かう。名前を名乗って一礼させて貰ってから軽食のオーダーを聞いているとホール内の気配が変わったこととお嬢様の視線が他所に向いたのを受け自分もそちらに目をやる。そこには昼間のお嬢様が一輪のパラを持ったまま相手に手を差し出している光景で先程の自分と同じものであるにも関わらず焦りが募る。動揺が隠しきれないままその光景を見ていたが相手はその手を取って跪くと自分と同じ言葉を告げてホールがざわめいた。新人がナンバーワンに歯向かう姿に驚いているのだろうが相手が荒木のような事をしなかった事に安堵していると傍にいるお嬢様に『案外表情に出るのね』とくすくす笑いながらご指摘を受けてしまった。誤魔化すように軽く頭を下げると『さっきの行動、とてもスマートでこのお屋敷に相応しい執事だったわ。良い物を見せてくれたお礼よ』と花瓶にさしてある薔薇を差し出される。雰囲気や言動から夏目派か穏便寄りのお嬢様だと察しがつくと笑みが浮かんでその場に跪いて謙遜の言葉を返しながら薔薇を受け取った。まずはこれで一本目だ。そのお礼として懐に入れていたブロマイドを差し出す。お嬢様が受け取って中身を確認すると目を瞬かせる。なにか不満な物か手違いがあったかと立ち上がってその様子を見ていれば『なかなか珍しい物が入っているのね』と楽しそうにその中身を見せられる。そこにはブロマイドの撮影として撮ったものではないその合間の相手と会話するツーショットの写真があって「えっ」と思わず素の反応をしてしまう。視界の端に写真を撮ってくれた彼が微笑むのが見えれば恐らく自分達には内緒で撮られて故意に混ぜられたものだろう。動揺の中楽しげに笑うお嬢様の視線を受ければこほんと咳払いしてから「なにゆえまだ私達は未熟者の新人ですので、本日はあちらの左と二人で一人の執事としてお嬢様方にご給仕させていただきます」とにこやかな笑みと共に相手を紹介しながら自分達のスタンスを表明して)
えぇ、私達は二人でやっと一人分。しかし二人であれば二人以上のことができる、そういう関係です
(跪きながら自分達が荒木とは違うスタンスであることを示せば周りはどよめいて、しかし目の前のお嬢様はさらに楽しげに笑みを深めている。そのままの体勢で『いい忠誠心ね、左』と薔薇が差し出されて礼を言いながら受け取った。お返しとしてブロマイドを手渡すと『二人のために援軍呼んでおくわね』と言い添えられて言葉の意味を聞こうとしたがその前に別のテーブルでベルが鳴るとそのまま行くように言われてしまった。真意を聞けぬまま他のテーブルへとついて注文を受けていると相手がついていたテーブルから何やら楽しげな声が聞こえてちらりと目をやる、そこには自分と相手とのツーショットのブロマイドがあって思わず目を見開いた。撮影の合間に撮られていた分もブロマイドとしてカウントされていたらしい、ワンショットよりも少々気恥ずかしいものになんとか気を取り直してオーダーを受けていると相手がいつも通り二人で一人のキーワードを出していて思わず口角を上げてしまった。相手の話し声とこちらの様子からオーダーを取るお嬢様から『フィリップさんと二人で一人なんですか?』と好奇心のままに問われる。いつもならば真正面から答えるのは恥ずかしいのだが既に執事という仮面を被っているお陰かスムーズに答えることが出来る、それを聞いたお嬢様はさらに興味を持ったようで『さっきからお互い見てたのはそういう意味だったんですね』と指摘されてしまい思わず表情を崩しそうになるのをなんとか抑えた。少し相手をみる頻度を減らした方が良いのかもしれない。その後も少々会話を交わしたあとに注文品をテーブルへと持っていけばまた別の場所でベルが鳴る、そちらへと迎えばどうやら荒木派のテーブルだったようで値踏みするような視線がこちらを撫でた。素知らぬ顔で声をかければ『コーヒー』と一言だけ注文がされる、素っ気ない言い方に表情を崩さないようにしながら裏へオーダーを伝えるとワゴンが用意されミルやフィルターが置かれると「え、」と思わず声がでた。どうやらコーヒーはお嬢様の傍でいれるシステムらしい。一通りのものが用意されて『普通にいれても美味しくなるから大丈夫』と言われてしまうがそもそも普通にいれても全く美味しくできた試しがないのだ。相手に教えてもらいある程度飲めるものにはなったがそれを出す先が荒木派のお嬢様となると下手なものは出すことができない。いつまでも突っ立っているわけにはいかずワゴンを押して先程のテーブルへと戻る、「お待たせしました」と声をかけるが返事は返ってこず空気は重苦しい。この状態でまともにコーヒーを入れれる気がしなくひとまずコーヒーを挽き始めるが内心焦って気が気ではなくなっていて)
…、失礼いたします。私少々コーヒーの腕には自信がありましてお嬢様には最高の物を味わって頂きたい為、お手伝いさせて頂いて宜しいでしょうか。
(二人揃ったブロマイドの説明としていつものフレーズを口にすれば自然と笑みが浮かぶ。ブロマイド数で争っているイベントの中で取り巻きという形でもない協力体制にお嬢様は更に微笑んで『そう、ならば後から左さんとも話してみたいわ』と話してこちらも是非と返事を返した。一礼してから裏に下がり、オーダーを通してからあのお嬢様二人分の紅茶を運ぶ。その紅茶の映えるような真っ白なカップに丁寧にお茶を注ぐと二人から感嘆の声があがる。「まずは紅茶の香りを十分に感じてからそのまま味わってみてください。それからお嬢様のお好みに合わせて砂糖などを少しずつ加えると飲みやすいはずです」と言葉を添えると少々緊張した面持ちで紅茶を飲んだ二人の口元に笑みが浮かんだのが見えればこちらまで嬉しくなった。新しい物を食べた時に見守る相手の気持ちはこんな感じなのかもしれない。そうして見守っているとワゴンを押すような音がして視線を向ける。そこにはコーヒーの一式の道具を乗せたワゴンを押す相手が居て荒木派のお嬢様の元につくと早速準備を始めている。だが相手が声を掛けても殆ど反応はなく心なしか相手の背中が緊張で固まっているように見えると「少々お待ちいただけますか」とこちらのお嬢様方に断ってからそのテーブルに向かう。相手の横に並び一礼してからお嬢様に話しかけるとあくまで執事らしく自分の腕をアピールしながら手伝いを申し出た。こちらをちらりと見て返事がないのを肯定と堪えると「左様、カップなどの準備お任せできますか?」と言葉は執事らしいが普段通り相手に役割分担をお願いする。合わせて豆を挽くのを代わり、用意してもらった道具で事務所で淹れるのと同じように丁寧にコーヒーを抽出していき)
…、……かしこまりました、フィリップ様。それでは私はその他の準備を
(自分が入れるコーヒーは良くて及第点、舌の肥えた人間なら飲むのを拒否されてしまう可能性もある。ましてや今目の前にいるのは荒木派のお嬢様だ、明確な敵意はないだろうが良くは思われていないのは態度からも明らかでコーヒーにクレームを入れられる可能性は十分にある。相手に教わったコーヒーの入れ方を必死に思い出しながら豆をひこうとするとその本人の声が隣から聞こえてきて思わず手を止め右隣をみた。どうやら相手がこちらに代わりコーヒーを入れてくれるらしい、相手のコーヒーならばきっと荒木派であってもお嬢様は満足してもらえるだろう。いつも通りに役割分担がされると緊張していた顔は途端に自信に満ちた顔へと戻って返事をする、相手がいるならばこの局面も乗り越えることができる。相手にミルを渡してその間にカップをセットしワゴン上にある物品を相手が使いやすいよう順に従って配置していく、これも何度も相手がコーヒーをいれる姿を見てきたからこそだ。相手が次の工程に移る度に道具を適切な位置に置き換えコーヒーを抽出する工程になるとお嬢様の方へ近づきテーブル上のものを整え不必要なものを片付けコーヒーを置くスペースを作る。その間一言も言葉を交わすことはなくて阿吽の呼吸で作業を進めていればいつの間にか周囲の目線がこちらへ向いているのに気がつく、どうやら二人で流れるように作業している様子に目を奪われているようだ。自覚してしまえばまた気恥ずかしくなってしまいそうで相手のコーヒーの香りを嗅ぎ集中力を取り戻すと作業を進める。相手がポットからカップにコーヒーをいれ終わるとお嬢様に「砂糖とミルクはいかがいたしますか?」と問う。『砂糖二つ』と相変わらずぶっきらぼうに言われるのも気にせず指定の角砂糖を入れると香りが飛んでしまわないよう優しく混ぜてからソーサーごとお嬢様の前に置き「お待たせいたしました」と一言添えて)
お嬢様のお気に召したようで何よりです。本日は中煎りのジャワコーヒーをご用意しました。香りと苦み、コクがあるのが特徴ですのでお食事だけでなくバターやクリームを使用したケーキなどに合わせるのもオススメな銘柄になっております。あとは…
(相手の右隣に並んで協力と役割分担を申し出ると相手の表情の硬さは解けて見慣れたものに変わる。他のことは全部任せることにして相手が用意してくれた器具をノールックで手に取り作業を進める。抽出に移れば数回に分けお湯を注ぎこの店のこだわりである豆の香りと味を十分に引き出す。満足のいく出来に仕上がると自然と笑みが浮かべながらすぐ目の前に用意してあるカップに丁寧に注ぐ、相手がお嬢様に好みを聞いてその通りに角砂糖が入れるとコーヒーの完成だ。そこで漸く周囲からの関心に気付くがやるべき事はやった。二人で横に姿勢良く並んでお嬢様の反応を待つ。お嬢様は目の前に置かれたコーヒーをじっと見てからカップを持つ、そしてゆっくりと口を付けるとその目が僅かに見開かれたようにも見えた。そして小さな声で『……美味しい』と零れるような呟きが聞こえると思わず相手の方を見て得意げな笑みを見せる。紅茶が主流な執事喫茶でコーヒーを頼むとは相当好きかこだわりがあるのだろう。ならばこのコーヒーがどんな物なのか説明を補足しようとするが話している間に段々と熱が入り、話し方は敬語のままでいつもの様にコーヒーの特徴を捲し立てようとし始めて)
……もちろんケーキのご用意もありますのでなんなりとお申し付けください
(相手と完璧な連携を取りながらコーヒーを入れ終わりお嬢様へと出す、相手と並んで立ち固唾を飲んでお嬢様がコーヒーを飲むのを見守っていた。コーヒーをいれる間に粗相はなかったはず、準備は完璧であとは相手のコーヒーさえあればこの尖った空気さえ取り払えるはずだ。お嬢様はカップに口をつけて目を開くと待望の一言がこぼされて思わず相手の方を見る、ほぼ同時に相手もこちらを見ていて思わず喜びを滲ませた笑顔を浮かべてしまった。すぐに執事らしい姿勢に戻ると相手がコーヒーの解説を始める、お嬢様はコーヒー好きなようで最初こそ熱心に話を聞いていたが相手の話は全く終わりが見えない。口調こそ執事のものだがいつもの暴走特急が走っているようだ、お嬢様が目を瞬かせたのをみれば慌てて相手の脇腹を軽く小突いて無理やり相手の解説を終わらせる。それをみたお嬢様はクスクスと笑い始めて『本当に二人で一人の執事なのね、貴方達』と楽しげに言われてしまう、だが最初の刺々しい雰囲気はなくなったのなら何よりでこちらも軽く笑みを浮かべて「恐縮です」と答えていた。彼女は笑みのまま花瓶へ手を伸ばすとそこにさされている薔薇へと手を伸ばす、しかし見かねた荒木が素早く近づいてくると『失礼しますお嬢様』と彼女へ声をかけた。自分の客の薔薇は自分が手に入れたいのだろう。荒木は彼女の頬へと手を添え身を寄せると『後で特別なカクテルをご用意しますのでどうぞそれは私に』と吐息がかかる距離まで近づき耳元で囁く、どうやら薔薇を横取りしようという魂胆らしく思わず荒木の方を睨んでしまった。彼女はそれにまた楽しげにくすくす笑うと緩慢な動作で薔薇を取り荒木をじっと見上げる、そして『貴方からの嫉妬って最高』と悪戯に笑えば花びらにひとつキスを落としてから、彼女はこちらへと薔薇を差し出してきた。驚き固まる荒木を他所に『コーヒーの分は二人へ送るわ』と彼女が楽しげに言えば今度は荒木が静かにこちらを睨んでいて)
っ、失礼致しました。…! お嬢様、ありがとうございます。他のコーヒー豆もご用意しておりますので何かありましたらまたお声掛けください。
(熱心に聞いてくれるお嬢様を前にますますテンションは上がり更に続けようとするがその前に脇腹を小突かれてしまう。話が遮られたことに一瞬むっとするもお嬢様が楽しげに笑うのを見れば今が執事であることを思い出して軽く頭を下げる。だがコーヒーの味や二人での流れるような入れ方を認めてくれたようで素っ気ない態度は無くなって何処か満足そうに花瓶の薔薇に手を伸ばしている。だがその間に荒木が割ってきて吐息がかかりそうなほど近付くと美味しい話を囁く。交渉材料をチラつかせる卑怯な手に奪い取られてしまうと焦りが募るが彼女は楽しげにくすくす笑ってから荒木を見上げ、見せつけるようにこちらに薔薇を差し出してきた。彼と同様に一瞬固まるものの相手をちらり見てから代表としてその場に跪いて薔薇を受け取る。荒木推しでも良いと思った物には薔薇を送るタイプなのか、それとも敢えて他者に薔薇を送って嫉妬を煽って更なるサービスを期待する心持ちなのかは分からないが当初狙っていたご主人様の層以外から薔薇が貰えた意味は大きい。同時に油断ならない人物だと認識を改めたのか焦ったようにこちらを睨む荒木に敢えて笑みを向けつつお嬢様にコーヒーのお代わりのアピールをしてから一礼してワゴンと共に一度裏へと戻る。ホールから見えないキッチンの近くまで二人でやってくれば「出だしは思ったより順調だね」と少し小さめな声で相手に現在の成果の話題を振って)
あぁ、助かったぜフィリップ。思ったよりも本来の執事喫茶を求めてるご主人様は多そうだ、このままいきゃ、っ
(荒木が横入りしてお嬢様を直接的に誘惑すればそちらに流れてしまうかと一瞬焦ったが薔薇はこちらへと差し出される。お嬢様が満足のいくコーヒーをいれたのは相棒なのだから相手が受け取るべきだろう、薔薇を受け取る瞬間にこちらも深く頭を下げた。顔を上げるもお嬢様の顔は相変わらず荒木の悔しげな顔を見ていて嫉妬を煽るための餌にされたようにも思うが一本は一本だ。二人でコーヒーをいれたのは軽いパフォーマンスのようにもなって自分達の存在をホール全体にアピール出来たことだろう、こちらを睨む荒木に相手と同じくすました笑みを浮かべながら一旦裏へと引っ込んだ。相手に小さな声で話しかけると頷き応える、新人だからという面も大きいが立て続けに薔薇を貰えるとは順調だ。こちらのスタンスもご主人様に浸透しただろうし荒木派と差別化すればさらに薔薇をいただけそうだ。そう思っていた矢先に上品なホールに似つかわしくない黄色い声が響いてきて言葉が途切れる、ちらりとホールを覗けばちょうど荒木の取り巻きがお嬢様の頬へキスをしているところで「あんなこともすんのかよ」と思わず呟いた。視線を戻せば裏手では先程まで紅茶が並んでいたのに今はカクテル等のアルコールの割合が大きくなっている、イベントはまだ序の口でここからどんどん羽目を外すご主人様が出てくるということだろう、相手に視線を戻せば「こっからが本番みてぇだな。変なことさせられそうになったら呼べよ。さっき助けられた分を返さねぇとな」と口角をあげて)
…なんというか未知の世界だね。…ああ、君も気を付けて。…そろそろ戻ろうか
(二人で裏に引っ込むと一旦執事の役を外して声を掛ける。相手の言う通り丁寧な接客で満足してくれるご主人様が想定よりも多く悪くない状況だ。二人でフォローし合うペアの執事というのも物珍しいようで注目度も高い。このまま行けば一位も夢では無いと思っていると黄色い声が聞こえて一緒にこっそり覗き込む。そこには堂々と頬にキスをする取り巻きの執事の姿があって今まで潜入した違法カジノや組織の取引現場とはまた違った意味での異様な光景に戸惑いの言葉を零す。自分がキスをしたいと思うのは相手だけで仕事とはいえ他の人にしようとは思わないが彼らはそれ以上にこの場で薔薇を貰うことに拘っているのだろう。裏で用意されるものもアルコールが混じっていよいよ本番という気配がすれば相手の言葉に頷く。酔った人間が思ってもみない大胆な行動に出るのは経験済だ。相手にも注意を払うように伝えると用意されたカクテルをトレイに乗せ改めて執事となってホールに戻る。荒木とその取り巻きは変わらずお嬢様と距離感が近く接しているのを横目に目的のお嬢様の元に向かい「こちら眠り姫のカクテルでございます」と言いながら目の前に置く。空になったグラスがある辺り既に飲酒しているようで『ずっとさっきから気になってたんだよね』とご機嫌に言われ、改めて自己紹介の後、先程のコーヒーの技術について積極的に問われると多少フェイクを混ぜながら会話を重ねて)
それは光栄です、フィリップにも伝えておきますよ
(執事がご主人様の肌に触れるのもなかなかだったがまさか頬とはいえキスまでするなんて、あそこまでいけばそれこそホストと変わらないだろう。相手の呟きに頷くが執事喫茶は本来あんな世界ではなくランチタイムまでのような淑やかで上品な空間のはずだ。このまま荒木派に場を支配されるわけにはいかない。相手に「あぁ」と声をかけてからホールへと戻っていった。周囲を見回せばちょうど先程相手が案内していた新規のお嬢様二人のカップが空になっていてテーブルの方へ向かう。ポットから紅茶を注いでいると『さっきのコーヒー凄かったですね!息ぴったり!』と興奮気味に言われ軽く頭を下げて礼を伝える、先程の熱心な視線の中には彼女らのものもあったらしい。自分達もコーヒーを頼もうかとお嬢様が盛り上がっている矢先また黄色い声が上がってそちらを見れば荒木がお嬢様の耳にキスをしているところだった。妙な空気にホールが侵食されるなか視界の端に相手が映る、どうやら他のご主人様と何やら話し込んでいるらしい。相手が他人と話しているだけなのにあの特別な格好を見ているとどうにも胸が苦しくなってしまう。相手に目を奪われそうになっていると『執事喫茶ってあぁいうこともやるんだ』とお嬢様が呟く、その呟きで意識を戻すとお嬢様へと目を向け「あれが彼らのやり方ですが、執事はご主人様に尽くし敬い快適で上質な時間を提供するものだと私は思っております。ですので、もしそちらの方がよろしければ私とフィリップを選んでいただければ誠心誠意心を尽くさせていただきます」と胸に手を当て言えばお嬢様方は目を合わせて笑みを浮かべる。そして一本の薔薇が手に取られると『じゃあお願いします!』とこちらへ差し出された。跪いてそれを受け取ると『こっちはフィリップさんに渡しますね』ともう一本の薔薇が確約されて「恐縮です」とまた礼を述べて)
ええ、私のコーヒーを飲んで下さる方が笑顔になってくれる事が何よりも嬉しくてやり甲斐を感じる一時です。
(熱心にこちらの話を聞くお嬢様に先程のコーヒーに関する知識から自宅での入れ方のコツ、最近飲んだコーヒーの感想などを話す。『本当にコーヒー入れるのが好きなんだ』と言われると普段幸せそうに自分の入れたコーヒーを飲む相手の顔が浮かんで無意識に柔らかい笑みが浮かんでありのままの気持ちを明かした。そうしているとまたホール内に黄色い声が上がってそちらを見ればお嬢様の耳に口付けを落としている。その異様な光景もそうだが手元には貰ったであろう薔薇が3輪程見えて一気に数を重ねる様に胸には焦りが募る。それを横目に見ていたお嬢様が『フィリップ、これ貰える?』とメニューの中でも高級帯のワインを指さす。追加のお酒の注文に内心驚きつつ二つ返事で応えて裏に向かうとワインを持って戻ってくる。付属している薔薇の花を花瓶に挿してからグラスをお嬢様の目の前に置きワインを注ぐ。お嬢様はワインに口を付けて満足そうに微笑むと生けてある薔薇を手に取って『フィリップ』と呼ばれる。薔薇を頂けることを察して跪き、差し出された薔薇に手を伸ばす。だが受け取ろうとした途端薔薇ごとお嬢様の手に包み込まれて思わず顔を上げて彼女の顔を見る。何かあっただろうかと思うも彼女はご機嫌そうな笑顔のまま変わらず握られた手も解かれる様子がない。思わず「…お嬢様?」と問えば『向こうの子もしてたし、これくらいセーフでしょ?』と返される。確かに荒木達の行為に比べれば手を触れ合わせるなどまだ健全な行為だ。それで差をつけられた薔薇が貰えるならば良いのかと迷いを見せながらお嬢様を見つめていて)
……え、…ありがとうございます
(新規のお嬢様の薔薇を貰いブロマイドを渡すと早速袋が開けられる、出てきたのは手を差し伸べる仕草をしている時のもので自分で見るには少々恥ずかしいものだ。だがお嬢様は少々残念そうにしていて『ツーショットあるんですよね?』と聞かれる。戸惑いながらも肯定の返事をすると『えーじゃあもっと薔薇買おっかな…』と呟きがこぼされた。お嬢様が楽しげにブロマイドについて話している間視界の端に相手が入ってそちらへ目を向ける。そこには膝をついて薔薇を受け取る相手がいて、それだけならば良かったのだがご主人様はその手をすぐ離さずに何処かうっとりと相手を見つめている。長い時間あの体勢でいるのだと認識した瞬間に一気に胸に感情が渦巻く、執事が持つべきでない激しい嫉妬の感情で体温さえあがった気がした。意識を完全に相手にもっていかれているとお嬢様から『早く行ってあげた方がいいんじゃないですか?』と声がかかってようやく目線が戻る。くすくす笑う彼女らから『めちゃくちゃ分かりやすい』と言われてしまい困ったように苦笑いすれば礼を言ってその場を離れた。お嬢様に話しかけられたこともあって多少は気持ちが落ち着く、軽く息を吐いてから相手の元へ向かう。未だ熱い視線を向けている彼女と相手が繋がる位置へ手を伸ばすとお嬢様の手を取った。同時に反対の手で相手の手を取るとお嬢様の視界から隠すように背中へと回してそのまま間に割り込むと相手を背後に隠してしまった。お嬢様の視界に入り込んでにこやかに笑うと「そんなにひとりの執事を見つめてちゃ他の執事が嫉妬しますよ。私もそのひとりです」とそれらしいことを言う。嫉妬した対象が違うのは脇に置いておいてそっと手を離すと「私達はお嬢様のお世話をするのが至上の喜び、どうぞその願いを叶えさせてください」と言うもその間も相手の手は背中で握ったままで)
…しょうた、左様。…お嬢様に楽しんでいただけているのであれば私達もご給仕し甲斐があります。先ほどお話させていただいたコーヒーもご用意しているのでまた何時でもお申し付けください
(伸ばした手は捕まえるように握られて離れる気配はない。こうやって触れること自体は確かに先ほど他の人にもしたことで禁止行為ではないのだが手を握られたままアルコールを含んだ熱っぽい目で見られるのはどうしていいか分からない。悪質ではないとはいえお嬢様の体温が自分の手に移り始めると流石に引っ込めようと軽く手を引くが逆に強く握られてしまった。どうするべきかと困っていれば誰かが近づいてくる気配を感じると共に繋がっていた手を取られてお嬢様よりも大きな手に包まれる。顔を向ければ相手の姿があってお嬢様との狭い間に割り込んできて思わぬ行為に反射的に普段通りの名前を呼び掛けて途中で何とか訂正する。相手はまるで存在を隠すように目の前に立って自分の代わりにお嬢様に話をしてくれるがその内容が彼女に嫉妬したと読み取れるものであれば一気に胸の鼓動が跳ねた。もっともらしいことを言いながらこちらから見える表情はにこやかな笑みではあるがその間も二人の僅かな間で手が握られていれば相手の感情が伝わってくるようだ。感謝の気持ちと申し訳なさを込めてぎゅっと手を握り返しながらお嬢様の様子を後ろから伺えば拍子抜けといった言葉が良く似合うように固まっていて更に相手が言葉を続ければ『すみません、調子に乗っちゃって』と手を引っ込めた。何とか分かって貰う事が出来れば相手の手をぎゅっと最後に握ってから離して相手の隣に立つ。今ので嫌な思いをしてしまわぬように言葉を続けつつあくまで執事喫茶の執事とお嬢様であることをアピールすると「お嬢様の気持ちありがとうございます」と薔薇を貰ったことを感謝してブロマイドを渡すと相手に目配せしてからテーブル離れ)
……っ、…ご希望であれば私達がコーヒーをいれますので
(相手をお嬢様から隠してしまいその間もずっと手を握っているのは気が付かないままお嬢様の手を離せばその手は引っ込められる、どうやら事を荒立てずに済みそうだ。安堵していると不意に背後で手を強く握りかえされてそこでようやく相手と手を繋ぎっぱなしであるのに気がついた。目の前のお嬢様からは見えないだろうが周囲の、特に先程の二人のお嬢様には見えていたのではないだろうかと思えば動揺して目が泳ぐ、その間に手は離れて相手が隣へ移動しフォローをいれるがその間も気が気ではなくなんとか一言付け加えるのが精一杯だった。相手が無事に薔薇を貰えたのを確認してチラリと見やればちょうど目が合ってまた心臓が跳ねる、軽く息を吐いて気持ちを整えたところでベルが鳴ってそちらへと目を向けた。今の騒動の間にホールのご主人様は明らかに増えていて目を瞬かせる、呼ばれたのも後から来たご主人様のようだ。彼女らのテーブルに荒木派の執事は近づいていない、というよりお互い牽制しているような雰囲気だ。テーブルへ近づくとオーダーだったようで「お帰りなさいませ、何にされますか?」と会話を交えながら話していれば『君達が清美さんイチオシの執事かぁ』と言われてまた目を瞬かせる。「清美様って…」と心当たりのある方をみれば彼女、ランチタイムにもいたお嬢様がこちらに手を振っていた。どうやら彼女は夏目さんを長い間懇意にしているらしく夏目を推している人達との繋がりも多いらしい。今日彼が欠席だからと来ないご主人様が多かったようなのだが自分達が荒木派と真正面から対立するのを見て夏目派のご主人様に声を掛けてくれたらしい。「心強い援軍ですね」と口角をあげれば『執事喫茶らしいことしてくれるなら応援しなきゃね』と薔薇を差し出され膝をつけば有難くその一輪をいただいて)
お嬢様方の期待に応えられるように務めさせていただきます。
(こっそりと繋いでいた手を握り返すと露骨に相手の目が泳ぐのが分かった。どうやら無自覚だったらしい。先程の宣言通り相手に助けて貰った所でまたホールにベルが鳴る。目を向ければ複数人のご主人様のようで今度は相手と共にテーブルに近付く。その中にはランチタイムの時のお嬢様が居て会話の内容から状況が掴めてくる。イベントが月に一回の開催であり店の目玉に近いものであればその成果は今後の執事喫茶全体に影響する可能性は高い。その為昼間の様子を見て夏目と同じく荒木派に対抗できる力があると思ってくれたのだろう。ランチタイムの行動が実を結んだことに心が弾むと相手が薔薇を受け取る横で自分も頭を下げ、礼と意気込みを口にする。オーダーを承っていればお嬢様達の対応は相手に任せて一旦裏に向かう、その道中荒木派のテーブルの横を通ると相変わらず距離感近く給仕を続けているようだが先程から付いているお嬢様は変わってないように見える。薔薇をくれる人に一点集中という作戦かもしれないがやはり執事喫茶のコンセプトから離れている。横を通る際にジロっと睨まれたが気にもせず裏に戻り注文を伝え、用意されたワゴンをテーブルに運ぶ。ワゴンの上にはコーヒーを淹れる為の一式と数種類のケーキが乗っていて好きな物を二つ選んでもらうスタイルだ。相手とお嬢様の元に戻ってくると「お好きなものを左にお申し付けください」と役割分担を決め、傍らでコーヒーを淹れる準備をして)
フィリップのいれるコーヒーは私も自信を持ってオススメさせていただいております。こちらのコーヒーに合わせるならミルフィーユかチーズケーキがオススメですがお嬢様のお好きなものを選ぶのが一番です
(心強い援軍を得たならばやることは変わらない、オーダーにコーヒーが含まれていればまた二人で一人の執事の出番だ。相手が裏へ行っている間に二人が今日だけの特別な出勤であくまでも執事らしく接客するスタンスであるのを説明すればお嬢様方からの反応はなかなか好感触なものだった。別のテーブルからは時折黄色い声が相変わらず上がるがそちらのテーブルとはまた一線を画す優雅な雰囲気をこちらは保っている。お嬢様方が努めて上品さを保ってくれているおかげだろう、こちらもやりやすい限りだ。相手がコーヒーのセットを持ってくれば役割分担が決められてコーヒーを相手に任せてこちらはお嬢様と会話しながらケーキを給仕していく。その間にもさりげなく道具を片付けたりコーヒーがいれ終わりそうなタイミングとカップを用意したりと二人で流れるように阿吽の呼吸でコーヒーセットの準備を進めていく。すると相手が最初についていた新規のお嬢様達のテーブルの二人がまたじっとこちらを見ていたようで『私やっぱりツーショット欲しいから薔薇渡す!』と宣言するのが聞こえた。それを聞きつけた接客中のお嬢様方も『ツーショットなんて珍しいものがあるの?』とこちらへ目を向ける。コーヒーを入れられたカップをお嬢様の元に置きながら「私達はひとりでは未熟の臨時執事ですので、本日は二人で一人の執事としてお仕えさせていただいております」と相手の言葉を借りて返事をすれば『確かにこれを見せられたらツーショットが欲しくなるわね』とお嬢様方は頷きあって、給仕が終わったタイミングで先程の注文分の薔薇全て、相手とこちらにそれぞれ二本ずつが一気に差し出されて)
お嬢様の為に特別なコーヒーをご用意致しました、是非お召し上がりください。 …良いのですか?
(相手の説明のおかげでテーブルには優雅で温かな空気が満ちていて早速役割分担で給仕を始める。相手がお嬢様の希望を聞いてケーキを皿に乗せていくがその間もコーヒーが淹れやすいように道具の位置を変えてくれたり用意してくれるおかげで集中が出来る。丁寧に抽出している間ツーショットの話題がお嬢様の間で広がり、相手が二人で一人の執事だと口にすれば口角が上がった。自分がカップに綺麗な色に仕上がったコーヒーを注ぎ、相手がお嬢様の前に運ぶと簡単に道具を纏めてからその横に並ぶ。すっかり普段は撮られないツーショットがブロマイドの当たりのような役割になっていることに照れ臭さを覚えるが二人のコンビを認めてくれてると思えば悪くない。柔らかな笑みと共にコーヒーを勧めるとお嬢様からはそれぞれ二本ずつ薔薇が差し出されて目を瞬かせる。思わず薔薇とお嬢様を交互に見るが『良いのよ、とても良い物を見せてくれた気持ちだから』と言われると相手の方をちらり顔を合わせてから「ありがとうございます、とても嬉しいです。」と言って薔薇を受け取った。お返しにブロマイドをそれぞれ渡せばツーショットが入っていて喜ぶお嬢様や自分と相手の物が一枚ずつあって満足するお嬢様も居てその様子を少し照れくさい気持ちもありながら見守っていた。その反応やブロマイドの内容がきっかけになったのか給仕が終われば直ぐに違うところからベルが鳴るようになり、オーダーされた物を運ぶと薔薇を送られる事が続いて)
(/お話の途中失礼します。執事を堪能しているところですがこちらはある程度やりたい事が出来ましたので探偵様の方もやり残しが無ければ営業終了近くに飛ばしそうかと思うのですがいかがでしょうか。勿論他にやりたい事があればそちらを行ってからで全然構いませんのでお好きに進めて貰えたらと思います…!)
ありがとうございます、お嬢様。お嬢様の想いが籠ったこの一輪、大切にさせていただきます
(一気に二人で四本の薔薇を差し出されれば互いに目を合わせて薔薇を受け取る、先程荒木が大量に薔薇を貰っていたが自分達もそれに匹敵するほどの量を貰えている。薔薇は随時回収されていくため総合数は分からないがおそらく薔薇の数は僅差のはずだ。相手に続いて礼を言って開封されていくブロマイドにはやはり気恥しい思いをしながら見守った後、またそれぞれ別のテーブルへと呼ばれて執事としてご主人様に仕えていく。最初の目論見通り夏目派と新規層を上手く取り込めていてホールで薔薇が飛び交う頻度は高くなっていったが二人できっちり数を稼いでいた。またベルが鳴って顔をあげれば一番奥のテーブルのご主人様が呼んでいてそちらへ対応へ向かう。その間も荒木は相変わらず固定客にベタベタと触っては薔薇を貰っていたが、次にターゲットに定めたのは先程相手の手を握ってきたお嬢様だった。空になった彼女のグラスにワインを注いだあとテーブルの上に置かれた手を握る、そして相手が近くに来たタイミングを見計らって『私は先程の無礼な執事と違ってこの手を決して離しません。お嬢様のお望みを叶えるのが我々執事の役目ですから』と言えばお嬢様はチラリと相手の方を見つつ『そうねぇ…やっぱり私の願いを叶えてくれるのが一番よね』と戸惑いながらも荒木を肯定する。荒木は勝ち誇ったように笑えば『なんなら先程彼に渡した薔薇を私に渡していただいてもいいんですよ?』と薔薇を奪おうとお嬢様を唆し始めて)
(/お世話になっております!荒木との直接対決的なものをやりたいなと思っておりましてもうひとくだりだけお付き合いいただければ幸いです。これが終わればこちらもやりたいことは全部ですので営業終了間近まで飛ばしてしまいましょう!よろしくお願いします/こちら蹴りで大丈夫です!)
……お話の途中に失礼いたします。これは私の意見ではありますが、お嬢様のお願いの全てを叶えることが執事の正しい在り方とは思いません。執事はご主人様にお仕えし、大切だからこそ時には厳しく接しながらこの家の主として誠心誠意支えるのが仕事であり、お嬢様への愛情だと思っております。
(確実に薔薇の本数が増えていくのを感じながらまた別のテーブルに分かれて仕事をこなす。先程声を上げてくれた新規のお嬢様方からも薔薇を頂き初めての紅茶が美味しかったと聞けば口元は緩む。二人の初めてが彩れたのなら何よりだ。有難いことにベルで呼ばれる頻度が多くなり忙しくしていがおおよその給仕の波が収まり、一旦裏に水分補給しに行こうかと考えたタイミングで先程手を掴んでいたお嬢様に荒木がついていることに気付く。勿論執事はどのご主人様にご給仕しても良いことになっている。気にかかるもののそのまま通り過ぎようとしたタイミングであからさまに無礼な執事だと指名されお嬢様の手を握るのを見れば足が止まる。お嬢様からもちらりと視線を向けられ、肯定を示すと好機とばかりに勝ち誇った顔をして新しい薔薇ばかりか先程頂いた薔薇まで奪おうとお嬢様を唆す。これまで睨み合いはあれどお互い不干渉でやってきたが流石にこの執事喫茶のコンセプトから外れた理屈をかざす荒木を見過ごせずに二人の横にやってくれば話に割り込む。そして姿勢を正してお嬢様の方を向けばこの短い間での執事の経験とこれまでからのことを思い出しながら執事の在り方を説く。全てを許し甘やかすことが真にその人を大切に思うことでは無い、相手が当初から口うるさく風呂上がりは髪を拭くことやちゃんとご飯を食べること、夜は基本的には寝ることを注意していたのは自分を嫌っていた訳ではなく大切に思ってのことであることを知っている。その事を語れば荒木は眉を寄せ『仰々しく語っているみたいですがこの程度のお願いを叶えられないなどやはりお嬢様への気持ちが足りないのでは?』と煽ってくる。その言葉に今まで蓄積した物が爆発し、普段止めてくれる相手も傍に居なければあくまで静かな笑みを保ちながら「私と左はこの姿勢でお嬢様方から沢山の薔薇を頂きました。それとも荒木様は普段のご給仕ではお嬢様を満足させられないような腕なのでしょうか?」と真っ向から喧嘩を売り、二人の間だけでなくホール内にピリついて)
……お嬢様、砂糖はお幾つお入れしますか?
(奥のテーブルへとつけば紅茶とケーキの注文を一気に四人分受けて一旦裏へ行き四人分の用意をワゴンに乗せてテーブルへと戻る。サーブを始めたところで荒木が先程相手の手を取っていたお嬢様のそばにいて、さらに近くにいる相手に話しかけているのが見えた。ここからでは遠くその会話の内容は聞こえてこない。さすがにサーブ中に離れるわけにはいかず相手の方を時折確認しながらお嬢様一人ずつにケーキを用意しお茶を注いだカップを配置しながら言葉を交わす時間が続いた。その間に荒木はお嬢様との会話に入ってきた相手を嘲笑するように薄く笑っていたが、相手の煽る言葉にまんまと乗せられると額に青筋が走る。なんとか表情を保ったまま『貴方達二人が執事の何たるかを語るのは勝手ですがそれでお嬢様の願いを潰すなんて言語道断でしょう。それにお言葉ですが私は貴方達以上に薔薇を貰っている。十分お嬢様に満足いただけている証です』と真っ向から相手を睨んで互いの間に火花を散らす。最初こそ荒木に言いくるめられそうになっていたお嬢様だったが相手の言葉にも『そうかもねぇ』なんて呑気に頷いている。その頬は既に赤く染まっていて傍らには二本目のワインボトルが置いてあるあたり相当飲んでいるのだろう、相変わらずワインは高級帯のものだ。荒木と相手が睨み合っているのを交互にみたお嬢様は『そうだわ』と両手をパンと合わせて近くを通っていた執事にグラスをさらに2つ持ってこさせる。そして自らボトルを持つと自分の分と2つ分のグラスにワインを注ぎテーブルの端に置いて『どちらの接し方も好きだけれど、貴方達のどちらが私を満足させられる執事かちゃんと決めましょう。私と一緒にワインを飲んで語らってくれるかしら?私を満足させられたら、そうね…薔薇20本を渡すわ』と条件が提示された。薔薇20本を購入するとなればそれなりの額だがお嬢様にとってはなんて事のないものらしい、さらに薔薇の本数が拮抗している今20本の数は重くこれを手に入れた方が本日のナンバーワンになる。荒木は相手をまた嘲笑ってからグラスに手をかけると『お嬢様が注いでくださったワインを飲まないとは、それこそ不敬ですね』とグラスを持ち上げ一口飲む。頬を赤くさせたままのお嬢様は『ほら貴方も』と急かすような視線を相手に向けて)
20本、…分かりました、誠心誠意お相手させていただきます。
(荒木の給仕の腕を煽れば青筋を立てて苛立ちを顕にする。辛うじて表情は保っているが真っ向からこちらを睨んできて、こちらからも鋭い視線を返す。二人の煽り合いを聞いていたお嬢様は両手を叩くと近くの執事に何かを注文する。運ばれてきたのは二つのワイングラスで、お嬢様自らワインを注ぐ。そしてワインを飲みながらどちらがお嬢様を満足させられるかの勝負を提案され目を瞬かせる。だがそれ以上に満足させられた方には薔薇が20本送られると聞けば今までとは桁違いの本数に思わず声に出てしまった。恐らく今の状況を見るにこの薔薇を頂けた物が一位となるだろう。目の前に置かれたワインはれっきとしたアルコールでこれを飲めば相手に怒られてしまうだろうが依頼の為にも引く訳にはいかない。先に荒木がグラスを持ち煽り言葉とともに一口飲むのを見れば小さく息を吐いてからこの件を受ける意志を示してからグラスを手に取る。そのまま「頂きます」と断ってから一口飲んでみれば口の中に飲み慣れないアルコールの味が広がった。二人が付き合ってくれることになればお嬢様は見るからにご機嫌になって『私、お酒に付き合ってくれる人が好きなの』とワイングラスを傾けている。お嬢様に「お酒が好きなんですか?」と話題を振って会話をするが荒木がワインを飲んでお嬢様が嬉しそうにするのを見ると対抗するように自分もワイングラスを傾け、あっという間に半分ほど無くなるとほんのりアルコールの回りを自覚して)
ッ!!___馬鹿野郎!飲むなって言ってただろ!早く水飲め!
(早く相手の様子を探りたい気持ちと目の前のお嬢様の給仕を疎かにしたくない気持ちとで葛藤しながらサーブを終えればお礼と共に薔薇が差し出される、それを有難く受け取ろうとしたところで相手の姿が視界に入り息を飲んだ。相手はあろうことかワイングラスに口を付けている、どういう経緯であの状況になったかは分からないがあのお嬢様と荒木が共にいるということは勝負事が起こっているのだろう。だがそんな理屈は抜きにして相手が本来口にすべきでないアルコールを飲まされていることに一気に頭に血が上ると薔薇を受け取る前に相手の方へと早足で駆け寄り、途中ご主人様用に用意された水の入ったコップを引っつかむと相手の元へと急ぐ。相手の元にようやくたどり着けばいの一番にグラスを取り上げて怒鳴りながら相手の手に水を押し付ける。執事が怒鳴り声をあげてホール全体が騒然とするがそれよりも相手が酒を飲んでしまった事の方が心配だった。グラスの中身は半分程になっていて戯れでは済まないレベルの量を相手は摂取したことだろう。お嬢様は『あら、お酒とお喋りを楽しんでいたのに』と頬を赤くしながら言う、アルコールで正常な判断が鈍っていたのかもしれないがこんな勝負を用意したことに少々怒りを覚えた。問題は荒木の方だ、『おや、やはりお嬢様が用意したワインが飲めないのですか?』とすました顔で言うが荒木は相手が未成年であるのを知っていたはずだ。荒木は相手が飲めないことを考慮してこの流れを作ったに違いない、怒りを顔に滲ませるとグラスを口につけ思いっきり傾け残っていたワインを一気に飲み干しグラスをテーブルへと置く。相手には絶対に酒を飲ませてはいけない、そんな状態で酒勝負を挑まれているのならば自分が受けるべきだろう。すぐにアルコールが頭に回る心地がするが今はアドレナリンの方が上回っていて視界も思考もはっきりとしている。お嬢様に目を向ければ「申し訳ございませんお嬢様、フィリップは酒を飲めない身でして…よければお酒のお供は私がいたします」と仕切り直す。酒と話ができればいいのかお嬢様は上機嫌なまま空になったグラスにまたワインを注ぐ、にこやかな笑みを向けた後に相手の背中に腕を添えながら「大丈夫か、フィリップ?」と相手の様子を伺って)
あっ!…なんで来たんだい。 っ、翔太郎! …これくらい平気です、左は少々心配性でして、お騒がせして申し訳ございません。お嬢様さえ良ければ左も交えた4人でお話宜しいでしょうか。
(荒木と争うような形でグラスを傾けていれば急に背後から怒鳴り声が聞こえてくる。相手にバレるのは時間の問題だったがあろう事か給仕しているお嬢様を突っ切ってやってきてグラスが奪われると思わず声を上げて手を伸ばしそれを奪い返そうとする。こうなるから黙っていたと言うのに。だがアルコールで妙に乾いた喉は水分を欲していて押し付けられた水を飲むとホールが騒然としていることを含め文句を口にする。心配しなくて良いからと伝える前に相手がグラスのワインを飲んでしまえば執事であることを忘れてその腕を掴んで名前を呼ぶ。相手がお酒に弱いことは十分に知っている。だからこそ最悪自分が潰れても相手が他の給仕を続ければ依頼は達成出来ると思ったのに相手も飲酒してしまったら意味が無い。この後のことを考えてもやはりこのまま相手に勝負の担当を譲る訳にはいかない。そんな抗議の視線も無視され相手はお嬢様に仕切り直しを持ち掛ける。お嬢様は変わらずご機嫌でまたグラスにワインを注ぐのを見れば背中に手を添え様子を伺ってくる相手に問題無いとその目を見ながら返し、姿勢を正すとお嬢様に先程の騒ぎを詫びる。相手の発言を心配性ということにすると改めて四人で酒と話を共にすることを申し出て「荒木様も左様も宜しいですか」とこの場を降りるつもりが無い頑固な意志覗かせて)
こんな状況でお前をほっとけるわけねぇだろ!……それで構いません。我々は二人で一人の執事です。お嬢様がお酒とお喋りをご所望ならば私達二人でお嬢様のお望みを叶えましょう。ご存知の通りフィリップはお嬢様が満足できるお話ができますし、私はフィリップよりもアルコールには耐性がありますので
(相手の元に駆け寄りグラスを奪うと相手は声をあげてそれを奪い返そうとする。だがこれだけは絶対に譲れない、相手は酒を飲んではいけない歳なのだ。ディナータイムになり酔ってしまう客が出るのは想定していたがまさか執事に、よりにもよってまだ成人していない相手に飲ませるなんて。抗議する声を無視してグラスを一気に煽ると腕を掴まれるが今はアルコールに負けている場合ではない、それよりも相手に勝負と称してアルコールを飲ませたこの状況が許せなかった。だがこの場で殴り合いをするのは流石に店に迷惑をかけてしまう、それならばこの勝負を真正面から受けて立つしかない。相手の様子を窺うがそれよりもこの場を離れないことを宣言する様に軽く呆れのため息をつく、だがワインを飲み続けなければならないこの状況で自分がどうなるか分からない以上相棒が隣にいる方が心強いのが本音だ。こちらも一言詫びをいれてから執事の口調へと戻ると相手がこの場に残れるように言うもワインは全て自分が担当するように誘導する。アルコール耐性に関しては相手が『飲んではいけない』なのだからそれよりも飲めるのというのは嘘ではないだろう。荒木も『私も構いませんよ?私はひとりでお嬢様を満足させることが出来ますから』と余裕の表情だ。周囲に3人の執事を侍らせてお嬢様は満足そうに『じゃあ続きを始めましょう』とグラスを差し出してくる、そのグラスにこちらと荒木のグラスが合わさり小気味よい音を立てるとまたグラスの中身を口にする。アルコールがまた体に巡るのを感じながら相手の方に顔を近づけると「お嬢様を満足させるお喋りは任せたぜ、フィリップ」と耳打ちしてまた一口ワインを飲み下して)
……、少しでも異常をきたしたら絶対に止めるし、代わるからね。 それではお嬢様、最近何処かお出かけされましたか?
(こうなった以上相手はテコを使おうとも意志を変えるつもりは無いだろう。ならばこちらは二人でお嬢様の相手をすることをすればそれぞれが同意が得られる。荒木は変わらず余裕そうな顔で煽り言葉を添えるのを忘れない態度に苛立つがその鼻を明かすためにもこの場は勝たなくてはならない。三人でグラスを合わせて相手がワインを口にする為に胸がざわめいて不安と焦りが募る。耳打ちしてきた相手の案が今の状況では最適解であるのは分かるが未だ納得はしてなくてこちらも顔を寄せると真剣な声で顔で釘を刺した。こうなれば出来るだけ最短かつあまりお酒を勧めない形でお嬢様に満足してもらわないとならない。自分だけグラスがないというのも不自然だろうと近くの執事にノンアルコールのドリンクとチェイサーの用意を頼んでからお嬢様に話題を振る。お嬢様はご機嫌なまま『最近は美術館にお人形の展覧会に言ったわ』と返事がされる。思わず先日のメモリの件を思い出して変な反応をしそうになったが堪えて該当する美術館の名前を上げると『そう、そこよ。よく知ってるわね』と褒められる。だが荒木もナンバーワン執事をしているだけあってすぐに『あの美術館は展示スペースが広く見応えがあって私も好きです。どんな人形をご覧になったのですか?』とスムーズに話を繋げている。オーダーしたドリンクとチェイサーがやってきて自分の手元と相手の前を初めとするそれぞれの元に置く。それにお嬢様は礼を言いながら『色々あったわよ、可愛い女の子とか?外の伝統的な人形を模した物とあと風.都.のなんだったかしら、あの店とコラボした人形もあって…』とその店の名前が出てこないのか悩んでいて、風.都のことなら相手が知ってるのではないかと視線向け)
分かってるって。___それでしたらウ,ィ.ン.ド.ス.ケ.ー,ル.ですね。確かあの店がデザインした服と風.都.出身のアーティストが手がけたブローチを着けた特別な一体だったとか
(相手に喋りの方を任せるよう耳打ちすると相手からは真剣な顔で釘を刺されてしまう、了承の返事をするものの相手にこれ以上酒を飲ませることは絶対にさせられない。意地でも最後まで自分がワインを飲まなければと強い決意が漲る。場は仕切り直されて相手から話題か振られるとお嬢様の口から出てきたのは先日の事件にも絡んでいた人形の展覧会で思わず反応しそうになるのをグッと抑えた。お嬢様が飲むスピードにそれとなく合わせてワインを口にしていると展覧会とコラボしていた店名を思い出せない様子で相手から目配せを受けた。愛用のブランドの事ならば知らないわけがない、相手の話を引き継ぐ形で答えると『そうそう、そうだったわ!この街のお店だったわよね』とお嬢様は嬉しそうな笑みを浮かべる。それにこちらも通常時と同じ笑みを浮かべながら「えぇ。ウ.ィ,ン,ド,ス,ケ,ー,ル,はこの街を代表する店です。それにブローチを作ったというアーティストもこの街の出身者でして、かつて彼女がデザインした食器を買ったことがあります。あの人形はいわば風.都.を愛する人間の気持ちが形になったもの、といったところですね」と解説をすれば『左さんは物知りなのねぇ』と好感触な返事が返ってきた。しかしそれに荒木も黙っていない、こちら二人で軽快に話を進めているのが気に食わないのかお嬢様の首元に手をそっと添えると不必要に近づいて『グラスが空になっていますね』と吐息を耳へかけながら囁く。それにお嬢様は顔を赤くして笑みを見せているがまだこっちとの会話の途中だ、邪魔されてはたまらない。きっと荒木は今の話題に一切ついて来られなかったのだろう、荒木に向いた注目を逸らすためお嬢様のグラスにこちらのグラスをまた合わせて高い音を響かせグラスに残っていたワインを一気に飲む、するとお嬢様の目は再びこちらへと向いて「私にもおかわりと…あと先程お話した風.都.出身のアーティストにご興味はありませんか?最近全国的にも注目度があがっていてお嬢様がお気に召す作品もあるはずです」と声をかける。しかし立て続けにワインを一気に煽ったせいか思考が揺らぎ始め耳の端は真っ赤に染まっている。小難しい話となれば上手く話せる自信もなくて今度はこちらから相手へと目配せを送ると話のバトンを渡して)
っ! 生活に根ざした作品をされている方で、丁度荒木様が今付けていらっしゃるラペルピンもその方の作品です。…、凄く精巧かつ温かみのある作品を作るのでお嬢様の雰囲気にもピッタリかと。
(この街のことで相手が知らないことはあまりない。より話題を広げられるであろう相手に目配せすれば思った通りスラスラと答えが告げられる。思い出せない物が分かった事と相手の説明に嬉しそうな笑みを浮かべるお嬢様を見ながらドリンクを口にする。ウ.ィ,ン,ド,ス,ケ,ー,ルの件は知っていたがブローチの件は初耳だ、そのアーティストが誰か分からなかったが食器というワードでピンと来た。和やかな会話を二人がしていると荒木は不自然にお嬢様に近付き、首元に触れて囁く。一旦は荒木に向いた関心を戻すためかグラスを合わせまたその中身を一気に煽る相手を見ればまた言葉にならない声を出て相手を凝視してしまう。明らかに相手のキャパではこの時間で摂取してはいけない量のアルコールだ。相手は話を続けるも既に耳の端が真っ赤になっていてアルコールが回っているのが見て取れる。焦りを覚えながらも目配せを受けると話を引き継いで丁度以前見かけた良い例を見つければ荒木の胸元に輝く華やかなラベルピンがそれであると説明する。本人も知らなかったのか荒木は自らの胸元を見て、お嬢様の視線もそちらに行って興味深く観察している。その間に相手からグラスを強引に取ってしまうと自分のドリンクと入れ替える。液体の色合いは似ている為、お嬢様達を話に集中させていれば直ぐには気付かれないはずだ。入れ替えたワインに口をつけずに酔っているであろう相手を支えるように軽く腰辺りに腕を添えて様子を見つつお嬢様が気に入りそうだと話を続ける。先週辺りに相手が言っていたのを思い出して「来月の初めあたりに開催される展示会にも切子作品の展示と販売をされるようなので興味があれば是非」と情報を補足すれば分かりやすくお嬢様の興味を引いたようで『是非行ってみたいわ。詳しいこと教えてくれる?』と聞かれその展示会の日時や場所、その他の手掛けている作品などで話が弾んで)
っ、……展示会は先程話題に出た人形の展示会が行われた所からすぐそこです。もし休憩を挟まれるならそこから少し南にいったフルーツパーラーが私のオススメですよ
(アルコールと同じくらいにアドレナリンが脳内を回っているおかげでいつもより意識はハッキリとしていて呂律も回っている、しかし先程一気に飲んだ分が回ってきたせいかボロが出てしまう前に相手へと話を振れば荒木がつけているネクタイピンこそがあのアーティストの作品だったようで小さく口角をあげる、さすがの知識と観察眼だ。だがその隙に手元のグラスがすり替えられてしまって思わず相手の方をみた。文句を言いたいところだったがその前に支えるように腰に手が回されてしまえば文句も引っ込んでしまって相手と目を合わせる、短い間だか『絶対に飲むな』と強く視線を送っておいた。その後も風.都.出身アーティストの話は続いて相手に話の主軸を任せながら時折自分の知識で補足を加えて二人とお嬢様で話を続ける、相手が渡してくれたドリンクを飲めばいくらかアルコールの回りも抑えられて相手が支えてくれてるおかげもありふらつかずに話を続けられた。アーティストの話に花を咲かせていたがその間荒木は全く話に入って来れないようでこちらを時折睨んでいた、いよいよ我慢が効かなくなったのか再びお嬢様の頬に手を添えて無理やり視線を奪うと『そろそろ新しいワインが必要ですか?こちらも、』と会話を遮って話しかけ、そのまま顔を近づけて頬へと口付けを落とそうとした。しかしその前にお嬢様が『ちょっと!今二人と話をしているでしょう?!』と声をあげて荒木の手を払う。その瞬間に周囲の時間が止まる、お嬢様は明確に荒木を拒絶して思わず目を瞬かせた。お嬢様自身も自分の言ったことに驚いたようで目を瞬かせたあとクスクスと楽しげに笑い始めると『これじゃあ答えは出たようなものね』と相手と自分とへ目を向ける。荒木は追いすがるようにまたお嬢様に触れようとするがその前に手首を捕まえると「お嬢様の望みと幸せを叶えるのが執事の役目です、お忘れですか?」とすました顔で笑みを浮かべ)
今の時期なら洋梨やミカンが旬でしょうか。…いえ、大したことはしてませんよ。お嬢様に楽しんで頂けることが執事にとって何よりも嬉しいことですから。
(相手を軽く支えたままアーティストの話題で会話を続ける。相手の補足も交えてお嬢様の興味を引ける会話を続けていれば先程から荒木が黙り込んでいることに気付く。目を向けるとこちらをジロっと睨んできて不服そうだ。業を煮やした荒木は頬に手を添えスキンシップとともに強引に話に割り込んで中断させようとするがその直後お嬢様の声と手を払った際の音が響いた。お嬢様自身も驚いたようだがご機嫌に笑ってこちらを向く。関心が向かないどころか拒絶されたことに焦って荒木がお嬢様にすがろうとするが相手が手首を掴んで止め、先程言っていたことと同じ言葉を返せば荒木の顔は絶句して羞恥や怒りなどで真っ赤になっていく。裏返りかけた声で『他のお嬢様にご給仕しなければならないので失礼します』と言って荒木は逃げるように去っていく。その荒木推しのお嬢様も今までのやり取りを見て端の方で少し冷めた目を向けているのだが、どちらにしろ負けを認めたということだろう。その背を見ていればお嬢様が『今まで執事は言うことを聞いて貰う人と思っていたけど、こんなに色々なことを知っていて楽しい会話が出来るなんて思わなかったわ。流石ね』とご機嫌に感想を告げる。謙遜しながら改めて執事の心持ちを伝えると『貴方達のような執事に仕えて貰って良かった』と嬉しい事を言ってくれた。そしてお嬢様が近くの執事を呼び寄せオーダーをし、少し待てば約束通り薔薇の大輪が運ばれてくる。『約束のお礼よ、これでツーショットが当たるかしら』なんて言いながら二人の目の前に差し出され、相手と目を合わせると「ありがとうございます!」と言いながら二人でそれを受け取って)
フィリップの言う通りです、お嬢様がそうやって笑っているなら何よりですよ。____ありがとうございます。きっとお嬢様の望むものがその中にありますよ
(荒木がさらにお嬢様に触れようとしたのを阻止すれば何やら言い訳めいたことを言いながらその場を去っていく、あれは敗走とみていいだろう。先程のお嬢様の声も相まってホール全体の注目がこちらに向いていて新人二人が荒木に勝ったという事実はこの場にいる全員に知れ渡った。勝ち誇った笑みを浮かべているとお嬢様から嬉しい感想が告げられて相手と共に返事をする、やがてお嬢様のもとに約束通り大量の薔薇がやってくると相手と目を合わせた。これも二人がそれぞれの得意分野で力を発揮し連携した結果だろう。まさに二人で一人で勝ち取った薔薇だ。相手と共に礼をいいながら薔薇を受け取るとブロマイドを同じ数だけ渡す、ツーショットが出るのは2分の1の確率だがこのお嬢様なら自分の欲しいものを引き寄せられそうだ。薔薇とブロマイドの交換が終わったところで執事長がホールへと出てきて高らかに手を叩き『ご主人様にお知らせいたします。本日のディナータイムも残り5分となりした。渡し忘れの薔薇は今のうちに執事へとお預け下さいますようお願い申し上げます。』と終了間近のアナウンスがなされた。目の前のお嬢様に礼を言ったあとその場を離れると他のテーブルから相手と自分とに声がかかる。先程のやり取りをみて誰に渡そうかと迷っていた薔薇が次々に二人へと渡されて最後の5分だというのに呼ぶ声が止まらなかった。そうして全ての薔薇がテーブルから無くなると再び執事長が出てきて『今をもちましてディナータイムを終了させていただきます。それでは今宵、ご主人様からいただいた薔薇を誠意を持ってお受け取りすることにいたしましょう』と号令がかかるとホールの前方に執事が集められてずらりと並ぶ形になり)
…すごい数だ。 …皆様ご存知の通り、今日だけのお手伝いでしたがこれだけの気持ちをご主人様から頂き本当に嬉しいです。ご無礼をおかけしたこともあったと思いますがご主人様と素敵な時間を過ごすことが出来、少しでもこのお屋敷で寛いで癒される時間をご提供出来たのなら本望でございます。ありがとうございました。
(お嬢様に感謝を伝えていれば執事長がやってきてディナータイムの終了が近いことを告げる。一礼してからお嬢様の元を去ると他のテーブルから立て続けに声がかかる。今日しか居ない執事に薔薇を送りブロマイドを貰うラストチャンスだということもあって多くのご主人様から薔薇を受け取った。そうして多くのテーブルを回って花瓶から薔薇が無くなったところで再び執事長の号令があって前方に執事達が並び、後方で席に座りながらご主人様がそれを見守る形となる。一人ずつ名前を呼ばれ一歩前に出て綺麗にまとめられた花束を受け取り、ご主人様に感謝を述べるという流れのようだ。そして呼ばれていく度にその花束の薔薇の本数は増えていく。写真を撮ってくれた彼や荒木の取り巻き達も名前を呼ばれ始め、いよいよ自分達と荒木の三人が残る。『次に薔薇を頂いたのは…荒木様』と発表があり大きな花束が運ばれてくる。荒木はそれを礼儀正しい礼とともに受け取っているがその顔には明らかな悔しさが浮かんでいて表情を繕いきれていない。煽ってきた時とは大違いの態度に溜飲が下がるのを感じながら執事長が一呼吸置くと『では今宵最もご主人様から薔薇を頂いた者を紹介させて頂きます。左様、フィリップ様こちらへ』と前に出るように促され相手と目を合わせてから中央に出てくる。運ばれてきたのは綺麗にラッピングされた大輪の薔薇の花束二つで今日集めたその量が可視化されて思わず目を瞬かせて呟きを零した。あの本数だけ自分達の給仕が良かったと思って貰った証拠だと思えば自然と口角が上がって無意識に姿勢を正す。一つでも立派な花束を相手と一緒にそれぞれ受け取るとご主人様達に笑みを浮かべながら改めてお礼を伝える。相手からの言葉も待つと執事長の方から『せっかくですのでご主人様から頂いた薔薇と一緒に記念写真を撮りましょうか』と提案がされてカメラが向けられると花束を持ったまま相手と並んで)
おぉ……。フィリップも言いましたが私達は今夜だけの執事です。この短い時間の間にこんなにもたくさんお嬢様の笑顔を作ることが出来て光栄に思います。至らぬ所もあったかと思いますが皆様が暖かく見守っていただいたおかげで良い時間を過ごすことができました。ありがとうございました
(相手と共に並んで薔薇の花束の授与が始まる、薔薇の数に従って順番に名前が呼ばれていくが自分達よりも先に荒木の名前が呼ばれ悔しさを滲ませて花束を受け取る荒木に小さく笑みを浮かべていた。そしていよいよ自分達が呼ばれると誇らしげな気持ちと共に相手と目を合わせてから前へとでる、それぞれに貰った薔薇が綺麗にラッピングされて手渡されたがなかなかの多さで思わず素で言葉を漏らしてしまった。荒木と自分達二人分での勝負だったはずだが蓋を開けてみれば三人とも薔薇の数はさほど変わらず、二人分となれば荒木に倍近い数薔薇をいただけたことになる。いつもなら探偵としてこの街に笑顔でいて欲しいと願っているが、今日は執事としてこの街の人を笑顔にすることが出来たらしい。それが花束として可視化されるとなんとも気恥ずかしいがそれ以上に嬉しくもあって一本ごとに想いの乗った薔薇を暫し見つめていた。相手が先にお礼の言葉を言い終えるとこちらも執事として最後のお礼を伝えて深々と頭を下げる、二人には派閥関係なくホール全体から拍手が送られてまた相手と共にひとつのことをやり遂げられたのだと実感がわいた。執事長に言われて撮影タイムとなり相手と共に並んで大切に花束を抱えながらレンズの方を見る、カメラを構えるのはもちろんブロマイドを撮ってくれた執事で満面の笑みでシャッターを切ってくれた。彼の依頼も無事達成することができた、これで少しはこの執事喫茶の在り方も変わるだろう。再び執事長から『それでは最後にご主人様のお見送りを』と号令がかかって執事が順にご主人様を引き連れ出口へと移動していく。ホールの方を見れば相手が最初に接客した二人が相手のことをじっと見つめていて「呼ばれてんぞ」と声をかける。彼女らは相手に任せるとして一旦相手から離れると自分は一直線に夏目を推すお嬢様、清美さんのところへと向かう。傍へとやってくればお嬢様は『よくやったわ左』と笑顔で迎えてくれて「お嬢様にあそこまでお膳立てしていただいた以上、勝つ以外選択肢はありませんからね」と気取って答えればお嬢様を出口までエスコートして)
ああ、行ってくる。 お嬢様達の世界が広がる初めの一歩を見守ることが出来て光栄でございます。紅茶もコーヒー同様奥が深い飲み物ですので是非他の紅茶も試してみてください
(見たこともないくらいの大輪の薔薇を抱えながらこれを捧げてくれたご主人様に礼を伝えると続いて相手も感謝を述べる。慣れない事も多かったが荒木のように過剰のサービスをせずとも真摯に執事としてご主人様に向き合うことで満足して貰う事が出来たと少しは証明出来ただろう。相手と共に揃って一礼をすれば拍手を送られて照れ臭くも笑みを零した。相手と並んで今日という日の記念写真を彼に撮って貰い『お二人ともとてもかっこよかったです』と満面の笑みで感想を受けるとこちらも笑みを返した。執事長の号令でご主人様をお見送りの時間となる。相手に促されて視線を向けると紅茶について勧めた二人組のお嬢様がこちらを見ていて頷くとそちらに向かう。『フィリップさんのお勧めしてくれた紅茶美味しかったです』『今日初めて執事喫茶に来ることが出来てラッキーでした』とそれぞれにお褒めの言葉を頂けると姿勢を正してからこちらからも礼を伝える。初めての執事喫茶と紅茶をそれぞれ楽しんでくれたのなら執事をやった甲斐があったというものだろう。その他の紅茶も勧めながら入り口までエスコートすると『またの御帰宅をお待ちしております』と言ってお嬢様達を見送った。他のお嬢様もお出掛けしていく中でホールに目をやろうとすればやけにご機嫌な執事長と目が合ってこちらに近づいてくる。思えば確かに夏目派の執事は休みではあったが人数で言えばこなせないほど人が少なかった訳ではない。執事長は荒木のやり方を黙認しているとのことだったがわざとそのような空気にしたうえで新たな対抗勢力を加えて争わせ、売上を伸ばすと共に執事喫茶の空気感を変えるためにわざわざ部外者である自分達に依頼したのではないかと思えてきた。素に戻した口調で「…何処まで想定していたんだい?」と聞けば『何のことでしょう』と弾んだ口調で返されてこういった人物の方が底が読めないと認識を新たにしていた。だがそれだけ役に立っていたならと始める前に伝えていた通りブロマイド一式と先ほどの記念写真のデータをリクエストすると『勿論お礼は弾ませて頂きます』と快諾がされる。その返事に一安心すれば相手の元に向かって「お疲れ様」と声を掛けて)
……侮れねぇな、あの人
(新規のお嬢様二人から相手に視線が注がれているのをみて相手に声をかけ一旦別れる、相変わらず見慣れない格好で誰かに好意的な目を向けられているのは気持ちが落ち着かないが相手が褒められている声が聞こえてくるとそれはそれで嬉しくてなんとも複雑な感情だ。相手より一足遅れて清美さんを出口まで送り「またのご帰宅をお待ちしております」と定番のセリフでお見送りする。その後数人のお嬢様をお見送りしたが中には荒木達に反対している方もいたようで『執事喫茶って貴方達みたいな執事がいるとこよねって改めて思ったわ』とお褒めの言葉もいただき「恐縮です、お嬢様」と礼を伝えながらまたお出かけを見送った。お嬢様が大方はけたところで相手の方をみれば執事長が相手へと近づいていく、執事長はこの件を黙認してっきり店の雰囲気の流れを変えたことに怒っているのかと思っていたがその顔はにこやかで目を瞬かせる。まるでこうなるのを望んでいたような態度に相手が探りをいれるが答えは返ってこず、引き攣った顔で小さく笑うしかなかった。だがどういう経緯にしろ執事長が満足いく結果を自分達が引き寄せられたのならこの店にとっても良い日になったはずだ。相手が何やら執事長とやり取りするのを横目に片付けを済ませると相手がやって来て声を掛けられる。こちらからも「お疲れ、フィリップ。なかなか長い戦いだったな」と労をねぎらった。ホールの片付けなどまだ済んでいないが執事長から『お二人は先にあがってください。後のことはやっておきますので』と声がかかる。片付けなどは勝手が分からないこともありここはお言葉に甘えて先に着替えさせて貰うことにした。ホールを出て最初に通された控え室へと引き上げてくると既に着替えが用意されている、執事でいるのもこれで終わりのようだ。ジャケットを脱ぎループタイを外してシャツの第一ボタンを外すと一気に呼吸がしやすくなる、その瞬間にプツリと緊張の糸が途切れて「…フィリップ」と覚束無い声で名前を呼ぶとふらりと力無く相手の方へと体が傾いて)
やっと執事の役も終わり、っ!やっぱり無理していただろう
(真意は読めないものの結果的には全て良い方向にまとまったならよしとするべきだろう。片づけをしていた相手に声を掛けると執事長から先に上がっても良いと言われ素直に甘える事とする。単にお手伝いのはずが執事喫茶全体の争いのようなものに巻き込まれて長丁場かつ緊張の抜けない時間だった。控室に戻ってくると着替えなどが一式用意されていて下ろしていた髪を雑に崩して横髪をクリップで簡単に纏めるとジャケットなどの服や装飾を外していく。無意識に姿勢も常に正していたのも崩すとどっと疲れがやってきたがふと左側にいた相手が覚束ない小さな声でこちらの名前を呼んだかと思えば力なく倒れてきて慌ててそれを受け止めて支える。触れる体温は普段より少し高く感じられて緊張が解けたのと同時に疲れとアルコールが一気に来たのだろう。勝負を仕掛けた時に無茶をするなと釘を刺したはずなのに、と小さく息を吐くが相手のおかげでこの結果を得られたのを事実だ。こちらに体重を預けさせるような形で相手を抱き直して楽な体制を取らせながら顔を覗き込むと「お疲れ様。今気分が悪いとかこれが欲しいとかあるかい?」と相手に様子を伺い、その背中を優しく撫でて)
最後まで立ってただろ……、…お前が欲しい
(単なる簡単なお手伝いの依頼だったはずが執事としての立ち居振る舞いを学ぶ所から売上競争に巻き込まれ意地でも最後まで執事として立ちながら相手と共に頂点を掴み取ったわけだが、相手と二人きりの空間になりこれで執事も終わりだと思った瞬間にアルコールを上回っていたアドレナリンも集中力も緊張感も途切れてしまってこの空間で一番頼れる相手の方へと体を預けた。耳の端は未だに真っ赤で体温は高い、相手に体重を預けながら背中に腕を回すと相手から文句が飛んでくるがそれを屁理屈で返していた。顔が覗き込まれて視線を混じえ欲しいものを問われる、いろいろと必要なものはあるはずなのだがすっかりアルコールが思考に侵食してしまってある意味で一番素直な答えを返すとそのまま顔を近づけ唇を奪った。強く唇を押し付けてから顔を離すと望んだものが得られて緩みきった笑みを見せる。だがふと相手がアルコールを飲んでいたことを思い出すと途端に表情を心配そうなものへと変えた。相手の頬に手を添えて瞳を覗き込みながら「お前、あんなにワイン飲んで大丈夫だったか?気分悪くなってねぇか?」と自分が問われるべき質問を相手へとしていて)
…ん、さっきまでの君とは大違いだ。あれくらい何ともないよ、君が心配で酔ってる暇も無かったし。
(促したままに体重を預けられ背中に腕が回される。屁理屈を言う相手を抱きしめながら様子を伺うと率直な答えが返ってきて顔が近付いてくる。そういうことでは無いのだがそれぞれ働いていた分相手が不足しているのはこちらも同じでされるがまま唇を重ねた。特別な温度を感じてから離れると相手は緩んだ笑みを見せる。先程までの執事としてスマートに動いていた姿とのギャップと自分だけが見れる特別感に優越感を覚えてこちらも軽く口元を緩めて感想を告げる。だがそんな顔が心配に変わり、頬に手を添えられると質問をされると目を瞬かせる。あの時ワインを飲んだことを心配しているのだと分かれば問題無いと返す、飲んだ直後はアルコールを感じていたがその後にワインを一気に煽る物だから気が気で無かったと少し眉を寄せながら告げる。今もほんのりとだけその影響を感じるだけであれば相手の赤くなった耳朶に軽く触れながら「僕の方が強いのかもしれないね」と言葉続けて)
だって、もうご主人様に使える執事じゃなくてお前の相棒でいいんだろ?…ん、……飲んだ量が全然違ぇんだからまだ分かんねぇだろ
(執事らしい服をきて格式高い雰囲気の中にいれば自然と背筋も伸びて言葉遣いもそれなりのものになっていた。しかしそんな気を使う必要もない空間になれば思考が回らないのも相まっていつもの探偵を通り越して一切着飾らない左.翔.太.郎にまで一気に針が振れてしまう。特別な柔らかさを感じた後に心配するように相手の瞳をみれば逆に心配されてしまって相手の眉の間が狭まる、だが相手が無事ならばとりあえずはいいだろうと反省のない笑みを浮かべていた。相手は呂律もしっかりしていて抱きつく体は自分のよりも体温が低く心地よい、異常はきたしていないようで安心していると耳朶に指先が触れて擽ったそうに笑みを漏らす。しかし直後酒の強さは自分が上だと言われると負けず嫌いが発動して即座に反論する。以前アルコール入りのチョコレートを食べた時は同じくらいには酔っていたはずだ。ようやく相手はあらゆるご主人様に仕える執事からいつもの相棒で恋人の存在に戻ってこのままくっついていたいのだが早上がりさせてもらったのにいつまでもここにいると不審がられてしまう。不満を隠さない顔で心底残念そうな笑みを浮かべると「いい加減いつもの服に着替えちまうか」と自分のせいで遅延しているにも関わらずため息をついて)
ああ、僕だけの相棒だ。…そうだね、早く帰ろう翔太郎。
(あれだけ色々な人に仕えてそれらしい言葉を紡いでいたが仕事が終わってこうして話していれば自分の元にちゃんと返ってきたようで安心する。執事をしていた時には我慢していた独占欲をチラつかせると熱持った相手の肌を撫でた。あれだけこちらは肝を冷やしたというのに相手からは反省の色は見えないが何事も無かったのならそれで良い。相手に触れ合いながら会話を続けていたがホールの片付けが終われば他の執事もここに来るだろう。今の酔いが回って全体的に緩い相手を他の人には見せたくない。相手の言葉に頷き、二人だけの家に帰ることを宣言すると腕を離して着替えを再開する。かちっとした燕尾服からいつもの服へ着替えると堅苦しい物から解き放たれたようで思わず伸びをした。先に着替えが済むと少々覚束無い仕草の相手を手伝ってネクタイを結び、襟を整えてやる。着替えが済んだ所で控え室にノックがされて返事をする。入ってきたのは執事長で『依頼料とご依頼された物、それと私からのお気持ちを少しだけ準備させていただきました』と高級感のある紙袋が渡される。少々気になる言い回しはあったが感謝の気持ちは伝わってきて素直に少し重みのあるそれを受け取った。『またいつでも御帰宅でも執事としてもお二人をお待ちしております』と笑う執事長に改めて礼を伝えると相手を軽く支えながら執事喫茶を後にして)
あぁ……今日はお前が誰かと話してるとこ散々見せつけられたんだから、早くお前を独り占めにしてぇ
(相手に崩れそうな体を支えられ肌を撫でられると安堵するようにゆっくりと息を吐き出す、今日一日仕事とはいえお嬢様に手を握られたり誰かのために椅子を引いたりエスコートしたり、そうやって他人に使って決して誰かに触れようとしなかった手が今自分に迷いなく伸ばされ触れられていることに言いようのない優越感を感じていた。相手から帰宅の同意を得られれば心のままの言葉が溢れ出して一度ぎゅっと相手を抱きしめてから体離し着替えを再開する。多少ふらつきながらも執事の服を脱いでいきいつもの探偵の格好へと戻っていく、しかしふらつく思考では着替えるのさえ一苦労でシャツのボタンをひとつ止めるのにも随分時間がかかってしまった。ようやく全てのボタンが止まった頃に相手はもう着替えが終わっていて「フィリップ、」と声をかけてネクタイを結んでもらう。相手だけが結ぶのを許された首輪とも称されるそれを結ばれて満足気に笑みを浮かべながら襟を正されるとジャケットを羽織りハットを頭に乗せてようやくいつもの姿へと戻った。着替えが終わったところで執事長が入ってきて慌てて顔を引き締めいつもの探偵の表情を浮かべる。相手には依頼料を含めた紙袋が渡される、その中身は随分と重そうだが執事長に内容を聞くのは野暮というものだろう。こちらからも今日一日世話になった礼を伝えて相手に支えられながら執事喫茶を後にした。そのまま帰路へつくが相手に触れられているのに介助されているような体勢はどうにも物足りなくて「こっちの方がいいだろ」と言いながら支えていた手を無理やり取って手を繋ぐ、ここら辺なら人通りは少なくルールの適用外だ。上機嫌に歩きながらチラリと紙袋の方をみやると「それ何入ってんだ?」と好奇心のままに聞いてみて)
それもそうだね。見てみようか、…さっきの薔薇の花束の一部と依頼料とブロマイドだね。それとこれはあの店で使われていたコーヒー豆で、こっちの箱は何だろうか。
(家に帰ることを促せばその裏に隠した意味も読み取ったようで同じく独占欲を含んだ言葉が告げられ帰り支度を急ぐ。普段ならば子供扱いするなと文句を言われてしまう手伝いも終始ご機嫌に受けいれていてアルコールの効果は抜群のようだ。だがそんな相手も執事長が入ってくれば普段の探偵の姿をするのだから素直に感心していた。紙袋を受け取りそれぞれ礼を伝えて執事喫茶を後にする。ふらつきそうな相手が心配で支えるように道を歩いていたがその手が剥がされて相手の手と繋げられる。一瞬驚いてしまうがこの辺りは人通りは少なく、左に並ぶ相手の横顔がやけに上機嫌に見えるとこちらも表情を緩め指を絡めるようにして繋ぎ直して軽く力を込めた。そうしていると相手に紙袋の中身を問われて自分も気になると手を繋いだまま中身を確認する。まず目に付いたのは先程送られた薔薇の花が数輪の手頃なサイズになった花束で、その横に依頼料の入っているであろう封筒と依頼していたブロマイドの束がある。ここまでは想定内だがその横にあるクラフト袋の印字を確認して先程提供していたコーヒー豆だと分かれば声を弾ませる。だがその隣のネイビーの細長い箱の中身は分からなくてずっしりと重みのあるそれを取り出してみる。だが特に印字がある訳でもなく高級そうな化粧箱とだけ分かると下を支えながら「開けてみてくれ」と相手に促して)
すげぇ……なんか今日一日の事を詰め込んだ中身だな
(フワフワと心地よい気分に揺れながら相手と共に夜の風.都.を歩く、いつかの夜にこんな風に夢か現実かを彷徨いながら相手と楽しい時間を過ごしたことがある気がして気分は更に良い。こちらが繋いだ手が指を絡めるように繋ぎ直されて恋人の繋ぎ方になるとますます気分はあがって鼻歌でも歌い出しそうな勢いだった。その上機嫌のままに紙袋の中身を聞いてみる、こんな時でも手を繋いだまま中身を確認する相手に喜びを感じながら身を乗り出して紙袋の中身を覗き込んだ。そこに入っていたのは依頼料に加えて薔薇の小さな花束とブロマイドとコーヒー豆と何かの化粧箱だ。ブロマイドはどうやら撮ってもらったもの全てが入っているようでなかなかの厚さの束になっている、きっとあの中には好評だったツーショットも入っていることだろう。相手が何やら執事長とやり取りをしていたがどうやらこれの交渉だったらしい。さらにコーヒー豆は二人で一人の実力を見せつけた代物だ、相手がコーヒーについて語っていたのも相まってお土産に入れてくれたのだろう。実際相手は声を弾ませていて自然と口角があがる、これはまた家でコーヒーを飲む時が楽しみだ。そして薔薇は言わずもがな、今日言葉を交わしたご主人様の想いが詰まった薔薇は瑞々しく輝いて二人を讃えているようだ。こうみればそのどれもに思い出があって改めて色々あった濃い一日だったのだと実感する、メイド喫茶のお手伝いもいろいろと大変だったがこちらは店の事情に巻き込まれさらに予想外の依頼となったが同時に最高の結果を相手と共に残すことが出来た。そして最後のひとつ、中身の分からない化粧箱を相手が取り出す。特に何が書いているわけでもなくて不思議そうに眺めていると相手に開けるように促され頷いてから中身が飛び出さないようにゆっくりと蓋を開けて)
これは…あのワインだ。なかなかの高級品のはずだけど執事長の笑みの理由はこれだった訳だね
(相手の酔い具合によってはタクシーで帰るのも考えていたがこうやって歩いて帰るのも悪くない。相手からも上機嫌なのが伝わってきて一緒に気になる紙袋の中身を確認する。仕事中執事長の気配はあまり感じられなかったが自分達の接客の様をちゃんと見ていたラインナップで口角が上がる。色々と大変だった一日だが相手の言う通りこうやって詰め込まれてみると思い出に残る物ばかりだ。となればこの中身が分からない箱もそうなのかと相手に声を箱を開けて貰う。その中にはあのお嬢様と一緒に飲んだワインと同じ物が入っていて目を瞬かせる。確かにこれも思い出の品ではあるが勝負の中で飲む事になったこれを入れるとはあの執事長の性格が伺える。ワインにあまり知識がなくとも見た目と店で提供された値段から高級品であることは伝わってきて執事長の気持ちとはこれだったのだろうか。素直な感想を述べながら必死に止めていた相手とあの時には抱く余裕の無かった好奇心が疼くと「貰ったものは消費しないと悪いと思わないかい?」と目に輝きを乗せながら交渉してみて)
あ……まぁ俺達が勝った要因ではあるな。…、お前まだ酒飲める歳じゃねぇだろ!絶対にダメだ!
(今日の思い出をぎゅっと濃縮したような内容にただただ口角はあがる、流石は相手に敬意を持って尽くす執事の頭を勤めている人だ。最後に残された大きな化粧箱をそっと開けて中身を覗き込むとある意味で思い出深いワインが出てきて思わず微妙な笑みを浮かべてしまった。確かに二人で力を合わせ勝利を決定づけたものではあったがこれのせいで今自分はフラフラになっており相手は不本意ながらもアルコールを飲まされてしまったのだから。だがこれがあの店の高級ワインなのは確かで味も当然良かった、手土産としては最高のものだろう。相手はこのチャンスを逃すまいとワインを飲むようにこちらへと誘いかけてくる、好奇心に輝くその目はいつも通りずっと見つめていたいものだがこればっかりはアルコールで思考がぼやけていても答えば変わらない。すかさずノーを叫んで化粧箱の蓋をしワインを隠してしまう、相手の正確な年齢は分からないが少なくとも今成人していないのは明らかだ。ワインであれば長期で保管しても問題ないのだから「これはお前が大人になった時のお祝いまでお預けだな」と少々揶揄いまじりに言って)
(/お世話になっております!少しご相談なのですが、この後帰宅してからアルコール混じりに今日の振り返りをするお話をこのまま続けるかここで区切って次のお話にいくか少々迷っておりまして…検索様のご希望はいかがでしょう?)
あっ! 今なら行けると思ったのに…。…分かったよ、そういう事にしておこう。
(箱の中身は予想外の物であったが今がチャンスとばかりに相手に好奇心を宿した目を向ける。今の相手はアルコールに酔っていてご機嫌だ。自分のお願いに弱い事と思考が回っていないことに賭けて飲みたいと意志を示したのだが頑固拒否の態度を貫いて箱に蓋をしてしまうと思わず声を上げる。酔っていてもこういうラインはちゃんと守る意志は強いらしい。こうやって毎度のこと取り上げられるからこそ余計気になるのだがこの様子では揺らぐ事は無さそうでむすっと子供っぼく拗ねて呟きを零す。普段は並び立つ相棒であるのにこういう時には子供扱いされてしまう、不満を顕にしていたが大人になったお祝いと聞けば少し揺さぶられる物があってひとまずは頷いておいた。また機会があれば狙えば良いだろう。そんな話をしていれば家の近くまでやってきて再び人通りのある道になる。だがこの手を今更離すのは惜しくて「風が当たると寒い…」と呟きながら風よけにするように相手に肩を寄せくっつくとその間に繋いだ手を隠してしまう。「早く帰ろう、翔太郎」と声をかけるとそのまま早足で歩き始めて)
(/こちらこそお世話になっております。今回の話が色々な人と関わるものだったので二人で過ごす時間が欲しいなと個人的には思っておりまして次が二人の日常の話や甘めな話ならば区切ってそちらに移っても良いですしその他の系統の話がご希望なら帰宅後の会話を楽しんでから次に移りたいなと思うのですが探偵様はいかがでしょうか?前者ならばアイススケートデートや出張の予定から早めに帰ってきた探偵君に検索の夜更かしがバレる話、後者なら赤い刑事君関連の話や喧嘩してギクシャクしてる時の話などが浮かびましたが探偵様のご希望をお聞かせください!)
ったく、油断も隙もねぇな……、…あぁ、早く家に帰ろうぜ
(いくら酒を飲もうとも相手が未成年のうちは飲酒を止める絶対的な自信がある、体に悪影響な上検索して好奇心が暴走すればきっと目も当てられない状況になるだろう。相手はそれこそ子供のように拗ねていてその表情には心揺さぶられるがやはり飲酒を許すことは出来ない。その代わりに大人になった時まで取っておく案を出せば相手はとりあえず納得したようで無事ワインはこのまま保管されることとなった。人通りのある道に出てそろそろ手を離さなければならないかと露骨に暗い顔をするが相手がこちらへとくっついて繋がる手を隠してしまう、これならば周囲に手を繋いでいるとバレることはない。直ぐに表情を明るくさせると二人の間でこっそりと繋がれた手をぎゅっと強く握った。冷たい風に吹かれながら家へとたどり着くと玄関の扉を開けて中へと入る、靴を脱いで寒さから逃げるように相手と手を繋いだままリビングへと駆け込んだ。そのまま後ろへ振り返ると直ぐさま相手を抱きしめる、まだ上着も脱いでいない状態のせいで「なんか、思ったよりあったかくねぇな…」ときちんと相手の体温を感じることができずに眉を下げた。上着を脱げばいいのに今はそれを判断する思考はもはやなくて、ふと良いことを思い出すと互いの頬をぴったりとくっつける。思った通り露出されたそこは最初こそ冷たかったものの相手の体温がじわじわと感じられて「へへ、フィリップあったけぇ…」と幼く笑みを浮かべていて)
(/沢山候補あげていただいてありがとうございます!こちらも二人の甘い時間が欲しいなと思っておりましたので、よければこのまま続けさせていただいてもよろしいでしょうか?その後は騒がしいお話ができればと思っておりましたので、夜更かしがバレる話か喧嘩してギクシャクしているお話ができれば良いなと思っております。ひとまずこのまま続けておきましたので二人きりの時間楽しめれば幸いです/こちら蹴りで大丈夫です!)
ただいま…っ、まあお互いにこれだけ厚着していればそうだろう。ああ、あったかいね…。
(相手と暖を取るフリをしてくっついて繋いだ手を隠すと分かり易く表情は明るいものになって強く握られる。伝わってくる普段よりも高い熱を感じながら早足で帰路を急いだ。家に辿り着くと玄関を開けて帰宅の言葉を口にしながら中に入る。手を引かれるままリビングに入り、ひとまず紙袋を床に置いた所で振り返った相手に直ぐさま抱きしめられる。一瞬驚くものの相手の酔った時の癖を思い出してこちらからも受け止めるように腕を回すが不満気な呟きが聞こえてくると思わずツッコミを零す。触れ合いたいのなら一旦腕を解いて上着を脱ぐべきなのだが相手は寧ろ頬をくっつけてくる。外気に触れていたそこは冷たかったが段々とお互いの体温を伝えあう。それに対して幸せそうに幼い笑みを浮かべる相手に心掴まれるとこちらからも軽く擦り寄りながら感想を呟く。だが先ほどの執事の面影など微塵もない子供っぽい姿を見れば少し悪戯心が湧いてきて背中に回した手を上着の中に忍ばせてシャツを軽く引っ張ると脇腹の素肌に自らの冷たい手を押し当てて暖を取ろうとして)
あ、そうだな。…ん……?びゃぁっ?!
(今日は相手と一日一緒にいたのに途中からずっと相手以外の所にいて、さらには相手も別の誰かの所にいて、なかなか同じ時を過ごすことが出来なかった。普段ならば依頼だからと割り切れてもアルコールが回ってより気持ちに素直になった頭では相手との時間が過ごせなかった不満の方が前に出てしまって二人きりになり直ぐさま相手を腕の中に捕まえた。なかなか体温が伝わってこずに不満を漏らしたが相手から冷静なツッコミが入りようやくその理由に思い当たる、せっかく相手を抱きしめているのにこれでは全く相手を感じることが出来ていない。頬だけは相手の体温を感じることができて相手が擦り寄ってくると心がフワフワと幸せな気持ちに包まれてますます笑みが深まる、このまま頬を離したくない気持ちもあるがもっと触れ合う為にはまず上着を脱がなければならないだろう。軽く上半身を離したところで相手の手が服の中へと入ってくる、いつもならばその思惑に気づくところだが相手の行動ならば止める理由もなくて目を瞬かせながら見守っていた。次の瞬間に脇腹へ冷たい手が当たって思わず変な声を出して体を跳ねさせてしまう、せっかく相手の体温を堪能していたというのに。してやられたことに対しニヤリとやる気と悪戯心を宿した笑みを浮かべ「やったな?」と子供のように言えば相手に回していた片腕に力を込めて相手を捕まえる。相手が逃げられない状況で堂々と前を開けて上着を引っ張りながら布の下に手を伸ばすと楽しげな笑みを浮かべながら背中へと手を滑り込ませ素肌に直接冷たい手を押し当てた。そのまま腕を交代させるともう片方の手も背中側へと侵入し素肌へと押し付けぎゅっと冷たい手で相手を抱きしめて)
ここなら暖が取れそうだ。 待っ、ひゃっ! っ…つめたい。
(返ってきて早々抱きしめあって体温を共有する。唯一触れている頬を擦り寄らせると相手は嬉しそうに笑ってこちらも暖かい気持ちを抱きながらくっつく。相手も漸く上着のせいで体温が伝わらないことに気付いたようだが離れていく前に手を忍ばせて温かい肌に冷たい手を押し付ける。その瞬間変な声を上げながら予想以上のリアクションを見せる相手にクスクスと笑う。何ともないようにコメントを述べているとこちらを見た相手がニヤリと笑ったかと思えば腕に力を込められて嫌な予感を覚える。だが逃げる前に楽しそうに手が背中に伸ばされて素肌に冷たい物が触れると裏返った声を出しながら体を跳ねさせた。だがそれだけでは留まらずもう片方の手も素肌に触れて抱き締められると冷たさに身が震えた。見事に仕返しされてしまって悔しげに文句を口にするが段々と自らの熱が相手に移ると触れる冷たさもマシになってくる。こちらも服の下に腕を回して緩く抱きしめていたが相手の服から執事喫茶の中で着いたであろう見知らぬ匂いを僅かに感じるとそれを早く除きたくなって「今日は疲れたし先にお風呂に入らないかい?」と提案して)
へへ、俺はあったかい。…そうだな、早くお前ともっとくっついて俺だけのにしたい
(冷たい不意打ちを食らった仕返しに相手を腕の中に捕まえて冷たい手を押し当てると相手の体が跳ねるのが分かる、自分のしたことで相手が反応するのが今日不足した分構ってくれているようで妙に嬉しくて上機嫌に強く抱きしめてしまう。文句混じりの言葉も受けるが悪戯心を滲ませながら自分は大丈夫だと子供っぽいことを口にする、しかし相手の不満気な顔をそのままにしておくわけには行かなくて慰めるように軽く口付けを送った。相手も服の下に潜り込ませた手を滑らせ背中側に回していて素肌同士が触れ合う心地に浸っていると風呂に入るよう促される。このまま相手の素肌の温かさと触り心地に浸っていたいところだがまだ上着も脱いでいないこの状況ではこれ以上相手に近づくことはできない。ここは一旦我慢してあとで存分に楽しむ方がいいだろう。相変わらず口からは脳を介さない言葉が出てきてしまう、依頼とはいえずっと誰かに相手を取られていた反動が出てしまっているのだろう。早く相手とくっつきたい衝動が襲いきていても立ってもいられなくなれば相手にまた軽く口付けを送って「先入ってくる」と声をかけると名残惜しくも腕を解く、だがその分手早く上着類を脱いだ後駆け足で風呂場へと直行して)
ん、行ってらっしゃい。
(相手はこちらの反応を見て楽しそうに笑ってやはり全体的に幼い。機嫌を取るようにされる口付けも愛おしくてさらに距離を詰めるようにぎゅっと相手を抱きしめた。だがそれだけでは足りなくて相手に風呂に入るように促すとまたもや素直な言葉が告げられて鼓動が跳ねた。自らもそうしたいと言う我儘が形となるのを感じながら相手の軽い口付けを受けると目を細めて微笑み、慌ただしく上着を脱いで風呂場に直行する相手を見送った。相手が風呂に入った入っている間、貰った物を片付ける。コーヒー豆とワインはひとまず食品を置いている棚に入れて、薔薇の花束は普段使わないグラスを花瓶代わりにさしてテーブルに飾ってみる。それだけでも部屋は華やかになって暫くは暮らしに彩りを添えてくれそうだ。続いてブロマイドの束を確認してみると撮影した全ての写真と二人で花束を持って写った写真が纏めてある。相手の写真を順番に見ていくとやはり特別な格好にあまり見慣れない格好で写っていてこの写真達を他のお嬢様も持って帰ったと思うと少しだけモヤモヤする。だが最後の一枚は自分達だけのもので自然体で映るその姿に自然と表情が緩むと何処か部屋に飾ろうかと悩みながら相手を待っていて)
あがったぜ、フィリップ。あ、薔薇飾ってくれたのかぁ、ありがとよ。それ俺達の写真だ。………これ配られたんだよな
(浴室に入ると直ぐさまシャワーを浴びて体を洗い始める、ただでさえアルコールが回って覚束無い頭は温かなお湯で体温があがったせいでさらに血の巡りを加速させて頭をぼんやりとさせて行く。暫くシャワーを浴びていることも忘れて突っ立ってしまったが意識が飛ぶ前に相手の元に帰らなければならない事を思い出すとその後はまた手早く体を洗って浴室を出た。いつもの寝間着を着てリビングに戻ってきたものの髪さえ満足に拭けずに頭はまだまだ濡れっぱなしだ。それに気が付かず相手の隣へやってくると相手が袋の中身を整理してくれたことに間延びした口調で礼を言いつつ手元を覗き込む。そこには報酬の一部であるブロマイドがあって二人で薔薇の花束を持って並ぶ構図に上機嫌な顔を浮かべる。しかしその後ろにある写真は全て薔薇のお返しに配られたブロマイド、相手が見慣れない格好で普段見ることができないポーズを取っているのにそれを知るのは自分だけではない。二人で何気なく会話している姿だってツーショットとしてご主人様の間で好評になってしまって自然な笑みさえ誰かに奪われてしまった気分だ。相手は自分のものなのにと思考は加速して相手の首周りに腕を巻き付かせてぎゅっと抱きつく、子供が大切なぬいぐるみを離さないように強く抱きしめると「…あとで俺しか知らないフィリップの顔絶対に見る」と小さくボソリと呟いて)
おかえり、ってびしょびしょじゃないか。…まあ、そうだね。…是非そうしてくれ、
(ブロマイドの中身を確認していると隣にやってきた相手から声が掛かってそちらを向く。紙袋の中身を整理する時間があるほど少し長めに風呂に入っていたようだがぽたぽたとまだ水滴を垂らすのを見れば相手が持ってきたタオルを取って代わりに髪を拭いてやる。その間相手の視線は手元のブロマイドに向く。今日の記念にと執事長にリクエストした物で最後に撮った写真を見た相手の顔に上機嫌な笑みが浮かんだ。だがその後ろの沢山撮ったお互いの写真に移るとその顔は不満げなものになっていき、先程自分が思ったことと同じことが呟かれて曖昧に肯定する。流石に全て揃えた物は数からしても居ないだろうがそれぞれをお嬢様達が持っていることには変わりない。すると首元に自分のモノだと主張するように腕が巻きついて強く抱きしめられながら思わぬ宣言が聞こえてくると何とも子供っぽくも健気な姿に笑みが零れた。相手の前ならばありのままの姿も他の人の前では浮かばない表情も全部見せられる。弾む声と共にわしゃわしゃとまだ濡れた髪を撫でると「僕もお風呂に入ってくるから頑張って起きていてくれ」とお願いして軽く口付けて風呂場に向かう。手早く服を脱ぎ、シャワーで温まりながら髪と体を洗う。特にセットして貰っていた髪はワックスなどが残らないように丁寧に洗い流してスッキリするとお湯を止めて拭きながら浴室を出る。相手の色の寝巻きに着替えて出てくれば「ただいま」と言いながら相手の姿探して)
ん、…へへ、……フィリップともっといたいからちゃんと起きてる。だから早く帰ってこいよ
(ブロマイドを覗き込んでいると相手の手が再びこちらへ伸びてきてきょとんと見つめているとバスタオルで髪を拭かれる、頭を優しく撫でられるような形に幼い笑みを漏らし幸せな心地に浸っていたがブロマイドを通して相手が誰かに取られてしまったことに不満を覚えていた。相手は自分のものだと主張するように腕の中に閉じ込めるとさらりとその行為も後に続いた言葉も肯定されてしまってまた気分は上向く。さらに頭を撫でられると緩みきった笑みを浮かべて相手が出てくるのを待つように言われて笑みのまま頷く。やっと相手と二人きりになって相手を独り占めできるようになったというのに寝てしまうなんて勿体ない、ここからは誰かに相手を取られてしまった分相手を自分の物にしたい。そんな想いさえ口に出しつつ相手を見送った。浮ついた手つきで何となく髪を拭いて最後に残った水気を拭き取るとブロマイドを順に捲っていく、独り占めに出来なかったのは残念だが執事をしている間相手の方を見る隙間はあまりなくこうやって形に残してくれたのはある意味では有難かった。そうしていると浴室から出てくる音が聞こえていつもの寝間着に着替えた相手がリビングにやってくると早々に駆け寄り「おかえり、待ってたぜ」とまた腕の中へと閉じ込める。風呂上がりの体はホカホカと温かくて思わず擦り寄ると先程まで嗅ぎなれないワックスが香っていた髪はすっかりいつもの香りに戻っていて髪に鼻先を埋めてそこの空気を吸い込むと「お揃いのシャンプーの匂いだ」と弾んだ声で言えば心のままに髪と近くにあった耳朶へと口付けを落として)
ふふ、温かいね。…ん、この匂いが一番好きだ。…湯冷めしてしまう前にベットに行こうか
(相手の嬉しい言葉で見送られ相手が寝てしまわない内に髪と体を洗って風呂場を後にする。リビングに出てくれば早速相手が駆け寄ってきてまた腕の中に閉じ込められる。寝巻きはもこもことしているが上着を着ていた時よりも体温を伝えやすくて心地よい温度が体を包む。擦り寄られる擽ったさも相まって穏やかな笑い声を零すとこちらからもぎゅっと相手を抱きしめる。そのまま髪に鼻先を埋められて匂いを嗅がれている気配がすれば少々照れ臭い気持ちになるがお揃いと言われると温かな物で満たされる。この家で暮らすようになってすっかりこのシャンプーの匂いやボディーソープも馴染みの物になって纏う香りの重要な一部となっている。それは相手に関しても同じで髪と耳朶にキスが落とされる感触とその度に感じる香りに柔らかく微笑んで思ったままの言葉を口にする。外から受けた影響もなくなっていつもの自分だけの恋人になった相手をもっと堪能したくなればそれらしい理由を告げくっついたままベットの方に移動する。二人でベットに上がると相手を抱きしめ直してから「前にメイド喫茶の手伝いをした時の君の気持ちが良く分かったよ、君が他の人にちやほやされてるのは何というか…面白くない」とヤキモチを前面に出した感想を述べて)
俺も。俺達だけの匂いだ。……だろ?そりゃお前が褒められるのは嬉しいけど、誰かと楽しそうに話してるのみると、…奪いたくなる
(湯上りの相手を抱きしめると向こうからも腕が回って抱きしめられてそれだけでふわふわとした頭では十分に幸せだ。ようやくお揃いに戻った匂いを思いっきり嗅ぐと相手の口元には微笑みが浮かんでそんな何気ない反応でさえ今は自分だけのものだ。ここからはもう離れる気はおきなくてベットに行こうと誘われると無邪気な笑みと共に頷き体を離さないまま移動する、二人でベットに上がれば相手から直ぐに腕が回されてこちらも相手を抱きしめると体を引き寄せ接触面積を増やした。ようやく相手をこの腕の中に取り戻すと相手から今日の感想が告げられる、前回のメイド喫茶では相手が誰かに仕えているのを見ているだけだったが今回は執事として同じ立場になったわけで、こちらが抱いた感情と似たような言葉を言われるとヤキモチを焼くその姿に胸は擽られる。だがこちらも執事として全く同じ立場だったのだ、ホールでご主人様に仕えている間は薔薇獲得レースも相まってナリを潜めていたが二人きりになって今日のことを振り返ってみるとずっと相手を取られていたのだという気分にますます拍車がかかって嫉妬を通り越した言葉を口にしていた。一度それらしいことをしたのは棚にあげて「そもそもお前に触れていいのは俺だけなのに」と駄々を捏ねるように言うと自分の大切なものだと示すようにまた頬へと口付けて)
良く君から視線を感じていたのはそれかい? …ああ、ここまで近付くのを許すのも触りたい、触られたいと思うのも翔太郎だけだ。
(二人でベットの上に乗ればもう邪魔するものはない。こちらが抱きしめると相手からも腕が回されて更にくっつくことになる。腕に抱く温もりを感じていればつい先ほどまでこういう事が出来ずに相手が様々なご主人様に仕える執事であったことを思い出してずっと依頼という面で我慢していたヤキモチを口にする。それは同じ立場として働いていた相手も同じだったようでより直接的な言い方をされるとぱちりと目を瞬かせる。お嬢様に手を取られた時に直ぐに気付いて助けに来てくれた時もそうだったがご給仕している間に何度も相手の視線を感じることがあった。自らも相手が気になって暇があれば視線を向けていたのと同じだろうかと思うと自然に口角が上がって嬉しそうに問う。そんな時間を経てアルコールの作用もあってか駄々をこねるように何とも可愛らしい我儘が告げられて頬に口づけを受けると足りなかったものが満たされていく心地がして緩い笑みを浮かべながら頬に手を添える。そのまま顔を近づけて視界をいっぱいに相手を映るようにしてから独占欲の滲む言葉を肯定し、自らの望みを伝えると自分だけに許された特別な唇に自らの物を重ねて)
…だってフィリップが変な目にあってねぇか心配だったし……へへ、…俺だけがフィリップの特別だ
(執事をやっている間相手を見ていた自覚はあるがそれ以上に視線が行っていたのはご主人様からも指摘されていて、さらには相手さえも気づいていたのだと今知ると思わず目を泳がせる。相手に視線をやっているのは仕事に集中できていない動かぬ証拠だ、咄嗟に言い訳めいたことを口にしてしまうが相手の口角があがっているのなら全て問題はない。それに相手だってこちらがコーヒーが入れられずに困っていたところにすぐやってきたのだからきっと同じくらいにこちらを見ていた事だろう、そう思えばこちらも口角はあがって物理的には離れていても心は傍にいたのだと実感する。だが心が傍にいたのならば満足できるかと言われればそれはまた別の話で今日はもう相手からは離れられそうにない。子供っぽい言葉を口にするもすんなりとその言葉は受け入れられてしまってさらに口付けが重なればより自分の気持ちを肯定される。柔らかな感触に浸るように暫くそこを重ねた後にそっと離す、自分だけが許された特別な行為に胸が満たされるとまた幼く笑って、しかしそれに似合わぬ独占欲を滲ませた言葉を口にしていた。自分だけが相手の特別で相手にもっと触れたいと一度溢れ出した想いは留まることを知らなくて、相手をもっと自分のものにしたくなると抱き締めていた腕に力を込める。相手の体を支えながら二人の体勢を変えると横たえた相手の体の上に自らの体を持ってきて相手に覆い被さるようになり満足気な顔で見下ろす。額を優しく撫でながら「これでフィリップは全部俺のもんだ」とまた幼い口調で言うと大切なものを愛でるように頬や目尻、額やこめかみなど目に入るところへ順に次々と口付けを落としていって)
…、ああ。 …ふふ、君に閉じ込められてしまったようだ。
(相手の視線の行方を指摘すれば分かりやすく目が泳ぐ。よそ見していたというだけ捉えれば悪いかもしれないが結果的に連携に繋がったのだから文句は言われないだろう。あの時には出来なかった二人の繋がりを確かめようと唇を重ねると溢れた気持ちを交換するように長くその感触を味わう。ゆっくりと離れていけば相手の顔に幼い笑みが浮かんで自分だけの特別を主張されると肯定するようにその頭を撫でた。疲れた体に幸せが染み渡ってふわふわとした心地を覚えていると相手に支えられながら二人でベッドに横になる。それだけに留まらず相手が上に覆い被さるように乗ってくれば視界には天井と満足げな相手の姿だけが映るようになる。自分と体格はあまり変わらず歳もアルコールが飲めるほどには年上であるのにそれとは思えない子供っぽい笑みと口調がとても可愛らしいと思ってしまうのだから仕方ない。相手の作る狭いスペースに収まってその愛おしい支配を受け入れると頬や目尻などあらゆる場所に口付けが降ってくる。触れるだけの仕草だがその一つ一つに相手の想いを感じて「ちょっと擽ったい」と笑いながら相手を見つめる。緩く相手の背中に腕を回して抱き寄せると「僕が一番誰よりも翔太郎のこと好きだよ」と溢れる想いを伝えて)
、…俺も。この世界で一番フィリップの事が好きなのは俺だ
(相手を自分の下に組み敷いてその自由さえ奪ってしまったのに相手の顔には変わらず笑みが浮かんでいて頭を撫でられればまた緩みきった笑みを浮かべる、こうやって許される事に何よりも優越感や幸せを感じるとまともに回らない思考はさらにふわふわと浮遊感が増していった。溢れ出る想いのままに閉じ込めた相手へ次々と口付けを降らせていくと相手は擽ったそうに笑う、昼間自分のいない所で誰かに向けて笑っていた分自分がする事に相手が笑っているのが嬉しくて堪らなかった。相手の腕が背中に回るのを感じて目を合わせると相手の想いが乗った言葉が告げられてピタリとその動きを止めて直後ゆっくりと頬が赤くなっていく。何度交わしたか分からない『好き』という文字を自分本位にした言葉、一見すれば傲慢で、しかしその分いつもより相手の想いの強さと独占欲が乗った台詞に強く胸を掴まれてしまえば心臓が早鐘を打ちはじめる。こんなに近くに入れば鼓動の速さが伝わってしまうかもしれない、当然それを理由に離れることはなくて高まる熱を溢れさせるようにゆっくり息を吐くと愛しいものを愛でるようにまた額を撫でる。魅入られるように相手から目が離せなくて溢れるままにこちらからも同じ言葉を送った。そして顔を寄せて再び唇を重ねる、少しでもこの想いが伝わるよう直ぐには離さず、それだけでは物足りなくなった体はさらに唇を愛でるようにそこを食むような動作を加えて)
ならばちょうど良いね。……ん、
(自らも相手の背中に腕を回して軽く抱き寄せながら溢れた想いを告げると相手の動きが分かり易く止まって頬にじわじわと赤みが灯る。自分の中で一番好きということは簡単だがそれ以上にこの街のどの人よりも今日来たご主人様の誰よりもこの想いは強い自信がある。今日相手が沢山受け取った好意に張り合うような言葉を送ると腕の中の相手がさらに熱を持ったような気がして口元が緩んだ。額を撫でられその心地良さを感じていれば相手からも同じ言葉が送られてそこに込められた想いにぎゅっと胸が掴まれたように鼓動が跳ねた。どんなに想いを抱かれようともこうやって嬉しく思うのは相手だけで、そんな相手が世界で一番好きと言ってくれるならこれほど嬉しいことはない。お互いが同じ気持ちだと分かれば自信たっぷりに笑って抱き締める腕に力を込めていたが顔が近付いてくれば目を閉じて口付けを受け止める。お互いの熱と柔らかさを伝えあっていたが食むように動かれると更に情報量が増えて小さく息が漏れた。自らも相手を求めるように唇を動かして食んだり擦り合わせたりと少々遊びながら相手の背中の寝巻きを握ってもう少し引き寄せてみて)
……ん、…ふ、……っ……
(お互いいつもより強い独占欲を纏った好意の言葉を送り合う、今日は誰かからの感謝の気持ちや好意的な想いを薔薇という形で受け取り最終的には立派な花束になったがその花束よりも先程の相手の言葉たった一つが遥かに嬉しくて胸を揺さぶられる。好意には当然感謝を返すが同じ好意を返すのはいつだって相手しかいない、そして相手のたった一言は胸に大輪の花を咲かせてくれる。こちらが相手と同じ言葉を送れば相手は自信に満ちた顔を浮かべてそれが愛おしくて愛おしくて堪らなかった。唇を重ねて食むようにしてそこを愛でれば相手の吐息が口端から漏れだしてくらりと脳内を揺さぶる、まるでアルコールが体に追加されたようだ。相手と口付けているのだともっと実感したくて、相手にも感じて欲しくて、食む動きにさらに吸い付く動作を加えると重なる唇の間からリップ音が溢れてくる。高い音を何度も響かせ時折舌先で唇を濡らせばますます音は大きくなっていく、その分だけ相手を愛しているのだと知らしめているようで幼い頭は簡単に上機嫌になった。片腕を相手の背中から外しこちらの背中に回されている相手の片手を手繰り寄せるとお互いの指を絡めて繋ぐ、その手は今日あのお嬢様にずっと握られていた手だ。本来自分しか触れられないものなのに他人の手に渡ってしまった相手の大切な手、薄れてしまった自分の存在を刷り込むように恋人にしか許されない繋ぎ方で強く握るとそのまま繋いだ手をシーツへと縫い付けて)
…ん、……は、…翔太郎、……っ
(お互いに送った言葉を確かめるように唇を重ねていれば食むように動かされるようになって、更に吸い付く動作が混じってリップ音が響くと小さく肩が跳ねた。唇の間で何度もその音が響いて次第に大きくなってくるとくらりと脳が揺れて相手から与えられるもので思考も埋まっていく。濡れた唇は滑りが良くなってこちらからも大きく動かすようにすればその分高い音が弾けてまた息が零れた。そうして自分だけの特別な場所を愛でていると相手の背中に回していた手を求められて薄ら目を開いて様子を伺う。お嬢様に触れて触れられてあの時背中に隠された手をさらに深く指を絡ませるように繋がれる。そのまま逃がさないとばかりにシーツに縫い付けれてその相手の熱と力強さが伝わってくると相手を強く惹き付けられていることに口角が吊り上がる。その想いに応えるように手を握り返して僅かに唇を離したタイミングで相手の名前を呼ぶ。再び唇を重ねると擦り合わせたり舌先でチロチロと舐めて愛でてから相手に視線を向けると下唇に甘く噛み付いてみて)
ん、……、…っ、……フィリップ、……ン…
(重なる唇に吸い付いて高い音を鳴らせば自分の下で相手が小さく跳ねるのが伝わる、今はこちらが注いだ物に対して相手が反応するのが、相手の意識が全てこちらに向いていることが何よりも心を満たす。口端から漏れる吐息にまた頭を揺さぶられて自分だけが触れてもいい手を絡め取り強く握ると重なる唇の端があがるのが分かった。自分のものだと囲うように相手を組み敷いて、しかしそれを肯定するように手を握り返され大好きな声で名前を呼ばれてしまえば相手への愛おしさはさらに膨れ上がっていく。再び唇が重なって戯れるように舌先が唇を擽る、可愛らしい刺激に思わず口元を緩めていたがその動きが止まると薄らと目を開けた。そこには同じく目を開ける相手がいて視線が交わる、その瞬間に下唇に甘い痺れが走ると目を見開いた。甘い刺激を受けて愛おしさの中に違うものが混じり始める、絡めて繋がる手に思わず力を込めながら溢れるままに名前を呼んだ。そしてこちらへ噛み付いた唇の間に舌先をゆっくりと滑り込ませ口内へ侵入を果たす。相手の舌を見つけると先程相手がしたように舌でチロチロと愛でるようにそこを舐める。舌だけに留まらず歯列や唇の内側、上顎まで順に丹念に愛でるように、あるいはマーキングするように、舌を動かし愛撫していく。口内を愛でるのに夢中でいつの間にか相手の体を押さえるように自分の体を上に乗せて、唾液が溢れて水音が響き始めるが構わず相手の口内を愛でるのを続けていて)
……っ、…ふ………は、ぁ…しょう、たろ…
(薄く開かれた目と視線が交わるとより一層想いは溢れて愛おしい気持ちのまま大切なその場所を甘噛みする。相手の目が分かりやすく見開かれると悪戯が成功したような気持ちで得意げに笑っていたが繋がった手を握りながら名前を呼ばれるとその幸せと声色の変化に体温が上がる気配がした。そして表面をなぞっていた舌先がゆっくりと口内に入ってくれば自分とは違う熱に小さく吐息を零す。相手の舌先が舌に触れると唾液が混ざり合って小さな水音が弾けた。その場所が何故か特別甘く感じていると相手の舌は歯列や上顎など自分でも滅多に触れることのない場所までなぞってそんな場所まで愛でられていることに多幸感を覚える。相手が上に乗っていればその重みを感じて身動きが取れなくなるがそれすら相手の愛の重さだと思えば愛おしくて繋いでいない方の手で更に抱き寄せると足も緩く絡めて接触面積を増やす。相手の舌を追いかけるように舌を伸ばして擦り合わせていれば唾液が溢れ、より一層水音が響くようになると鼓膜からも相手との行為を感じるようになってアルコールが移されたかのように脳内がくらくらする。浮ついた頭ではもっと相手の存在が欲しくなってしまって相手の名前を呼んで更に舌を伸ばすと積極的に絡めにいき)
……っ、…ン……ふ……、…
(相手の口内を端から端まで舌先で撫でて舐めて愛でていると相手の口内はだんだんと水気が増してきて幼い行為に反して艶めかしい音が弾ける。相手にのめり込んでその体を押さえつけていることさえ気が付かなかったが背中に手を回され抱き寄せられると全ての行為を肯定されたようで益々相手の口内を撫でるのに夢中になっていく、さらに足が絡まってより体温を共有するようになればそこさえ愛でるように軽く足を擦り合わせた。相手の口内を粗方マーキングし終えたところで名前を呼ばれて相手の舌がこちらに絡みつく、相手が何を望んでいるのか理解すると可愛らしいオネダリにまたクラクラと脳内は揺れた。溢れる愛おしさのままにまた繋がった手を握って体を押さえつけてさらに相手を拘束する、もう片方の手を相手の頭頂部に添えてそこさえ固定してしまうとこちらからも舌を相手のものへと絡ませた。たっぷりと濡れたそこは滑りが良く擦り合わせる度にくちゅりと水音が響く。鼓膜を揺らすその音は相手を愛でていることを、相手と繋がっていることを明確に知らしめるものでアルコールで緩まった思考の熱を加速させた。もっとこの水音を響かせるように何度も相手の舌を絡め愛撫する、夢中になって舌を動かしていれば相手の口内に唾液が溜まりすぎていることもその呼吸に気を使う余裕もなくて、相手への好意をありったけ注ぎ込むように深く絡まる口付けを続けて)
……ン、…ぁ……ふ、……ッん…ぁ、
(背中に回した片腕を引き寄せ足も絡ませるようにくっつくと更に体温を共有するようになって全身で相手を感じるようになる。くらりと揺らぐ思考の中、もっと相手が欲しくなってくれば名前を呼んで舌を絡め始める。繋いだ手は更に強く縫い付けられて頭の方も固定されるようになると逃げ場はなくなってただ相手に注がれる熱や想いを享受するだけとなる。そんな状態で相手からも舌が絡みつくようになると一際大きく水音が響いて小さく体が震えた。二人だけの場所で恋人としか出来ない行為をして他の人には聞かせられない音を立てていることを自覚すればますます体は熱を持っていく。重力によって二人の混ざり合った唾液が垂れてきて呼吸のタイミングすら失って相手との行為に溺れていれば軽い酸欠で薄っすらと顔が赤く染まる。僅かに出来た隙間から熱い息を吐き出すが吸い込む前に絡みつく舌に遮られて息苦しく喘ぐ。だがくらくらと浮ついた頭で相手から与えられるものだけを感じて相手のことだけ考えられるのが幸せで、心地いい。瞳に熱を灯しながら相手の舌に吸い付いて唾液を全部奪ってしまうと口内に溜まった物と一緒に喉を鳴らして飲み込む、相手から注がれたものを体内に取り込めた事に嬉しそうに目を細め相手見つめて)
……ッ、……は、ァ…フィリップ……すげぇかわいい……
(相手を自分の支配下に置いてその動きさえ全て自分のものにしてただただ相手を愛でる、絶えず水音が弾ける中に相手の吐息が混じり始めやがてそれが苦しげなものに変わるのを感じながらも頭をゆっくりと慰めるように撫でて行為を止めることは無かった。口端から漏れ出す吐息も苦しげに震える喉も全て自分のものにして取り込んでいく、相手は苦しげなのに組み敷く体はどんどん熱を持つのが分かって相手もこの行為を望んでいるのだと分かれば脳内を甘く激しく揺さぶった。時間が経つにつれて薄れるはずのアルコールは全くナリを潜める気配はなく腹の中に渦巻いた熱を加速させていく。幸福と熱に支配され始めた思考でいれば不意に相手が口内の唾液を音を立てて飲み込んで嬉しそうに目を細める姿が視界に映る、こちらのものを取り込み笑う相手の姿はこの胸を強く掴んで同時に顔を赤らめ薄く笑う妖艶な姿に欲望はさらに昂って熱い吐息を漏らした。赤く染る頬を愛おしげに撫でながら普段口にしないような、全く脳を介さない言葉が口から溢れ出す。言葉を口に出してしまえばそれは相手への想いを加速させてこちらに晒されたままの耳へ誘われるように顔を近づけた。相手の甘い声が聞きたくて耳を一度ゆっくりと舐め上げる、縁を丁寧になぞるように舌を這わせた後にそこを食すように耳を甘噛みした。噛み付く歯と撫でる舌を同時に使いながらそこに軽い噛み跡と唾液とを刻みつけていく。耳を愛でながら家に帰ってきた際に素肌を撫でた感覚を思い出すと自分の色の寝間着を軽く持ち上げ手を侵入させて「ここ、すげぇ熱い…」と耳の穴へ囁きながら胸板をゆっくりと撫でて)
…っ、は…、翔太郎……んん、…っぁ、…ひ、きみが、触るからだ、
(ふわふわと熱に浮かされるのを感じながら口内に溜まっていたものを飲み込むと相手の熱い吐息が肌を掠める。漸く唇が離れると足りない酸素を取り込もうと荒く呼吸をするが頬を撫でられると視線を相手に向ける。本来可愛いなど年頃の女性に向けられるべき言葉なのに自分だけを視界に写して思った事がそのまま溢れたかのように告げられると心拍が明確に跳ね上がる。そこに込められた色に深い所が疼くのを感じながら今度は耳をゆっくりと舐められると鼻にかかった声と熱い吐息が零れる。ぞくぞくと背筋が震えだしたタイミングで同じ箇所を甘噛みされると甘い声が口から溢れた。唾液で濡れていくそこをランダムに噛みつかれるとその度に上擦った声が溢れて耳の端まで赤くなっていく。そちらに意識が向かっていると寝巻きの間に侵入を許して、お風呂で温まったとはいえ熱を持った体と比べては冷たい手が素肌に触れると一段と高い声が上がって身を捩ろうとする。相手に押さえ込まれてそれは叶わないが鼓動の早い胸板を撫でられながら囁きを注がれるとまた体は跳ねて拙い口調で相手のせいだと告げる。相手だけが自分を好きに出来ることを証明したくて、もっと触れて欲しくて繋がった手を握ると「ねぇ…もっと、翔太郎を感じたい」と甘く強請って)
…ん、…ハ、ぁ……へへ、俺のせいでこんなになってんのか……ッ、…フィリップのお願いなら叶えなきゃな
(相手の甘い声をもっと聞きたくて耳を口で愛撫すればすぐに相手の口からは熱い吐息と甘い声が溢れはじめる、深い口付けで唾液に塗れ荒く熱い息を吐くようになった体は準備万端だったらしい。少しの時も持たずに甘く啼きはじめた相手が愛おしくて甘噛みと舐めるのとを繰り返していれば口に含む耳さえも熱を持ったのを感じて体がゾクリと昂るのが分かる。唾液に塗れた耳も口と同じく水音を立て始めて周囲に音が響き渡る、服の下にある素肌を撫でた途端に相手の体は跳ねてグッと体重をかけて押さえ込めば全ての反応がまた自分のものになり独占欲が満たされて、しかし行為に似合わぬ幼い笑みと共に子供っぽく満足気な返事を返した。熱をもつ素肌の感触を感じながら耳を愛でるのに夢中になっていると強く手が握られる、動きを止めて少し顔を上げたところでなんとも可愛らしい相手のオネダリが聞こえれば体の芯が震えてまた一段と体の熱が昂るのを感じた。こちらからも手を握り返すと相手の上へと体を戻して愛おしげな目で相手を見下ろす、確かな好意と高まりすぎた熱を持った目で相手を見つめたまま寝間着の中に侵入させていて腕でそこの布を掴んだ。そのまま引っ張りあげると少しの間だけ繋がった手を離して上着を剥ぎ取り再び指を絡ませ繋ぐ。視界には相手の白く陶器のような肌が広がって思わず吐息を漏らすと繋いでいない手でゆっくりと胸板を撫でた。蕩けた目を相手へと戻すと「ここならいくら付けても誰にもバレないもんな」と何処か上機嫌に、しかし確かな劣情と嗜虐心をチラつかせながら相手に囁く。繋いだ手をしっかりと握ったまま体をずらして鎖骨の下あたりにまずは口づける、狙いを定めるように舌を数度這わせた後まずは肌を食い破らない程度にそこへ強めに噛み付いて)
は、…ン、…ぁ。…ああ、君だけの場所だ。…ん、…っ、…っあ!っ、
(反射的に体が跳ねるのすら押さえ込んで耳元で淫らな音を立てているのに自分の行為で熱くなったことに嬉しそうにする相手は何処と無く幼くてそのちぐはぐさにクラクラする。普段よりも率直で素に近い部分でも愛でられているのが恥ずかしくて、だけどそれ以上に幸せで堪らない。その想いを伝えたくて唯一動く手を握ると相手が一旦耳から顔を上げて目が合う。アルコールだけではない熱を孕んだ瞳を見ながらもっと深く、今日の出来事を上書きするくらい相手のことを感じたいと強請ると上に覆い被さるその体も熱くなったように感じて無意識に息を吐いた。了承の返事がされると口角が上がって期待のこもった目で相手を見上げていたが手が解かれると眉を下げて露骨に寂しげな顔をしてしまう。その間に上着が脱がされ、素肌を晒した状態で指を絡めるように繋がれ直すと安心したようにふにゃりと微笑みを浮かべる。ぎゅっと手を握り返しているとまた胸板を撫でられるようになってそわそわとした擽ったさを感じる。熱もった目で上機嫌に欲の見え隠れする声で囁かれると何をされるのか想像がついて瞳が熱に揺れる。小さく頷き、わざと独占欲を煽る言い回しをしながら下へと体をずらした相手に目を向ける。熱を持った体は触れるキスだけでも小さく反応してしまって、舌が這うと荒い息が零れる。そのまま強く噛みつかれると甘いだけでない刺激に一際高い声が出て体が相手の下で僅かに跳ねる。だが今のでは数時間も経てば噛み跡は消えてしまうだろう。それでは相手のモノと言うには足りなくてもう片方の手で寝間着を握り締め「ちゃんとしたヤツじゃないとやだ」と急かすように駄々をこねて)
……そんな風に言われちまうと、ちゃんとしてないヤツばっかしたくなっちまうな。俺がこの世界で一番フィリップのことが好きで大切にしてるから
(胸板は肩程動かす度に跡に刺激が走る場所では無いが代わりに無数に跡を刻む事が出来る、数があればその分じわじわと滲むような痺れが数日は取れず自分の存在をそうやって刻みつけるのも悪くない。ターゲットを定めて上着を脱がすために僅かな時間繋いだ手を離すがそれでさえも相手はあからさまに寂しそうな顔をしてゾクリとまた腹底が震える、自分との繋がりを一時も手離したくない様子に優越感と独占欲がまた満たされていく。すぐにその手を繋いでシーツに縫いつけてから胸板を撫でればその瞳は次への期待で熱に揺れる、だが相手からまた独占欲を煽る言葉を言われてしまえばこちらも熱と興奮とを隠さない瞳で相手を食い入るように見つめていた。胸板に口を近づけそこをまた愛でる、舌で舐め歯で噛みつきはするがわざと跡にならない程度の愛撫に留めていると相手から急かすような声が聞こえてきてゾクゾクと熱が煽られる。もっと追い詰めたらどうなるのだろうかと嗜虐心が台頭してくれば軽く笑ってからチラリと相手の方を見て悪戯っぽくしかし瞳には滾る熱を宿しながら冗談めかしたことを言う。敢えて胸板をただ撫でるだけを繰り返しながら先程の言葉をそれらしい言い訳として使っていた。繋いだ手をギュッと握りこの先を期待させるように相手に体重をかけて拘束するも、再び唇を素肌にあてがって軽く吸い付いたり舌先で舐めたり軽く甘噛みしたりを繰り返すだけで決定的な刺激は与えない。高いリップ音と熱い吐息だけを漏らして様々な箇所に優しい愛撫だけを繰り返した。しかし最初に噛み付いた場所へと戻ってくると軽く口付けた後不意に笑みを浮かべてから素肌へ歯を立て強い力でそこを食い破って)
っ、なんで、…ン、翔太郎、これじゃ、ァ…足りない、もっと痛くていいからっ、ッあ!
(再び繋がった手に安心を覚えて更に深く相手の存在を刻み付けて貰うことを願う。相手の瞳にもすっかり熱と興奮が宿って獲物を狙うような目つきをされると背筋がぞくぞくと震えた。もうすぐ自分の望みが果たされる期待にどきどきしていたが表面を愛でるような弱い刺激しか与えられないと物足りなくて急かすように強請る。いつもはそれで叶えてくれるのに今日の相手は悪戯な笑みを浮かべるばかりで胸板を優しく撫でるだけを繰り返しながら先ほどと同じことを言われると目を見開く。大切にしたいからと言われてもそれ以上のことによる幸せを教え込まれた身にはただ焦らされているだけだ。困惑と焦りの滲んだ声で問うと繋いだ手と掛けられる体重で拘束が強まって期待の目で見つめる。だが宣言通りにキスが落とされたり舌先で舐められたりする弱い刺激だけを繰り返されると小さく反応はするも強い物足りなさに襲われる。熱を持った体はその熱を素直に享受するが一線を越えきれない所でじわじわと蓄積して理性を加速度的に溶かしていけば縋るように相手の手を強く握り、抱き寄せながら余裕のない様子で駄々をこねるように不満を訴える。殆ど動けない状態で僅かに背を反らし相手の口元に胸板を差し出しながら更に強い相手の行為を強請るとまた鎖骨の下の辺りに口づけがされる。また焦れったい刺激が続くのかと眉を寄せたところで視界に映った相手が笑みを浮かべ予告も無しにその場所に強く噛みつかれると一際大きな声で啼いて体も跳ねようとする。焦らされた分一気に快楽の波が押し寄せて握った相手の手に爪を立てながら相手の下で乱れて
っ、はァ…フィリップ……その声すげぇ好きだ
(体を強く押さえつけるのに弱い刺激ばかり与え続ければ相手は小さく反応するも物足りなさに悶えているように見えてゾクゾクと腹の底が擽られる、ゆっくりと焦らして相手を追い詰めている感覚にどうしようもない高揚を覚えていた。優しい刺激で焦らし続ければ相手は我慢が効かなくなったのかより被虐を望んで自らを差し出すように僅かに胸板が押し付けられる、相手が過剰な熱を、行き過ぎた快楽を、より強く甘い刺激を望んでいる事実に熱い吐息を吐き出した。口付けと舌での愛撫を繰り返して十分に相手を追い詰めた頃合に前触れなく相手の白い肌を食い破る、その瞬間に相手はより一層甘く高く啼いて組み敷かれながら体を震わせた。それら全てを自分のものにするよう体を押さえこむ、繋がった手に相手の爪が食い込むのさえ快楽に突き落とした証拠のようで蕩けた脳ではそれも甘い刺激へと変換された。思わず吐息を漏らして瞳を劣情に染めながら恍惚とした口調で名前を呼ぶと今しがた付けたばかりの跡を刻むようにそこを緩慢な動作で舐める、さらに白い肌に赤く浮かぶ跡に何度も舌を這わせ口付けを送り時に吸い付いてそこを執拗に愛でる。今しがた付けた相手が自分のものであるのを示す証が深く深く体だけでなく相手の意識にまでしっかりと刻まれるように、時折そこへ噛みつき指で軽く押したりしながら甘く強い刺激を与え続けて)
っあ、ァ、…しょうた、ろう…っん、僕も、好きだっ、ぁ…ぜんぶ好き、君が良い、っあ
(優しい刺激だけでじわじわと熱が溜まって敏感になったところに鋭い歯が突き刺さって食われると強い刺激に大きく体は反応を示す。だが相手に組み敷かれて抑え込まれてしまえば身を捩って快楽を逃がすことも出来なくて甘く啼きながら身を震わせる。そんな様子を晒せば肌の間近から相手の熱い吐息を感じ欲の滲んだ声で名前を呼ばれると腹底の欲が煽られまた理性が擦り切れていく。そんな状態で傷口に舌が這うと甘い痺れが広がってまた声が零れた。何度もそこを舐められ吸い付かれるとその痛みと甘い快楽と目の前の愛おしい相手の存在が強く結びついて開きっぱなしの口は刺激を受ける度に上擦った声が溢れ、縋りつくように拙い声で相手の名前を呼ぶ。休み暇もなく赤く深く刻まれた所有痕を噛みついたり押されたりが続くとずっと快楽の波から降りられない。熱に浮かされ殆ど思考も回らないが欲しい物をくれた相手に与えられた物と同じ気持ちを返したくて喘ぎの合間に頭に浮かんだままの言葉を口にしながら蕩けた顔を晒して相手を求めて)
…ッ………フィリップ、すげぇかわいい……ン、……ちゃんと見とけよ?
(白い肌に浮かんだ赤い所有痕をさらに深く深く刻みつけるようにそこに刺激を与え続ける、先程焦らされた反動か相手の口からは耐えず甘く上擦った声が溢れ出しこの鼓膜を揺らしてグラグラと頭を揺らす、アルコールに酔っていたはずの脳内はいつの間にか相手に酔いしれて相手を愛でてたい気持ちと脳の髄まで響く刺激を与えたい嗜虐心とが同時に体を支配した。痕を愛でれば相手は喘ぎ啼きながらこちらの名前を呼んで好意の言葉が告げられると益々痕を刻みつける行為に没頭して時に吐息を、時に水音を、時に音を立てずに歯を立ててそこを執拗に愛でた。やがて顔を上げるとそこにはトロトロに蕩けた相手の上気した顔があって相手を乱している事に体の芯が滾ると見蕩れる視線を向けながら呟く、そうやって相手を見つめるこちらの瞳も十分熱と欲に塗れていた。繋がった手を強く握って開きっぱなしの口を塞ぐように唇を重ねれば中を好き勝手に舌で掻き回し相手の舌を擦り合わせて口内に溜まった唾液を奪い去る、そして近場にあった枕を相手の後頭部へと差し込んで目線を下げさせた。当然相手の視界には相手自身の胸板が映る、頬を優しく撫でながら躾けるように、あるいは強制するように告げると再び頭を胸板へと戻した。そして今度は腹部まで下り軽く口付けてから一気に白い肌を食い破る、小さく赤い点が肌へ落ちると今度は右胸あたりへ唇を添え容赦なく歯を突き立て痕を刻み込む。続けざまに脇近くや脇腹横に自らの所有痕を刻んでいくと、最後には心臓の上へと移動して軽くリップ音を立てて口付けてこれまでよりも強い力でそこへと噛み付いて赤い痕を刻んで)
(/背後から失礼します。お返事お待たせしてしまい申し訳ございません。本日夜から日曜までバタバタしておりまして、なかなかお返事できないと思われます……めちゃくちゃいい所なのに申し訳ございませんが、お待ちいただければ幸いです。よろしくお願いします。/こちら蹴りで大丈夫です!)
っ、は…ぁ、ン…しょうたろ、んん…ぁ、ぅん?…っあ!、っん、あ! マーキング、されて、ッああ!
(大好きな相手が自分だけを見つめて執拗に痕を刻もうとするのが幸せで愛おしくて仕方ない。与えられる刺激は止むことなく、赤く刻まれた痕の上を吐息が掠め歯が立てられる度に熱を持った体は跳ねて上擦った声を零した。やがて相手が顔を上げると荒い呼吸をしながらその動きを目で追う。こちらを見つめる相手の瞳はすっかり欲情の色に揺れて自分の痴態に興奮している事が分かるとぞくりと腹底が疼く。ぎゅっと手を握られると相手の名を紡ぎ、近づいてきた唇と口付けを交わす。最初から口内を好き勝手舌で掻き回され、淫らな音と共に絡ませてから唾液を奪われる。二人の間を銀の糸が伸びていくのを熱で浮かされた目で見ていれば頭が持ち上げられ枕が下に差し込まれた。上手く回らない頭ではその意図が分からないながらも頬を撫でる相手の言いつけに従順に頷く。相手の顔は再び胸板に向かい、そこから腹部に降りる。その場所にキスをされたのが見えたかと思えば思い切り噛み付かれて再び甲高い声をあげる。甘い痺れと痛みを感じながら相手か口を離すと小さな赤い痕がくっきり残ったのが見えて、所有痕が出来る一部始終に背筋がぞくぞく震えた。更に右胸の辺りにも同じく歯を突き立てられ赤い華が散る。加害とも取られかねない行為を好き勝手されることを相手に許し、傷が刻まれる度に悦びを感じる事に本当に相手のモノになったのだと倒錯的な興奮をしてしまう。痕を残す様子から目を離すことが出来なくて素肌に相手が唇を寄せる度に体を固めて期待を寄せ、噛み付かれる度に体を跳ねさせ甘く啼く。そうして自分の素肌の上に所有痕が沢山散るのを見せられると頭に浮かんだままの状況を口にして相手の顔が心臓部に移動するのを見つめる。激しく鼓動を打つ心臓の上にリップ音と共に口付けられると無意識につないだ手に力を込めて体を強ばらせる。次の瞬間、今日一番強く深く噛み付かれると強い痛みと快楽が走って視界が明滅しながら悲鳴に近い声をあげる。繋いだ手に爪を立てて唯一動く足をバタつかせながら取り繕う余裕もないありのままの姿で乱れて)
(/ご連絡ありがとうございます。返信について承知いたしました。いつもの事ながらリアル事情の方が優先ですので、のんびりと返信お待ちしております。/こちら蹴りでお願いします。)
……ふ、ン……っ……は……フィリップ…お前は俺のものだ
(相手が今からされることをしっかりと見られるように枕を頭に添え胸板に降りれば先程じっくり焦らしたのに反して一気に肌へと歯を突き立て次々と赤い痕を刻んでいく。押さえつける体は口を近づける度に固くなり歯を突き立てれば跳ねようと体が震えて、こちらの与える暴力的な刺激に甘くよがって甘美に喘ぐ姿はなによりも心を満たしていく。赤く滲む痕から広がるのは確かな痛みのはずなのにチラリと見る相手の瞳は熱に塗れその口はだらしなく開きっぱなしで喘ぎなにより体は熱を持っている、こんなことをして許されるのは、受け入れられるのは、啼く声を聞けるのは、世界で自分しかいない。今日揺らいだ独占欲と優越感が甘美な熱によって満たされさらに相手を追い詰めて喘がせ甘い声を聞きたいと嗜虐心が暴走していく。いつもは理論的に動く相手が脳を介さずに今されていることを口にして思考も理性をも溶けている姿に下腹部に溜まる熱がぐちゃりと掻き乱された気がした。心臓の上に強く後を刻みつければ繋いでいた手に相手の爪がくい込んで甘い刺激を受けるとグラグラと脳内を揺さぶられる、快楽を逃がそうとしているのか足をバタつかせているのをみればそこさえも自らの足で押さえつけて全てを享受するよう強制した。心臓の上に出来た痕からは暫く口を離さず緩急を付けて噛み付くのを繰り返しさらに奥深く、それこそ心臓へ直接噛み付くように、何度も強く甘い刺激を与え続ける。唾液をたっぷり纏わせた舌でそこを舐めて更なるマーキングを施した。痕をまた執拗に愛でたあとようやく顔を上げる、乱れて蕩けた顔に幸せそうに満足気な笑みを向けるとその頬に手を添えて一切独占欲を隠さない言葉を口にする。そのまま相手の脚の間に体を割り込ませると脚を広げさせて互いの腰をピタリと密着させる、十分に高まった熱を持つそこに熱い吐息を漏らすと無意識に腰を揺らした。頬を添えていた手を下腹部へと移動させるとそこを掌で押さえる、後に自分で満たされる場所を圧迫し軽く上下に撫でてその時のことを想起させるようにすると「フィリップ、ここも俺のでマーキングしたい」と自らの願いを口にした。熱と劣情を隠さない相手に酔いしれた瞳を向けると「いいだろ?」と強請るように言って)
(/お待たせしました。お心遣いありがとうございます。今日この後も返信不安定なのですが、明日はいつも通りお返事できますので、よろしくお願いします/こちら返信不要です!)
ッあ!ァ、…ひ、ぁッ!…ッ゙…は、ァ……ぁ、…しょ、たろ…ッあ!ぁ、欲しい、しょうたろうので、いっぱいにして…っ、
(心臓の上に唇が寄せられ素肌に噛み付かれると今日一番の痛みとそれと同じかそれ以上の快楽が走って体が大きく跳ねようとする。溶けきった思考では相手の手に痕が残ることなど全く考えられず行き場のない衝動のまま爪を突き立てその手を強く握る。抵抗にもなっていない足の動きすら封じられるようになった状態で更に同じ箇所に噛み付かれると火照った全身から汗が噴き出して何もかもめちゃくちゃに乱されながら声を上げる。バクバクと破裂しそうなほど鼓動の早い心臓を食べられてしまって体も思考も心も全て相手に塗り潰される。それが何より強くて熱くて幸せで無我夢中で相手に縋り付いた。声にならない声をあげながら乱れ、舌が痕をなぞるだけで体を震わせながらも漸く刺激が無くなると熱く息を吐いてオーバヒートを通り越した体から力が抜ける。首も頬も耳もおでこすら真っ赤にして半分意識が朦朧としていると頬に手を添えられ、反射のようにそちらを見る。そこには熱に蕩けて欲情の色を隠さない恋人が心底幸せそうにこちらを見て独占欲を顕にされると愛おしさと幸福が満ちて、掠れた声で相手の名前を呼ぶ。されるがまま足を広げて相手の腰が押し付けられ揺らされると滾る熱に眉を寄せ甘く声が漏れる。相手の手が移動して下腹部を押され軽くゆらされるといつものように深く咥えこんだ時のような錯覚を覚えてそれだけでも達してしまいそうになる。そんな状態でその想像を実現させる更なるマーキングを強請られると蕩けた瞳を熱に揺らして直ぐに答えを返す。寝間着を掴んでいた手を相手の腰の後ろに回して求めるように強く引き寄せ二人の間で熱を挟み込むようにし、下腹部に押しつけさせるとその全てを受け入れることを望む。緩慢な動きで相手の唇に噛み付くようなキスをして余裕なく笑って見せ「ぜんぶ僕だけに頂戴、翔太郎」と独り占めを相手を求めて)
(/いつもお世話になっております!そろそろ暗転かと思いお声掛けさせていただきました。執事喫茶から始まり帰ってきての甘いやり取りまで本当に本当に好きな物の詰め合わせみたいな話で終始とても楽しませて頂きました。依頼をこなしながらもちょくちょくお互いを見てモヤモヤしながら普段と違う探偵君が見られたり執事でも二人で一人で給仕をしたりと特別感のあるやり取りができたと思います。ライバルの出現でハラハラする展開にも出来て執事のキリッとした探偵君と終わったあとの酔った可愛らしい探偵君、そしてその後の独占欲を剥き出しにする探偵君などいろいろな探偵君を見ることが出来てそのギャップにドキドキしてました。どの探偵君も大好きです、今回もありがとうございました。
次のお話ですが存分に二人の話が出来たのでこちらとしてはどんなお話でも良いかなという感じなのですがいかがでしょうか。前述の通り騒がしいどちらかの話でも新たに違う話でも楽しそうなのでご希望等あればお聞かせください!)
…ぁ、ッ…フィリップ……じゃあ全部受け止めてくれ
(脚の間に体を割り込ませ組み敷いた相手の体は限りなく熱を持ち赤い痕を散らされ上気して真っ赤に染まっている、それを上から見下ろせば相手を征服しているのだとどうしようもなく支配欲が満たされていく。そんな状態で腰を擦り合わせればそれだけでも相手は一層甘く高く啼いてもう繋がっているのではないかと錯覚してしまう、下腹部を押さえて擬似的に刺激を与えれば相手はこちらの問いかけに直ぐさま答えを出して無意識に薄く口角をあげた。相手がそれほど我慢が効いていないことに、この先を求めていることに、劣情と幸福が同時に煽られて下腹部に熱がさらに滾った気がした。相手の手が腰に添えられ互いの熱がさらに押し付けられると堪らず熱い吐息を漏らして悩ましげに眉を寄せる、その状態で聞く相手の最後のオネダリはなんとも甘美で脳内はクラクラと揺れた。熱に塗れた幸福に浸かっていると相手の顔が近づいて甘く鋭い痺れが唇を襲う、こちらに向けられる余裕のない笑みはなんとも煽情的で妖艶でとても抗えるものではなかった。下腹部に添えた手にさらに力を込めて軽く腰を揺らしてさらに刺激を与えるがこんな擬似的なものではもう我慢できない、早く相手の中に入り込んで自分以外誰も触れることを許されない場所まで自分のものにしてしまいたい。こちらからも最後の願いを口にすると布の下に手を滑り込ませて「愛してるぜ、フィリップ」と最大級の言葉を送ると核心へと手を伸ばし高すぎる熱へと堕ちていった)
(/こちらこそお世話になっております!執事喫茶ご提案させていただいた時は特段内容考えていなかったのですが、どうせやるならメイド喫茶とは違うものをと売上レースの流れを作り、そこから薔薇を渡す発想をしてくださったのは本当に天才的だなと思いましてより一層楽しく熱い展開をすることができました。本当にありがとうございます!お互い相手のことが気になって仕方がない感じだとか二人でライバルを打ち負かしていく所だとか息ピッタリな二人が見られてとても楽しかったです。実はブロマイドの中にツーショットが紛れている、というのはこちらも入れたいと思っていた流れでして、こういう細かい所でも検索様と同じ考えで相性の良さをヒシヒシと感じたお話となりました。そこから酔った探偵と検索くんの甘いやり取りも我慢してた分を存分に満たす良い時間になりました。今回もありがとうございました!
この後ですが連続して長いお話が続きましたしさくっと出来るお話がいいかなと思っておりまして、前回あげていただいた夜更かししてる検索くんが探偵に見つかる話はいかがでしょうか?)
…ならばアトラス彗星の軌道は、
(沢山の所有痕を散らし相手にだけ許す最奥までのマーキングを強請り二人だけの熱に溺れた翌朝、全身の体の怠さを感じながら目を覚ましてまず感じたのは背中などを中心とした筋肉痛でその次に体を動かそうとして刻まれた痕を中心とした甘い痺れを覚えた。相手に声を掛けようとすればその声は若干掠れていて続いて目を覚ました相手は二日酔いに苦しんでいて散々な朝を迎えた。流石にこれではすぐに出勤出来ないと所長に弾んでもらった依頼料のことを含めた昨夜の執事喫茶のあらましをメールで報告して午後から出勤する旨を伝えれば快諾の返事がされ、暫くベットで寝転び長い時間をかけて出勤の準備をした。だがその間も出勤してからも腕を動かしたり軽く伸びの様な動きをするだけで深く刻まれた痕から痛みを発して不自然に動きが止まってしまう。また相手の手に見える赤い爪痕が視界に入る度に昨夜のことを思い出して顔に熱が集まりかける。翌日以降執事喫茶での自分達の噂を聞きつけ情報屋たちが事務所を訪れたりもしたが端っこの椅子に座って動かないように応対していた。そんな日から一週間弱、刻まれた痕も薄れ強く押されでもしない限り反応しなくなった頃に長期の依頼が事務所に舞い込んできた。詳しく内容は知らないが調査は難航しているらしく張り込みか何かで一晩かかるから今夜は帰ってこないだろうと朝食の時に話を聞いていた。出勤してすぐ相手はその調査に出掛け日中はいつも通りに過ごす。夕方になり所長が帰ってしまえば相手のいない家にわざわざ帰るのも面倒で事務所で過ごすことを決めれば読みかけの読書を再開した。全てを読み終えた時には11時で普段なら全て終わってベットに入る頃だったが今日は相手も居ない為強制的に連行されることはない。そのことに若干寂しさを感じたもののいつもは許されない事ができるワクワクのほうが上回って目が冴えた。少々夜更かししていたとしても相手が帰ってくる前に起きて風呂などを全て済ませてしまえばバレないだろう。そんな心持から普段は効けない深夜ラジオをつけていれば近々風.都.で彗星が見られるという話を聞き、早速気になると事務所の電気をつけっぱなしでガレージに急いで降りて検索を開始する。思うがまま知識の海に潜りホワイトボードに情報を纏めていたりしていればあっという間に深夜の3時頃となるがそれでも知識の探求を続けていて)
(/こちらもコーヒーを一緒に入れる流れは何処かで挟みたいなと考えたりしていたのでそのきっかけを振って頂いた時には凄く感動しました。本当に探偵様とは相性の良さを毎回感じております。
それでは夜更かしが見つかる話に致しましょう。探偵君が長期の張り込みなどで次の日まで帰れないと思う、と伝えてあるような状況でしょうか。予想よりも早く依頼が片付いたとか探偵君が頑張って早く終わらせたみたいな感じで深夜に帰ってきたみたいな流れを考えているのですがここもいつも通り好きなように考えて貰えたらと思います。ひとまず初回を回しておきますのでよろしくお願いいたします/何もなければこちら蹴りでお願いします。)
……なんで事務所の電気ついてんだ?
(相手の体にありったけの所有痕を刻みその内側まで自分のモノで染めた夜から次の日、目覚めて隣にいる相手には体に赤色が散り声は掠れ情事の跡が色濃く残っていて自分でやっておいて少々反省していた。だが直後に激しい頭痛、所謂二日酔いが襲ってきて二人してまともに動けずにいると依頼料を多めに貰ったことを盾に所長様に午後出勤の許しを貰う。水分をこれでもかととったがなかなか痛みは取れなかったが、隣で着替える相手の動きが不自然に止まるのを見ると体中に刻まれた痕が疼いているのだろうと予想がついて腹の底が擽られてジッと相手を見つめてしまう。すぐに用意を再開するがそうすればすぐに頭痛を思い出して散々な朝となった。その後事務所に出勤したものの手の甲には相手の爪の痕がしっかり残っていて常に腕を組んだり手を背中側に回したりと気を抜く暇もなく、しかし連日情報屋がやってきては自分達のブロマイドを手に入れたと自慢してくるのだから彼らの優秀さに恐れ入っていた。そうやってあの日を色濃く残しながら一週間が過ぎ手の跡がだいぶ薄れて来た頃、事務所に舞い込んだのは横領の証拠を掴んで欲しいという依頼だった、小さな会社の金庫で管理されている金がいつの間にかなくなっているらしい。防犯カメラを設置してもなかなかしっぽが掴めず依頼が回ってきて昼間まるまる張ってみたが犯人は捕まらず終いでそれならばいよいよ夜間も含めて、という話になったのだ。相手には予め夜通しの依頼になることを伝え朝を迎える覚悟で張り込み場所へ向かった。日中は何も無かったのだが従業員が帰って夜も更けた頃に犯人が動いた。厳重に設置された防犯カメラが一斉にエラーランプを灯し、すぐに消えたのだ。そこからは探偵の勘というやつで金庫のある部屋で息を潜めていると犯人が堂々と部屋に入ってきてそこを真正面から捕まえる、どうやら犯人はセキュリティプログラムに細工をしかけて防犯カメラに映るのを免れていたらしい。そこから依頼人と警察に電話し諸々の手続きを済ませるとすっかり深夜になっていた、依頼は結局早めに切り上げられたが夜中に家へ帰って相手を起こしてしまうのも悪いだろうと事務所へと向かう。そうやって深夜3時に事務所にたどり着いたが何故か消えているはずの電灯がついていて眉を寄せる、相手が所長が帰り際に消し忘れたのだろうか。鍵を使って事務所に入ればラジオがつけっぱなしになっていて一気に嫌な予感が脳内を駆け抜けた。ラジオを切ってハットをいつもの場所へかけるとそのまま後ろにある隠し扉を開けてガレージを見下ろす、そこには案の定様々な文字で埋め尽くされたホワイトボードの前で突っ立っている相手がいて暫く唖然として見つめてしまった。我に返ると「お前!なんでまだ起きてんだよフィリップ!」と叫びながら螺旋階段を駆け下りグレーチングを渡って相手の元へ駆け寄って)
…っ!な、なんでここに居るんだい、依頼は?
(検索に集中していれば周りが見えなくなるのはいつものことで事務所の方で鳴る足音や物音は一切聞こえなかった。ぐるぐるとペンで重要なワードに丸をつけたところで斜め上の方から突然聞きなれた声が聞こえて肩を跳ねて振り返る。そこには居ないはずの相手の姿があって目を見開いた。もしかして気づかぬ内に朝になってしまっていたのかと腕時計で時刻を確認するがまだ深夜と呼ばれる時間だ。一晩かかると言っていた相手が何故ここに居るのかという疑問と相手の言う規則正しい生活から大きく逸れたことをしている自覚があれば一気に螺旋階段を降りて来た相手から咄嗟に持っていたペンを後ろに隠して少し後ずさる。相手から言われたことを守っていない現状はあまり良い訳出来る物でもなくバツの悪そうな顔をすると何とか話を逸らそうと試みて)
早めに解決したから帰ってきた。にしてもお前……俺がいねぇからって検索に没頭すんなって言ったのに案の定かよ!今夜中の3時だぞ!
(色々な感情が入り交じって噴出する勢いのままに相手に向かって叫ぶとホワイトボードに向かって熱中していた肩が大きく跳ねて漸くこちらに顔が向く。相手に詰めよればマズイ状況であるのは自覚しているのか咄嗟に手に持つペンが背後に回る、ペンを隠したとて背後のホワイトボードにびっしり書かれた文字をみれば何をやっていたかは丸わかりではあるが。バツの悪そうな顔をしながら何故ここに居るのかと問われると端的に返事をする、いつもの相手ならば依頼が早期解決したことも想像できるのだろうがその余裕もないらしい。相手をひとりにすることで検索が暴走することは危惧していて朝食を取りながら釘を刺しておいたのだが結果がこれだ。呆れたように相手を見据えながら「お前今朝の約束忘れたのか?」と説教モードに入って)
没頭はしてない、少し気になったから寝る前にちょっと調べようとしていただけで…、
(ガツガツとこちらに詰め寄ってきた相手の顔は案の定お怒りのようで深夜とは思えない勢いで声がかかる。こちらの質問にはごもっともな返事がされて誤魔化せそうにない。その調子で今朝の会話を持ち出されるようになるとちょっとした調べ物程度だからそれには当てはまらないと屁理屈をこねる。それに数時間かかることを没頭というのだがこのままではお説教コースで明日以降の検索制限をかけられてしまう可能性も出て来た。それは非常に困る事態で避けたい。視線を逸らしてどうにか打開策を考えていると一つ良い案が浮かんだ。早速相手をちらりと見てから伏せ「だって、君が居ないと眠れないし…」とぽつりと零して見せて)
3時までやってんだからしっかり没頭してんだろ!ったく、お前もちょっとは自制ってもんを……な、…
(今朝の会話を持ち出してみたがどうやら相手は反省する気がないらしい、今は普通の人間ならば寝ている時間な上、目の前に広がるホワイトボードの文字量から見てもとても『ちょっと』の検索量ではない。屁理屈を捏ねる相手にまたも叫び説教モードを崩さない姿勢をみせる、最近は衝動的に検索するのも抑えられてきていたが目を離すとすぐこれだ。更なる小言を言おうとしたところで相手の目が伏せられて一瞬言葉が途切れる、その隙を狙い撃ちするように呟きが零されるとなんとも可愛らしい理由に見事に体を固めてしまった。恋人がそういうのならば仕方がないだろうかと一瞬思考が流されるがなんとか踏みとどまると「なら、なんで寝る準備してねぇんだよ。せめてベッドにはいるだろ」と勢いが削がれ攻めきれない返事を返していて)
…、一人だとこの時期はベッドは冷たいしあの寝巻きも意味が無いだろう。
(それらしい理屈を捏ねてみたいがますます説教モードは強まっていってさらに小言が重ねられそうになる。それを防ごうと浮かんだ作戦のまま目を伏せると言葉が途切れた。そして呟きを零すと分かりやすく体を固めたのが見えて思った通りの反応に思わず笑ってしまいそうになった。何とか口元を引き締めて再び相手を見るとまた小言が飛んでくるが先程までの勢いはない。実際一人で寝るのは躊躇われたのだから嘘では無い。確かな手応えを感じるとこのまま押し切ってしまおうとぽつぽつと敢えてテンション低く呟いてから相手の手を取り「だから君が帰ってきてよかった」と安心したように告げる。だがあまりにもあっさりと流されそうな相手に段々と笑いが耐え切れなくなって口元が緩んでしまい)
そりゃまぁ、寝間着は確かに……っ、俺も………嘘つけ!どうせラジオ聴いてて気になるワード検索し始めたらこの時間になったんだろ!!
(こんな夜中まで起きて検索に没頭していたことを叱らなければならないのに相手のしおらしい顔をみるとどうにもその勢いは無くなってしまう。反論してみたものの更に可愛らしい理由が返ってくると余計に心が揺れた。あれだけ二人でお揃いだと言って買い揃えた寝間着なのだから相手が自分の色を着ていなければ意味が無いのも分かる。グラグラと説教モードが揺らぎ始めて手を取られると思わず顔が赤くなりそうになった。釣られて返事をしてしまいそうになるがその顔がだんだんと緩まってくると相手の意図に気づいて顔の赤みが引っ込み代わりに怒りが再び浮かぶ、そして事務所の状況を思い出すと再び雷を落とす事となった。危うく流されそうになったことを棚に上げ大袈裟にため息をつくと「暫く検索禁止だ!」と罰を下し)
っ、何で分かったんだい。翔太郎、それは困るよ!
(狙い通り説教の勢いは弱まっているのを見れば相手の手を取ってみる。するとその顔はほんのり赤く染まったように見えてあともう少しだとじっと相手を見つめる。だが同時にあまりにも甘いハーフボイルドさに口元がニヤけるのが抑えられずについ笑ってしまうとその意図を悟られ相手の態度が初めに戻ってしまう。更にはこうなった要因のラジオまでぴたりと当てられてしまうと瞬きしてつい白状するように驚く。だが大袈裟な溜息と共に危惧していた罰を言い渡されると焦ったように相手の腕を掴み、抗議を口にする。気になったことが直ぐに調べられないなんて息をするなと言われているようなものだ。分かりやすく眉を下げると「今から直ぐに寝るから、」と食い下がって)
ラジオつけっぱなしだったんだよ!ってかやっぱ確信犯じゃねぇか!…っ、ダメだ!少なくとも三日は我慢しろ!
(危うく相手の可愛らしい言い訳に流されてしまうところだったが相手の表情が崩れたのをキッカケになんとか持ち直して追撃する。すると相手は驚いた後に自白を始めて漸くしっぽを掴むと更に怒りはヒートアップした。これは流石にお灸を据えなければならない、検索禁止を言い渡すと相手は焦ったようにこちらの腕を掴む。眉を下げた表情は今度こそ本物でまた気持ちが揺らぎそうになるが今度は毅然とした態度を取ると首を横に振った。だがここから拗ねて依頼に関する検索までしないと駄々をこねるとまた厄介だ、目の前の相手を探るように目線を向けながら「ひとつ条件を飲むなら一日まで短縮してやる」と提案し)
…あ。 三日も検索出来ないなんて僕は何をすれば良いんだい、
(まるでエスパーのようにここに至る過程を言い当てられてしまうと驚くもラジオのことに言及されると興味のままほったらかしにした事務所の状況を思い出して小さく声を漏らす。後から片付ければ良いと後回しになったことが仇になってしまったらしい。検索禁止を言い渡されると相手の腕を掴んで抗議を訴える。じっと縋るように見ていたが今度は流されることなく突っぱねられた上、あまりにも長い期限が言い渡されると更に困ったように抗議の声を重ねる。自分のせいではあるのは分かりながらもここは譲れないと相手と目を合わせていると相手が短縮の条件を出してきて「…条件?」と僅かに首を傾げながらその内容を伺って)
ラジオ聞くとか掃除するとか、いろいろあんだろ。ったく、特別だぞ?
(相手はようやくまだ事務所を片付けていないことに気がついたらしい、もしこちらが本当に夜通し依頼に行っていたら所長が朝出勤してきた際にこれはこれで怒られていそうな状況だ。検索禁止を言い渡せば相手からは即刻抗議が上がってやれやれとまたため息をつく。それならばと条件を出すことにする、首を傾げている相手を一旦そこに置くとホワイトボード脇にある作業スペースへと近づいた。そして手持ち用の小さなホワイトボードを取り出すとそこに文字を書き入れる、「これを一日つけたら謹慎期間短縮だ」とボードを相手の方へとみせた。そこには『「検索禁止」ボクは昨日夜中3時まで検索して夜更かししてました』と書き込まれていた。手持ち用のホワイトボードにはヒモが付いていて首から下げられるようになっている、「この前依頼人に見せられた猫の写真でこういうのがあったんだよな」と笑いを堪えながら相手へと近づき差し出して)
…?…なっ、これをつけろと言うのかい!?
(三日間何も調べられないなんてとてもじゃないが耐え切れない。即刻抗議をすれば溜息をつきながらそれを短縮する条件を提示されて相手を見つめる。一日だけでもとても長いのだが自分が約束を破ったのだから分が悪い。条件を聞けば相手は一旦作業スペースの方に向かって隅の方に置いてある小さなホワイトボードを持ってくる。そこに何やら書き込んでいるのを不思議そうに見ていると書き終えたのかそのボードを見せてきた。身につけるだけなら特に支障はないと言おうとしたがそこに書かれた罪状のような言葉に目を通すと思わず声を上げた。事務所に来る人は基本的には少ないとはいえこれを一日つけて過ごすなんて晒し者みたいなものだろう。ボードを持ったまま相手を見れば今度はそちらが笑いを堪えながらアイデアの発想元を述べていて飼い猫と同じような待遇と分かればますます不満げな顔になって「僕は猫じゃない」と訴えて)
でも罪を数えてるってのがよく分かるだろ?アキコも喜びそうだしな
(罪状とも言うべき文字を書いたホワイトボードを相手に見せると更なる抗議の声があがる、その出処が飼い猫の写真となればますます相手の顔は不満げなものになった。その様子も可愛らしいと思ってしまっているのだが今はその気持ちを引っ込めて、しかし顔には笑みが滲んでしまっていて本心を隠しきれていない。相手がこれを首から下げて事務所の隅で大人しくしている姿を想像すればそれこそ猫のようでまた笑ってしまいそうになるがなんとか口を引き締める、やったことが文字として見えるのだから反省を促すのにも効果覿面だろう。本音はあの写真の猫と同じ格好をさせたいだけだがそれらしい理屈を付けつつ未だ笑みを噛み殺して「それとも他に反省する方法があんのか?」と相手の意見を伺ってみて)
…君、今の状況を面白がっているだろう。それは……、そもそも君もこの時間に起きているのだから立派な夜更かしだ。依頼の為とはいえ夜更かしが健康に悪いなら同罪だと思わないかい?
(こちらが不満げな顔をしていれば先程の相手の怒った顔はなりを潜めて寧ろ笑いが滲んでいた。言われた通りにこのボードを首に掛けて明日を迎えれば相手の予想通り所長にもからかわれるのが目に見えている。真意を隠しきれていない相手に対してじとっとした目を向けながら指摘するが他に方法があるのかと問われるとすぐには浮かばなくて目を泳がせる。だがこのままでは相手の思い通りになる一方で今の時刻を思い出すと自分の罪を晴らすのではなく相手を巻き込む方向に舵を取る。この時間まで起きている事が駄目ならば相手だってそれに違反している。詭弁に近いことは自覚しているがボードの【午前三時】と【夜更かし】の文字を指さしながら堂々と問いかけて)
な、?!……そりゃ、確かに起きてるけど、俺は依頼だったんだから仕方ねぇだろ
(首からボードをかけるのがよっぽど不満らしくこの状況を楽しんでいるこちらに文句を詰め込んだ目線を向けられるが「そんなことねぇって」とすました顔で受け流す、実際相手は夜更かししていたわけなのだから名目はきちんとあるはずだ。だが相手はあろう事かこちらも夜更かしをしていると指摘してきて思わず声をあげた。確かに午前三時まで夜更かししている、という点は同じではあるが相手と自分では理由が違う。こちらの夜更かしはあくまでも依頼のためで不可抗力だ。直ぐさま反論するものの今まさに起きているというのは確かに事実であって勢いに乗り切れない。なんとか言い訳を探すと「それに俺はお前より年上で丈夫なんだから問題ねぇんだよ」と無理やり理由付けをして)
これくらい成長していればこの年の差くらいで大きくかわるそとはないし、普段体を動かしている君の方が睡眠を取るべきだ。
(相変わらずすました顔をしているが相手も夜更かしをしていると主張すれば声を上げる。動揺が見えればこちらのターンだと僅かに口角をあげて先程より勢いの無い反論に水を得た魚のように得意げに言葉を返す。それこそ相手と生活を共にする前はそのまま朝を迎えることも2日連続そんな日を続けても何ともなかったのだから丈夫さは特に関係ないだろう。寧ろ相手の方が規則正しい生活を送るべきだといつも言われている健康上の理由をそのまま返した。何とかこちらに流れを持ってくることが出来ると「それに君が居なくて僕が夜更かししてしまうなら君の監督不行届と言えるだろう?」と笑みを浮かべながら完全に開き直ったように問いかけて)
そうかもしれねぇけど、お前は……ぐ、……あ゛ーーー!分かったッ!!検索禁止は勘弁してやるから、今すぐ寝るぞ!
(先程までこちらの流れで猫の真似をさせようとさえ目論んでいたのにたった数秒で流れが変わってしまった。目を泳がせ駄々を捏ねていたはずの相手はまるで理論的に何かを話すようにサラサラとこちらにも非があると言葉が並べられる。反論しようにも相手は止まらなくて最後には監督不行届と開き直られると完全に言葉が詰まってしまった。そっちは自分の都合で夜更かししたのだろうだとか朝に約束しておいただろうだとかいろいろ言葉は思い浮かぶのだがこの状況では相手に理屈を捏ねられ反撃される未来しか見えない。モヤモヤと思考がこんがらがり最後には雄叫びを上げると、とうとう検索禁止を撤回した。盛大にため息をついて手を後頭部におくと「ったく、午前三時なんだぞ…」と勘弁してくれとでも言いたげに天を仰ぎ)
ふふ、やはり君はとびっきりのハーフボイルドだね。 ほら、明日…というかもう今日になったけど、アキちゃんに怒られない為にも早く寝よう
(流れさえ掴んでしまえばこちらのもので反論される前に相手がいなかったのが悪いと纏めて開き直れば相手は言葉を詰まらせてしまった。物理的な喧嘩ならともかく口論では互角か話題によってはこちらが上だ。最後には深夜にも関わらず雄叫びを上げて目的だった検索禁止が撤回されると楽しげな笑みが零れた。こういう所が何とも相手らしい。押し切れずに丸め込まれては溜息をついて天を仰ぐ相手に勝ち誇った表情を見せハーフボイルドだと告げる。それに反応して気持ちが変わってしまう前に今日になってしまった朝からの仕事のことを話題にしながら背後に回る。彗星の検索が途中であることもすっかり忘れてご機嫌にその背中をぐいっと押すとグレーチングを渡り、螺旋階段をあがって一緒に事務所スペースへと向かい)
な、誰がハーフボイルドだ!だいだいお前が、…っ、おい!
(夜更かしした相手を叱っていたはずがいつの間にか連帯責任にされ事が有耶無耶になってしまう、相手に反省を促す話のはずだったのに何故か最後はこちらが折れる形になって完全に言い負かされてしまった。ため息しか出ないこの状況で相手は得意げに勝ち誇った笑みを浮かべている、さらに半熟だと言われてしまえばこの状況ではなまじ間違いではない分ただ怒って叫ぶことしか出来ない。また説教モードに入ろうとするがその前に相手は背後に回って背中を押されて移動が強制的に開始する、とりあえず叫んでおくがそれも虚しく響くだけで事務所スペースに移動することになった。とはいえ相手が言うように明日の朝のことを思えば今はとにかく早く寝るのが第一だ、階段を登りきると後ろを振り返り「とりあえず風呂さっさと入ってこい。お揃いの寝間着で俺と一緒じゃねぇと寝れねぇんだろ?」と精一杯の反撃とばかりに揶揄うように言って)
ああ、一人では寝る気にならなかったというのは本当だからね。
(相手を半熟だと呼べばいつものように叫び声があがる。また小言が始まりそうな予感を察して背後に回り背中を押して強制的に一緒に移動を始める。「近所迷惑になるよ」と上機嫌に窘めながらも階段を登りきって事務所スペースに戻ってくれば外は真っ暗だ。空気も冷え切っていて時間の経過を感じていれば相手が振り返って揶揄う言葉と共に風呂に入るように促される。あれだけ入るのが面倒だと後回しにしていた風呂も相手と寝るまでの準備だと思えば苦ではない。素直に頷いてから相手に言った事は嘘ではないと告げ、風呂場に向かった。シャワーで手早く髪と身体を洗って十分温まってから出ると相手の色を纏った寝間着を着る。髪を拭きながら出てくると「戻ったよ、君も早く入りたまえ」と交代で相手にも風呂に入ることを促して)
…、……ったく。___おぅ、おかえり。まだその寝間着も見慣れねぇな
(無理やり移動が開始されいろいろと文句を言いたい所だったが遮断されているガレージなら問題なくとも事務所スペースとなればもう声は張り上げられない。すっかり勢いを削がれてしまえばとりあえず早く風呂に入るよう揶揄いながら言う、しかし相手はさらりとその言葉を肯定してみせて目を瞬かせた。そのまま風呂に行く相手を見守ると遅れて愛おしさがやってきて自分のハーフボイルドさにまた溜息をつくこととなった。帰ってきてからそのままにしていたコートやジャケットをしまっていると相手が戻ってくる、先日買った自分の色である黒の寝間着を着ているのを見れば自然と口角はあがった。まだまだ相手が自分のものを纏っている雰囲気が強くて少々照れくさそうに声をかける、その照れを誤魔化すようにそそくさと風呂場へ向かった。浴室に入り暖かいシャワーを浴びればほっと息をついて手早く体を洗った後に相手の元に戻ってくる、「あがったぞ」と声をかけるも就寝の準備が整って気も緩んだせいか一気に今日の疲労が押し寄せると大きな欠伸をして)
これから段々馴染んでくるよ。 __おかえり、言い忘れていたけど依頼お疲れ様。眠たいならさっさと寝てしまおう
(風呂を上がって相手に声をかけるとその口角があがったのが見えた。家のものに比べてまだあまり着慣れても見慣れてもいないものだがまた今日をこうやって過ごすことでこれで自然になっていくだろう。その事を伝えながら相手を見送ると一旦ガレージに戻って簡単な片づけをしてから再び事務所スペースに戻って寝る為の準備をする。そうしている内に相手が上がってくると出迎える。依頼が解説して緊張感が緩んだというのもあるのか大きな欠伸をする姿を見れば小さく笑って相手のタオルを手に取るとわしゃわしゃと撫でるように髪を拭いてやりながらタイミングを失っていた労いの言葉を掛ける。同じ夜更かしだと主張したが相手の方が明らかに疲れているだろう。ある程度水分が取れた所でこのまま寝てしまうことを提案すれば返事を聞く前に風呂上がりの温かい手を握って簡易ベッドの元に移動して)
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