相乗りで何処までも 【 〆 】

可憐なお嬢様と一緒に歩くのも悪くねぇが、俺の隣は検索馬鹿の相棒じゃないとな。____ふぅ、ようやくハードボイルド探偵の帰還ってとこだ。この格好だともう会場に入れてもらえねぇな
(いつか先の依頼でカップル限定イベントにでも参加する時があれば隣に可憐な恋人がいたって悪くはないのだが、やはり自分の隣にいるのは何処までも共に走っていける相棒でなければ。真正面からこの方が良いと言われて照れくさいのも相まって揶揄うように返事をしておく。事務所スペースに戻ってきてウィッグを外しスカートを脱いで、代わりにいつものベストやズボン、ネクタイをつけて軽く髪を整えてやれば鳴.海.探,偵,事.務.所の探偵の出来上がりだ。ようやく元の姿に戻ればまた一段と疲労感が押し寄せる。相手を見ればそこには上から下までいつもの相棒の姿がある、ロリィタ服からかけ離れたこの姿ではイベント会場の前で門前払いをくらうだろう。大きな依頼をこなして日常に戻った所でもうそろそろ事務所を閉める時間だ。今日は大人しく体を休めた方が良い、「今日はもう帰るか」と声をかけつつ相手の意見をうかがって)

そう思うとなかなか貴重な体験が出来た。 そうだね、今日は早く帰って早めに寝てしまおう。
（見た目が変わろうと相手が相手であることには変わりないがこの街の探偵と言えばこの姿だろう。からかい混じりの言葉に「一言余計だよ」と返しながらもその口元は緩んでいる。特別な姿をして普段はいることができないイベントに参加したのは良い経験だった。その一方でなれない姿に疲れたのも事実で着替えも終わりこの事務所に相応しい格好になった訳だが時間もいい頃合いだ。相手の言う通り今日はもう帰って早めに眠りにつくべきだろう。別の依頼に出掛けている所長に電話をして事件が解決した旨と今日は帰宅することを伝える。承諾が降りると着ていた服や靴を片付けてから事務所を後にする。家への帰り道を歩いていたがこれからのことを考える。幾ら疲れているとはいえ何か食べてから寝るべきだろう。隣に並ぶ相棒に視線を向けつつ「夜ご飯は買って帰るか簡単なものにするかい？」と問いかけて）

晩飯か……ならなんか買って帰るか？この辺だと弁当屋とかハンバーガーとか、あとはたこ焼きだな
(無事所長様の許可もおりて今日の事務所は店じまいだ。簡単に片付けをして事務所を後にする。まだひんやりとする外の道を歩いていると、夕飯についての相談がなされた。疲れてはいるが腹も減ってきているのは事実。パスタやうどん等サッとできるものも考えたが、今日の疲労具合で言えば準備や片付けなく食べるだけで寝てしまえるのが理想だ。今日は慣れないことだらけで早くベッドへ潜り込んでしまいたい、そう思いが傾けば持ち帰りを提案した。事務所からの帰り道で近場にあるテイクアウト可能な店舗をいくつか候補としてだせば、興味惹かれるものはあるかと相手の方を見て)

なら久しぶりにたこ焼きにしよう。早めに寝るなら軽めの物の方が良いだろうし、まだ食べたことの無い味もあるからね。 ___ うーん、僕はネギポン酢にしようかな。翔太郎は？
（どうやら相手も同じくご飯は簡単なものが良いようでテイクアウト出来るような店舗の候補が幾つか挙げられる。どれも帰り道にあるものだが選択を委ねられるとその中でたこ焼きをチョイスする。既にたこ焼きの全ては検索済みで実物も食べたことがあるがガッツリし過ぎない味と量は今の状況にピッタリだろう。それに定番のソース味以外にも種類があったはずでそれを味わってみるという意味でも興味惹かれる選択肢だ。歩いていると地元ならではといった風貌の店が見えてくる。いつ見ても様々な客層の人が買いに来ていて夕方頃通れば学生のグループがおやつとして買い求めている姿をよく見かける。店先に立ちメニューの中から今まで食べたことの無いさっぱりとした味を選択すると相手はどれにするかと視線向け）

よし、ならそこのたこ焼き屋寄ってくか。___お前がさっぱり系なら俺はたこチーズにするかな
(いくつか候補を挙げれば相手が選んだのはたこ焼き屋だ。いつかの日にホワイトボードいっぱいにたこ焼きの検索結果を書いていたのを思い出しながら帰り道にあるたこ焼き屋へと足を向ける。小腹が空いた時にはちょうどいい学生の時からよくお世話になっている店だ。顔なじみの店員に軽く挨拶をしてから店先に掲げられたメニューを見つめる。もうメニューは何周もしているが、夕飯にするのなら少量ながらも多少は腹に溜まる方がいいだろう。相手が食べたことの無い味も加味してチーズ入りのたこ焼きを選べば、店員が手馴れた様子でそれぞれのたこ焼きをパックに詰めてソースやら鰹節やらネギやらをかけてあっという間に完成だ。代金を渡して袋に詰めてもらったたこ焼きを受け取ると家への道を歩き始める。それほど経たずに二人の場所へとたどり着くと、玄関をあけて中へと入り)

さっぱり系とガッツリ系でバランスが良いね。 ___ ただいま、早速食べようか。
（どうやら相手はこちらと対象的なチーズ入りのたこ焼きをチョイスする。チーズとの組み合わせはまだ試したことがなく、そういう所も考慮した選択なのだと察すればつい口角はあがってしまう。出来たてのたこ焼きがパックに詰められてトッピングが施されていく様を熱心に観察しつつも袋に詰められた物を相棒が受け取るとあつあつの内に食べようと帰りを急ぐ。程なくして家に辿り着けばすっかり馴染みのある言葉と共に中へと入る。仕事の場からプライベート空間にたどり着いた安心感からより一層疲労感は強く出てくるが腹ごしらえをするのが先だ。テーブルにまだあつあつのたこ焼きのパックを並べて一緒に入れてくれた割り箸も添える。定番のソースにチーズを乗せた物とさっぱりとした和風テイストのたこ焼き。依頼中まともに飲食をしなかった空腹も相まってか急かすように告げ、早速割り箸を割って自分の分のたこ焼きを1口食べてみる 。想像以上に中は熱く口の中で冷ましながらもポン酢とネギのさっぱりした風味がたこ焼きの生地と意外にもマッチしていて味わいつつも「和風のたこ焼きもアリだね」と好意的な感想告げ）

ただいまっと。冷めないうちに食べちまうか。____口の中火傷すんなよ？ん、……んんっ？！
(二人の家へと帰宅するとまた一層疲労感は増して今すぐにベッドに飛び込んでしまいたい気分になるが、せっかく熱々のたこ焼きがあるのにそれは勿体ない。ハットやジャケットを脱いでいつもの場所に置けば早速夕飯の時間だ。こちらが身支度をしている間に相手はたこ焼きをセッティングしてくれたようで「ありがと」と一言礼を添えて定位置の椅子へと座った。たこ焼きは食べた事があるものの今日買った二つの味は相手にとって未知のもの、疲れていても好奇心が尽きない様子に小さく笑ってからこちらも割り箸を手に取る。早速相手はたこ焼きを一口齧るが、割れた断面からはホカホカと湯気が立ち上っていてまだ熱いのがよく分かる。焦って火傷しないよう釘をさしてからこちらも自分の分を一口齧った。半分ほどを口にいれてかみ切ったつもりだったが溶けたチーズは切れずに伸びてしまって、箸を遠ざけたり左右に振ったりしながら口と箸の間に伸びたチーズに悪戦苦闘していて)

幸い未遂で済んだよ。翔太郎、それは大阪でいう＊＊という奴かい？ チーズは何度か食べたことはあるけど伸びているのを見るのは初めてだ。僕もやってみたい！
（それ程遠くなく帰ってきて直ぐに食べたからかたこ焼きは出来たての温度を保っていたようだ。一口で食べてしまっていたら今頃火傷していた事だろう。危なかったと残りを少し冷ましてから食べていると相手もチーズ入りの物を半分程口にする。味の感想を聞こうと思ったのだが箸と口との間には溶けたチーズが伸びて繋がっていてそれを切ろうと悪戦苦闘する様はなかなかに滑稽だ。変にツボに入ってくすくすと笑ってしまいながらもたこ焼きの有名所である大阪に掛けて揶揄うに問いかける。会場で見たクールなお姉さんの面影はどこにも無い。相変わらず笑い続けながらも伸びたチーズの間に箸を挟んで繋がりを切る。たこ焼きとの相性以上に溶けて伸びるチーズに好奇心が擽られると目を輝かせて相手のパックのたこ焼きに箸を伸ばす。相手を食べ方を真似て半分ほどを口にして割るとそのままゆっくりと箸を離す。すると狙い通り溶けたチーズが口元から箸にかけて伸びていき「みへふれ、ふぉうはろう！」とその様子を無邪気に報告して）

ん゛んッー！………違ぇよ！もしかしてこれよく伸びるチーズに変えたのか？今度聞いてみ……ハハッ！何言ってるか分かんねぇよ！
(口と箸を繋ぐチーズはなかなか切れず眉間に皺を寄せ始めたところで相手から揶揄いの言葉が入ればさらに不服そうに何かを申し立てるが口にたこ焼きを咥えたままでは言葉にはできなかった。笑われながらもチーズを切ってもらい、ようやく口の中に全てを収めて咀嚼し飲み込むと溜めに溜めたツッコミを入れておいた。過去の記憶と変わらずにチーズたこ焼きを食べたはずだがこんなに伸びた覚えはない。最近はこうやって伸びるチーズが流行っているしいつの間にかトッピングのチーズが変わっていたのだろうかとしげしげと自分のたこ焼きを眺めていたが、その間に相手の好奇心が発動して箸がこちらに伸びてきた。たこ焼きを半分齧った相手はゆっくりと箸を移動させる。伸ばすことを前提にした動作をしたおかげかチーズは自分の時よりもさらに伸びて、予想だにしない長さになると思わず目を見開く。そこで言葉にならない言葉を相手が言うものだから、間の抜けた光景に思わず声をあげて笑ってしまった。未だ笑いは収まらず体を震わせながら伸びきったチーズを今度はこちらの箸で切ってやって)

っ、こんなに伸びるなんて驚きだ！ まるでお餅のようだね。上手く食べるにはコツが必要かもしれない。
（切れないように慎重かつ大胆に箸を遠ざけていけばかなりの長さにチーズが伸びた。なかなか珍しい体験を報告しようとするが口にたこ焼きの入ったままでは言葉にはならずその様子を相手が可笑しそうに笑う。チーズを切ってもらい咀嚼してから飲み込めば漸く喋ることが出来るようになって興奮したように話しかける。これに近い体験といえば正月に食べたお餅だがそれでもここまで伸びた記憶は無い。相棒の口ぶりが察するに今までの物から伸びやすいチーズに変わっていたようで種類によって伸びやすさの違いがあるというのは面白い点だ。好奇心惹かれる対象ではあるが食べやすさという観点では難敵の登場となるだろう。楽しそうにその事を話しながらも残りの半分を口にする。こちらは伸びることを考慮しなくともたこ焼きとチーズの組み合わせを純粋に楽しむことが出来て「味はベストマッチだ」と話し）

あぁ、まさかあんなに伸びるとはな。一口でいくにはまだ熱いし、半分に割るくらいしかできることねぇな…
(相手はチーズを存分に伸ばせた事を興奮気味に話していて、こちらはまだ笑いが収まらないまま楽しげな様子を見守っていた。まさかこんなリニューアルがなされているとは、チーズが乗せられることでコクが加わりより美味しくなるだけでなく食事の一時を盛り上げるものになるとは思いもよらなかった。伸びるチーズの問題をクリアするには一口で食べてしまうのが手っ取り早いがそれでは口の中が火傷してしまう。とはいえチーズがあまり伸びないよう冷めるまで待つのはたこ焼きの美味さを半減させてしまう、やはり熱々で食べるのが一番だろう。となれば予め箸で割っておけば先程の相手のようにはならない、そうあたりを付ければパックの中でひとつのたこ焼きを割り始める。だがやはりよく伸びるチーズは手強いものでなかなか半分に切れてくれず、結局は割れてしばらくいじくり程よい熱さになったものを一度に口に入れてしまった。しばらく咀嚼したあと「これが正解だな」と一人納得していて)

人気メニューと書かれていたのも納得だ。 こっちも食べてみるかい？
（ほかの食材にはあまりない性質を見ることが出来たから今回のチョイスは当たりだろう。様々なたこ焼きがある中で定番のソースに続いて2番目に人気だったのも理解が出来る味と楽しみ方だ。どうやら相手は予め半分に割る作戦で行くようだがチーズは手強くくっついて綺麗に割り切れていない。結局はある程度冷めたものを一度に食べていて力技な解決法に相棒らしいと緩く笑う。こうして珍しい物や美味しい物を共有出来るのも一緒にし薬事をしてこそだ。そのまま食べ進めていたが半分程食べた所で相手がまだこちらのを食べてなかったのに気づくとネギポン酢のたこ焼きのパックを相手に差し出して様子伺い）

そういや食ってなかったな、ありがと。……ん、こっちも美味いな。さっぱりしててチーズといいバランスだ
(チーズとソースとたこの味を堪能しながらチーズと格闘しつつ食べ進めていると相手のネギポン酢のたこ焼きが差し出された。口は濃厚な味で染まっていてそろそろサッパリしたものを食べたい気分だ。礼を言って箸を伸ばすと、そろそろ適度に冷めただろうとたこ焼きをそのまま口の中に放り込む。一口噛めばたこ焼きの生地に染みていたポン酢がじわりと出てきてネギの味を引き立てている。チーズたこ焼きとは違いスルリと食べてしまえる味を満足気に楽しんでいた。そうやって食べ進めているうちに二つのパックの中身は空になる。適度な腹の満たされ具合だ、疲労も相まって背もたれに体重を預けながら一息つくと「さっさと風呂入って寝ちまうか」と提案し)

＿…久しぶりに食べたけど美味しかったね。ああ、調べ物はまた明日にしよう。僕は色々片付ける物があるから先に入ってくるといい
（チーズとソースの組み合わせによるガッツリとした味とネギポン酢のさっぱりした味。どちらも違った美味しさかあり交換し合いながらも食べ進めていれば完食まであっという間だ。初めての種類を味わったことと程よくお腹も満たされると満足そうに感想を呟く。食事が済むとあとは風呂に入って寝るだけだ。あんなに伸びたチーズについては気になりはするが流石に今夜は検索する気力もない。すっかり背もたれに体重を預けてしまってる相手に疲労を覚えながらも同意を示す。一方で化粧の勉強の為に幾らか依頼人から借りた道具をこちらにも持ってきたままだったことを思い出す。依頼の報告時に返さないといけないのだが風呂に入ってしまえば寝るモード一直線なのが目に見えていて、多少疲れていても先に一纏めにした方が利口だろう。椅子から立ち上がるとたこ焼きのパックを片付けながらも先に入ってくるように促して）

あそこのたこ焼きはいつ食っても美味いからな。___分かった、任せたぜフィリップ。ありがとな。じゃあさっさと入ってくるか
(腹も満たされ心地良い時間だ、このままうだうだとしてしまう前に就寝前にやることを済ませてしまった方がいい。どうやら相手は風呂に入る前に最後の仕事をするらしい。家の方にも依頼人から借りた化粧道具がいくつかあって、明日それらを返すための準備をするのだろう。今回の依頼の事前準備は相手の仕事が占める部分が大きかった、本番である今日にこちらも体を張りはしたが女装をしたのはあちらも同じ、しばらくは相手を存分に労った方が良さそうだ。夕食の片付けもしてくれた事に礼を言いつつ、お言葉に甘えて先に風呂場へと向かう。暖かいシャワーを浴びれば疲労が溶けだしていくようだ。ゆっくりと深呼吸してお湯と共に体の汚れと疲労を洗い流す。風呂場を出ていつもの寝巻きに着替えればバスタオルで髪を拭きつつリビングへと戻って「お待たせ、上がったぞ」と声をかけ)

風呂場で寝ないようにね。 ___ …ああ、おかえり。 じゃあ僕も入ってくるよ。
（テイクアウトしたおかげで片付けもさほど手間では無い。風呂場に向かう相手に揶揄い混じりな言葉を向けながらも見送る。おそらく風呂から上がればすぐに寝てしまうだろうからある程度は済ませてしまいたい。夕食の片付けをした後、依頼人から借りた化粧品や参考書類を一纏めにする。不備が無いことを確認すると一休みにとベッドに腰掛けた。あとは相手が戻ってくるのを待つだけだが疲れた身体では妙な空き時間でも眠りに誘われてしまって次第にうとうととし始める。眠気と葛藤していると丁度相手が戻ってきてはっと目が覚めるとワンテンポ遅れたタイミングで相手を出迎える。このまま寝てしまうのは良くない。完全に寝てしまう前に風呂を済ませようと入れ替わるように風呂場に向かう。疲れた身体に暖かなシャワーが染み渡り疲労が流れ出していく。簡単に全身と髪を洗ってから風呂場を後にしてぽかぽかの身体に寝巻き姿でリビングに戻る。ぽたぽたと水滴の伝う髪を適当に拭きながらも「ただいま」と声かけて）

お前の方こそシャワー浴びながら寝るなよ____…お前な、もうちょっと髪拭いてから来いよ
(風呂場から出てきて声をかければ相手はうつらうつらと今にも倒れてしまいそうで、次の瞬間に目を覚まして誤魔化すように声をかけてくるが寝かけの姿を見てしまった身としては顔に笑みを浮かべてしまう。こちらの疲労もそこそこだが相手もクタクタらしい。早く横にした方が良さそうだと思いつつ軽い揶揄いと共に相手を風呂場に見送った。髪を拭きながら部屋を見回す。ひとりで住んでいた時よりも随分とものが増えたが目につくもので言えば何よりも増えたのは写真立てだ。温泉旅行の写真にバレンタインフェアの写真、小さな額に入れられた写真はひとつ、またひとつと増えていって、そしてこれからもきっと増えていく。部屋が写真で埋め尽くされる前に相手が言っていたようにアルバムを買わなければと思いを馳せながら思い出の写真を眺めていた。そうしているうちに相手も風呂から上がってきたのだが、髪から水滴が落ちているのに何よりも先に目がいってしまった。湯冷めの心配もあるというのにと呆れたように声をかけ近寄ると髪を拭いていたタオルをとってガシガシと髪を拭いて粗方の水気をとる。タオルを手にしたまま「拭いてやるよ」と声をかけるとベッド脇に座って隣にくるよう促し)

今から拭こうと思ったんだ。…それに僕が拭かなくても誰かさんが世話を焼いてくれるからね。
（十分に乾かしてくる気力もなくぽたぽたと水滴を落としながらリビングに戻ってくると呆れた声をあげながら相手が近づいてくる。風呂場で拭くのもリビングで拭くのも自分にとっては同じことなのだが何かと世話焼きの相手にとっては一大事らしい。今からやろうと思ったと子供みたいな屁理屈を捏ねていると頭に被せていたタオルは取られてガシガシと雑に水気を拭われる。前にもされた事があるが力任せに見えて優しくもあるこの手付きは嫌いではなくて大人しく身を任せていた。今日にかけて色々頑張って来たのだからこれくらい甘えても文句は言われないだろう。ある程度水滴が落ちなくなってからベッド脇に座って続きを持ちかける相棒に悪戯っぽい笑みと共に上機嫌に応えては促されるまま隣に座る。「じゃあ任せたよ、相棒」と相手を見遣ると僅かに身を委ねてみて）

つまりお前の思惑通りってわけか。ったく、俺の相棒は甘えたみたいだな
(相手は子供のような屁理屈を捏ねているがいくら何でも水が滴るほどの状態でリビングに来るなんて。このまま寝ては風邪を引く可能性もある、早く寝かせてやるためにも髪を拭いてやるのが一番早いだろう。そう思ってベッドへくるよう促したのだが相手曰くこちらのやる事は読まれていたらしい。悪戯っぽく笑いながら隣に座る相手に呆れるように、しかし今度は何処か嬉しさを滲ませながら返事をする。そうやって甘える所に可愛げを感じていて、それが声色に出てしまっていては惚れた弱みで負けと言った所だ。身を委ねて徹底的にこちら任せにしようとする姿は本来突っ込むべきなのにどうにも応えて甘やかしたくなってしまう。相手の体を軽く支えて背後に回り再びこちらへと体をもたれかけさせると、タオルを頭に被せて今度は優しく頭を拭き始める。毛先に溜まった水を時折拭き取り滴り落ちないようにしながら撫でるようにして髪を乾かしていて)

今日は一段と頑張ったのだからこれくらいのご褒美は貰ってもいいはずだろう？ ……ん、君にこうやってされるの好きだ…
（ここぞとばかりに甘えて全てを委ねてみると相変わらず呆れたような口ぶりではあるがその声色には今度は嬉しさが滲んでいるのが分かる。相手が自分には特段甘く世話焼きな事を知っているからこそ出来る行動だ。ここ数日化粧の知識を集めて今日は完璧な魔法をお互いに掛けることが出来た。その労力の報酬を盾にしながらも背後に回った相手に促されるまま体重を預ける。頭に再びタオルを被せられて今度は優しい手つきで髪が拭かれていく。時折毛先に移動しながらも拭かれて行く仕草は撫でられているようでもあって心地好く風呂上がりの高い体温も相まって自然と瞼が閉じていく。相手の手の仕草に無意識に重心が少し後ろに下がる。精一杯大切な人に甘やかされている感覚、暖かな幸せが心に満ちていてぽろりと甘えたな声でありのまま思った言葉を呟いて）