相乗りで何処までも 【 〆 】

問題は俺の方だな。ロリータ服っつってもピンクばっかじゃねぇんだな……それ、今お前が持ってるやつ。それなら着れそう……か？
(晴れて相手の服が決まり小物類を店員に任せれば、乗り気な彼女は喜んでとその他のものを選んでくれた。相手の服はすんなりと決まったものの問題はこちらの方だろう。体にフィットしすぎる服は体格が出てしまうし腕や足も女性の繊細なそれとは違うため隠した方が良さそうだ。何故か先程より真剣な眼差しになっている相手にツッコミそうになりながらも、陳列されている煌びやかな服を眺めていく。その最中で相手が取り出した服に目が止まると自分が取り出していた分を置いて相手へと近寄った。ミリタリーロリィタに分類される黒を基調とした服で肩周りやスカートの端を縁取るラインはメタリックパープルだ。軍服をイメージしたであろうボレロとマントがついており、これなら肩や腕周りを隠せるだろう。胸板部分に金色の大きなボタンが二列並ぶのも軍服をイメージしているようだ。スカートの長さも膝下ほどまであって足をある程度隠せそうで申し分ない。全体的にクールなイメージだがセットにされている白色のシャツには首元に大きなリボンが、手首にはふわふわのフリルがあしらわれていてロリータの部分もしっかり抑えたデザインになっている。これならばなんとか着れそうかと相手が手にしていた服を貰って自分に当ててみるが、イマイチ自信がなくて反応を伺うように相手の方を見て)

これかい？ …、とても似合ってると思う。かっこいいと可愛いの良いとこ取りって感じもするし君の雰囲気に合っているデザインだね。 女性との骨格の違いが出やすい肩周りもカバー出来ているから潜入に当たっても問題ないだろう。 …僕も好ましいと思う服だ。
（色々と相手の服を探している最中、手に取った服に相手が近付く。黒を基調とした生地だが相手を象徴するような紫で縁取られマントやボレロといった軍服イメージの装飾もセットの組み合わせの服だ。相手の身体に合わせてみるとクールでありながらも所々可愛らしい一面もあるその服は意外にも相手の雰囲気にマッチしていて不安そうな目と視線を交えると率直な感想を伝える。懸念点でもあった性別が出やすい肩周りや首元もフリルやマントなどのおかげで隠せていてイベントに参加するくらいならば問題ないように見える。ウィッグでの髪型や靴なども揃えれば十分可愛らしい女性に扮することが出来るだろう。客観的な評価をつらつらと述べた後に個人的な主観に基づく意見も告げると「これにしたらどうだい。」と勧めてみて）

お、おぅ……そうか……お前がそう言うならこれにする。
(ひとまず自分が着れるもので性別を誤魔化すことができればそれでいいと思っていたが、相手に似合っていると言われ予想外の反応に言葉がもつれてしまう。こちらの事を一番よく知る相手がこれだけ褒めてくれるのだから間違いはないだろう。あんなにも抵抗のあったロリータ服だがこうも恋人が好感触だと満更でもない気持ちになってしまうのだから不思議だ。店員も『より可愛くて凛々しくする為にステッキを持ちましょう！ウィッグは黒髪ボブにしときますね！』とノリノリで小物を用意し始めたのでやはり問題はなさそうだ。やがて二人分の服に小物とウィッグが揃って各々の物が二つの紙袋いっぱいに詰め込まれた。こんなにも本格的に女装をすることになるとは、しかもこの上さらに化粧もするのだからまだもう一山課題は残っている。店員に代金を支払いそれぞれの紙袋を受け取れば『当日はよろしくお願いしますね！』と笑顔で見送られて店を出た。ひとまず服を入手したところで今日やれることはここまでだろうか。「あとは当日に化粧して着替えるだけだな」と紙袋の中を覗きながら言って)

まさかこういう服を一式買うことになるなんてね。…その事なんだが、当日の化粧は僕が担当しても良いかい？せっかくなら何処まで変わるか興味がある
（こちらがその服を推してみると言葉がもつれつつではあるが採用してくれた。店員もその服に合わせて小物類を準備してくれて紙袋にはパンパンに当日身に着ける服やアクセサリーが詰め込まれていく。詳しく中身は確認していないがこういうのは詳しい店員のセンスに任せれば間違いは無いだろう。やがて出来上がった紙袋を受け取り代金を払うと店を後にする。あまり服に頓着はないが、まさかその内のひとつがロリータ服になるとは思わなかった。不思議な経緯もあるものだと中身を軽く確認しながらも苦笑いを零す。あとは当日着替えて化粧を施すだけだがその過程に興味を示すと自らが担当してみたいと申し出る。地.球.の,本.棚の知識もあるし周りの女性たちにコツを教えてもらうことだって出来る。意外にも似合っていた服を見ればせっかくの機会だ、いつもと違うとことん可愛らしく似合う姿にしてしまいたい。人差し指を立てながら理由を説明して）

あぁ一生縁のねぇもんだと思ってた。…お前が化粧を？なんか楽しもうとしてないか？まぁ、でも俺がやったら中途半端になっちまいそうだし……なら任せるぜ、相棒
(探偵をしていれば変装はするものだし、いつかは女装もすることになるだろうと予感はあったが、一気にロリータ服にまで手を出すとは思っていなかった。イベント当日に着るのはいいとしてその後着る機会がないことを願うばかりだ。あとは当日を迎えるだけだがその時の化粧を任せて欲しいと言われると意外な申し出に目を開く。その言い草には思わず突っ込んでしまうが、化粧の知識が全くない自分が鏡と睨めっこするよりは自分をよく知る相手に任せた方が良い仕上がりになるかもしれない。こちらに好意を抱いてくれている相手が自分をどう変えたいのか正直興味もある。それに自分で見よう見まねで化粧をし始めてもいつも通りの顔つきを守ってしまいそうだ。所長に頼めば酷い結果になるのは分かりきっているので除外、ここは素直に相棒の申し出を受けることにしよう。当日イベントの開始は午後からだ、午前中は変装に時間を使えることだし化粧をする時間は十分確保できるだろう。相手の方に目を向けると頷き化粧を一任することにし)

今後捜査する中で変装する機会だってあるだろうし身に付けて損のない技術だろう？ ああ、君を立派な女性にしてみせよう。 帰ったら早速検索だ！
（相手には早速邪な思惑は見抜かれているようで早速ツッコミが入るがこれからの捜査の中で人からの印象を変える化粧の技術が役に立つ時があるのも事実。今回のケースだってロリータ服を着た女性たちの中に溶け込む必要がある。立派な建前の元、さらにもう一押しすれば狙い通り相手から担当を任されることとなった。幸いイベントは週末で本を調べたり練習する時間は幾らでもある。地球一の知識でハードボイルドを目指す青年をあの服に見合う女性の姿にすると楽しげ且つ高らかに宣言しておいた。そうと決まれば早速情報収集だ。紙袋を揺らしながら興味に目を輝かせた笑みを見せると早足で事務所に帰っていき）

そんなに女装して潜入する機会があってたまるかよ。まぁ化粧も立派な技術には違いねぇけど……ったく、やっぱり楽しんでんじゃねぇか
(必要が迫られれば女装はするのだがそう何度もやることにならないことを願うばかりだ。だがどんな場所に行くことになるのか分からない以上、女装だけでなく人相を変えるための化粧だって必要になるかもしれない。繊細な作業はこちらにとっては苦手な分野だ、ここで相手に地球の知識を全て身につけてもらって次に活かせるようにしておくのも悪くはないだろう。といってもやはり当の本人は楽しげに好奇心で目を輝かせており、やれやれとため息をつきつつ後を追った。)

……で、まずは何から始める？髪か？
(それから数日、相手は地.球.の.本.棚.に入ったり熱心に本を読んだりと知識を深めていたがこちらはただ当日を待つだけの日々でいつも通りの日常を過ごしていた。そして迎えた当日、来たる午後からのイベントに備えついに、いよいよ、女装をする時となった。購入した服一式が入った紙袋と所長となぜか乗り気の依頼人から借りたメイク道具一式をテーブルの上に並べる。やることは山積みでどれも手探りで進めなければならない。ひとまずは相手の意見を伺おうと隣へと顔を向け)

まずは服だね。化粧がついて汚れてはいけないから後から着ることの出来る羽織り物系以外を着てくれ。その後に服や髪の雰囲気に合わせて化粧をしてヘアスタイル、最後に調整といった感じが一番やりやすいと思う。
（いざ化粧について調べてみると奥が深く新しい発見ばかりだ。美しく見せるためから印象を変えるためなど目的も様々であり、依頼人や所長から借りたメイク道具も些細な色味の違いや細さなどで多種に渡っていたのもあって興味は尽きず、のめり込むように知識を深めていた。そんな数日を過ごしていればいよいよイベント当日だ。まるっきり女装については一任されていたからこれからの手順について得た知識から伝える。特別価格で売って貰ったとはいえ元々そこそこ値の張る衣装だ、可能な限り汚したくは無い。頭から被る必要のある服や一番ベースとなるブラウスはシャツは初めから着ておいた方がいいだろう。自らも長袖Tシャツを躊躇なく脱いで白のブラウスを着る。フリルが施されたそれは今の何もしない状態で着れば大分浮いてしまってるが仕方ない。知識の元並べられたメイク道具から手始めに使う物を選びながらも「着替えたら椅子に座ってくれ」と言い）

……準備は抜かりねぇみたいだな。よし……残りは後から着れるからこれでいい。じゃあ頼んだぜ、フィリップ
(こちらは手探りで進む程度の用意しかしていなかったが相手はしっかり段取りまで決めて今日という日に臨んでいたようだ。伊達に知識の海を潜っていたわけではないらしい、テキパキと順序を説明する相手に思わずニヤリと笑う。さすが頼りになる相棒といったところか。若干私情が混じっているとはいえこの日に向けて知識を集めていた相手の行動にはこちらも応えなければならない、二の足を踏んでいる場合ではないのだ。まずは最初に着るべきブラウスを取り出し目の前に広げると気合いを入れるように一言呟く。躊躇無く着替える相手を横目にこちらも手を止めることなくいつものシャツを脱ぎ大きなリボンとフリルがついたシャツを身にまとった。普段着ているものより肌触りがよくゆったりとしているが首元と手首はピタリと締め付けられる。着替え終わった相手をちらりと見れば普段の格好にフリルのシャツを着ていてお嬢様というよりは道化師のような様相だがおそらくこちらも同じような状況なので口にはしないでおいた。首元のリボンがまっすぐなるよう調整しつつ指定された椅子へ座ると覚悟を決めた険しい顔で相手の方を見て)

今回の作戦の要でもあるからね、ばっちり調査済みさ。 ああ、…そんな力を込めなくてもリラックスしてるといい。___…これで基礎は完成だ。 今から目元をしていくけど何か希望とかはあるかい？
（ブラウスを纏った相手の姿はやはりそこ以外はいつも通りのせいか違和感が強い。これをいかに自然な姿に持って行けるかが化粧の知識を取り入れた自分の腕の見せ所だろう。ある意味相手を好き勝手に出来る状況に期待を膨らませると得意げな笑みを浮かべる。一方で相手は化粧を始めとする女装に緊張しているのか力が入ったような険しい面をしていて、力を抜くように声を掛けつつも椅子の斜め前に立ち早速取り掛かることにする。まずはベースだ。コットンを使って化粧水と乳液で肌を整えた後、化粧下地を塗っていく。その上から毛穴やヒゲ、クマなどが目立つ部分にコンシーラーを乗せ馴染ませてから丁寧にファンデーションをパフで全体的に塗っていく。練習はしたものの人に施すのは初めてで集中している為真剣な眼差しを相手の顔に注ぐ。依頼人から借りたベースは流石ロリータファッションをする際に使用するのだけあって自然とトーンアップして均一の綺麗な肌になる。これだけでもいつもとは大きな違いだ。一旦離れてその出来を確認しつつも化粧の肝でもあるアイメイクに取り掛かる。沢山用意されたアイシャドウの中から方向性に合わせてどの色にするか決めなくてはいけないことに悩めば当の本人に何か希望があるか候補をいくつか並べながら尋ねてみて）

おぉ、悪い……_____基礎作るだけでも一苦労だな。目元の色か…この写真の子みたいにキリッとした感じとかか？まぁお前に任せるって言ったし、お前の好きなようなしてくれて構わねぇよ
(ここからは完全に相手主導となる化粧の時間だ。相手の張り切りように不安半分、信頼半分、そこに少々期待が混じった気持ちで大人しく椅子に座っていた。顔が硬いと言われれば軽く呼吸してなるべくいつも通りを心がける。最初に水っぽいのを塗られ思わず「冷たっ」と声を挙げるも間近にある真剣な眼差しの相手を見れば、邪魔になるような事はすまいと言葉は引っ込んでいく。その後も大人しく液体やら粉やらを塗られていき、その間は相手の目の動きや真剣な表情を見つめながら時間を過ごしていた。相手の動きが止まり次は目の周りを彩るようだ。希望を聞かれれば紙袋の中からメイクの参考にと渡されたカタログを取り出しパラパラと捲る、開いたのは今から着るものと同じミリタリーロリィタのページだ。写真の中の女性は目元をボルドー系統に纏めくっきりとした顔立ちに仕上げている。服を選ぶ時に相手が言っていたようにいつもの色合いを意識すれば暗めのカラーをチョイスする事になる。とはいえ相手から申し出てくれた化粧だ、この際相手の思うままでも構わないと言葉を添えておき)

うーん、こういうセンスみたいな所は知識だけでは補えないのが難点だ。…、直感を信じてこれにしよう。目を閉じてくれ
（色々と声を挙げたりしてはいるが大人しく座る相手に覚えた知識でベースを作っていく。ここまでは大方化粧の基礎だがここからは最も個性が出て印象の変わる部分だ。カタログのページにはミリタリーロリィタの写真がモデルが乗っており目元のメイクについても軽く解説がある。それぞれ顔立ちや服によって使う色や乗せ方も差があってそれぞれ魅力的な仕上がりとなっている。本を読んであらゆるメイク技術や色使いを覚えてもこういう状況に合わせて判断して似合う方法を選んでいくセンスは一朝一夕では身につかない。暫く相手の顔立ちを見つめ何が似合うかどんな感じにしたいかを固めていく。相手の言葉に促され直感でアイシャドウを選ぶと目を閉じるように伝えた。顎を軽く掴みこちらを向かせる形で固定するとまずは指でアイホール全体にベースカラーである藤色を乗せていく。二重幅にアイシャドウブラシでワインレッドを濃くならない程度に塗り軽くぼかす。細かな銀色のラメをうっすら添え、目尻に締め色の深紫を若干つり目がちになるように慎重に引く。系統としてはカタログと同じだが服と同じ紫を使ってミステリアスかつ統一感のある仕上がりにしてみた。目を開けさせ皮膚を挟まないよう気をつけながらビューラーを使って睫毛をあげてロングタイプの赤が少し交じったマスカラで長さを出すと印象のあるクール系の目元の完成だ。少し離れて仕上がりを確認しつつも鏡を持ってきて「…どうだい？」と恐る恐る感想を問いかけ）

お前に任せた以上は俺はお前の直感を信じる。______ん、…うぉっ？！すげぇ！！これ俺か？…………お前、すごいなフィリップ…俺じゃねぇみたいだ
(いつもの服装ならまだしもこの慣れない服に馴染みのない化粧でさらにセンスも発揮しなければはならないとなればこちらはこちらはお手上げだ。相棒が真剣にこっちを見てくるのは少々恥ずかしいもののその決断を後押しするように声をかけておく。そこから目を閉じて顎を固定されればあとはなされるがままだ。一体自分がどうなっているのか検討もつかない状態が長らく続き緊張感も増してくる。再び目を開けもう少し加工が施されれば目元が出来上がったらしい。慎重な様子で鏡を向けられれば、こちらも息を飲み意を決して鏡の中の自分をみる。が、そこに居たのがあまりにも自分とはかけ離れていて思わず驚き声をあげた。だが鏡の中の人物は自分と同じ動きをしていて紛れもなくそれが自分の鏡写しの姿なのだと分かる。一瞬しか見ていないが自分の顔だというのに思わず心臓が跳ねてしまうくらいには印象的でいて射抜くような力強い目元だ。今度は鏡に顔を近づけじっくりと目周りを観察すれば服に合わせた藤色に印象を強めつつ女性らしいワインレッド、締め色には緑も入って二人を象徴するカラーも取り入れられている。直感だとは言っていたがバランスもよくかなり考えられた配色だ、こちらがお願いした「キリッと」の部分もバッチリで綺麗で何処か妖艶なお姉さんといった印象の目に仕上がっている。鏡の中にいる綺麗な目と、これが自分の姿なのだという現実と、相手が真剣な顔してこれを仕上げたという事実に変に胸はドキドキと高鳴っていて驚愕の目を相手へと向け呆気に取られながらも賞賛して)

君の選んだ服に合わせてカッコよくも少しミステリアスな女性ってイメージなら高身長でも悪目立ちしないと思ってね。…まるで魔法みたいだろう？ アイメイクさえ仕上がればあとは仕上げだ。
（鏡を見た相手が驚きの声があがる。何度も確かめるような動きをするのがその動揺を物語っていて安堵すると共に笑みが零れた。どう頑張って身長は縮めることは出来ないがそれを逆手にとってクール系のかっこかわいい感じに纏めてみた。誰かにするのは初めてで不安ではあったが相手の反応を見る限り他人から見ても問題は無さそうだ。ずっと鏡を見ていた相手の顔がこちらを向くと自分が仕上げたにも関わらず綺麗で大人っぽい瞳と視線が合って思わずどきりと鼓動が跳ねる。賞賛の声も含めて照れ臭くなるとメイク道具を貸してくれた時の依頼人の言葉を真似て茶化してみる。これだけ印象が変わるのだから魔法と言っても差し支えない。お気に召してくれたなら目はこのままで残りのメイクを仕上げてしまう。眉マスカラなどで眉の主張を控えめにしてシェーディングとハイライトでより女性らしい顔に近付ける。軽く頬にチークを乗せれば殆ど完成だ。崩れてしまわないように「リップは落ちやすいから出掛ける前にしよう」と言う言葉と共に満足気に完成を告げる。自分で言って何だが初めてにしてはなかなかの仕上がりだろう。当初の目的から自分の中ではより魅力的に見える姿に仕上げることにシフトしてしまっている気もするが結果は同じことだ。「なかなかの美人だね、翔太郎」と鏡を見せながらからかうように声をかけて）

あぁ、これならあの服と雰囲気もバッチリだ。案外魔法ってのも間違いじゃねぇかも……___な、んか……自分の顔のはずなのに見るの恥ずかしいな
(鏡の中の自分をもう一度覗き込むとやはり別人ではないかと思えるほどにいつもとは違う顔がそこにはある。ミリタリーロリィタ服を選んだのはいいもののこの顔で本当にあの服が似合うのか今日まで不安ではあったが、これは見事それを覆す化粧だろう。魔法と形容するのも差し支えない、現に自分の顔は女性らしい肌艶の良さや目つきになっているのだから。それに相手と目が合えば咄嗟に逸らされてしまってこの魔法の効果が十分なのが分かる。改めて性格や体躯を含めこちらの事をよく知る相手に化粧を頼んで正解だった。今はブラウスをきて化粧を整えただけなのにここからさらに服装と髪型が変わるのだから最終的にどんな仕上がりになるのか戸惑いと期待が混在していた。その後もいくつかブラシで眉やら頬やらにいろいろと化粧が加わってリップ以外は完成のようだ。再び鏡の中を覗きこめば先程よりもより女性の顔つきに仕上がっておりやはりこれが自分の顔だとは信じられない。相手にからかわれるよう美人だと言われたが鏡の中にいるのはまさに美人の女性のようで、鏡を覗けば当然その美人と目が合ってしまいじっと見ていられずに思わず鏡から目をそらす。鏡の中の自分に照れるとはおかしな話なのは分かっているのに直視はできなくて、代わりに相手の方を困ったように見上げていて)

僕も想像以上の出来にビックリしているよ。まあ、今日一日その姿で過ごすのだから早く慣れたまえ。＿……、
（元々整った顔立ちではあったのだがしっかりとベースを整えそれらしいメイクを施したことでより分かり易く美しくなった。所謂化粧映えする顔だったのかもしれない。よく鏡を見ては前髪やハットの角度を整える仕草をする相棒だが今回は鏡を見る度に視線を逸らしてしまっている程だ。想定外の結果に素直な感想を呟く。鏡を見つめて居られないのか困ったように見上げられるがこちらとしてもまだその姿には慣れていなくて、綺麗な顔に浮かべられた照れたような表情に心臓が変な動きをする。美しい顔に相まっていつもより破壊力が強い。ある意味恐ろしい物を作り上げてしまったかもしれない。思わず視線を逸らし妙な空気に流されないようあくまで普通通りの対応を心掛けながらも今度は自分が椅子に腰掛けて化粧をすることに意識を向けた。相棒に関してはぶっつけ本番だったが自分の化粧はこの数日練習台にしていたのもあって方針は既に固まっている。ベースはほぼ同じでファンデーションだけマット肌になるような物を使う。今回の服では派手なメイクでは浮いてしまうだろうから柔らかなブラウン系のアイシャドウで明るい印象に作っていく。クラシカルロリィタはナチュラルが基本らしいがあの仕上がりの相棒と並ぶなら少しだけ派手目に赤茶色のアイラインを目尻に引いてドール風の顔立ちにした方がいいだろう。ビューラーで睫毛をガッツリとあげセパレート式で焦げ茶のマスカラを重ねると落ち着いた上品な目元になっていき）

あぁ、潜入するのに挙動不審じゃ話になんねぇからな。____……なんか慣れてんな……お前の顔見慣れる方が難しそうだ…
(イベント会場にいけば自分の顔を見る機会はほとんどないだろうが、不意に視界に入る度に動揺するのはマズイ。あの場に集まる女性は服もメイクも自らが一番好きな形に仕上げてやってくるのだろう、場に馴染む為にもいちいち自分の顔にどぎまぎはしていられない。だがこちらから目を逸らす相手の動きもなんとなくぎこちなくて、この女装という日常からかけ離れた空気に慣れるにはもう少し時間がかかりそうだ。とはいえ時間を無駄にはできず、次には相手のメイクが始まる。隣の位置で相手の方を見ていれば先程は見れなかったメイクの過程を見ることができる。なんとなくそれぞれの化粧品の役割を想像しているうちに肌はくすみなく、しかし何処か浮世離れしたような綺麗なものになり、目元には視線を引くような赤茶色、まつ毛がいつもの倍引き立てられれば、人形のように何処か近寄り難いのに愛らしい目が完成していた。改めてそこを見ていればじっと覗き込みたくなるような魅力に体ごと吸い込まれていきそうで、不意に目をそらすとボソリと呟いて)

この数日、知識を集めてそれなりに練習していたからね。 どうせならばとガッツリと服の雰囲気に合わせてみた。…よし、完成だ。 翔太郎、何処か変な所はあるかい？
（潜入出来ないかもしれない心配はしていたが、まさか似合い過ぎて戸惑う可能性は考えていなかった。周りをしっかり観察して犯行を食い止める為にも動揺の種は潰しておきたいが慣れるにはまだ時間がかかるだろう。せめて会場に着くまでには何とかしたい所ではある。相棒を仕上げるというひと仕事を終え、自分の化粧はテキパキとこなして行っていたが隣から観察するような視線を感じる。この数日、自らの好奇心も背中を押して化粧の知識や技術の習得にのめり込み自分の顔でも実践はしていたから慣れているという感想は間違ってはいない。調べた限りイベント会場は本当にロリータ服を好きな人達が集まるようで地味な見た目よりも思いっきり世界観を作り上げるような見た目にした方が浮かないという判断だが、普段の姿見を知っているからこそお互いの顔はギャップが強く見慣れないものとなっている。ぎこちなく相棒が視線を逸らしているのを認識しつつも同じ要領で一気に仕上げてしまう。より女性らしくなった顔を鏡で見つめながらも第三者の客観的な評価も聞きたいと顔を隣の相手に向けて違和感のある所はないかと確認するように尋ねて）

この依頼、今んとこお前に良いとこ取られっぱなしだな。会場ではお前の努力を無駄にしないように俺がきっちり犯人を捕まえねぇと。…………かわいいな……あーいやっ、問題ねぇ！どっからどう見ても女の子だ
(ここ数日はこちらがいつも通りの日々を過ごす中相手がこの日に向け知識をたんまりと集め好奇心半分とはいえ化粧品やらを研究していたのは傍から見ていてよく知っている。その日々の結晶が化粧した側もされた側も照れるほどのものとなれば成果としては十二分だろう。服との兼ね合いも含めたテーマがしっかり練られた化粧は相手がどれほど時間を使ったか計り知れない。この努力に応えなければ相棒を名乗ることはできないだろう、来たる午後に必ず探偵としての仕事を果たすことを約束するように不敵な笑みを浮かべていた。そうやって完璧な仕事をしなければならないのにこちらの横で出来上がっていくのはお人形さんと形容したくなるほど可愛らしい相手の顔だ。陰影をつけるだけで顔の輪郭さえ変わってしまうとは舌を巻く。もともと中性的な相手の顔にさらに手が加われば悪くなるはずがない。違和感があるかと問われながらこちらに顔が向けられるが、あるなしで言えばある。先程まで横に座っていたはずの相手の顔は別世界に住む上品なお嬢様のようで嫌でも目と心を奪われる存在だ。しばらく惚けた顔で見つめた後にボソリと本音が漏れてしまい、慌てて返事を修正するも直視はできなくて明後日の方を向いていて)

犯人を捕まえたりするのは僕には出来ない役割だ、よろしく頼むよ相棒。…翔太郎？ …、君のお眼鏡にかなうなら大丈夫そうだね。 じゃあいよいよ服を全部合わせてみてヘアスタイルを決めれば完成だ。
（下準備としての役割は確かに自分の方が割合は大きいが実際の会場内で状況に合わせて判断し犯人を捕まえるのは相手の方が得意だ。形は違えどいつもの二人で一人の分担であることには変わりなく今回の作戦の一番の肝であるイベント参加者を守りながらも犯人を捕まえる過程は相棒に任せるとこちらも笑い返す。そこに至るためにも周りの女性達に気付かれるような変なところはないかと問いかけたのだが、当の本人はこちらを見つめたまま反応を示さない。思わず名前を呼んでみるがその後ぽつりと零された言葉は服を当てた時と同じものでその後慌てて取り繕う姿を見ればそういう反応だと気付く。自分の腕による成果を褒められたような且つ目を逸らしてしまうほど魅力的に思われていることに照れ臭さもあるが嬉しさの方が強くて口元が緩む。目を合わせられないなんて何処か懐かしい雰囲気もある。沢山の人に会って交流のあった相棒が女の子に見えるというなら大成功の部類だろう。上機嫌に声を弾ませて手直しせずにこのまま行くことに決める。顔さえ出来てしまえばあとは服を完成させて髪型も決めれば完成だ。顔だけでこれなのだから服と髪型が合わさればもっとらしいものになるだろう。期待を抱きながらも購入した緑のワンピースを手に取り、靴下なども合わせてコーデを完成させて行き）