相乗りで何処までも 【 〆 】

何ともねぇってのに……よし、ちょっとしみるぞ
(相棒の口調はどこか淡々としていて、あの場所の緊張感をまだ引きずっているようにも思える。体中痛むこちらもそれは同じなのだが。頭の傷について説教を受けても何処か上の空で返事をしていた。これ以上緊張感が増すとあの場の空気に逆戻りしてしまいそうだ。だがこちらが痛みに悶えていると相手の顔は微かに解ける。それならば痛みに耐えたかいがあったというものだ。道具を受け取ると新しいガーゼに消毒液を染み込ませ怪我をしている方の手を取る。声をかけたあとになるべく優しくそこにガーゼを当てた。薄いガラスの破片が幾つか赤い線を作っているがそこまで傷は深くない。自分の傷は大丈夫だと繰り返し言う癖に、相手の怪我を見ればこれだけでも大丈夫だろうかと心配してしまう。新しいガーゼを当てて包帯を巻いてやれば止血も出来ただろうが、相手は滅多に怪我しない分痛々しさも増す。それにこの傷は自分がグラスを割ったせいで付いた傷だ。包帯が巻かれた手を見つめているとあの瞬間の相手の感情が蘇ってくる。恐怖と絶望に打ちひしがれて自分はどうでもいいなんて、そんなことを言わせてしまったのが情けなかった。あんな暗い場所に相手を連れていくべきではなかったのに。包帯の巻かれた手を支えながら目線を交えると「怖い思いさせて悪かった」と静かに謝罪の言葉を口にして)

ああ、っ…なかなか染みるね。…なんで君が謝るんだい？ 翔太郎はこんなに怪我してまで助けに来てくれたんだ、僕が謝る事はあれど謝られる要素なんて一つもないよ。…ただあの男と場所が僕らが思っている以上に狡猾だっただけさ。
（手当するといっても数本赤い筋が出来ているだけで大した怪我ではない。それでも大切な人の怪我を過剰なほど心配してしまう気持ちはよくわかる為大人しく委ねることにした。手を取られガーゼを当てられるとその痛みに身体が僅かに強ばる。いつも痛がる気持ちが分かると包帯が巻かれていく手を見ながら感想を呟いた。そうして手当も済んだのだが相手の手は離れていかずに目線があったかと思えば告げられる謝罪に目を丸くする。確かにこの傷は相手が割ったグラスによるものだがあの時そうでもしなければ正気に戻らずにあの液体を飲み込んでいただろう。それ以外の点でも今回の依頼に着いていくと言いはったのも自分で騒ぎの種も相手の悪い所など微塵もない。大方相棒の性格だ、危険なことに巻き込んだ負い目があるのだと予想は立つが責任などある訳ない。まっすぐと相手を見ればハッキリとした口調でそれを否定する。反省するならばあの場とそこにいる人物を甘くみて警戒しきれなかったことだろう。真っ当な手ではなく搦手を使って人の弱い所に漬け込み甘い蜜を啜るような人物の悪意や手口を予想出来なかった。相手を痛めつけて殺しかけても楽しそうにしていた男の笑みを思い出せば蘇る怖さに視線は下がり無意識に相手の手を握りしめて）

俺の怪我は俺のミスのせいだ…、あの時ドライバー付けてただろ？お前がどれだけ怖い思いしたか分かってる……もっと強くならねぇと
(謝罪に対してはハッキリと否定の言葉が返ってくる。だがその後しばらくしてゆっくり目線は下がってこちらの手が握られた。耐えるように握られる手だ、あれだけの絶望を味わった直後に冷静でいられるはずなんかない。一歩相手に歩み寄るとそのままその体を抱きしめる。打撲で体は痛むが今はそれよりも相手のそばに居たい。背中に手を回して包むようにしながら静かに語りかけていた。あの時、最初にミスをしたのは自分だ。男が相手に馴れ馴れしく近づいた時平静を保てなかった。それにもっと早くあの大学生を説得出来ていれば事は大きくならなかったし、もっと言えばああいう場所に不慣れな相手を席に一人残したのも判断ミスだった。それで自分が怪我をしたのなら自業自得だが、それをキッカケに相手は心を折られるほどの悪意に晒されてしまったのだ。だがここで謝罪を重ねてもきっと意味がない。互いに後悔が多すぎて二人の心が沈んで行くだけだ。後悔することは多い、こう出来ていれば良かったと、おやっさんのように出来れば良かったと自責の念は募る。それを飲み込むと相手を抱きしめたまま決意を語るように、静かに一言だけ呟いて)

…っ、翔太郎…。…そうだね、風.都.を守りきるにはまだまだ力が足りないと実感する機会だった。…強くなろう、二人で。
（相手の温もりを確かめるように手を握っていると一歩身体が近づいてそのまま腕の中に包まれる。生きている人間の温度、馴染みのある大切な人の匂いに気丈に振舞っていた心が溶けて行くようだ。ドライバーはそれぞれの思考や感覚を共有するものだ。相手の意識を感じる余裕は途中から無かったが相棒に全て伝わっていたのだから今更隠し切れるものでは無い。静かに語りかけられる内容に何とか名前だけ返してこちらからも痛みを与えないよう恐る恐る腕を回して抱きついた。結果的には大事には至らなかったとはいえこうすれば相棒は怪我をしなかったのではないかと考えてしまって反省と後悔は尽きない。依頼は達成したのに思考と心は沼のように沈んでいったが静かに一言、相手の口から呟かれたのは前向きな決意だ。思わぬ発言に顔を上げて相手を見つめる。確かに今色々落ち込んでも時間は戻らない。探偵をしていく以上表の綺麗な部分を扱う依頼だけでなく今回のような暗闇を覗き込むような依頼が舞い込んで来る事もあるだろう。今回踏み入れた違法バーも風.都.の一部には変わりない。ならば二人で交わした約束を守るためにも今回のようなことを起こさせない力と成長が必要となってくるだろう。どちらか片方だけではない、相棒と自分2人ともでだ。新たな方針が見えてくると抱きしめる腕に力を込めつつ『二人』を強調して決意を伝えて）

、フィリップ……そうだな。この街を泣かせねぇために、それと俺たち二人で何処までも走れるように、二人で強くならなきゃな
(ゆっくりと恐る恐る相手の腕がこちらに回される。こちらの痛みを気遣ってだろうが、そのぎこちない動きにまたあの時ああしていればと後悔が浮かびあがってくる。その為にもあらゆる意味で強くならなければと思ったのだが、相手の返事に今度はこちらが顔を上げてその顔を見つめる。強くならなければ、の前には『自分が』の言葉が付いていた。相手を二度とあんな目に合わせないために何処かに閉じ込めるのではなく、二人に何があっても切り抜けられる度胸や頭、腕っぷし、それが自分に必要だと思っていた。だがそう感じたのは相棒も同じで、いつの間にかまた一人でどうにかしようとしてしまっていた事に気がつくと小さく笑う。自分達は二人で一人の探偵だ、より強くなる為には自分だけがどうこうするだけでは足りない。それに二人だからこそ、それ以上の力を発揮出来ることだってある。こちらを抱きしめる腕が力強い、こちらからも同じように力を込めるが、体が痛みを訴えて困ったように笑った。半熟同士まだまだ足りないものだらけだが今一番必要なのは休息だろう。「とりあえずベッドで横になるか」と視線を交えたまま提案し)

ああ、成長する為にもやるべき事はいっぱいだ。 そうだね、早く回復して貰わないと満足にキスも出来ない。
（自分の言葉に相手の顔が上がる。恐らく相手の決意は相棒だけのものだったのだろう。だがこちらが守られてばかりでは何も変わらない。得意分野は違えども対等な相棒で真の意味で二人で一人の探偵でいたい。やっと相手から小さな笑みが浮かぶとこちらも軽い笑みを返しながらも同意を示す。また同じような状況に巻き込まれた時に今度は怪我なく切り抜けられるように、成長しないといけない能力も経験も多くある。何時しか沈みかけていた心は新たな決意で前向きになっていた。二人で強くなる為にも今は休息が最優先事項だろう。身体的にも精神的にも今日は疲れ果ててしまっている。相手の言葉に腕を解いて口元の怪我を絡めて揶揄するようなことを告げると先にベッドに転がり込む。壁に寄って十分なスペースを作り「翔太郎」と横に来るように招いて）

………、今はこれが限界だな
(互いの身体も精神もあまり良い状態ではないが、気持ちは前を向けている。憧れにはまだまだ遠く、果たすべき道にゴールはない。それでも、相棒で恋人であるこの男とならば二人で成長しながらどこまでも行くことが出来る気がする。ようやく調子を取り戻せば、先に相手はベッドへと転がりこんでこちらの名前を呼ぶ。そんないつもの姿に安らぎを覚えながら呼ばれるままに隣へと寝転んだ。体がベッドに沈み込むと全身の疲れが溶けだすようだ。次いで相手の体に腕を回して引き寄せればさらに気持ちは安らいでいく。ただ揶揄われたままなのは気に食わなくて、唇の切れていない方を相手の唇と軽く重ねた。中途半端なキスは物足りない心を産むだけで困ったものだと笑い)

…、なら早く持ち前の体力で回復したまえ。 …ありがとう、翔太郎
（今日は色々災難に巻き込まれた日ではあったが最悪で終わる一日ではなかった。こちらが招くと相手は素直に横に寝転ぶ。二人分の身体がベッドに沈み相手の手によって引き寄せられると心地良い温もりに包まれ安堵の息が洩れる。不意に相手の顔が近付いて切れていない方の唇が触れて僅かに目を見開いた。変わらない感触ではあるがいつものキスを知っている身では何とも中途半端だ。普段通りのスキンシップを出来るようになるにも今日はゆっくりと休んで回復して貰わなければ。いつもの口調と共に早く回復するように願いを込めてキズに響かないよう前頭部だけ軽く撫でるとそのまま背に緩く腕を回す。そのまま相手を見つめれば最後に一言だけ、ぽつりと今日の感謝を伝えると温もりを確かめるように目を閉じて）

任せとけ、明日には全快だ……こちらこそ、ありがとうなフィリップ
(キス未満の口付けを落とすと相手からはいつもの調子の返事が返ってきて、今一番安心できる場にいるのだと実感する。その直後にこちらに手が伸びてくると傷に響かない位置で頭を撫でられる。目を閉じてそれを甘んじて受け入れるがやはりこれだけでは物足りない。もっとと願う心はあるがそれを叶えるのは互いの傷が癒えてからだ。腕が回されると相手の温もりはさらに増して心地良い。呟くように感謝の言葉が向けられると目をゆっくり開けて微笑んだ。その頃にはもう相手の目は閉じられていて、その顔を見つめたままこちらからも感謝の言葉を伝える。そして再び目を閉じれば「おやすみフィリップ」と口にして)


(/お世話になっております。そろそろ区切りかなと思いましたのでお声がけさせていただきました。上の方は蹴っていただいて大丈夫です。違法バー潜入緊張感たっぷりでやらせていただきとても楽しかったです！二人ならではのイカサマはバディ感があってめちゃくちゃノリノリでやってしまいました。その後のピンチな場面もどう展開が転ぶのか毎回楽しみにお返事させていただきました。あと、検索くんがちょっと薬の影響を受けていた描写入れていただいてたのに拾いきれずすみません…ちょっと調子が外れてしまう検索くんも是非みたいなのでまたリベンジさせて下さい！
この後の展開ですが、事件ものが続いたので日常な風景をするのはいかがでしょう？少し前に話題に出た料理教室をするか、前にご提示いただいたこのままの流れで一週間会えなくなって限界突破する話が良いかなと思うのですがいかがでしょうか？)

____ …今日も翔太郎に会えないんだろうか
（優しい声で声を掛けられると微睡みの中で「おやすみ、翔太郎」とだけ返して眠りに落ちる。安心出来る場所で一夜を過ごせば心身共にある程度は回復していつものように出勤した後、所長と刃野刑事に経緯や状況を報告する事になった。予想通り両名から呆れたようなため息と耳の痛い小言を並んで貰うことになったのだが。大学生の息子もあれから家に帰ってきて家族で良く話し合ったと夕方に事務所を訪れた依頼人から報告もあった。何はともあれこれで依頼は達成だ。その余韻に浸る暇もないまま珍しく事務所には依頼が立て込んでいた。といっても違法バーのような危険な物はなく浮気調査や嫌がらせ相手の特定のようなものだが調査にあたり相棒は殆どの時間を外で過ごしていた。一方で自分はそのサポートの他に所長から別件の謎解きのような依頼を受けていた。それがなかなかに難航してガレージの中で昼夜問わず検索とその情報の整理を行い限界になったらソファーで気絶するように寝るという日々を続けていると制止する者もいなければ生活リズムは大きく乱れる。どちらかが事務所で活動してる時は外出しているか寝ているかの状態で、通話や書き置きで相手の存在を感じるもののほとんど顔を合わせなくなっていた。そうして気付けばまともに会わないまま1週間程経っていて、ようやく謎も解け所長に出す報告書も仕上がるとガレージのホワイトボードを消しながら相手のこと考えて呟き）

（/お世話になっております。こちらこそ色々な要素な山盛りで緊迫した状態の中で2人らしいやり取りが出来てとても楽しかったです！ 色々汲んで頂いたりかっこいい探偵君の活躍が見れたりと毎回最高の展開でのお返事が来るのでどきどきわくわくしながらやっておりました。本当に好きな流ればかりで感謝しかありません。その件はお気になさらずに！ 好きにお返事して頂きたいですしまたの機会がありましたら調子のおかしい検索が出来たらと思っております。
それでは新たに決意を固めたことですし、欲張りにはなるのですが、頑張ろうとして仕事をこなしすぎて1週間会えなくて限界突破→頑張りを見た所長ちゃんから貰えたお休みで料理教室の流れはいかがでしょうか？ 一応その展開で上記の方回させてもらったのですが違う感じが好みでしたら回し直しますので気楽に回答頂けたらと思います。 また続ける場合1週間顔を合わせなかった理由もいい案が浮かばずに正当性が怪しくなっているので上手く解釈・補足していただけると助かります…！）

___フィリップ！……んん゛っ、…今日は起きてたみたいだな。……やっと会えた
(違法バー潜入で心身ともに酷使したが、この街の風はこちらの事情などお構い無しに事件を運んでくる。それが探偵の辛い所だが、同時にやり甲斐でもあった。と、余裕を持てたのは最初の二日程だろうか。所長に怪我を心配された時これくらい問題ないと言い張ったのが運の尽きだ、それではと目の前には未解決の依頼をどっさり置かれたのが一週間前。難しい依頼は少なかったがその分足で稼ぐ事が多かった。ある日は猫を一日中探し、ある日は人探しで風.都.を出て泊まりになり、ある日は朝から次の日の出が登るまで待ち伏せを行ったり、とにかく事務所に帰るタイミングが少なかった。相手と連絡は取っているものの直接話せずにいて、気づけば一週間が経っていたのだ。忙しいのは有難い事だが二日間まるまる相手と会っていない事に気がついた時には今すぐにでも事務所に帰りたい衝動に駆られたもので、その後も帰ってきても寝ている姿しか見ることが叶わなかった。そうこうしているうちに一週間が過ぎていて今日も泊まりがけの依頼から帰ってきた所。事務所に着くなりアキコにただいまの挨拶をし「フィリップは？」と聞くと、『返ってきてすぐそれかい』のツッコミをくらった後ニヤケ顔で『起きてるよ』と告げられた。顔が綻びそうになるのをなんとか抑えつつ「そうか」とだけ返すと金具にハットを掛け、そのままガレージの扉を開く。薄暗いガレージに素早く目を走らせると、一週間ぶりに起きている相手が目に入って思わず名前を叫ぶ。いても立ってもいられず螺旋階段を駆け下りると相手の側へと駆け寄った。嬉しさを全面に溢れさせた笑顔を浮かべていたが、それではあまりに締まりがないと咳払いをしていつもの調子で話しかけようとする。ここは事務所で仕事中だ、そう自分に言い聞かせようとするがずっと会えなかった相手を目の前にするとすぐに目線は泳いでしまう。ちらりと螺旋階段の上を見遣り所長が覗いていないのを確認すると、結局我慢できずに勢いよく相手を抱きしめて)

(/いえいえこちらこそガッツリカッコイイ探偵できましたし、本当に探偵ドラマみたいな展開で……見返すと短期間で物凄い文量書いてたので改めて楽しませていただいたなと思います。
そして上手く先に進めていただいてありがとうございます。是非限界突破からの料理教室でいきましょう！顔合わせ出来ていない流れも作っていただいてありがとうございます。そちらに乗っかる形で書かせていただいた結果相変わらずいろいろ詰め込みすぎてしまいましたので、気にせず出会った所らへんからお返事いただければと思います。それでは二人の時間たっぷり楽しみましょう！こちら蹴り可です！)

ちょうど依頼が終わってね、翔太郎も今帰ってきたのかい？ …わ、…連絡は一応毎日取っていただろう。
（何かに集中している時はそれだけを考えれば良かったがそれ以外の時、例えば食事の時風呂に入る時寝る直前などはふと隣にいるべき人がいないのが物足りなく感じていた。どんな依頼を受けているかは所長に聞いていたし、時には知恵を求められてアドバイスを通話越しにしたりとしていたが相手の動きを間接的に感じる分寂しさは増えていくばかりだ。思えばこのような関係になってから2日以上顔を合わせないことなど一度も無かった。以前も生活リズムの違いで同じくらいの期間別行動をした時はこんな事を考えた事が無かったから大分自分の感性も変化したのだろう。相棒の代わりに抱いて寝ていたペンギンのぬいぐるみの形が若干変化した頃、昨日から泊まりの依頼だと聞いている相手のことをかんがえているとガレージの扉が開いた。所長が様子を見に来たのかと思ったが馴染みのある声が名前を呼ぶのが聞こえて思わずそちらを向く。凄い勢いで降りてきて掛けよってくる人物は間違いなく相棒だ。イレーザーを置き相手を出迎えるが久しぶりに見た顔は満面の笑みで少し驚いてしまう。だがこちらもつい声が弾んでしまっているから似たような物だ。泊まりの依頼にしては帰ってくるのが予想よりも幾らか早い。現状確認と問いを向けていると相手の目が泳いだかと思えば勢い良く抱きつかれて思わず変な声があがる。相手は業務時間中、それも所長がまだ事務所にいる時なら尚更恋人らしい事をしないタイプだ。それが嬉しそうに抱き締めてくるのだから驚きと照れが込み上げてつい可愛くない事を言ってしまう。だがこちらとしてもずっと会いたかった相手と顔を合わせる事の出来た嬉しさに背中に手を回してぎゅっと抱き締め返し）

声だけ聞いてるのとこうやって直接触れられるのだと全然違ぇだろ……今日の依頼、早めに終わったからすぐ帰ってきた。いい加減お前と会わないといろいろ持たねぇ
(勢いよく駆け寄りすぎたせいか相手は少々驚いた顔をしていて、しかし声は弾んでいるのを聞けば大方こちらと同じ気持ちなのだと分かる。抱き締めた体は相変わらず心配になるほど細くて、しかし柔らかくて、自分と同じシャンプーの香りの中に相手の香りが混じったものが鼻腔を擽る。たった一週間だというのに随分と長くこの感触に触れていなかったように思う。一人で眠る度に隣に居て欲しいと思った体を強く抱き締めた。相手からは呆れた風な言葉が飛んでくるがこちらを抱き返してくる腕には嬉しさの感情が乗っていて言葉でなくとも同じ想いなのだと十分伝わっている。まだ所長のいる事務所の中で相手を抱きしめるなんて普段ならば考えもしない事だが今は少しでも長く相手の存在を確かめていたい。一週間待ち焦がれた瞬間を大事に抱きしめながら首元に顔を埋める。今日の依頼も早めに終わらせたのはいいものの、せっかく事務所に帰っても相手が眠っていたらどうしようと帰り道にヤキモキしていたのだ。最初のうちはペンギンを抱き締め眠る姿を可愛いと思えたものだが、今はもうそれだけでは我慢できない。一刻も早く相手に触れたかった。全身で相手を感じながら参ったように声を漏らしつつ背中に回した手で相手の服を握っていて)

…それは今実感しているよ。依頼が立て込んでいたのもあるけど、ことごとくタイミングがズレていたからね。…僕も会いたかった。
（久しぶりにちゃんと万全な姿で触れることの出来る身体は温かくて当然だが相手の匂いがする。音声や文字だけでは決して得る事が出来ない情報ばかりでそれに安心する自分がいた。1週間不足していたものがここにある。自分よりも力強い相手に強く抱き締められると多少苦しくもあるのだが今はより密着出来ることが嬉しくて小さく笑いながらも呟いた。どうやら予定よりも早く依頼を終わらせて帰ってきたようだ。服の生地がまだ若干外気の冷たさを纏っている辺り事務所に帰ってきたその足でガレージまで降りてきてくれたのかもしれない。上に戻った時の所長のにやけ顔が目に浮かぶが今はそこまでして早く会おうとしてくれた相手の気持ちが擽ったい。お互い忙しい依頼を抱えていたというのもあるが事務所に缶詰で習慣化していた共に寝る生活をしない内に生活リズムがズレて顔を合わせるタイミングが無くなっていった。今日だってあと1時間程相手が帰るのが遅ければ長時間の検証の疲れで寝ていたかもしれない。子供になっていた時にも近い素直さで背中の服を握る相手にこちらからも頬を擦り寄せるとぽつりと本音零して）

そうだな……お前が寝てた時、顔見れんのは良いけど触れられなかったし。…フィリップ……
(抱きしめる体が暖かい、確かにこんな心地だったと記憶を辿りたくていつまでも離れ難い。難解な謎解きをしていると所長から聞いてはいたがストッパーがいないと相変わらず相手は倒れるまで謎を突き詰めてしまう。テンポの合わない生活をしていれば見ることが出来たのは寝顔だけ、その寝顔も疲れ果てて眠った顔をしていれば起こさないよう触れる事も出来なくてずっとお預けを食らっている状態だった。相手が頬を擦り寄せてくる、その仕草だけで胸が掴まれる感覚がする。首元に顔を埋めていると鼻先が素肌に当たってそれだけでももう毒だった。今すぐここに触れたい、綺麗な肌に自分のものだと証を付けてしまいたい。湧き上がった衝動を逃がすように名前を呼ぶが、そこにはどうしても欲が乗ってしまっていた。だがその直後にガレージの入口が大袈裟に叩かれる音がして思わず相手に回していた腕を離してから飛び退く。さらにそこそこの時間が空いてからその扉が開いた。顔を出したのは当然所長様で、二人が並んで立っているだけなのを確認すると大袈裟な咳払いをする。そしてその後溜まっていた依頼が全て片付いたから今日は帰ってもいいことと、明日は休みにすることを告げられた。『だからここでイチャついちゃダメだからね』と見透かされたようなニヤケ顔で言われると「んな事しねぇよ！！」と早速事実と合わない反論を叫んでいて)

僕は顔すら見れなかった事が多かったよ。…アキちゃんには何もかもお見通しだね。お言葉に甘えて今日はこのまま帰らせて貰おう。
（生活リズムの違いに加えて泊まりがけの依頼もこなしていた相手とはことごとく事務所にいる時間すら合わず寝顔すら1度くらいしか見ていない。当然忘れたとは言わないが目の前にある顔は何処か懐かしいとさえ思ってしまう。会えなかった分を補充するように擦り寄って五感で腕の中の相手を確かめていた。ふと呼ばれた名前には確かな欲が滲んでいてそれに煽られるように息を吐いた。ここが事務所だと言うことも忘れて心のまま相手を求めようと更に顔を近付けた所でノック音がして慌てて飛び退いた。それから少しして扉が開くと所長が上から覗いてきた。咳払いの後、今日の仕事の終わりと明日の休みが言い渡される。この一週間二人の動向を一番よく知っているのは所長だろう。何も言わずとも相棒の依頼の進捗を教えてくれたり時間が合えば食事も共にしていた。関係を打ち明けてからはより一層事務所の精神的な柱となった所長には今何をしていたかもお見通しなのだろう。隣で反論する相手とは反対に少し照れ臭そうに認める旨の発言をしつつも相手の手をとる。今は何より会えなかった分大切な人との時間を過ごしたい。所長の前でも構わず手を引いて螺旋階段を駆け上がりつつ今すぐ帰ろうと促しては彼女に簡単な報告と礼を伝える。そのまま雑に相手の頭にハットを被せると事務所を後にして）

な、バカお前！っ、…ちょ、待てってフィリップ！
(相手の息が肌を掠める、確かに熱を持ったそれに相手を求め続けた体は簡単に反応してしまって奥底が疼いてくる。だがその前に所長が来訪して既の所で暴走せずにすんだ。だがそれは同時に再度のお預け状態でもあって不完全燃焼な想いが募る。晴れて休暇となってのはいいがせっかく所長の揶揄いを否定したのにさらりと相手はそれを事実だと受け入れてしまって思わず声を挙げ、しかもそのまま手を繋がれて目を見開く。確かに今すぐにでも二人きりになりたいがアキコの前で手を繋ぐなんて恥ずかしいがすぎる。だが相手はお構い無しに走り出すのだからそのまま手を引かれるしかない。とはいえこちらも逸る気持ちは同じで止めるよう名前を呼びながらもその足はしっかりと動いていた。所長は手でハートマークを作って楽しそうに笑っていて照れ隠しでそちらを睨みつけていたが、その目もハットを被せられ隠れてしまった。事務所をあとにしたあともそのままの流れで手は離せずにいた。どうせ自宅は近い、それに今はこの繋がりさえ手放したくない。駆け出した勢いそのままにいつもより早足で二人の部屋へと向かう。やがて自宅の扉前へたどり着くと、慌ただしく鍵を取り出してそのまま扉を開けた。やっと二人になれると思ったその瞬間、ずっと会いたかった想いと早く相手に触れたい想いが決壊して、繋いでいた手を少々強引に引くと玄関へと相手を無理やり引き込む。鍵をかけるのも忘れそのまま相手の腰と後頭部に手を回すと有無を言わさず唇を重ねた。頭を固定して相手の体を背後の壁に押し付けるようにしながら、長い時間唇を重ねた後ゆっくり離す。待ち焦がれた瞬間に全身に血が巡るのを感じながら言葉を紡ぐのも忘れてもう一度軽く口付けて)

＿＿…ただい、ッ！……は、…焦り過ぎだ。ん…
（制止を呼びかける声が聞こえるが実力行使で止められる事は無い。一週間もまともに相手に触れていないのだ、きっと考える事は同じだろうと確信にも近い思いがある。ハートマークを作る所長にこちらを笑みを返しながらも事務所を後にした。家まで歩く道も約束を守るならば手を離すべきではあるがお互い何も言わずとも繋いだままで早足で進んでいく。家が見えてくれば二人きりになれるのだと期待が膨らんでいくのが分かる。その勢いのまま部屋の前に辿り着き慌てただしく解錠された扉の中へ帰宅の言葉と共に入ろうとした途端、繋いでいた手が強引に引かれて玄関に引きずり込まれる。突然のことに目を見開くが扉が閉まる音とほぼ同時に腰と後頭部に手が回され、口を挟む暇もなく唇が重なった。あの日には中途半端にしか感じられなかった柔らかな感覚。久しぶりに帰ってきた自宅の匂いも相まって消化不良だった欲望が掻き立てられては抵抗する気は失せて壁に押し付けられるまま長いキスを受け入れる。やがてゆっくりと離れると吐息と共に靴すら脱いでいない今の状況を指摘してみるがその声にはつい期待の色が乗る。足りない時間を埋め合わせするように再び唇が重なると今度はこちらからも首の後ろに手を回してもっとと強請るように引き寄せながら目を閉じて口付けに集中して）

しょうがねぇだろ、一週間ずっとお預けだったんだ……フィリップ…、……
(ようやく感じた相手の唇の感触、味、吐息。長く口付けだがそれだけでは全くもって足りない。そもそも一週間前のあの日だって中途半端な口付けしかできず物足りないまま眠りについたのだ。そこから今日まで触れてもいないのだから我慢の限界というもの。小言が飛んでくるがそこに隠れた期待が体を疼かせる。再び唇が重なれば強請るように腕が回され体を引き寄せられれば簡単にこの体は煽られた。名前を呼べば共に出る吐息は既に熱く腹から湧き上がった劣情が滲んでいる。もっと相手を味わいたい、自分のものだと示したい。再び顔を近づけると唇を重ねそこを食むように唇を動かす。舌先を唇に這わせながら唇同士を擦り合わせていく。そこを自分の唾液で塗りつぶすようにゆっくり舌と唇を動かして最後には水音混じりのリップ音を響かせた。こうも我慢した体に助走や理性などなくて、今はただ目の前の獲物を食らう獣同然だ。変わらず後頭部に手を添え逃がさぬよう固定しながら、腰に回していた手はゆっくりと上へとあがる。この時期着込むものは多い、少しでも近づくためにジャケットの下へと手を滑らせると唇への愛撫は止めぬまま、剥ぐようにそれを脱がせて)

…、翔太郎……ン、……
（劣情を隠そうともしない声で名前を呼ばれ、熱い吐息が頬を撫でればじんわりと身体が熱くなる。ずっと会いたかった大切な人が目の前にいて邪魔する物は何も無い。この状態で何もするなと言うほうが酷だろう。形となりつつある欲望は身体を突き動かして余計なことを喋る数秒すら惜しい。応えるように名前を呼べば再び唇を合わせて擦り合わせる。食むような動きに加えて舌先が唇をなぞると相手の唾液で濡れて小さな水音が混じり始める。柔らかくてあったかくて大切な人にだけ許された特別な味だ。病みつきになるそれを何度も繰り返しながらも薄く開いた隙間から舌を伸ばしてこちらからも相手の唇をなぞってマーキングしていく。腰に触れていた手の動きに僅かに身を竦めながらもジャケット下への侵入を許す。そのまま器用な手つきで剥がされたジャケットは音を立てて床へと落ちた。一枚分身軽になった分、より相手の体温を感じられるようになっては一旦回した腕の力を緩め、上着の布地を握ると相手のそれも脱がせようとして）