検索 2022-07-09 20:46:55 |
通報 |
『よし、これで一歩前進だ』……山分けなんてするわけねぇだろ。それにこのチップはまだ換金しねぇ。もっと楽しい遊びができそうだからな
(また場のチップが自分の手元の山に積み上がった。今の生活で思いつく限りの贅沢は出来そうな金額だが当然こんな暗い場所で得た金を使うつもりは無い。次のゲームをしようか迷っている素振りを見せていると相棒の思考が飛んでくる。件の男性は見ないようにしつつ、作戦が上手くいったと内心ほくそ笑んだ。積み上がったチップに対して賭け金が少ないと愚痴を零してそろそろ上がろうかという顔を浮かべていれば、横から声がかかってそちらの方を向く。顔は穏やかだが感情の色が見えない不気味な男だ。だが今は賭け事に興じる愚かな男でなければならない。より高額な賭けができると察してつまらなさそうな顔をゆっくりと欲と自信が浮かぶニヤけ笑いへと変えていく。そのタイミングで相棒に話しかけられると、より自分が強欲に見えるよう山分けの話さえ断りつつ顎で話しかけてきた男性を紹介するように指す。ゆっくり席から立ち上がると「当然興味あるね」とその危険な誘惑に乗る返事をした。男性は相変わらず穏やかな顔を浮かべながら『それではどうぞこちらへ』と二人を先導して歩き出す。チップは別の店員がアタッシュケースに入れ後ろをついて持ってきてくれるようだ。相手の方に目配せしてから男性を追うようにして歩き出す。セキュリティが立つ間をすり抜けて薄暗く照らされた通路を進む。またも金縁で装飾された扉があり男性が取っ手に手をかけると『刺激的な時間をお過ごしください』という言葉と共にその扉を開けた。内装は先程のスペースとほとんど同じだがさらに照明の光が落ちている。客同士が互いの顔を知らないようにするためだろう。酒とタバコに混じりあまり嗅ぎなれない種類の匂いもあってこの空間の異常さはさらに増していた。まずは腰を落ち着けられる場所をとテーブル席に案内されると、ひとまずはそこへと座って)
ほんと君は火遊びが好きだね…。仕方ない、君の腕があれば何か奢ってくれそうだし僕も最後まで付き合うよ。____ まさか奥にこんな部屋があるなんてね、…ありがとう。『目的の場所には潜り込むことは出来たけどこれからどうしようか。照明も暗くて遠目から顔や手札を確認するのは難しそうだ』
(そういうキャラを演じているというのは分かっているがギャンブルにハマって自滅していきそうな若者の演技が随分と様になっている。目の前の男からはこちらも感情が読み取れないが自らお誘いをかけたあたり利用価値かあると運営側に判断された証拠だろう。そこに引っ付いていけるように強欲な友人に呆れながらも煽てる役割にもなるお人好しのようなこれまた騙しやすそうなキャラで対応をしておく。二人セットでまだ稼げると思ったのだろう、目配せを受け先導し始めた男性について行くように見張りの横を通り抜けて本丸へと続く廊下を歩く。奥に行くにつれ怪しい雰囲気は増していくように感じる。男性が扉を開けた先にはこれまたお酒やタバコを楽しむようなバーカウンターとその奥に賭けをする為であろう空間が広がっている。全体的な作りは先程の部屋と似ているが全体的な照明の暗さと嗅ぎなれない匂い、そして各テーブル席などが半個室状態になっていてより一層の異質さを醸し出している。ひとまずテーブル席に案内されると素直に相手の横に座りながらもキョロキョロと辺りを観察するように見渡す。恐らくここにいるだろうと予測を立て無事に潜入することは出来たがこの暗さでは大学生がここに居るのか直ぐに確かめることは出来ない。VIP部屋に来たからか特に注文もなしにピンク色のシャンパンのようなものとチップを入れたアタッシュケースが運ばれてくる。素直にそれを受け取りながらも念の為に思考として相談を持ちかけて)
いい雰囲気じゃねぇか。ここなら特大のお遊びができそうだな。『問題ねぇよ、落ちぶれてる奴は分かりやすい』
(より一層闇の世界に踏み込んだ様な感覚に身を引き締めつつ、案内した男性の前では相変わらずピエロを演じる。『ごゆっくり』の一言と共に去っていった男性を見送った後に見える範囲に視線を動かした。思考越しに相談されるが、この空間は先程の場所よりも狭い。顔は見えないがその代わりに全体の様子は窺うことが出来る。依頼人は大学生だ、フォーマルスーツやドレス姿もちらほら見える中で普段着でいるのは中々目立つ。さらに彼は貯金額をまるまる引き出すほどにはここにのめり込んでいて、こういう場で考えもなしに大量に金を使うのは負けている奴以外有り得ない。若く普段着で負けた奴、これだけ条件が揃えば顔は見えずとも背格好で判断が可能だ。そしてそれらの条件に当てはまる男はこの中でたった一人、バーカウンターでウィスキーグラス片手に拳を握りしめているあいつだ。項垂れているのを見るに今日も結果は奮わないらしい。目配せをするとバーカウンターへと足を向けた。バーテンに注文を聞かれ適当カクテルを答えればバーテンは酒を作るためにこちらから視線を外す。その間に横で項垂れる男にチラリと目線をやれば写真の朗らかに笑う人相から大分と痩せこけた依頼人の息子がいて『ビンゴだ』と相棒に告げて)
『なるほど、姿見で判断するという方法があったね。…了解した。説得は君に任せたよ。』 …ああ、友人が大勝ちをしてもっと刺激的なことがしたいというから僕も付いてきたんだ。
(人探しと聞いて名前か顔写真でしか探しようがないと勝手に思っていたが確かに服装やシルエットならばこの暗さでも判別が可能だ。今までの情報を踏まえたプロファイリングも筋が通っていて流石長年探偵をしていると素直に感心していた。そしてそれに該当する人物を見つけたのかバーカウンターに向かう相棒を見送る。ゾロゾロと二人で行くより1体1の方が話しかけやすいし説得もしやすいだろう。さりげなく隣に座って覗き見た視覚情報と相手の思考から目的の大学生だと確認が取れた。依頼は行方不明の息子を探して欲しいであり最低条件はクリアしたのだが相棒のことだ、危険なギャンブルを辞めさせて家に帰らせることまでが仕事だと今から説得にかかるに違いない。先読んで大学生とのやり取りは任せることにした。目的が粗方達成されればここにもう用は無い。あとはいかに問題を起こさずに帰るだけだと若干気を抜いて待っていると賭け場のゲームがちょうど終わったのか複数人が動く音がする。やがてその一つが出口の方へ向かったかと思えば急に止まりこちらへと近付いて来た。思わず目を向けると相棒と同じくらいの歳でこの場にしてはカジュアルな格好をした男がいて軽い挨拶と共に遠慮なく隣に座られる。こちらがあまり良い顔をしなくとも関係なく愛想良く話しかけてくる辺り賭けに勝って機嫌が良いのだろう。全く持って興味は無いが無視をして変に怪しまれても困ると適当に返事をする。反応があったことに食い付いたとでも思ったのか更に距離を詰められ「見てるだけじゃつまらないでしょ、お兄さんも楽しいことしようよ。」とテーブル下で小袋に入ったカラフルな錠剤のようなものが差し出された。勿論拒否するが「そんなに怖くないって」と馴れ馴れしく食い下がられ)
…辛気臭い顔してんな、今日はいくら負けたんだ?『おいフィリップ、その薬絶対手出すなよ』
(さすが相棒は自分のことをよく分かっている。今は意識が繋がっているのだから当然と言えば当然だが、咎められる事もなく依頼外の事を了承されるのは互いの性格がよく分かっている証拠だろう。確かに依頼は達成したが風.都.の底の底のようなこんな場所にいれば破滅に至るか同じく真っ黒に染まるか、選択肢はそれくらいしかない。それにこの荒れようをみるに彼には破滅しか選択肢がないだろう。バーテンからカクテルを受け取りグラスに口をつけて僅かだけ飲むと、隣の彼へと話しかける。こちらは表で連勝を重ねて調子づいている男だ、小馬鹿にするように話しかけてこちらに注意を向かせる。案の定男は怒りの感情と共にこちらに顔を向けてくる。無理やりにでも会話できるようになればこちらの勝ちだ、バーテンが他の客の所に行ったのを見計らって「こんなとこ今すぐ止めちまえ、親御さんが心配してる」と静かに告げた。そのタイミングで相棒の方で異変が起こる。どうやらゲーム終わりの客が相棒に絡みに来たらしい。馴れ馴れしい態度に怒りが顔に出そうになるが今は彼を説得している最中、顔にそれを出さないようにしながら彼と対話を続けるが意識はどうしても相棒の方へと取られてしまう。さらに相手と男の距離が詰められるとカウンターの下でグッと拳を作って怒りを逃がした。男の様子がおかしいと思ったがどうやら既に正気ではないらしい。早く相手の所へ行きたいのに目の前の彼はウダウダと言い訳を並べていて埒が明かない。意識越しに忠告しつつ、彼に「今ならまだ戻れる」と声をかけるもその声は先程よりも大きくなっていて)
…分かった、僕もちょうど飲みたかった所だから助かるよ。『怪しいけど店員とこの男はこちらが何とかする、君は出来るだけ落ち着いて説得に務めてくれ。』
(相手は会話のテーブルに大学生を乗せることには成功したものの説得には難航しているらしい。真面目な子だったと言う印象を疑ってしまうほど変貌した様子を見る限り相当のめり込んでしまって依存症といっても良い状況だ。いくらこちらが手を伸ばそうとしても被害者が手を取ろうと思わなければ救う事は出来ない。これについては相手の言葉に委ねるしかないだろう。そちらに集中したい所なのだが隣に座った男はクスリをチラつかせ断ろうとも引き下がる気配は無い。近い距離の男からは酒の匂いと頭痛がするような甘ったるい匂いがして不快だが通路側の席に座られてしまって席を立つのも難しい状況だ。相手の意識から苛立ちと忠告が伝わってきて説得に集中しきれてないのがわかる。そんな埒のあかない状況のせいか相手の声量の大きな声が部屋に響いて自分も含め近くの客やバーテンの視線が相棒に集まった。大声を出されて驚いたのか大学生の瞳も揺れる。客同士の争い、それも片方が上客を健全な場所に連れ帰ろうという趣旨の発言をしていたのだから怪しまれて当然だ。他所を向いていたバーテンが事情を聞こうと相手の元に近付こうとしている。焦りが顔に出ていたのが隣の男が相手と自分を交互に見た後意味ありげな笑みを浮かべてここの常連客で運営とも交流が深いと明かした後「俺と一杯飲んでくれたら店員も彼から引き下げさせるけど、どう?」と交渉を持ちかけられる。男の話が本当なら自分達の目的はバレていて運営に報告することも可能だろう。依頼人も置き去りに追い出されるだとか襲われるよりかはマシな選択肢だ。それに薬よりも直接的な影響は少なく思える。少し考えその案に乗れば男は笑みを浮かべた後相手に近づこうとしたバーテンを呼び出して何やら耳打ちをする。注文を受けたバーテンが戻ると相棒に集まった視線も散ってひとまず安堵する。相変わらずの距離で一方的に話を受けながらも待っていると綺麗な青色をした液体の入ったグラスが2つ運ばれてきて)
『っ、……クソ……分かった。でも出されたヤツ絶対に飲むなよ』……お前もこのままじゃダメな事くらい分かってんだろ。人生逆転なんて誰も出来ねぇよ、大事なのは明るいとこで毎日一歩でも踏み出す事だ。お前が今日まで犯した罪をちょっとずつ償うようにすりゃ道は開ける。だから、一緒にこの店出ようぜ
(自分でも思った以上の声量が出てしまったようで周囲の注目がこちらに集まるのを感じる。しかも内容がこの場に似つかわしくないものと来れば一気に周囲の疑心を産んだことだろう。視界の端でバーテンがこちらに近づこうとしている姿が見えた。万事休すかと思ったが相棒の隣にいる男が交渉を持ちかけてくる。ここに入れる上、ドラッグ漬け兼売人となればここの上客なのだろう。受け入れ難い交渉だが敵の巣窟たるここで騒ぎを起こすのはマズイ。それに自分の犯したミスで相棒へ口を挟む権利もなかった。強行突破するには周囲に人が多すぎる上、三人連れ立って逃げるのは不可能。心の内で悪態をついたあと相棒の決断に乗ることにする。もうあの男にはこちらの思惑はバレている、無事にここを出るには相棒が酒を飲まされる前に目の前の彼を説得しなければならない。一応飲まないよう忠告は飛ばしておくと、彼の説得へ集中した。幸い先程の大声と周囲の空気が一変したのを察知してか彼の瞳に動揺の色が見える。少しだけ距離を詰めると畳み掛けるように静かで、しかしハッキリと伝わる声で語りかけながら決して視線を逸らさなかった。さらに瞳が揺れたところで一緒に、と言葉を添えると最後に彼はゆっくりと頷いた。それにニヒルな笑みで「よし」と返す。これでやる事は終わりだ一刻も早く相棒の方へ向かわねばと内心焦りを覚えながらカウンター席から立ち上がるとスーツを整え彼には着いてくるよう伝え)
『分かってるよ、出来るだけ時間を稼ぐ。』…、翔太郎! …っ、僕を探してる人って…
(今自分が出来ることは相手が説得する時間を稼ぐことだろう。隣の男の機嫌を損ねない程度に会話をしながらもその旨を返す。相棒の方ではひとまず交渉通り店側の監視がなくなったおかげで説得に集中出来ているようだ。相変わらずハードボイルドとは言えない何処までも真剣に目の前の人物に向き合う熱い男の言葉だ。大学生もこの部屋に入るための難易度は知っているはずだ、わざわざ危険を犯してまで探しに来てくれた相棒の言葉は少しずつ彼の心の闇を晴らしていく。説得が上手く行き意識が他所に向いているのに気付いたのか『ほら、乾杯しよう』と隣の男にグラスを持つように促される。グラスが小気味よい音と共に重なり男が酒を一口飲む。目の前の青色の液体を見ながら飲むのを渋っていると相手が大学生を説得することに成功してカウンター席から立ち上がるのが伝わって思わず名前を呼ぶと共にそちらに視線を向ける。説得に成功して依頼が達成出来ればこの場所やこの男に構う理由はない。だが近付こうとした相手とテーブル席の間にどこからとも無く現れた屈強な見た目のバーテンが立って視線を遮った。相変わらず上機嫌な男は「俺と仲良くしといた方が良いと思うよ?彼らを安全に返してあげられるし、…君のこと探してる人とお友達だし」と告げては肩を抱かれる。自分を探してると聞いて浮かぶのは組織のことだろう。突如身近に現れた危機に背筋が冷たくなっていき動揺の色を見せ)
っ!!_____俺の相棒に、…手ぇ出すんじゃねぇッ! !__ッ、フィリップ!!
(後はここから出ていくだけだ、あの馴れ馴れしい男からとっとと相棒を引き剥がさなければ。そう思って向こうを見た矢先、相手の姿は屈強なバーテンによって見えなくなってしまって目を開く。そしてその瞬間にまたこの場の空気が変わった気がした、しかも悪い方に。その間に男が相棒の肩を抱き上機嫌に囁く内容が聞こえてきて血の気が引いた。どうやら釣られていたのはこちらの方らしい。スっと体が冷えていく感覚があったが、直ぐにそれは静かな怒りへと反転していく。大学生に「走れ」と声をかけて出口の方へと体を押す。彼が狙われる事は無いだろう、なにせ今この場にいる人間の狙いは相棒なのだから。次の瞬間には駆け出して勢いのまま隣のテーブル席へと片足をかけると、そのまま体を宙へ押し上げ相手のいる半個室空間の上へと飛び出した。そのまま左手の拳を強く握ると、今も相手にベタベタと馴れ馴れしく触るその男に向かって、これまでの鬱憤と怒りを乗せた拳を着地と同時に思いっきり振り抜いた。突然上から現れたこちらに男も屈強なバーテンも唖然として見上げることしか出来ず、男の頬に拳がクリーンヒットする。そのまま男を相手から引き剥がしたかったが、その前に背後から殺気を感じて振りかえる。そこにはこちらに襲いかからんとするバーテンの姿があって、咄嗟に腕で攻撃を防いだ。そのまま腕を掴まれると半個室の空間から引きずり出されてしまい、思わず相棒の名を叫ぶ。引きずり出された先には裏口から出てきたのか、腕っぷしを買われたであろうスーツ姿の男が数人いて、同時にこちらに襲いかかってくる。だが喧嘩なら上等、狭い場所で複数人と戦うのは学生の頃から慣れている。ストリート仕込みの腕で拳と足を繰り出しながら、襲い来る敵を床に沈めようとしていて)
…っ、翔太郎! 残念だけど君の思い通りになるよりも窮地から逃げ出すスリルの方が僕好みだ。_ 翔太郎、逃げるよ!
(思わぬ男の告白に身体が固まって相棒の思考も頭には流れてくるが素通りしていく。あの場所に戻ることになれば事務所に帰ることはほぼ不可能だ。よっぽどショックなのが顔に出ていたのか「だから、ね?」と至近距離で笑う男から甘い匂いがして視界が一瞬揺らいだ。そのまま動けないでいると上から見慣れたシルエットが降ってきて拳が男の頬にめり込んだ。その音と衝撃でやっと正気に戻ることが出来た。肩を抱く腕の力が抜けたのをいいことに男の元から立ち上がるが代わりに背後のバーテンによって相棒が半個室の部屋から引き出される。思わず声を張り上げた。この暴行沙汰で部屋全体に喧騒が拡がって先程よりも強く視線が集まる。目的の人物は相棒の手によって去った後だ。それに喧嘩慣れしているとはいえ複数人相手では相棒の身が持たない。こうなってしまってはもう穏便に立ち去るという方法は諦めた方が良いだろう。こうなれば一か八か。ス.タ.ッ.グ,フ,ォ.ンにヒートメモリを挿して飛ばす、狙いは火災報知機だ。男に自分なりの答えを返すと同時に高熱を発したス.タ,ッ.グ.フ.ォ.ンを感知した火災報知機が作動してけたたましい警報が鳴り響く。客のどよめきの中、何とか個室から抜け出すとスプリンクラーから放水が行われ始めた。突然のことに見張りやスーツ姿の男も一瞬動きが止まる。異常事態も相まってハイになりかけた頭で相棒の元に駆け寄るとその腕を引いてこの場からの脱出を促して)
フィリップ…!こんなとこはさっさと逃げ、ッ!!
(複数の男相手に時に殴り時に避けを繰り返して確実にダメージを与えていく。途中口元に一発貰って口が切れる、一撃は重いがその代わりに遅い。お返しに腹へ渾身の一発を決めてやるとそいつは地面に突っ伏した。そのタイミングで火災報知器が鳴った、上を見れば.ス.タ.ッ.グ.フ.ォ.ン.が飛んでいて相棒がこの隙を作ってくれたのだと理解した。同時に腕を引かれハットを抑えるとその場から走り出し出口を目指そうとした。だがその瞬間に後頭部に強い衝撃を受けて視界がブレる。背後では拳を食らわした男が頬を赤く腫れさせながら怒りの表情で二人を睨みつけていた。どうやら男が用意させたグラスをこちらに投げつけ頭に当てたようだ。グラりと力無く体が傾き躓くと、その隙にバーテンの一人がこちらの首根っこを掴んで体を後ろに強引にひかれる。その拍子に相手の手は離れてしまった。そのまま無理やり体を引き起こされた所で男に身柄を引き渡された。まだ意識がブレる中で無理やり上を向かされると口が自然と開いて、そこに何か小さなものが複数個放り込まれてそのまま手で口を覆われてしまった。咄嗟に口を抑えられた手を引き剥がそうとするがまだ体に力が入らない。男は苛立ちを募らせながら嘲笑を浮かべて相手の方を見やると「俺の言うこと聞いといた方がいいって言ったじゃん」と楽しげに言う。そして相手の方に空になった袋を見せつける、それは先程カラフルな錠剤が入っていたものだ。常軌を逸した目をむけながら「一錠でトんじまうのに、こんなに食ったらこいつ死んじまうかもなぁ」と他人事のように言う。口の中に入った錠剤はまだ当然飲み込んでいないがこのままではじわじわと口の中で溶けていってしまう。「俺と仲良くしようよ、代わりにこいつ助けてやるから」と嫌になるほど甘い息を吐き出しながら相手を服従させよとうした。未だグラつく視界の中『後は俺がなんとかするから逃げろ』と意識を飛ばし相棒だけでも逃がそうとして)
翔太郎!! あ、…あ……、いやだ、翔太郎…、そんな事できる訳ないだろう! 分かった、…分かったから…仲良くなるから、…僕のことはどうなっても良いから、翔太郎は助けてくださ、い…
(あとはひたすら逃げるだけと思っていたのに突然引いていた相手の身体が沈む。振り返ると躓く相手の姿と割れたガラスがあってバーテンに首根っこを取られ身体が離れていく。相手の名前を叫ぶがその間に男は慣れた手つきで口内に何かを放り込んでは手でそこを塞ぎ無理やり飲み込ませようとする。嘲笑を浮かべて見せつけられたそれは先程までカラフルな錠剤が入っていたはずの袋だが中身がない。何をされたのか直ぐに理解すれば血の気引いていって全身が震える。他人事のように言われた錠剤の効果と共有する相手の口内でそれが溶けていく感覚に頭は真っ白になってパニックを起こし始める。突然提示させた相棒の死の可能性は底無しに冷たくて恐怖にその場にへたりこんでしまう。錯乱状態では意識下での言葉なのか判断する余裕もなく叫ぶように一人だけで逃げることを拒否する。相手を見殺しになんてできる訳がない、世界で一番大切な相棒で恋人だ。相手が死ぬのだけは避けなくてはならない。相手の命が助かるならもうなんでもいい。心が折れてしまえば唯一残された男の救済案に縋るしか無かった。震える声でぽろぽろと涙を零しながらも何度も相手の提案を飲み込む事を縋るように告げれば男の口元が愉快そうに吊り上がる。用済みとばかりに相棒の身体は床に解放するように転がされ、雑にペットボトルの水が側に置かれる。獲物の陥落に上機嫌な男はそのままこちらに近付きしゃがみ込むと「最初からそうすれば良かったのに。じゃあお友達になった記念に改めて気持ちよくなれるお酒で乾杯しよっか」と新しく用意させたグラスが差し出される。相手の命が掛かっていれば素直に従うしかなく、男とグラスを合わせると促されるまま中の液体を口にして)
_______ッ、ゴホッ!…、………_____俺のフィリップに、手ぇ出すなっつってんだろッ!!
(口は男の手によって塞がれ未だ錠剤は口の中で静かに溶け去る時を待っている。こちらの死をチラつかされ、相手の精神が一気にパニックに陥ったのがベルト越しに伝わってきた。落ち着けだとか今は逃げろだとか、そんな声を意識として投げるが心の折れた相手には届かない。ただこちらを失いたくない一心でその場に崩れ涙を流す姿が痛々しくて歯を食いしばった。相棒が服従するのを見るやいなや男は高笑いしながらこちらの体を乱雑に投げる。床に転がった衝撃で後頭部にまた痛みが走ったが、ようやく口は解放されて咳き込みながら口の中のものを吐き出し投げおかれた水を口に含んで中をすすいだ。幸い錠剤は溶けだす前で体内にこれが溶け込んでいることは無いだろう。ようやく体を起こして相棒の方をみれば、ちょうどグラスを手に取っていたところだった。目の前には異様な光景が広がっている。スプリンクラーの水が雨のように注がれるなか、しゃがみ込んだ相棒と勝ち誇った笑みを浮かべた男とがグラスを合わせていた。体が怒りで熱くなるのが分かる。相棒が狙いだと言うのならあのまま捕らえて組織に引き渡せばいいはずだ。それなのにあの男は相棒を服従させ相棒に相応しくないものを飲ませようとしている。だがその怒りは驚くほど静かなものでもあって、怒りは頂点にあるのに心は凪のように冷静でこの状況からの打開策を瞬時に組み立てていた。今、場の注目は相棒へと集まっていて皆ニヤケ顔でその光景を見つめている。意識越しに相手がグラスの中身を口にしたのが伝わると自分の中で何かが切れる音がした。体の痛みを忘れ敵の注目が外れている体が動き出す。ほぼ無意識のうちに叫びながら左腕を相棒へと向ける。同時にス.パ.イ.ダ.ー.シ.ョ.ッ.ク.のワイヤーを打ち出した。敵の隙間を抜け真っ直ぐ伸びたワイヤーは相棒が持つグラスを叩き割る。そのまま横に腕を引きワイヤーを操作すると男にそれを巻き付けた。ウィンチを起動させるとその強力な力で男の体はこちらへと一気に引き寄せられる。ワイヤーを両手で掴み、背負い投げの容量でワイヤーごと男の体を引っ張ると周囲にいたバーテンをなぎ倒しながら男は吹っ飛んだ。これで相手への道が開けた、名前を叫びながら相手の元へ駆け寄ると「さっきの吐きだせ!何入ってるか分かんねぇ!」と声をかけながら肩に相手の腕を回し、腰を支えながら無理やり体を起こして立たせる。周囲にいた店員がこちらを押さえにかかろうとするのが見えると再びワイヤーを打ち出してテーブルへと巻き付けこちらへ迫る一団へと投げつけると店員達はテーブルごと床へ倒れた。これで多少時間稼ぎは出来ただろう。相棒の体を支えつつ「走るぞ!」と声をかければこの場から逃走しようとし)
ぁ、…ちゃんと、翔太郎のこと逃がしてくれるんだろう? …ッ!、ごほっ、翔太郎翔太郎、生きて、る…
(スプリンクラーの放水で髪も服も濡れて冷たい。それ以上に目の前の男の悪意が、相棒を失う恐怖が身体の芯から凍らせていくようだった。こちらの返事がお気に召したのか相棒の身体が投げ出され咳き込む音がする。ちゃんと生きていること、無事に錠剤を吐き出せたことに身体の力が抜ける。あとは無事にここから逃がすこと、自分が出来るのはそれだけだ。弱りながらも目の前の男に今一度交渉内容を確認する。相変わらず勝ち誇った笑みの男が軽い口調で肯定するのを見てグラスの液体に口につけた。底に何か溶けかけた何かが見えたが相棒を守れるならどうでも良い。投げやりな思考の中、口にしたそれを飲み込もうとした直前手元のグラスが突然割れた。その音と手に降ってきたガラスの破片の痛みで正気に引き戻される。それと同時に男にワイヤーが巻き付き離れていき、それが相棒のス.パ.イ.ダ.ー.シ.ョ.ッ.クの物だと気付けば僅かに見えた打開の糸に咄嗟に口のものを咳き込みながら吐き出す。駆け寄ってきた相手の肩と腰を支えられる腕から確かな力と温もりを感じれば何度も名前を呼び、こちらからも腰に手を回してぎゅっと握る。ちゃんと生きていることを確認する。沈んでいた瞳にも光が灯れば「分かった」と短く返して扉を開け二人で廊下を走り抜けていく。最初の部屋に戻ってくると待ち伏せしていたバーテンに道を塞がれるがドタバタと入口の方から何やら大勢の足音が聞こえてくる。大きな音がして扉が開くと何人もの警察官がなだれ込んできて「警察だ、違法バーとの通報により捜査させて貰う」と声を張り上げた。恐らく大学生が逃げた後にこの場所を通報してくれたのだろう。危機を脱したのだと察すれば思わず「…良かった……」と気の抜けたように呟いて)
助かったみてぇだな……、…体に違和感とかねぇか?
(グラスが割れた瞬間相棒の意識が正気に戻ったのが伝わってくる。次いで駆け寄り体を起こすと向こうからも腰を握り返されて、その瞳を見ればもう大丈夫だと安堵した。後はここから逃げるだけ、二人連れ立つように走り最初の部屋に戻ればまたバーテンが待ち構えていて、相手に回していた腕を解くと戦闘の構えをした。だがその直後に慌ただしい音が聞こえて警察官がなだれ込んできて場を制圧していく。これでもうバーテン達が襲いかかってくることはないだろう。相棒の呟きにこちらも気の抜けたような返事をしながら、腰につけていたドライバーを外して意識の共有を切る。その瞬間にアドレナリンで抑えられていた体中の痛みが感じられるようになり体がふらついて、咄嗟に近くの椅子へと座った。痛みを逃がすように息を吐き出す。今更後頭部がガンガンと痛み出した。相棒に心配を掛けたくなくて向こうを見上げながら異常がないか問う。読み通りあの酒には薬物が入れられていた、相棒が酒を吐き出した感覚はあったがアルコールを口に入れたことだし大事を取って聞いておいた。そう話しかけている最中に見慣れた顔がこちらに近づいてくる。いつもの二人、ジンさんとマッキーだ。『まーた首突っ込んでんのか探偵!』とマッキーに絡まれるが今は言い返す気力がない。ジンさんも同じような心境の顔を向けていたが、二人ともびしょ濡れで、片や口から血を流すほどボロボロ、片や泣き腫らした目をしているのを見れば二人揃って疲労困憊なのは明らかで、呆れたようにため息をつきながら『お前らの事情は後で聞くから、とりあえず家で休んで来い』と帰宅が許可される。何やらマッキーが抗議していたがジンさんはそれを軽く手で払い除けた。服は冷たくて体中が痛い、ここは有難く休ませて貰う方がいいだろう。ゆらりと不安定ながらも立ち上がると店の外へ出ようと相棒に目配せし)
っ、僕は多少頭がくらくらする程度だ、問題ない。 それよりも自分の身体を心配した方が良い。____ 着いたよ、…とりあえずその濡れた服を着替えてくれ、その後に手当するから。
(何とか危機を抜け出したのだと実感出来れば安堵の息を吐く。アドレナリンが切れたのかふらつく相手の身体を咄嗟に支えながらも自分の状態を伝える。口内に含んだ程度だったがそれでも多少の多幸感で頭がくらくらしている。あのまま全て飲み干していればこの快楽に支配されて男のなすがままだっただろう。自分はそれと多少の傷だけだが直接の暴行を受けた相手はボロボロだ。心配そうな目を向けていると馴染みの声がかかる。目線を向ければ見知った二人がいて相変わらず真倉刑事は相棒に絡むが今は返す気力もないようで無視されている。通報時に助けに来てくれた人物の特徴も大学生は話していたようでピンと来た刃野刑事が優先的に駆け付けるように手配してくれたみたいだ。呆れた様子の刃野刑事に礼を伝えつつ、目配せを受けるとフラフラする相手の身体を支えながら店を後にした。表に出るとパトカーが数台停まっていてその内の一台に乗っていた警察官に話しかけられる。どうやら家まで送るようにと言われているらしく行き届いた気遣いに驚きつつも相手の身体を考え素直に厚意に甘えることにした。家の近くで下ろして貰うと相手の身体を支えながら家への道を辿る。濡れた身体に夜風が当たると異常に冷たく感じるが頭は妙に熱い。相手の上着を探り取り出した鍵でドアを開ける。やっと心休まる場所に帰ってきたと安心しながらもリビングまで進んで相手を椅子に座らせた。冷えきった身体では風呂で温めた方が良いが傷だらけでは沁みてしまうことだろう。着替えるだけして手当をした後、直ぐに寝かせたほうが良いのかもしれない。これからやるべき事を頭の中で組み立てながらも寝巻きとタオルを取って来て着替えるように伝え)
俺はこれくらい慣れてるから大丈夫だ_____お前も早いとこ着替えろよ。手の傷手当てしねぇと
(ジンさんも相棒に負けず劣らずこっちのことをよく分かっている。軽く手を上げて礼を伝えて立ち上がれば相手に体を支えられた。あまり情けない所は見せたくなかったが覚束無い足で階段を登るよりはマシだろうと大人しく体を支えられながら歩き、表に出るとなんとパトカーが家まで送ってくれるという。手の回しようにジンさんには敵わないなと軽く笑いながら有難くパトカーへと乗り込んだ。家の近くで下ろされてまた歩き出すも相変わらず頭はズキズキと傷んで足に上手く力が入らない。クリーンヒットを受けた訳では無かったが、あれだけタコ殴りにされればそれなりに体にダメージはあったらしい。そんなことに今更気が付きながらようやく二人の家へと帰ってきた。椅子に座らせてもらうとまた痛みを逃がすよう息を吐く。相棒が服やタオルを用意してくれるが向こうだって負傷の身だ。しかも手の傷は咄嗟の判断とはいえ自分が傷つけたもの、早く手当てしなければと妙に焦ってしまう。ひとまず濡れたジャケットの上着やら一式を脱いでみると、打撲痕が幾つかあるもののそれだけだ。出血は口元と後頭部だけらしい。タオルでその二箇所に残る血を無理やり拭き取って肩にかける。幸い髪はハットを被っていたおかげであまり濡れていない。ズボンその他も脱いでしまえば、足には目立った傷はなくて軽く拭いたあと服と寝巻きのズボンを履く。手当てするのに邪魔だろうからと上半身は何も纏わないまま、ゆらりと立ち上がるとクローゼットの中に備えてあった救急セットを手にしてまた椅子の方に戻ってきて)
ああ、でも僕の手当は軽いから最後でいい。_……頭の傷は幸いそんなに深くないようだね、とりあえず今晩だけでも固定しておこう。 あとは…口の中は他の場所より早く回復するはずだけど、消毒だけでもしておこう。
(パトカーに送ってもらい家に帰る間もその足取りはふらついている。心配させないためか平気だと言い張っているが近くにいれば痛そうな表情が目に入って胸が痛くなる。何とか家に帰ってくれば早速手当を始めようと準備と指示出しをするが相手からも声が掛かる。殴られる場面を間近で見て緊迫した命の危機にも立ち合っていれば自分の着替えすら後回しにして相棒を休ませたいと気持ちが早るがそれを良しとしない性格なのはよく分かっている。自分は商品として丁重に扱われていたせいか大きな傷は無い。服に染み付いた店の匂いを取り除くという意味でも手早く着替えて洗う服はひとまとめにしておいた。自分のことが終われば焦る気持ちのまま相手の手当へとうつる。用意してくれた救急箱から道具を取りだし椅子に座った相手の背後に回ると後頭部の傷を確認する。薄いガラス製のグラスだったおかげが広範囲の傷ではあるものの病院に行かなくてはならないほど深いとのでは無い。細かいガラスの破片を慎重に払いながらも肩にかけられたタオルで改めて血を拭き取り軽く圧迫して止める。血が止まりかけているのを確認すると不格好ではあるが万が一の為にもガーゼを当て包帯で巻いて患部を固定する。背中側は打撲痕以外は後頭部くらいだ。今度は相手の正面に回って傷を観察していく。上半身も同じく打撲痕が残っているだけでそれを見て僅かに眉を寄せるが手当として出来ることは無い。顔に視線が移れば口元が切れていて痛々しいのを再確認してしまう。他の部位よりも回復は早いところではあるが柔らかい粘膜は感染症を起こしやすい部位でもある。ガーゼを消毒液で湿らせると「しみるよ」とだけ告げて口端に当てていき)
頭に包帯巻くとどうしても大事みたいに見えるな……____いって…
(どうやら相棒も寝巻きに着替え終わったようでやっとあそこの嫌な匂いから解放されたようだ。ようやく落ち着けた心地がして軽く息を吐く。そのまま後頭部の傷を見てもらえば、まだ痛みはするものの傷としてはそれほどでもないらしい。血が出ているのも軽く切れたからだろう。ガーゼを巻いて貰うが傷は軽くとも見た目だけでいえば重症人のようになってしまう。明日所長からやいやい言われる未来が見えてため息をついた。どちらにせよ今回の件を報告しなければならないし、ジンさんも事務所に来るだろうから事情は話さなければならないのだが。次に相手は正面へと回ってこちらの体を見ると眉を顰めていた。これくらいなら大したことないのだが、口にすれば今は相手に余計な負担をかけてしまいそうだ。今まで安楽椅子探偵だった相棒が街の底たるあんな所を訪れて人による暴力や純粋な悪意に晒されたのだ。自分は慣れたものだが初めての暗い世界は精神的負担も大きかっただろう。それはドライバー越しに良く感じた上、今もこちらの体を治療しようとずっと焦っている事からも明らかだ。相手のためにも早く体を休めなければと思うが今は治療が優先だ。大人しく口を消毒されるがやはり傷口にはよくしみて思わず顔を歪ませる。寝巻きの上着を羽織ると「交代だ」と消毒用品一式を受け取ろうと手を差し出して)
見えるじゃなくて頭の怪我は大事だろう、もう少し傷が深かったら君はパトカーじゃなくて救急車に乗る事になってたよ。…これで見える範囲の処置は終わりだ。…じゃあお願いするよ、
(頭に包帯を巻けばよく見える所でもあって相手の言う通り他の所の怪我よりよく目立つ。明日の周りの反応を想像してのため息なのだろうが逆にこの程度で済んでいるのが幸運な方だ。もう少し厚くて大きなグラスだったら、至近距離だったら、雑な扱いをされていた時に後頭部を更に強打して傷口が裂けたら。色々な要因で更に傷が深ければ手術が必要だったかもしれないし強い刺激に脳震盪を落として致命傷になったかもしれない。その時の光景を思い出せば今でも息が詰まりそうになってしまうがあくまで冷静を心掛けて頭へのダメージの危険性を諭すように語る。口元への消毒に顔を歪ませて声を上げる姿にようやく日常に戻ってきた実感が湧いて今まで硬かった表情が僅かに解ける。他の部位も改めて確認してから手当が終わったことを告げると上着を羽織った相手に交代を促される。怪我をするのはもっぱら相手ばかりで自分が処置されるのは滅多にない。何となく緊張しながらも道具を相手に渡すと怪我した方の手を差し出して)
トピック検索 |