検索 2022-07-09 20:46:55 |
通報 |
…、しょうたろう、…ごめん。 全部僕のせいだ、っ、…僕の、作戦ミスで君を危険な目にあわせたのに…君を怯えさせて暴力を振るった男が許せなくて、…それで、…ごめん、翔太郎…もうしないから、
(落ち着いてきた頭では自分が何をして、それが相手の目にどう映ったかも考えることが出来る。ただでさえ怖かっただろうに信頼する相棒までが暴力に及ぶ姿を見るのは恐怖でしかないだろう。もしもあの時に必死に止めてくれなければ。そう考えるだけで背筋がぞっと冷たくなる。抱きしめた身体はまだ震えていて緊張の中にいるのが分かる。自分も怖がられてると察することは出来るのに離してしまったらそのまま距離を取られてしまう気がして縋り付くように抱き締める。背中に手を回されながら泣き声の中で何とか紡がれたお強請りに先程よりも慎重に宝物を触るような手つきで頭を撫でて名前を呼ぶ。初めての衝動と気持ちの昂りに声が震えながらも再び謝罪の言葉を告げる。いつもの癖で男を抑える役は相棒に任せたが自分が担当するべきだった、そのミスのせいで危険な目に合わせて辛い想いをさせたのにそれを八つ当たりするように男に手を挙げた。悪い選択ばかりの行動で嫌われて当然だ。その考えに至った途端、相手に触れているのに手先から冷たくなっている感覚がした。きらわれたくない。ぽろぽろと静かに涙を溢れさせて理由のような言い訳を重ねていく。今は相手を安心させるべきなのにその原因が自分ならどうするべきか分からない。ひたすら求められた通りお願いされた頭を撫でる行為はそのままに回した背中をさする。安心して貰えるように、許しを乞うように、必死に言葉を捻りながらも無意識に腕に込める力強めて)
フィリップ……だいじょうぶ、フィリップ…大丈夫……何も悪いこと起きてないから……俺は、フィリップのそばに居るから……だから泣かないで、フィリップ……
(いつもならいくらでも相棒を慰める言葉も励ます言葉も出てくるのに、未だ頭には先程までの短い光景がこびり付いていて上手く言葉を紡ぐ事ができず、嗚咽混じりに名前を呼ぶことしか出来ない。頭の上に相手の手が添えられる。その手は先程より丁寧に優しく頭を撫でて、やはり相手は自分を傷つける存在ではないと、泣き声の中に安堵の息が混じる。頭上から謝罪は降り止まない、震える声を聞いていると頭の上に何かがあたってようやく顔をあげた。そこには自分と同じく涙を流す相手の姿があって胸を締め付けられる。確かに行いは良くなかったかもしれない、だが大切な人を守ろうという気持ちはあった。それに大事な人が泣いているのを見ているだけなんて出来なかった。弱々しかった腕に力が篭ってぎゅっと相手へと抱きつく。震える声のまま大丈夫と繰り返す。確かに道を誤りかけたが犯人はそこでのびているだけだ、自分も大きな怪我はしていない。最悪の事態はなにも起こっていないのだ。それを言い聞かせるように、拙い言葉で相手を落ち着かせようとする。泣かないでと言いながら自分の涙もまだ止まらなくて、でも世界で一番大切な人に泣いていて欲しくなくて、相手を見上げながら抱きつくしかなくて)
翔太郎、…ごめん、ありがとう、…翔太郎も、大丈夫。 翔太郎のおかげで、女性のバッグは取り返すことが出来た。 流石頼れる僕の相棒で、風.都.の探偵だ
(一度溢れた涙はせき止めるのは難しい。相棒に嫌われることがこの世の何より怖くて手が震えた。だがこちらを安心させるように抱きつかれて何度も名前と大丈夫を繰り返される。その温もりがじわじわ身体に染みて恐る恐る相手の顔を見れば先程までの恐怖に怯えた表情は幾らか薄れていて、落ち着かせようと拙いながらも言葉を紡ぎ抱き着かれる。大丈夫と許しを貰えて漸くまともに息が出来るようになった気がする。ずるずると崩れ落ちる身体で地面に膝をついて目線の高さを同じにする。泣きたいのは相棒の方なのに慰めて貰っている。その恥ずかしさと貰った温もりとその他諸々が胸で混ざり合ってはいるが少しずついつもの自分に戻っていく。相手の目を見ながらもう一度謝罪とお礼を伝える。今度は自分の番だ。まだ涙は零れてはいるが相手にも大丈夫だと伝える。そして相手が成し遂げたことをあげて褒めてみる。小さくなっても変わらない探偵としての心。怖くないと伝えるよりも相棒の大事にしているものをこちらも大切にした方が安心してくれそうで、よく出来たと頭をくしゃくしゃと撫でながらできる限りの笑みを浮かべて賞賛を送り)
っ、フィリップ!……、…俺、は…俺はこの街の探偵だから、これくらい当然だ。…、……
(滲む視界のまま見上げていれば、ゆっくりと相手と目が合う。その顔は先程よりも少々和らいだだろうか。そう考えるうちに抱きしめていた体が崩れ落ちて焦ったように名前を呼ぶ。だが同じ目線で再び交わった瞳は先程より随分と落ち着きを取り戻していて、体を縛り付ける緊張が少しずつ解けていく。そして目いっぱい褒められながら頭を撫でられると胸を支配していた恐怖はゆっくりと抜け落ちていった。大好きな人に頭を撫でられ良くやったと褒められる、たったそれだけで胸には達成感や誇らしい気持ちやらで満たされて涙目ながらも顔には満面の笑みが浮かんだ。大好きな街を守るために街の人を助けるなんて当然の事だが、それにしたって褒められるのは嬉しい。特に心から愛する人からのそれは格別だ。撫でられた所が暖かい。髪がくちゃくちゃになるのなんて気にならない程触れる手が心地良い。ようやくいつもの相手に戻ったのを見れば、もうその瞳に恐怖など感じはしない、あるのは安心だけだ。だがようやく親愛のおける相手が戻ってきたと思うと封じ込めていた感情が湧き上がってきて相手に飛びつくように首に腕を回して抱きつく。首元に顔を埋めながら「怖かった…」と消え入りそうな声で呟くと、ようやく戻ってきた相手を離さないようにキツく抱きついていて)
…それでも、君のやった事が凄い事で誇らしいことには変わりないだろう? …翔太郎、もうあんな目に合わせないから安心してくれ。…僕がそばにいるから。
(いつもの目線の高さ。その状態でめいいっぱい褒めながら頭を撫でるとやっと涙目ではあるが笑顔が浮かぶ。その表情にこちらまで救われた気がして詰まっていた息を吐き出した。探偵として人を助ける、ずっと相棒の一本としてある信念だがそれを小さくなったとしても貫ける人物はそう多くないだろう。今は褒められ慣れてない相手に凄い事だったとその行いを肯定したい。謙遜しがちな態度にこちらも緩く笑いながらも素直な自分の想いを伝えては頭を撫で続ける。そうしていると背中に回っていた手が首元を回り抱きつくように距離が詰められる。耳元で今にも消え失せそうな本音が聞こえると心臓が握りつぶされたかのように痛い。改めて怖い目に合わせてしまったと罪悪感を覚えつつもポンポンと落ち着かせるように名前を呼ぶ。包み込むように抱きしめ自分の存在がここにあることを優しい口調で伝える。起きてしまったことは無くならないが少しでも気が紛れるように、安心出来るように。顔を軽く離し相手の頬に手を添えてこちらを向かせるとこつんとお互いの額を合わせて呟き)
そっか…へへ、ありがとうフィリップ。__俺も夢中で走り出しちまったし、いつも通りに犯人捕まえちまったし、お互い様だ……うん、フィリップがいれば大丈夫
(絶えず頭を撫で続けられる。それは自分をずっと肯定されるようであって、無条件に受け入れられるようであって、幸せが満ち足りてくる。謙遜してもなお褒められてしまえば、涙も引っ込んで照れくさそうに笑った。幼い頃から続けるパトロールも誰に命令されたわけでも誰から褒められたものでもなくて、それさえも肯定してされれば嬉しくて誇らしい。だんだん調子も取り戻してきて最後の本音を絞り出した後に優しく背中を叩かれれば、その心地良さに目を瞑る。ポンポンとされる度に胸の内にこびり付いていた不安さえ押し流されていくようだ。ようやく冷静になってくれば、自分の体を省みない行動をした事を謝っておいた。頬に手が添えられ視線が交わる。額どうしがくっつけられるとそこでも柔らかに熱が交換されて自然と笑みが浮かんだ。優しい声で紡がれる言葉は抱かれている暖かさと相まって全身が幸せで満ち溢れるようだ。軽く頷いてその言葉を受け取っておいた。そうしているうちにバタバタとこちらへ駆けてくる足音が数名分聞こえてきてそちらへ目を向ける。どうやらひったくられた女性が警察官を伴ってこちらへ追いついたようだ。未だノびたままだった犯人は直ちに取り押さえられる。傍らに置きっぱなしだった女性のハンドバッグを拾い上げると軽く汚れを払ってから笑顔と共に差し出した。女性は無事にバックが帰ってきたのをとても喜んでくれて、自分と相棒とに何度も頭を下げてくれる。それにまた謙遜気味に応えたあと傍にいる相手の方へと目をやった。今日は街を見回る予定だったがこの体ではきっと同じ事が起こるだろう。それに成果としては十分で「今日のパトロールはここまでだな」と告げて)
…ん、本当に良かった。 __ そうだね、じゃあ今からはプライベートだ。何か買って帰るかい?
(もう相手の顔に恐怖の色はほとんど無い。思うがまま褒めれば照れくさそうに笑う仕草も身を委ねるように目を瞑る姿も幸せを満たすもので、先程の公園での空気が戻ってきた実感がようやく湧いた。額を合わせ至近距離で見つめた先で全幅の信頼を寄せる笑みで頷く相棒がいる。ひったくり犯を逃がさずに済んだ、相棒が大きな怪我をせずに済んだ、一線を超えずに済んだ、相棒の笑ってる顔を取り戻すことが出来た。色々ひっくるめて悪くない方向で着地したのだと分かれば何処か気の抜けた声で緩い笑みを浮かべた。そうしていると近付いてくる複数の足音。先程の女性が警察に通報して共に駆けつけたようだ。ゆっくりと相手から離れて警察に経緯を説明しておく。さっきまで泣いていた2人の顔を見て子供を巻き込んで危ない真似をという話は耳が痛いものがあったが最終的には協力に感謝して貰えて男は取り押さえられる。女性も無事にカバンが戻ってきたのを見てとても嬉しそうであった。この顔を見るのが相棒が探偵をやっている理由なのだろう。女性や警察達も去っていき2人残されると自然と相手の方に視線を向け目が合う。危険な所をパトロールするというのが趣旨ではあったが朝の戦闘に加え今の出来事で心身共に疲労気味だ。ここまでという案に賛成を示して仕事とプライベートの区切りを告げる。色々疲れたことだし相手も泣いて目が若干赤くなっていて大人しく家に帰った方が良さそうだ。手を取ってまた繋ぐと繁華街の方に戻りながらも夕食も含め何か買っておきたいものがないか問いかけてみて)
うん、そうだな……じゃあ、その……さっきひったくり犯を捕まえたご褒美で、買って欲しいものがあって……いい?
(ひったくり犯を捕まえたというのに警官に小言を言われると、せっかく捕まえたのにとか元の姿ならもっとスマートだったのにとかいろいろと文句は浮かぶが、最終的には感謝の言葉があると満足気に笑みを浮かべる。女性からもたくさんの感謝を貰い格好つけた言葉を返したい所だったがこの歳では微笑ましく映るだけだろうし何より涙目では格好がつかないだろうからと、笑顔で見送るだけに留めておくことにした。二人残されると今日は閉業となってまた手が繋がる。抱きしめられて体全体を包まれるのもいいが、暖かくて大きな相手の手にこの手が包まれるのも好きだ。見上げた先に自然と笑顔を浮かべながら同意するよう頷く。何か買って帰るかと言う言葉に、それが大方夕食を意味するのだろうと分かっていながらも、心に浮かんだのはひとつの食べ物だった。いつもならば取るに足らないどころか浮かびもしてこないその願いだったが、今日はこの体のせいもあって願いは簡単に口まで浮かび上がってくる。繁華街の大きな道へと戻ってくると相手に確認を取るような言い草をしつつ、実際には自分が行きたい場所へとゆるゆる手を引きながらじっと見つめてその反応を窺っていて)
勿論だ。僕が買える範囲のものなら何でも構わないが、…こっちにあるのかい?
(今度こそ離さないように手を繋いだまま歩いているとやがて初めの大きな道に戻ってくる。こちらの問いを聞いた相棒は悩んでいるというよりもなにやら確認を取るような口調だ。ご褒美とも言われてしまえばひとまず買うことについては迷わず頷いて承諾するがそれが何かは予想がつかない。わざわざワンクッションを置く辺り普通の夕食のメニューだとか元の相棒でも選ぶような物ではないのだろうとは察することは出来るがそれまでだ。相手のためならこの頭の知識をフル活用してでも買ってあげたいのだが流石に高すぎる物や希少価値な物はすぐに手に入れるのは難しい。検討の付いていない表情で現実的な前提は一応挟みつつも何でもいいと応えつつも手を引かれるまま付いていく。少しでも相手の求める物のヒントを探ろうと尋ねて)
それなら問題ないかな。___あれ、あそこのシュークリーム。あれが食べたい
(ご褒美だなんて名目を挟んだが直ぐに承諾の返事がくるとパッと顔を明るくさせる。何でも構わないというのなら自分が望むものは十分圏内だろう。手を引いて歩くスピードが少しずつ早くなりつつ繁華街を進んでいく。やがて上品な甘い匂いが周囲に香り始めると、見えてきたのはファンシーな店構えの洋菓子店だ。クッキーやフィナンシェなど贈答用のものもいくつか取り揃えてはあるが一番のメインはシュークリームで、店の前に客がやってきてはそれぞれの家に持ち帰ろうとシュークリームを購入して帰っていく。値段設定は小学生の小遣いにしては少々お高めな所だ。この体の歳の時に目の前を通る度に美味しそうだと思っていたが買う機会はなく、そうこうしているうちに体は大きくなってあんな軟弱な食べ物食わないとなり、ハードボイルドに甘いものは似合わない、と成長してしまったわけで、長らく風の街に愛される洋菓子店だが前を通りかかる事はあっても食べたことはまだなかった。あの時に食べたかったものは今食べたいものへとすり変わっていて、店の近くまでやってくると相手の方を見上げて期待を込めた目を向けながら再度反応を窺って)
シュークリームか、以前ケーキ屋に潜入した時に見たことはあるけど実際に食べるのは初めてだ。じゃあ早速買いに行くとしよう _良い匂いだね。 …えっと、シュークリームが二つと…アキちゃんに明日渡すクッキーが一つ…他に欲しいものはあるかい?
(承諾すれば分かりやすく表情が明るくなった。それほどまで欲しいものらしい。この気持ちを体現するように早足になって行く相手に引かれる形で繁華街を歩き辿り着いたのは洋菓子店だ。昔からここで営業しているようでピカピカな外装ではないが年季の入ったような店構えと仄かに香る甘い香りは不思議と懐かしさを感じるものだ。そこで漸く相手の食べたいものが明かされた。その単語と実物は以前単独行動してド.ー.パ.ン.トを待ち伏せしたケーキ屋で見た事がある。ふと相手に目を向けると期待のこもった目でこちらを見上げている。この目を見て駄目だと言える悪魔などこの世には居ないだろう。それにそこまで相手が食べてみたいと思うシュークリーム自体にも興味を持つと笑顔で二つ返事をして手を引いたまま洋菓子店の扉を開く。カランと入店を告げるドアベルが鳴ると共に上品な甘い匂いが店内から感じられる。感想と共に店内を見渡すと目の前の大きなショーケースにはお目当てのシュークリームを始めケーキなどのスイーツが並び、常温の棚にはクッキーなども商品が並ぶ。店員が中から声を掛けてくるとひとまずお目当てのシュークリームを注文する。周りを見渡す中でシンプルで美味しそうなクッキーを見つければ今日お世話になった分所長に渡そうとそれも店員に渡す。これで目的は達成された訳だがせっかくの機会だ、他に食べてみたいものはあるかと相手の様子を伺って)
そっか、シュークリーム食べた事ないんだな。ならちょうどいいや。___店の中はこんなに甘い匂いだったんだ……ううん、シュークリームだけでいい
(シュークリーム購入案は難なく受け入れられて、気分は更に上々だ。相手もシュークリームを食べた事がないというなら好都合、この初めての味を共有する良い機会だろう。さっそく店内に入れば表にふわりと香っていた甘い匂いは店内ではよりしっかりと感じられて、思わず深く息を吸い込んでその上品な香りを堪能した。ショーケースには色とりどりのケーキも並んでいるが店の一押しはシュークリームで、ふわふわの丸いフォルムのそれがズラリと並んでいるのを見ると憧れの景色にじっとそこを眺めていた。店の外から眺めたことしかなかったそれがついに目の前にやってくるのだと胸は期待で膨らんでいる。シュークリームを眺めているうちに相手が店員と話して注文を伝えてくれたようだ。所長へのお土産もバッチリで明日は朝から機嫌がいいことだろう。他にと聞かれると首を振る。今なら抵抗なく甘いものを食べる事が出来るだろうが、今日はこの特別なシュークリームだけを食べたい、しかもそれを相手と食べられるなら申し分ない。店員はシュークリームを専用の持ち帰りケースに詰めこちらへと差し出してくれて、それを笑顔で受け取った。所長用のクッキーはお釣りと共に相手に差し出される。中のシュークリームを潰さないよう持ち手部分を持ち、そっと底から手を添えて持ち帰り用のケースを眺める。パステルイエローの箱からもほのかに甘い匂いが漂っていて、次にこれを開けるのが楽しみで仕方がない。相手の方を見上げると「ありがとうフィリップ」と上機嫌な顔のまま礼を言って)
分かった、じゃあそれで。 _ どういたしまして。それを家まで運ぶのが君の任務だね。スーパーにでも寄って溶けない内に帰ろうか。
(内装や空気を堪能している相手を微笑ましく眺めながら店員に注文を伝える。他に欲しいものは無かったようでそれで注文を切り上げると代金を払う。シュークリームはお持ち帰り用のケースに詰められ、店員も熱心に見ていたことで察してくれたのか相棒の方に手渡してくれた。所長用のクッキーとお釣りを受け取り店員に礼を伝えてから相手の方に向き直る。相手は受け取ったお持ち帰り用ケースを大事そうに持って楽しみを隠しきれない表情で眺めている。それがこちらを向き上機嫌に礼を言われるとこちらまで幸せが伝播して柔らかく笑い返す。これくらいで相手の笑顔が買えるのならば安い物だろう。家に帰って二人でこれを食べる時が楽しみだ。せっかく相手が箱を持ったことだしシュークリームを家まで運ぶ係だと任せるように告げる。冷蔵品のようだし手早く買い物を済ませて家に帰った方が良さそうだ。洋菓子店の扉を開けて相手が通るまで押さえて二人で店を出るとひとまず家の方向に歩き始め)
うん、せっかくのシュークリームだから大事に持って帰らないと。……そうか晩飯は俺が作らなきゃいけねぇのか……ならパスタにするか。レトルトなら手間もかからねぇし。
(上機嫌なまま店を出ると片手はケースを持ち、もう片方は相手の手をとり繋いで歩き出す。あと揃えなければならないのは夕飯だけだ。そこへ思い至った所で、相手がまだきちんと料理をした事がないのを思い出す。自分が用意しなければと思えばシュークリームで浮かれていた所から幾らか精神が元の方へと引っ張られて、我に帰ったように呟く。といってもこの体では動きが制限されていて、前のチャーハンのようにフライパンを振り回すようなことはできない。なるべく調理工程が少なくかつ腹をしっかり満たせるようなメニューとなると、強い味方となるのはパスタだ。これならば今の体でも作ることができるだろう。家への道の途中には前にも寄ったスーパーがあって遠くにその姿が見えてくる。相棒の方を見上げると買い物もすぐに終わる夕飯を提案してみて)
僕が作っても良いんだけど、君みたいに美味しい物を作れる自信はあまり無いからね…。承知した、さくっと買い物も済ませてしまおう。
(夜ご飯の話になると相手が気づいたように呟く。年相応の対応をしたり甘やかすのであれば自分が作る方が良いとは思うのだが、まだまともな経験はない。地球で一番美味しいシェフの作るレシピを知ることが出来ても技術が伴わなければ良いものは作れない。練習段階である自分が美味しいか保証の出来ない物を作るよりか安定的な相手に任せてしまう方が無難だろう。少し申し訳無さそうに返事をしながらもパスタという案には賛成を示す。パスタを茹でてレトルトのソースとあえるくらいであれば簡単に出来るだろう。丁度この前も利用したスーパーが見えてきて早速そちらに向かうこととした。といってもメニューさえ決まっていれば買い物はあっという間だ。乾麺にレトルトのパスタソース、明日の朝ご飯のパンなどを中心に必要なものや欲しいものをカゴに入れてレジに向かう。会計も済ませレジ袋に詰め替えるとひとまずやるべきは終わった。荷物を持ってスーパーを後にしながらも「あとはもう帰る方向で良かったかい?」と問いかけて)
料理っつっても茹でて混ぜるだけだから上手いも下手もあんまないけど……今度料理教室でもするか。
(今日は甘えると公言してはいるものの料理に関しては相棒に任せっきりにするにはまだ不安がある。調理工程は簡単だが慣れないことをやってもらって怪我でもしたら大変だろう。ここは現代技術の方に甘えて有難くレトルトパウチを使うことにする。今はまだこちらが料理をしているが、こういった相手が料理しなければならない場面も出てくるかもしれない。そろそろ料理の仕方を本腰を入れて教えた方がいいかもしれないと相手の方を見上げながら口にしていた。ケースをしっかりと握りしめたままスーパーへ入ると必要なものをカゴへと入れていく。シュークリームが溶けてしまわないかとほんの少しソワソワしたが買うものが決まっていれば滞在時間は短くすんで、手早く買い物を終わらせることができた。スーパーを後にすると「うん、シュークリームが溶けちゃうからな」と意気揚々とケースを掲げると手を引いて帰り道を歩いていく。ここ最近で二人並んで歩くのも慣れてきた道、そして帰る場所はようやく二人暮らしにも慣れてきた場所だ。自宅へ到着すると鍵を開け前よりも少々物が増えた部屋に帰ってきて)
悪くないアイデアだね、僕も君に料理を作るという体験は早くしてみたいし技術は是非身につけたい。__ ただいま。とりあえずシュークリームは冷蔵庫に入れておいて後から食べよう
(料理教室の話をされると目を輝かせ乗り気な返事をする。メモリに関わる仕事をしている以上いつまた似たような状況になるか分からない。そうでなくとも相手が病気になったり疲れている時はなるべく代わってあげたいと思う。そしてなにより大切な人に料理を作ってあげるという経験だってしてみたい。そんな中で料理の仕方や基本的なことをついて教えて貰える料理教室の案はそれを叶える物で繋いだ手をぎゅっと握ると相手の方を向いて希望を伝えておいた。シュークリームが溶けないか心配する相手にも気遣いつつ手短に買い物を済ませて帰路につく。この道を通るのも慣れたものですっかり道順も覚えてしまった。手を繋ぎ家まで歩き、これまた違和感なく帰宅の声をかけると部屋の中に入る。無事に持って帰ることの出来たシュークリームの対処を提案しつつ買ってきた物の中で夕食に使うものを台所に並べてあとは所定の位置に入れておく。早めに休んだ方が良いとはいえまだ夕食にも早い時間だ。諸々が片付くと一旦ゆっくり過ごそうとリビングの方に移動してベッド端に腰掛けると「翔太郎」と呼びかけて)
ふふ、フィリップの手料理か。食べれる日が楽しみだ。___うん、食後のデザートだな
(どうやら料理を覚える事に相棒は前向きなようで、好奇心の高まりを示すように強く握られる手にこちらの口角も自然とあがる。今は相手の方が背も高くて何かと頼りにしているが、こういう時はいつもの如くその姿が微笑ましいと思ってしまう。それに相手の初めての手料理を食べられるなんてきっと特別な食事になりそうだ。その為にも元の姿に戻った時にはしっかり手ほどきした方が良いだろう。その時を楽しみにしながら帰宅すると、促されるままシュークリームのケースを冷蔵庫に入れる。これでシュークリームが溶けることもなく安心だ。冷蔵庫に収まったそれを暫し見つめ、食べる時の楽しみを閉まっておくようにゆっくり扉を閉めた。そのタイミングで相手の声が聞こえてくる。リビングの方に顔を覗かせるとどうやら呼ばれているようでニコリと笑みを浮かべたあと、小走りで近寄り相手の隣に座ると「なんだフィリップ」と笑顔のまま相手を見上げて)
…翔太郎、君にしか頼めないことがあるんだ。 一回だけでいい、僕のことをお兄ちゃんと呼んでくれないかい?
(相手の口元に自然と笑みが浮かんでこちらの手料理を楽しみにしてくれていることが分かる。自分の作ったものを食べたいと言ってくれるだけでこんなに嬉しいのだ、実際に作って食べる所を見るのはもっと嬉しいことだろう。どうせならば料理の仕方をしっかりと身につけ、腕によりをかけたものを作ってあげたい。密かに予習でもしておこうと決意を固めていた。家に帰り促した通りシュークリームのはいった箱を冷蔵庫に入れたようだがよっぽど食べるのが楽しみなようでずっと冷蔵庫の前に立っている。実際に食べた時の反応に期待を寄せつつも名前を呼ぶと小走りで寄ってきて隣に座る姿は子犬のようでやはり可愛らしい。そんな相手に気持ちを落ち着かせようと一息を着いた後に真っ直ぐと見つめながら話を切り出す。ひったくりの件も片付き二人の安心できる所に帰ってきた今、自然と思い出されたのは事務所でのやり取りだ。真倉刑事と言い争っていた時に聞こえた【お兄ちゃん】という単語。一般的には兄弟の中で上の方の男子をさす言葉であり、これが転じて他人であっても幼い子供が一回り年上を呼ぶ時の愛称でもある。記憶を無くしている為、自分に弟か妹がいたかも定かではないが少なくとも記憶の残っている範囲では呼ばれたことが無い単語だ。逆に相棒は外回りについて行った時に近所の子供達に懐かれているのか何度か呼ばれている所を見たことがある。それを見る度微笑ましく思ったのだが同時に興味と憧れも沸いたのだ。身の回りに一回り年下で仲の良い人はいない。そのため中身が相棒とはいえ身体は年下の相手がいるこの機会を逃せば【お兄ちゃん】呼びをされる機会は二度と来ないかもしれない。そんな衝動に駆られると相手の両肩に軽く手を置きながらもお願いしてみて)
ぇ……………………うん、……お……お兄ちゃん………フィリップ兄ちゃん……?
(隣に座ると相手が一呼吸を置いて何やら二人の間に真剣な空気が流れた。これは真面目に聞かなければならない話かもしれないと気を引き締めて相手の方を見上げる。が、そこで告げられたのは予想だにもしないお願いで、思いもしない角度のお強請りに長い時間フリーズしてしまった。これまで散々相棒の無茶を聞いてきたがこれはその中でも飛び抜けておかしなお願いだろう。両肩に手をおきこちらを見つめるその目を見れば、相棒が冗談ではなく極真剣にこのお願いを言っている事がはっきりと分かる。年上のこちらが年下の相手を兄と呼ぶのか?と冷静に考えられたのは一瞬だけで、隣に座っているとつい先刻の公園のことを思い出す。あの時頭を優しく撫でられて背中をあやす様にされて、相手に対して感じたのは特大の親愛と安心感。それは相棒とも恋人とも違う感覚で、きっと兄のようと称するのが一番適切なのだろう。絵に描いたような幸せな家族は知らないし兄弟もいない自分にとって大好きな兄というのは憧れの存在でもある。顔を少し俯けてから相手を上目遣いで見つめる。つまりは利害が一致してしまったわけだ。暫く迷うように見つめるもひとつ頷いて、やがておずおずと相手と自分が望むその言葉を口にしてみる。これでも良いのだがより親愛を示すなら名前も入れておきたい、そう思うとまた違う呼び方で相手のことを呼んでみて)
トピック検索 |