検索 2022-07-09 20:46:55 |
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まあ否定はしないよ。 ああ。…ならばこう言い換えようか。恐らく今の君の状態は肉体の年齢に精神が引っ張られて起こっていることだ。身体と精神は強く結びついているのだから当然の結果だろう。…そして僕は君が普段しているような年上っぽいことがしてみたい。だから存分にワガママを言ったり甘えてくれ、翔太郎
(相手のプライドだとかメモリのダメージ故だからとか慣れない遠慮をした物だが、いざ願望を口にすればスッキリするものだ。相手が幼くなったことを楽しんでいるのも事実で今度はさりげなく肯定しておく。鋭い反論が入るがそれも勢いが削がれていき、沈黙が挟まれたかと思えば今の状態が明かされる。おおよそ予想通りだ、やはりメモリは間接的に精神の方にも作用していて大人になる過程で学んでいく我慢や遠慮がまだ未成熟なのだろう。それなのに大人である元の意識があるのだから不安定になってしまっている。俯いた状態でそれでも自分の提案に惹かれてくれているのか上目遣いに恐る恐る問われた言葉に肯定の相槌を打つ。きっとまだ相棒の中では踏ん切りがついていないのだろう。ならば相手が心配せずに乗れる状況を作ればいい話だ。今の不安定な状態をいつもの様に理屈に当てはめて【当然のこと】だと肯定する。戻った時の言い訳を与えるように。そして自分の欲求でもある甘やかしたいという話に繋げるとこちらからお願いするような形でもう一度想いを伝え、最後の一押しに優しく名前を呼んでみて)
おい。……やっぱりメモリの影響なんだよな。……なら、…それなら……店を出てからでいいから、頭を撫でて欲しい
(さらりと楽しんでいるのを肯定する発言には素早くツッコミを入れたものの、その後の話を聞けば段々と考えは一定の方に引っ張られていく。こちらの体感と相手の予測は一致していたようで、すなわちこの精神さえ見た目相応に引っ張られていっているというわけだ。それは自身のせいではなくメモリのせいで、然るべき現象だという。それに相手は自分を甘やかしたいと願っているわけで、相手の希望通りこちらが甘えれば結果的に相手を甘やかす事にもなる、ということだろう。最後にこちらの名前を呼ぶ相手の声が脳内で甘い誘惑のように響いた。結局は相手の思惑通り、上手く乗せられているとは思わずこの提案を受けることにする。メモリのせいだから、とそれで納得することにした。我慢しなくても良いと切り替わった思考回路は、精神を一気に年相応のものへと引き込もうとしてくる。あの時欲しかったものが今欲しいものへとすり変わってしまって、それをぶつけても良い相手が目の前にいるとなると胸に願いが次々浮かぶ。だが相変わらず自分の願望を口にするのは上手くはなくて、しばらくスプーンでオムライスをつついて弄り言葉を漂わせたあと、漸く目線を合わせると最初のお強請りをして)
ああ、身体が小さくなっている今だけのことだ。 ……ん、後から気が済むまで撫でてあげよう。 まずはオムライスとハンバーグを味わうのが先だ
(言い訳と明確な期限を決めて誘い込むような言葉。少しだけ騙しているような気分にはなるが、こうでもしないと変な所が不器用な相棒は思うがまま甘えてくれることはないだろう。揺らいで悩んでいる様子の相手を静かに見守る。条件を揃えたなら相手から踏み込んでくれるのを待つだけだ。何かを決心したように口を開くのがこういうのはあまり慣れていないのかオムライスをスプーンで弄りながらも言葉を選ぶように呟いている。漸く伏せていた視線があがり、強請られたのは頭を撫でることでそのいじらしさに強く胸が締め付けられた。店を出てからでも、とは言われたが最初の願いにはどうしてもすぐに応えたくて中腰程度に立ち上がると前のめりに腕を伸ばして優しく頭を撫でる。自然と表情も柔らかくなって2、3回それを繰り返すと席に戻って後から好きなだけ撫でることを約束する。その前に目の前の食べたい物を楽しむのが大切だと告げ、自らもハンバーグを口に運び食事を再開して)
、……うん。冷えちまうと勿体ないしな。
(相手に甘えてもいいと言われ、不慣れながらも捻り出したお強請りは自分でも驚くほど単純なものだった。しかし先程も、ジンさんにそうされた時も、頭を撫でられただけで途端に胸が満たされた事を思えば、小さい頃に一番望んでいたのはこれだったのかもしれない。すなわち心から安心出来る存在から親愛を込めて受け入れられること、ここに居て良いという絶対的な安心感だ。その願いをなんとか口から遠慮がちに捻り出したが、正面に座る相手の体が動き出したのを見ると顔をあげる。すると暖かい手が頭に触れて数度そこを優しく撫でられた。その間視界いっぱいに柔らかで優しげな表情を浮かべる相手の姿が広がっていて、途端に胸いっぱいに幸せが満ち溢れた。照れ隠しで目線を下にするが胸に溢れた気持ちはそのまま顔に出てしまって、満ち足りた笑顔が浮かぶ。また後でという約束に機嫌よく頷き答えるとこちらも食事を再開した。少し多めに分けてもらったハンバーグは相手の気持ちそのもののような気がして、今度は喉を詰まらせないようにゆっくり一欠片ずつ食べていく。かと思えば今度はオムライスを掬いとりとろける卵の食感を堪能していた。また後での約束を早く叶えて欲しくてその後は手を止めずに食べ進めるとあっという間に皿は空になり「ご馳走様でした」と手を合わせて)
_'ご馳走様でした。じゃあ行こうか
(望まれるまま頭を優しく撫でると目線こそ下に落ちたが心底嬉しそうな笑顔が浮かぶ。ずっと見ていたいと思える表情だ。ただ頭を撫でるだけでここまで幸せそうな顔をするならそれこそ幾らでも撫でていたい。その気持ちを何とか振り切って食事に戻る。もう取り繕うのは辞めたのかハンバーグやオムライスを美味しそうに食べていくのを眺めながらも食べ進めていく。勿論料理も美味しいものだったがそれ以上に相手の反応を見るのが楽しかった食事の要因だろう。そうして相手に続いて皿を空にすると手を合わせる。ハンバーグはともかくオムライスの方は具材だけ見ればシンプルな物だった。料理を練習するのであればアリな選択肢かもしれない。以前相手と外食した時の行動を思い出し、伝票を手に立ち上がるともう片方で相手の手を取って軽く繋ぐ。そのままレジに向かい会計を済ませるとファミレスを後にする。店を出た所で早速撫でてあげたい所だが店の出入口付近や道端でというのも人の目について相手が気になってしまうかもしれない。この辺の土地勘は分からないため「どこかベンチとか落ち着けそうな所知ってるかい?」と尋ねて)
おぅ……、…風.都.のことなら任しとけ。そこの細い道を曲がったとこに小さい公園があんだ。あそこなら静かだしベンチもある。
(程なくしてお互いに食事を終えると退店の流れとなり椅子から立ち上がる。いつもは自然とこちらが伝票を手に取って会計を済ませるが今日はそれも相手の担当だ。何か特別な声かけもなく自然と手が繋がれる。当たり前のように繋がれる手が暖かくて、心地よくて、口は三日月のように弧を描く。相手に連れられるままレジへ寄り店の外へ出た。いつ撫でてくれるんだろうと内心はドキドキとワクワクで満たされていたが、相手から落ち着ける場所をと言われると軽く周囲を見回す。体は子供で精神もそちらに引っ張られていようともこの街の知識は失われてはいない。相手の方を見上げるとちょうど条件の良い場所があると胸を叩き自信満々に答えた。そして行くべき場所を指さすも、早く自身が知る場所を見てほしくて繋いだ手を引っ張りながら走り始めてしまった。指し示していた細い道を曲がり、少し行くと木々に囲まれた小さな公園へとたどり着く。整備されて綺麗だがこじんまりとしているそこにはちょうど誰もいない。「条件ピッタリだろ?」と手を引いていた相手の方を振り返ってニッと歯を見せ笑ってみせて)
それは良さそうだ。早速案内してく、っ急に、走り出さないでくれ。 __ …ああ、いい所だね。…じゃあ翔太郎、
(手を引いたままファミレスを後にしていざ相手の振り返ってみると嬉しそうな笑みと共に期待しているような視線と目が合う。入店時とは大違いだ。都合の良い場所について聞くと流石相棒、この辺の土地勘もバッチリのようでこちらも挙げられた候補に好意的な反応を示す。少しでも早く甘やかしたくて指さした先へ案内を頼もうとした所で急に手を引かれ走り出す。危うく1歩目で躓きそうになるのを何とか堪え、文句を言いながらも引っ張られるままついて行くように後ろを走る。年齢が逆転して最近は外に出るようになったとはいえ普段の活動範囲は屋内だ。目的地がすぐ近くで助かった。細い道を通り公園らしき所に辿り着くと走るのも止まり少し息を切らしながらも周りを見渡す。確かに繁華街の近くの割には木々に囲まれていて静かな場所だ。ここなら周りを気にせずに相手のわがままも聞くことが出来るだろう。歯を見せて笑う相棒にこちらも軽い笑みを浮かべながら感想を告げた。場所も確保出来ればあとは相手の望みを聞くだけだ。繋がった手を引いてひとまず並んでベンチに座る。いざこういう場所になるとどこか緊張してしまいながらも名前を呼ぶと相手の頭にぽんぽんと手を置いてから優しく撫で始めて)
だろ?……ん、………不思議だな、頭撫でられてるだけなのに。すげぇ幸せだ…
(早くとっておきの場所へと弾んだ心のまま相手の手を引き走ってしまった。手を引かれて走るのはこちらの方が多いが今日はそれさえも逆転だ。文句を言われるがいつもされている事だし少しくらいは勘弁してもらおう。そうして公園にたどり着き漸く後ろを振り返れば相手は息が上がっていて「悪い悪い」とあまり心の籠らない謝罪をしておいた。だがこの公園なら二人の望む場所としては最適だろう、静かで周囲の目も気にならない。今度は手を引かれるままベンチに座る。いよいよ、といった所だろうか。こう改まるとなんとなく緊張してしまうが、それは向こうも同じようでどこか硬い口調で名前を呼ばれる。それにひとつ頷くだけした。だが薄く漂っていた緊張もすぐに吹き飛ぶ。相手の大きくて暖かい手が軽く頭に触れた後そこを優しく撫でられる。たちまち体の中からふわりと暖かくなる感覚と心地よい浮遊感のような幸せが胸に満ちる。最初は目を伏せてそれを享受していたが、先程撫でてくれた時の顔を思い出すと相手の方を見上げて目を合わせる。自分の大好きな人がこちらに親愛を注いでくれる嬉しさ、動作はとても単純なのにそれで得られるものは計り知れないほど大きい。座る位置を少し相手の方へとよせ体をピタリと密着させると相手の胸板に甘えるように額を擦り寄せる。今までとは違う種類の相手の体温を感じつつ、大人しく頭を撫でられていて)
…、あまりされる機会が少ない行為だからね、大人になったら特に。 …僕も君を撫でるのは案外好きだ
(薄ら張り詰めかけていた緊張もいざ相手に触れると直ぐに解ける。優しく触れる髪は幼いのもあってか普段より柔らかい気がする。時折梳くような仕草を混ぜつつも和らぐ表情のまま優しく撫でていると伏せていた目線がこちらを向く。相手も心地良さそうな表情で撫でられていて暖かな幸せが胸に満ちていく。素直な感想を呟く姿は年相応で可愛らしい物だ。手を繋いだりハグなどは恋人のスキンシップとしてよくするが、頭を撫でる撫でられることはあまりない。それこそ子供相手にすることが多く、されると嬉しさより恥ずかしくなってしまうことの多い行為でもあるだろう。その事を告げながらも更に距離を詰められ胸板に額を擦り寄られると撫でてない方の手を相手の背中に回して腕の中に閉じ込めてしまう。腕の中の相手は自分よりも小さくて細くて抱き締めるというよりも包み込むという方が近い。少しでも自分の相手への想いが伝わるように慈しむように頭を撫で続けながらも自分でも少し驚くくらい柔らかな声で言葉を伝えて)
…まぁ元に戻ってもお前なら撫でて良いけどな……なぁフィリップ。背中も、撫でて欲しい
(相手の手が何度もこちらの頭を撫でる。優しい手つきで頭のてっぺんから下へ、時折髪を梳く動作になると少し擽ったくて口角が上がる。子供の頃ならまだしも大人になって頭を撫でられる事なんて滅多にないだろう。自分なら子供扱いだとつっぱねてしまう。だが相手にこうやってされるのは間違いなく幸せで心地良い。ハグや口付けとはまた違った暖かな幸せが胸に満ち足りる。できることならば何時まででも撫でていて欲しい、たとえ元の姿に戻ったとしてもだ。そう願った心はすぐさまその願望を口にしていて、元の自分では決して言えないような事を口にしていた。体を寄せると背中に腕が回される、すっぽりと相手の中に収まってしまうと相手の温もりと香りで全身が満たされるようだ。これも今の姿でしか味わえないものだと思えば目いっぱいこの温もりを味わいたくてこちらからも相手の腰に手を回してぎゅっと抱きつく。体も心も穏やかに暖かい、だが一度お強請りしてしまえばもっと欲しくなってしまうもので、ふわふわとした幸せに顔を綻ばせながら相手を見上げるともうひとつ追加のお強請りをして)
君が嫌がらなければいつだって撫でるよ。…ん、承知した。
(いつもと違う背丈や筋肉の付き方、服装。だが相棒であることは間違いなくて甘やかしているという現状が心を満たす。柔らかい髪質も幸せそうな表情も何度だって撫でたくなる理由だ。元に戻っても、と願われるとハードボイルドだの子供扱いだのいって突っぱねる姿が容易に想像できて思わず笑い声を洩らしながらも答えを返す。目標としては元に戻っても甘えてくれるようななることだ。カッコつける姿も好きだが相棒兼恋人の自分の前ではたまには素直な自分を見せて欲しい。その為にも幼くなってる間にめいいっぱい甘える事とわがままを言う事を教えて我慢出来なくしてしまおうという魂胆だ。包み込むように腕を回すと相手からも強く抱きつかれる。回す腕の位置も腰に近く顔が胸辺りにあるため今日ばかりは動揺したら心臓の早さでバレてしまいそうだ。そのまま撫でてはいたが幸せに満ちたような顔で見上げられ、更なるお強請りを受けるとこちらまで口元が緩む。承諾の返事をすると背中に回していた手も軽くさすったりぽんぽんとあやすようなリズムで軽く叩いたりしながら「こんな感じかい?正太郎」と伺って)
嫌がらない、と思う。多分……うん、そんな感じだ。すごく落ち着く。このまま寝ちまいそうだ……ありがとうフィリップ
(相手の返答にはそれはそうだろうと思わず笑ってしまう。結局突っぱねるのはこちらなのだから、今のように大人しくしていなければ頭を撫でて欲しいという願いは成立しない。この姿ならばいつまでもと願うくらいにはこれを気に入っているが、元に戻って言い訳が無くなった時にそのまま大人しくしていられるかと考えれば少しずつ自信はなくなって、語尾がふらついていた。だがこの心地良さを知ってしまった以上今日限り、なんて我慢が効くのかと思えばそちらもあまり自信はない。元の姿に戻っても言い訳を作るか二人きりの時にこれを強請ればいいと自分の中で決着がついた。次なるお強請りにも相手は快く応じてくれて背中をさすられたりポンポンと軽く叩かれたりする。普段ならば子供を通り越して赤ちゃんかとツッコむような事も今は自ら願ってしまう。年相応よりも幼い願いが湧いてくるのは、きっともっと小さい時にこういう経験がなかったせいだろう。相手に包まれ背中から相手の気持ちが存分に注がれると嬉しさのあまり思わず「へへ」と照れ隠しも含めた幼い笑いが漏れる。いつまでもこうしていられるほどの心地良さだ。だがこのままでは本当に眠ってしまいそうで、その前にと顔をあげて相手に礼を言う。少しだけ体を離すと「ちゃんとパトロールもしないとな」と幸福と照れが混じった顔で言い)
ほんの少しでもそういった面を見せてくれる方が僕は嬉しいよ。
…お安い御用さ、またされたくなったら言うといい。 …それで何処を見て回るんだい?
(元に戻る、つまり言い訳が無くなった状態ではなかなか頼みにくい内容だろう。現に相手も自信が無さそうな語尾ではあるが今の所は選択肢の一つとして刻めただけで十分だ。それにこちらから強引に撫でてしまうという手もある。まずは今まで背伸びしてきて我慢上手な相棒にこの心地良さを知って貰って徐々に慣れていけばいい。撫でられる事を望むことがこちらとしても嬉しい事だと今一度伝えておく。そのまま優しく頭と背中を撫でていると腕の中から幼い笑いが漏れてきて温かな幸せを感じる。相手の為というのもあるが、何かと世話される側であった自分が世話する側になるのは珍しくて年上らしいことが出来る嬉しさもある。ずっとこうしていたいと思ったが先に顔を上げたのは相手の方だ。礼と離れていく身体にこの行為の終わりを感じて少し寂しくなったり気を使ってるのでは無いかとも思ったが、この街を守るために動くことも相棒の望みだ。最後に強く一度抱きしめてから腕を解く。その言葉に応じながら撫でて乱れた髪を軽く整えてまた何時でも強請るように伝える。自然と手を繋ぎつつも行先も相手に任せようとパトロール先を尋ねて)
…分かった覚えとく。__うん、して欲しくなったらまた言うよ。パトロールには俺の決まったルートがあるんだ。まずは向こうの道に戻ろうぜ。
(正直元の姿で自分から頭を撫でてくれと言い出せる自信はイマイチないが、相手がこの行為が好きだとか、こんなハードボイルドから遠い姿でも見せて欲しいと言うならば、それを理由にまたこれを頼む事だってできるかもしれない。ひとつ頷いてこの時間を覚えておくことを誓った。相手の柔らかな温もりが離れていってしまうのはとても残念だが、またいつでもと言われると素直に返事をする。今なら相手にいくら甘えても許されるのだ、それならば心に浮かんだままの願いをいつでも相手にぶつければいい。今日ならそれが出来る。また自然と手が繋がれ行き先を任されると上機嫌に返事をする。幾度となくやってきた街のパトロールを何より大切な人とできるとなると、良い所を見せたいと張り切ってしまうものだ。手を引いて公園を出るとまずは人通りの多い所からと先程の繁華街へ戻ろうとする。ちょうどその時、繁華街の方からこの細い道へ一人の女性が曲がって入ってきた。それに続き次は男性が同じくこの道へと差し掛かる。二人の他人とすれ違ってそのまま繁華街へと行くはずだった。だがゆっくりと歩みが止まる。思えば探偵の勘だったのかもしれない。直後後ろから女性の叫び声が聞こえて急いで振り返った。そこには女性のハンドバッグをひったくって走りさろうとする男の姿があって、その瞬間に精神は一気に元の探偵へと引き戻される。反射的に繋いでいた手を離すと「待て!」と叫び後を追いかけるよう走り出して)
ならそのルートは君に任せることにしよう。…翔太郎? 、ッ…、翔太郎、僕はこのまま道沿いに追いかけるから君は他の道から回って挟み撃ちしてくれ
(今の出来事をしっかりと覚えておく事と欲しくなったら声を掛けることを約束させると口元を緩ませる。手を繋いで公園を後にしながら上機嫌にパトロールの行き先を先導する相手は小さいながらも頼もしい姿だ。昔から風.都.が好きだと言っていたし実際にこのくらいの年齢の時も似たようなことをしていたのかもしれない。導かれるままさっき来た道を引き返していたが細い道で女性とすれ違い、少しして男性もすれ違おうとしたところで相手の足が止まる。何か気になることでも出来たのかと名前を呼んだ途端、後ろから悲鳴が聞こえてきて慌てて振り返る。男を指さす女性と走り去っていく男の手には女性物のハンドバッグ。状況は見て明らかだ。弾き出されたように手が離され男に向かって走り出した相棒を見てこちらも後を追う。叫び声に驚いたのか男は一度こちらを見てから一直線に走り出す。風.都.を守る探偵として見逃すわけにはいかない状況だ。とはいえ、こちらは子供と体力にあまり自信の無い身。成人男性を真っ当に追い掛けても追い付けるかは微妙な所だろう。となれば庭である相棒の地理の知識で追い詰めるしかない。後ろから相手には聞こえるようにぱっと思いついた作戦を伝えると男の気を引く為に「待ちたまえ!」と声を上げながら追い掛けて)
くそ、これじゃ……あぁ!頼んだぜフィリップ!
(考えるより先に走り出したがこちらの姿は子供のままで、全力で走ってもいつものトップスピードには及ばない。このままではじわじわと離されてしまうだろう。悔しげに悪態をつくが、すぐ後ろから相棒の声が飛んでくる。確かにこのままでは分が悪い、それならばこちらの知識を活かすまでだ。少しだけ顔を後ろにやると頷く。とはいえ相棒の体力もそこまで長く持つものではない、早めに決着を付けなければ。犯人を追うのを相手に任せ横の脇道へと逸れる。繁華街を離れてここは住宅地だ、複雑に道が絡み合う場所で犯人がまっすぐ走る先には左折しかできないポイントがある。追いつくのならばそこだろう。路地を抜け家の隙間を走り抜ければ、左折した先の合流ポイントに近づく。息が上がってきていたが、相棒の声が近い。きっとこのタイミングならば追いつける。そしてポイントへ飛び出さんとした所で犯人が視界に入った。そのまま最後の力で足を動かすと犯人へと体をぶつけるようにして飛びつく。突然横から衝撃が加わりさすがにひったくり犯もバランスを崩して地面に倒れた。素早く馬乗りになってハンドバッグを犯人の手から引き剥がすと「よし!」と勝利のガッツポーズをする。しかし今自分が子供の体形であることを忘れていた。馬乗りになるには軽すぎた体は逆上した犯人になんなく跳ね除けられてしまって今度はこちらが地面に転がる。そして犯人の体が馬乗りになって重くのしかかった。胸ぐらを掴まれ『このガキ!』と怒号が飛んでくると、息を飲んでそのまま固まってしまう。幾年かぶりに感じた恐怖に動けないまま、男はバックを再び奪おうとこちらの体を激しく揺さぶってくる。だがこれだけは探偵として守り切らなければならない。ハンドバッグを強く抱え込んだまま目を瞑り攻撃に耐えていて)
よし、ッ、翔太郎、ッ!! 僕の、翔太郎に…っ
(作戦の意図は通じたようで相手は横道の方に分かれる。この辺の道は分からないが今自分がすることは気を自分に向けながら真っ直ぐ逃げるしかない状況を作ることだ。息は上がって正直辛くなってきたが任せた以上やり遂げなければ。そうして声を上げながらも追い掛けていると横から相手が飛び出してきて、不意打ちの衝撃に男が体勢を崩す。馬乗りになってバックを取り返す相手が見れると目的は達成したと足の速度を緩めかける。だがひったくり犯を捕まえる相手の行動がいつもの相棒の動きだったからこそ今は体格が子供であることが抜け落ちていた。目的を邪魔されそれをしたのが子供だったのが余計気に障ったのだろう。上に乗った相手を跳ね除けて代わりに上に乗る。胸ぐらを掴んではバックを取り返そうと小さな身体を揺さぶる姿が視界に入ると頭に血が上って目の前が真っ白になった。セカイで一番大事な相棒が危害を加えられている。傷ついている、下手をすればそのまま失ってしまうかもしれないとも考えが及べば背筋が冷たくなって全てが冷えきっていくような錯覚に陥る。なんとかしなけれは。悲痛な声で相手の名を叫びながら加速する。一秒でも一コンマでも早く辿り着くように速度を緩めることなど微塵も考えずに二人の元に駆け寄り、その勢いのまま男を押し退ける。男を相棒から引き剥がした、だけどまだ足りない。相手を傷つけようとした怒りに支配された頭は単略的な考えしか導かずに地面に転がった男を仰向けに転がす。男に跨り迷わず人間の急所でもあるみぞうちに膝を押し当てると何やら呻くような声が聞こえるが気にならない。犯人を捕えるための正当防衛だ。底を這うような低い声で怒りをぶつけながらも徐々に体重を掛けていき)
っ、!……ぐ、……ぁ、フィリ、……フィリップ、もういい!もういいから!俺は大丈夫だから!もうやめて!
(何度も激しく体が揺さぶられる。その間も上からは怒号が降り止まなくて痛みと恐怖で体が竦んで、だが決してバッグを離さぬように守っていた。不意にこちらにかかる体重がなくなり胸ぐらから手が離れる。呻き声を漏らしながら体を起こすと相棒が犯人を地面に転がしているところだった。どうやら助けられたらしく恐怖で震えながらもなんとか息を吐き出す。これで事件解決だと思った矢先、相棒は犯人のみぞおちにゆっくりと膝を沈め始めた。ゆっくり確実に痛みを与える方法。思わず相手の名前を呼ぼうとするもその顔をみてまた息が詰まる。怒りに満ちて目の前のものを痛めつけることしか考えていない顔、先程犯人が浮かべていた顔と同じような表情に不安定な心は相手にさえ恐怖を感じてしまった。体が震えてただ呆然と目の前の光景を見ていることしかできない。先程圧倒的な暴力に晒された恐怖といつもの様子から豹変したように同じような暴力を振るう相手に、体の芯から恐怖を感じて瞳から涙が溢れだした。確かにひったくり犯は犯罪者だ、だからといってそれは拳を振るっていい理由にはならない。それにこのままでは相棒が無抵抗な人間に手を挙げた人物になってしまう。そう考えが及んだ瞬間に弾けるように体が動いた。相手の腕に縋り付くよう抱きつくと、必死に懇願するように叫びながら何度も頭を振る。体は震え涙は止まらないが今はいつもの相手に戻って欲しくて、先程頭を撫でてくれた優しい相手に戻って欲しくて、必死に腕を引っ張っていて)
君は、自分が何をしたのか分かっているのかい? 、…しょうたろう? …っ、…僕は何を…、…ごめん翔太郎、…ごめん…
(もうこの男は逃げることは無い。女性のバックを奪い去っていったこともだが、相棒を怖がらせて傷付けたことは許せる事ではない。あんなに頭を撫でて幸せそうな表情を見たからこそ、その顔を恐怖に怯えさせたこの男は罪を償うべきだ。血が登った頭でもどうすればやり返せるかを的確に導き出して冷たく男を見下しながら膝をゆっくり沈めていく。だが突然何かが腕に縋り付いてきて身動きが取りにくくなる。一度振り払おうと腕を振るがそれでも離れない。煩わしそうにそちらを見ると泣いている相棒の顔が視界に映って動きが止まる。なんで泣いているのだろうか。相手の表情を見て名前を呼ぶ内に怒りも冷めていき漸く正気に戻る。自分の下に何かがある事に気付いて視線をそちらに向ければ苦しそうな男とみぞうち辺りを押している自分の膝。慌てて立ち上がって数歩後ずさる。何をしていたか、そして何をしようとしていたかまで考えが巡るとあの光景を見た時とは違う意味で背筋が冷たくなって自分の息が荒いことに気付く。探偵として、人としてまた一歩踏み外す所だった。男はよっぽど恐怖だったのかダメージからか仰向けのままのびている。動揺の中、再び相手に視線を向ければ震えているのも恐怖に泣いているのも自分のせいだと分かった。それでもその姿は見ていられなくて思わず相棒を抱き締めると震える声で名前と謝罪を繰り返して)
っ、……ふぃり、ぷ……フィリップ…、…お願い、フィリップ……お願い……頭、なでて……フィリップ……
(いつもの姿ならば相手の体を無理やり持ち上げて犯人から引き剥がす事だってできるのに、この体では腕を引っ張るのが精一杯だ。恐怖で体が竦んで上手く力を込められない。最初相棒の目はこちらに向かなくて、腕を振り払われそうになると乱暴な動作にまた心臓が縮んだ。だが相棒を取り戻したいという気持ちが僅かに勝って腕を掴んで叫び続けるとようやくその目はこちらを向いた。涙が滲んで相棒の顔はよく見えない。しかし怒りで歪んだ顔が少しずつ冷静さを取り戻していったのは分かって、ようやくひったくり犯の上から相棒の体が退いた。恐怖と安堵と焦燥と、あらゆる感情がごちゃごちゃになってしまって未だ体の震えは止まらない。相手と目が合う。まだその感情は読み取れなくて、その体が近づくと一瞬体を固めてしまった。あの怒りに満ちた目がこちらに向くことがないのは分かっているのに、手を挙げないことは分かっているのに、ごちゃ混ぜになった感情は恐怖と緊張で支配されて涙が止まらない。再び相手の腕の中に収まるがその体は震えたままだ。だが相手の震える声が聞こえてきて名前を呼ばれると幾分かその恐怖も紛れる。今こちらを抱きしめるのはこの世で一番大切な人で、最も親愛のおける人だ。震える手を伸ばして相手の背に腕を回す。泣きっぱなしのせいで時折鼻を啜るのと、詰まった息を吐き出すのを交えながらなんとか相手の名前を呼ぶ。そして捻り出したのは先程の時間を取り戻すようなお強請り、泣き声の合間になんとか願いを伝えると回した手で服をぎゅっと掴んで)
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