相乗りで何処までも 【 〆 】

＿…邪魔するというか相棒として君を止めただけだ。真倉刑事の言い分に君が頭に来るのは理解出来るが、あのまま詰め寄っては売り言葉に買い言葉だろう。 …君の良さは僕はちゃんと分かっているよ
（顔を隠すためにハットを被せたが結果的には相手の行動を抑え込むのにも繋がった。それを除こうとした動きが撫でられたことによって固まったのを見ればぼんやりと自分の中で仮説が浮かんだ。その様子が眺めていると用は済んだのか刃野刑事の声がけで漸く二人は去っていった。ひとまずは危機を回避出来たことに密かに安堵しつつも2人を見送っていると隣から抗議の声があがる。そちらを向けば最後の煽るような仕草にまた再熱したのか怒りの矛先がこちらに向かう。あの時止めなければそれこそ詰め寄ってさらに言い返したことだろう。その拍子に相棒でしか知り得ない情報を漏らせば疑いの目が向くのは必須。一般人ならともかくメモリ犯罪の知識がありたった今timeのメモリが回収された状態で縮んだのがバレるともう誤魔化しようがない。冷静な口調で止めた理由とあのまま詰め寄ったらどうなるかを説明するがやはりいつもと少し違う気がする。彼等が些細な事で言い争いするのはいつも通りであるが、今日は怒りの沸点が低いというか単略的な印象を受ける。異常な状態におけるストレスとも考えられるが注意するに越したことはない。未だ怒ったままの相棒にふと先程の刃野刑事の行動を思い出すと試しに慰めるような言葉と共に優しく頭を撫でてみて）

そりゃそうだけど、言われっぱなしじゃこっちの怒りが収まら、ねぇ……_______子供扱いすんなって言ってんだろ
(確かにあの二人、特にジンさんに顔を見られてはいけない状態でマッキーに食ってかかるのは悪手であるのは分かる。ジンさんがこっちの顔を覗き込めば一発で自分だとバレてしまうだろう。だがマッキーとはいつも憎まれ口を叩き合う関係であるし、あのまま黙って引き下がっているわけにもいかない。相棒の言う理屈は分かるが完全に衝動の方が勝っていた。不服そうな顔を相手に向けつつ言い訳になっていない言い訳を言おうとするが、その前に相手の手がこちらに伸びてきて頭の上に置かれる。そして優しく頭を撫でられると途端に気持ちは穏やかになっていく。先程と同じだ、あの時望んでいたものを与えられている心地。しかも今はあの時にいなかった、心から信頼できる人物から自分を肯定されつつ頭を撫でられている。ゆっくりと相手の方を見上げる。胸を締めているのはいつも感じる鼓動の高鳴りや緊張ではなくて、どこまでも穏やかで居心地の良い気持ちだ。きっとこれがあの時に欲しかったもの。心が引潮に引かれるように一気に体の年齢へと寄せられていく。しばらく相手をぼんやり眺めながら大人しく撫でられていたが、ハッと目を大きくさせる。宥めて頭を撫でるだなんてまた子供に言い聞かせるようなやり方だ。頭の上にのった手をのけるとその場から逃げるように移動し、事務所の出入り口横にあるソファに座ってそっぽを向いて)

…今は立派な子供だろう。_____ 翔太郎、水置いておくよ。それとアキちゃんが今日は事務所閉めるって。
（仮説に基づいて伸ばした手で優しく頭を撫でて見ると不服そうな表情が緩んだのが分かる。直ぐに振り払われるのも想定していたが大人しく撫でられたままだ。小さくなる以前でも戯れの一部だったりで触れたことはあるがこういう場面で長い間相手の頭を撫でたことは無い。ゆっくりとこちらを見上げながら大人しく撫でられる様子は子供にしか見えない。やはり幾らか精神が身体の年齢に引き寄せられている節がある。検証は済んだものの相手の表情を見ていれば手を離すのも惜しくてそのまま慰めるに愛でるように手を動かす。しばらくそうしていたが不意に目を開いたかと思えば手を振り払われソファの方に逃げてしまう。元の年齢の精神やら理性といった所だろうか。相棒の子供の頃のことは本で文章としての知識だけはある。あの頃の相棒ではないとしてもこういう時くらいめいいっぱい甘やかしたいと思うのだが本人が望まないのであればそれも難しい。逃げられたのを見た所長に話しかけられてひとまずの今後の動きを確認する。相棒が満足に動けない以上、検索だけで事足りる依頼以外は受けるのが難しいだろう。表の札はそのまま今日は事務所を休業することを決めれば喉が乾いているだろうと簡易キッチンに向かう。いつもならコーヒーを入れるとこだが子供の胃に刺激物はあまり宜しくない。コップに氷と水だけ注げばそれを持って相手の元に向かう。ソファの前のテーブルにコップを置き、そのことを告げるとそっぽ向いた相手の隣のソファに座る。今日休業する旨も合わせて伝えると「実質休みになったようなものだけどなにかしたいことでもあるかい？」と問いかけ）

コーヒーでいいのによ……まぁこの体じゃあな。それなら事務所開けれない代わりにパトロール兼ねた散歩だな。
(ソファに座りそっぽを向いているといくらか冷静になってくる。確かにマッキーとはよく言い争いになるがそれも揶揄いの範疇を出ないものだったはずで、先程は完全に怒りに身を任せそうな状態になっていた。いつもならそこまで揺れ動かないはずの感情が簡単に喜怒哀楽を行ったり来たりする。それに頭を撫でられた時のあの感覚、穏やかで安心できていつまでもこうして欲しいと思う願いに近いものだった。あの瞬間は時間が遡ったようにも思える、奇しくもあのメモリと同じような感覚だ。やはり精神が安定しないのもあの妙な感覚もメモリのせいなのだろうか。胸のわだかまりが取れないままでいると不意に相棒が隣に座って目の前に水が置かれる。いつもならばコーヒーなのにまたここでも子供扱いだと不満げにボヤきながらも、姿が変わってから叫びっぱなしだったせいか喉は乾いていてコップを手に取り水を飲む。その間に休業を告げられると所長の方をみやった。そこにはその通りだとウンウン頷く姿があって、妥当な判断だろうとこちらも頷き受け入れる。だが日は落ちていない時間帯、事務所を開けることはできなくとも街を泣かせる奴がいるのは許せない。それならばとやりたいことを聞かれ散歩だと返した。パトロールならこの体の頃からやっていたこと、特にやることもないのなら街に目を配るのが一番だと答えて)

身体が小さい分、カフェインの効果が強く出るからあまり良くない。 …分かった、じゃあ僕も着いていくことにしよう。
（コーヒーではなく水であることに不満げではあるがこれに関しては心情的な子供扱いというよりは健康面を配慮したものだ。大人に比べて体積が少ない分子供はカフェインの影響を受けやすい。それに水分補給という面なら単なる水が最適であるだろう。一応それは伝えておきながらも飲んでいる姿を眺める。自分が相棒の代わりを務めるという案も無くはないが拒否されるのが目に見えている。所長も言っていることから休業の件は受け入れてくれたようだ。そうして空いた時間について相手に問うと実に探偵らしい答えが返ってきた。幼くなった身体でも第一に休息ではなく風.都.を守るためのパトロールの案が出る辺り根っからだ。自分も特に用はない。いつもと違うことで色々な危険性も伴うが自分が付いていれば大凡のことはサポート出来るだろう。相手の要望に頷き自分も共に行くことを告げると立ち上がり、早速出掛ける準備を始めて）

理屈じゃねぇんだよ理屈じゃ……あぁ、万が一があったら困るし頼む。じゃあ悪いなアキコ、あとは任せる。、……
(相棒が嫌味で水を選んだのではなくきちんとした理由に基づいて用意してくれているのは分かっているのに、その理論を聞いてもやはり不貞腐れるようにぶつくさと呟いていた。だが、本論できる知識がある訳でもなく結局文句を呟くだけに終わる。街へ出かけると言えば相棒も共に出てくれるようでそれを頷いて承諾した。ここで言う万が一は自分に起こるものではなく街に起こるものを指してはいるが、来てくれるならばありがたい。どの道この姿では不便なことも多い、隣にいてくれれば何かと安心だろう。それに今は、口には出さなかったが無性にただ一緒にいたいという願いが胸の片隅で息を潜めていたのだった。事務所を閉めてくれるという所長に礼をいって後のことを任せるといつものルーティーンでハットへと手を伸ばす。だがそれに触れたところでいつもよりハットの位置が高いことと、これがブカブカであるのを思い出して手に取るのをやめた。残念ながら今は見た目相応のパーカー半ズボン姿で出かけねばならない。軽く息を吐いたあとそのままの姿で事務所を出ていった。階段を下って外へ出ると相変わらず何もかものサイズが大きくてあらゆるものを見上げることになる。傍らに置いてあった愛用のバイクも今は自力で跨ることは出来そうになくて「徒歩以外選択肢はねぇな」とボヤいて)

事務所も閉めるらしいしパトロールが終わったらそのまま家に帰るのもありかな。 じゃあアキちゃん、翔太郎のことは任せてくれ。行ってきます。＿＿ たまには歩いて風.都.を見て回るのも悪くない
（身体と精神が10歳以上離れていれば齟齬も大きい。特別子ども扱いしてるつもりはなくても身体的なことを考えれば気遣うべき事も多くその加減は難しい。街に出かけることについては特に抵抗なく頼まれた。普段は身軽な格好だが今日は財布などは自分が持っていた方が自然だろう。準備も終わり所長が事務所を閉めてくれる旨を聞けばパトロールの後そのまま家に直帰する案も提示しておいた。小さくなって口にはしないが気にかけている所長に相手の身を預かる事と出掛ける挨拶を伝えては事務所を後にする。階段を降りて外に出る。こうして一緒に出る機会は多いが今日の相手はいつもの服装でも身長でも無くて違和感が拭えない。それにパトロールで使うバイクもこの背丈では乗るのは難しそうだから徒歩だ。相手の言葉にある意味良い機会だとフォローしながら早速歩き出す。異常を点検して回るのが目的なら目指すは人の多い街の方だろうか。並んで自然と車道の方を歩きながらもそういえば色々忙しくて朝食を食べたきり食事をしてないことに気付けば「お腹が空いたし街で何か食べようか」と誘ってみて）

！__あぁ、そうだな。いい時間になったら帰ろうぜ。こうやってゆっくり歩くの久しぶりだな__お前が腹減ったなんて珍しい事言うな…なら、先に腹ごしらえしちまうか。繁華街の入口にあるファミレス行こうぜ。
(どうやらこのまま所長が事務所の後始末までやってくれるらしく今日はそのままあがりだ。それを聞けば明確にパッと顔を明るくさせて相手の方を見る。それならばこの後の時間はずっと相手と一緒だ。眠りにつくその瞬間まできっと隣に居てくれるだろう。上機嫌な様子で返事をすれば街へと繰り出した。最近は依頼の時に走り回っているかバイクで駆け抜けているかが多くてゆっくり歩いて街を見て回る時間は少なかった。それこそおやっさんと出会うまでは小さい頃からよくパトロールをしていたもので、そのお陰もあって今は風.都.を庭と呼べるまでになっている。久々に昔と同じような事をして、しかも相棒がいるのだから気分は悪くない。街でトラブルが起こりやすい場所もバッチリ把握済みだ。まずは繁華街へと思ったが、お腹が空いたと言われるとそう言えば長らくなにも口にしていないことを思い出して急激に腹が減ってくる。いつもなら相棒の食事の優先度は低いはずだが今日は珍しく食べる気があるようだ。それならば仕事の前に腹を満たしておくのがよいだろうとファミレスに向かおうとする。だがそのまま自分が先導するように歩くのはなんだが物足りなくて、ちらりと横を見上げて相手の様子を伺ったあと相手の手を取り繋いでそのまま歩いていき)

最近は珍しく依頼も立て込んでいたし移動手段と言えばバイクだったからね。 ちょっとした気分転換にもなる。 朝から頭を動かして糖分不足だ…、ああ。 ___ これだけ種類があると迷ってしまうね
（直帰の案を出すと分かりやすく表情が明るくなる。慣れない状況なら早めに休養した方が良いというのもあるが単に二人の時間を過ごしたいという方が強い。今日は頃合を見て早めに切り上げても良いかもしれない。最近は有難いことなのか不幸なことなのか分からないが依頼も多くゆっくりパトロールする時間もあまり無かった。自分にとっても改めて風.都.を探索して気分転換になるだろうと口元を緩めた。空腹を訴えると珍しいという反応をされるが自分だって普通の人間でお腹が空くこともある。朝から事態が急展開し、厄介なメモリを相手に打開策を探ったり小さくなった原因を考察したりといつも以上に頭を働かせてた上で危機を乗り越えたことで安堵したのも理由にあるだろう。ファミレスという案にも異論は無い。繁華街の方に歩き始めた所で相手の方から手を繋がれると僅かに目を見開いてじわじわと嬉しさが心を満たす。つい声が弾んで相槌を返してはこちらからも自分より小さくなった手を包み込むように握り返して温もりを感じながら道を進む。相手に案内されるままファミレスに辿り着く。見かけたことはあるが利用するのは始めてだ。入口に向かい店員に二人であることを告げればテーブル席に案内された。向かい合うように座ってメニューを開き、和洋中とバラエティ豊かな料理の写真が載ったページに興味津々な瞳を向けながらもどれにするか悩み）

ま、腹減ったのも気づかないくらいにはいろいろあったからな。_____なんでもあるのがファミレスの良いとこだが、選択肢が多すぎるのも、な………
(確かに今日は朝からバタバタしていて駆け回ったり頭を使ったり、最終的には戦闘もしたわけだから体力の消耗は激しかったはずだ。おまけにこの異常事態も重なって目まぐるしい半日を過ごしている。どちらかが倒れる前に腹に何か入れておくとしよう。手を繋ぎながら道を歩く。普段ならこの風.都.で白昼堂々絶対に出来ない行為だが今ならば許される行為だ。それに無性に今は相手の存在を感じていたい。心から安心出来る人の傍にいたい。繋いだ手はいつもと違い互いの長さがあっていなくて、自然とこちらがぶら下がるような形になる。しっかりと相手の手に包まれ暖かくて、時折無意識に繋いだ手をこちらに引き寄せ抱えるようにしては離してを繰り返していた。ファミレスにつき席に案内されるとメニューを開く。特に食べたいものが決まっていない時はここに限るだろう、その時の気分に合わせて食べるのを決められるのはいい所だ。見た目でいえばキッズメニューを頼むことは出来るが、さすがに自らそれには手を出さず通常のメニューを眺める。いつもならば大抵ガッツリと食べられる肉系統か丼を頼むのだが、メニューを捲ってピタりと動きが止まった。そのページにあったのはオムライスで普段ならば目にもつかない代物だ。だが今意識はなぜか綺麗なふわふわの卵とたっぷりかかったケチャップの写真に吸い寄せられていて、じっとそのページを眺めていて)

どういった基準で決めるべきか、…。…すみません、オムライス1つとハンバーグ1つでお願いします。
（公の場で相手の方から手を繋いでくるのは珍しい。この姿故ではあると思うがしっかり繋いだ手を引き寄せるような仕草は求められているようでもあって心温まる物だ。今日のパトロールの間は可能な限り手を繋いでいようと心に決めた。その前にと腹ごしらえの為に寄ったファミレスだがメニューの多さに悩むばかりだ。始めてみるものを食べるべきか美味しいと知っている物を選ぶべきか。ペラペラとメニューを捲りながらも悩み、参考にしようと相手の方に目を向けると同じようにメニューを眺めていた目が１箇所で止まった。こういうときは肉系のガッツリする物を選ぶ印象が多いが今日の相手の視線の先には黄色でふわふわしたオムライスの写真があった。相棒にとっては珍しいチョイス。だが吸い寄せられるようにじっとその写真を見つめていて傍から見ても食べてみたいという態度が丸わかりだ。相手の性格上、これがいいのかなど声を掛ければハードボイルドらしくない云々を言って別のものを選んでカッコつけようとするのが目に見えている。そうなればやることは一つ。偶然通りかかった店員を呼び止めては相手に確認を取らずに見つめているオムライスと普段の相手でも選びそうなハンバーグを注文する。オーダーを受け付けた店員が去っていけば「両方食べたかったからはんぶんこしよう」と相手に持ち掛けて）

…、……ったく、勝手に決めんなよ。ま、お前が両方食べたいなら仕方ねぇな。半分ずつ食おうぜ
(今日は戦闘で体を使った上この後歩き回ることを考えるなら力のつくメニューを選ぶのが最適なはずだ。しかし今はどうしてもいつもは読み飛ばすページにあるオムライスから目が離せない。次のページをめくろうと指をかけるもそれを捲ることは出来なかった。だがオムライスなんてハードボイルドか否かで言えば後者だろう。ワイルドに肉をかっ食らうのが正しい姿だ。このページを見送るか否か唸り声を挙げそうになったところで相手が店員を呼び止め、顔をあげて瞬きする。まだ互いに何を頼むか決めたかどうか確認もしていないのにどうしたのかと見守っていると、なんと相棒は一気に二品を注文してしまった。直後に半分このお誘いがあるとまた驚くように瞬きするが、これは好都合だ。相棒の分を半分食べてやるということならハードボイルドには反しないだろう。それが相手の気遣いだとは気付かぬまま、やれやれと肩をすくめるとその申し出を受けることとした。程なくしてテーブルに注文した二品が運ばれてくる。店員が持っていたオムライスを凝視していたせいか、オムライスは自分の目の前に置かれてパッとまた顔を明るくさせた。オムライスはメニュー通り黄色くてふわふわで赤いケチャップがたっぷりとかけられている。「早く食おうぜ」と相手を急かすとスプーンを手に取り、黄色の山をひと掬いして口へと運ぶ。柔らかい卵と塩気と甘みが絶妙なチキンライスが混ざり合い思った以上の味にニコリと笑みを浮かべ)

君の開いていたページのオムライスもこのハンバーグも美味しそうで決めきれなかったんだ。 君なら付き合ってくれると思ってね。 ＿＿ …美味しいかい？
（無事に注文を済ませると相手の方に向き直る。勝手に注文されたからか驚いたような表情を見せるが自分のこういった行動に慣れているようで直ぐにやれやれといった顔に変わる。だがそこに喜びの色が滲み出ている気がするのは思いすごしでもないだろう。メニューに悩んでいたのは事実であるし、なにより今は子供らしい相手の喜ぶ顔が見たかった。そうして待っていると二つの料理が運ばれてくる。店員も察してくれたのか相棒の前にオムライスを置いてくれてそれを見て更に嬉しそうに表情が明るくなった。誰がどう見ても好物を目の前にして喜ぶ無邪気な子どもだ。相手が急かすようにスプーンを手に取りひとすくいして口に運ぶ。直後美味しそうに顔が綻ぶのを見るとこちらまで自然と口元に笑みが浮かぶ。今までも美味しそうにご飯を食べる姿は何度も見た事があるが幼い姿も相まって今日は可愛らしいとも思える食べっぷりだ。見れば美味しいことは一目瞭然だがもっとその反応が知りたくて穏やかな声で感想伺いつつも自分も運ばれた熱々のハンバーグに手を付ける。1口大に切ってデミグラスソースと共に口に運べば風味豊かなソースと肉汁溢れるハンバーグの味に満足気な感想零すと程よいサイズに何個か切り分けてから相手のオムライスの端に運び「はんぶんこの分だ」と食べること勧めて）

あぁ！…んん゛っ、久々に食うと美味いよな。ありがとよ。じゃあこっちも半分にしとくか……っ゛、！
(一口食べたオムライスは想像以上に美味しくて顔が綻んでしまう。相手からの問いかけにもついその笑顔のままで答えてしまったが、相棒のチョイスという提のものを全力で美味いというのはその前提が崩れてしまうというもの。咳払いして直前の返事を誤魔化すといつも通りの話し方で返事を訂正しておいた。また一口オムライスを食べている間相手はハンバーグへと手をつけていて、デミグラスソースがたっぷりかかったそれもなかなかに美味そうだ。しばらくハンバーグへ目を奪われていると相手が切り分けたいくつかがこちらの皿に置かれる。これが自分の分ということだろう。礼を言った後にこちらもオムライスを半分のところでより分けると「こっちがフィリップの分な」と相手の分を取っておく。目の前に広がるのは黄色くふわふわのオムライスと肉汁溢れるハンバーグだ。夢の様な組み合わせに暫しその並びを眺めていると嫌でも上機嫌になる。満を持してハンバーグを一つ口に入れる。口の中でじわりと広がる肉とデミグラスソースの味は絶品で、すぐに二つ目のハンバーグを口に放り込んだ。しかし口に入れるタイミングが早すぎたせいかハンバーグが喉に詰まってしまい、目を見開くと胸の辺りを何度か叩いていて)

どうやらオムライスをチョイスして正解だったようだね。ありがとう。 …っ、翔太郎！大丈夫かい？
（心底嬉しそうな笑顔で返事が返ってくると自分まで幸せな気持ちになる。その後取り繕うように言葉を訂正したがそれが言い訳であることは百も承知だ。多少強引にでも食べたがっていたオムライスを注文した甲斐がある。緩い笑みを浮かべながらも美味しそうに食べる姿を見守っていながらも約束通りハンバーグも取り分ける。それを見た相手もオムライスを取り分けてくれて目の前には二種類の料理が並ぶことになる。一度で二つの料理が楽しめる、これが相手と二人で食事をするからこそのメリットだろう。礼を伝えつつ相手の様子を見るとこの光景に御満悦のようだ。相手が普段でも選びそうな物という事でハンバーグを選んだがメニューの中のキッズメニューにセットがある辺り子供に人気の料理なのかもしれない。ハンバーグを食べた時の反応も気になってつい自分の食事を進めることよりも相手の観察を優先してしまう。ご機嫌な様子で切り分けたハンバーグの1つを口に運ぶとこれまた美味しそうな反応だ。相当気に入ったのかまだ噛んでいる内に二つ目のハンバーグを口に入れていたが案の定喉につまらせたいような苦しい声が聞こえて思わずがたんと椅子の音を立てて立ち上がる。すぐに相手の席の元に向かい背中を擦りながらも様子を窺い、近くに冷水のコップ置いて）

、…ゴホッ……、お前……悪い、急いで食べ過ぎちまった。
(食べたいと願っていたオムライスと目の前で相手が美味しそうに食べていたハンバーグ、どちらも自分の皿にある事にいつの間にか気分が舞い上がってしまっていたのかもしれない。咀嚼を忘れるほど勢いよくハンバーグを口に続けて入れてしまっていた。飲み込むのに四苦八苦していると、相手が慌てた様子でこちらに来るのが見えて水を置いてくれるのが見える。有難くそれに手を伸ばして水を一気に飲み込みハンバーグを押し流した。ようやく気道が確保できれば口周りに水を付けたまま軽く咳き込む。確かに喉は詰まらせたもののこちらの席にまで来るなんて大袈裟だろうと相手の方を向いて、また子供扱いを、と言う言葉が口から出そうになった。だが相手がこちらを見る目は心配一色で背中を擦る手は暖かい。いつもと同じ手のはずなのにいつもより大きく感じるその手からは、相手の心配や優しさが伝わってくるようだった。そうなると文句は引っ込んで胸にはこちらを想ってくれているんだと無性に嬉しさが広がって、頬を掻きながら謝罪することとなった。「ありがと」と短く礼も添えるともう大丈夫だと肩を叩いて向こうの席に戻そうとして)

全くだ。美味しそうに食べるのは良いが、口も小さくなったのだから良く噛んでから次を食べたまえ。
（水を飲み込み気道が確保出来たのか咳き込む相手の背中を擦りながら様子を伺う。こちらを向いた顔と呼ばれる声で異物が取り除かれたのが分かれば安堵の息をつく。今までも相手が何かを喉に詰まらせて心配したことはあったが今回は一段と焦るものがあった。わざわざ席を立たずとも水を渡すだけでも良かったかもしれないが気付けば傍に寄っていた。もしかしたら事務所に来た当初に過保護といえるくらい世話をして貰った部分が移ったのかもしれない。謝罪と感謝の言葉を受けると反射的に行動したことに少し照れ臭さもあって上から目線気味に注意を施しつつも口元をテーブルナプキンで拭う。大丈夫そうだと判断がつくと促されるまま自分の席に戻る。そんなに美味しそうに食べるならと先程よりもさらに小さく切り分けて追加で何個か相手の皿にハンバーグを乗せておく。ひとまず危機が去れば自分も食事を再開しようと今度は取り分けてくれたオムライスをスプーンですくって口にする。ふわふわ卵と程よい味付けのチキンライスが絶妙に合っていて「このオムライスも絶品だ」と口元を緩めながら感想共有して）

な、ん……だから子供扱いすんなって……ありがと、…なんか今日のお前いつもと違わないか？
(体が小さくなって確かに口のサイズは縮んでしまったが改めて指摘されるとハンバーグなんて子供っぽいもので喉を詰まらせてしまったことも相まって気恥ずかしくなるが、口を開く前にナプキンでそこを拭われてしまう。口に水をつけっぱなしにして話していたようでそれに気づかない自分にさらに恥ずかしくなると悔し紛れに結局は先程引っ込めた言葉を口にしていた。相手も席に戻り食事を再開しようとすると、ハンバーグがさらに小さく切られてこちらの皿に追加された。目を瞬かせた後食べてなくなった分がまた戻ってきてパァっと顔を明るくさせるが、慌ててその顔を引っ込める。やはり体が小さくなってからイマイチ変だ。感情はいつも以上に膨れたり萎んだりして、しかしそれを相手が笑顔で見ているせいかつい歯止めが効かなくなってしまう。いつもは相手を甘やかしている自覚があるが、今日はその逆で相手に好き勝手自分をぶつけているようで、つまりは甘やかされている気がする。そんなこちらを相手は止めようともしないのだから余計拍車がかかってしまうのだ。どこか責任転嫁するように、相手がいつもと違うのではとオムライスを掬いながら探るように聞いてみて)

、君の身体が幼くなったのだから多少対応が変わるのも当然だろう。…それに年齢や力関係が逆転するなんて滅多にない機会だ、どうせなら今までお世話になってる分今は君を甘やかしたいと思ってね
（身体の年相応の世話をされたのが恥ずかしいのかまた文句を言われるがあまり気にはならない。ハンバーグを追加すればそんな悔しそうな表情も吹き飛んで嬉しそうに顔を明るくするのだから見ていても微笑ましい物だ。普段もかなり感情が表に出るタイプだが幼くなればよりその傾向が顕著である。だからこそ、それに自分に気付いて引っ込めてしまうのが勿体無いとも思う。カッコつけたがりの相棒にこの件を切り出すべきか悩みながらオムライスの二口目を口にした所で何処か控えめに問いが入れられた。まさか相手の方から切り出されるとは思わず目を瞬かせてから一番に浮かんだ理由を答える。相手が幼くなったからこそ元の体とのギャップのサポートをする為に普段と違うことをしている。それは今の状況のきっかけとして間違いではないのだがこの説明では不十分だ。一瞬言うべきか迷ったように視線を揺らすがオムライスを食べた時の嬉しそうな笑みが思い出されると相手を見つめ直しながら口を開く。メモリの能力がなければ年齢や体格が逆転することなんて無かった。良い機会と言えば相手には悪いが普段なかなかしてあげられない分、こういう時こそワガママなども聞きたいし甘やかしたい。相棒で恋人だからこそ湧く感情だ。素直にその考えと想いを伝えると「だから君も好きに甘えれば良い」と優しい笑みを向けて）

……やっぱりこの状況楽しんでんじゃねぇか！だから俺は中身は元のままで……メモリの影響か分かんねぇけど、ちょっとずつ自分の制御が効かなくなってんだよ…それでも、いいのかよ？
(甘やかされている気はしていたが、どうやら勘違いではなかったらしい。まっすぐ見つめながら堂々と甘やかしたいと言われると今度はこちらが目を瞬かせた。反射的にツッコミと反論が口から出るが、段々とその勢いも失われていく。こちらに向けられた優しい笑みが胸に沁みるように広がるからだ。甘やかしたいというのが揶揄いたいという意味ではなくて、言葉通りの意味なのだと理解はしている。それに自分自身はというと、どうしようも無いほどその笑顔を向けられるのが嬉しい。もっと手を繋ぎたくて、もっと頭を撫でて欲しい。好きに甘えればいいと言われれば本当にそうしてしまいそうだ。子供の欲望と大人の理性で揺れながら、眉を下げながら観念したようにこちらの状態を明かす。いつもならば我慢できる事ができず、何かを欲しがる気持ちはより大きくなっている。ハードボイルドというよりは左.翔.太.郎.から外れていきそうな予感が自分の中にある。それもメモリの効果が切れるまでと期限は決まっていて、それまでならばメモリを言い訳にこのまま流されてもいいのだろうか。結局は子供の欲望が僅かに勝って俯いた状態から上目遣いに相手の様子を窺いながら、確認するように問いかけて)