相乗りで何処までも 【 〆 】

君はこういう時に限ってサラリとそういう事を言う…。 翔太郎？ …僕は別にそれでも構わないけど、そうなるとアキちゃんには流石に明かさないといけなくなるだろうね
（ツンとした態度を取ったとしても相棒はその全てを受けとめてしまう。まだ意識が完全にハッキリしてないからか、いつもはきまらないであろう台詞も堂々と言ってしまえるのだからタチが悪い。腕の中で温もりを堪能しながらもぽつりと呟く。とはいえ、普段ならば朝は大体目が覚めたら所長が来る前にとバタバタと準備するものだが今日はその心配がない。まだこの調子でいても構わないだろう。相手の部屋にいるという幸せを噛み締めていたが何処か背中を撫でる仕草と見つめられる視線がいつもと少し異なって見えると思わず声を掛けた。そんな中で真摯な願望を相手が呟くと一瞬息を飲む。それはつまり自分もここに住むというのと同義だろう。別に生活する場所にこだわりがある訳では無い。探偵の仕事や検索するのに都合の良いガレージや事務所に寝食をこなせる場所もあるからそこで生活しているだけだ。だから相棒の家に住むことになっても大した支障はないのだが、そうなれば流石に同じ仲間である所長にはいよいよ隠し通すのは難しいだろう。こちらからも相手を求めるように抱きつきながらも真面目に検討していく中で現実的な問題を口にして）

ん…？あ、………えー、いや、ちが…わねぇけど……アキコに言うのはいいとして、ほんとにいいのかよ。二人だと狭いぞこの部屋
(夢見心地のまま相手の柔らかな体を抱き締めていると、名前を呼ばれてまだぼんやりとする頭で相手の方を見る。続いた言葉を、自分から言っておいて最初は理解できず不思議そうな顔をしていたが、ようやく頭が覚めてきて今しがた自分が何を口走ったか理解すると、体の動きが止まってゆっくり顔が熱くなっていくのが分かる。焦ってすぐに弁明の言葉を探すが、何より本心だったそれを覆せるものなど存在しなくて、相手がこちらに抱きついてくればとうとう言い訳できないと観念したように言葉の勢いを弱めていく。毎朝相手と共に起きて、事務所に出掛けて仕事をして、二人してここに帰ってきてまた眠る。正真正銘ずっと一緒の生活だ。相手と一緒に過ごす時間を最大限取れる最高の状態、こちらにとっても願ってもない日々になるだろう。事務所に泊まった日は大方同じ生活だったし、相手の持ち物と言えば服くらいですぐにでも一緒に住める状況、不意に呟いた願いは一気に現実味を帯びた。所長に言う問題はとりあえず置いておくとして、最終確認をするようその目を見つめながら問いかけて)

何を心配しているのか分からないけども、僕は君が居てくれるなら何処だって関係ない。幸い本を読むスペースくらいはあるみたいだからね、…それに君と過ごす時間が長くなる方が嬉しい。…翔太郎は？
（自分から言ったにもかからず不思議そうな顔をしていて本当に無意識の言葉だったようだ。それが徐々にはっきりした瞳になっていきそれと同時に薄ら頬が赤くなって焦ったように取り繕いはじめる。相変わらず表情豊かだ。最終的にはその勢いは衰え、確認する様に問われるがこちらとしては何故躊躇しているのか分からず僅かに首を傾げて見つめ返す。そもそも生活する環境にさほどこだわりはないし、この部屋も一晩過ごしてみて特に問題はなかった。それに何より重要視するのは相手と共に過ごせる事だ。それが叶うならば広さも環境も厭わない。唯一の趣味や興味ともいえる読書もこのスペースがあれば可能だろう。忙しい日は以前と変わらず事務所に泊まることになるだろうしその割合が変わるだけだ。色々と根拠立てて理由を説明してみたが結局の大きな理由は最後の一言に絞られる。少し照れ臭そうに、だが真っ直ぐと相手を見つめながらそう告れば今度はハッキリとした意識の中での相手の意見を問いかけて）

フィリップ…俺もなるべくお前と一緒にいたい。
どんな事があっても、最後にはお前のこと考えてお前のとこに帰るんだ。それなら目が覚めてる時も、眠ってる時もお前と一緒がいい。……今日アキコに説明すっか
(相手の返事を聞き終えた頃には喜びと愛しさで鼓動は十二分に早くなっていた。共に居たいという願いは何度も互いに言ってきたが、いざずっと一緒だというのが現実味を帯びた時、変わらず同じ事を言ってくれるのがこんなにも嬉しいとは。こちらの無意識の一言から始まって急激に話が進んで勇み足を踏んでしまったが、もしこの答えを保留にしたって後に返事が変わることは絶対にないだろう。一息置いてから、はっきりと覚醒した頭でこちらからも返事をする。守りたいものも背負うべきものも変わっていない、しかし隣に居たくて、居て欲しい人は出来た。まだ頬はうっすら赤いが、決して目を逸らさずにこちらの返事を言い終えるも、恥ずかしさを克服できたのはそこまでで、目を閉じて額同士を寄せる。深呼吸を挟んだあと、探偵業に欠かせない仲間に二人の関係を打ちあける覚悟を決めて)

話は纏まったようだね。…ますます君を手放せそうにない。 ああ、そうしよう。何だか今から緊張してきたよ
（しっかりと目を合わせて相手の一言一言に耳を傾ける。真っ直ぐに向けられた言葉は胸に染み渡ってぽかぽかと温かな物が胸に広がった。プライベートな時間でも一緒にいたいと思ってくれているのか嬉しくて堪らない。笑みを称えながら応えるが恥ずかしくなったのか相手は目を閉じてしまった。それに合わせて自分も目を閉じる。あの時出会わなければ相棒は尊敬する師匠と共に平和な探偵業を営んでいたはずでそこに負い目がない訳でない。組織のことが片付いたら普通の生活を送る権利が相棒にはあるはずだ。だけど、相棒の優しさを温もりを知ってしまってそれが当たり前になってしまった今では離れたくない離したくないと思う。自分の中に占める相手の面積が大きすぎて無くなってしまえば生きていく事も困難とも思える重たい感情を吐き出してはぎゅっと縋りついた。相手の提案に頷く。大切な仲間だからこそ所長にはこの関係のことを秘密にせずに打ち明けたい。きっと驚かれたり根掘り葉掘り聞かれてしまうかもしれないが彼女のことだ、最後には受け入れてくれると思う。2人が結ばれた時は相棒から伝えてくれたため、ある意味初めての告白とも言えるイベントに今の段階から緊張しながらも口元緩めて）

あぁ。どこまでも一緒に居てくれよ、フィリップ。まぁ、二人並んで説明したら受け入れてはくれるだろうけど……朝からうるさそうだな。スリッパも飛んできそうだし
(穏やかな口調ながら独占欲を隠さない言葉と共に相手がこちらへ縋りついてくる。それを受けとめこちらからも抱き寄せるように腕に力を込めた。相手を手放せないのはこちらも同じだ。最初は共に変身する相棒だったのに、今や自分の半身とも思えるくらいにその存在は大きい。視界を失ったかもしれないと思っただけであんなにも動揺してしまったのに、もし相手を失ったら自分はどうなってしまうのか、想像も出来なければ想像したくもない。この手放し難い恋人とより多くの時間を過ごして、より自分の生活の中に相手を取り入れるには、スリッパの嵐を受ける関門が待ち構えている。とりあえず『私聞いてない』で一発、『こんな美少女を差し置いて』で一発と言ったところか。あと残り何発飛んでくるかはまるで未知数である。しかしずっと隠し通せるものでもないだろうし、こっちにもそれだけ硬い意志と想いがある事は伝えなければ。それにあいつならそれを理解できる。将来的に赤くなるであろう額を憂いながらため息をついていて)

勿論だ。…僕がここに住むことになったらこれからは同棲って言った方が良いのかな。 それは…甘んじて受け入れるしかないね。僕としても譲れない事だし二人並んでスリッパの跡もお揃いにしようか
（お互い求め合うように抱き締める。この温もりを知ったのも近頃ではあるが、すっかりと馴染み深い物になって一番落ち着く事が出来る場所だ。相手の言葉に頷き共に過ごすということが現実味を帯びてくるとふと今の状況を表す言葉が浮かぶ。一時的に家を訪れるなら泊まりという言葉になるが共に生活する為に過ごすようになれば同棲という言葉の方が適切だろうか。この状態の呼び方についてつい気になってしまえば真剣みを帯びた声でそう尋ねてみて。そして一緒に過ごす時間を作る為にも所長への報告は必須だ。相手の言う通り、最終的に受け入れてくれるにしてもその過程はなかなか大変なことだろう。思わず苦笑いを零しながらも赤くなってしまうと思われるおでこに自分の額を軽く擦り寄らせる。どんな試練があったとしてもこの想いは消すことができない。二人揃ってスリッパの攻撃を受けることを想像してはくすくす笑いながらも片方の手を相手の頬に添えて見つめ）

え、あー……そう、だな……同棲か。お前のもの買いに行かなきゃな。依頼人が来る前に跡が引きゃいいんだが……
(相手が真剣な声色で聞いてきた質問に目を開く。恋人関係からまた一歩進んだ関係でもある同棲という状態、同じ部屋で生活を共にするならまさしく自分達は同棲することになるのだろう。またひとつ二人の関係が進んだのだと思うと嬉しさとそれを口にする恥ずかしさとが一気に込み上げてきた。どう答えたものかと思うが、相手に真剣な口調で聞かれた事を誤魔化して返事をするわけにはいかない。言葉を詰まらせながらも頷いて肯定すると、改めてその単語を口にしてみる。自分の時間の中で一部にしか居なかった相手が、これからはほぼ全部に居ることになる。これから変わるであろう自分と相手との生活を思えばそこには期待しかなくて、自然と笑みを浮かべると改めて新生活に必要なものに思いを馳せる。自分のものしかなかったこの部屋に自分のものではないものが沢山増えそうだ。それを思えば所長のスリッパも耐えられるというものだ。頬に手を添えられると柔らかなそこに擦り寄る。いつまでもこうしていたいがそろそろ準備をしなければ所長よりも遅い出社になってしまう。二人の事を説明するためにもそれは避けるべきだろう。名残惜しげに相手を抱き寄せつつ「そろそろ朝飯食うか」と声をかけ)

何だか慣れない響きだ。そういうのはゆくゆく揃えていくことにしよう。 ん…、……そうする。
（言葉を詰まらせながらも回答が返ってくるとその響きに嬉しそうに表情を緩める。同棲とは普通の恋人からまた1歩近付いた関係だろう。夜も同じ時間を過ごすという面で見れば事務所で寝泊まりしていた時と変わりないがまた違った印象を受けるのはその場所が相手の部屋というプライベート空間だからだろう。今着ている服も含め相手のモノで染められるというのも良い経験だがそこに自分のモノも置かれて共に生活する場所になっていく、というのも悪くない。幸い大きな荷物がある訳でもないし急がなくても問題はない、自分の物は何処かに出かけた時にでも買い揃えればいいだろう。新生活への期待に胸を膨らませながらもその為にしなければならないこともある。添えた手に擦り寄る相棒に愛おしさが芽生えてずっとこうしていたいとさえ思う。声掛けられても尚この温もりを僅かでも離したくないという欲が足を引っ張って子どものように抱き着いていたが、そろそろ起きないといけないのも事実だ。渋々腕を解くと上体を起こして布団からの脱出を果たす。「トーストとコーヒーだろう？」と確認を取ると朝食の手伝いをしようと台所に向かい）

だな。なんだかんだ揃えなきゃいけないもん多そうだし、暮らしながらちょっとずつ買い足していこうぜ。___あぁ、ハードボイルドらしいスマートな朝飯だろ？お前はコーヒーの方を頼む。事務所と同じドリップバッグコーヒーがあるからそれで淹れてくれ。俺はトーストだ。
(新しい生活が、しかも相手との生活が始まると思うとつい浮かれてしまいそうだ。これからずっと一緒にここに住むならば、足りないものは少しずつ買い足していけばいい。なにせ二人の時間は同棲によってたっぷりと増えたのだから。とはいえこの微睡みの時間を終わらせるのとは話が別。暖かな温もりを手放したくないのだが仕方がない。相手の動きも明らかに緩慢でここから離れたくないのがよく伝わる。その子供っぽさに思わず笑みを浮かべているとようやく相手の体が起き上がって布団から脱出し、こちらも二度寝の欲が出てくる前に布団から抜け出した。キッチンへ向かうと朝食のメニューを聞かれあっていると頷く。スマートな朝食なんて言うがこれも映画の受け売りだ。ひとまず相棒にコーヒーを任せることにし、電気ケトルをセットすると「このお湯使ってくれ」と指さした。コーヒー用のマグカップを二個出すが絵柄も形もバラバラの二つで統一感はない。一人分ずつ買うので揃いの食器なんて持っていないのだ。相手がコーヒーの準備をする間、横でフライパンを取り出すと冷蔵庫から卵を二個取り出す。いつもは一個だが今日は何もかも二倍で、それもまた相手がこの家に居るからこそだろう。食パン二枚はトースターにセットし、温めたフライパンに卵を落としてその横にもう二枚の食パンを並べた。フライパンの上に並んだ二つの卵は少しずつ焼けてやがて半熟状態になり)

そうかもしれないね。ああ、重要任務を任された。…、美味しそうな半熟具合だ。
（何とかずっとこのまま居たいという誘惑を断ち切って布団を抜け出す。物理的に立ってしまえば頭も活動する方向に切り替わる。キッチンに向かいながらもスマートな朝食という点にはそれとなく同意を示しておく。ハードボイルドらしいかは判断に悩むが一般的な朝食と言えるだろう。その中でもコーヒーを淹れることを頼まれると大袈裟な言い方と得意げな笑みを見せながらもそれを引き受けた。事務所には客に出す為の物を含め統一したデザインの物やお気に入りのカップがあるが、相棒の家には当然ない。用意してもらったデザインがバラバラのマグカップにそれぞれドリップバッグをセットしてケトルのお湯が沸くのを待つ。過去に調べた知識を活かし、沸いたお湯を軽く冷ましてから少量のお湯でコーヒーを蒸らす。数十秒待ってからお湯を数回に分けて注ぐと部屋にコーヒーの香りが漂ってきた。いつもよりも気持ち丁寧にコーヒーが入れ終わると相手の方の様子も見に行く。食パンがこんがり焼けるいい匂いと覗き込んだフライパンの中は2つの卵がいい具合に半熟に焼けていて食欲をそそる。思った感想を呟くと必要になるだろうと2人分の皿を持ってきて傍に置き）

卵を半熟にするのは得意だからな。ん、皿ありがとよ。そっちのコーヒーも良い感じだ
(卵が焼けるのを待つ間隣ではコーヒーのパックが開けられ、ふわりとその香りが広がる。程なくして相手がケトルを手に取ると少量のお湯を入れてから時間を置いてお湯を注いでいて、そこからいつも自分で淹れるよりも遥かに香り高いコーヒーの匂いが漂ってくると、思わず深く息を吸い込む。きっと検索結果を実行しているのだろう。フライパンから漂う香ばしい匂いとコーヒーの深い香りが混じって辺りを包んだ。コーヒーの香りを楽しんでいると、フライパンの卵は程よい半熟になる。相棒から出る半熟という言葉にいつもは反論しているが、これに関しては別枠だ。フライパンを覗き込む相手に『卵』という部分を強調しつつ得意げにフライパンを振る。程なくしてトースターから小気味よい音と共に焼きたての食パンが飛び出して、用意してくれた皿にそれぞれトーストとフライパンで温めた食パン、その上に半熟の目玉焼きを添えればいつもの朝食の完成だ。片手に二枚の皿をおき冷蔵庫からバターとジャムを取り出すと「コーヒー頼む」と声をかけてリビングに移動して)

ああ、作り手に似た良い具合のハーフボイルドだ。了解した。__＿ 豪華な朝食だね、早速食べようか。
（わざわざ半熟に関して『卵』を強調して得意げに語る様子に思わず笑みを浮かべる。意識しているのが丸わかりで、もしかしてこれが所長の言う大阪のツッコミ待ちという文化なのかもしれない。実践したい気持ち半分揶揄う気持ち半分でフライパンでは無く相棒の方を向いてコメントを残しておいた。程なくして食パンも焼き上がり、皿の上に焼きあがった目玉焼きと共に盛られていく。慣れた様子でバターとジャムを取り出した相手の後ろに続いて返事すると淹れたてのコーヒーをリビングに運ぶ。狭いテーブルにトーストやらが乗った皿、コーヒーがそれぞれ2人分並んで朝食の完成だ。事務所ならば大体朝に叩き起されたとしても食パンをそのまま食べるだとか午後に起きてきて昼ご飯と一緒ということも多かったからこれは豪華な部類だ。ここに住むことになったらこの様式が定番になるのかもしれないと感慨深く思いながらも席につく。美味しそうな料理を目の前にしてお腹が空いてくると早速食べようと声を掛け、手を合わせて「いただきます」と呟いて早速トーストを手に取ってさくっと香ばしい音と共に耳の部分を一口齧って）

誰がハーフボイルドだ！____それならこれから毎朝豪華な朝食だな。
(卵を強調したはずだが相棒はあえてこちらを向いて半熟だと揶揄ってきてすかさずつっこんでおく。この部屋で大声を出すことなんてないのに相手がいるだけで途端にこれだ。本当はやれやれとため息をつかなければならない所なのに、いつもとは違う朝に思わず笑ってしまいそうになる。だがここで笑えば半熟探偵を受け入れてしまうようなもの、顔を逸らしてリビングへと向かったのだった。テーブルに二人分の朝食が並ぶと随分狭いテーブルとなってしまった。席についてこの朝食を豪華だという相手に小さく笑う。自分にとってはいつもと変わらぬメニューなのだが、食に疎い相手にとってはそうではないらしい。同じく手をあわせ「いただきます」と言うとまずはコーヒーへと手をかける。その間に相手はトーストへ齧り付いていて、ぼんやりとそれを眺めてしまった。いつもの朝の風景、コーヒーをのんで卵とトーストを食べる、それだけなのに相手がいるだけで些細な楽しさや嬉しさが溢れている。まるで朝の風景がより彩り豊かになったような、そんな気がした。相手を見つめながら自然と微笑んでいるのには気付かず、コーヒーを一口飲むと「美味いな」と呟いて、トーストを手に取りバターを塗り始め)

ああ、君と暮らしたら自然と健康になりそうだ。コーヒーを淹れるのは慣れたものだからね、役割分担としてはちょうどいいのかもしれない。
（もはやお決まりと化したやり取りだがこれも2人がいるからこその会話だろう。昨日来たばかりの時にはあんなにも緊張した物だが今は事務所にいる時と同じくらいの空気となっている。すっかり打ち解けた雰囲気を感じながらも朝食の席に着いた。ここで暮らすようになればこの朝食が習慣となるのだろう。生活リズムにしたって物事に熱中しない限りは相棒に合わせることになる。新しい生活の変化の予感を覚えると穏やかな笑みを浮かべる。今度はスーパーで買ったジャムを塗って食べてみながらも相手の様子を伺う。どうやらコーヒーの味は満足行くものだったらしい。事務所では何故かコーヒーをいれるのが下手な相棒に代わり自分か所長が準備する事が多いからすっかり慣れた行為だ。明日以降も同じ分担で準備することになるのが容易に想像ついて声を弾ませた。コーヒーを一口飲み、今度は卵部分を口にすると「卵もとろっとしていて美味しい」と呟き）

朝事務所行ってお前が倒れてるのみてギョッとするのもなくなりそうだな。ったくらなんでお前の方がコーヒー淹れるの上手いんだよ……まぁ明日からも頼むぜ、相棒。その 代わりトーストは任せろ
(これまでは夜に別れて目を離した結果、ガレージで夜通し検索したのか床で倒れる相棒を何度か見てきたわけで、それもなくなるのかと思うと朝の時間はより穏やかになりそうだ。いつまでも寝ずに検索しようとすればベッドに引きずり込むこともできるし、何も食べようとしない口に栄養価のあるものも突っ込むことができる。ひとまず朝食は気に入っているようだし、このまま食への興味が出てもう少し健康的な生活を送ってくれれば良いのだが。バターを塗ったトーストを齧りつつコーヒー担当だと張り切る相手には思わずため息をつきそうになる。おやっさんを真似て淹れているのに一度もまともに飲めるものが出来たことがない。ドリップバッグを使えば辛うじて飲めるものができるがそれでもやはり今飲んでいる相棒が淹れたものの方が美味い。ここは担当を相手に譲った方が良いだろう。コーヒーはイマイチだがエッグトーストは申し分なさそうだ。チャーハンの時もそうだが、自分が作ったものを相手が美味しそうに食べてくれるのは胸が満たされるものがある。相手の食べる姿を眺めながらトーストの欠片を口に放り込み)

、あの時は検索対象が広がっていくような題材だったから仕方ない。…でもまあ、健康的な生活を送れば君の背丈を越すかもしれないね。 君の場合、雰囲気とか何となくでやっているのが大きな原因さ。ああ、これもちょっとした共同作業みたいな物だ。
（相手の話に一瞬キョトンとするが直ぐに該当する出来事を思い出す。検索にかかる時間はキーワードによって様々で歴史や事例が多いものは長くなる傾向にある。その中でも検索結果に出てきた事に更に興味を持ってと連鎖していくと夜通しという事も少なくない。その時も確か徐々に検索対象が移っていき気が済んだ後に睡眠不足と疲労で簡易ベッドに戻る途中で倒れて大騒ぎされたのは記憶に新しいが、それに対して反省の色はなく正当化するよに話す。とはいえ、この部屋でなら事務所以上に相棒のストップが入ったり軌道修正してくれることだろう。その中でふと以前の会話を思い出すとジャムを塗って甘いトーストを食べながらちらりと相手を見て成長期ならではの話を呟いてみた。コーヒーの入れ方に関しては自分の中の感覚でやっているのがおおよその原因に思える。性格と言ってしまえばそれまでだが丁寧な動作が必要となることには相性が悪い。これから時間があればそういった意識も含めてコーヒーの入れ方を共にするのも悪くないかもしれない。結局役割分担が決まって明日からもコーヒーの役を任されると嬉しそうに頷く。二人で行えば効率も悪くないはずだ。すっかり眠気も消え去り明日以降の事についても決めていきながらも食事を進めていき）

これからは寝る時間になったら無理やりベッドに入れるからな。…………お前が健康的なのは良いけど背丈が違ったらこう、変身の時とか格好つかないだろ。これくらいで止めとかないと、なっ。……共同作業か。とりあえず朝は美味いコーヒーの方がいいし、しばらくはお前が担当だな。
(どうやら相棒は反省の色がないらしい。行き倒れの時はなかなかに焦ったが、他にも朝に顔をあわせたらくっきりクマが出来ていた回数は少なくないし、用意しておいた食事を二回抜いた事だってある。同棲するならこういう事も未然に防ぐことが出来るだろう。相手に健康的生活をさせようと意気込んでいたが次の一言で動きをピタリと止める。以前にも話題になった背丈の問題、成長期真っ盛りの相手が今より健康的になれば背丈が一気に伸びる可能性は十分に有り得る。相手を見上げて話すようになるのはなんとなくプライドが許さなくて、背丈が止まるよう念を込めて相手のツムジをギュッと押しておいた。コーヒーをまた一口飲む、相乗りするようになり幾度となく共同作業はやってきたはずだが、生活の中にもそれが取り入れられるのを思うとまた嬉しくてむず痒い気分になる。今まで通り互いに補いあうのを日常の中でも行う、そのうちのひとつが朝食の準備でありこれからもそういう物が増えていくだろう。そしてコーヒーの淹れ方もまた相手に教えて貰えばいい。今日からの変化の予感を噛み締めながらコ最後のトーストを口に放り込んで飲み込むと「ご馳走様でした」と手をあわせて)

…検索がまだ終わってない時でも？ 服も貸し借り出来なくなってしまうね、…痛いよ、翔太郎。ご馳走様でした。 お皿は僕が洗っておくから僕の着る服決めといてくれるかい？
（健康的な生活を送らせようと意気込んでいる様子で自分としても同じ生活リズムで過ごせるのは良い事なのだが相手の発言に一つ懸念が生まれる。寝る時間には強制的にベッドに入れられるということは検索の途中であっても、という事だろう。寝転がった状態でも全くできない訳では無いが効率は格段に下がる。知識の探求という意味では困る事案に交渉の余地を探るように問いかけた。そして健康的な生活を送るようになれば成長するという可能性もありえる。そうすれば今借りているこの服も小さくなってしまうだろう。相手としても背を抜かされるというのは嫌なのか予想通りそれっぽい事を話す相手に此方からも避けたい理由を1つ添え、物理的に伸びるのを阻止しようとツムジを押す仕草に思わず柔らかく笑いながらも呟き。そんなことを話しながらもある意味記念すべき1日目となる朝食を食べ終わると相手に続いて手を合わせる。これが明日も食べられると思うと自然と口元は緩んだままだ。まだ時間に余裕はあるが今日所長に報告することを考えると早めに着いて心の準備という物をした方がいいだろう。食べた皿を重ねて片付けながらも今日の皿洗いは自ら名乗り出て、相棒には着る服を繕うことをお願いして）

当たり前だろ、検索のせいで不健康なんだからなお前は。だろ？同じ体形の方がいろいろメリットあんだから、このままが一番だ。ん、おぅ……じゃあ頼む。
(折衷案を探るように問いかけられた質問だったが、ここは一刀両断しておいた。これまで思い返した出来事のどれをとっても原因は検索だ。相棒が自分で区切りが付けられないのであれば、こちらで付けてやらなければ事務所と同じ事がおこる、甘やかすわけにはいかない。そうやって規則正しい生活をさせれば相手の成長を促してしまうかもしれないのだが、こればっかりは祈るしか方法がない。ツムジを押されふわりと笑う相手につられこちらも笑みを浮かべる。向こうも背が伸びるのを強く望んでいるわけではなさそうだし、どうかこのままであってくれと願いを込め今度はポンポンと軽く頭を撫でておいた。互いに朝食を終えると皿を洗ってくれるという申し出には一度目を瞬かせ頭を掻いて目を逸らしながら返事をする。いつも行う当たり前の行動も互いに分け合っていく、それがこれからの当たり前になる予感、あまり他人に頼る事がない分不意の申し出に照れてしまったのだ。軽く手をあげ皿洗いを任せると真意が知られてしまう前に逃げるようクローゼットへと移動する。相手の服、といっても持っているのは大体同じようなものばかりで、シャツにズボン、ベストの組み合わせだ。正直服を貸す上でベストはなくても問題ないのだろうが、ここまで来れば隅から隅まで相手を自分と同じにしてしまいたい。自然と浮かんだ支配欲の片鱗を慌てて飲み下すと、相手用の3点セットをベッドに並べておいて)