検索 2022-07-09 20:46:55 |
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ああ、朝までの貴重な時間は無駄にしたくない。二人とも茹でられた後みたいだ。…なんだい?
(風呂の湯の温度はさほど高くはなかったが長い間浸かり行為によって湧き上がった熱もあって肌から湯気が立ちのぼる。もっと長く触れ合っていれば露天風呂の時のように意識を飛ばしたり最悪病院沙汰だ。せっかく朝までゆっくり出来る機会を得たのだから勿体無い。程よく切り上げるという判断も必要だろう。髪の水分を軽く拭ってから全身を拭いていく。肩を動かす度にぴりと痕から痛みが走って比較的落ち着いてきた頭に所有痕の場所を再度示しているようでもあった。ふと隣を見ると二人とも血色が良くなりすぎて赤くなってしまった肌に気づき思わず小さく笑い声と共に呟く。元通りになるまで時間がかかりそうだ。そんなことを考えながらも借りた寝巻きと下着を手に取り順番に着替えていく。いつもと違う服装、しかもこれまた服からは相手から香ったことのある洗剤の香りがして若干胸に熱が揺らいだ。サイズはピッタリだが何処か落ち着かないように服の裾などを触って視線を迷わせていたが、ふと隣からの視線に気づけば何を考えているのかなんとなくわかる気がするが敢えて相手を見つめ、首を傾げながら問いかけて)
だな。ま、今回は逆上せる前に上がれたからそれで良いだろ。__え、いや……やっぱりお前が俺の服着てるの、不思議だなって……
(横目で相手を観察していると、項の方は髪で隠れて見えないが、肩につけた所有痕は体が熱を持って血の巡りがいい事もあってか、くっきりと赤くその存在を主張している。やがてそれが自分の服で覆われ隠されると、またなんとも言えない感情が胸を渦巻く。やがて寝巻き姿が完成すればそこには自分の服を着て立つ相手の姿があった。こちらの服に包まれてどこか落ち着かないようにソワソワする様子を見れば、まるでこちらの色に染められたのを戸惑っているようで、支配欲が刺激されて胸が掻き乱される。吐き出す息がまた熱くなりそうになった所で話しかけられると、弾かれたように目線を相手へと向ける。当然今抱いていた事をそのまま口に出すことなんて出来ない。袖を引っ張る姿が可愛かったとか、またこちらに染まったなとか、赤い顔で自分の寝巻きを着ているのが色っぽいとか、言いたい事は山ほどあったのだが、外気に触れ少し冷えた頭ではそれを口に出すのは恥ずかしくなってしまって、目を宙へと逸らしながらそれらの感情を『不思議』という一言に無理やりねじ込んでおいた。今は浴槽から上がって頭を冷やさなければならないのに直ぐにでも熱がぶり返してしまいそうだ。そうなる前に別の方向へ気をそらそうと「髪乾かしてやろうか?」と問いかけて)
ああ、その服のことかい? 自分ではあまり選ばない色だからね、それにこれも君の匂いがする。 じゃあ、頼んだ
(話しかけるとちらりと覗いていた視線がしっかりとこちらに向く。探偵には隠密で観察するスキルは必須であるが今の見方ではバレバレだ。案の定歯切れ悪い様子で寝巻きのことを言われると白々しく腕を広げて相手の物を着ているのだとアピールしてみる。普段着る服は彩度や明度も程よく高くカラフルな色のものが多い。それに比べればグレーをメインに紫の縁が彩るこの寝巻きは自分らしくないチョイスで他人の物を着ている感は強いことだろう。先程の会話に引き続き相棒はそれを意識してしまっているのは明白だ。先程の強引さとは対照的に視線を反らす様を見れば少しからかいたくなってしまって相手の服ということを強調するように言葉を並べた後、首元の生地を軽く持ち上げ鼻先を埋めてその香りを嗅いでみせる。シャンプーほと主張は激しくないが抱きしめた時などに香っていた相手を構成する匂いの一つだ。何処か嬉しげにそれを報告してみるが相手から申し出があると安直にそちらに食いつく。自分の髪を拭いていたバスタオルを相手に差し出すと未だ濡れた髪を乾かすの任せ)
っ、お前な……そういうことすんな、…じゃあ鏡の方向いてくれ
(こちらが言葉をつまらせたせいか相手の声のトーンは一段明るいものとなって、こちらへ寝間着を見せびらかすように広げてみせてくる。子供っぽいその動きを窘めようとするが、わざとそうやっているのだとしても寝巻きをアピールするその仕草には心奪われるものがあって、しかも着ているのは自分が好むシックな色合いの寝巻き、すなわち自分の寝巻きだ。おかげでなかなか頬の熱が引いていかない。どうしたものかと思っていたところ、さらに相手は寝巻きの香りを嗅いでこちらの匂いだと上機嫌で報告してくる。わざわざ香りを確かめるその仕草も、その匂いに嬉しそうにしているのも、こちらの全てを許された気になってますます胸を強く揺らす要因となる。こちらを煽るような数々の行為に口を挟もうとするが、その前にタオルを渡され言葉は途絶えてしまった。相棒の興味はすっかり髪を乾かす行為に移ったようで、ひとつため息をつくと胸にゆらゆらと残ったままの熱は消化できぬまま、背中を向けるよう指示を出す。タオルを頭にバサりと被せてやると、胸のモヤモヤ分をぶつけるようにガシガシと多少強めに髪を拭き始め)
散々好き勝手にされた仕返しさ。痛いよ、翔太郎。もっと丁寧に扱ってくれ
(どうやらこちらのアピールは功を奏したようで落ち着いてるように見えるが言動の節々に動揺の色が覗く。こういう時の相棒は本当にわかりやすいし乗せ易い。実際に相手の服を纏うことが出来ている嬉しさと未だ頬を赤くして困っている相手の表情に機嫌は良くなっていき楽しげに言葉を返す。腕の中に閉じ込められて思うがままにさせていたのだ、これぐらいの仕返しは可愛いものだろう。タオルを手渡すとため息は聞かないフリをして言われたまま鏡の方を向いて背を向ける。頭にタオルを被せられ強めに拭かれ始めると口元に笑みを作りながらも大袈裟に苦情を申し立てた。少しづつ燻っていた熱も冷めてきていつもの上から目線な態度も戻ってくると拭いてもらう立場で拭き方について注文をつけつつも身を任せて)
お前が煽ってきたくせに……、はいはい。……
(確かに無我夢中で欲望を相手に注いだのだが、そのきっかけは相手がこちらの欲をつついてきた事だ。もちろんまんまとそれに乗ってしまった自分もいるのだが、仕返しだと言われるとどうにも理不尽な気分だ。不満げにぶつくさと文句を言うも意見が覆ることはないだろう。そして何よりこうやって振り回されるのが心地良いなんてことは口が裂けても言えない事実だ。気持ちが乗りすぎた状態でタオルを動かしていると相手から注文が入って、またため息をつきつつリクエストに応えるように手を優しく動かす。髪の水分をあらかたとって、耳に残る水をバスタオルで優しく拭き取ってやった。大方乾いたところでドライヤーに持ち替えてさらに髪を乾かす。手ぐしで髪を梳かしつつドライヤーを動かしていると、ふと視界に項が目に入った。今は見えないがあの髪の向こうにはひとつ確実に所有痕が残されている、そう思考が過ぎるとまた悪戯心と嗜虐心が薄ら湧いて、髪を梳かす振りをしつつ指先を赤い跡へと掠めさせて)
なんの事やら。…ん、……っ、翔太郎!
(何やら不満げに文句を背後で言われているが上機嫌な耳では素通りしていく。確かに風呂に入ることも独占欲を擽るようなことを言ったのも自分だが明確な一歩を踏み込んだのは相棒だ。責任の割合で言えば相手の方が重いだろう。そんな身勝手な理論を自分の中で展開しつつ、満足げな笑い声を零しては身に覚えのないフリをしておいた。注文をつけるとやれやれとため息をつかれながらも手の動きは気遣うような優しいものに変わる。丁寧に水分が拭き取られると今度はドライヤーに持ち変えられ冷たい風が髪を揺らした。やがてその風が温かく柔らかな物に変わり、手櫛で髪を梳かされる。その手つきの心地良さとふわりと嗅ぎなれたシャンプーの匂いが香って無意識に目を閉じて身を委ねていた。そのまま大人しく髪を乾かされていたが、また髪を手で梳かされたと思えば指先が赤く残った跡の上を掠めてぴくりと肩が震える。意図的とも見える仕草に思わず振り返ると抗議の意味を込めて名前を呼び)
どうした?かゆい所でもあったか?
(ドライヤーの温風を当てると水で肌に張り付いていた髪は徐々にいつも通りふわふわとした触り心地の良いものに戻っていって、そこから微かに自分のシャンプーの匂いと相手の香りが混じったものが鼻腔をくすぐる。髪を梳かす度にその匂いは周囲に広がって、すっかりと自分色に染まった相手を満足気に後ろから眺めていた。だがそれだけでは足りなくなってしまっているのも事実、それに仕返ししたい気持ちも半分合わさって所有痕を刺激してやると、相棒はすぐさまこちらを向いて抗議の声をあげた。振り返った時にも同じ香りが漂ってきて思わず口角が上がってしまう。これだけ自分のものに包まれているのだから、所有痕ひとつ刺激するのだって自由だろうなんて身勝手な考えが脳を支配していた。何に怒っているのか分からないといった態度を取りながら、口元は笑っているのだから意図的に触ったのは明白だ。だがそれを深く追求される前に「俺も頼むよ」と同じ事を依頼すると背後からタオルを差し出して)
絶対今のはわざとだろう…。 …じゃあ、場所交代だ。
(振り向いた先の相棒は何も無かったように接しているが口元が笑っていてわざとなのは明白だ。跡をほんの少し触れるだけで敏感に反応してしまう自分の身体も考えものではあるが、それを分かっていて刺激する相棒の方が悪い。白を切る様子に今度は眉を寄せて文句を伝えるがその最中にタオルを差し出され髪を乾かすことを依頼されると思ってもみないことにぱちりと瞬きを返す。更なる追及と滅多にすることのない相手の髪を乾かすという経験、2つの選択肢を並べられると自分の興味は後者へと傾いた。それが誘導とも気付かずタオルを手を受け取ると今度は自分が背後に回る。先程された手つきを思い出しながらまずはタオルで優しく髪を拭いていく。いつも跳ねている相棒の髪は濡れるとぺたんと真っ直ぐと下に伸びて雰囲気が異なって見えて、それを後ろから見るのも中々新鮮である。ドライヤーに持ち替えて温風で乾かしていくと自分の髪と同じ匂いが香ってきて撫でるように髪を梳かす。見た目よりも指通りの良い髪に「意外と柔らかいね」と率直に抱いた感想呟くと一筋掬いあげ、指先で感触を確かめる様に滑らせこっそりと口付け落として)
なんの事やら。昼間はワックスとかで形整えてるからな……、ッ~~…
(分かっていた事ではあるが、跡を触ったのがわざとであるのは直ぐにバレてしまった。文句をいう相手にさっき言われた言葉をそっくりそのまま返してやると、すました顔で笑みを浮かべておいた。それに髪を乾かすのを頼めば相棒の気はそちらに逸れてこちらも計画通り。内心ほくそ笑みつつ場所を入れ替わると大人しく髪を拭かれる。誰かに髪を拭かれた記憶はほとんど無い、頭を優しく触られるのが気持ちよくて自然と体の力が抜けていく。やがてドライヤーの温風が当てられて髪を撫でられながら乾かされる。熱せられすぎた体は外気に触れ今やちょうど良い温もりだけを残していて、そこに温風と相手の柔らかな手つきが加われば、あまりの気持ちよさにふわふわと思考が浮かび上がりそうになる。微睡んでいる時のような心地良さを堪能していると、鏡越しに相手が自分の髪を観察しているのが見えた。髪型はそれなりに整えていてスタイリング剤も使っている、真に自然な髪は風呂上がりにしか見せていないかもしれない。そう返事をしつつぼんやりと鏡の中の相手を見ていると、不意にその体が屈んだ。髪に触覚はないためはっきりとした確信はない。しかしあの仕草で何をやったか想像はつく。自分が感知できない外側でこっそりマーキングされたのが嬉しくて、しかし恥ずかしくて、思わず俯くと声にならない唸り声を発していて)
じゃあこの姿を見られるのはなかなかレアって事だね。…こんなもんかな、最後に仕上げだ…、…
(先程の自分の発言をそっくりそのまま返したりと多少意地悪の所があるが、そんな相手も大人しく髪を乾かされている姿は何だか年上には見えない。基本的には相手に世話を焼かれている方だから何だか新鮮だ。それに相手の言う通りかっこいいハードボイルドを目指してか事務所を含め外にいる時はきっちり髪型がセットされている物だから自然な髪はこういう時でないと見られないだろう。ある意味自分だけが見れる姿なのだと思えば優越感と愛おしさが込み上げてきてそっと持ち上げた髪にキスを落とした。鏡に写っているのにも気付かず自らに湧き上がってきた愛情と相手の大切さを静かに込めた口付けだ。何故か相手は俯いてしまったが何事もなかったようにドライヤーで髪を乾かし続け、ある程度水分も無くなればスイッチを切った。ためしにもう一度手ぐしを通すといい具合に手に馴染んで初めてにしては上出来だろう。このまま相手を解放してもいいが、先程の悪戯と髪へのキス、そして俯いたことで覗く肌色でぐらり欲が揺らいでしまった。突き動かされるまま後ろの髪を軽く払ってから項の上部、つまり自分が跡を残された場所と同じ所にキスを落としては軽く歯を立て噛み付いて跡を残そうとし)
まぁ、風呂上がりの姿なんかお前にしか見せた事ないかもな。仕上げ?……っ、擽った、い゛ッ…馬鹿、お前……
(いつも自宅を出る時点で、あるいは事務所に泊まったとしても朝一には髪を整えてしまうので、未セッティングの髪で外を出ることなんてまず無い。加えて誰かを家に泊めるなんて初めての経験だ。自分を育ててくれた人達を除けばそもそも風呂上がりの姿は相手にしか見せたことの無いもので、そういう意味でも自分にとって相手は特別な存在なのだと改めて自覚すれば、髪を乾かされるのもより心安らぐものになってくる。ドライヤーの電源が切られてそろそろ終わりかと思ったが、仕上げと言われ思い当たる節がなく、目線だけを少し上に向け鏡越しに相手の様子を伺う。その頃には項に口付けが降りていて息をつまらせた。自分がつけた跡と同じ位置、人の急所でもあるそこに柔らかな感触が当たるとドクンと胸が鳴る。しかもそれを鏡越しにみると自分の表情を含めて相手の姿が見えて、何をされているのかより客観的に思い知らされるようだ。なんとか動揺を出さぬよう笑って返事をしようとするが、その途中に今度は項に痛みが走って体を震えさせた。何をしているのかは明白、今しがた自分もした事のうえ鏡にその光景が映っている。自分が相手に噛みつかれているその姿と項に走る甘い痺れがしっかり脳内に刻み込まれると、顔にじわりと熱を感じて鏡を見ていることができず顔はまた下を向いて)
それは君を独り占めするのに都合が良いね。…ん、これで完成だ。似合ってるよ、翔太郎
(考えてみればこういう関係になるまでは自分も風呂上がりの相棒の姿など見ることがなかった。正確に言えば捜査が長引いた時などに事務所に泊まって相手が風呂に入ることがあっても自分は検索に集中しているとかでその姿に気を配った記憶はない。それが今は髪を乾かしてやりながら自分だけの姿だと声を弾ませるなんて大きな変化だ。そうして独占欲を擽られるとその証拠を残したくなってしまう。風呂上がりからさほど時間の経ってない相手の肌はまだ熱が溜まっていて温かい。鼻先をかすめるシャンプーの匂いと相棒自身の匂いが混ざりあって安心するようでドキドキする香りに誘われるまま食すように歯を立てた。震える身体か愛おしくて逃がさないように素肌のお腹に手を回して抱きしめながらも更に深く食い込ませた。それから少ししてそっと顔を離すとくっきり跡が残って背後で満足そうに笑う。再びその場所に口付けを落とし舌を這わせ相手に跡の感覚を刻み込む。独り占めの証拠を残すことが出来れば肩から顔を覗かせて鏡越しに表情窺いつつ目細めて)
ぁ、…、フィリッ、プ……っ、ン……お揃いって奴か?
(胸が乱されているせいか項の感覚は一際敏感になっていて、相手がそこを嗅いで匂いを確認しているのが分かる。今日何度も相手が口にする自分の香り、今まで意識していなかった分それが暴かれていくような感覚もあって胸が落ち着かない。そうしているうちに歯が肌へと食い込む感覚があって思わず体を反応させるが、それさえ抑えるよう素肌のままの腹に手が添えられると、そこに溜まっていた欲が直接刺激されるようで頭がクラクラして、無意識に切なげな声を出してしまった。直後それに気がつくもその感情を処理する前に歯が更に深く刺さって甘い痛みを享受すれば、相手を求めるように名前を呼んで腹に添えられた手に自分の手を重ねる。深く潜った歯がようやく外されると次には甘い痺れが広がって、直後唇と舌とが触れれば、甘い痺れはより強調されて脳を揺らし上擦った声が吐き出された。上機嫌な声にこちらも同じ調子で返事をするが、鏡の中の相手と目を合わせ、次いで自分の姿が目に入る。相手の腕の中で自分は夢見心地な浮ついた目をしていて、初めてみる自分の表情に思わず目を逸らした。相手に翻弄されている時あんな表情をしていたなんて初めて知った。これ以上は自分の顔を見ていられなくて「…早くリビングルーム行こうぜ」と鏡の前から離れるよう促し)
…ああ、前につけた跡も消えてきたことだしね。 分かったよ、
(腕の中で刺激に対して反応し、上擦ったような声が聞こえてくる。これだって自分だけが聞くことが出来る類の声で独り占めしているのだと認識するとまたぐらりと脳が揺れた。乞うように呼ばれる名前の響きに腹の奥が熱くなる感覚がする。そうしてつけた跡は思った以上にくっきりとついた。普段の髪型を考えればおそらく見えないだろうが、風が吹いたらちらりと見えてしまいそうな位置でもある。だがわざわざ他人の項を観察するような人は自分以外居ないだろうし万が一居たとしても牽制にもなるから問題ないだろうと勝手な理論を頭の中で立てた。平然な口調で言葉が返ってくるが鏡の中で目があった相棒の顔は浮ついていつも通りではない。本人もそれに気付いたのか露骨に逸らされてしまい思わず笑いが溢れた。旅行でつけた跡も持ち前の回復力で消えていたし上書きする機会としてはちょうどよかっただろう。鏡から離れたい相手の提案を受入れるとバスタオルを洗濯機に放り込んでから重なっていた手を取り、繋いだままリビングの方へと移動する。といっても食事と風呂が終われば特にやることもなく、部屋の探索も禁止されてしまっている。ひとまずベッドに腰掛けるとお泊まりの知識や経験も無ければ「こういう時って何をするんだい?」と思わず問いかけて)
ったく、傷が絶えねぇな俺達は……えっ?!あーそれは……まぁ寝転がりながら喋るとか…後はマッサージとかか?こういう感じで……
(もう相手は跡に触れていないのにしっかりと刻みつけられたせいか未だ項の後ろはじんわりと痺れる。髪に近い位置のせいで時折髪がそこを掠めて焦れったく撫でられているようで、意識をそこへと奪われてしまう。大方相手も同じようなものだろう、所有痕を絶えず刻み合うなんて互いに独占欲の高いことだ。それを互いに悪いと思っていないのもタチが悪い。そんな感情も表情に出てしまいそうになるのを耐えながらなんとか鏡の前から去ることになると思わず安堵の息を吐いた。いつもなら髪を乾かした後に着る上着を今は手を繋いでるのもあって引っ掴むだけにしてベッドの方へと戻る。相手の隣に腰掛けるとまた思いも寄らない方向からの質問が飛んできた。恋人を自宅に招いてお泊まりで、もう寝るだけとなれば大体の流れは決まっているようなものだが、そういう常識が通用しないのが相棒だ。ついでに自分も経験はない。まともに答えられない答え以外を必死に脳内で探すと、苦し紛れに候補を絞り出す。繋いだままだった手を両手で包むように持つと、掌の中心を押したり、指の付け根をグリグリと揉んでみたりと簡単なマッサージをしてやり)
なるほど、お互いの疲れを癒やすための時間って訳だ。 これがマッサージ……、こうやってまじまじと君の手を見るのは初めてかもしれない。
(職業上生傷が絶えない仕事ではあるが、相手の言う通りそれ以外でも定期的に痕を残すようになってしまっている。触れ合って熱が高まる度に欲が煽られ見えないところに噛み付くなんて少し前なら考えられない事ではあるが既に身体に痕をつける悦びもつけられる悦びも知ってしまったのだから仕方ない。今更その事を気にしても辞めるという選択肢はとる事がないだろう。お揃いの傷を携えたままベッドに二人とも腰がける。これからのことについて疑問を投げかけたつもりだったがその口調は何か困惑しているようだ。それでもこれからする事の候補を貰うと納得したように頷き前向きな解釈を語る。それを体現するように繋いでいた手はもう片方の手でも包まれ指先で押されたりし始める。マッサージという単語は知っているが受けるのは初めてだ。興味深そうに手元を見つめながらも風呂上がりで温かい手に包まれて凝りを解されていく。常に服から露出されてこういう関係になってからはしょっちゅう繋ぐようになった相手の手だがそこだけに注目を向けたことはあまり無い。よく見れば同じ手であっても骨格や肌の質感、大きさや筋張った感じなど自分とは違う所が幾つもある。すっかりそちらに興味が向かえばこちらも両手で相手の肌に触れ、指先で形を確かめるように骨や手相をなぞっていき)
そういうことだ。……身長は同じくらいだけど手は俺の方が一回りくらい大きいな。お前の手の方が柔らかいし、案外違うもんだな
(正直マッサージの知識はあまりないのだが、なんとなく見様見真似でやっても成立するものではある。いつも触って感じている通り、相手の肌は触り心地がいいくらいには柔らかい。掌を押せば細い骨が指先にあたる感覚があって、折れてしまうのではないかと心配になる。もう少し牛乳を飲ませるべきなのかもしれない。そんなことを考えていると相棒の興味はこちらの手そのものに移ったようで、大人しくマッサージを止めて手を明け渡す。年齢差もあるだろうが柔らかそうな相手の手に比べこちらは筋張って皮膚も硬い。色々あって色々なものを殴った経験と、調査で受けた生傷が治った跡が積み重なって出来上がった手だ。いつしか相手を助けるためガラスに飛び込んだ結果出来た傷はまだ薄らと手の甲に跡が残っている。指先が手の形を確かめるようになぞられれば、擽ったさにピクと強ばって掌を閉じそうになってしまうが、せっかく相棒の興味が向いているのだからとそのまま自由にさせる。両手を並べて広げながらこちらの手を包む相棒の手と自分のとを見比べていて)
遺伝子もこの手でやってきた事も違うからね。…安心する手だ。これまでの君の歩んで来た道を感じられて、僕は好きだよ。
(こちらの興味が移ったのを察してくれたのかマッサージが止まって観察しやすいように手を広げられる。相手の言う通り手の大きさも違ってところどころ皮膚も硬い。手の甲には以前自分が無茶をしてそれを助ける為についた傷が薄ら残っているのに気付いてつい眉を寄せた。これは残したくなかった傷だ。その他にも古い傷やそれが治って厚くなったのあろう場所がいくつもあって相棒がその手でやってきたことを感じさせる手だ。同じ服や香りを纏っていても自分と相手は違う人間だ。構成する遺伝子も歩んできた道、この手で成してきたことだって違う。だからこそ惹かれるのかもしれない。特別触り心地が良い訳では無いが大きくて安心出来る特別な手だ。自然と柔らかい笑みを浮かべながらその事を伝え、片方の手を指を絡めるように繋ぎ直す。そのまま持ち上げると相手の手の甲に自らの頬を擦り寄せ)
手まで好きって言われたのは初めてだな。__お前のほどじゃねぇけど、触り心地は良いだろ?
(お世辞と嘘を含めれば好きだと言われたことは少なくともあるが、その中でも手を褒められたことはなかった。手をまじまじと観察されることもなくて何処となく照れくさい。不意に相手の眉がひそめられて何事かと思ったが、どうやらあの時の傷を見つけたようだ。お互いにあまり良い思い出ではないが、大切な約束をした日でもある。これだって自分のしてきたことのひとつだろう。二人の手が絡まると、手の甲が相手の頬へと運ばれる。自分の手に頬を擦り寄せる相手の姿は愛らしくて、自然と笑みが浮かんだ。乾かしたてのふわふわとした髪を指先で弄りつつ、ベッドに片脚を乗せて相手の方に体を向ける。そして、この手を好きだと言ってくれるのならともう片方の手を相手の頬へと添えた。マッサージの続きとばかりに、親指で頬をゆっくりなぞったり掌全体で頬を軽く掴んだりしてこの手の感触を伝えていて)
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