相乗りで何処までも 【 〆 】

まあでも軽く香る程度なら香水をつけること自体は悪くない。それに今の翔太郎に似合う香りがあるかもしれないね。 まったく、これで僕の鼻が馬鹿になったらどうしてくれるんだい。…一通り君の思い出の品を見ることが出来たし、今日のところは切り上げることにしよう
（長いため息をつくあたり思い返して相当ショックだったのだろう。色々過去を掘り返してしまった分軽くフォロー入れておく。人と接することが多いのが探偵業だ。接した時にほんのり香る程度ならば好印象を抱かれることだってあるだろう、要するに使い道次第だ。それにこの香水は良い香りだとは思うが、本人も言っていた通り大人の色気とやらを目的にしたせいか何となく今の相棒のイメージとは異なる部分もある気がする。言語化するのは難しいがもう少し柔らかな甘さと爽やかの方がそれっぽい。もし相棒が再び香水をつけるならの話だが前向きに意見を伝えておく。一方で自分の反応がお気に召したのか笑い声をあげながらも鼻先を擦られる。一瞬とはいえつけた部位に直接触れた様なものだから相当強烈な刺激が鼻に刺さった。すぐに治るとは思うが機嫌良さそうな顔を見れば拗ねた口調で大袈裟に被害を訴えておく。これ以上クローゼットを漁っても相棒の迷走した時の記憶を振り返るだけになるだろう。嗅覚もある程度戻ってくれば瓶を元にあった所に戻してから立ち上がる。調べたくなればまた泊まりに来た時にでも機会はある。クローゼットを閉めるとそんな含みを持たせながら捜索の終了を告げて）

心配すんな、あんだけ香水付けてた俺も元に戻ったんだから問題ねぇよ。それと、そこはもう見なくても良いからな。久々に香水も浴びたしそろそろ風呂入るか。
(あれから香水はまったく使っていないのだが、もう少し似合う香りをと言われると悩むように香水の小瓶を見つめる。自分にあった香りというのは想像もつかないが、依頼人に好印象を与えるためには有用な手段かもしれない。「機会があればな」と香水に関しては保留の返事をしておくことにした。こちらの悪戯に対して相棒はまだ拗ねた様子で文句を言っているが、それさえも可愛らしく思えてしまって相変わらず軽い調子で返事をする。おやっさんに怒られるほど慢性的に香水の香りに包まれていた自分さえ今は微かな香りさえ嗅ぎ分けられるよう嗅覚は戻っている。視覚に続いて嗅覚も奪われるなんてあってはならないが、嗅覚に関してはお湯で流せばすぐに元に戻るだろう。ようやくクローゼットも閉じられ、危惧していた時間は終わった。一応釘を刺しておくが相棒の知的好奇心を止めることは難しく、知らぬ間にまたあそこを覗いているかもしれない。一番酷い過去はおおかた見せたし、もっと酷い部分はジンさんの頭の中にしかない事だからとりあえず大きな山は超えた。自分の過去と向き合いさらけ出す時間はずっとむず痒かったが、相棒の知らない時間のことを知って貰えたのは、またひとつ素の自分を明け渡せたようで気持ちが晴れたようでもあった。夕食も終わり一区切り着いたところでそろそろ就寝の準備をする時間だ。今は穏やかな時間が流れているが、朝からの出来事を思えば疲れも汚れも溜まっているはず。まずはそれらを洗い流そうと風呂の準備のため浴室に向かって)

そこはまあ僕の気分次第だ。 そうだね、やることはやってからゆっくりした方が良い。＿ これが一般的な部屋のお風呂か。…一緒に入るかい？
（ド.ー.パ.ン.トに奪われた視覚に比べて香水による嗅覚阻害は簡単に元に戻るはずだ。クローゼットの中身はもう見なくていいと釘を刺されるがそれで自分が止まることがないというのも承知の上だろう。悪戯された意趣返しに拗ねていた表情を和やかな物にすると気紛れだと返事をしておいた。予想通りハードボイルドに憧れて買ってあろう物の数々だったが出会う前の知らなかった相棒の考えていた事とか迷走も含めて断片的にでも知ることが出来て良い機会だった。こういった過程を経て今の性格だとか信念が作られていったのだろう。また一つ相棒のことが知ることが出来たような気がして気分は良い。夕食と探索も終わればあと風呂に入って寝るだけだ。後にゆっくりと邪魔されない時間を過ごすためにもやるべきことは早めに片付けた方が良い。賛成を示して相手に続いて浴室を覗きに行く。一般的住居の風呂の視察も重要案件だ。浴室ドアを開くと事務所のシャワールームよりかはしっかりとした風呂設備が備えられている。若干狭いが一人で使う分には十分なスペースに見える。その様子を観察すると相手に目線移し冗談交じりに聞いてみて）

狭い浴室だけど一人暮らし用ならこんなも……なっ、お前な！こんな狭い湯船二人で浸かったらめちゃくちゃ窮屈だし、…正気保てなくなんだろ……
(やはり相棒はこちらのルーツ探索を諦めていないらしい。相棒に自分を知ってもらうのはいい事だが、いかんせん体力を使うので今日は勘弁してくれと頭を振ってため息をついていた。自宅にきた一番の目的は二人でゆっくりと過ごすことだ。いまも二人だけの時間を過ごせてはいるのだが、早くやるべき事を終わらせ相手のことだけを考える時間が欲しい。そのため風呂の準備をしようと浴室にやってきたが、当然相棒も探索のために同じ場所にやってきた。温泉とは比べ物にならない狭さだがシャワールームだけの事務所とは違い肩までつかれる浴槽もあり悪くない浴室だ。また解説を口にしつつ浴槽を軽く洗おうとした所で思わぬ提案に思わず声をあげる。二人でお風呂は温泉で既に経験済みだがこの広さの浴室を二人で使うとなると中々に窮屈だ。否応なしに密着することもあるだろうことを思えば、まともでいられる自信はあまりない。乱れた心境を誤魔化すように浴槽をスポンジで軽く洗いつつ「ほんとに一緒に入んのか？」と真意を窺うように目線を合わせ問いかけて)

事務所よりは立派な設備で良いね。正気を保てなくなるって何をするつもりだい？ 僕としてはどちらでも構わないよ。一緒に入っても窮屈なのは慣れているし共に過ごす分時間を無駄にしなくて済む。別々に入るなら僕は君が入っている間にまだ見てない場所を捜索出来るし、君が好きな方を選ぶといい。
（全ての比較対象が基本的には事務所の設備であるため、この浴室でも十分だと感じられる。その中で冗談半分に誘ったつもりで相手もいつもの様に『この狭さなら無理だろ』とツッコミが入ると思ったのだが意外にもまともに受け止められてしまった。だけどよく考えてみれば一緒に入れば二人の時間として無駄にすることは無いし風呂の時間も一度で済む。多少狭いだろうが許容範囲だ。勿論密着することになるだろうが特に問題とも思わず動揺する相棒くすくすと楽しげに笑う余裕もある。こちらとしてはどちらにも別のメリットがあり、どちらでも良いというのが本音だ。結局は風呂上がりにも二人で過ごすのだからそれが早いか遅いかの違いだろう。浴槽を洗いながらこちらを見る相棒に目を合わせるとこちらのそれぞれの利点をあげてから最終的な選択権を委ねて）

俺が選ぶのかよ！……じゃあ、今日はいろいろ世話になったし、それを労うって事で……一緒に入るか。
(思わず出てしまった本音にすかさず指摘が入って「何でもねぇ」と言葉を濁す。言葉を詰まらせている間にそれぞれのメリットをプレゼンされ最終的に選択権が委ねられると思わずまた叫んでしまった。一緒に風呂に入れば共に過ごす時間は増えるがこの狭い室内では焦ってしまう時間もまた増えるのは目に見えているし、かといって別々に入るのを選択して今日これ以上クローゼットを見られて更なる苦い過去を掘り出されるのも困る。相棒の方を見れば余裕の笑みを浮かべていて、今度はこちらが揶揄われる番のようだ。暫し悩んだものの、結局はより相手と多くの時間を過ごしたいという想いが勝ってしまった。シャワーで浴槽を流しつつ、つらつらと言い訳めいた理由を述べる。お湯が溜まるよう蛇口を回すと、相棒に向き直ってこちらの選択を伝え)

こういうことはちゃんと家主に聞くべきだろうと思ってね。 ……、了解した。風呂上がりに着る服も借りていいかい？
（自分なりに共に過ごすか快適な入浴との選択が出来るように気を遣ったつもりだったがまた叫ばれてしまった。一応その理由を説明しては悩んでいる相棒の選択を大人しく待つ。浴槽の準備をしつつ少し歯切れ悪く理由を述べた後にこちらを向き直り、共に入るという選択を聞くと自然と笑みが浮かぶ。どちらでも構わないと思っていたが、やっぱり自分と過ごす時間を選んでくれたのは嬉しい物でニヤケが微妙に隠しきれない顔で選択を受け入れる。いざ方針が決まれば早速風呂の準備だ。ここへ向かう時にも話をしていたが、泊まる道具を持ってきてない以上寝る時の服も借りる必要がある。風呂に入る前に用意してもらった方が良いと考えれば服の事をお願いして）

、……あぁ、今のうちに用意しとかないとな。___流石に緑色はないな。ほらよ。
(まるで悪魔と悪魔の囁きを選択するようだったが、こちらの答えに相棒の顔は薄らニヤついていて、選んだ答えが正解だったと知る。説明している時はどちらでも良さそうだったが今や嬉しさを隠しきれない様子で、そんな可愛げのある姿を見ればこちらにもその嬉しさが伝わってきてニヤけてしまいそうだ。それをなんとか噛み殺しつつ、風呂後の準備をしようと提案されれば頷いて浴室を後にし、再びリビングルームへと戻った。服が仕舞われているのは当然クローゼットなので、再びそこを開けると、先程の様々な残骸には目をやらないようにしつつ衣装ケースの中を覗いて寝巻きを探す。いくつかストックはしているものの、相棒が泊まりに着た時用の寝巻きなんてものは用意していない。自分が普段から使っているものは大抵黒やグレーやシンプルなものが多くて、そのうちのひとつを引っ張りだした。灰色をベースに服の端は紫色で縁取られたシンプルな寝巻きだ。ついで下着も見繕ってセットにすると相手へと差し出して)

ありがとう。…これから泊まりに来る機会が増えるなら予め僕の服を置いて貰うのも有りかもしれないね。二人なら浴槽のお湯もそこまで必要じゃないだろうし早速入ろうか
（リビングルームに向かって服を見繕って貰う。衣装ケースの中には寝巻きがいくつかあるようでこの服のまま寝ることは回避出来そうだ。何か探しているようだがやがてその中から一つが引っ張りだされ渡された。相棒の発言から察するに緑色を含むものを探していたようで思わず微笑みが溢れた。代わりに紫色が服の端に入っていて相手の色を纏っているみたいだ。礼を伝えてからそのセットを受け取る。だがこれからもこうやって突発的に泊まるかもしれないことを考えればその度に毎回借りることになり、色々と手を煩わせてしまう。となれば自分の分の寝巻きと翌日の服の一式を常備しておいてもらった方が楽かもしれない。それだけここに来てみたいという想いも込めて一つの案として提案してた。相手のプライベートな空間に自分の物が置いてある、そんな未来の姿を想像すると遅れて照れ臭さがやってきて受け取った服を持ったままそう告げれば一足早く浴室に向かい）

あー……まぁ、そうだな。お前のパジャマとか服とか、あと歯ブラシとか。そういうの買いに行くか。あ、待てって！
(相棒の提案に目を瞬かせた後、遅れてその意味を理解してゆっくりと首元からツムジまで微かな熱が上がってくるのが分かる。効率を考えての提案だったのかもしれないが、それはこれから何度でも相手がここに泊まりに来る未来の予感でもある。今でさえ自分の時間を過ごしていたこの空間に相棒がいるのが不思議なのに、服や寝巻きやらでその痕跡と常に一緒に過ごすことになれば自分の中に確実に相手が入り込んで来ている気がして、それが照れくさくてしかし嬉しい。妙な沈黙を誤魔化すように自室に泊まる上で必要そうなものを挙げていく。洗面所には常に一本しか歯ブラシがなかったが、それが二つ並ぶのを想像するとそれだけで胸がザワつくのが分かった。そうこうしている間に相棒は照れを隠すためか逃げるように浴室に向かってしまって、急いで自分の寝間着を用意すると脱衣所に向かう。とりあえず風呂に入らねばと寝間着をいつもの棚の上に置くと、「寝間着はここで、脱いだ服はこのカゴに入れてくれ」と声をかけ、上着のボタンに手をかけて服を脱いでいく。温泉で既に一緒に風呂に入るのは経験済みだが、やはり自宅でとなるとまたこちらの心境も異なる。邪心を抱かかないようにと心で唱えながら服を脱ぎ終わると先に浴室へと入っていって)

…、分かった。＿ やっぱり二人だと狭いね。髪や体を洗うのは順番にした方が良さそうだ。僕は浴槽に入っておくから君が先に身体を洗うといい
（自らの提案に遅れて返事が返ってくる。相手が例にあげたのは着替えからちょっとした日常品まで一夜過ごす中で使うようになるものでそれが常にこの部屋に置かれるようになると考えればやはり照れくさい物がある。裏返せば入り浸る程ここにくる予定だと宣言したのと同義な提案だと気付けばうっすら熱を帯びる顔を隠すように脱衣所へと向かった。だが今から一緒に風呂に入るのだから結局顔を合わせるのに変わりない。平然な態度を保ちながらも相手の指示通りに寝巻きを棚の上に置き、上着から順に脱いでいく。温泉でも同じ経験をしたが今回は本当の意味で2人しか居ない場所で違う意味でドキドキしてきた。服も脱ぎ終わり続いて浴室に入るとやはりというべきか、二人だとそれなりに狭い。浴槽はともかく、この洗い場を二人同時に使うのは難しそうで片方が洗っている間はもう片方は浴槽にいた方が効率的だろう。近くに置いてあった手おけで軽く全身を流すと早速お湯の貯まってきた浴槽の中に入り浸かりながらも相手に体を洗う順番を譲って）

まぁ一人暮らし用だから当然こうなるな……ありがとよ、なら先に洗っちまう。
(恋人と一緒に自宅の風呂に入るのは憧れのシチュエーションではあって、その憧れを実現するための選択だった。だが当然といえば当然の結果なのだが、男二人が一人用の浴室に入れば何をするにも体が当たってしまいそうになるほど狭い。振り返ってみるとやはりいつも一人で過ごすスペースに相棒がいるのは不思議な感覚がして、それと同時にこんな近い距離で肌を見せあっていると、経験済みのはずなのに胸が早鐘を打つようになってくる。このまま二人素っ裸で突っ立ってどうしようかと思っていた矢先、相棒が順番を譲ってくれたことでとりあえず狭さの問題は解決した。礼を言うと早速シャワーで軽く全身を洗い流してから頭を洗い始めた。目を瞑り髪を泡立てていたが、視線を感じてしまいそちらの方をみる。もちろんそこにいるのは相棒だ。そんな折にふと髪を洗っている時に視線を感じて振り返ると……なんて怪談話を思い出して、思わず「なんか座敷わらしみたいだな」と口にして)

事務所のシャワールームを二人で使うよりはマシだと思おう。…座敷わらし？ …岩手県に伝わる座敷や土間に現れる子どもの姿をした妖怪。 僕は妖怪でないし、やることが無いから君を見ているだけだよ。
（本来1人しか使用が想定されていない場所に2人が入れば狭くて当然だろう。軽く動けば肌が触れてしまいそうだ。これでも事務所の設備よりは広いと微妙なフォローを入れつつも浴槽の中に入る。本来それぞれ一人で使うスペースだからバラバラに使えば狭さ問題も解決だ。温かい湯が身体を温まっていくが温泉のように効能の看板がある訳でもなく吹き抜けで空が見える訳でもない。特にする事が無ければ自然と相棒の方に視線が向き、洗い始める姿を観察することになる。流石に1週間もすれば旅行から帰ってきた日につけた跡も消えるか目を凝らさないと分からないほど薄くなっている。その他温泉ではあまり見れなかった所も含めて眺めていると視線に気づいたのか目が合った。そこで言われた言葉は知らない単語で言葉を繰り返すと丁度暇だからと目を閉じて地.球.の.本.棚で検索をかけて、ざっと概要だけ読み上げる。悪魔と言われるのは良いが妖怪と言われるのは何か違う。浴槽の縁に両腕を組んで置きながらも不服そうに抗議を申し立てて）

へぇ岩手の妖怪なのか、全国に居るもんだと思ってた。いやな、髪洗ってる時に何故か視線を感じるってのはよくある話で、その原因が妖怪だって言われるのもよくある話だから……ま、例えだ例え。それに座敷わらしは家に幸福をもたらすらしいし、良いもんなんだよ。
(こちらが何気なく言った言葉だったが相棒の知識にはまだないものだったらしい。また解説が必要かと思ったが、時間を持て余していたのか地.球.の.本.棚.へと入ってしまった。素っ裸でしかもお風呂に入りながら検索をする姿がなんともシュールで、思わず笑ってしまうのを噛み殺しながら検索の間に頭の泡を洗い落とした。検索が終わりその結果を聞き終えると自分の知らぬ情報に感心するが、相棒はなんとも不服そうな顔を浮かべている。ボディソープをスポンジにつけ体を洗いつつ、弁解するように先程の発言の意図を伝えるが妖怪と言ったことには変わりない。だが実際家に相棒がいるだけで幸せに思えるのだから、住み着くことによって家主が幸せになるという点では座敷わらしの条件を満たしてはいる。それにこの座敷わらしを不当に扱えば不幸がやってくるのも同じだ。無理やりポジティブなものだからと話をまとめる、これ以上相棒を座敷わらし扱いするともれなく悪い事が起こるだろう。まだ不服そうな相手を揶揄うように、こちらに突き出された顔に指を伸ばせば、鼻のてっぺんにちょんと泡を乗せてやり)

今回の場合、その視線の主が僕であることは明白だろう。幸運をもたらす存在と思われているのは悪くはないけど、僕は君にとって妖怪じゃなくて相棒で恋人だ。
（検索結果からするに座敷童子とは人の家に住み着く妖怪のことらしい。一人で入っている時に視線を感じたならばそういった存在のことを考えるのは分からなくもないが、共に風呂に入っているのだからその視線の主は座敷童子に例えるまでもなく自分であるだろう。それに近しく見えた例えだとは理解しながらもあまり面白くない話だ。その様子に気づいたのかフォローするようにポジティブ面の情報でまとめられると悪い意味での例えではないことは伝わってきたが若干不服そうな顔は継続したままである。揶揄うように鼻先に泡を載せられると指でそれを拭い、再び悪戯を受けぬように上体を浴槽に沈みこませ目元から上だけが見える体勢になるとじーっと視線を送りながらも相棒との本来の関係性を主張して）

だからものの例えだって言ったろ？悪かったって、フィリップ。それだと今度はカッパみてぇだし。お前は俺の相棒で恋人なんだろ？
(どうやら相棒はまだまだ機嫌が悪いらしい。フォローの言葉も虚しく、体は湯船の中へと引っ込んでしまった。体も洗い終えてシャワーで泡を落とし切ると、相手が沈んでいる真正面にしゃがみこんで視線を合わせる。まったく納得のいっていない意志をジトリとした目だけ出して訴える姿はまるで子供のようで、相棒は怒るだろうが正直可愛らしい。にやけそうになるのを必死に噛み殺しつつ、軽く謝罪をいれながらもその姿を目に焼き付ける。じっと見つめていると目つきの悪い視線と頭しか出ていないその姿は別の妖怪にも見えてその名も口にするが、相手が望んでいるのはその呼称ではない。手を伸ばすと相手の頬に手を添えて、ゆっくりと湯の中から顔をあげさせる。そして身を乗り出すと恋人へとする行為、口付けを唇に落として「交代だ」と告げて)

…ん、分かってるならそれで良い。 さくっと済ませることにしよう。…このシャンプー、君から感じた良い匂いがするね
（不満を訴えるように視線を送っている間に相手は泡も流し切って目を合わせながら軽い調子で謝罪される。正直ここまで嫌だったという訳ではないが撤回するタイミングを逃してしまって尚もからかってきた相手に意地を張っているに近い。そのまま見つめていたが頬に手を添えられると素直に顔をあげて口付けを受け入れる。望んでいた呼称と共に恋人だからこその行為を受けるとあっさり不満も消え失せて仕方ないとばかりに軽い笑みを浮かべた。交代と聞けば浴槽から立ち上がって相手と位置を交換する。すっかり機嫌も良くなって早速全身にシャワーを浴びてから置いてあるシャンプーを使って洗い始める。ふとその匂いが嗅ぎ慣れた物だと気付く。それが何かと記憶を探った所で相棒と密着した時に感じた香り、ある意味恋人の関係となる最初のきっかけとも言える包丁の使い方を教えてもらった時の物だと思い出すと何処か嬉しそうに呟いて）

恋人に戻って何よりだ。そういやそんな事言ったな。ほんとにシャンプーの匂いだったのか……それなら今日と明日はお前も俺と同じ匂いになるんだな…
(恋人同士の口付けによってようやく相棒の機嫌はなおったようで、その顔に笑みが浮かべばこちらも自然と同じ顔が浮かぶ。相棒と入れ替わりで浴槽いっぱいに体を広げて肩まで浸かれば、じんわりとした温かさが体に広がって軽く息をはいた。だが相棒と同じく風呂に浸かっている間は基本的にやることはない。一人の時でも同じ状況にはなるが、浴室内に人がいれば自然とそちらに目が向いてしまうものだ。髪を洗う相棒を眺めていると不意に動きが止まる。その後に続いた言葉には懐かしさもあって思わず笑ってしまった。相手が自分に興味を示したきっかけでもある匂いの話、あの時は咄嗟にシャンプーだと言ったが本当に香りの源はそれだったらしい。普段あまり意識したことはなかったが、香水をつけなくとも自分の香りというのがあるようだ。その香りの源を今相棒が使っているとなれば、普段抱きしめた時に感じる相棒の匂いは自分のものへと変わってしまうという事だろうか。まるで相棒を自分の色へと染めてしまうようなその事実に、胸がドキリと跳ねるのが分かる。浴槽の縁に肩肘をついて、シャンプーで髪を洗う相棒を見つめつつ呟くようにその事実を口にして)

完全にこの香りのままではないけど、これにフェロモンとか混ざったらあの香りになるんじゃないかな。…、まあ、そういうことになるね。 服も借りることになるからますます君と同じだ
（今自分の髪からする香りはあの時感じた物と大体は一致している気がする。シャンプーだと主張していたのは合っていたらしい。あとはこれに相棒のフェロモンだとか汗といった物が混ざって相棒特有の香りは出来上がるのだろう。あの時惹かれた原因が思いがけず究明出来たことに機嫌良くしつつもシャンプーの泡を洗い流していく。今度は身体を洗おうとスポンジにボディーソープをとり泡立てたところで相手の呟きが聞こえてくるとまた動きが止まる。同じシャンプーやボディーソープを使い、服も借りることになれば当然匂いだって似通ってくるだろう。ついでにいえば手料理をご馳走になったのだから内外問わず相棒で満たされているといっても過言ではない。ちらりと相手を横目に見ると目が合って、途端心臓の鼓動が早くなった。変に意識してしまいそうでスポンジで身体を洗うことに気を逸らしながらもぎこちない口調で肯定示し）

フェロモン？！俺にそんなんあんのか…？___なんか……俺の一部になっていってるみたいだな…
(相棒曰く自分の香りとシャンプーの香りは完全に同じではないらしい。その要因としてフェロモンの単語が上げられると声が裏返りそうになる。フェロモンと言えば人を誘惑する香りのようなイメージだが、自分にそんな人を惹きつけるものがあるのだろうか。試しに自分の肌に鼻を近づけてみるが洗いたてというのもあってかまったく何も匂わない。こういうものは自分には分からないのかもしれない、相棒が言うならそうなのだろうと思うしかなさそうだ。そんな時にこちらの呟いた言葉に反応し相手の動きが止まって、微かに目が合う。今まさに同じものを使って髪を洗い体を洗っている様子はさながらこちらに染まっている過程を見ているようなもの、そんな思考が過ぎれば腹の底からゾクゾクと疼きがせりあがってくるのを感じて、思わずこちらも目を逸らした。体の匂いなんて早々に変えられるものではない、だがそれさえも自分と同じになっていく事に、手を出してはいけない領域までこちらの手が及んでいる気になってしまう。湯船につかり多少浮ついた頭ではせりあがったものを制御しきれなくて、思わず心でずっと思っていた事を口に出してしまって)