検索 2022-07-09 20:46:55 |
通報 |
そういう物なのか、僕も今度挑戦してみようかな。今から加熱という訳だね。…おお、具材が宙を舞っているみたいだ!凄いよ、翔太郎!美味しそうな匂いがするし、早く食べてみたい
(料理には縁もゆかりも無かったがこうして調理風景を見るのは何だか面白い。単なる食材が調理という過程を経て一つの料理になっていく姿は好奇心を煽られる物で今度は自分もやってみようかと興味を示す。本番と称して出てきたのは食材を炒めるためのフライパンだ。強火で油と生姜が熱されそこに溶いた卵が流し入れられる。これまた慣れた手つきで混ぜながらも切った具材が順番に加えられ強火で一気に炒められるとその度に感心した声をあげたりしながらも出来上がっていくフライパンの中身に釘付けになる。仕上げに醤油が垂らされると派手な音と共に香ばしく美味しそうな匂いが広がり、より一層食欲をそそられる。味が均一になるようにフライパンが振られると中身が上手く宙を舞って再びフライパンに戻る。まるで芸人のパフォーマンスのような仕草に興奮は最高潮で子供のように無邪気にはしゃいでは相棒を褒め讃える。どうやら完成したみたいだ。調理過程を身近で観察すればますますその味が気になって台所の下の戸棚を開け二枚の平皿を見つけるとそれを差し出しては急かすように強請って)
そうだな。お好み焼き作り見る限り筋は良さそうだし、いつかお前の手料理も食ってみたい。まぁざっとこんなもんだ。早く食おうぜ。
(誰かに手料理を振る舞うのもいいものだが、振る舞われるのだって同じくらい相手の気持ちが感じられていいものだろう。先日のお好み焼き作りを思えば暫くの試行錯誤はありそうだが、 相棒は最終的には料理もマスターしてしまいそうだ。いつか叶えて欲しい要望を伝えておくと、今は出来たてのチャーハンに意識を向けることにする。正直具材を大きく振ったのはパフォーマンスに近かったが、思った通り相棒は無邪気にはしゃいでいて、褒められて満更でもない顔を浮かべる。平皿を用意してくれた相棒に「ありがとよ」と礼を伝えたあと、そこへ綺麗な半円型にチャーハンを盛り付けた。油もいい具合に回っていい艶と香りのチャーハンに仕上がった。レンゲを各皿に置くと二つの皿を持ってリビングルームの方へ移動する。二人にしては狭いテーブルへチャーハンを置けば片方の椅子へと座って「どうぞ」とまずは相棒の感想を聞くため相手が椅子へ座って食べ始めるのを待っていて)
なら今度良さそうな料理を見つけたら挑戦しよう。_ これがチャーハンで、この不思議なスプーンで食べるんだね。 じゃあ、いただきます…、うん、美味しい。 ご飯がパラパラしているし、シンプルな具材ながら香ばしい醤油の風味もあって食が進む味だ。
(思いつきにも近い呟きだったが相手に要望されると尚更挑戦したくなってくる。最初は包丁の持ち方すら怪しかったが、調理方法の詳細まで検索して実行すればある程度は何とかなるだろう。相手の好物か作ってあげたいと思うもの、そのどちらかが見つかって比較的暇な時間があればやってみようと記憶に留めておいた。平皿に綺麗な半円型にチャーハンが盛られると程よい艶と美味しそうな匂いがして店で売られていても問題無い見た目だ。皿を持って移動した相手についていき、もう片方の椅子に座る。改めてチャーハンという料理を観察するように湯気の立つそれを確認しながら一緒に置かれた変わった形のスプーンを手に取る。促され手を合わせてから早速レンゲで軽く掬って一口食べてみる。油でコーティングされてパラパラした米の食感とそれぞれの具材の味がひとつにまとまっていて絶品だ。その味に相手に顔を向けながら興奮したように感想を伝える。ご飯と卵、香味野菜にベーコンと使っている材料はシンプルだがちょうどいい味付けと火の通り方をしているのが分かる。ひとしきり感想を言い終わると再びレンゲでチャーハンをすくい言葉通り速いペースで食べ進めていき)
あぁこれレンゲってんだ。中華料理によくついてくる。_____だろ?ボリュームあって濃い味で食べ応えもあるし、他の具材とか調味料入れたら違う味にもできるし、いい事づくめだ。
(相棒にとってチャーハンは初めてらしいがそうなるとこのレンゲも見た事がなかったらしい。簡単に解説を挟んだあと、相棒が初めての一口を食す所をじっと見守った。温泉街の時と同じく相棒が初めてを経験する瞬間を記憶に焼き付けておきたいと思った部分もあるが、それよりも今は味の感想の方が気になる。いつも通り作ったうえ味付けは一番スタンダードなものにした、間違いはないはずなのだがやはりそのリアクションは気になる。チャーハンが相棒の口の中に吸い込まれていくのを見守ってから暫し、相棒の口からは興奮気味にこちらのチャーハンを解説する言葉が次々と出てきて、しかもそれがどれも褒め言葉なのだから胸に喜びがふわりと広がった。大切な恋人が自分の料理を食べてくれる嬉しさと、それを美味しいと全力で伝えてくれる嬉しさと、二つが相まって破顔してしまいそうだ。なんとか口を結んでヘラヘラ顔を阻止すると、得意げな顔つきをして笑顔を見せる。食に興味のない相棒がいつもよりも速いペースで自分の作ったものを食べてくれるのが、そのチャーハンを気に入ってくれている何よりの証拠で、再び崩れそうになった顔を誤魔化すように自分も一口チャーハンを食べた。誰かに食事を作る喜びをすっかり覚えてしまったようで、まだ食べている途中なのにまた作ってやろうと心の隅で決めつつ相棒が食事する風景を眺めながらチャーハンを食べていて)
ならばチャーハンも中華料理の一種って訳だね。 流石、最高に美味いチャーハンと名乗るだけはある。きっとこの美味しさの理由は腕前だけじゃなくて君が作ってくれたからだろうね。今度泊まりに来た時とかにまた違う味も食べてみたい
(レンゲに対して解説が入ると道具の名前を新たに知りつつもこの炒飯が中華料理に分類されるものだと知る。ジャンルの名前は知っているが実際に食べたのはこれが初めてだ。その感想を伝えてみると相手の顔はいつもの様に得意げな表情を浮かべようとしているがどことなく喜びが溢れているようにも見えた。調理前に宣言した通りだったと少しからかいを交えて褒めながらも実際に食事のペースが早くなる程度にこのチャーハンは美味しく感じられる。勿論料理の腕前があってこのチャーハン自体が美味しいというのもあるだろうが恐らくそれだけではないはずだ。相棒が自分のために作ってくれた気持ちが感じられるからこそ、より美味しく感じられるのだろう。あの施設で何も考えずに命じられるママ動いていた時には知りえなかった感情だ。それがどうしようもなく嬉しくて何だか擽ったくもあって、食事を始めた相手を真っ直ぐとみながら自分の推理をぶつけてみる。さらに具材や調味料によって味を変えることができると説明を受けるとそちらにもすぐに興味を示してはまだ食事中にも関わらずに次の機会を強請って)
一人暮らししてたらこれくらいは出来ねぇとな。え、まぁ……料理は愛情とかも言うし……、あーー他にもキムチ味とか海鮮入りとか、いろいろあるから何時でも来いよ!
(普段褒められる機会が少ないせいか嬉しい気持ちとは別に段々照れの感情も出てきて、しかし一度格好つけて返事をした手前態度を変えることはできず、ふわふわと落ち着かない様子で返事をする。そんな中では思考も上手く回らなくて、美味しさの要因に自分の手作りだから、という候補が加わると、深く考えずに愛情なんて言葉を口にしてしまった。言ってからこれでは愛情を込めたと自白しているようなものではと気づいて焦ってしまい、照れに拍車がかかる。確かに相棒の為だと気合いは入っていたし、美味しく仕上げようと食材を切ったり炒めたりと調理工程はいつもより丁寧ではあって、相手のために作ったから美味しくなったというのは過言ではないのだが、それを真正面から口を滑らせて言ってしまうとはハードボイルドの片隅にも置けない。これ以上焦って顔が赤くなる前に無理やり話題を次の機会の話へ切り替える。焦っていたせいか勢いの良さすぎる返事をしてしまったが。だがまた相棒に料理を作りたいと思っているのは事実だ、こちらを真っ直ぐ見つめる視線とこちらのとを交えてからまた一口チャーハンを食べて)
料理は愛情……初めて聞くフレーズだ、覚えておこう。ああ、是非とも全制覇してみたい。…ご馳走様でした。とても美味しかった、作ってくれてありがとう。
(初めて聞くフレーズという事と暗に愛情を込めたと認めているような言い回しにその言葉を繰り返す。自分のリクエストに応える形で作ってくれた料理、もしかしたら初めて食べても満足出来るように色々な工夫が施されているのかもしれない。チャーハンを見た後、真意を探ろうと相手の顔に視線を移せば自分の発言の意味に気づいたのか焦りが見えた。恐らくこれは照れているのだろう。見分けることが出来るようになった表情にまた心が暖かくなってつい小さな笑みが溢れた。前のめりな勢いで次のお誘いを受けるとこくり頷いて全制覇だと今立てた目標を口にする。大抵一度食べたり経験したら興味が無くなってしまう性分だが、相棒の作ってくれるものなら何度だって食べたい。今のやり取りでさらにこのチャーハンが大切な物に思えてくるとより味わう様にして食事を進める。おやつとしてはそこそこ大きいクレープを食べたはずだが気付けばあっという間に平らげてしまって手を合わせると改めて相手の方を向き料理の感想と作ってくれた礼を伝えて)
一説だからな、一説。……美味かったなら良かった。お前が食いに来てくれるなら、チャーハンだけじゃなくてもうちょっと料理のバラエティ増やしてもいいかもな。
(ちらりと横目で相手の様子を窺えばその顔には笑みが浮かんでいて、あの様子ではこちらの失態に気づいていそうだ。悪いことではないのだが、正面きってでもない変化球を投げてしまった気分でどうにも落ち着かなかった。それを忘れるようにチャーハンを食べ進めるとこちらも平皿は綺麗になる。改めて礼を言われると今度は照れよりも嬉しさが勝って自然と笑みが浮かんだ。チャーハン全制覇だと意気込む相棒だが、それだけではいつか終わりが来てしまう。まだメニューの数は少ないが相棒と試行錯誤しながら数を増やしていくのもまた一興かもしれない。それに食に関心の低い相棒がもっと食事に興味をもって好きな物や嫌いな物を見つけていくのも楽しい気がする。何より相棒がこの家にくる口実が増えてゆっくりした時間が取れるというものだ。そんな先の事を考えながら空になった皿を手に取ると「ゆっくりしといてくれ」と声をかけてシンクへと移動し)
それもありかもしれないね。探偵業は身体が資本というし、色んなものを作れるようになれば健康的で食費も浮く。そしてなによりお互いの作ったものを食べることが出来る。まさに一石二鳥、いや三鳥だ! 分かった。
(食欲も満たされるとこの部屋にいるのことも大分慣れてきた。感想を伝えると相手からも笑みが帰ってきてすっかり和やかな空気だ。恋人が自分のために作ってくれた料理の味に魅力されて他の味も、と意気込んだが料理の幅を広げるという案には思わず前のめりに賛成を示した。健康的だとか食費の節約など一般的なメリットも賛成の根拠としてあげていくが、なにより色んな種類の相棒の手料理が食べられるようになるのが最大の魅力だ。先程自分も挑戦したいと思ったところだしお泊まりする日には一緒に作るか交代で作るというのも面白いかもしれない。また一つ一緒で過ごす中で起きる変化の予感を感じながらも明るい表情と声を向けた。食べ終わりお皿が下げられる。皿洗いを手伝った方が良いのだろうかとも思うが相棒なら『俺がやるから』と譲らなそうだ。素直に任せると相手はシンクに向かいリビングに一人残る形となる。そっとしておくとは言ったがやはり相手の部屋に何があるかは気になる物だ。部屋に飾ってある物を間近で観察したりしていたが、ちらりとまだ洗い物をしている相棒の姿を確認してそっとクローゼットを開く。見慣れたシャツやスーツなどの衣類と旅行で使ったカバンなどが仕舞われているが隅には筋トレ道具や見慣れないアクセサリー類など物珍しい物も一緒に置いてあって興味深そうにしゃがみこみ手に取ったりと調査始めて)
食費が浮くってのは大事かもしんねぇな……ならまずはお前が料理出来るようになるとこからだな。_____おい!何勝手に見てんだよ!
(何気なく口にしたレパートリーを増やす話だったが相棒はかなり乗り気のようだ。こちらも毎食手料理を作っているわけではないのだがそれも食べるのが一人だからという理由も大きい。あらゆるレシピは何事も二人分から載っているもので手が出しづらいが、二人分作るとなると試せる種類も増えてくる。それに相棒と新たなことに挑戦していくのも悪くない話だ。相棒が料理に慣れるまでは大騒ぎになりそうだが、それだって『初めて』の共有だろう。何より自由に使える金銭は少ない、そういう意味でもこちらも乗り気な返事をして、相棒へ料理を教える機会を待つこととした。チャーハンに使用した料理道具と皿とをまとめて洗っている間、リビングからはあまり音が聞こえてこなくて一体何をしているのかとその動向が気になってくる。洗い物を終えて音を立てないようリビングに移動しこっそり相棒の方を見てみると思わず顔を引き攣らせた。相棒がしゃがみこんでいた場所はクローゼットの前で、しかもそこはここへ来る前に危惧していたいろいろと迷走していた時の用具やらが置いてある場所、思わず声を上げつつ近づく。隣にしゃがみこんでみれば案の定の品々が並び、自分でも覚えていないようなものまであって思わず顔を顰めながら「そういやあったなこんなの……」と呟いていて)
……あ。ごめん、つい。…君の歩んできた歴史を感じられる代物だね。 僕はこの時の君は知らないから、それを知る重要な参考資料だ。
(色々なメリットが重なってこれから手料理を作り合うという案はかなり前向きに検討されることとなった。それがいつかになるかは分からないが人にご飯を作る楽しみと作ってもらう嬉しさを知った今からそう遠い話ではないはずだ。美味しいご飯をご馳走になり機嫌が良かったのもあってつい調子に乗った節もある。クローゼットの前にしゃがみこみどういう用途の物なのかと思考を巡らせるのに集中しすぎて台所の水道の音が止まったのにも気付かず、声とともに近付いてくる相手を見て間抜けな声が漏れた。現行犯を見られたら言い訳のしようがない、気まずそうに目を伏せながらも謝罪する。だが意外にも相手は隣にしゃがみこんで一緒に品々を見るような形になった。相手の口ぶりからして使わなくなったものはとりあえずここに放り込まれているのだろう。明らかに歳に不釣り合いな物や用途が不明な物もあるがここにあるという事は相手がその時々で購入した物なはずだ。凄く濃く長い付き合いをしているような気がするが、実際はあの夜以前の相棒のことは最初の頃に調べた本の文章と周りの人達の断片的な言葉でしか知らない。本に書かれた文字は簡素に物事を紡ぐが完璧に情報を伝えられるわけではない。だからこそ取りこぼした情報を少しでも埋め合わせがしたいとは思う。試しにその品の一つである古臭いデザインのサングラスを手に取って掛けてみると「…これは視界をわざと悪くするメガネかい?」と不思議そうに尋ねて)
まぁ紆余曲折しまくってる跡だけどな。この頃はとにかくおやっさんに追いつきたくて必死だったんだ。__ハハッ、全然似合ってねぇ。用途はある意味あってるけど。これはサングラスっつって日の光を軽減するためのもんだけど、ハードボイルドな男はこれを掛けてクールに決めるわけだ。…どうだ?
(相棒の知的好奇心を考えればクローゼットを開けるのは予想できたことではあったが、やはり自分の内にしかない部分に人を入れるのはむず痒い気分になる。それも相棒だから許されることではあるのだが。ここにあるのは、力の使い方を知らずにジンさんに迷惑をかけていた頃からおやっさんと出会い探偵事務所で働くことになって、どうすれば憧れの姿になれるのかと無い頭なりに考えた時の痕跡だ。相棒と出会ったあの日にまたいろいろと心境の変化もあったものだが、あの日以降覆い隠されたものがここにあると言ってもいいかもしれない。自分の過去に向き合って相変わらずむず痒い気分になっていると相棒が興味を示したのはサングラスだった。とにかく形から入る主義なのは今も薄ら残っているが、これもそのひとつ。映画でみた主人公が掛けていたものと同じ形のサングラスで、レンズ部分が大きく目元が見えない様はまさに感情を表に出さないハードボイルドらしいアイテムだ。だがその厳ついレンズと童顔の相棒の顔では絶望的に相性が悪くて、思わず声を出し笑ってしまう。簡単にサングラスの解説を挟みつつ掛けていたそれを外すと、今度は自分がサングラスを掛けてみせて)
なんとなく想像はつくよ。光を軽減する為にこんな色で見える訳だね。確かに前に君が見ていた映画か何かで主人公が着けていたのを見た気がする。…ハードボイルドってよりかは近寄り難い不良に見えるね
(共に探偵として過ごす中で感じた相手の性格と初めて対面した時に悪魔野郎と罵りながら胸倉を掴んできた時の記憶から早く1人前になろうと必死に焦ってる姿は何となくだが想像がつく。体力をつけようとしたり形から入ろうとしたりと方向性もバラバラで客観的に見ると大分迷走しているようにも見えるが、これも今の相棒を構成する大事な過去だ。その証拠の一つであるサングラスを掛けてみると自分の顔には不釣り合いなのか相手から笑い声があがる。自分からしたらあまり利便性や目元を隠す以上の利用目的を感じられない代物だ。サングラスの説明を受けようやく用途に関しては理解したがそれがどうクールだとかカッコ良さに繋がるかは個人的には謎である。だが以前相手が見ていた映画にもこのようなサングラスをつけていた人が活躍していたような記憶もあるからそもそもハードボイルドとはそういうものなのかもしれない。そう納得した所でサングラスが外され今度は相棒にかけられる。こちらから見ると全く似合わない訳では無いがクールというよりも目元が見えないせいもあって近寄り難い雰囲気の不良という印象の方が強く、素直にその感想を伝えてみて)
それそれ、やっぱカッコイイ男ってのはサングラスが似合うっていうか、嫌でも似合っちまうんだよな……う、…不良って言うな……
(サングラスを本来の目的通り瞳を陽の光から守るために使う事は多々あるだろうが、ファッションとして身につけている場合も同じくよくある話だ。そして何故だかハードボイルドにはサングラスが良く似合う。おやっさんは付けていなかったが、あの映画の主人公は痺れるほどカッコよくこれを身につけていた。どうやら相棒もその映画を覚えていたらしく、まさにそれだと頷く。結局カッコイイ男はかっこいい服装や振る舞いを自ら引き付けてしまうのだろう。ハードボイルドへと想いを馳せながら、しみじみ頷きつつこちらのサングラス姿へのリアクションを待つ。すると返ってきた言葉は不良の一言で思わず言葉に詰まってしまった。いつもならば勢いよく突っ込むところなのだが、なまじそれらしい事をしてジンさんを困らせていた過去がある以上強い口調では言い返せず、勘弁してくれと言わんばかりに渋い顔をしながらゆっくりとサングラスを外した。予想通り、と言うのは不本意ではあるが、サングラスではハードボイルドに近づけなかったらしい。それならばとクローゼットの奥に手を突っ込むと液体入りの小瓶を取り出す。手にしたのは香水で「これも初めてじゃねぇか?」と蓋を取るとそこからは微かにシトラスと木々が混じった香りが漂ってきて)
そういえば君にはそういった頃があったって聞いたことがあるよ。やっぱり人の顔の中でも目元が見えないと威圧感みたいなものを感じるね。…液体? …いい香りがする。…柑橘系っぽい香りと…何だか分からないけど落ち着くような香りだ。
(不良という言葉に苦々しい反応する相手を見ると馴染みの刑事に時折昔話をされていたのを思い出す。師匠に出会うまではそこそこに荒れていたという話だ。今は見る影もないと言いたいとこだが、いざと言う時やキレた時は気性や口調が荒くなる所がある。本人にとってはあまり触れたくない過去なのだろうが少しだけそれを感じられて悪くなかった。それにサングラスで目元が隠れると見慣れた相手の顔でも表情が読み取れなくなって威圧感にも似た近寄り難さを感じるのは新しい発見だ。サングラスでハードボイルドになるという事は諦めたようだが代わりに相手が出してきたのは何やら液体の入った小瓶だ。綺麗なガラス瓶だが上部の蓋が外されると微かに違った香りが漂ってきた。その元であろう瓶に顔を近付けると良い匂いであることは分かった。上部が霧状に噴出するスプレーの構造になっていることに気付き、相手が見せてくるあたり危険なものでもないと判断すると試しに空中に向かって半プッシュしてみる。すると中身の液体が霧状となって噴出され先程よりもハッキリと香りが立ち上がりその正体を特定してみようと試みる。一つはレモンやオレンジといったサッパリした柑橘系の物に似ているがあと一つは言葉にするのが難しい。その主な二つの香りが混ざりあって爽やかでありながら落ち着いた香りだと表現しながらも「これはなんだい?」と問いかけ)
ぐ、…ジンさんか……余計な事は忘れろよ。探偵は威圧感も大事だが親しみやすさも大事だから、サングラスはかけない方が良さそうだな。これは香水ってやつで体とかに付けるんだ。確かシトラスと……なんとかウッドの香りだったな。大人の色気が出るやつを店員さんに選んでもらったんだけど、香水のせいで周りの匂いが分からなくて捜査に支障が出るからすぐやめちまった。
(現在事務所に出入りする面々の中で自分の過去を一番よく知っているのは昔馴染みの刑事しかいない。時折昔の事をからかわれているが、その話を相棒はしっかり覚えていたらしい。目の前にある品々が示す迷走時期よりもさらに子供だった頃の話も苦々しいものであって軽くため息をついていた。感情がよく現れる場所でもある目が隠れればそれだけ感情は読み取れなくなり不気味な存在に映る。それを魅力とするかはその人次第ではあるが、自分には合わない代物らしい。この街に住む人々には笑っていて欲しいのだから自分が脅威であっては意味が無いだろう、やはりこれはこのままクローゼットにお蔵入りのようだ。こちらが勧めた香水の瓶を興味深げに眺めていた相棒は、やがて宙に向かって香水をほんの少し吹きかける。最初は爽やかでいながらその奥に心を落ち着かせるような重い香りが周囲へ漂うと、こんな香りだったなと懐かしい気もした。おやっさんのハードボイルドが大人の色気にあると思い立って買いに走った香水だったが、探偵業が出来なくなるとは本末転倒で使ったのは数回だけに留まっている。どうせ後で風呂に入るからと香水を自分の手首にワンプッシュして両手首を擦り合わせれば同じ香りが自分からも放たれ始めて「色気増しただろ?」と冗談交じりに言ってみせて)
残念ながら記憶力は良い方みたいでね。_ 良い香りを身体に纏うための物ってことかい? 確かに何かの木の香りと言われたらそんな気がしてくるよ。それは強い香りで嗅覚が鈍ったんだろうね、でも相当多くつけないとそういう事は起きないとは思うけど…。…色気かどうかは分からないけど、悪くない香りだ。
(どうやら忘れて欲しい記憶のようだがなにかと記憶力は良い方だ。相手には悪いがなにかきっかけがあれば直ぐに思い出すことになるだろう。そのきっかけとなったサングラスも総合的に判断してお蔵入りとなった。少なくとも何かの変装とかでなければ今は使う必要はなさそうだ。香水という名前と使用用途について聞くと確認するように尋ねる。良い香りはリラックス効果があったり気分が向上する効果があったりすると聞いたことがあるが、それをより近くで感じられる身体に付けるためのものなのだろう。曖昧ながらも混ざっている香りの名を聞くと確かに木のような暖かい甘さのある匂いがする気がする。探偵をする上で五感は大事な物であり、匂いも周囲の異変や状況を探るのに大切な情報だ。また潜入捜査の時は過度な香りは自分の存在を示すきっかけともなる。買った理由と使わなくなった理由を共に聞き一旦は納得したように頷くが、よく考えると鼻が効かなくなるレベルの香りというのは相当な物だ。つける部位にも多少よるだろうが相棒のことだ、大人の色気が出るからと興奮してあらゆる所につけまくったのではないかと密かに推測した内容を呟いた。その間に相棒が手首の内側に香水を振りかけ擦り合わせるとそこからも同じ香りがしてきた。言われたことを確かめるという意味でも相棒の手を取って手首に鼻先を近づけた。すんと嗅いでみると色気云々はよく分からないが確かにそこから落ち着く良い香りがしてそのままの状態で目を閉じて深呼吸してみて)
そういうことだ。っ、お前な…こういう時に推理しなくていいんだよ!……最終的におやっさんに怒られた。適量ならいい香りだろ?……
(香水の解釈があっていると頷いたあと、馨しい香りを放つ小瓶に目を移す。どの国のブランドでどういう香りか丁寧に説明を受けたはずなのだが残っているのは大人の色気というワードだけだ。ようはそこしか見えていなかったということで、自分に合った香りというわけではない。使い方も分かってなかったと思い出しているうちに相棒から痛いところをつかれてまた言葉を詰まらせる。咄嗟に声をあげるが、つまりそれは相棒の指摘が図星である証拠だ。最初は店員の言う通り少量つけていたのだが自分ではなかなか効果が分からず、首につけ、髪につけ、全身にまぶしと少しずつ付ける量が増えていき、最終的にはおやっさんの雷が落ちたのが事の真相だ。項垂れながら正直に告白すると長くため息をつく。これも外面だけを似せようと足掻いた苦い思い出というわけだ。だがこの香り自体は悪いものではなくて、甘く落ち着くフレーバーは思わず嗅いでしまう代物だ。それを感じるように相棒が目を閉じ手首に鼻先を近づける。目を閉じた横顔はなんとも無防備で、じっと見つめているとこちらの悪戯心が擽られてしまった。何の前触れもなく手首を相手の鼻先にトンと当てるように動かす。それなりの軽い衝撃もあるだろうが、それよりも鼻という感覚器官に直接香水をつければ強烈にその匂いを感じることになるだろう。無防備なその横で相手を観察したまま口元は若干にやけていて)
だろうと思ったよ。正常な鼻の状態なら今みたいに一回つけただけで十分香りを感じることが出来るからね、それを大量にかけていたら捜査の邪魔になるのも当然だ。まあね、…っ、流石にこの距離だと臭いよ
(思わず口にした推測に即座に声が上がるがそこに否定の意味は含まれず少し間を置いて正直に告白される。根っこの所はやはり変わらないらしい。ド.ー.パ.ン.トの時も懸念したことだが刺激を受け続けた感覚器官は徐々に感度を鈍化させて正常に働かなくなる。自分の体につける香水の匂いならば尚更だろう。それを自分が香りを感じるほどまで強度を高めていけば周囲は相当強く香りを感じたはずだ。きっと彼の師匠も最初は若造の背伸びだと許容していたのだろうが徐々に強くなっていく香りに痺れを切らしたというのが事の真相だろう。容易に想像がつく過程に正論でバッサリと意見するが、実に相棒らしいエピソードでもある。それに多くつけたから害になったのであってこの香り自体は悪いものでは無い。あまり嗅ぐことの無い類の物に目を閉じて嗅覚に集中していた所、鼻先に手首の皮膚が当たって直接香水が気化した匂いを吸い込むと強烈にそれを感じる。いくらいい香りとはいえ強すぎる物は不快であり、掴んだ手で引き離すと多少眉を寄せつつも苦情を申立てて)
……あれで懲りてそっから一回もつけてねぇよ…ハハッ、悪い悪い。お前があまりに隙だらけだからついな。
(相棒の正論にはぐうの音も出ない。自分の香りがどうなっているか分からず、際限なしに付ける量が増えていったのは事実だ。おやっさんに服をクリーニングに出して風呂に入るまでは事務所に立ち入り禁止だなんて言われた苦い過去を思い出せば、余計に渋い顔になっていく。探偵業も板についておらずハードボイルドな背中を追いかけるのに必死だった痛々しさが改めて胸に突き刺さるようだ。さらに頭が重くなったような気がして長いため息をついてその苦々しい思いを逃がしておくことにした。。思わず苦い過去と向き合うことになったが、こちらの悪戯の方は上手くいったようで笑い声をあげる。それなりに匂いは強烈だったようですぐに手首を相棒に掴まれ離されてしまった。迷惑そうな顔をみるとちょっとした仕返しにもなったようだとますます機嫌の良い顔を向ける。あまり謝罪の意がない謝罪を述べつつ、鼻先についたであろう香水を拭うように人差し指でそこを軽く擦ってやって)
トピック検索 |