相乗りで何処までも 【 〆 】

…マジかよ……俺にとって温泉旅行はかなり前の話だ。ってことはさっきのオーロラみたいなやつのせいでお前は過去の時間から来ちまったわけか……お前にとっちゃここが未来だが
(薄らと脳内に浮かんできた予想を元に記憶を擦り合わせるような質問をしてみれば見事に全てが食い違っていて驚愕の顔を浮かべる。食い違っているというより正確には追いついていない、といったところか。相手が今日の日付を確認すればいよいよ予想は決定的になって息を吐く、確かに相手が認識している日付は温泉旅行の2日前だが自分にとってはそこそこ過去の日付だ。あまりに突拍子もないことだが可能性として残されているのはそれだけで、相手があの奇妙な現象のせいでタイムトリップしてきたのだと理解する。先程軽く触れただけで顔を真っ赤にしたのもまだ恋人になった直後だからだろう。思わず額に手をやって頭を抱えながら「まだ一緒に住んでねぇ頃じゃねぇか…」と思わず零して)

、にわかに信じられないけど君はこんな冗談は言うような人間では無いから信じるしか無さそうだ。…未来の翔太郎か。…え、…もしかして、今の僕は君と一緒に住んでいるのかい？
（こちらが思っている日付を告げれば相手は驚いて呟きを零す。自分にとっての明後日も相手にとっては過去に経験したことのようで時間を超えて未来にやってきたという到底信じられない事実に驚くしかなかった。だが相手が嘘を言っているようにも見えず、そもそも自分の知っている相手がさっきのように自然に近づいて顔を覗き込んで来る行為が出来るとは思えない。ひとまずここが未来の事務所であることを何とか理解するがそうなれば今目の前にいる相手は自分にとっては未来の相棒だ。何か今と変化はないのかと好奇心が芽生えて観察するような視線を送っていたが聞き捨てならない言葉が相手から零されると思わず体を固めた。今まで出てきた事実を繋げれば答えは一つなのだが度重なる事態に頭は軽いパニックを起こしていて未だに赤い顔でその言葉の意味を改めて確認して）

え、あ、えっと……いや、まぁ……いろいろあってな。その……一緒に住んでる
(相手が過去のフィリップだというのは揺るぎない真実のようで有り得ない事象にただただ動揺するしかない。本来ならば相手を戻す方法を考えなければならないところだが、話題がキスから始まってしまったせいか二人の関係の方に話が傾いていく。過去の時間から時空の歪みに何度か巻き込まれ若干慣れもあったせいで思わず今の関係を口にしてしまう、しかし相手からすればつい先日夏祭りを終えてこれから温泉旅行に行こうというところなのだ、こちらの呟きに相手は顔を真っ赤にしたまま内容を改めて確認してきてさらに脳内は焦っていく。さらりと言ってしまった事が過去の相手にとっては驚愕すべきことで、それほど相手との時間を積み上げてきた事実に勝手に嬉しいやら口にして恥ずかしいやらで上手く口が回らない。何度も言葉を詰まらせてしまいこれでは型なしにも程がある、軽く咳払いをして体勢を立て直すと「意外だったか？」とぎこちなくも軽い調子で聞き返して)

…いろいろ…そうなのか。…今はあまり想像出来ないけど、君とそうなるまで関係を築けているのは嬉しいし、ちょっと安心した。
(相手の先程の手馴れた様子からあの距離感が当たり前になるくらい時間を積み重ねたのは伝わってくるがそれに加えて一緒に住んでいると聞けば思わず深く聞いてしまう。こちらの問いに動揺して言葉を詰まらせながら説明する姿は馴染みのあるものでここは変わっていないことに密かに安心しつつじっと相手を見つめた。今でも相手が事務所に寝泊まりすることはあるが言い方的にそういうことではないのだろう。夏祭りに帰ってきた日のように一緒に布団に入って寝る生活を想像するとまた鼓動が早くなっていくが同時に無意識に口元が緩む。そこで若干ぎこちなくも聞いた感想を問われるとぱちりと目を瞬かせてから素直な感想を述べていく。相手のいう色々が何かは分からないが一緒に過ごす中で相手の家に住みたいと思って行動して、今も尚それが続いているという状況は喜ばしいものだ。これからも更に深く関係を築くことが保証されたようで小さな笑みを見せると更に好奇心は疼いて「他にはどんな事をしたんだい？」と今度はこちらから近付いて更に深掘りするように問いかけ)

そう、か…俺も、この関係であり続けてぇなって思ってる……え、……
(こちらが今の関係を答える間相手は片時も離さずこちらを見ていて妙に緊張してしまう、今よりそっち方面の知識量が少ない分好奇心に火がついてしまうのだろう。だがその顔には笑みが浮かんでいて未来の関係について感想を問えば嬉しい感想が返ってきてやはり照れる。二人の関係が変わった当初はこちらもいっぱいいっぱいだったが、その時から相手もこの関係が長く続くことを望んでいた事実は素直に嬉しかった。言葉で伝えられた分は言葉で返したくて素直な気持ちを口にしようとするも動揺しっぱなしの体では少々ぶっきらぼうな言い方になって視線を宙へと彷徨わせていた。そんな浮ついた状態で他にした事を聞かれると体を固めてしまう、キスから始まり恋人として相手が知らない関係となると真っ先に一番深く繋がる行為が浮かんでしまって口を開けたまま何も言えなくなってしまう。恋人としてした事を答えればいいのに思考回路は偏ってしまった。温泉旅行というワードもその思考を偏らせる一因となる、始めて相手と恋人としてさらに一歩を踏み込んだのは温泉旅行から帰って来た後の簡易ベッドだ。一気に思考がオーバーヒートすると今度はこちらが頬を赤らめて「お前にはまだ早い！」と叫んでしまって)

未来の君がそう思ってくれているのなら心配は要らなそうだ。 …、翔太郎？ 、早いって言われても将来僕も君と経験するのだろう？ ならちょっとぐらい教えてくれても良いはずだ
(未来の相手も自分のことを大切にしてくれて今よりも近くにいられると分かれば自然と口元も緩む。今は初めてのことばかりで戸惑いも幾らかあるがきっと色々な経験を得てこの時間まで過ごすのだろう。少々ぶっきらぼうにも相手からも嬉しい返事がされると今度はその過程の話が気になって純粋な好奇心を宿した目を向けながら相手に問いかける。すると相手は途端にフリーズしてしまって何も言わなくなってしまった。当然今の状態より先の知識も経験も無ければ相手が何を考えているのか全く検討もつかず、不思議そうにしながらその顔を覗き込んで名前を呼ぶ。その顔は次第に真っ赤になって行き急に叫ばれると僅かに目を見開いた。こういう反応をするのは大抵何か隠し事がある時だ。隠されると更に気になるのが人間の性で後々自分も経験するのだからと主張する。更にさっきの相手を真似して頬に手を添え顔を固定すると無邪気に好奇心に輝く目を向けながらお願いして)

教えてって……昔の、お前と……っ、ダメだ！こういうのはお前の時間の俺としろ！
(ひとりで勝手に思考を暴走させこちらを覗き込む相手に向かってただただノーを突きつける。だがこういう時に退かないのが相手というもので、さらにその目には好奇心を輝かせていた。そして先程の真似事なのかこちらの頬に手を添えて視線を固定されてしまって体ごと固まってしまう。相手は何も分かっていないからこそ教えて欲しいと言うのだろうが、この場合の教えるは実践するの意味になってしまう。いつもならばこういう時相手の瞳は妖艶に揺れるものだが今はただただ好奇心に目を輝かせていてそれが先程の発言も相まってなんとも初々しく写った。相手とは恋人としての行為含め共に経験を積み重ねてきたわけだが今はそこに圧倒的な差がある、その考えに至った時に相手の初々しい反応が見られるのではないかと邪な考えが過ぎってしまった。一瞬その瞳に熱が宿るも直ぐに頭を振って邪念を追い出す、そのまま再びノーの返事をすると頬に添えられていた相手の手を掴む。相手と共に『初めて』を共有する喜びは何度でも味わいたいもので、それを相手から奪うなんて言語道断だろう。軽く息を吐き出して気持ちを整えると「一緒に積み重ねてくってのも大事なんだよ」とボソリと呟いて)

…翔太郎、…え。……確かに先に僕だけが知ってしまったら翔太郎が拗ねてしまいそうだ。
(相手の頬に手を添えて顔の動きと視線を固定してしまうと更にお願いを畳み掛ける。未来の存在とはいえ翔太郎自身であるには変わらない、いつもワガママを聞いてくれるその甘さに期待してじっと見つめているとその瞳が一瞬見たことの無い色を宿して揺れた。瞬きしている間に相手が頭を振って次に目が合った時にはそれは消えてしまった。そのまま頬に添えられた手を掴まれ改めてノーを突きつけられると強情な態度に思わず声が零れた。相手が首を縦に振らないことに驚いていたがその後ぽつりと零された言葉を聞くと指を唇に添えて暫し考え込む。相手の言うまだ見ぬ体験を今すぐ知りたい気持ちは十分にある。だが初めて夏祭りに行って初めてキスをした時のように一緒に『初めて』を体験出来るのは一生に一度だ。加えて自分の恋人が少々嫉妬深いことを思い出すと小さく笑いながらそれを告げ「なら、楽しみに取っておこう」と納得して諦めることに決めて)

拗ねるかよ！文句は言うだろうが…まぁお前の時間からいろいろあったが夏祭りの日からずっと…いい関係だ
(相手のワガママは紆余曲折あろうとも大概聞いてしまうもので過去の相手でさえそれは承知だったが今回ばかりは理性がなんとか勝ってダメだとストップをかけた。相手は少々考えてからこちらの説得に納得したのかワガママを引っ込める、拗ねるというのは聞き捨てならずに言い返すも文句を言うのも拗ねるのもそうそう変わらないだろう。どちらにせよ違う次元の自分に嫉妬するというのは前科があって、もし未来の自分が相手に手を出したとなれば結局拗ねることになるだろう。あの夏祭りの日から多くの時間を過ごして様々な光景を一緒に見てきたがどれもが相手と共にしか見れなかったもの、知れなかったもので、相手がいなければ今の自分は確実にない。どの瞬間も大切な思い出だがそれをひとつずつ語る柄でもなく、言葉を濁しながら相手の肩をぽんぽんと軽く叩いた。直後、夏祭りの後で温泉旅行の直前の時間にここにあったものを思い出す。夏祭りから帰って来てこの事務所で互いのモノである証を残す手段を知った、初めて刻んだそれがまだここにはあるはずで無意識のうちにそこを親指の腹でゆっくりなぞる。チラリと相手の方をみれば「確か、まだ消えきってなかったよな？」と何とは明確に言わないまま服の下にあるはずの痕を布越しに撫でて)

大体同じようなものだろう。まあ、そうでないと困る。…ん、今朝見た時は、残ってたけど…
(先に自分だけ知ったと告げた時の相手の反応を予想すれば相手から反論がされるが文句を言うのなら拗ねているとほぼ同義だろう。結局認めたようなことをいう相手に小さく笑いつつ濁しつつ今が良い関係だと断言されると満足そうに口角をあげる。まだ相手とは恋人としての関係は築き始めたばかりだが良い意味で変わらずに歩んでこれているのなら何も言うことはない。励ますようにも肩を叩かれ得意げな顔を見せていると不意に指先がなぞるように動く。そこには夏祭りを楽しんだ夜、ただのキスから更に一歩踏み込んでお互いに夢中になって行く時にお揃いとして噛みつかれた跡があってなぞられじわりと痛みを発すると小さな反応を示す。名言はせずともその痕のことを意識させるように問われると今朝の記憶を頼りに正直に状況を答える。だがその間も同じ部位を撫でられるとその時の熱を思い出しそうになってはまた顔を薄ら赤くしながら「それがどうしたんだい、」と何処か落ち着かない様子で問いかけ)

そうか……いや、ただ俺が最初につけた俺のモノって証だったと思ってな
(まだそこに残っているはずの痕をなぞれば相手は小さく反応を示す、相手からもまだ残っていると伝えられるがそこには痛みも残っているようだ。そこを撫でるだけでまた顔を赤くしていく相手はやはり初々しくてどうにも腹の底を擽られてしまう、一線を超える気はないが過去の時空とはいえその存在が相手なら悪戯心も芽生えてしまうというものだ。変わらずその痕を撫でながらすました顔である意味思い出のあるものだと話す、今も互いに痕を付けることは多々あるが夏祭りの夜につけたものが最初に刻んだ互いのものであるという証拠だ。当時は痛みと快楽が直結するなんて知りもしなくてそれこそいっぱいいっぱいだったことは棚に上げ、今ならもう少し余裕をもってその行為を語ることが出来る。一歩近づいて耳元に口を寄せると「これからも沢山付けることになるけどな」と先を予感させることを囁いて)

…まあ、そういう事になるのかな。ッ…それは、言わなくて良い！
(振り払うほど痛い訳ではないが相手の指先がなぞる度に小さく痛みと存在感を示す。その感覚がまだ何なのか分からない状態で困ったように相手に視線を送る。お互いの物であると約束したのはもう少し前のことだが、実際に形としてその証を刻み込んだのは相手の言う通りこの跡が『初めて』だろう。懐かしむようにも楽しんでるようにも告げる相手に肯定を示しながらゆっくりと送られる刺激に戸惑っていると一歩相手が近付く。相手の口が耳元に近づいてこの跡が更に刻まれる未来を予感させられると一気に熱が上がって言葉にならない声をあげながら固まってしまう。それはつまりあの夜のようにお互いに夢中になって衝動的に動いてしまう行為を何度もするということと同義でその時のことがフラッシュバックすると嬉しさや恥ずかしさなどで頭はいっぱいいっぱいになって最早オーバーヒート寸前だ。ばっと相手から逃げるように離れると真っ赤であろう自分の顔を手で隠しながら今度はこちらが叫んで)

お前も喜んでくれてるなら何よりだ
(ゆっくりと痕を撫でてその存在感を主張させるように、またはもっと刷り込むようにする。その行為さえ過去の相手にとってはまだ未経験のものだろうがこれくらいは許されるだろう。未来に起こることを囁けば相手は一気に顔を真っ赤にさせてこちらから慌てて離れていく。強い刺激を与えたわけでもないのに顔を真っ赤にさせるのはやはり初々しくて胸を擽られてしまった。文句を叫ぶ相手に笑い声をもらす、もっと初心な相手にちょっかいをかけたいところだがこれ以上は過去の自分に悪いうえ歯止めが掛けられなくなりそうだ。自分は何もしていないと言いたげに両手を上げると「まだまだ経験が足りねぇな」と余裕ぶった顔をしながら相手を笑っていて)

君も僕の頃は同じだった癖に…。 そういうのは戻ってきた今の僕にしたまえ
(相手から飛び退いて真っ赤な顔で文句をつけるが当の本人は何処吹く風で笑い声すら零している。普段はどちらかというとこちらがからかって相手が振り回される側なのに。これが経験の差なのかとまだ熱の残る顔を冷まそうとしながらぽつりと文句を付ける。今の状態ではとても平常通りに出来そうにないがこういう事に慣れるぐらい今の自分は相手を経験を積んだのだろう。それが羨ましくもあり恥ずかしくも感じて仕返しの意味も込めて相手の頬をぷにっと摘むとさっき言われたのと同じことをこちらから返す。そんなやり取りをしていると不意にまた銀色のオーロラが迎えに来たようにも現れて「さっきの…！ということはもしかしてアレで帰れるのだろうか」と推察を口にして)

さぁ、どうだったかな。…あ、…多分な。来た時はあれを通ったんだから帰る時も同じだろ
(相手の顔は未だに真っ赤でそれを隠すために手で覆われている、文句を付ける相手にやはりすました顔で返事をしておいた。相手に触れたりそれ以上の行為に慣れきることはないのだろうが、それでも心持ちに余裕はあって付き合いたての相手に比べればこちらが上手なのは間違いない。珍しい状況に気分を良くしていると頬を摘まれる、その反撃も可愛らしくてやはり笑ってしまった。そうしているうちに再び銀色のオーロラが事務所内に現れて声を零す、あれをきっかけに今回の不可思議な事が起こったなら終わらせるのもきっとあれだろう。同意するように頷くもそれは過去の相手と別れることを意味する、寂しい気持ちもあるが同じ時間を歩んできた相手に早く会いたいのも事実だ。今度は親愛を込めた笑みを浮かべると「俺は絶対にお前を手放さねぇから、覚悟して付き合ってけよ」と言葉を送って)

(/ちらっとだけ背後で失礼します。今回のお話をいただいた時にこちらが検索くん側が過去と入れ替わって、というお話を提案させていただいたのですが検索様のご希望は逆だったりしたでしょうか…？こちらが相談無しに決めてしまったなと思いまして…もし逆を検索様が想定されていたなら過去の時空に飛んだ現代検索くんと過去の探偵サイドのお話をするのもありかと思うのですがいかがでしょう？)

ならこれで君とお別れか。…元よりそのつもりさ。じゃあ、この時間の僕に宜しく。
(相手の頬を摘んでみるが相手は更に楽しげに笑うだけで大して効果は無さそうだ。経験の差による余裕を今一度感じながら相手を見ていれば先程のオーロラが現れて手を離す。あれをきっかけに今の現象が起きたならアレで帰ることが出来るはずだ。思わぬ出来事ではあったが未来の相手と出逢えたことは良い経験だった。オーロラから相手に視線を戻すとからかう物とは違う親愛を込めた笑みを向けられる。時間を積み重ねた相手と比べてまだまだ未熟だろうが覚悟はとうに決まっている。ふ、と得意げに笑って応えるとオーロラが近付いてくる。自分と入れ替わって帰ってくるであろう今の自分のことを相手に託すと自分の体にオーロラが通過してはその姿を消して)

■

…今のは、
(オーロラのようなものが自分の体に触れたかと思うと辺りがぐにゃぐにゃに歪んで思わず目を閉じる。次に目を開けた時には自分からオーロラが抜けていくのが見えて、事務所に立っていた。奇妙な現象に思わず首を傾げ、状況を確認しようと呟きながら当たりを見渡そうとして)

(/いえいえ、どちらかが入れ替わるという趣旨の提案だったので今回ので全く問題ありません。お気遣いありがとうございます。ですがせっかくなので一方その頃と言った感じで過去に行った検索とその時の探偵君のやり取りも是非やりたいです。簡単に導入飛ばしましたのでそのやり取り後元に戻るみたいな流れが出来たらと思います…！/問題なければこちら蹴りで大丈夫です。)

あぁ、任せとけ
(別れの言葉代わりにずっと隣にいることを告げれば相手からは得意げな笑みが返ってくる。過去の時間の相手でもこの顔は今の相手と変わらないものだ。今の相手のことを託されるとこちらも自信たっぷりの笑みで答える。あれから少なくない経験をして決して良いことばかりではなかったが、だからこそ相手が相棒であり恋人であることはより揺るがない事実になったのだから。オーロラに消えていく相手を見送るとこの時間で共に生きている恋人の帰りを待っていた)

■

っ、フィリップ！大丈夫か？！お前、一瞬だけ消えてた、よな？
(温泉旅行を二日後に控えた今日、下調べも旅の計画も粗方終わりなんとなく落ち着かない心持ちでいれば普段しないような棚周りの整理を始めた。最初こそ首元に目立っていたガーゼは今や絆創膏に変わっている、なんとか二日後には全ての痕が消えて安心して温泉に入ることが出来そうだ。それはそれで寂しいような気もしつつ整理を続けていると相手から声が上がってそちらを振り返る、直後銀色のオーロラが相手を飲み込みその姿を消して、また直ぐにオーロラから相手が出てきた。思わず声を上げながら手に持っていた本を床に落として駆け寄ると相手の両肩に手を置く。何か異変がないか確認するように隅々まで相手の体をチェックすると目線を顔へと戻して「なんか違和感あるとことかねぇか？痛みとか動かしにくいとか」と次々まくし立てるように質問を投げて)

あ、あぁ…僕は大丈夫。…君、こんな所怪我していたかい？
(事務所内を見渡してみると何となく物の配置が変わってる気がする。何処と無く違和感を覚えていると何故か遠くに居た相手が駆け寄ってきて両肩に手が置かれる。隅々まで状態を確認され、捲し立てるように質問されるとその勢いに押されてしまいながら問題無いと返す。相手が自分に対して過保護気味で心配性なのはいつもの事だが今日はそれが増して強い気がする。違和感を抱えながら相手と目を合わせているとその首に貼られた絆創膏が視界に入る。さっき依頼から帰ってきて出迎えた時にはそんな物は無かったはず、いつの間にか怪我でもしたのかと問いかけながら何気なくその場所に手を伸ばし親指の腹でなぞって)

そうか……せっかくお前に想い伝えたばっかなのにいなくなるなんて勘弁し、……っ？！、
(どうやら相手は一瞬消えただけで特に怪我などはしていないらしく安心して思わず息を吐きだす。ずっと踏みとどまるべきか悩んでいた一線を踏み越えて明後日は初めての旅行だと言うのにこのタイミングで何よりも守りたい相手を失うなんて想像しただけでも恐ろしい。目線を軽く伏せながらもごもごと小さく呟いていると不意に相手の手がこちらへと伸びてくる、突然のことに目を瞬かせている間にその手は首筋の絆創膏をなぞって思わず後ろへ飛び退いた。痕は消えかけているとはいえ指が触れると僅かにそこが痺れて、あの日ここで起こったことを思い出して顔が一気に赤くなった。この絆創膏をつけることになった要因の張本人は不思議そうな顔を浮かべていてわなわなと口を揺らしたあとに「バ、…お前が付けたんだろ！！」となんとか言葉を捻り出して叫んで)

えっ、最近は首に付けてないだろう、…もしかして、……やはり、そうか。
(見覚えのない首筋の絆創膏に触れると相手が急に後ろへ飛び退く。傷に障ったのだろうかとも思ったがその顔は一気に赤く染まっていて動揺しきった口振りで叫ばれると今度はこちらが困惑の声を上げる。確かに熱に溺れた時などに相手に痕を残すことはあるが見える所は避けているはずだ。盛り上がって煽られるまま噛み付いたりすることはあるが少なくともこの一週間は首につけた覚えがない。ありのままそれを答えるが今の反応は確かに痕をなぞった時と一緒だ。相手であるのに妙に噛み合わない会話は別次元の相手と対峙した時と似ている。先程ぼそぼそと聞こえた『想いを伝えたばっか』と言葉を思い返すと奇妙なオーロラも含めて一つの可能性に思い当たると確かめる為にデスク近くにある事務所のカレンダーを見に行く。そこには今よりもそこそこ前の月のカレンダーが吊るしてあってその月の覚えのある日付には二重丸と小さく『温泉旅行』と書かれるを見れば推測が当たっていることに興奮気味に一人呟きを零す。理由が解けた事と未知の経験にニヤニヤしながら相手の元に戻ってくると「翔太郎、どうやら僕は過去に来てしまったようだ」と告げて)