検索 2022-07-09 20:46:55 |
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…、同感だ。だな、テントも全然使ってねぇし、ゆっくりしようぜ
(最後の線香花火が穏やかな時間と共に終わって着火用のロウソクを消せば周りにある明かりはランタンだけになってしまった。あれだけ派手な音が響いていたのに辺りは今やすっかり森の静寂に包まれて相手と自分が発する音以外は木々の揺らめきと虫の鳴き声しか聞こえない。相手がしみじみとしつつも先程の自分と同じ感想を零せば、じわりと愛おしさが胸に滲んで軽く頬へと口付けて、こちらも立ち上がるとしゃがんで固まってしまった足を伸ばした。あとの時間は寝るのに向けて準備を整えつつゆっくりとした時間を過ごすだけだ。寝心地を確かめたっきりのテントもそろそろ活用してやらなければならない。同意するよう頷くと管理小屋の隣に設けられたシャワーを浴びるため必要なものを諸々用意し、ランタンを片手に持つと当たり前のように相手と手を繋いで夜の道を歩き始めて)
…これだけ真っ暗で静かだと別世界に来たみたいだ。…あれだね、
(相手から頬に口付けを受けると口元を緩めつつ立ち上がって寝る為の準備を整えることにする。今までやりたい事を詰め込んだようなものだがゆっくりする時間を楽しむのもキャンプの醍醐味だろう。持っていくものを一つに纏めると当たり前のように手が繋がれて管理小屋近くに向かう。所々にある電灯以外の灯りは相手の持つランタンしか無くて人影もない。外でここまで他人の存在を感じないのは初めてで無意識に手に力を込めながら辺りを見渡し思ったことを口にする。物珍しい夜の自然の中を進んでいくと管理小屋の灯りが見えてきてその隣に目的地である建物が見えた。近付いて表の説明を見る限り何室かシャワー室があって硬貨を入れると一定時間温水が出てくる仕組みのようだ。仕様を理解すると「終わったらここで待っておくというので良いかい?」とシャワーを浴びたあとの集合場所を決めて)
あぁ、こんだけ周りが静かだとほんとに世界から俺達だけが取り残されたみたいだよな……
(相手と並んで暗い森の中を歩く。いつもはそこらで感じる人の営みは全く感じられない、ただの林道となれば尚更周りに人気を感じられなくてまるで世界に二人ぼっちになってしまった気分だ。相手の方から強く手を握られるとこちらの存在をより伝えようと相手の手を包むように握り返してランタンの光を頼りに道を進んで行った。やがて管理小屋の灯りが見えてきてシャワールームが見えてくる。こんな山奥では温水も貴重だろう、手早く体を洗う必要がありそうだ。仕様を理解してから相手と再びここで合流するよう声を掛けられると「あぁ」と短く返事をして壁で区切られた個室へと入っていった。山の中にいて涼しかったとはいえある程度汗はかいていたらしく温水を浴びると体がさっぱりとする。体を洗うとやがて温水が止まってタオルで体についた水分を拭った。今日はシャワー後も外を歩くことを考えジャージ姿だ、タオルで頭を拭きながら外へ出て合流場所へ行くと相手が出てくるのを待って)
…ただいま、やっぱりシャワーだけでも浴びるとさっぱりするね。…いつもの寝巻きじゃなくて良かったのかい?
(非日常が続く空間の物珍しさを感じつつ目的地に着くと相手と別れて隣の個室に入る。キャンプと聞いて風呂が無い可能性も考えていたが暖かいお湯を浴びると気づかぬうちに溜まっていた汗や疲れが流れていくようで小さく息を吐いた。持ってきたシャンプーなどを使っていつもより手早く体と髪を洗っていく。一人でいれば何となく今日したことを振り返る時間にもなって楽しかったことを噛み締めていれば最後に流す途中で制限時間を迎えて急にただの水に戻る、なんて事も起きたが興奮で火照っていた体には丁度良かったかもしれない。体を拭いてTシャツにジャージというラフな格好で首にタオルを掛けて出てくると先にあがった相手の姿があって声を掛ける。外に出てくると穏やかな風が吹いていて風呂上がりには涼しい気候だ。シャワーを浴びた感想を告げつつ相手の服に目をやると昨日キャンプの荷物を詰めた時の会話を思い出し、日頃着ているお揃いの寝巻きでないことをからかい混じりに問いかけ)
、あんなモコモコなの外で着れねぇだろ。それに汚れちまったら困るし…
(タオルで髪をなんとなく拭いて乾かしながら頭上に広がる夜空を眺める。風.都とはまた違った空を見上げながらこの非日常の空間で相手と共に過ごした時間に思いを馳せていると程なくして体を洗い終えた相手が出てきた。相手もこちらと同じく今日はラフな格好であまり見ない系統の服に思わず口元が緩む。湯上りの風に吹かれていれば相手が寝巻きについて揶揄うように言及してきて思わず声を詰まらせた。いつもの寝間着を荷物に詰めようとした相手に外で過ごすことを考えクローゼットで眠っていたジャージを提案したのはこちらだが、同時にいつものお揃いではないのに少々寂しさを感じたのも確かだ。だがあの手触りのいい寝間着は明らかに外ですごすのに向いていない。荷造りの時と同じ言い訳をしつつチラリと相手の方をみる、外で過ごすことと相手が着ている服のことを思えば「お前が俺のジャージ着てるなら文句ねぇしな…」と呟くように言い、言ってからもろもろ恥ずかしくなって逃げるようにその場から勝手に歩き出し)
…へぇ、そんな理由だったとは。ならこの格好に異論は無い。 あ、翔太郎…!
(あまり着ることのない類の服を着て穏やかな風に吹かれながらも本来自分が持ってこようとしていた服について触れると相手が声を詰まらせる。その時に聞いたのはモコモコの材質は外で着るのに適さないという理由で外を出歩く時の格好を気にしたものかと思っていたが汚さない為と聞くと僅かに目を見開く。そこに込められた思いをなんとなく感じ取れば口角は上がって声を弾ませた。今身に付けているのは相手から借りたジャージで、色は違えども自分のモノを身につけていれば良いと呟きに愛おしさを覚えるとこの服にも愛着が湧いて満足そうな反応を見せる。一方で言っていて恥ずかしくなったのか一人歩き始めた相手の後を追いかけるとその手を掴んで来た時と同じ様に繋ぐ。「はぐれたらどうするんだい、」と文句を言いつつその口調は楽しげで夜風を感じながらテントサイトに戻ってきて)
追いついたからいいだろ
(いつもの寝間着を回避した理由を口にすれば相手の声が弾むのが分かって、まるでこちらの心理を見透かすような声色にますます恥ずかしさは募る。こんな外でお揃いの寝間着で並んで歩くのが恥ずかしいというのもあるが二人で買った特別で大切なお揃いをダメにしたくないというのが本音だ。代わりにと話題に出したジャージの方もうっかり本音を口から滑らせた形になってそそくさと歩き出す。追いついてきた相手は文句を言いながらも上機嫌に手を繋いでいる、当然本気で置いていく気はないのだから言い訳するように、恥ずかしさを隠すためぶっきらぼうな返事をしていた。テントサイトに戻ってくればあとは就寝までの時間を過ごすだけだろう、周囲の片付けは済んでいてやらなければならないことはない。ランタンを相手との間に掲げつつ「もうテント入っちまうか?」と問いかけて)
そうだね、やり残したことはないしテントでゴロゴロしよう。
(そそくさと去っていく相手に並んでテントの方に戻る。本気で置いていくつもりがないと分かっているからこそ口元は緩みっぱなしでぶっきらぼうな返事をする相手と繋いだ手を揺らすようなご機嫌さで林道を歩いていた。やがて二人で立てたテントが見えてきて到着を果たす。相手にこれからの予定を問われ、やりたいと思っていたことは粗方終わっていればテントに入ることに頷いて一旦手を離した。洗面道具を片付けると早速靴を脱いでテントの中に入る。ランタンを天井のフックに吊り下げるとテント内も温かな光に照らされて十分活動出来る空間となった。まだ眠くはないがすぐに寝られるように荷物を端っこに纏めていれば今日一度も使っていないバ.ッ.ト.シ.ョ.ッ.トを見つけ「今日は色々やることに夢中で写真を撮るのをすっかり忘れていた…」と少し残念そうにも呟いて)
そうすっか
(二人でテントへ帰る間も相手は二人で繋いだ手を気ままに揺らしていて、分かりやすく上機嫌な相手に胸を擽られながらテントへとたどり着く。相手にやり残しがないかも込めて問いかければテントへ入る選択がされて二人で中へと入った。ランタンを天井からかければそこそこテント内も明るくゆっくりと過ごすのにも問題なさそうだ。軽く荷物を整理していれば相手は何かを荷物から取り出していて目線を向ける、その手に握られていたのはバ.ッ.ト,シ.ョ.ッ.ト.で相手の呟きで今日一度も使っていないことをこちらも思い出した。自分達でやることが多く写真を撮る事まで頭が回っていなかったが、残念そうな呟きを聞けばその気持ちを晴らしてやりたくなってしまう。バ.ッ.ト,シ.ョ.ッ.ト.を相手の手から取ってしまうと「なら、今からたっぷり撮らねぇとな」と笑みを向ける。今日の思い出は記憶にしか残らないがそれならば今からでも写真を増やせばいい、それにまだ明日の朝の時間だってある。思いついたのならと早速バ.ッ.ト,シ.ョ.ッ.ト.を構えるといつもとは違う寝間着を着て非日常な空間であるテント内にいる相手の姿を一枚写真に収めて)
え、…ふふ、確かにそうだね。せっかくなら二人で撮ろう、翔太郎
(今までどこへ行ったり何かをしたりした時は決まってその思い出を残す写真を撮ってきたが今日は完全に忘れていた。それは普段やることのないキャンプやバーベキューの設営に集中したり二人の時間を十分に満喫したりしたからこそではあるのだが記憶だけでなく記録にも残したかったという気持ちがふと過ぎった。だが今更時間が戻る訳でもなく明日はちゃんと写真に残すようにしようと考えているとバ.ッ.ト,シ.ョ.ッ.トを取られて目を瞬かせる。当の相手は笑みを浮かべてバ.ッ.ト,シ.ョ.ッ.トを構えたかと思えば固まったままの自分を写真に撮られてしまった。相手の出した答えは至極シンプルで、だが一番自分が求めていることだ。緩く笑みを零して相手の案に賛成すれば自分が相手の側に寄って隣に並ぶ。カメラの面を自分達の方に向けてテントの背景と二人の服が見えるような画角を探し、良い所が見つかれば左手でピースを作り「はい、ポーズ」と言いながらシャッターを切って)
そうしようぜ。……ここでしか撮れねぇ写真だ
(相手がこちらの行動に追いつく前に写真を撮ってやれば画角の中の相手は随分惚けた顔をしていて、いつもと違う格好でいつもと違う背景と共に写真に収まっていてなかなか貴重な一枚となる。直後相手の顔には笑みが浮かんで胸の内がじわりと暖かくなった。写真のことを思い出さなかったのはそれだけこのキャンプ場での出来事に夢中になっていたということ、ならば明日は勝手を知った分もう少し余裕も出るはずで写真を撮る機会も出てくるだろう。相手が隣に来て一緒に撮ることを提案されれば即座に賛成して相手が構えたバ.ッ.ト,シ.ョ.ッ.ト.の方を見る。相手に合わせこちらも右手でピースを作ればシャッターが切られた。写真を確認してみるとお互い見慣れない服を着て少々薄暗いテントの中で同じポーズを取っている、ここでしか撮れないどころか今しか撮れない写真に満足気に笑みを浮かべた。相手の暗い顔が晴れたのが何よりも嬉しくて心のまま直ぐ傍にいる相手の頬に軽く口付けると「明日は料理してるとことかも撮らねぇとな」と期待を口にしていて)
ああ、楽しかったのが伝わってくる写真だね。…ん、まだ明日もやることがいっぱいだ。
(相手と横に並んでポーズを取りながらシャッターを切る。一緒に画面を覗き込んでみると薄暗いテントの中でラフな格好で映る2人の姿があって相手と共に笑みを見せる。今日行ったバーベキューや花火なんかの様子は写っていないが一日目が充実した時間であることが伝わってくるような表情だ。すっかり憂いは晴れて満足げにバ.ッ.ト,シ.ョ.ッ.トに見ていれば頬に柔らかな感覚がした。視線をやれば笑みを見せながら相手は明日への期待を寄せていて、こちらからも寄り掛かるように身を預けて同調の返事をした。外は相変わらず静かでランタンの光だけが照らすテント内は秘密基地に潜んでいる気分だ。「楽しみで眠れないかもしれない」とくすくす笑いながらちらり相手の方を見て)
それじゃ明日寝不足になっちまうだろ。…けど、もうちょっとこの夜を過ごしたい気分だ
(心のままに口付けを送れば相手がこちらに寄りかかってきて腰に腕を回してその体を引き寄せる。外で焚き火をしたり暗い道を歩いている時にもこの世で二人っきりのような感覚を覚えたが、この狭いテントで灯りひとつの下身を寄せあっている今も同じような気分になる。それはすなわちただただ相手の存在を感じ浸れる時間でもあってゆっくりと脱力するように息を吐いた。明日が楽しみで眠れないなんて子供のようなことを言う相手に緩くツッコミを入れるがもう少しこの秘密基地での時間を過ごしたい気持ちもある。ふとテントの窓部分、メッシュ生地になっている箇所へ目を向ければ真っ暗な森とその上に輝く星空が見える。風.都とはまた違ったこの空をゆっくり眺めたい気持ちに駆られれば「なぁフィリップ。ランタンの光消して寝転がって星見ねぇか?」と誘いかけて)
だろう?このまま寝てしまうのは勿体無い。…、良いアイデアだ!天体観測もキャンプの楽しみ方の一つのようだからね。
(相手に寄りかかると腰に腕が回されて2人の体が更にくっつく。相手が脱力するように息を吐くのを感じながらも明日への期待に胸を踊らせていると相手から緩いツッコミが入る。その後続いた言葉に乗っかるようにまだ寝たくないと主張し、何かやることがないかと考えていると相手から今の状況にピッタリのお誘いがかかってきらり目を輝かせると賛成を示す。キャンプの楽しみ方として星を見る事が挙げられていたのを思い出すとその事に触れながら早速吊るしていたランタンの光を消した。途端辺りは真っ暗になって殆ど見えなくなる。次第に目が暗闇に慣れてぼんやりと見えるようになると敷いたマットの上に寝転がる。メッシュの窓から空を見ると山の中である分街で見るよりも星空が綺麗に見えて「山の中だから星も多く見えるね」と興奮気味に感想を呟いて)
……真っ暗だな。…あぁ、風.都.の空と同じはずなのに違って見える
(この夜の過ごし方として星空を見るのを提案すれば相手の目がその星々と同じように輝くのが見えて思わず笑ってしまう。じっくりと夜空を眺めるのもそうそうない機会で寝転がりながら星空を眺めるのもキャンプならではの事だろう。早速相手がランタンを消せば途端にテント内は外と同じく暗闇に包まれる。しかし段々と目が慣れてくると星空の明るさが分かるようになってきた。相手と並んでマットの上に寝転がりピタリとくっつくと同じく窓から星空を見上げる。寝転がることで森の闇は視界からなくなり明るい星空をよく眺めることができる、風の街よりも空気が澄んでいるおかげかいつもより星の数は断然多くて改めて眺めた空に暫く見入ってしまった。多くの星が輝く分強い輝きはより見つけやすくて「織姫と彦星もよく見えんな」と夏の星座である二つの名
をあげて)
高度があって空気が澄んでいるってこともあるけど周囲に明かりがないから小さな星も見えやすいのだろうね。…ああ、ベガとアルタイルのことか。デネブも加えると夏の大三角と言われるくらい見付けやすくて有名な星だからね
(ふたり並んで寝転がって夏の夜空を見上げる。地上と違って空は多少離れようとも景色は変わらないはずだが何気なく街で見る夜空より格段に星の数も明るさも違って見える。この真っ暗さが最高の観測条件なのだろうと理由を推測しながら以前調べた星の知識と照らし合わせて空を見つめていた。相手が織姫と彦星の名前をあげて一瞬キョトンとするが一等星の和名として同じ物があったのを思い出すと納得したように頷く。多数の星の中でも特に輝いているその二つの間に街ではあまり見る事が出来ない星の集まりが観測出来ればその場所を指さしながら「あの間が七夕の話に出てくる天の川と呼ばれる星たちだ」と説明して)
…ほんとだ。こう見るとほんとに二人の間に流れる川みてぇだ
(こちらが七夕に因んだ名前を口にすると相手は一瞬間を置いてからどの星について言及しているかを理解する。相手は星の正式名称の方を覚えていたらしく、そんなところも相手らしいと小さく笑った。夏の大三角自体は風.都でも見ることができるがこんなに星々に囲まれているのは相手の言うように山の上にきたからこそだろう。星の解説を挟みながら相手が夜空を指さして、体を寄せるとその指がさす先を目で辿る。相手が指さしたのは天の川だ、薄ぼんやりとしたモヤのような光と小さな星々がベガとアルタイルの間に横たわっている。あの淡い光の塊も風.都,では見られないもので暫くその様子を眺めていたが、ふと七夕の物語が頭をよぎると「あんなに近くにいるのに川で分断されて年に一回しか会えねぇってのも酷い話だよな」と近くて遠い二つの星を見上げていて)
地球から見ると近い様に見えるけど二つの星は約15光年離れているから実際は年に一度というのも不可能に近い話だ。
(空を指さすと相手が更に身を寄せて一緒にその星空を観測する。二つの星の間には更に遠くにある星達が集まった銀河系が帯状に広がっていてその名の通り空を横切る川のようだ。滅多に見られない淡い光の輝きに目を奪われていれば相手が天の川にまつわる七夕の話を口にする。七夕の話は様々あるが川を挟んだ二人は年に一度、七夕の日にだけ会えるといった部分はどれも共通している。だが天文学的に考えれば二つの星は距離はかなり離れていてお互いが光の速さで向かったとしても八年近くはかかる計算だ。昔話に現実的観点を持ち出して指摘しながらふと自分に置き換えて考えるとちらりと横に並ぶ相手に視線を向け「年に一回か…、僕なら耐えられないかもしれない」と素直な思いを零して)
、そこは童話なんだから真面目に答えるなよ……あぁ、同感だ。すぐそこに見えてんのに会えねぇなんてありえねぇ
(相手と並んで寝転がりハードボイルドには有るまじき天の川に纏わる恋物語を思い起こしながら夜空を眺める。七夕の物語に思いを馳せていると相手から現実的な解説が入って思わずツッコんでしまった。そこは物語の都合でどうとでもなる部分だろう。自分の知っている話では恋にうつつを抜かしすぎた二人への罰で年に一度しか会えないようになる筋書きだったはずだが、それでも愛しい人と年に一度しか会えないのは今の自分では耐えられない状況だ。そんな飛躍した考え事をしていると相手からも同じ考えの言葉が聞こえてきて思わずそちらを見る。星空を見上げて織姫と彦星を自分達と重ねるなんてなんともロマンチストだが、それよりも相手も同じ考えである事の方が嬉しかった。同意する返事をして再び目線を星空へ戻す、物語の都合もあるのだろうが自分達で七夕の物語を置き換えるなら自分がやる事は決まっていて「俺なら無理やり川を越えてでもお前に会いに行くな」とぼんやりと広がる天の川を見つめながら口にして)
なんとも君らしい解決策だ。…まあでも、僕も決まりなんて破って君の元に行く方法を考えるだろうね。
(昔話に対して現実的な話をすれば予想通りツッコミが入るがもし同じ状況に置かれたらという話には同じ思いなのだと返事がされる。必ず年に一度は会えると考えれば幾らかマシなのかもしれないが大切な人とずっと居る幸せを知った今では耐え難い状況だろう。星に目線を戻した相手が何とも強引な解決策を口にしていてその光景を想像すると思わず笑ってしまう。二人を阻む川となれば大運河のような物だと思われるが相手ならばボロボロになりながらも渡ってきそうだ。そして恐らく自分自身も決まりや仕事を放り出して、どんな手段を取ってでも相手の元に行く方法を探すだろう。似た者同士の回答にくすくす笑いながら相手の手を手さぐりに探すと指を絡めるように繋いで二人の間で握りしめる。相手の温もりを感じながら「こうして隣に居るのが当たり前になっているから一週間でも参ってしまいそうだ」とぽつり零して)
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