相乗りで何処までも 【 〆 】

ん、…ありがとよ。なら先に風呂入ってくる
(今日はどうにも頭が回らない、やはり限界まで酷使した体では思考を通すことのない言葉ばかり出てしまう。相手から頭を撫でられた感触が未だ残っていれば尚更だ。一度出てしまったありのままの言葉を矯正することは難しく、慌てて言い訳を追加したが相手にはこちらの考えなどお見通しのようでこちらに同意するような言葉は返ってくるがその顔には楽しげな笑みが浮かんでいる。肯定されてしまえば変に否定もできず言葉にならない言葉を呻きながらレジへと向かうことになった。上機嫌な相手を隣に見ながら帰路へとつき家へとたどり着く、同じく帰宅の挨拶をしたあとハットやジャケットを脱いでしまえばゆっくりと息を吐き出した。家にたどり着けばまたひとつネジが緩むというもの、疲れた体では家に帰るだけでもホッとする。暫しぼんやりとしていれば相手から声がかかる、疲れている時ほど風呂は先に済ませてしまった方がいい。礼を伝えてから風呂場へ向かうといつもより重い体にむち打ちながら服を脱いで浴室へと向かった。シャワーを浴びればまたひとつネジが緩んでゆっくりと暖かいお湯を浴びる、十二分に体を温めたあとに浴室を出た。寝間着に着替えてバスタオルで髪を拭きながらリビングに戻ったもののこのまま椅子やベットで寛いでしまえば眠ってしまいそうだ、相手のオムライスを食べるためにもそれは許されない。そうなればとキッチンの方へ向かうと相手の料理の腕前を伺おうと「調子どうだ？」と近づいていき)

おかえり、ちょうどチキンライスが出来た所さ。…これくらいの味付けで良かったかい？
(今日は色んな意味で素直なようで先に風呂に入ることを勧めると相手は頷いて風呂場に向かっていった。身体が温まると眠くなってしまうのを考えればこの間にさっさと作ってしまった方が良い。玉ねぎをみじん切りにし、鶏肉と野菜なども均一の大きさに刻むとスープ用の鍋とフライパンに分けて炒めていく。人参、玉ねぎ、鶏肉に火が通ってしんなりした所で先にケチャップを入れて水分を飛ばし、バターと解凍したご飯を入れて混ぜていく。鍋の方も染み出したベーコンの脂で野菜を炒めてから水を注ぎコンソメを入れて煮込む。チキンライスに塩コショウで味を整えた所で相手が緑の寝巻きで風呂から出てきてこちらにやってきた。出迎えの言葉を掛けながら手元の調理状況を見せる。初めてにしては良い感じの進捗だろう。だが肝心の味の様子が気になると引き出しからスプーンを取り出し一口分チキンライスをすくうと軽く冷ましてから味見をお願いするように口元に運んで)

…………ん、おぅ…、
(眠気が襲い来る前にと相手のいるキッチンへ向かえばその光景をしばらく見入ってしまった。野菜を切ったであろうまな板と包丁、火にかけられたフライパンと鍋からは調理中の料理が顔を覗かせて良い香りが周囲へと放たれている。そんなキッチンの前に相手が立っていて相手の手が届く範囲全てにあるものが自分のために用意されたものだ。相手が自分のために料理を作ってくれるという行為がどれだけ自分のためを思ってのことか、このキッチンを見るだけでも大いに伝わってきて胸は暖かいものでいっぱいいっぱいまで満たされた。それに加えて味までこちらの好みに合わせてくれようと味見のためにスプーンでチキンライスを差し出されるとたまらない気持ちになって胸が鷲掴みにされる。差し出されたチキンライスを口にする、細かく切られた具材とご飯がケチャップでまとめられて甘みも塩加減もちょうどいい。膨れ上がった思いは言葉で伝えるだけでは物足りない、しかし料理の邪魔をするわけにもいかず無言で相手の背後に回ると後ろから腕を回して相手を抱きしめた。ゆっくりと深呼吸しながらこの空間と相手を抱き締める幸せな心地を味わったあと「めちゃくちゃ美味い…」と小さく口にして)

…なら良かった。卵の方も仕上げてしまうからちょっと待っててくれ。
(手順通りに事を進めても技術の方は本を読むだけでは習得出来ない部分がある。これで大丈夫か確認するためにも傍に来た相手にチキンライスの味見を差し出した。口にした相手の反応を伺っていると何も言わずに背後に移動してしまって目を瞬かせる。気に入らなかっただろうかと一瞬不安になるがぎゅっと後ろから腕が回されると微笑みが零れた。相手の温もりを感じながら幸せを噛み締めるような声で感想が伝えられるとこちらまで胸が温かくなって肩に乗った相手の頭を軽く撫でる。このまま抱きしめたい気持ちに駆られたがオムライスを仕上げるのが先だ。若干動きにくいものの抱きしめられたままボウルに卵をといて少し牛乳も加える。チキンライスを二つの皿に別々に盛って準備を整えると中火に熱したフライパンにバターを入れて溶かす。ここからがオムライスにおける腕の見せ所だ。呼吸を整えてから卵液を一気に入れて数度大きく混ぜる。火の通り方を見ながら程良い半熟になった所で火から離しチキンライスの上に乗せれば完成だ。もう一つも同じ手順で卵をふわとろの半熟にして乗せることが出来ればその出来栄えに「初めてにしては中々理想的な仕上がりだ」と自慢げな顔で相手に見せ)

……あぁ。食うのが楽しみだ
(相手から受け取った想いは既に抱えきれないほど大きくてキャパオーバー気味に相手へと後ろから抱きつく。味見の感想を伝えればまた軽く頭が撫でられて思わず抱き締める腕に力が入り軽く擦り寄った。このまま抱きしめていたい気持ちに駆られるがそれでは相手が作るオムライスを食べられなくなって本末転倒だ。腕の力を緩めるもどうにも離れる気にはなれなくて、相手の動きを邪魔しないよう後ろに緩く抱きついたまま調理を見守ることにする。皿に暖かいチキンライスが盛られて良い匂いが漂う中、バターが溶けたフライパンに溶き卵が注がれる。そこからはあっという間で手早く半熟に仕上がった黄色い卵がチキンライスを覆うように置かれて思わず「おぉ、」と呟きながらきゅっと相手に回す腕に力が入った。同じ要領でもうひとつの卵も良い半熟具合に仕上がってチキンライスに乗せられると見た目で既に美味しいオムライスが二つ並んだ。自慢げな顔で料理の出来をこちらへ報告する相手にまた胸を掴まれると間近にあるその自慢げな顔の頬へ軽く口付けを送った。相手が作った特別なオムライスにいてもたってもいられなくなれば「先にオムライス運んどく」と出来たての二つの皿を持つとリビングへと持っていって)

…ん。 ああ、頼んだ。
(後ろに抱き着いたままの相手は調理を見守る間も声を漏らしたり腕に力が込められたりして何だか擽ったい気持ちになる。相手の温もりを強く感じながらオムライスを仕上げ、その出来を見せれば頬にキスが送られて幸せと共に口元が緩んだ。相手がオムライスの皿を運ぶのを申し出るとその役割を任せてスープの器を取り出す。サイコロ状の野菜が入ったコンソメスープも良い感じに煮込まれているようでこちらも二人分の器に注いでスプーンと一緒にリビングに持っていく。相手が運んでくれたオムライスの隣にスープをそれぞれ置けば今日の夕食の完成だ。「出来たての内に食べようか」と相手に声を掛けて席に座ると「いただきます」と手を合わせるがまずは相手の反応が見たくてこちらはまだ手をつけずに相手が食べる様子を見守っていて)

あぁ。せっかくお前が作ってくれたんだ、一番美味い時に食わないとな
(ケチャップの良い匂いを放っていたチキンライスがトロトロの半熟卵に覆われて完成したオムライスにいやでもテンションはあがって上機嫌なまま二つの皿をテーブルへと運んだ。用意をしている間に相手がスープを運んできて夕食のテーブルが完成する。相手が作ってくれた料理が並ぶ光景をみればまたすぐに嬉しさで胸はいっぱいになってしまって、無意識に笑みを浮かべながら肺いっぱいに美味しそうな匂いを吸い込んでいた。椅子に座ると早速「いただきます」と手を合わせる。まずはリクエストのオムライスを、と思ったがふと思い立って動きを止めた。オムライスは最後に黄色の卵の上に赤いケチャップをかけて完成する、疲労して先にお風呂に入らせてもらって料理まで作ってもらった体はすっかり相手になにかしてもらう嬉しさに溢れて、それでいてもっとと欲張りになってしまっている。ちらりと相手をみれば「なぁフィリップ、オムライスにケチャップかけてくれねぇか？」とさらにリクエストをしてみて)

…翔太郎？ 、そういえば魔法を掛けるのを忘れていたね
(席に着いて二人で食事を囲む。一緒に手を合わせてまずは相手が自分の作ったオムライスを食べる瞬間を見ていたいと目を向ける。だが相手は急に動かなくなってしまって不思議そうに名前を呼ぶ。すると相手と目が合ってケチャップをかける要望がされるとぱちりと目を瞬かせてから嬉しそうに口角を上げた。大きく味に影響しないはずの仕上げも自分にして欲しいと願うのが愛おしくて堪らない。以前メイドさんとして落書きをした時と同じ言い方をしながらケチャップを手に取って立ち上がる。わざわざ相手の横に来て一度皿をこちらに寄せると少し悩んでから『しょうたろう』とケチャップで相手の名前を描く。「よし、」と満足そうに呟きを零して皿の位置を相手の前に戻すと「君だけの特製オムライスの完成だ」と告げて)

……へへ。…ありがとな、フィリップ
(こちらからリクエストを送ると相手は目を瞬かせたあとに口角をあげる。臨時のメイドさんをやった時と絡めて魔法だと言われると照れくさそうに目線を泳がせる、それこそ最後にケチャップをかけるだけなんて味には影響しないのだがきっと相手にかけてもらった方が美味しくなるはずだ。そういう意味ではまさに魔法みたいなものだろう。相手が隣へ来ると自分の目の前でオムライスにケチャップがかけられていく、その赤い線はやがて自分の名前になってますます照れくさいのにとびきりに嬉しい。顔はすっかり緩くなってしまって締まりのない顔を浮かべながら子供っぽい笑い声をもらす。相手が自分のためだけに作ってくれた特別なオムライス、自分の名前もかかれてさらに特別感は増して隣にいる相手を締まりのない顔のまま見上げると礼を伝えた。今度こそスプーンを手に取ると『し』のところを少しだけ削るようにして一口分をすくい取り口へと運ぶ。味見をしたチキンライスに更に半熟の卵が加われば想像以上の美味しさで思わず目を瞑って唸ると「めちゃくちゃうめぇな！」と口を緩みっぱなしで声をあげて)

お口にあったようで何よりだ。…うん、いい感じの味付けで卵も程良い半熟になってる。
(強請られるままケチャップで相手を書いて見せれば隣で子供のように笑っていてふわふわと暖かい幸せに包まれる。ただ名前を書くだけでこんなに喜んでくれるなんて心が許されている証拠のようで口元が緩む。同じく緩んだ顔でお礼を言われスプーンを手に取ったを見ればその様子を見守る。端っこを削るようにすくったオムライスが相手の口に運ばれると美味しいといった感情を全面に出したリアクションが返ってきて満足げに笑う。この反応ならば作って大成功といえるだろう。一通りの反応を見届けることが出来れば心を弾ませたまま自分の席に戻る。自分のオムライスには適当にケチャップをかけてひとすくい分口に運ぶ。名店のレシピを参考にしただけあって絶妙な塩加減と甘みだ。卵の半熟加減も程よくて自分の手応えと調理結果を照らし合わせるように呟く。続いてスープの方も手をつけるが間違いのない味でオムライスに添えるものとしてはピッタリだ。上々の仕上がりに声を弾ませながら「元気出そうかい？」と尋ねて)

…あぁ。明日からまた元気に走り回れそうだ
(相手が作ってくれた料理の感想を口にすれば相手にも満足気な笑みがうかぶ、相手が笑顔を見せてくれる瞬間はどんな形であれ嬉しいものだが、こちらが笑って相手も喜んでくれるのならばこれ程幸せなこともない。相手も自分の席に戻って一緒にオムライスを食べ進める、スープの方もコロコロとした具材にいい具合に火が通ってオムライスと共に食べるにはピッタリの味付けだ。相手も自分が作った料理の出来に満足しているようで検証結果を呟いている、調べたことを実行できて何よりといったところか。相手が作ってくれたものを食べているという事実で終始ご機嫌にオムライスを口へと運んでいると相手から質問が飛んでくる、これほどに愛情の詰まったものをもらって元気にならないわけがない。相手に向かって元気よく、それこそハーフボイルドが如く感情を表に出しながら返事をしていた。これほどしてもらったのだから少しくらいは返さなければと思い至れば「美味い飯も食ったし片付けは俺にやらせてくれ。その間に風呂入ってこいよ」と申し出て)

それならば作った甲斐があるというものだ。これぐらいなら材料さえあればすぐ作れそうだしまた何時でも作ってあげよう
(自分の作ったものを喜んで食べてくれるというのは相棒として頼りにされるのとはまた違った充実感があっていつも以上に美味しく感じながら食べ進めていく。その最中今回の大きな目的であった疲労回復の促進について問いかければ事務所に出る時は無かった元気な声が聞こえてきて思わず笑い声が零れた。相手がこうやって喜んで仕事の疲れが癒えるのなら多少面倒でも作ってよかったと思う。実際今回作ってみたがさほど特別な材料を使うわけでもなくスムーズに作ることが出来た。これからも今日のような日が出てくるだろうと容易に想像がつくとこれからもリクエストがあればオムライスを作ると上機嫌に宣言しておく。そうしてオムライスとスープを食べ進めて残り僅かになったところで相手から片付けが申し出される。予定では自分が片付けをして相手にはゆっくりして貰おうと思っていたが相手の気持ちは無下には出来ない。最後の一口を食べてしまうと手を合わせたのち「なら片付けはお願いするよ、お風呂入ってくる」と告げ浴室に向かって)

なら、また疲れちまった時にはお願いするかな
(相手の料理を食べて腹も心も満たされればデスクに突っ伏していた時の何もかもやる気が出ない時とはまるで違う心持ちになっている。相手に自分の好物を作ってもらう事がこんなにも嬉しいことだなんて思いもよらず、オムライスを食べてすっかり調子を取り戻すことが出来ている。これから探偵を続けていけば今日みたいな日はいくらでもやってくるだろう、そんな日には相手のオムライスがあればすぐに活力を取り戻すことが出来そうだ。相手も同じ考えのようで、何時でも作ると宣言がされれば次の機会に期待を寄せつつ返事をしておいた。あっという間に自分のために用意されたオムライスとスープを空にしてしまえばしばらく幸せな心地に浸る。手を合わせた相手を浴室へと見送ったあと、テーブルの上を片付け調理器具と共に洗い物を済ませてしまう。疲労困憊のこちらに代わり自分好みのものをひとりで作ってくれたのだからせめてこれくらいはお返ししなくては。洗い物が終われば今日やるべきことは大体終わってしまって相手を待つため座り心地を優先してベッドに腰掛けた。精神は元気になったものの体の疲労は完全に取り切れていなかったらしく、ゆっくりと眠気が襲ってくるとうつらうつらとし始める。やがて完全に瞼が閉じると頭を時折揺らしながら夢と現実の間をさ迷っていて)

__…ただいま、って眠いなら待ってなくても良いのに。
(また一つ二人の間に約束のようなものを結んで浴室に向かう。気力は戻っていたように見えたが身体の疲れは寝ないと取れる物では無い。今日は早く寝かしてしまった方が良さそうだといつもより手早く髪と身体を洗い、程々に温まってから浴室を後にした。相手に余計な気をかけない為に髪も適度に拭いて紫の寝巻きに着替えてからリビングに戻る。帰ってきた旨を声を掛けながら相手の方に目を向ければベットに座ったままうつらうつらと船を漕いでいる。どうやら半分程寝てしまっているらしい。眠たいのならベットに横になって先に寝ていれば良いのに律儀に自分が上がってくるのを待っているのが相棒らしい。呆れと嬉しさの混じった笑みを浮かべながらそっと近付くと半分寝かけているような相手の肩をポンポンと叩き「翔太郎、寝るならちゃんとベットに横になって寝たまえ」と優しく話しかけ移動を促して)

ん、……あぁ、フィリップ……いい匂いだ…
(夢と現実の間をうろうろとしていると誰かに肩を叩かれて目を開ける。だが肩に置かれた手の温もりとふわりと香るお揃いのシャンプーの香りですぐにそれが誰かは分かって、相手の方を見あげれば眠気眼のまま緩い笑みを向けた。風呂上がりの相手からはシャンプーもボディーソープもよく香ってきて意識が沈みかけている体にはさらに心地よく感じられて思考を介さない感想が口から漏れ出ていた。自分が寝かけていた事はあまり理解しておらず、ベッドに横になるよう言われると「おぅ」と素直に従って緩慢な動作でベッドへと上がる。当然のように相手のスペースを作れば疲労と心地良さで揺れる体はすぐに相手の体温を欲しくなってしまって、両腕を広げると「フィリップ、」と覚束無い口調で相手を呼んで)

、風呂から上がったばかりだからね。…翔太郎、これで良いかい？
(起こすのも少し忍びないが相手に声をかければその目が薄らと開く。まだ微睡みの中にいるのか口調も柔らかく緩みきった表情は自分にしか見ることの出来ないものだろう。お揃いの香りについて言及されるとその理由を説明してやるがあまり理解出来てないようだ。ベットに寝ることを促すと素直に応じて一人分のスペースを作って奥に転がる。その場所に招くように両腕を広げ名前を呼ばれると胸をぎゅっと掴まれたような気分で名前を呼び返しながらベットに転がる。相手の傍でありその腕の中に収まるような場所にやってくればこちらからも背中に片腕を回して軽く抱き寄せる。もう片方の手を後頭部に回してゆっくりとそこを撫で始めながら相手の様子を伺って)

ん、あぁ……フィリップ、俺のためにオムライス作ってくれてありがとう。俺が全然動けねぇからいろいろしてくれて……すげぇ嬉しかった
(こちらが名前を呼んで相手を招くとすぐに相手はこの腕の中に飛び込んできて風呂から上がりたてのより暖かい体温を包み込む、相手からも腕が回されその体温とお揃いの香りとに包まれれば頭がゆっくりと撫でられて、その気持ちよさに軽く息を吐きながら身を委ねていた。相手とピタリとくっついて体温を共有すれば今日一日のことを思い返す。一日走り回って散々な日かと思ったが、事務所を出てからこのベッドに横たわるまで相手からの想いを山ほど感じて実に幸せな日だった。今日だけで何度胸がいっぱいになって頬をかいたか分からない。その幸せをくれた存在が今腕の中にあって目の前にいる状況なら自然と心は動いて相手と目線を交える。思考は相変わらず覚束無いが溢れる気持ちは置いておくことができず緩い笑みを浮かべながら感謝を伝える。今日相手がしてくれた事を思い返せばまた胸はキャパオーバー気味になって不意に目線を逸らして笑うも、結局はその気持ちは押さえられずにゆっくりとした動作で唇を重ねる。すぐには離さずに途中から収まらない気持ちを発散するように相手に回す腕に力を込めていて)

当然のことをしたまでだよ、君は僕の大切な相棒で、恋人なのだから。…ん、
(相手の元に飛び込むと両腕で包み込まれて風呂上がりの暖かい体温を共有する。労るように後頭部を撫でていれば脱力するように息を吐くのを感じて小さく笑みを零した。そうしてお互いの存在を感じていれば相手の目線がこちらを向いて緩い笑みで感謝が伝えられる。だがそんな大層なことをしたつもりはなく、大切な相手が困っているのなら支えになって助けたいという想いとちょっとした下心故だ。頭を撫でながらその事を伝えるがそれでもここまで喜んでくれたのなら素直に嬉しい。柔らかな笑みを湛えながら相手を見つめていれば不意に相手の目がそらされるがゆっくりと近付いてきて唇同士が重なる。直ぐには離れて行くことなく寧ろ強く抱きしめられてしまえば嬉しそうに目を細めて撫でていた手を後頭部に添えて時折角度を変えながら長くキスを続けた。やがてゆっくりと唇を離すとその瞳を見つめながら「自分の体をちゃんと気遣って欲しい気持ちはあるけれどこの街の為に頑張れる君が好きだよ」と優しく囁いて)

フィリップ……褒められるためにやってるわけじゃねぇけど……でも、お前にそう言われるのすけぇ嬉しい
(こちらから感謝を伝えれば相手からは当然だと答えが返ってくる。大切な存在だと、何度口にして相手から聞いたか分からない言葉なのに、ベッドに沈み頭を撫でられ浮遊感に漂うこの体にはいつも以上にその言葉は沁みて、照れくさそうに笑みを浮かべてただただ名前を呼ぶ。いっぱいいっぱいになった気持ちを少しでも伝えるために唇を重ねれば後頭部に掌が添えられて暖かな体温により包まれると重ねたままの唇が弧を描く、ゆっくりと唇が離れるも幸福に溢れた気持ちは変わらずに緩んだ顔でこちらを見つめる目と視線を交えた。そして優しく褒め言葉と共に好意が伝えられるとこの胸はより一層華やいで相手に回した手で紫の寝間着をギュッと握りながら褒められたのを喜ぶように子供っぽく笑った。賞賛を受けるために街を走り回っているわけではないが、大切で大好きな人がそんな自分の行動を見ていてくれているのが特別に嬉しい。相手への気持ちは溢れて止まらなくて大好きな人の顔をじっと見つめてゆっくり背中を撫でる、そのうちそれでは足りなくなってこの大好きを伝えるためにまずは頬へと口付けを送った。ひとつでは当然足らず、体を乗り出すと耳朶、首筋、目尻、額、思いつくかぎりの場所にキスを降らせ再び唇へと戻ってきて唇を重ねると、最後に相手の唇を食むように甘噛みしてから顔を離して「へへ、」と悪戯が成功したと楽しげに笑っていて)

君がこの街のために力を尽くしているのは隣にいる僕が一番知っているからね。…ん、悪戯っ子には仕返しだ
（いつも以上に緩んだ顔の相手を見つめながら今日一日頑張ったことを褒めて好意を寄せれば回された手で寝巻を握られ無邪気に喜ぶのが分かる。相手はただこの街とそこに住む人の幸せのために働いて見返りを求めていないことは十分に理解している。だがこうやって疲れ切った時ぐらいは一番傍にいる人物として相手の頑張りを目一杯褒めて甘やかしてやりたいと思う。じっと見つめられる視線と目を合わせたまま柔らかな笑みを浮かべて再び後頭部を撫でながら褒め言葉を重ねる。ふわふわと心地良い幸せに浸っていると頬に相手の唇が触れてそれを皮切りに耳朶や首筋、額など見えている範囲に柔らかなキスの雨が降ってくる。くすぐったさを覚えながら目を閉じ、腕に力を込めて嬉しそうに受け止めていたが唇が重ねると今度は不意に食むような動きで硬さを感じる甘い刺激が広がった。小さくぴくりと反応して瞼を開くとそこには楽しげに笑いを見せる相手が居て胸が掴まれるような感覚がすれば後頭部を引き寄せ今度はこちらから唇を重ねる。真似をするように相手の唇を甘噛みしてそこを慰めるように軽く舌を這わせた。そのままゆっくりと離れると微かに灯った熱を誤魔化すように相手を抱きしめ直して「そろそろ寝るよ、翔太郎」と背中を撫でながら囁いて）