相乗りで何処までも 【 〆 】

くく、……ならそこにあるの取ればいいじゃねぇか
(目はバッチリあった状態で次々とミカンの房を口のなかに放り込んでいく。途中でこちらがミカンを渡す気配がないのを察したのか相手は上半身を起こした。それでも目を合わせたままミカンを食べ進めると相手の顔は不満気なものに変わっていって分かりやすい変化に思わず笑い声を漏らす。とうとう痺れを切らしたのか再びミカンを所望されコタツの中で足をつつかれる、可愛らしいアピールに心は揺れるがその分もう少し悪戯を続けたくなってしまって最後のひと房も食べてしまった。欲しければ自分で取ればいいとすました顔で言えば、袋から二つみかんを取り出してひとつを体を伸ばせばギリギリ届く位置に置いてやった。もうひとつは手元に持ってくると皮を剥いて目立ったスジをとり、半分に割るとまたひと房を口の中に放り込んで「んーコタツで食うミカンはやっぱ最高だな」とわざとらしく言って相手の方をちらりと見やり)

あ。 …翔太郎の意地悪、…！……、
(不服なのをアピールすれば相手が笑い声を漏らして完全にこの状況を楽しんでいるのがわかる。足をつつきながらミカンを所望するが目の前で最後の1つを食べられてしまえば目を開いて声を上げた。代わりにミカンを机に置かれるがそれも自分のすぐ側ではなくわざわざ腕を伸ばさないと取れない場所だ。加えて相手は自分の分を手元で剥き始めてわざとらしくミカンの感想を伝えてくるとますますむすっとした表情になり拗ねた言い方で相手に文句をつける。あの様子では渡してくれなさそうで仕方なく少し遠くに置かれたミカンに手を伸ばす。ただ腕を伸ばすだけでは届かず、だがコタツからは出たくない気持ちと葛藤すればギリギリの所を指先が掠める。外に出るのが最小限になるようにしながら頑張っていればやっとミカンに手が届いてぱっと表情を明るくして自分の元に手繰り寄せる。これで念願のミカンは手に入ったのだが意地悪された分ご機嫌は斜めに戻ってちらり相手を覗き見るとミカンを持って胸辺りまでコタツに潜り込む。もぞもぞと動いてうつ伏せの状態になり相手に背を向けると不貞腐れたように床に肘をついてそこでミカンの皮を剥き始めて)

なんか、猫みたいだな。……あ、…
(相手に対する悪戯心は止まらなくてミカンをわざと届かない所におきそのまま観察していれば相手の表情はますます拗ねたものになって、その様子に口元が緩んでしまいそうになるのを必死に抑える。そのままミカンに手を伸ばすもギリギリ届かず狙った通りの事態になれば必死な相手に対して呑気なことを言いながらまたひと房ミカンを食べていた。ようやくミカンを手にした相手の顔は明るくなりその様子をじっと観察していたわけだが、相手の顔がこちらに向いたかと思うと再びご機嫌ナナメになり、ついにはそっぽを向かれてうつ伏せになってしまった。その一連の拗ね方だって可愛らしいのだが流石に意地悪しすぎてしまったようだ。これは一刻も早く機嫌を取らなければならない。ミカンを手に持つとこちらもモゾモゾ
と動き出して体をずらすとコタツの中へと入り込んでしまう。窮屈な中体を捻ると相手の隣へと移動してコタツの中から同じくうつ伏せの状態で上半身を出した。そのまま肩に腕を回して体を引き寄せ片方の足を軽く擦り寄せながら「悪かったってフィリップ、お前の行動が面白くて」とあまり謝罪になっていない謝罪をして)

……、本当に悪いと思ってないだろう。
（依然楽しそうに様子を眺め猫扱いする相手に不満をアピールするようにコタツに更に身体を埋め、うつ伏せになってそっぽ向く。これで意地悪な相手を気にせずミカンを独占できるだろう。相手が短く声を上げたのは気にせず皮を剥いて大まかなスジを除いているとコタツの中で何か大きい物が動いている気配がする。それでも知らぬ顔をして手頃な大きさになるように房ごとに割っていれば隣から相手の上半身が出てきて肩に腕が回される。くっついた体はコタツのせいか普段よりも暖かく、同時に安心できるような温もりでこちからも擦り寄りたくなってしまうが今の状況を考えればぐっと我慢して相手の方に視線を向ける。軽い調子の謝罪に未だ不貞腐れた口調で言葉を返してはじーっと相手を見つめる。だがコタツと相手の体温で心地良い暖かさに包まれるとつんけんとした態度も徐々に溶けていき「翔太郎」と名前を呼ぶと一度みかんの方に視線を向けてから相手に戻し何かを促すように軽く口を開いて）

そんなことねぇって。……ん、
(コタツの中を経由して相手の隣にやってくるもこちらに向けられた視線にはまだまだ不満が残っている。謝罪をはさんでみるも不貞腐れた口調で言葉が返ってきてこれは相応のなにかで機嫌を取らなければならないようだ。だが相手に意地悪したくなってしまいそれを見て満足していたのだから強く否定もできずこちらを真っ直ぐ見つめてくる相手に視線を交えながら返事をするもやはり軽くなってしまう。どう機嫌を取ろうかと思っていれば名前を呼ばれその視線は一度ミカンへと落ちまた戻ってくる、先程のオネダリを叶えて欲しいようだ。不貞腐れても望みが同じなのにまた胸が擽られると口が緩みそうになるがここで笑えばさらに怒られてしまいそうだ。無理やり口を引き締めながら肩に回していた腕を下へ滑らせ腰へと据える。そして自分で持ってきていたミカンをひと房取り外すと自らの口に咥え、相手の口元へと差し出して)

…、……ん、…
（相変わらず返事は軽い調子で再度目線だけで先ほどと同じものを所望すればその口元は何かを我慢するように結ばれる。大方考えていることは読めるが腰辺りに手が添えられると今回こそはちゃんと与えられるのに期待して言及せずに大人しくその時を待つ。要望通り相手は持ってきたミカンの一房を手に取るが今度は口に咥えた状態で差し出されて思わず目を丸くする。だが待ち望んでいた存在が二つ目の前にあれば誘われるように顔を寄せ、まずはミカンの端を咥えてそのまま口内に含む。薄皮を噛めばみずみずしくも甘酸っぱい味が感じられて口元が満足げに緩んだ。先ほどよりコタツに入っている面積が広がり、更に身体に染み渡るようなミカンの味を堪能しながら更に顔を近づけると唇を重ねる。柔らかな感触に胸に幸せが広がりながらも先ほど受けた悪戯の仕返し代わりに相手の下唇を軽く甘噛みして）

……、…んっ、……仕返しされちまったな
(口にミカンを咥えて差し出せば分かりやすく相手の目が丸くなる、先程から忙しない表情の代わりようだ。目の前に所望したものが差し出されば素直に相手の顔が近づいてくる。そのままミカンを口渡しすると相手の口元が緩むのが分かる、ようやく機嫌を取り戻せたようだ。そのままさらに顔が近づけば唇が重なった。ミカンを食べたばかりの相手の唇は僅かに甘酸っぱい。その柔らかさと味に浸っていると相手の唇が滑ってそのまま下唇を甘噛みされる、柔らかな食感とは違う淡い痺れに腰に回していた手に力が篭ってしまった。唇を僅かに離して楽しげに降参だと言わんばかりに軽く首を傾げる。無事相手に笑みが戻ったわけだが先程僅かに感じた甘酸っぱさをコタツの温かさと相手の温かさ両方を感じながら楽しみたくなってしまって顔を付き合わせたまま「俺も、ミカン食いてぇな」とじっと相手を見つめつつミカンを所望して)

ミカンの美味しさに免じてこれくらいの仕返しで許してあげよう。…、仕方ないな
（温泉街に来て初めてのキスを楽しみつつ下唇を甘噛みすれば腰に触れる手に力が籠る。その反応に胸に温かな物が広がるのを感じつつそっと唇を離すと間近で相手を見つめる。我ながらこれだけで機嫌を直すとは単純だと思うのだがそれだけこの空間が居心地が良いのだから仕方ない。軽い笑みと共に上から目線の言葉を続けてそれを誤魔化していると今度は相手からミカンを所望される。わざわざ自分に強請る姿が愛おしくて呆れた口調ながらもその口角は上がりきったまま自分の剥いたミカンを一房手に取る。先ほどの真似をしてその端っこを咥えて相手の方に差し出すと「ん、」とここから取るように促して）

それなら何よりだ。……、……
(いつもの上から目線な言葉が降ってくるがその口には笑みが浮かんでいるのだからそれだけでこの発言も許してしまうというものだ。ミカンを所望すれば呆れた口調が飛んでくるがこちらの数少ない願いを相手が叶えないわけがないのは分かりきっていて、先程相手が剥いたミカンが同じように口に咥えられ差し出される。腰に腕は回したままこちらから顔を近づけミカンを口に含むもそのまま唇を擦り合わせるように口付けを送って、ゆっくりと離れながらミカンをいただいた。房を破れば甘酸っぱい果汁がいっぱいに広がる、この味を少しでも分けてやろうと再び顔を近づけると相手の唇の隙間を果汁が残る舌で軽くなぞった。自ら望むままに行動したあとに今まで我慢した分が遂に決壊して思わず笑ってしまう。ぬくぬくとしたコタツの中でお互いミカンを食べさせあうなんて最高に自堕落だが、それを相手と共有し享受している時間があまりにも幸せだ。コタツの温もりだけではないものを胸いっぱいに抱えながら相手の後頭部に擦り寄ると「いい時間だな」と零して)

…美味しいかい？…ン、甘酸っぱい味がする。…ああ、幸せだね。
(求められるまま咥えたミカンを差し出すと相手から近づいてきて軽い口付けをしながらそれを渡す。近いままの距離の相手に問いかけると答えの代わりにまた顔が寄ってきて唇の隙間を舌がなぞると小さく声を零す。舌がなぞった場所は微かに甘酸っぱい味がして二人でないと味わえないミカンの味に満足げに笑みを見せる。ほぼ同時に相手も笑い出して二人の空間に穏やかな時間が流れる。こうしてダラダラ過ごすのも普段はあまりなく、ぬくぬくとコタツの中に入って他の事を考えずに二人で過ごす時間は何とも贅沢だ。相手が後頭部に擦り寄ってくるとその温もりに笑い声を漏らして同意するように相槌を打つ。身体の向きを変えて相手の背中に腕を回しながらこちらからも相手に擦り寄ると見知った体温と匂いに暖かな幸せが満ちて思ったままを呟く。程良い温かさと居心地の良さは眠気を誘って「このままだと眠ってしまいそうだ」と堕落した発言をして)

お前とダラダラするってのがこんなに幸せだとは思わなかった……だな、居心地良すぎるし……
(こちらが耐えきれなくなって笑い声を漏らせば相手からも同じような声が聞こえる。ただミカンを食べてゴロゴロしているだけなのに体だけでなく心までもがこんなに温かい。相手の体の向きが変わって背中に腕を回されるとこちらも相手の方を向くように体勢を変えてお互い向かい合うようにして寝転がる。相手が穏やかな口調でこの空間を幸せだと口にすればこちらの胸に言いようのない幸福が満ち溢れる。相手が幸せだと思ってくれているのなら何より自分も嬉しいのだから。腰に回していた手を上に持ってきて相手の後頭部に添えるとゆっくりそこを撫でる。いつもならば寝てしまう前にここから動こうと提案するところだが、すっかりコタツと相手によってダメにされてしまった体はその思考へ至ることはない。何より今はこの温もりを手離したくなかった。だらけきった心が出した結論は「ちょっとだけ寝るか」と惰眠を貪る選択で相手の顔を覗き込んで様子を窺い)

…そうしようか。慣れない雪の中を歩いて疲れているだろうし、ここで過ごす時間はまだまだあるから、
(何もしない時間など過去の自分なら無駄だと切り捨てていそうだが今は何物にも代えがたいくらい幸せな時間だ。向きを変えて愛おしい存在に軽く抱き着くと相手も向きを変えて向かい合うような形となる。身体も心も心地良い温もりに包まれてありのままの願望が口から零れるとそれを肯定するように後頭部を撫でられてますます身体から力が抜けていく。せっかくの旅行なのにとかここで寝たら身体に悪いとか冷静な考えが頭の端に過ぎるもその幸せを知った身体はこのままだいたいと強く願ってしまっている。相手から惰眠のお誘いがあればもう抗える訳もなく穏やかな声で賛成を示す。それらしい建前をつらつらと並べながら回した手で相手の背中を優しく撫でていると眠気は段々と強くなって瞼がゆっくりと閉じていく。薄れていく意識の中無意識に相手を抱き寄せると「おやすみ…しょう、たろ…」と呟いて眠りに落ちていき)

あぁ、この宿でゆっくりするってのが今回の旅の目的だしな……おやすみ、フィリップ……
(こちらから惰眠のお誘いをすれば相手からも同意を得られてもうここから抜け出る理由を失ってしまった。相手が挙げる理屈をその通りだと頷いて肯定してしまう、雪に囲まれたこの宿にあるコタツで二人が堕落するのを止めるものはなにもない。背中に回る相手の手がそこを撫でるとあまりの心地良さにゆっくりと息を吐き出して、それと共に最後の罪悪感さえ抜けでてしまった。心地良さに体を委ねるようにゆっくりと目を閉じて相手に抱き寄せられるとこちらからも擦り寄り、ゆっくりと頭を撫でてやる。相手の最後の言葉にこちら小さな声で返事をするとだんだんと頭を撫でる手は止まってそのまま眠りへと落ちていった。
そうして相手の体を抱いたまま暫く眠りについていたが不意に頬に冷たさを感じて「さむっ…」と小さな声を出しながら目を薄らと開ける。寝ぼけた頭は暫くここが何処なのか把握できなかったが、傍に転がるミカンの匂いで諸々の経緯を思い出した。窓に目をやれば外は既に暗い、日が落ちてさらに外気が下がっているようだ。真夜中にはなっていないようだが数時間寝ていたようでさすがにそろそろ起きなければまずい、相手の背中を軽く叩くと「フィリップ」と呼びかけて)

…んん…、…翔太郎？ …大分寝てしまったようだね、
(頭を撫でるような感覚と心地よい温かさに包まれ幸せの中で眠りについた。それらしい理屈のつもりが本当に身体は疲れていたようでそのまま数時間が経過した。相手にくっついて寝ていたが背中を誰かが叩いているような感覚と自分を呼んでいる声に意識が浮かび上がる。眠りを邪魔され小さく声を漏らすもゆっくりと瞼を開くと相手の顔がある。それ自体はいつものことだが下半身は何かに入っているようで見える景色も普段と違う。寝ぼけ眼で辺りを見渡せばここが宿であることと経緯を思い出す。更にカーテンを閉めていない窓のことがすっかり暗くなったのに気付くとちょっとだけでは無い時間を寝ていたのだと分かる。コタツは一定時間過ぎると切れる機能があるようでもう暖かくは無い。まだ少し眠りから覚めきってないものの状況を整理するように呟きながら足りない熱を求めるように相手に擦り寄る。段々と頭が働くようになってくると「ひとまずここを出るのと、次は夜ご飯かい？」と今からの予定を確認して)

慣れない雪道でほんとに疲れてたみてぇだな。…あぁ、晩飯も特別なもんだから食べ損ねるわけにはいかねぇ
(まだこちらも意識が浮遊する中で相手を起こすと声を漏らした後に不思議そうな顔で周囲を見回す。寝ぼけた仕草に小さく笑みを浮かべているとだんだん意識が覚醒してきたのか周囲を見回す視線がこちらへ戻ってきた、ここが雪の中の宿であるのを思い出したようだ。すっかり熱を失ってしまったコタツの中で温かさを持つのは相手の体だけ、こちらに擦り寄ってきた体は心地良い体温を持っていて思わずこちらからも抱き寄せてしまう。ここから出なければいけないのは分かっていてそれらしい返事はするのだが一度堕落を味わってしまうと中々抜け出せない。相手だけでなく自分にとってもここから動き出す原動力になる夕食の話を出す、前回の旅で食べた夕食もなかなか忘れられない豪華なものだったが今回は別方面で特別だ。グダグダと夕食との間で揺れながら相手の背中を名残惜しげに撫でると「とりあえずコタツから出るか」と声をかけ)

そうだね、…出られるかな。…よし、翔太郎。先にコタツから出て立ち上がった方の勝ちだ。
(漸く頭が動き始めて状況が掴めてくるがまだ微睡みの余韻を引き摺っていれば直ぐに動けそうにない。相手に抱き寄せられると更にこのままでいたい気持ちは強まる。だが特別な夕食と聞けば旅行の楽しみとして食べ損ねる訳にはいかないだろう。夕食の為にコタツから出る提案に同意の返事をするも背中を撫でられる居心地の良さとコタツを出るまでの行動を考えるとつい不安げに呟く。時間が経てばますます出たくなくなりそうであれば気合いを入れるように声を出すと相手に話しかける。区切りを付けてコタツから素早く出る手段として勝負を持ち掛けると返事を聞かずに「じゃあスタート」と告げて勝手に始めてしまう。狭いコタツの中で身体を動かして何とか這い出るとずっと同じ体勢で身体が固くなったのを感じつつ立ち上がって)

それが一番難しいな……え、ちょ、待っ……いって！！
(コタツから出なければならないのは十二分に分かっているがグダグダとこの時間を続けたい気持ちもある。暖かくて柔らかな相手の体を抱きしめていては尚更だ。相手が不安を口にするとまた小さく笑う、目下のコタツを出る問題はなかなかに手強い敵だ。未だコタツと夕食とで気持ちが揺れていると突然相手が勝負を仕掛けてきて困惑の声をあげた。コタツから抜け出す為のキッカケ作りなのは分かるが勝ち負けを決めてどうするのだとか、一瞬浮かんだ疑問を口にする前にスタートが切られてしまう。勝負と言われれば負ける訳には行かない性格だ、だがスタートの合図をした相手の方が圧倒的に有利なのは明らかで狭いコタツの中で体を捻って大慌てでそこから抜け出そうとする。しかし焦りすぎたせいかコタツの大きさを見誤って派手な音と共に足を思いっきり机部分にぶつけてしまった。思わず声を挙げるとコタツから抜け出したもののそのまま床に転がってしまう。体を丸めて強打した足を押さえながら相手の方を見あげると「突然始めるのはずりぃだろ……」と恨めしげに口にして)

っ、翔太郎！ …すまない、変に急かしてしまって……
(相手から困惑の声が聞こえてくるがコタツから抜け出して立とうとする。だが背後から派手な音と相手の声が聞こえれば直ぐに振り返る。コタツから出る時に足を思いっきりぶつけたのか床に転がってしまっていて駆け寄って相手の顔とぶつけた箇所の様子を確認する。骨折や打撲という程でもないようだがぶつかった音と相手の様子から相当強く打ったのだろうということがわかる。その原因が自分のもちかけた勝負であれば恨めかしく言われても返す言葉はなく申し訳なさそうに眉尻を下げて謝罪するしかない。状況を考えれば十分に有り得る可能性だったのだから自分のせいだ。しゅんとしながらも痛みを抑える手段を考えれば「冷やす物を持ってくる」と告げて冷蔵庫に向かう。本当は氷や保冷剤入れが良いのだがそんなものは無く代わりに冷えたペットボトルの水を持って戻ってくると患部に服越しに当てつつも「…ごめん」と謝罪重ねて)

え、ちょ……ありがとな、フィリップ。それに俺も大袈裟にしすぎた、悪い。もう大丈夫だ
(大慌てで動いてしまって盛大にやらかしたわけだがコタツの目測を誤ったのは完全にこちらのミスだ。格好の悪い所を見せてしまい半ば八つ当たりのように恨めしげな声を出したわけだが、相手はこちらを笑い飛ばすことなく慌てた様子を見せて目を瞬かせる。派手な音はしたもののこちらが鈍臭かっただけで痛みももう引いていっている所だ、にも関わらず相手は心配そうな声と顔を向けていて『やっちまった』と笑い飛ばす時間もなく相手は冷やすものを取りに行ってしまい手が虚しく宙に伸びる。帰ってきた相手は未だしょげていて冷たいペットボトルを足に当てられると残っていた痛みも引いていくがなんとも気まずい空気になってしまった。困ったように笑うとまずは相手の頭を撫でながら礼を伝える。こういう時に冗談でも茶化さない所にこちらへの思いが篭っているような気がしてまたじわりと胸の内が暖かくなった。だがこのままでは楽しい宿の時間を過ごせない、元の空気に戻すには何かきっかけが必要だ。少し考えた後に小さくほくそ笑むと「でも、誰かが引っ張ってくれなきゃ立てそうにねぇな」とわざとらしい口調で言えば少々大袈裟に手を広げて)

…うん。怪我が無いのなら良かった。…、それは大変だ。
(こちらが発案したことでかなり大きな音が立つほど強く足をぶつけたという事実に動揺してしまって相手の反応を見る暇もないまま冷蔵庫に向かい、戻ってくる。一般的な処置をしているとこちらを落ち着かせるように頭を撫でられ、困ったように笑う相手の顔を見れば大丈夫そうなのが伝わってきて安堵の息を吐いた。だが気まずい空気だけが残ったままで目線は徐々に下がりその場から動けなくなってしまう。どうするべきかと悩んでいるとわざとらしい口調で立ち上がる補助を頼まれ軽く目を開く。この足の様子なら立てないということもないはずだ。そう考えながら伏せ気味になっていた目線を上げると小さくほくそ笑む相手が居てその意図に気付く。思わず表情が緩んでその話に乗るとペットボトルは一旦テーブルに置いてから相手に近付く。立ち上がるだけなら手を貸すだけでも良さそうだがせっかくならと相手の広げた腕の下に自らの腕を回す。そのまま抱き上げるような形で相手を引っ張って立たせると体勢はそのままに「キッチンまでお姫様抱っこは必要かい？」と冗談半分に尋ねて)