相乗りで何処までも 【 〆 】

あぁ。こういう事件を解決できるのがパトロールの良いとこだ
(二人並んで手をふりソラとパパとを見送る。あの様子ならば近いうちにまた二人で事務所に来てくれるだろう、その時にはまた魔法少女の話を聞いてやらねばならない。二人になると相手は自分の指にはまったリングを見つめている、その顔に笑みが浮かんでいるあたりソラとの時間を思い返しているのだろう。短い時間ではあったが相手と女の子と自分と、三人で過ごす時間には今までに経験した事のない幸せがあって、ソラを見つめる相手の緩んだ横顔があまり見た事のないものでずっと眺めていたくなる光景だった。自分が子供になってしまった時にそんな笑みを向けられはしたが、誰かにあの笑みを向けている姿も心掴まれるものがある。相手からはパトロールの再開を呼びかけられるがその前にふと先程の相手の表情を思い出す。相手の記憶はここ最近のものしかない、となると親との記憶は持ち合わせがないだろう。歩き出す前に言葉を探るような間を作ってから「気になるか？お前の親とか、家族のこと」と問いかけて)

確かにここに来なければ遭遇しなかった事案だ。…、…気にならないと言ったら嘘になるけどあの施設に居た時点であまり良い物では無いだろう。ただ、普通の親子はあんな感じなのかと思ってね
(事務所に舞い込んでくる依頼は大抵依頼人本人が持ち込んで来るものが多く、逆に言えば持ち込まれなければその中身を知ることが出来ない。もしあのまま事務所に居る選択をしていれば少女に会うことはなく二人が再開するのも時間がかかったかもしれない。そう思えば街の笑顔をまた1つ守れたことに達成感や嬉しさが募る。このままパトロールの続きを提案するがその前に少し言葉を選ぶような仕草の後あの時感じたことを問われ目を見開く。流石相棒というべきか、あの時の動揺がバレていたらしい。ゆらゆらと視線を迷わせた後、一息つくと正直な気持ちを明かす。自分の家族はどうなんだろうかと考えたのは事実だ、だがあの場所に閉じ込められてメモリの製造に携わっていたのにそう言った人物の姿を見ていないということはあまり良い関係でないことが予想出来る。家族のことを覚えていなければそれを寂しいと思うこともないが世間一般の親子の姿を見ると言いようもない気持ちに襲われた。淡々とその事を説明していたが真っ直ぐと相手を見つめると「それに今は僕にも別の家族がいるからね」と語りながらお揃いのクリップに手を伸ばし、軽い笑みと共に若干取れかけたそれをもう一度同じ場所に留め直して)

そうか……なら俺達もソラんとこに負けないくらい仲良い家族でいねぇとな
(こちらが相手の家族について触れれば驚いた様子を見せて目線が揺れる。記憶喪失であるが故相手の家族については一切の情報がない。確か地.球.の.本.棚.でもアクセスできないと言っていた項目だ。自分も家族に対してそれほど強い記憶はないが存在していたのは分かっている。対して相手はその欠片すらないのだ、相手の言うように良い物ではないかもしれないし、そもそもあの組織が相手の親を知っているのかさえ分からない。相手の中に経験のない家族愛の姿をみて思う所があったのだろう。だが相手はこちらへと目線を向けて手を伸ばしてくる、そして家族だと言われながら今一度クリップを髪に留められるとこちらにも笑みが浮かんだ。相手が生まれた家族についてはどうにも知りようがなくてそこに対して言葉をかけてもきっと慰めにはならないし自分が代わりにはなれない。それならば相手とアキコと自分、事務所に集う家族でこれから家族としての時間を積み重ねていけばいい。今は家族の証のようになったクリップに触れたあと「さて、パトロールに戻るか」と改めて声をかけて)

ああ、僕が迷子になったら早急に探して貰わないといけないからね。一旦繁華街の方に戻って公園に向かおうか
（生まれの家族がどういった人物なのかは興味はあるが地.球.の.本.棚.でもアクセスできずにその手掛かりを知る手段がない以上考えても仕方ないことだ。それ以上に大切になった物が事務所にはあってこのリングのようにお揃いのクリップを相手の髪に留め直すと相手の顔に笑顔が浮かぶ。相手と所長のいる空間が好きで大切に思っているのだから血の繋がりが無くとも家族と呼んで差し支えないだろう。先ほど少女と自分が同じような物と言っていた発言を思い出せば冗談交じりに迷子になった時のことを話しつつ相手の言葉に頷いた。また街の人の笑顔を守ることが出来た実感を噛みしめながらもパトロールの再開が伝えられるとそのルートを確認してまた大通りの方に戻る。相変わらず人は多いが行き交う人や店を観察しながら進んでいき）

任せとけ、なんせお前の面倒みるのには慣れてるからな。……さすがにこれは外しとくか？
(相手が冗談を飛ばしてくればこちらもそれに乗っかるようにして返す。小さい子の前では清次郎のように張り合ってこない限りは良きお兄ちゃんだったが探偵事務所の中では自分が振り回す側の自覚はあるらしい。こちらもそうやって振り回されるのを悪くないと思っている以上は強く口出しできないのが現状だ。それに相手が本当に迷子になって目の前から居なくなったとしても、思考の渦の中で迷ってしまっても、必ず見つけ出す自信がある。軽く胸を叩きながらそのことを伝えながら繁華街を歩いていった。目当ての公園に近づいてくるものの今歩いているのは自分と相手の二人だけ、クリップはまだハットの影にもなっていて髪留めだと言い訳がきくが、さすがにこの魔法少女のリングをお揃いで付けっぱなしなのは他人からの目が気になる。公園の入口をくぐる前に小指に付けっぱなしのリングを指さし苦笑いを浮かべつつ言い)

ふふ、頼もしい言葉だ。…そうだね、君が預かっておいてくれ。…その代わりにコレを借りておくよ。
（相手も調子よく言葉に乗っかってくれば自然と笑い声が零れた。事務所に来た時から世話焼きの相手には面倒を見てもらう機会は多かった。兄でもあり父親でもあり相棒でもあるような不思議な関係だがその独特の距離感が今は好ましい。そして一時的に貸すならともかく相手を振り回すのは自分が一番でいたいという独占欲もあって面倒を見てもらう位置にちゃっかり居座ることとする。そのまま繁華街を抜けて公園が見えてきた所で小指につけっぱなしのリングについて外すかと問われた。先ほどの楽しい時間を象徴するようなプレゼントだが少女が居なくなった今つけ続ける理由はない。一方で名残惜しいという気持ちもあって少し悩みこむもパトロールと周りの目のことを考えれば同意を示す。自分のリングを外し相手のリングも指から外してやるとその二つを相手の上着のポケットに突っ込んだ。これで自分の手からはアクセサリーは無くなったが相手の右小指には愛用ブランドの名が刻まれた太めの指輪が残ったままで、自分の思うままに相手の手に触れるとそのままゆっくりと外してしまう。先ほどまで黄緑色の宝石型の飾りが輝いていた右小指に相手の指輪をはめると満足げに自分の手を見せながら一方的に拝借する旨を宣言するとご機嫌のまま公園の入り口をくぐって）

え、あぁ……おぅ……、……
(さすがに男二人が女の子向け魔法少女アニメのリングを揃ってつけて髪留めまでお揃いとなれば好奇の目に晒されるのは間違いない。ましてや今から行くのは公園で小さい子がみれば二人の姿をみてはしゃぎ始めてまた注目を集める可能性だってある。ここはそれなりな格好に戻るべき所だろう。相手が自分のリングを外しこちらの分も外して二つ分がポケットに入れられる。それでやるべき事は終わりのはずだが、相手はこちらの右手小指にはまっている指輪をも外しておもむろに自分の右手小指にはめた。その流れるような仕草を呆然と見つめ、満足気に指輪のはまった手を見せながら事後承諾を求める相手をみれば呆気にとられたまま気の抜けた返事をする。そのまま上機嫌に公園に入っていく相手の背中をみれば、その時点でようやく言いようのない嬉しさと恥ずかしさが襲いきて目を泳がせた。これまで相手に服を貸したことだってあったが先程の一件から幸福と家族と指輪というワードが絡まりあって心臓が煩い。奇しくもクリップと指輪とをお互い交換する形になった状態で何処か浮ついた足で相手のあとを追うように歩きつつ「いつか買いにいかなきゃな、結婚指輪」とボソリと呟いて)

…翔太郎？…、ああ。ここに君との特別な指輪が納まると思ったら今から楽しみだ。
（流れるように相手の指輪を拝借し同じ右手小指にはめると心が浮ついて事後承諾を得られたのをいいことについ自分の手を長く眺めてしまう。他のアクセサリーと違って指にする指輪は常に視界内で存在を主張する。先ほどの魔法少女のリングも黄緑色に煌めいていたが今は相手こだわりの太目の指輪が自分の小指で存在を示していて相手のモノを身につけている実感に無意識に表情が綻んだ。そんな浮かれた気分で一足先に公園に入っていったのだが相手が着いてくる気配が無ければ不思議そうに振り返る。その先にあったのは何処か落ち着きのない様に見える相手の姿で何かあったのかと不審に感じたがその後に続いた言葉に動きが止まる。海の見える結婚式場でした約束、形に見える証として指輪を買う話を確かにしたが今持ち出されるとは思わなくて鼓動が跳ねる。だが結婚指輪はある意味家族になったことを証明するようなアクセサリーだ。それがもしこの指にはめられたらを想像しながら手を掲げると心は一気に華やいで弾んだ声で肯定の返事をする。きっと今借りている相手の指輪以上に大切で視界に入る度にその事を考えてしまいそうである。空は明るく奥にある遊具では子供たちが元気に遊んでいて平和と呼ぶのが似合う光景を背景に穏やかに笑ってみせ)

……、…あぁ、俺も。お前とお揃いの特別な指輪、楽しみにしてる
(今日体験した言いようのない幸福、改めて確認した家族としての繋がり、そして今感じる相手との特別な関係、それら全てをひっくるめて証明してくれる二人だけの特別な指輪。いつか買いに行こうと約束を交わしたがまだ買いに行く機会は訪れていない、だがそれを焦る気持ちはなくていつか必ず互いに指輪を交換するのが分かっているからこそ、その時を楽しみにしていた。その気持ちが今日という時間を通して口に出ると相手の動きが止まる。直後心地よい晴れやかな相手の声が聞こえ自分の指輪をつけたまま相手は平和な光景を背にいつか特別な指輪がはまる場所、左手の薬指を掲げている。その光景は自分が守りたいものそのままで、何よりも大切なものそのままで、この光景をそのまま切り取りたいくらいには幸福が詰め込まれた風景だった。こちらも自然と笑みが浮かぶ。これから二人で過ごす時間を、所長も含め家族として過ごす時間を、ずっと守って共に過ごしていきたい。相手に歩み寄り隣へ並ぶ、穏やかな笑みのまま「行くか」も声をかけると公園へと歩き出して)

(/お世話になっております。そろそろ区切りを付けるか迷っているのですが、この後ご希望の展開などありますでしょうか？このままもう少し二人で穏やかな家族の時間を過ごしても良いですし、別展開へ切り替えても良いかと思うのですが……いかがでしょうか？)

ああ、パトロール再開…翔太郎！アレはもしかしてターザンロープと呼ばれる遊具じゃないかい？ 見に行ってみよう！
(指輪への想いを話せば相手からも同じような思いが伝えられて嬉しそうに目を細める。今の収入状況と一般的な結婚指輪の相場を考えれば実際に購入出来る日はまだ遠いと思われるがずっと一緒居るのだから些細な差だろう。いつかお揃いの特別な指輪をしてまたこうして平和なこの街を歩く日を想像すれば心は浮かれて仕方ない。相手が隣に並び立って声がかかるとこちらも穏やかな笑みを浮かべて公園へと歩き出そうとするがその奥に見慣れない遊具を見つけると途端目は輝き出す。以前公園について調べた時に名前と用途だけ知った存在である可能性が高ければ興奮したように話しかけ、子供たちが遊んでいることも気にせず相手の手を取ればその場所に向かって走り出して)

(/お世話になっております。正直着地点が怪しくなっちゃったな…と思っておりましたので別展開に切り替え致しましょう！ 短いお話でしたが女の子に対してお兄ちゃんをする二人が出来てとても楽しかったです。その後家族の話になるのも今までの積み重ねや探偵様の機転あってこそで日常回としてとても充実した一時となりました、今回もありがとうございます！
上記の方は蹴ってもらって大丈夫なのですが次はどう致しましょうか？以前からお話している通り冬の温泉街でもまた違ったお話でも楽しそうかなと思いますので探偵様のご希望がありましたらお聞かせください！)

___さてと。忘れ物ねぇかフィリップ？
(特別な指輪を手にする日を夢見た直後まるであの女の子のようにこちらの手を引き走り出した相手に全力でツッコミつつ、引かれる手に幸福を感じて過ごした日から一週間ほど、いよいよ前々から決まっていた予定の当日となった。いつかの冬支度で事務所にコタツを置くのを回避するために提案した雪国での温泉とコタツ、それを堪能する日が遂にやってきたのだ。季節は冬真っ只中で今日からぐっと気温が冷え込むらしい、これから冬の温泉街を楽しみにいく身としてはそれくらいの気温がちょうど良いだろう。いつかと同じように必要なものを詰め込んだシックなボストンバッグを手にすると相手の方を見る。二人の二度目の旅行、そして二度目の温泉街だ。前回とは様変わりしているであろう場所に期待を募らせながら相手の準備が整うのを待ち)

(/こちらも区切りをどこに持っていくか迷いどころでしたのでここら辺で転換しましょう！二人で振り回される、というのもなかなかないシチュエーションですのでそこらへんも楽しみつつ、女の子がいるからこそできる展開をたくさん盛り込めてよき小休止なお話になっかと思います！その後も検索くんに関わる家族のお話もできて和やかな時間を過ごすことができました。こちらこそ今回もありがとうございます！
ではここからは冬の温泉街のお話としましょう！前回とはまた違った形で温泉と冬の時間を楽しめればと思います。導入おいておきましたのでいつも通りいい感じに乗っかっちゃってください！/こちら蹴りで大丈夫です！)

ああ、バッチリだよ翔太郎。 今回も同じルートで行くのだろう？ 楽しみだね
(特別な指輪を手にすることを楽しみにした日から一週間程、前々から所長に相談して休みを二連休に固めて貰って楽しみにしていた旅行の日がやってきた。天気予報は今日から冷え込むといっていたが今回の旅の目的を考えれば寧ろ好ましいことでワクワクしながら寝たのは記憶に新しい。朝早く起きて準備を済ませると最終確認をしてから準備が出来たことを伝える。前回は夏頃の温泉街だったが今回は冬の温泉街で厚着であることと出発地が二人の家になったことが大きな違いだろう。この為に買った肩掛けのカバンを持って靴を履くと「行ってきます」と告げて家を出た。今回も予約などは相手に任せているが行き方は前回と同じはずだ。期待を前面に声を弾ませながら駅へと向かう。改札の前までやってくると準備しておいたチケットを取り出す。あの時は初めてだったがあれから何回か電車に乗る機会もあったおかげで難なく自動改札にチケットを入れて改札を通過すると「電話の乗り方は完璧だ」と自慢げに告げて)

すっかり旅も慣れたもんだな
(二人の準備が整い相手に続いて「行ってきます」と告げてから家を出て駅の方を目指す。前回と行先が同じとあってか意気揚々と歩く相手の姿に微笑ましいものを感じつつ改札へとたどり着く。あの時は切符の使い方さえ分からずに戸惑っていた相手だったが今や電車も使い慣れた交通手段だ。改札を通って得意げな相手に笑みを漏らしつつこちらも改札を通って軽く背中を叩きながら
あの時から成長した相手を持ち上げておくことにした。指定のホームへと向かえば温泉街まで直通の観光列車が再び迎えてくれる、街の様子がラッピングされていてい懐かしさと期待が煽られさらに浮き足だってしまいそうだ。これまで相手と風.都.以外の場所へ出かけることはあっても泊まりがけの旅行はまだ二回目、相手との時間をたっぷりと取れることに心は踊って仕方がない。電車へと乗り込み指定の席を見つけると「窓側座るか？」と座席を指さして)

君と外に出かける機会も増えたし旅行も二回目だからね。あぁ、街の景色を楽しむのも電車の楽しみだ
（あの時は外に出ること自体が珍しい状況だったが依頼でもプライベートでも一緒に外出するようになれば大分普通の生活にも慣れてきた。電車の乗り方一つでもそれを実感できてそれだけ相手と色々経験したのだと思えば気分は晴れやかだ。弾んだ声色で言葉を返しながらホームへと向かえば直通に観光列車が停まっていて見覚えのある風景のラッピングに口元も緩んだ。早速指定の車両に乗り込んで切符に書いてある席を見つけると相手に窓際を譲られ有難く奥の席に着く。荷物や上着などを置いたところでアナウンスが流れ、ゆっくりと列車が動き出す。列車は段々と加速していき駅の周辺を抜けると車窓に街の景色がいっぱいに映る。あの時よりも行ったことがある場所や見覚えのある建物も多くなって感慨深い気持ちに襲われると夢中になってその景色を眺めていて）

さて、俺達の街と少しの間お別れだ
(相手に窓側の席を譲って隣へと座る。あの時とは違って上着の分荷物は多く、座席上の棚に荷物を上げれば電車が走り始めた。なかなか見ることのない角度から風.都.の景色を眺める、隣の相手も窓の向こうの景色を夢中になって眺めている。前回この電車に乗った時より二人の間に積もった時間はそれなりの量になっていてあの時と同じ場所に行くのにまた違った気持ちを抱えている。この電車ひとつとっても遠のいていく風.都,に不安を覚えていた相手はもういない、自分達が住む馴染みの街を眺めてこれから行く慣れぬ土地に期待を膨らませている。こちらから見ても庭であった街には各所に相手との思い出が加わっていて、風の街と相手とを視界に収めながら小さく笑みを浮かべていた。二人を見送るように回る風.都.タ.ワ.ー.を見ながら少々キザな言い回しをしていればやがて電車は風.都.を出てタワーさえも見えない所を走っていく。風都を出たのならばもうルールは適用外だ、相手の膝の上にのった手に自らの手を重ねて指を絡ませると「今回も楽しみだな」と呟くように言い)

あぁ、君が提案してくれたあの日からずっと楽しみにしていた。この前来た時は夏頃だったから涼しかったけど今日みたいな日は風.都より寒くて雪も積もっているらしい。以前君が言っていた寒い中での温泉というも気になるし何よりコタツを堪能できるのが楽しみだ
（慣れ親しんだ街が流れていきシンボルでもある風.都.タ.ワ.ー.も遠く離れていく。あの時と似た寂しさも少しはあるが必ずこの街に相手と帰ってくる確信があるからこそ、それ以上に膨らむ旅行への期待に素直に心躍ることが出来る。やがて慣れ親しんだ景色が遠くなって隣の町に移ったタイミングで置いていた手を取られ指を絡まるようにして握られると一旦視線をそちらに移してから笑みを浮かべる。どうやら浮かれた気持ちは相手も同じようだ。こちらからも軽く握り返しながら今日という日をずっと楽しみにしていたことと今回の旅行への期待を口にする。雪の積もるほど寒い中で入るあったかい温泉とずっと焦らされていたコタツの真の魅力を味わえる機会へのワクワクを無邪気に語って）

あぁ。同じとこでも前とは全然違ぇ旅になる。冬の温泉街と貸切の宿を満喫しねぇとな
(指を絡めて繋ぐと相手の顔がこちらへ向いて笑顔が浮かぶ。その状態で無邪気に今回の旅行への期待を次々口にする様子にいやでも口元は緩んで自然と繋がる手に力が籠った。まだ冬が本格的にやってくる前から結んでいた約束、所長から休みを貰い何度カレンダーで旅行の日を確認したか分からない。やりたいことは既にいくつもあって相手が挙げたどれもがこちらも楽しみにしていることだ。期待に溢れる相手を見ているだけでもう幸せな心地だが本番はこれから、浮かれすぎないようにしながら相手と話していればやがて電車はトンネルへと入る。窓の外は真っ暗になり時折トンネルのランプが横切っていくだけの時間が続いた。暫く経った頃、窓の景色が一気に明るくなる、トンネルを抜けたのだ。ガラス窓の向こうに広がっていたのは一面の雪景色で白銀がそこら中を覆い尽くしている。見た事もないほど積もった雪に感嘆の声を漏らしていると視界が開け真っ白な世界の向こうに目的地である温泉街が見えた。白色の中に湯煙を立ち登らせながら佇む温泉街はなかなかに幻想的で思わず「おぉ…」と声を漏らしてしまい)

勿論そのつもりだ。…わぁ、凄い！ 一面雪で真っ白だよ翔太郎！
(今から現地に着いてやることについて話せば楽しみは膨らむばかりで到着が待ち遠しい。相手の言う通り同じ場所でも季節が変われば風景や出来る事も変わるはずで前回とはまた違った旅になるだろう。後悔がないように楽しむつもりだと意志を表明していると列車はトンネルに入り窓の外が真っ暗となる。山間部に入ったとなれば目的に近付いている証拠だ。落ち着きなく真っ暗な窓を見ていたがトンネルを抜けると一気に外は明るくなる。そこには真っ白な世界が広がっていて感嘆の声をあげる。風.都.でも雪が積もったことはあるがここまで全面に厚く積もった光景は初めてだ。興奮したように相手に話しかけている間にも列車が進んで雪景色の中に浮かび上がるように温泉街が見えてくる。まるで別世界に来たような光景に目はきらきらと輝くばかりだ。そこに列車が近づいていくと車内にもうすぐ到着する旨のアナウンスが流れる。それを聞いてはいても立っても居られず、手を引いて立ち上がると上から荷物と上着を取り出して相手に渡す。上着を羽織ってからもう一度手を繋ぐと「行こう、翔太郎！」と降車口に向かう。駅に到着して扉が開くと直ぐ飛び降りると冷たい空気が二人を迎える。駅の外には白く染まった温泉街が見えて「この前来た時とは大違いだ」と声を上げて)

こんな量の雪見た事ねぇ……っ、…おい、フィリップ！
(トンネルの中にいる時からソワソワしていた相手は視界が一気に広がると同じく興奮した声をあげていた。雪景色は見たことはあるもののここまで雪が降り積もり全面を白で覆い尽くす程のものは見た事がない。近づく温泉街に期待で胸を膨らませるが、隣で更なる期待と共に目を輝かせている相手をみれば胸は目の前の光景と同じくらいに煌めいた。到着のアナウンスが流れると手を引いて席から立たされそのまま次々と荷物を渡される。その勢いに圧倒されたまま上着を着終わると再び手が繋がれまだ到着しきってもいないのに降車口へと引っ張りだされた。思わず名前を呼ぶもその声は弾んでしまっている、ここだけは前回と同じだと小さく笑いながら手を引かれるまま到着と同時に電車の外へと飛び出した。真っ先に感じたのは風.都よりも一段寒い空気で「さっむ！」と思わず言葉に出してしまう。その声と共に吐き出される息も真っ白だ。そのまま改札を抜ければ懐かしい硫黄の匂いに包まれるも同じ場所とは思えないほど様変わりした様子にただ頷くしかない。今回の旅は前回よりも計画は立てていないがまずはこの雪に包まれた温泉街を満喫するのが一番だろう。メインストリートの方を指させば「まずは冬景色楽しもうぜ」と誘いかけて手を繋いだまま歩き出して)

…温泉の匂いだ。ああ、まずは冬景色の探索だ。
(期待に胸を踊らせて駅に降り立つとありがとうがその寒さに声を出していて思わず笑い声が零れる。あの雪の様子が想像はできたが奥まった場所にある分かなり寒い。だがその寒さも大して気にならないほど目的地にたどり着いた嬉しさが勝ってそのまま改札を抜ける。駅前の広場に出れば懐かしい硫黄の匂いがしてきてまたこの街に来たのだと実感しながら呟きを零す。そこで漸く今からすることを何も考えてなかったことに気付くが相手がメインストリートを指さすと良いアイデアだと頷いて早速そちらへ歩き出す。人が多く通る道については雪が取り除かれているがその端や建物などには雪が乗ったままで白く色付いている。所々温泉の湧き上がっているだろう場所からは白く湯気が立ち上っていてそれが煙のようにこの街を幻想的に見せている。お土産屋や食べ歩きの食べ物が売られている店に心惹かれながらも少し先に進めば川にかかる橋が見えてきて雪化粧された橋と川の両端に建てられた昔ながらの家屋を見れば「まるで別世界に来たみたいだね」と感想告げて)