相乗りで何処までも 【 〆 】

検索しがいがある所だろ？……なっ？！バカ！忘れろって言ってんだろ！
(相手の反応は上々で今度所長の許しが出たタイミングでメイド喫茶に行くことになりそうだ。少し時間があけば今日のことも忘れメイド喫茶への興味で脳を使ってくれることだろう。そう思ったにも関わらず相手はこちらへ悪戯な笑みを浮かべて脳裏に嫌な予感が過ぎる。次の瞬間には先程見本としてやってのけたおまじないを相手が真似し始め目を丸くすることになった。さっき自分がやったことを見せつけられ恥ずかしい気持ちとそれはそれとて相手の媚び媚びの仕草は愛らしく未だ抜け切っていなかった相手への動揺が再び揺り起こされて第三者がいなくなったとなれば止めるものもなく頬が僅かに赤く染まる。反撃する術は持ち合わせておらず笑みを浮かべる頬を両手で摘むと「……絶対に外でやるなよ」と同じ文言を口にするしかなく)

それは無理な相談だ。 痛いよ、翔太郎。心配せずともメイドさんになる予定は無いし、する相手も君以外居ない。
(先程相手がやったおまじないを真似して披露して見せれば再び動揺を見せ声を上げる。隠す必要がなくなったせいか誤魔化すことなく少し赤く染まった頬が見えると悪戯の成功に満足そうに微笑んで相手の言葉をバッサリと切り捨てる。もしかしたらもう二度と見れないかもしれない光景だ、忘れる訳にはいかない。反撃のつもりか頬を摘まれながら先程と同じ事を言われると大して痛くないが一応抗議は口にしておく。それに外でやるなの意味は恐らく他人に見せるなと同義だ。でなければわざわざ『外で』とは条件付かない。もしかしたらこういう媚び媚びなのも相手は好きなのかもしれないと頭に記憶しつつも熱持った相手の頬に手を添え約束するように告げて)

……そうじゃなきゃ困る。女装してメイドになんのもナシだからな
(彼女がいた時とは同じ言葉でも前に出すニュアンスは異なる、つまりは相手の感じた通りの意味でそこには独占欲の色が滲んでいた。それもお見通しであろう相手から頬へと手が添えられる、メイド喫茶でこんなに客へと近づくサービスはないがそれはそれとてあの仕草とこの距離を味わえるのは自分だけでなければ許せない。両頬から手を離すと代わりにその腰へと手を添える。他にありそうな可能性を予め潰しておきつつ、滲む独占欲に比例して腰を掴む手に僅かに力が篭っていて)

(/お世話になっております！少々ご相談なのですが、この後会話通りメイド喫茶に行く流れにするか悩みどころでして検索様はいかがでしょうか？単純に二人でメイド喫茶にいくでも探偵のセリフをフリにして検索くんがメイド喫茶のピンチヒッターになる流れでも良いですし、別の展開にいっても良いかと思います！)

メイド服という特徴的な衣装自体には興味はあるけど僕に女装の趣味は無い。だから安心したまえ
(第三者が居らず繕う必要が無ければ相手はやけに素直だ。子供っぽい言い方をする相手の頬をご機嫌に撫でていると相手の手が腰に添えられた。その状態でこちらが思いつきもしなかった可能性を相手があげると目を瞬かせるも直ぐに口元を緩めた。メイドになる機会などそういう依頼でも来ない限り起こり得ない話だ。相手が説明した時に聞いた可愛らしい服という物自体には関心があるがそれを着るのはとんだ罰ゲームだ。そんな事まで想像して独占欲を見せるのが可愛らしくもあり少し嬉しくもあれば問題無いと告げつつ約束するように頬に短く口付ける。ゆっくりと離れると「アキちゃんが居ない間に依頼を一件解決したと伝えたらお休み貰えるかもしれないね」と期待を乗せた言葉で告げて)

(/こちらこそお世話になっております！せっかくですし、メイド喫茶に行く流れにしたいです。上げてもらった案もとても楽しそうですので単純に依頼人の様子を見にメイド喫茶を訪れて楽しんでいると急遽他のメイドさんが体調不良などで来れなくなって検索がピンチヒッターを頼まれる、みたいな流れはいかがでしょうか？問題なけれは上記の時間飛ばして貰って構いません！)

さて、それじゃ俺達の見本の成果を見に行くか
(こちらが覗かせた子供っぽい独占欲が相手からの口付けで満たされてから一週間ほど、相手の読み通り所長が留守の間に依頼をひとつ解決したことを報告すればアキコは随分ご機嫌になってそれとなく暫くしたら彼女の様子を見に行きたいと零せばあっさりと休日をゲットする事となった。そして迎えた当日、身支度を整えると相手の方へと視線を向ける。単純にメイド喫茶という場所への興味も尽きないがあの彼女が楽しく働けているかどうか心配でもあり楽しみでもある。一応昨日の時点で来店することを伝えておいたが『楽しみにしています！』と返事が返ってきたあたり順調にメイドさんをやっているらしい。彼女の成長を楽しみにしつつ準備を終えれば家を出てメイド喫茶へと向かって)


(/ではこのままメイド喫茶に突入いたしましょう！そして流れも考えていただきありがとうございます。ぜひそんなハプニング的な感じで検索くんにメイドをやってもらい探偵でもんもんとしたいと思います！時間を当日に飛ばしましたのでいい感じに繋げてしまってください！/こちら蹴りで大丈夫です！)

そうだね、初のメイド喫茶も楽しみだ。＿ …ここか、外見からもファンシーだ。
(所長に依頼を解決したことを告ればご満悦でそれに乗して相手が様子を見に行きたいと希望すればあっさりと休日の許可が降りて予定通りメイド喫茶に行くこととなった。準備を済ませると家を出て彼女が働くメイド喫茶へと向かう。アレからメイド喫茶について検索したがその店やメイドさんごとに個性があり、一般的な飲食店とは全く違う文化を育んでいるようだ。彼女が働くのも有名な系列の一つで実物を見る機会に心が弾む。楽しみを顔に滲ませながら相手の案内で歩いていると貰った名刺と同じ天使の羽をモチーフにした看板が見えてくる。どうやら店はビルの2階部分にあるようで店へと続く階段も白を基調とした可愛らしい装飾が施されている。素直に感じた感想を呟きつつ階段を登り店の扉をゆっくり開けると可愛らしいメイド服を着た女の子が一斉にこちらを向いて『お帰りなさいませ、ご主人様！』と息の合った出迎えの挨拶がされる。可愛らしく凝った造りの内装と実物のメイドさんの出迎えに圧倒されているとその中から一人、例の依頼人がメイド服を着て傍によってきてくれる。『お、お待ちしてました。お席も準備してるのでどうぞこちらへ』と練習した時よりも自然な口調で話すと店の全体が見えるような一番良い席に案内してくれて)

おぉ、噂通りすげぇな……
(未知の世界に心躍らせながら依頼人が勤めるメイド喫茶の前へとたどり着く。店外の装飾から既に異世界のムードを漂わせていたが店内に入るとファンシーさは更に増してピンクのキラキラや白のモコモコが所狭しと空間を彩っている。そんな非現実的な空間で店内に入った途端可愛らしいメイドさんが一斉に出迎えてくれるのだから男心を擽られてしまうのも無理は無い。思わずその光景に圧倒され視線を動かせずにいたがその中の一人から声をかけられ、一瞬間を置いてからそれが依頼人の彼女だと気がつく。メイド服を着て髪型もそれらしく着飾ると事務所にいた時とはまた違った印象だ。多少緊張しているようだがあの居酒屋ばりの声は聞こえてこず問題なくやれている姿に安心しながら席へと案内された。メニューを広げて頼むものを決めようとしていると周囲の客が彼女をチラリとみて興奮気味に話しているのが見えて思わず口元が緩む、どうやらファンもきっちり獲得しているようだ。最初出会った時の印象が強いせいか成長の喜びもひとしおで「楽しそうでなによりだ」と彼女に話しかける。彼女は照れくさそうに笑って『ありがとうございます。お二人には感謝の気持ちを伝えたくて、だからオムライスを頼んでくれませんか？』とリクエストを受けて)

ならひとまずオムライスとドリンクにしようか。足りなければ後から注文すれば良い
（事務所の扉を叩いて何も喋らなかった時とは見違えて多少緊張しつつも仕事をこなせていることに一安心だ。席につくとメニュー表を開いて何を注文しようか考える。色々あるようだがせっかくならばメイド喫茶らしいものを注文したいと悩んでいると彼女の方からリクエストがされた。メニューを見てみるとどうやらオムライスはメイドさんがケチャップでお絵描きしてくれるらしい。この場にピッタリなメニューに口元は緩んで早速そのオムライスとそれぞれのドリンクを注文する。お腹いっぱいになるような量ではないが雰囲気を楽しむのが目的でありデザートにも力を入れているならそちらも後から注文したい。『ご主人様達の為に愛情込めて作ってきますね！』と張り切ったように告げる彼女が席から去っていくと早速他のお客さんからも注文の声掛けがされていて「僕たちの見本の甲斐もあってすっかり立派なメイドさんだね」と素直な感想を共有して）

お嬢さんからの頼みなら断れねぇな。……あぁ、頑張った甲斐があるってもんだぜ。ちょっと危なっかしいが楽しくやれてるならなによりだな
(メイド喫茶でオムライスといえば定番のメニューだ、メニュー表の一番目立つ場所に掲載され説明書きの横にもケチャップで好きな文字や絵を描いてくれる事が記載されている。なにより依頼人の頼みとなれば断る理由もない、彼女のリクエスト通りオムライスを注文することにして張り切った彼女を見送る。他のテーブルにいっても問題なくメイドさんをしているのを見れば相手に同意するよう頷く、一生分のぶりっ子仕草を発揮したであろうあの日は精神的疲労がなかなかのものだったがそれで彼女が楽しく過ごせているのなら探偵冥利に尽きるというものだ。暫くすると少々たどたどしく彼女がオムライスを二つ持ってきてそれぞれの前へと置く。普通はリクエストを受け付けるようだが『心を込めて描かせていただきますね！』と彼女自らケチャップでデコレーションを始めた。相手のオムライスに『きてくれてありがとう』という文字の横にハートマークが添えられさらにクリップが描きたされる、相手のトレードマークを描いてくれたのだろう。こちらも同じ文言もハートに加えハットがオムライスに描かれる、こうして世界にひとつのオムライスが出来上がれば『出来上がりです！』と楽しそうな笑みがこちらへと向いて)

随分と可愛らしいオムライスだ、食べるのが少しもったいないね。
（この街の探偵をしていて良かったと思えることの一つに依頼人のその後を見る事が挙げられるだろう。自分達の手助けが何かしらのきっかけになって幸せそうに過ごせるようになった姿を見ると嬉しい物がある。多少たどたどしくも立派にメイドさんをする彼女を見れば協力出来て良かったと素直に感じていた。そんな彼女が注文したオムライスを持ってきてくれてそれぞれの目の前に置かれる。そのまますぐそばでケチャップによって感謝の文字が書かれ、その横にハートマークとトレードマークのクリップのイラストが描かれると思わず口元が綻ぶ。相手のオムライスにも同じ文言とハットが添えられると自分達らしいオムライスの出来上がりに声を弾ませた。『最後にとっておきの魔法をかけますね』と彼女から声が掛かると本物のおまじないが見られる機会に期待の目を向ける。魔法をかけるような仕草をしてかた手でハートを作り『おいしくなぁれ、もえもえきゅんっ！』と明るく言いながらハートを差し出す姿はとても可愛らしく流石本物のメイドさんだ。召し上がれと促され一口分スプーンですくって食べるとおまじないの分普通のオムライスより美味しく感じられて「幸せの味だ」と嬉しそうに感想呟くと更にもう一口と食べていき）

やっぱりおまじないはメイドさんがやるに限る……せっかく描いてくれたのを崩すのはもったいねぇな
(メイド喫茶でメイドさんがオムライスを持ってきてくれて次にやることと言えばひとつしかない。彼女は可愛らしい仕草で美味しくなるおまじないを施してくれる、あの日の事を思い出し若干複雑な気持ちにもなったが彼女はおまじないを自分以上に完璧にやりとげていてその可愛らしさも圧巻だ。やはりおまじないはメイドさんの専売特許だろうと思いつつ彼女に促されスプーンを手に取る。いきなり書いてくれた文字や絵を崩すのは勿体なくてケチャップがかかっていないところをひとすくいすると口へと運ぶ、この店のイメージにあうトマトの甘みの効いたオムライスは彼女のおまじないも相まってなかなかに美味しい。相手の感想に頷いていると彼女は照れくさそうに笑って『また何か注文してくださいね』とちゃっかりオネダリをしてからテーブルを離れていく。ああやって頼まれればつい次のメニューを頼んでしまう気持ちも分かって「お嬢さんが男を手玉に取るようになっちまいそうだ」と隣のテーブルを手慣れた様子で接客するメイドさんをちらりと見て小さく笑いながら言い)

ああ、あの可愛さにやられてしまう人が居るのも分かる。それこそ少し前の君ならコロッといってそうだ。……？ 何かあったのだろうか、
(おまじないを受けてぽつりと零した相手の言葉に思わず笑ってしまいながらも端っこの方からオムライスを食べていく。周りの客席を見れば猫が描かれていたり客の名前が書かれてあったりと落書きも個性豊かだ。ちゃっかりオネダリしてから帰っていく彼女はすっかり立派なメイドさんだろう。ここまでメイド喫茶の文化が広がって続いた理由を実感しつつ付き合う前の相手なら簡単に手玉に取られてそうだと揶揄うような言葉を向けておいた。オムライスを食べ進めている間も時折他のメイドさんが席に近付いてきては話しかけてくれたりする。話の流れで街の探偵だと明かせば凄いと言いながらも興味を持ってくれて仕事内容を楽しそうに聞いてくれるのは悪くない気分だ。そんな和やかな時間を過ごしているとお店の電話が鳴る。彼女が店の奥に入って電話を取るが何処か焦った様子で客席に出てきて他のメイドの子になにか相談している。『どうしよう…』という言葉が聞こえてくると気になって相手に話しかけて)

っ、余計なお世話だ。ん……？なんか慌ただしいな
(メイド喫茶というコンセプトを伴う場所とはいえこれだけ可愛い服を着た女の子に良くしてもらっては何も思わない方が難しいというものだ。今は幸せを感じるという感覚に近いが、相手の言うように以前の自分ならばもっと鼻の下を伸ばしていただろう自覚はあって最もな指摘に言葉を詰まらせながら文句を言うことしか出来なかった。その後も彼女以外のメイドさんと時折会話をしながら食事を進める。記念と彼女を応援する気持ちも込めて写真撮影でも頼むべきかと考えていた所で店の奥がザワついているのに気がついた。相手もそれを感じ取ったようで視線を合わせるもまだ全容は見えない、何かしら彼女が困っているのは見て取れた。しばらく彼女と他のメイドが話していたが一人のメイドがこちらを見て閃いたとばかりに顔を明るくさせたのをみると何だか嫌な予感が胸を過ぎる。意気揚々と彼女に何かを伝え、最初こそ彼女は焦った様子で首を振っていたが最後には勢いに負けたのか困り顔でこちらへとやってきた。気まずそうな彼女に「どうしたんだ？」とこちらから話しかけると暫しの間があって『実はまた依頼したい事がありまして…』と一旦そこで言葉が途切れる。だんだんと嫌な予感が膨らむ中彼女は相手の方を向くと『お願いします！少しの間メイドさんになって下さい！』と頭を下げ、予感が的中してしまうと驚いたまま固まってしまって)

え、メイドにってそもそも僕は男で…
(相手も店が慌ただしいのに気づいたようで二人してそちらに注意が向かう。何やら話し込んでいる様子だがその内の一人のメイドと目が合った気した。その後他のメイドに促される形で彼女が席までやってくる。気まずそうな彼女に相手が話を促すとこちらを向いたかと思えばメイドになることを依頼されて思わず目を見開いて一瞬思考が停止する。一週間前の相手との会話が頭を過ぎりつつ性別という根本的な問題点を指摘すると彼女の横からもう一人メイドが現れて『キミだったら男でも全然問題無いし依頼料もちゃんと弾むんで私たちを助けてください！』と頭を下げられる。名札から見るにもう一人はこの店のメイド長のようでどうやら今からシフトの子が急に体調不良で来れなくなって人が足りないらしい。あくまで代わりの子が来るまでの繋ぎとしてらしいがそれでも彼女達のような服を着るのは抵抗がある。だが困っているのは事実のようで二人に頭を下げられ真摯にお願いされると頑なに拒否というのもしにくい。困ったように相手と彼女達を交互に見ながら「困っているのなら助けたいけども…」と曖昧に言葉を濁しているとメイド長はそれを是と捉えたのか『ほんとただ立って料理運ぶだけで良いので！メイドさんになりましょ！』といって手を引いて半ば強引に席から立たされる。かと思えば彼女がすぐさま背中に回り『すみません、フィリップさんお借りします！』と相手に話しかけ「ちょっと、待ってくれ。まだ僕はやるとは一言も、」という文句は聞き入れられず二人がかりで店の奥に連れて行かれ)

あー……お、おぅ……
(一週間前冗談半分に言っていた事がまさか実現することになるとは思わず呆然と頭を下げる彼女を見つめる。彼女の横からメイド長が出てくればその子も頭を下げ始めた、どうやら相手が女装すると化ける口であるのを見抜いたのは彼女らしい。相手は困った様子でこちらと彼女達を交互に見る、本来ならば勘弁してやってくれとこちらが断るべき場面なのだが彼女達があまりに必死なのと相手のメイド服姿を見てみたいという下心で天秤が揺れ助け舟を出してやることが出来なかった。こちらが断りを入れないのを見たメイド二人は相手を強制的に連れていこうとして、彼女から一応の断りを入れられると勢いに負けて思わず頷いてしまった。それを依頼を請け負う返事だと解釈したのかメイド長は上機嫌に相手を店の奥へと引っ張っていってしまう。ひとり席に残されドリンクに口をつける、練習したあの日にいつもの格好でメイドさんのフリをしただけでもそれなりに動揺したが本格的にメイド服を着るとその破壊力は計り知れないだろう。妙な期待を募らせていたがそんな思考を出来たのも一瞬だった。騒がしかった店内に不思議そうな顔をして食事に戻っていくような客がこの空間には何人もいる、つまり相手は不特定多数の客にあれやこれやをするわけだ。今更ながらそんなことに気がつけば相手を守らなければと勝手な思考が暴走し始めていて)

…、本当に僕がこれを着るのかい？＿＿そんな、押さなくてもっ……、よ、よろしくお願いします、
(助け舟を求めていた相手から承諾らしき返事がされたのをいいことに腕を引っ張られるのと背中を押されるのとで店の奥に連れてこられそのまま更衣室に押し込まれた。差し出された服に躊躇を見せるも二人の勢いに押される形で渋々着替えることとなった。他の女の子と同じ可愛らしさを前面に出したメイド服で身長のせいで太ももと膝の間くらいの丈になったスカートとフリルが肌に当たる感覚がして落ち着かない。仕方なく渡されるままニーハイと靴を履き髪も緩く巻かれて軽く化粧まで施され、最後にホワイトブリムを頭につけられるとメイド長はこちらの姿を見てご満悦な表情を浮かべている。鏡の中の自分は確かにメイドさんになっていてメイド服ならではの飾りやシルエットを見ては今の状況も一瞬忘れて感心する。それを良しと感じたのか『早速お披露目しに行こう！』とテンション高く言われ抵抗する間もなく再びグイグイと背中を押されるとあっという間に客席スペースに押し出された。新たなメイドの登場に複数の視線を感じつつ『アズサちゃんが急遽お休みになっちゃったのですがその代わりに今日限りの特別メイド！フィノちゃんがお給仕させて頂きます』とメイド長に盛大に紹介されてしまえば注目されるのが落ち着かず視線を迷わせていた。だがここまで来ればなるようになれと変な方向に吹っ切れはじめて高めのトーンの声で軽く挨拶を済ませるとちらり相手の方を覗き見て）

……っ、！…スカート短すぎんだろ……
(一人使命感に燃えていれば店内がどよめき自然とそちらに目線が向く、ちょうどその時メイド長が新しいメイドを盛大に紹介していた所だったがまるでその言葉は耳に入って来なかった。以前女装していた時の清楚なイメージとは異なり可愛いを全面に押し出したメイクにそれに見合うフリルたっぷりのメイド服の相手を見ればいつもの姿とはもちろんあの時の女装とは全く違う魅力を放っていてそのギャップに一瞬も待つことなく心を奪われてしまった。一目惚れとはこういう瞬間を言うのかもしれない、正に目は釘付けになって薄ら頬を赤く染めながら相手を見つめることしかできなかった。最初こそ自分の心音しか聞こえなかったが周囲の客が囁く声が聞こえてハッと意識を取り戻す。周囲は新たなメイドの登場に明らかに色めきだっている、中には『あれさっきのだよな』と相手が男と知ってなお鼻の下を伸ばしている輩もいて脳内は相手を見ていたいという考えから一気に相手を守らなければという思考へと切り替わった。恐らく店で一番大きいメイド服を着ているのだろうがそれでも丈が足りないらしく他のメイドよりも裾のラインが上がっている。そこをチラチラと見遣る視線が見えれば額に青筋が走った。新たなメイドの紹介も終わり店は通常運転へと戻ろうとしていて放っておけば相手を呼ぶ客も出てくるだろう。そうはさせまいといち早く手を上げれば「フィノちゃんに注文！」と店内いっぱいに響く声で相手を指名して)

っ、なんで君が一番張り切ってるんだい…。…その、御注文は？
(依頼で女装をした時は相手が基本的に隣に居て依頼の為の服だと割り切れたがこうやって他の人に見られる為の格好というのは注がれる視線に意識が向いてしまって苦手だ。一番気になる相手の反応を伺うとほんのり顔が赤い気がする。美人を見た時とほぼ同じ反応で相手にとって自分がそういう対象であることに嬉しさと照れが混じり合って心臓の鼓動が早くなる。メイド長による紹介が終わり店内が通常営業の空気に戻っていこうとすると突然相手が大きな声で自分を指名してきて目を丸くする。一番目は自分が貰うとばかりの行動に呆れと照れが混じったようなどうしようも無い気持ちが湧いて呟きを零すも『早速ご指名のようだしオーダー取るのお願いね』とメイド長に言われいつもより歩幅を小さくしながら相手の席まで向かう。相手の傍に立つとメイド服姿をお披露目しているようで気恥ずかしくなかなか目が合わせられない。何とか顔を上げて相手の方を向くと本題である注文を尋ねて)

……、……え、あー……
(誰よりも早く相手を指名すれば相手がこちらへやって来るのが見えて心の中でガッツポーズをする。店内は一瞬自分が最初に声をかけたかったのにと嫉妬と羨望の眼差しで支配されて今度は内心ほくそ笑んだ。こうなってしまった以上メイド服姿の相手を独り占めすることは出来ないがせめて相手の初めてだけは他人に渡すわけにはいかない。相手がテーブルの傍へとやってきたがなかなか視線が合わない、それがいじらしくて思わずじっとその姿を見つめてしまったが視線が合ったら合ったで遠目からしか見ていなかった見た事のない姿の相手がこちらを見ているその事実で鼓動が早くなってしまう。相手を真っ先に呼んだまでは良かったものの何を頼むかは決めておらず慌ててメニュー表を手元へ持ってくる。せっかく頼むなら相手にメイドさんらしいことをしてもらわなければ、自分がここに客としている以上それは当然の権利だろう。さっと目をメニューを通して「このケーキプレートとコーヒーを頼む」と注文を決める。ハードボイルドに甘いものは似合わないと普段言っている事は棚にあげた。そしてケーキプレートを頼めばメイドさんがチョコペンでメッセージ等を描いてくれるサービスがありこの『初めて』も誰にも譲らない気満々で「よろしく」と最後に言い添えて)

…、ケーキプレートとコーヒーですね。
(やっと想いで顔を上げ相手と目を合わせるとあんなに大胆なことをしたのにも関わらず動揺してるように見えた。注文を伺うと内容は決めていなかったのか慌ててメニュー表を開く姿を見れば思わず笑ってしまって少し緊張が解けたような気がした。一緒にメニュー表を覗き込むような形で注文を待っていると相手は珍しくデザートの欄にあるケーキプレートをチョイスする。美味しそうなケーキの写真の横にはオムライスと同じくメイドによるメッセージを書くサービスが書かれていてその目的を察した。どうやらこの状況を十分満喫しきるつもりの相手を見ていれば段々とこちらも滅多に無い機会を楽しんでしまおうと気持ちになってきてこほんと咳払いすると店員らしく注文内容を繰り返す。加えて先程のほんのり赤くなっていた相手の顔を思い出すとちょっぴり好奇心が湧いてきて相手にもう少しだけ近付くと『ご主人様の為に用意してくるので待っててください』と軽く笑顔を作りメイドらしい言葉を告げる。だが後から照れがやって来てぺこりと頭を下げた後逃げるようにキッチンに向かえば聞いてきた注文を伝える。すると一息つく間もなく他の客から声が掛かり注文を聞きに行く。初めこそぎこちなくしていたものの初めての接客という経験はなかなか新鮮で少しずつ雰囲気を掴んでいく。たまに目線がやけに合わない客や話の長い客が気になるものの依頼通りの仕事をこなしていると相手が注文したケーキプレートとコーヒーが出来上がる。先程よりも幾ら慣れた様子で相手の席まで運んでくると「お待たせしました」とテーブルの上に慎重に置いて)