相乗りで何処までも 【 〆 】

……、…面白かった。いつの間にかかなり没頭していたみたいだ
（真の黒幕が分かってからは気持ちいいぐらい敵をなぎ倒していく。お互いの弱点をカバーし合い息の合った動きで窮地を脱していく姿に自然と夢中になっていく。命の危機があるにも関わらずいつものノリで仕事終わりの飲みの約束をしながら爆弾を設置していく。時限爆弾のタイマーをセットして彼らはお世話になった組織の建物から脱出を目指す。その行方が分からないまま大迫力の爆発音が劇場内のスピーカーによって響き渡って建物が崩れていく様が映される。組織が悪用を企てていた全世界に向けた監視システムの機械も爆発によって壊れていて彼らの目的が達成されたことが分かる。一転して日常生活の中で組織の建物が崩壊するニュースの様子が流れるが二人の姿は一向に現れない。彼らがどうなったのか、いつの間にか物語に没頭して気になっているとバーで軽口を叩きながらお酒を飲む二人が出てきて無意識に安堵の息をついた。どちらのおかげで成し遂げたのか言い争う姿に微笑ましいものを覚えながら映像はエンドロールに移行していった。彼らがこれからもバディであることを確かめ合う会話の後映画は終わり劇場の照明がゆっくりと明るくなっていく。現実に戻ってきたのにまだ頭は映画の世界に居るような余韻があってぼんやりと何も映らなくなったスクリーンを見つめる。少しずつそれも溶けていけば相手の方を向いて率直な感想告げて）

……、あぁ予想以上に面白かったな！最後二人がどうなっちまったか分からなかったからヒヤヒヤしたぜ
(相棒二人がセットした爆弾が起動しド派手に組織の建物が爆破され轟音に飲まれながら崩壊していく建物を眺める。全ての悪事は消し去られたが肝心の二人が無事に逃げ切ったのか、それとも殉職したのか、なかなか明かされずクライマックスシーンが終わってもハラハラ落ち着かなくて繋いだ手を握ったり緩めたりと忙しなく動かしていた。場面はバーへと移り二人が約束通り酒を飲み交わすシーンが映れば全てを無事成し遂げた二人の姿にいやでも心は弾んで興奮してしまう。二人がこれからも相棒として歩んでいくことを明確な言葉なしに確かめあったところで物語は終わりエンドロールとなった。スクリーンを見つめながら内容を思い返していると頭は映画の物語でいっぱいになってしまって相手から声をかけられてようやく意識を戻すと興奮冷めやらぬまま身を乗り出し感想を告げる。王道のアクションものだがバディの絆が構築される過程が丁寧で、さらに二人の間でやり取りされるセリフがクールとなれば興奮しないわけがない。映画の余韻を大いに満喫していたがまるで相手が検索した結果をこちらに話す時のように勢い付いているのに気がつくと「んん゛っ」と咳払いをしてから「俺の目は間違ってなかったみたいだな」と映画の中の人物に影響を受けいつもよりも気取った言い方で言い)

どちらとも取れる演出にして最後に約束通りバーで過ごす二人を出して締めるのは定番だけどグッと来る終わり方だった。 ああ、この映画が見られて良かった。
(映画が終わり相手に話しかけると興奮冷めやまぬといった様子で感想が告げられる。身を乗り出して語る勢いに一瞬驚いてしまうがそれだけ面白かったということだろう。こちらもラストの演出の良かった部分をあげてその余韻を噛み締める。実際自分も後半はかなり見入っていてポップコーンがあることを完全に忘れていた程だ。ドラマやDVDは相手や所長が見るのを横でちらりと見たことがあるが大きなスクリーンと立体的な音響で見る映画は迫力が段違いだ。自らの興奮具合に気付けば相手が咳払いして誤魔化すがその後続いた言葉はすっかりあの主人公の影響を受けていて小さく笑みが零れた。デートの場としてこの映画を選んだのは正解だったと言えるだろう。今日は気取った言い方をそのまま受け止め相手のセンスを褒める。このまま見た興奮を分かち合いたい所だが周りの客もぞろぞろ退場している。「一旦外に出ようか」と声をかけると立ち上がり繋いだままの手には気付かないままシアターを後にして)

お前も気に入ったんなら何よりだ。___俺もあんな風にもっとスマートに戦わねぇとな、最小の動きで強烈なやつを…っ、…
(勢いよく相手に感想をぶつけてしたったが相手の反応も上々でポップコーンがまだまだ余っているのを見るに二人とも映画に没頭していたのが分かる。こちらの趣味で選んだ映画だったが相手も同じ物語を楽しめた事実にまた胸が温かくなる。まだまだ感想を語り合いたいところだがそろそろ退場しなければ迷惑になってしまう、相手の声掛けに短く返事をすればポップコーンを持ち帰り用に貰っていた袋に入れて席を立ち歩き始める。頭の中は今見た映画とその感想を相手と共有したい気持ちでいっぱいで手が恋人のつなぎ方のままであるのをすっかり忘れてしまっていた。扉を潜り出口に向かうも興奮はまだまだ健在で今度は売りのアクションシーンを褒め始める。普段の格闘に活かせないだろうかとまたも直ぐに影響を受けて話していれば小さな女の子がちらりとこちらを見るのが目に入った。何か気になることでもあったのだろうかと考えた矢先に恋人と手を繋いだままなのに気がついて咄嗟に手を離してしまう。他に気づいている人がいないのは幸いだがあの子に見られてしまってのが妙に恥ずかしく頬に熱が宿る、だが同時に相手の存在がこの手から離れてしまった寂しさもあってそんな感情を簡単に感じてしまう自分にも動揺していた。約束を破りかけた事と急に手を話してしまった事に対して「悪ぃ…」と小さく謝る事しか出来ず)

あのレベルまで到達するにはかなり時間がかかりそう…、別に謝ることじゃないだろう？僕も気付かなかったから。
(ポップコーンを持ち帰り用の袋に移して出口へと向かう。まだまだ語り足りないようで今回の映画の売りでもあったアクションシーンにも触れ早速私生活に取り入れようとしている姿は何とも微笑ましい。暫くはハードボイルドではなく映画の彼らの真似をした相手が見られそうだ。だがスマートな動きに憧れる言葉が何故か途中で途切れると不思議そうに相手に目線を向ける。直後ずっとあった温もりが離れていきこちらもようやく手を繋いだままであったことに気付く。隣同士で暗い空間だから出来たことでここは外だから繋いではいられない。お互いの間で結んだ約束で離されても当然であるのに離れた手が妙に冷たく思えてフォローを入れるのにも一瞬間が空いてしまった。それを誤魔化すように手をジャケットの袖で隠してしまえば変になってしまった空気を切り替えるように「…次はご飯でも食べに行こうか、良い洋食料理の店を教えて貰ったんだ」と誘いをかけて歩き出して)

そうだよな……あぁ、腹減ったし飯にしようぜ
(相手と出かける事はあったが外に出て手を繋ぐのは久しぶりでこの繋がりを放す気になれなかったのと映画後の興奮で二人の世界に入り込んでしまったのが相まってつい手を繋いだままにしてしまった。しかし手を離したら離したで二人の世界が崩れ去ってしまった気がして物足りない気持ちが押し寄せる。自らが言い出したルールで今後も破れないルールではあるがもどかしい気分が募るばかりだ。相手の手も失った温かさを補填するように袖の中に隠れてしまい胸が軋む、お互い気持ちは同じなのだろうがこればかりはどうしようも無い。デートで映画を観終えたばかりだというのに気持ちを沈めてはいられない、次に相手が考えたプランは食事のようでこちらも気持ちを切り替えるようになるべくいつもの声色で返事をすれば相手の隣を歩き出す。聞いた直後は処理しきれなかったが後から引っかかりのある言葉があるのに気がつくと「教えてもらったって、誰に教えて貰ったんだ？」と隣に目線を向けながら問いかけ)

ウォッチャマンだよ。僕の検索は良い飲食店を探すのには相性が悪いから一番詳しそうな彼に連絡を取ってみたら快く教えてくれたよ。今から行くのはその内の一つだ。
(この街で暮らす以上守った方がルールを破るつもりは無いがずっと触れ合っていた分物足りなさが募る。相手と外に出てこうして色々な体験を出来るのは楽しいことだが反面周囲の目による制限もあるのがもどかしかった、そんな気持ちを振り切るように食事を提案すれば相手もそれに乗って移動を開始する。住所を思い出しながら道を歩いているとその情報源を問われ馴染みの情報屋の名前をあげる。地,球.の本.棚はどんな料理を取り扱っているかは検索出来ても味や雰囲気などに関して客観的かつ総合的な評価で絞り込むことは出来ない。出歩いた経験も少なければ知っている飲食店など相手と利用した何件かしか知らないがそれではデートプランとは言い難い。そこで思いついたのがブロガーを名乗る彼で以前イタリア料理店での五感のメモリの件でも遭遇したのを考えれば飲食店への関心も強いだろうと相手が昨日事務所を出た後に連絡を取ったのだ。相手と一緒に食べに行く店を探してると言えば快く良さそうな店を取り繕ってくれて今向かっているのもその中の一つだ。落ち着いた雰囲気の通りを歩きながらそのことを説明すると目的の店を見つける。老舗らしい風貌の店を指さしながら「このお店だ」と相手に伝えて中に入ると端っこの席に案内されて)

え、あいつに聞いたのか？……そうか。そりゃ楽しみだな
(相手のことだからすっかり地.球.の.本.棚.で検索して今日のプランを立てたのだと思っていたが、まさか情報屋の名前が出てくるとは思わず予想外の言葉に目を瞬かせる。確かに地.球.の.本.棚.は素の情報を調べるにはもってこいだが人の感想や感情が乗ったものを得るのは難しい。だがそこで検索できる範囲の口コミや雑誌の記事を参照するのではなく信頼をおく情報屋に声をかけるとは。街の噂に敏感でブロガーのウ.ォ.ッ.チ.ャ.マ.ン.なら検索では分からない良い店を知っているだろう。飯ひとつとっても時間をかけて準備してくれた事に少々揺れた胸にまた暖かな物が溢れると顔を綻ばせていた。たどり着いたのは静かな通りに面した老舗の洋食店だ、当然存在は知っているが中に入った記憶はない。ひっそりとしているが決して堅苦しい高級さを感じさせない緩やかな時間が流れる良い空間だ。端の席へと案内されればウェイターにメニューを手渡される。それを広げながら「初めて入ったけど、さすがあいつのオススメだな」と向かいの席に座った相手に視線を送り)

僕だって君と同じ探偵だからね、使える情報源は活用するさ。あぁ、全て安定した美味しさらしいけど中でもこのオムライスとビーフシチューが絶品らしい
（情報屋の名前を出せば相手の目が瞬く。少し前なら自前の検索だけで済ませただろうが今は情報屋とも大分顔なじみでその情報の有難さや有益性を知っている。それは相手と共に探偵をするようになって外の世界を知ったからこそである意味今日はそういった自分の変化を相手に伝える機会なのかもしれない。相手の表情を見ればこちらも口角が上がって映画の登場人物の真似をして少し気取った言い方で返事をして見せた。店に入りメニューを渡されるとそれを開く。グラタンやエビフライ、ハンバーグ等有名な洋食が写真付きで並ぶがどれも美味しそうだ。相手の視線に気付くと柔らかな表情で彼の審美眼を褒め、特におすすめしていたメニューを指さして教え）

お前もなかなかこの街の探偵として板についてきたみたいじゃねぇか。ならお前の調査結果通りオムライスとビーフシチュー頼んで分けて食うか
(自分を介することなく人と関わりを持つなんて相手が事務所に来た当初は考えられもしなかった。自分が愛する街の人の輪に相手が確かに入っているのを感じれば自然と笑みも浮かぶ、この街に相手も溶け込み風.都.の住人として生きているのだと感慨深かった。映画を真似たのだとすぐに分かる気取った言い方には小さく笑い声を漏らすとこちらも同じくセリフ回しのような言い草で返事を返す。さながら映画のラストを飾ったバーのシーンのように相棒と二人で食事を楽しもうではないか。ウェイターを呼んで相手のリサーチに基づきオススメの品二つとビーフシチューがあるならとバケットを追加で注文すると「他に注文しとくもんあるか？」と問いかけ)

それだけで十分かな、足りなかったらまた何処かで食べれば良い。
(この街の探偵である相手に板に付いてきたと褒められるのは嬉しくもあり何だか擽ったい。だけどこうして幸せそうな相手が見られたならばあの時外の世界に出たいと主張したのは間違いではなかったように思う。すっかり映画に影響したような言い回しで料理を決めておすすめの二品と付け合わせのバケットを注文した。他にも興味惹かれるものはあるが昼ごはんとしてはこれくらいで十分だろう。小腹が空けば他で調達するのも手だと告げて注文を終える。ウェイターが去っていけば改めて相手と向かい合うような形になって「こうして外でゆっくり食事をするのも久しぶりだね」と思ったことを口にして）
)

最近飯は家か事務所ばっかりだったもんな。……これも待ち合わせからのデートのおかげだな
(注文を終えてウェイターが去っていくと端の席でそこまで混みあっていないこともありまた二人の空間ができあがる。事務所の経営は火の車とまではいかないが豪勢な生活ができる身でもない、加えて食事を取りたい相手とは四六時中一緒にいるとなると自然と食事をとる場所の選択肢は家か事務所になっていた。特段外食にいく必要性がなかったとも言えるだろう。だからこそ久しぶりの外食はどこか特別な時間に思える、相手が風.都,の仲間と協力して選び勧めてくれた空間となればますます特別感は増すというものだ。それも二人で出かける時間を改めてデートにした恩恵だろう。雰囲気のいい店内を改めて見回してから相手へ視線を戻せば特別な空間に特別な人がいて自分は心底幸せだと自覚すれば柔らかな笑みを浮かべる。厨房の方向からは二人の料理を作っているのか良い匂いが漂ってきて「腹がなっちまいそうだ」と料理に期待を寄せていて)

なかなか良い提案だっただろう？ こうやって待つ時間も美味しく感じるスパイスだね。
(家や事務所で取る食事も相手とならば不満は無いが外食となればまた違った良さがある。良い雰囲気の店でつかの間の贅沢という奴だ。相手と視線が交わると幸せを噛み締めるように柔らかく微笑まれてぎゅっと胸が掴まれたような想いがした。きっかけこそ待ち合わせへの興味だったが昨夜デートプランを悩んだ甲斐がある。得意げにデートを持ちかけたことを誇りながらも久しぶりの外食の時間を楽しんでいた。そうしていると厨房から良い匂いが漂ってくる。情報通のおすすめの料理となれば期待は高まるばかりで食欲をそそられる匂いを感じれば相手の言葉に頷く。それから少しすると注文した料理が運ばれてくる。とろとろと良い感じの半熟に火が通った卵の乗ったオムライスと香り高くゴロゴロと大きな牛肉と野菜が煮込まれたビーフシチューは見た目だけでも美味しそうなのが分かる。ウェイターに取り分ける用の取り皿を頼むと「想像以上の料理だ…」とその見た目をじっくり観察して)

あぁ……今日はお前との時間をしっかり堪能してるな
(待ち合わせという行為だって相手の思いつきなのだろうがそれがこうも穏やかで幸せな時間になるとは思わなかった。得意げに語る相手にツッコミをいれるでもなく短く返事をするに留める。時間にすれば短い間だが相手と離れ自分の知らぬ所で用意されたデートプランを過ごしていればすっかり頭の中は相手のことでいっぱいでその姿から目を離せなくなってしまっている。普段相手と過ごす時間を疎かにしているわけではないのだが、デートと堂々と銘打って過ごすこの時間がこの心を満たして止まない。デートと名が付くだけでいくらでも相手を見つめていたくなってしまうのだから困りものだ。そうやって二人だけのなんでもない時間を過していれば料理が運ばれてきてテーブルの上は一気に色鮮やかになり良い匂いに包まれる。店の雰囲気に相応しくみるだけで食欲がそそる見た目に相手の呟きに頷く形で答えていた。ウェイターが取り分け用の皿を置いて去った所で相手と自分の前に皿とスプーンとを置くと早速スプーンを手に取りまずはオムライスを自分の皿に取り分ける。スプーンを入れたそばからホロホロと蕩けていくオムライスとその下に隠れ芳醇な匂いを放つチキンライスを皿へ盛れば一口分を口へと運ぶ。口に入れた途端に崩れ溶け合う卵の衣とライスに目を見開くと「めちゃくちゃうめぇ…」と極シンプルな感想を零していて)

君の食べている所を見ているだけで美味しさが伝わってくるね。じゃあ僕はビーフシチューの方を、…今まで食べた中で一番柔らかく味わい深い肉かもしれない、
(運ばれてきた料理がテーブルを彩るとその見た目と匂いにテンションが上がる。どちらもあまり家や事務所では食べることの無い料理で食欲と好奇心がそそられていると相手が早速取り皿にオムライスを取り分けていて、その様子をじっと見つめる。スプーンですくったオムライス口に運んだ途端目が見開かれシンプルかつストレートな感想が述べられるとその美味しさが伝わってきて表情を緩ませる。いてもたってもいられず自分はもう片方のビーフシチューから肉と野菜を取り皿に取り分け、メインである牛肉を1口大に切ってから口に運ぶ。十分煮込まれてホロホロになった肉に様々な旨みが溶け込んだコクのあるデミグラスソースが丁度よく絡み合って顔が綻ぶ。今まで食べた中でもトップに並ぶほどの柔らかさとコク深さに驚きと感心の混ざりあったような感想を口にしながらその味を噛み締めていて)

なんだそれ、早くお前も食べろよ。……お前が食べてる姿見るのが一番食欲湧くな
(こちらがオムライスを口にしてただただシンプルな感想を口にするとこちらを眺めていた相手の顔が綻ぶのが見える。よっぽどこちらが美味しそうな顔を浮かべていたのだろうかと照れくささが襲いくればそれを誤魔化すように食事を始めるように促した。しかしその意味はすぐさま理解できて相手が牛肉を食べれその顔が綻んで噛み締めるように感想を口にするのを見ればそれだけでよっぽどビーフシチューが美味いのが分かる。普段相手が食事をする時の様子をよく知っているからこそ相手のリアクションの意味をよく理解できるのだろうと思うと同時に相手も大方同じことを考えていたのだろうと思えば牛肉を頬張る相手を見つめながら小さく笑みを浮かべていた。相手がそれほど言うのならばとこちらもビーフシチューに手を伸ばす、もはやひとつのものを二人で分け合うのは当たり前だ。牛肉と野菜とを皿へ取って口へ運べば肉はホロホロと口の中で解けていきソースとよく混ざりあって様々な野菜の旨味を感じることができる。静かな通りにひっそり建つ店の料理がこんなに美味しいとは思わなかった。追加で頼んだバケットをビーフシチューにつけて食べればソースをよく味わうことが出来て「今度ウ.ォ.ッ.チ.ャ.マ.ン.に会った時お礼を言わねぇとな」とこの店を教えてくれた情報屋の顔を思い浮かべる。しかしこの店を選び連れてきてくれたの自分の恋人で「もちろんお前にもな」と笑みを向けつつ言い添えて)

それは何よりだ。ああ、感想と共にお礼を伝えなければ。、君の幸せそうな表情が見られただけで十分過ぎるお代だよ。
(こちらの言葉に誤魔化すような態度を取ったにも関わらず食事している自分を見て同じような事を言うものだから思わず笑ってしまう。恋人の幸せそうな顔や美味しそうに食べる姿が魅力的で見入ってしまうのはお互い様ということだろう。少し照れ臭く返事をしながら相手がビーフシチューを取り分けるのを見ればこちらはオムライスに手を伸ばす。絶妙な卵の火の入り方と酸味を飛ばしたケチャップと具材でまとまったチキンライスの相性は抜群でさらにもう一口と口に運ぶ。流石相手とは違った角度でこの街の情報を集めている情報屋のおすすめだ。お礼と食べた感想を伝えるべきだと頷いているとこちらにまで話が回ってきて一瞬動きが止まる。カフェやお寿司屋など様々な案を貰った中で相手が一番好きそうなここをチョイスした訳だが改めて真正面から笑みと共に礼を言われると何だか照れ臭い。だが自分が行ったことで相手が喜んでいる所を見るのは何よりの幸せでちらり相手の方を見れば素直な気持ちを告げた。顔が赤くなりそうなのを隠すように再びビーフシチューに手を伸ばそうとするがふと良いアイデアが浮かぶと目をキランと輝かせた後取り分けていたオムライスにビーフシチューのソースを掛ける。二つを一緒に食べてみれば相乗効果で更に美味しく感じられて「翔太郎、一緒に食べるとさらに美味しいよ！」と無邪気に報告をして)

っ、…なんだ、それ……さっきの映画に影響されすぎだろ……お、確かにそれ美味そうだ
(今日がデートで外とはいえ周囲には誰もいない二人の空間となれば自分の気持ちはいつもよりもスムーズに口から出て直球の感謝を伝えた。だが相手が照れくさそうにしながら口にした返事に思わず目を瞬かせる、先程と同様にこちらの顔がそれほど幸せそうだったらしい。感情を表に出さないクールなハードボイルド探偵からは程遠い行為だ、そんな幸せを溢れさせる顔をしていたことに小っ恥ずかしさを感じて思わず片手で顔を覆う。そんなのお代にはならないと言いたいところだが、逆の立場なら同じことを思うと確信できる。特別な相手が自分の用意したことで喜んでくれる嬉しさは何よりも格別だ、それを相手も感じているのだろうと思えば胸は高鳴ってしかたがない。だが勝るのは恥ずかしさの方でなんとか揶揄うような言葉を捻り出すが目線を背けていれば型なしだった。心臓を落ち着かせている間に相手は二つの皿に手を伸ばしていてその動向を見守る、出来上がったのはビーフシチュー掛けオムライスだ。先程まで真っ直ぐな事を言っていたかと思えば急に無邪気に騒ぐのだから忙しない、だがそうやって心を踊らせる相手を見るのが好きなのだからどうしようも無い。二つ美味しいものがあわされば更に美味くなるのは間違いない、早速相手と同じようにビーフシチューをオムライスに掛けて口に運ぶ。奥深いシチューの旨味がオムライスの優しい味に加わり新たな美味い料理となれば数回頷いた後に「この二つ頼んで正解だったな」とまたスプーンを伸ばしていて)

照れているのかい？ ああ、大発見をしてしまったかもしれない
（一晩ひとりだけの時間を過ごして真正面からデートと称して共に行動しているおかげか今日の相手は一段と笑顔が多い気がする。その表情が自分の見たかったことだと告げれば片手で顔を覆いながら反論とも言えない言葉が返ってきて視線を向ける。自分でも気取った言い方になった自覚はあるが事実なのだから仕方ない。先ほどまで自分も似たような心境だったのは棚に上げて笑い声交じりに揶揄う言葉を投げかけた。着飾らない素の相手の反応を楽しみつつふとした思い付きで出来たビーフシチュー掛けオムライスの味を共有すると早速相手にもそれを味わおうとしていて期待の目で見守る。その後相手からも高評価な感想が述べられると自分が褒められたかのように喜んで調子の良い言葉を続ける。これも二人で二つの料理を頼んだから見つけられた組み合わせと味だ。その幸せと味を噛みしめるように更にもう一口とスプーンを動かして食べ進めていき）

ウ,ォ,ッ.チ.ャ.マ.ン.もこれは知らないかもな___あー美味かった
(一段と心が素直に動くなか思わず手で顔を覆ってしまったがそれを揶揄われると「うるせぇ」とただ反抗的な言葉を口にすることしか出来なかった。実際にこの空間が幸せに満ちてしっかりと心音は早く何も反論することはないのだから仕方がない。相手の提案によってオムライス、ビーフシチューそれぞれ単体と二つを合わせた三つのパターンを楽しみながらスプーンを進めていく。新たな三つ目の味を発見して得意げな相手に店の提案者すら知らない情報かもしれないと持ち上げる、ウ,ォ,ッ.チ.ャ.マ.ン.にお礼を言いに行く時にこの食べ合わせを教えてやることにしておいた。二つ並んでいた皿はあっという間にバゲット共々空になり腹は幸せな料理で満たされる。至福の息をついて満足気な声を出す、この調子なら他の料理も美味いに違いない「ここにはまた来ねぇとな」と願望を口にしていて)