相乗りで何処までも 【 〆 】

っ…ああ、だいじょう、ぶ……戻った？
(相手が名前を呼ぶのが聞こえる。後ろへと落ちていく中で相手が自分を捕まえようとするが支えるほどの力はなく道連れのような形で階段を転がり落ちる。命の危機を感じるほどの高さではなかったが勢いよく落ちると頭を中心に鈍く痛みが走り咄嗟に目を瞑った。方向が分からなくなるほど転がって地面に到達して止まれば痛みを覚え小さく唸りながらも返事をしてゆっくり瞼を開いた。そこには探偵である相手の姿があって大きく目を見開く。ごくごく当たり前の光景、だけども今日一日ずっと待ち望んでいた姿で確かめるように呟く声も自分の物だ。抱き締めた相手の背中を支えながら二人で上体を起こしてみるが間違いなく自分の身体を自分自身が動かしていて「戻ったよ、翔太郎！」と声を弾ませ話しかけて)

やっと戻った！仮説はあってたみてぇだな
(目を開いた先にあるのは相手の顔、そして聞こえてくるのは相手の声だ。体を起こして自分の体を見るといつものスーツ姿が見えて相手の方をみれば先程まで着ていたはずの奇抜な色の服が目に入る。どうやら正真正銘元に戻ったようだ、ようやく日常に戻る事が出来てこちらも声を弾ませながら思わず相手の体を抱きしめる。腕の中にはいつも通りの感触があるが既にそれが懐かしいものにさえ思えた。体を軽く離してその顔を見つめる、いつもの相手にいつもの表情が宿っていてずっと物足りなさを感じていた心がようやく満たされる。見慣れた恋人の顔と声とを聞けば心底安心を覚えて「やっぱこの顔じゃねぇと」と大切なものの輪郭を確かめるように相手の頬を親指の腹で撫でてやり)

あぁ、大好きな君の姿だ。
(元通りに戻ったのだと思えば痛みなんてすっかり吹き飛んで喜びのまま相手に抱きしめられた。安心出来るがっしりした腕に包まれて好きな声が聞こえて、いつも通りの大切な物が戻ってきたことに喜びが胸に満ちる。所長が強い衝撃を与えれば戻ると案を出していたがまさかそれが正解だとは思いもしなかった。指の腹で頬を撫でられると擽ったそうに笑って、その手に自分の手を重ねてそっと握りながら相手を見つめる。やはり相手のコロコロと変わる豊かな表情はこの顔に宿ってなくては。今日一日一緒に行動していたはずなのに相手の姿が懐かしく思えてこのままずっと見ていたくなってしまう。今はその欲に素直に従って「アキちゃんに報告を済ませたら早めにあがらせて貰おうか」と提案して)

フィリップ……あぁ、もう今日はお前以外見たくねぇよ
(愛おしいものを撫でている手に相手の手が重なる、柔らかで暖かい感触は間違いなく相手のものだ。相手の名前を自分の声で呼べることが精神が入れ替わっていた心には何よりも嬉しくて願わくばここから動きたくはない。しかし残念ながらここは事務所へ繋がる階段の真下で屋外だ、今の音を聞いていつ所長が飛び出してくるかも分からないのを考えれば相手を見つめるのは後のお楽しみに取っておいた方が良さそうだ。相手も考えは同じようで早めのあがりを提案されると即座に頷き同意する。自分の顔を見続けた疲労もさることながら中身が相手なのに顔のせいで心理的距離を置かざるをえず、ずっとやきもきしていたのだ。今日の残りの時間は全て相手のことを考えたい。今度は足を踏み外さないように階段をあがり事務所の扉を開ければ即座にスリッパが飛んできて間一髪でそれを受け止める。未だ所長様は混乱の渦中のようだ。「もう戻ったからやめろ！」と叫ぶとその一言で中身と外見が一致したのを理解した所長はヘナヘナとその場に座り込み『よかったぁー』と情けない声を出す。これも心配してくれていた証拠だろう、スリッパは余計だが。今日はもう事務所を閉めないかと提案すれば『私も疲れた』という理由で事務所は店じまいとなる。疲労の浮かぶ所長を見送ったあと「俺達も帰るか」と相手に目をやると声をかけ)

そうだね、帰ろう。
(ストレートな相手な想いを聞けば口元に笑みが浮かぶ。楽しみは後にするとして今度は足元に注意しながら事務所へ戻る。扉を開けた途端スリッパが飛んできて間一髪で相手がそれを受け止める。まだ入れ替わったままだと思っているのか自らの力で戻そうとしてくる所長に相手が叫ぶと一瞬動きが止まった後、ヘナヘナとその場に座り込む。混乱していたものの所長なりの心配だったのだろう。所長に無事に戻った事と依頼の件、心配かけた謝罪と礼を伝えた後に早めに上がることを提案すれば所長もそれを賛成して店仕舞いする事となった。所長を送り出せば相手の言葉に頷いて戸締りをして事務所を後にする。自宅までの帰り道もいつもと変わらない。だが今日はその間何度も視線が隣に向いては相手の顔がある事を確認して口元が緩むのを繰り返す。相手の姿を借りて振る舞うのも最初は悪くなかったがやっぱり自分が成るのではなく隣にいて欲しい存在だ。相手が相手の姿で隣にいることを噛み締めながら帰路を進むと2人の家にたどり着いて)

___ただいま
(事務所の戸締りを終え帰り道を歩く。体の入れ替わりが解除され普通ならば自分の体に戻れたことに安堵すべきなのだろうが、それよりも相手が相手として隣にいることが嬉しくてたったそれだけで幸せに感じてしまう。隣から響く足音がいつも相手が履く靴のものであるだけでここが居るべき場所なのだと確信することができた。時折相手がこちらへ視線をやる気配を感じてこちらからも視線を送る、何度確認しても隣にいるのは相棒であり恋人である人だ。互いに視線をやりあえば時折目線がかち合って、照れくさそうに笑って誤魔化すように前をみる。そうやって歩くうちに二人の家へとたどり着けば帰宅の挨拶をして家の中へと入った。そわそわとした気持ちは未だ落ち着かずジャケットとハットを定位置に直すと真っ直ぐと相手の元へ帰ってきて断りなく改めて相手の体を抱きしめる。いつも通りの心地と匂い、互いの頬をピタリとくっつけると「悪い、我慢出来なかった」とどこか嬉しそうに呟いて)

ただいま。…ん、僕もこうしたかったから構わない。 翔太郎、
(目が合えば照れくさそうに笑ったりと事務所に向かった時とは別の意味で落ち着かない気持ちを抱えながら家に着く。相手に続いて帰宅の挨拶をすると中へと入り、リビングに移動する。ここを出た時は相棒の姿だったなと思い返しているとハットとジャケットを置いてきた相手に抱きしめられる。そのまま頬がくっつくほど密着すると小さく笑みを浮かべてこちらからも背中辺りに腕を回して抱き締める。慣れ親しんだ感覚と匂い、それだけで今日一日の疲れか癒されていき幸せか満ちる。ずっと無意識に欲しかったものが今腕の中にあって自分の声で改めて相手の名前を呼ぶとその頬に短くキスを落とす。「元に戻れて良かった」と素直な感想を口にすると相手であることを確かめるように擦り寄って)

……やっぱりお前の声で俺の名前呼ばれるのが一番だ、フィリップ
(頬同士が触れ合って柔らかな感触を感じでいれば相手からも腕が回されてさらにそな体温を感じられるようになって無意識に至福の息を漏らす。たった半日入れ替わっていただけのはずなのだがその短期間でさえ相手が正しく相手でなくなってしまうのは耐え難かったらしい。相手の声で自分の名前を呼ばれその音が鼓膜を揺らす、それだけで舞い上がる程には気持ちが満たされてそこに頬への口付けが加われば自然と口元は緩んでいく。相手のトーンであろうと違う声で呼ばれるのは物足りない、やはり相手のその声で自分の名前を呼んで欲しい。胸を満たしていくものはすぐにも溢れかえりそうになって少しだけ顔を離すと相手を正面から見つめる。相手の中にいたということはすなわち自分はその間唯一この世界で相手の姿を見れなくなっていたことになる。その分を取り戻すように瞳に相手の姿を写すとこちらからも相手の名前を呼んでゆっくりとした動作で唇を重ねて)

…ん、僕も君の声で君に呼ばれるのが好きだ。
(名前を呼んで頬に口付けを送ると相手の口元が緩む。慣れ親しんだ行為でも今はかげがえのないものに思えて仕方ない。少しだけ相手の顔が離れていけば真正面から見つめ合うような構図になる。入れ替わっていた時は見えるのは自分の顔であったせいで無意識に顔を合わせる機会が少なかった。だけど今は視界いっぱいに愛おしい相手の姿が写り、名前を呼ばれてゆっくりと近付いていく。やがて唇同士が重なるとお預けだった分幸せや愛おしい気持ちが湧き上がって無意識に腕に力を込め、じっくりとその感触を確かめるように長いキスを続ける。そっと唇を離すと柔らかな表情を浮かべて返事を返す。一度その幸せを味わうと我慢し切れなくなるもので「翔太郎、もう一回」と強請ると今度はこちらから唇を重ねて)

、……いくらでもしてやるよ。今日はお前のこと以外見たくねぇって言っただろ？
(二人の唇が重なる、少しして相手の腕に力が籠るとその小さな変化でさえ胸がじわりと幸せに満ちる。愛しい人の温もりを確かめるようにゆっくり背中を撫でながらゆっくり唇を離すがすぐに次を強請られ再び唇が重なる。こちらも一度この柔らかな感触を感じてしまえば手放し難くなってしまって僅かに口を離してその事を告げた後相手の後頭部に手を添え頭を固定してこの手から逃さないようにしてしまう。触れるだけでは足りなくなったこの体はさらに相手を求めて唇を食むように口を動かす。後頭部と背中に添えた手でこの腕から相手がすり抜けて行かぬようにしながら互いの柔らかな部分を擦り合わせ時折戯れのように舌先で唇の間を擽って)

なら、今日の翔太郎は僕の貸切だ。……ン、…
(ゆっくり背中を撫でられながらもう一回を所望して唇を重ねる。何度したってその幸せは尽きず、一旦離れた相手がこちらを甘やかすような事を口にして今日は自分に釘付けであることを約束してくれると嬉しそうに目を細めて言葉を返す。手が後頭部に添えられ相手の中に閉じ込められたまま再び唇が重なった。触れるだけだった物に食むような動きが加われば鮮明に唇の感触を味わうことが出来るようになる。背中に回していた片方の手を相手の腰元に下ろし、軽く引き寄せながらキスを続けていると不意に違う生暖かい物が触れ小さく反応を示す。一度その存在を意識すると更に欲しくなってしまい、薄く唇を開きこちらからも舌を伸ばして舌先で唇の間を焦らすようにゆっくりなぞる。相手の舌先に近づけばつんつんとちょっかいをかけるように触れるも駆け引きでもするように直ぐに舌を引っ込めて)

……、…っ……ん…
(柔らかく唇が重なる最中に相手の手が腰に添えられ軽く引き寄せられるとそこに息を潜めていたものが擽られて胸が疼くのを感じる。独占欲を刺激された直後にそんなことをされてしまえば優しいキスだけでは終われない予感を感じて溢れ出す気持ちのまま相手を求め舌先を伸ばす。そうしてやれば腕の中に閉じ込めた相手の体は小さくとも確かな反応を示してグラりと腹の底を揺さぶった気がした。向こうからも舌先が伸びてきて口を開けるよう促す動作をされるのにすぐにそれは引っ込んで、誘うように舌先はこちらに触れるのに捕まえようとすれば逃げてしまう。今日一日嫌でも相手との距離を感じていたというのに今距離を詰めるのは許されない。相手に誘われこちらの気持ちは昂るばかりなのにさらに奥へは行けずに焦らされて、相手を求める粘度の高い欲望が一気に喉元までせり上がってしまった。不意に後頭部に添えていた手でそこを掴むと少々乱暴に顔を上へと向けさせる。反動で唇の間が僅かに開いたのを見逃さず覆い被さるように上から舌を口内へと突っ込んで、先程から逃げ隠れしている舌を無理やり捕まえて)

…んっ、……は、…
(相手の事になると欲は尽きることなくもっと自分の事だけを見て欲しいと思ってしまう。そのために悪戯に相手の舌先と触れ合って、満足する前の中途半端な状態で引っ込める。お預けのように舌を隠してしまえば不意に後頭部を掴まれ半ば強引に上を向くように固定される。その動作で僅かに開いた唇から割り込むように舌が口内に入ってくれば狙い通りの行動に密かに口角が上がる。覆い被さるような状態では逃げ場もなくあっさり捕まってしまえば今度はこちらから表面を擦り合わせるように舌を動かす。薄く目を開くと至近距離の相手の顔があって見知ったシャツを掴んでいて相手の匂いがする。感じる感触も熱も味も相手のモノだと思えば愛おしくて欲しくて堪らない。歯止めの効かない欲のまま粘膜を擦り合わせて舌を絡めるように動かす。恋人を求めるようなキスに夢中になっていけば2人だけの空間に小さな水音と吐息が聞こえるようになり)

…っ…………、……ほんとお前は俺を煽るのが上手いな
(欲を煽られるまま多少強引なことをした自覚はあったが舌をねじ込んだ後相手は焦る様子もなく寧ろ口角が上向きに動くのを感じる。そこでようやくここまでが相手の思惑のうちだったと理解した。こちらを誘い込む為の誘惑にまんまと嵌ってしまったことにせり上った欲望はさらにぐちゃぐちゃに掻き乱される。相手の手のひらで踊らされている感覚が、愛しい相手にのめり込むよう嵌っていく感覚が、腹の内に宿る欲を掻き立て暴走させていく。あれだけこちらから逃げていた舌は自らこちらのものへと絡みついて求めていた感触に脳内が揺さぶられるとこちらからも舌を絡めて擦り合わせる。周囲のことを気にする必要もない二人きりの空間で節操もなく相手を求め舌を絡ませれば当然周囲には淫らな水音が響き渡った。だがしてやられたままでは収まりがつかない、というよりはそんな余裕のある状態なのが納得いかない。好きなように煽られた欲は嗜虐心へとゆっくり形を変えていく。口を僅かに離して口内に残ったものを飲み込めば低い声で熱い息を漏らし呟く、直後後頭部を支えていた手を頬に添え親指を相手の口内に突っ込むとそのまま顔を上へと向けさせた。軌道が真っ直ぐになったこの状態で人体の急所である喉へと顔を近づけるとまずはその形を確かめるように下から上へと喉を舌先で舐め上げて)

……ん、君の事は何でも知っているから、ね…っ な、に…っ、…ン…、
(どうやらこちらの策略に気付いたようだが既に結果は自らが望むままだ。自らの口内に侵入してきた舌に積極的に絡ませていれば相手からも求めるように動かされて夢中にしてしまいたい欲が満たされていく。いつの間にか戻ってきた相手を慈しむようなキスから相手を誘い込んでお互いしか見えなくするようなキスになっているのを自覚していると僅かに唇が離される。どちらのものとも言えない唾液を飲み込むと欲の乗った声と熱い息が頬を擽ってぞくりと背筋に興奮が走る。相手も高まっている、その事実が何よりも嬉しい。後頭部にあった手が頬に添えられると自信たっぷりに相手を見透かしたような事を告げるが親指が突っ込まれると僅かに目を見開いて困惑の色を見せる。そのまま上を向かされると過去何度かされた体勢に意図を察しては焦りの声と共に抗議するようにその親指を何度も甘噛みする。この状態は良くない。そんな経験上の勘とは裏腹に視界の端で相手が近付くのが見えて曝け出すように固定された喉に舌が触れると身体が硬直する。そのまま上へと移動していけば普段触れられない位置への感触に喉は震え、唇の隙間のせいで噛み殺せない小さな声が溢れて)

……、…ここだと跡がつくと困るからな。加減しねぇと
(相手と視線が交わればいつもの自信と余裕のある瞳が見える。しかし普段他人の侵入が許されない口内に異物である親指が差し入れられればその瞳は僅かに見開かれてその反応にゾクリと体が震え無意識に熱い吐息を吐き出した。相手を求める欲は相手を乱したいという欲へと変貌する、こちらへ訴えるように親指を甘噛みされるがそれさえも相手の焦った心情が指先から伝わるだけで黒い欲望を掻き立てる要因にしかならない。ピンと張った喉を舌がなぞればそこが震えるのがよく分かる、呼応するように開きっぱなしの口からは声が漏れだして口角があがった。一度膨らみ始めた嗜虐心は今日薄らと待てを強要されたせいか最初から止めようとするものが存在せず大きくなり続けていた。わざとらしく耳元で唸るように他人から見える位置を愛撫することを囁けば再び首元へと口を近づける。しかし宣言通り強く愛でることはせず、一所にゆっくり舌を這わせてそこを濡らし食むように唇を動かした後にわざとらしくリップ音を立てて口付けるだけに留める。決して跡をつけないような力加減で首を何度も濡らし食んで口付けて、時折歯の先で肌を撫でるがそれ以上は進まない。苦しい体勢を強いながら生ぬるい刺激ばかりを与え続けていて)

…っ、…は、…ン、っ…翔太郎、痕付けていいから、っ…もっとそこ、噛んで
(人の急所とも呼べる喉を生暖かい舌がなぞれば擽ったさとはまた違う感覚を覚えて熱い息を吐き出す。その反応が望むものだったのか耳元で唸るような声でこの先の事を予感させられると燻っていた腹底の欲が疼いてまた一つ熱が上る。身体を相手に明け渡したまま再び首元に唇が近付いてくるがゆっくり舌でなぞり相手の唾液で濡らされたかと思えばリップ音と共に離れていく。その動作に堪えきれない吐息が溢れていくもそれ以上のことはされずに、だけど絶えず生温い甘い刺激が与えられると高まっていく熱が発散出来ずに蓄積して頭がくらくらする。これだけじゃ足りない、もっともっと決定的で強くて深い刺激が、相手が欲しい。硬い歯が肌を撫でる度にその先の行為を期待して甘い吐息が溢れていることに気付けばもう駄目だった。散々焦らされ焼け焦げた理性は上手く働かず甘く名前を呼ぶ。今は後先のことなど考えられず、その状況に追い込んだ相手に縋るように更に強い刺激を求めると「お願いだ、」と余裕なく懇願して)

……っ、…お前がそう強請るなら仕方ねぇな
(甘く熱を帯びているのに決して強くはない刺激を繰り返し与えればすぐそこにある喉と親指を突っ込んだ口から声が溢れでてくる。確信的な刺激ではないのに熱に震える相手の喉を見ればどうしようもなく滾ってこの体を熱くする。相手が中途半端な熱に喘ぐ姿がどうしてもこの胸を擽って小さく笑い声を漏らしていた。柔く触れるだけの刺激を与え続ければとうとう相手の我慢が限界を迎えたのか甘い声で名前とその先を強請られる、今度は相手がこちらへと堕ちたのを確信して嗜虐心と独占欲という決して相手以外には向けられない薄暗い感情で胸が高鳴った。お願いだなんて懇願するような甘い声は毒物のように脳内へと浸透してこちらも相手へ堕ちているという事実を霞ませる。あくまでも自分で望んだ事だと刷り込ませるように返事をすれば勿体つけた動作で首筋に口を近づけた。狙いを定めるようしばらく唇を肌に滑らせ、右側面に唇が触れたところで動きを止める。決して逃げられないように後頭部をもつ手に力をこめ背中に回していた腕は腰に巻き付け体を完全に固定すると、ピンと張った白く柔らかな肌に硬い歯を突き立てた。肌を破る感覚のあとじわりとそこが熱をもつ、そこを慰めるように、痛みを与えるのを分かっていながら、ゆっくりと舌を這わせて存在を刷り込んで)

っ、…は、翔太郎…あﾞッ…は、ぁ…、嬉し、
(相手を夢中にさせたいと思っていたのにいつの間にか相手に与えられる物と物足りない物で頭がいっぱいになっている。弱火で熱されるように燻った身体は限界を迎え、その先を強請ると首元の気配が小さく笑ったような気がした。自分がしたのと同じように相手に誘導されている事にも気付かず、仕方ないと願いを聞き届けられると悦びが胸に満ちて早く自分の大事な部分を愛おしい恋人に噛まれたいと望んでは腰を抱く腕に力が入る。再び首筋に口が近付くが暫く場所を吟味するように肌を撫でる。一度願望を口にするとそんな短い時間すら我慢出来なくなって急かすように名前を呼んで噛みやすいように頭を動かして首筋を晒け出す。やがて一箇所に定まると後頭部と腰に回された手でガッツリ拘束されその瞬間への期待に息が詰まる。予告もなく硬い歯が皮膚に突き立てられると鋭い痛みに悲鳴に近い声をあげて縋りつくように相手に体重をあずける。傷がついたばかりの首筋はすぐに熱を持ってじくじくと痛みを発している。その赤い跡をゆっくりと舌が這うと存在と痛みを深く刻みつけられるようで小さく身体が跳ねる。その一方で待ち望んでいた強い刺激と明白な相手の証を与えられたことに幸せが満ちて蕩けかかった表情で呟き)

……は、…フィリップ……ベッドいくぞ
(首筋に顔を寄せれば相手の体が十分に熱を持っていることが手に取るように分かる。その状態で我慢が効かず急かすように甘い声で名前を呼ばれて首筋を向こうから晒されれば片隅に残っていた理性もはじけ飛んでしまうというものだ。最初から加減など出来ずに赤い跡を刻む、それなのに相手は体も声も蕩けさせこちらへと縋り付いてくるのだからどうしようもない。相手を乱したくて啼かせたくて、嗜虐心が膨らむばかりだった。甘い声に呼応するように再度跡に口付けを落とした後相手の許可を取ることもなく移動を決める。どちらにせよもう相手はまともに立ってなどいられないだろう。後頭部に回していた手を脇下に通しもうひとつの腕を膝下に通して横抱きにして持ち上げるとそのままベッドへと相手を運んだ。体をベッドへと横たえるとすぐさま上へと覆い被さり相手を自分の支配下へと置く。片手を相手の頬に添えこちらへ向かせるよう固定し視線を交える、その瞳は既に熱に揺れ獲物の前で待てをされている獣と同じだ。もう片方の手は腹のあたりからゆっくりと上へ移動させて相手の体をなぞる。最後には先程の跡へ親指を添えるとゆっくりと指先に力を入れて痛みと跡を刻みつけながら「好きだ、フィリップ」とその行為とは裏腹な言葉を口にして)