検索 2022-07-09 20:46:55 |
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分かったよ、…じゃあ任せた。
(相手をハードボイルドと褒めることは殆どないだろうが代わりに言われても大したダメージではない。どうやらこちらの問いかけに返す言葉はないらしく口を噤んだかと思えば叫んで話題を変えてしまう。こういう言動の方が普段自分がしないことの様な気もするがこれ以上揶揄うと本当に拗ねてしまいそうだ。着替えたばかりの身体を回され背中を押されるといつもより非力な具合に口元を緩ませつつ素直に洗面台の方へ向かった。鏡の前に二人で立てば光景こそいつもと一緒だが浮かぶ表情は逆だ。事情を話すつもりである所長はともかくなるべく他の人には鉢合わせない方がいいだろう、色々な意味で。そんなことを考えながら相手の方を向けば髪のセットをお願いして)
任せとけ。自分の髪をセットすんのも変な気分だな……
(相手を洗面台に押しやることには成功したものの相手の体を動かすのにはいつもよりかなり踏ん張らなければならなかった。いつも何気なく相手の体を押したり引いたりしていたが体格が逆転するとこうも労力が必要だとは。どことなく余裕そうな笑みを浮かべる相手を恨めしく思いつつ鏡の前へとやってくる。髪のセットでやることはいつもと同じはずなのだが自分の顔でも他人の頭をいじるとなるとまた違う感覚になるだろう。こちらへ向いた相手に返事をするも鏡を通して自分の顔を見た方がいつも通りの感覚に近いだろうという理由と、やはり自分の顔を間近でみるのは慣れないという理由で再び相手の体を腕に力を込め回して鏡を向かせるようにすれば一息ついてから整髪剤を手に取る。いつもと少々角度は違うものの鏡を通して自分の顔を見ればいつもの感覚とかなり近くなった。真剣な顔でセットを進めるがふと目を上げればその真剣な顔は相手のものなわけで、そんな表情を見れば胸が擽られてしまい妙な気分になる。自分の表情で自分がやられてしまえば困ったように眉を下げていた。複雑な気持ちと顔をしたままいつも通りのセットを終えると「これでいつもの俺の完成だ」と告げて)
自分を第三者の視点で見るなんて変身後ぐらいしかないからね。…ありがとう。うん、見慣れた姿だ。
(再び鏡の方を向かせられると相棒によって髪のセットがされていく。基本的に鏡でも無ければ自分の姿を見ることはなく、こうして長い間自分を見るという経験も珍しい。変身で相手に意識を転送した時も似たような感覚だがその時はこちらの身体は意識を失っているため動いている姿はやはりレアだ。相手の呟きに返事をしながらセットされていく髪を興味深く観察していた。その途中自分の顔が困ったような表情になったのは気になったものの完成を告げられると礼を伝え顔を左右に動かす。自分の動きに合わせて鏡の中の相棒の姿が同じように動く。それがいつも見る相棒の姿であれば軽く笑って問題ないと告げた。自分の身支度が済めばあとは相手の方だがこちらは簡単だ。軽く分け目を決めた後に前髪を横に長し、片方の横髪を目にかからないようにあげ洗面台に置いてあるクリップで留める。それとなく手櫛で整えると「これで僕も完成だ」と告げて)
なら俺は余計に体と意識が離れてんに慣れねぇな……よし、とりあえずこれで見た目はいつも通りだな
(こちらも自分の姿を第三者視点で見たことはないことはないのだがファングの使用回数が少ないのに比例して相手より数倍は自分の姿を俯瞰でみるのは慣れないものだ。しかもそれが動いて相手のように話すのだから余計に違和感がある。いつか自分と瓜二つの人間が現れたこともあったが、こちらはまた違う体に入っているのだからあの時とはまた違う感覚だ。相手がいつもの口調なので辛うじて中身が相手だと認識はできるがずっと奇妙な心地なのは変わりない。相手の髪のセットが終わりハードボイルド探偵が完成する、いつもと違う雰囲気で自分の顔が笑っているのもなんとも言えない気分だ。次いで相手がこちらの髪のセットにかかる。今更ながら髪をクリップで止めるのは不思議な光景だが髪につけられるとそれほど邪魔になる重さではなくしっかりと髪をキープしていて案外効率がいいもので「わりとしっかりしてんな……」と思わず呟いていた。これで見てくれはいつも通りに整った。ここからは周囲にバレないようにこの現象の謎を解かなければ。自分の顔を前にしながら朝食はいつも通りトーストとコーヒーで済ませると満を持して家を出て事務所に向かい)
_…ということで何かしらの原因で僕と翔太郎の身体が入れ替わったみたいなんだ。
(お互いの身支度も終わって朝食を済ませると原因の探求の為家を後にする。ここからは街の人の目もある。下手な騒動を引き起こさない為にもなるべくいつも通りに相棒らしい行動を心がけながら事務所へと急いだ。事務所に入れば既に所長が出社していて相手と目配せをしてお互いのフリをしてみようと試みる。だが挨拶をしてデスクに向かおうとする数秒で違和感に気付かれるのだから流石所長様と言ったところだろう。この状態を何とかするにあたり所長にもここに来るまでの経緯を説明すれば『私、聞いてない!』といつものツッコミがされるも大体の状況は把握してくれたようだ。依頼人が来たら所長が一旦内容を聞いてそれからは臨機応変という形に決まると早速この現象の解明へ移る。大きな鍵はやはり昨日のド.ー.パ.ン.トだろう。メモリが分かっている以上検索すれば直ぐのはずだが今の状態ではそうも言えない。自分の身体に視線を向け「その身体で地.球.の.本.棚には入れそうかい?」問いかけて)
お前が地.球.の.本.棚.に入れねぇならこの体なら入れるはずだ。んん゛っ……さぁ、検索を始めよう!
(なんとか所長を誤魔化せないかと相手のフリをしてみるが数秒で見破られてしまった。こちらが事務所に来て早々いつもの癖でハットをかける為に金具に近寄ろうとしてしまったのも悪かったかもしれない。そこからはいつも通りの言葉が飛んでくるがこちらの状況が状況なのかスリッパが飛んでこないのが幸いだった。自分の体の中身が相手だからかもしれない。若干の理不尽を覚えつつガレージに移動すれば早速情報収集開始だ。といってもその第一歩目から難航してしまう。可能性は考えていたが相手は地.球.の.本.棚.を使えないようだ。となれば本棚を使えるのは相手の体、つまり自分となる。緊急事態ではあるのだが普段相手しか使えないものを使えるとなると多少好奇心は疼いてしまうもの。自分の顔に頷き返すと大袈裟な咳払いをしたあとに目を瞑りお決まりのセリフを口にする。多少力が入ったせいか相手よりも気合いの乗った掛け声になってしまった。しかしそれだけでは視界は真っ暗で何の変化もない。眉間に皺を寄せているとふとファングを始めて使った日に焼け落ちた本棚が並ぶ空間に迷い込んだのを思い出す。あれが地.球.の.本.棚.の中の光景なのだろうかと考えが過ぎると途端に視界が白く開けて本棚が自分の周りにズラリと並び思わず「うぉっ?!」と声をあげ)
…どうやら入れたようだね。君がいるのが地.球.の.本.棚.でその一つ一つに地球上の知識が詰め込まれている。そこから目的のものを探すわけだけど肩の力を抜いてキーワードを目の前に打ち込むようなイメージで本を絞り込めば良い。 キーワードはメモリ名だった『Switch』だ
(ガレージに移動して検索を持ち掛けると良い返事が返ってきて咳払いの後お決まりの台詞が読み上げられる。その声が若干気合いの入ったものである辺り相手も検索という普段出来ない行為にテンションが上がっているのかもしれない。その様子を見守っていると最初こそ眉を寄せていたが無事に入り方のコツを掴めたのか目を閉じたまま驚きの声をあげている。恐らく本棚の中に入れたのだろうと安堵の息をつく。検索中は感覚が遮断されるが外部の声だけは聞こえるのを利用して相手が今立っているであろう場所を説明する。ここから情報を絞る行為は慣れているのと感覚的な物で説明が難しいが出来るだけイメージしやすいような言葉を選び、肩をぽんぽんと撫でながら説明を施す。これもやってみるが一番だろう。普段とは逆に本棚に入った安楽椅子探偵の隣に立つと本を絞り込む為のキーワードを提示して伝え)
これが地.球.の.本.棚,……よし、キーワードは『suicchi』
(相手の精神に迷い込んだ時燃え盛る本棚は目にしたが本来はこんな場所だったのかとまじまじと周囲を観察してしまう。どこまでも広がる空間に数え切れないほど並んだ本はまさに地球上の知識全てといったところだろうか。呆然と眺めていると相手の口調で自分の声が聞こえてくる。自らの声に導かれるのもおかしな気分だ、普段相手が本棚に入っている時もこんな感覚なのだろう。そこから検索方法を教えられる、キーワードを目の前に打ち込むイメージと聞けば愛用のタイプライターが頭の中に浮かんだ。あれと同じで自分の選んだ文字が目の前に現れるのだと解釈する。しかし問題だったのはその後で、いつもローマ字でタイプライターを打つせいか単語を口にしながら指先はローマ字入力の動きをしてしまう。当然自らのイメージもそれなのだから目の前に浮かんだのは不格好なローマ字で、蜘蛛の子を散らすように本棚が自分の周りから全てなくなってしまえば「なんも残ってねぇ…」と唖然としながら呟くしかなく)
え、そんな訳……、もしかしてタイプライターと同じようにローマ字で考えていないかい?
(自分にとっては物心着いた時から普遍的に利用していた空間だが相手にとっては物珍しいものでもあるのだろう。ある意味普段お互いをしていることを体験するような機会になっていることに表情を緩ませながらも検索を見届ける。だが今回は探す対象がハッキリしている分楽な部類のものだ。直ぐに終わるだろうと見守っていたが唖然とした呟きにこちらまで困惑してしまう。この記憶を利用してメモリが作られるのだから本が無いわけがない。こちらからは様子が見れない為推測で有り得る可能性を考えているとキーワードを打ち込むという自分が説明した行為にタイプライターが浮かぶ。そしてそれで作られたローマ字の報告書も。まさかとは思うがこの相棒ならやりかねない。疑うような口調で確認すると「SwitchはS、W、I、T…」と隣で丁寧に一文字ずつ読み上げてやり)
あ……そ、そんなわけねぇだろ?多分タイプミスだ
(真っ白になってしまった空間に困惑していると意識の中に自分の声で相手の言葉が流れ込んできて、それがずばり図星の内容であると思わず身を固めてしまった。いくら膨大なデータがあっても正しいキーワードを入力しなければ意味が無いのは前々から分かっていたが、それ以前の問題をやらかしてしまっていた。顔を引き攣らせながらなんとか取り繕おうとするもこれではこちらのミスはバレバレだろう、自分の頭の中で行われる行為にタイプミスもなにもない。あくまでもローマ字入力はしていない体を保ちつつ、相手の読み上げる通りに目の前にアルファベットを打ち込んでいく。今度こそ間違いなくSwitchと文字が浮かべば本棚は戻ってくるものの近場を通ったり本が脇をすり抜けていったりと危うい軌道を描いていて、感覚が遮断されているが故傍に相手がいるのも分からずその場で大袈裟にかわす動作をとったりしゃがんだりして忙しなく動いていた。体の中身が本物ではないからか本棚は乱暴に縦横無尽に動いていて一冊の本が後頭部に思いっきりぶつかると思わず「いって!!」と叫ぶ。だが表紙を見るにこれが目的の本のようだ。頭を擦りながら本を持ち上げれば「やっと見つかった…」とひとりごちていて)
…おかえり。随分騒がしかったみたいだけど目的の物は見つかったようだね。
(キーワードを打ち込むというイメージのしやすさを優先とした説明が思わぬ誤解を招いてしまったようだ。反応的にローマ字でワードを思い浮かべたのは間違いないだろう。それは見つからないはずだと納得しつつ単語としての綴りを読み上げれば今度はひとりでに避けるような動作を取ったりしゃがみこんだりする動作をして驚いてしまう。これこそ人には見せられない姿だ。ガレージに移動してて良かったと安堵しつつ痛みを訴えるような叫び声とその後の呟きで探していたものが見付かったのが分かれば本棚から戻ってきた相手に声をかける。初めての経験だからかそれとも別の理由か分からないが忙しなく動いたり叫んだりしていたことを軽く笑って指摘しながらも相手の手に持つ本を共に覗き込む。精神にも少し運命の子としての性質が結びついているのか薄らと白紙の本に文字が見えるが読みづらい状態だ。それでも何とか目で追い「この生物の器の交換というのが今回の件かな」と気付きを口にしながら読み進めていき)
お前いつもあんな中で検索してんのかよ……だな、まさに俺達の今の状況って感じた
(目を開けると自分の姿があって一瞬混乱するがすぐに状況を思い出す、相変わらず慣れない光景だ。実際に本が当たったわけではないはずだが後頭部は未だじわりと痛いような気がしてそこを擦りながらこちらに笑みを向ける相手にもう勘弁だとばかりに首を振った。相手が普段見ている光景を体験できたのは貴重だったがあんな常識の通用しない空間はそう何度も行きたいとは思わない。あれを上手くコントロールし使いこなせるのはやはり相手だけだ。相手と共に手に持つ本を読み進める、本の中身を読めたことには驚いたがこれも本来の体の持ち主故の能力だろう。相手が生物の交換の部分を読みあげれば頷く、やはりこの状況はあのド.ー.パ.ン.トに由来するものだ。さらに読み進めていくとSwitchメモリの練度が上がればものや精神だけでなく記憶や空間、果ては概念まで交換という作業を挟めば可能であると記述されている、改めてあの時点で倒しておいて正解だったようだ。その中の記述で時空さえも交換できるという記述を見つけ目を止めると「もしかして俺達は生物の器の交換と同時に時空の交換ってのも受けたのかもな。本来最後の攻撃直後に器が入れ替わるはずが先の何も起こっていない時の時空と入れ替わった、とか」と自分なりの解釈を口にして相手の意見をうかがって)
昨日の使用者の状況を見る限り変な暴発を起こした可能性は十分にあるだろうね。 …なるほど、それならば昨夜に影響が出ずに今朝になって入れ替わりが分かったのが納得がいく。この推測通りならド.ー.パ.ン.トを倒した夕方ごろには元に戻るはずだ
(慣れている身としては検索はさほど負担でも苦労でもないが相手にとってはそうでもないらしい。肉体は変われどもいつもの役割の方が性に合っているのだろうと思いながらも本を読み進めていく。物体の性質を入れ替えるメモリというところまでは読んでいたが精神や概念まで入れ替えることが出来るとは驚きだ。あの時倒すことが出来なければますます被害が広がっていたことだろう。その最後の攻撃を受けてこうなっている訳だがメモリが使用者の感情によって増幅したりすることを鑑みるに強い効果を受けたと考えても不思議ではない。そんな中、相手が一つの解釈を口にするとその可能性を考え同意を示す。昨日時点の身体と今日以降もしくは昨日以前の身体と入れ替わっているなら昨夜はいつも通りで今がまだメモリの効果が残った故の入れ替わりであることに説明がつく。端的に言えば以前相手が子供になった時と近い状況だ。ならば元に戻るのも時間経過だろうと推測がたつと「半日近くはこのままみたいだね」と呟き)
俺が子供になった時と同じかよ……ま、今回はいつ元に戻るか分かるだけマシか
(使用されるだけで厄介なメモリではあるがブレイクの瞬間に感情が昂り能力が暴発してその被害を被ってしまうのは輪をかけてやっかいだ。前回も今回も悲壮な結果になっていないのが幸いだが大きな迷惑をこうむっていることには間違いない。まだまだ相手の体の中に入り続けることになりそうだ、これ以上何も起こらないで平和な日になることを願うしかない。しかしその願いは直ぐ打ち砕かれることになる。ガレージの扉が勢いよく開くと『翔太郎くん!フィリップくん!依頼きちゃった!』と緊張感のない報告が叫ばれた。人の気も知らないでと叫びたいのをグッと押さえて相手に目配せすると事務所スペースへと戻る。依頼内容をきけば依頼人は女子大生でバイトからの帰り道にストーカーにあっている気がする、という内容だった。店に彼女宛にアクセサリーが贈られたり帰り道に誰かにつけられている気配はするのだが実際にストーカーを見た訳ではないという。しかし先日男友達にバイト先に迎えに来てもらい翌日に綺麗なカラスの羽が贈られてきて一気に不安になったそうだ。警察はこれだけでは事件性が薄く対応できないという、確かに今は事件未満だが本当にストーカーがいるのならいつ事件に発展してもおかしくない状況だろう。机の上に並べられた贈り物の数々に目をやる、単なる贈り物であれば素敵な品々ばかりだが一方的にここまでの量を送るのは異常だろう。「探偵としてこいつは見過ごせねぇな」と依頼を受けることを決めて)
ああ、気の所為と割り切るには状況が揃いすぎている。早速今日のバイト終わりに張り込んでみよう。
(ひとまず何とかなる類の事案であることに安堵していたがガレージの扉が開いて所長から依頼が入ったことが知らされる。なるべくこの状態で他人と接したくないが、だからといってこの街の人を放っていい理由にはならない。目配せを受けると頷いて事務所スペースへとあがる。今は相手の姿をしているということもあって彼女と向かい合うような形で座って話を聞く。内容としてはストーカー被害の疑いといったもので実際に物品が店に送られている点や男友達と帰った時にだけカラスの羽を送った点から相当彼女に執着しているのが伺える。近くで自分たちの様子を見て何か言いたげな所長の姿は見ない振りをしつつ相手の言葉に頷いて依頼を受けることとした。それから真剣に話を聞いていれば丁度彼女はこれからヘルプとして短時間だがバイトに入るらしい。これはストーカーの存在を確かめるチャンスだ。バイトが終わる予定の時間を教えてもらい、帰り道を見守る約束をすれば彼女は事務所を後にしていった。約束した時間までどうストーカーを見つけるか作戦会議しようとしたところでずっと我慢していたであろう所長が『翔太郎君が翔太郎君じゃないみたい!』と声をあげて)
っ、…当たり前だろ中身入れ替わってんだから!
(相手のいつもの立ち位置、依頼者の座るテーブルから少し離れた場所で依頼内容を聞いていた。こちらが口を開いた時に所長は眉間に皺を寄せていた気がしたが、依頼人が帰ってからそれが気の所為ではなかったのが判明する。依頼人に関しては初対面なので口調が入れ替わっていようと関係無いのだろうが所長は違う。我慢を爆発させるように叫び声が事務所内に響くと、早速方針を決めようとしていた腰が折られて今度はこちらの叫び声が事務所内に響いた。ただしそれは相手の声によるもので普段叫ばない人間が叫び声を上げれば所長はギョッとした目でこちらをしばらく見つめ目をパチパチさせていた。そして『フィリップくんはこんな乱暴じゃない!!』と理不尽な叫びと共に一発スリッパを貰ってしまった。いつもより柔らかな顔のハードボイルド探偵といつもより険しい顔の安楽椅子探偵に当人達をおいてきぼりで所長は大騒ぎをしている。やだやだと駄々をこね始めると『早く戻ってよ!あ!ほら強い衝撃を与えたら戻るんじゃない?!』と再びこちらの頭をスリッパで狙われ手首を素早く掴み攻撃を阻止すれば『こんなのフィリップくんじゃないー!!』と所長はさらにわがままを叫んでいて)
アキちゃん、一旦落ち着いてっ。…、一旦外に出ようか。
(依頼を引き受ける間入れ替わっていたことも忘れて素のままで対応していたが傍らにいた所長にしてみれば違和感の塊だったようで変であることを叫び、それに反論するように自分の声で叫び声があがる。自分と相棒が捜査の方針などで口論するならともかく安楽椅子探偵と所長が言い争う姿は滅多に見ない光景だ。フィクションなんかでよく見られる強い衝撃での入れ替わりを期待してか更にもう一発相手にスリッパを食らわせようとして防がれた所長がわがままを叫ぶ様子を見れば流石に二人の間に割り込んで仲裁しようとする。だが相手の声でアキちゃん呼びをするのも気にいらないのか頭に理不尽なスリップの一撃を貰ってしまう。違和感の原因である二人が今何かをしても事態を悪化されるだけな気がすれば「ちょっと外に出てくる」と所長に告げこちらが相棒の手首を掴み、そのまま事務所の外に脱出試みて)
暴れるなバカ!あ゛ー!、俺らはストーカーのこと調べてくるから留守番しとけっ!!
(所長は完全に混乱の坩堝の中にいて今や二人の入れ替わりを元に戻すため頭をスリッパで叩こうとするマシーンに成り果てている。入れ替わりの原因はもう既に判明しているがこれでは聞く耳も持たないだろう。いつもより腕力が弱いためか所長の全力を押さえるのも一苦労だ。見かねた相手、すなわち自分の体が間に割り込んでくるがそれに対しても所長はスリッパを一発お見舞いしていた。自分が殴られている光景を目にするのも貴重な体験だがそれ以上に今の光景に対する怒りの方が上回る。耐えきれずに声をあげていると相手に手首を掴まれた。このままでは埒が明かず下手すればストーカーを取り逃してしまう、ここは二人で体制を立て直す方がいい。所長の追撃を躱すと留守番役を任せて逃げるように事務所を飛び出した。普段叫び慣れていない体で叫んだせいかいつもより疲労を感じて階段を降りたところで両膝に手をつき項垂れる。周囲が混乱するのを避けなければと思っていたが所長は想定を上回る混乱っぷりで「もう元に戻るまで会わねぇ方がいいな…」と呟いていて)
大丈夫かい? まあそうだね…事後報告の方が良さそうだ。彼女のバイトが終わるまで時間もあるし何処かで作戦会議でもしようか。
(相手の手を掴んで半ば強引に事務所を飛び出す。体力のあまりない自分の身体で散々叫び争ったのが響いたのが既に疲れている様子を見れば軽く背中を擦りながらも様子を伺う。さくっと依頼を解決する為に方針を固めたかったが所長があの調子では事務所で作戦会議をするのも難しいだろう。あのままではあと何発スリッパが飛んでくるか分からない為、やれやれといった声色で同意を示しておく。だが彼女がバイト終わる時刻までまだ時間がある。あまり自分達のことを知っている人が居そうな所には行きたくは無いがこのまま突っ立って置く訳にも行かず閑静な店が立ち並ぶエリアに向かって歩き始め)
あぁ、ありがとよ……そうだな腰落ち着けて話そうぜ
(へばっていると相手から背中を撫でられる。自分の手のはずなのだが背中に対して大きい手はどことなく安心感を感じる。今度からもっと背中を撫でてやるかと内心思いながら礼を言えば体制を元に戻した。自分達の体が時間で戻るのならば何よりも優先すべきは依頼人の彼女を守ることだろう、時間があるならば作戦は立てておくべきだ。 知り合いがそうそうこないはずであろう静かな通りを選んでその片隅にある小さな喫茶店へと入る。人気店でもはないが店内は落ち着いていて小洒落たお気に入りの店だ。席について注文をすませば早速これからの事を話し始める。ストーカーがいるとすれば捕まえるチャンスは店にプレゼントを届ける時か帰り道に彼女をつけている時。店にプレゼントを届けにきたときを捕まえるのが一番依頼人を安全に守れるが短時間のバイト先ではその線は薄いかもしれない。となれば捕まえるのは彼女のあとをついて歩いている時だ。方針をまとめながら話しつつ運ばれてきたコーヒーを受け取ると一口飲み)
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