検索 2022-07-09 20:46:55 |
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いよいよだね。__っ、やった!一位だよ、翔太郎。
(会場へと移動すれば先ほどよりも多くの人が集まっていてクライマックスも近いのが感じられる。コンテスト参加者は舞台前に集まるようになっているようで指示に従って席についた。コンテストに出場するだけあって周りにいる人は気合の入っている人ばかりで特に隣の二人組は非常にリアルな傷メイクをしていて思わずまじまじと観察してしまう。そうしていると音楽が鳴り響いて結果発表の時間に移る。風.都.らしさを評価するものや大人数向けの部門などが発表され次々に表彰されていくのを見届ける。会場も良い感じに温まったところでクライマックスとして投票数によるランキングが発表され始めた。ベスト5位まで発表されてもまだ番号が呼ばれておらず期待が高まっていく。隣を見れば相手は前のめりの姿勢で結果を聞いていて小声で話しかけながらもその時を待つ。4位、3位と発表されていくがまだ呼ばれない。緊張する中で『一位と二位は僅差だった為一気に発表致しましょう。さて栄光の一位は…』と司会が呼びかけドラムロールが鳴る。十分に焦らした後一位として読み上げられたのは相手の手元にある二人のエントリーナンバーだ。咄嗟に相手の方を向くと喜びを前面に出した笑みを浮かべて無邪気に嬉しさを分かち合う。一位を狙ってのアピールだったがそれが実際に選ばれると嬉しくて格好に見合わず表情が緩みきってしまう。『表彰しますのでステージの上へどうぞ』と司会が促すを聞けば「行こうか、相棒」と声を掛けて立ち上がり壇上に登って)
…、……あぁ!俺達が一番だ!
(獲得票のランキングが次々に発表されていくが自分達の番号はなかなか出てこない。会場の感触ではいい線をいっているはずだがこればっかりは時の運もあるだろう。迫る上位者の発表に相手と共に緊張の面持ちを浮かべながら頷き返事をする。3位までが発表されたがまだ番号は出ない、最後の1位と2位の発表前にドラムロールが鳴り響けば口を固く結んで無意識に拳を強く握る。そして読み上げられたのは二人のエントリーナンバーだった、一瞬番号を呼ばれたのに現実味がなく呆気にとられていたが相手に呼びかけられ我に返る。そして相手と手元の番号を交互にみたあと、クールなヴァンパイアからはかけ離れた笑みで喜びを分かちあった。まさか本当に1位を取ることができるとは。司会者に舞台上へと呼ばれ相手の掛け声に応じると一緒に舞台へと登る。同時に発表された2位の組は予想通りクイーンとエリザベスで二人も同時に舞台上へと呼ばれた。エリザベスは羨ましげにこちらを見てクイーンは『完璧にしすぎちゃったかな』なんて悔しそうな顔を浮かべている。これは今後のことも考えて後日機嫌を取りにいかなければならない。優勝の賞品としてハロウィン仕立ての表彰状と副賞のお菓子の詰め合わせを受け取れば司会者から一言求められ「俺達のチームワークと、服を選んでくれたそこの二人のセンスが評価されて良かったぜ」と答えていて)
投票してくれてありがとう、皆も残りのハロウィンを楽しんで。
(舞台へと登ると2位だったクイーンとエリザベスも一緒に並ぶ。この格好をプロデュースしてくれた二人を差し置いて一位になったと思えば少し申し訳ない気持ちもあるが二人の腕とこちらの演技力が合わさった結果なのかもしれない。後日たっぷりお礼した方が良さそうだと考えていた所で司会とアシスタントによって優勝商品の表彰状とお菓子の詰め合わせを手渡されると更に笑みを深めた。コメントを求められ相手が二人の仲と彼女達への礼を答えるとこちらは投票してくれた礼とそれらしい言葉を答えておく。司会が『素晴らしい仮装を見せてくれた二組に拍手を!』と煽ると大きな拍手が湧き上がって嬉しさと照れ臭さの中一位の結果を噛み締めていた。会場の盛り上がりもほどほどにコンテストは終わりを告げる。改めて女子高生二人にお礼を伝えれば『一位を含めてのお礼、楽しみにしてるからね!』と宣言されてしまった。何を強請られるのか密かに楽しみにしつつも二人と分かれるとタワーの外へ出る。まだまだ人通りは多くハロウィンの賑わいが消える気配は無いがコンテストが終わったことでひとまずイベントとしては区切りだろう。お菓子の詰め合わせを抱えながらも「賑やかなハロウィンだったね」と口元緩ませながら感想を口にして)
俺もハロウィンがここまで盛り上がってるなんて知らなかっ……
(互いにコメントをしたあとに万雷の拍手が送られると嬉しさと照れくささで眼光鋭くなければならないのにすっかり口元を緩めて軽く手を振ひ拍手に応えて舞台を降りた。女子高生二人にはちゃっかりお礼を要求されたが功績の半分以上は二人の衣装選びのおかげなのだから「任せとけ」と返事をして二人を送り出した。周囲はすっかり日が落ちてタワーの外はまだまだ賑わいを見せているがそろそろ幕引きといった所だろう。相手が口元を緩めて感想を述べるのを見れば今日一日仮装してハロウィンを楽しんで良かったと心から思う。毎年事務所でお菓子を配る側だけをしていたが、新たな風.都.の魅力を知ることができてこちらも大満足だ。そうやってこちらも感想を口にしようとしたところで視界の端に違和感を感じてそちらへ顔を向ける。そこには何処か虚ろな目をした男がいて前を歩く女性をじっと見つめていた。何かを求めるように男はゆらりと腕をあげると、瞬間女性へと襲いかかって女性は叫び声をあげた。弾かれたように走り出して男が大口をあけて女性へと近づいた所で男に体当たりをして女性から引き剥がす。男が地面に転がったタイミングで別のタイミングでまた悲鳴があがる、今度は女性が男に襲いかかっていてその首に噛み付くのが見えた。人が多い会場でまばらに悲鳴があがっていく「どうなってんだよ」と状況が掴めず周囲を見回して)
分からない、だけど止めないと!
(ハロウィンを十分満喫することが出来て一番の仮装だと表彰されて気分は晴れやかだ。まだ盛り上がっている街を散歩しながら帰ろうと提案仕掛けたところで不意に相手が何処かを向く。視線を追うように目を向ければ虚ろな目をしていた男性が女性に襲いかかる。思いがけない出来事に固まってしまうが咄嗟に相手が動いてその男を女性から離すように地面に沈める。だが今度は別の方から悲鳴があがりそちらでは女性が男に襲いかかり首へと噛み付く。次第に悲鳴があちらこちらで聞こえてくれば見境なく他人に襲っている光景が見え、ハロウィンのネタや仕込みではないと段々と気付いた人々が更に悲鳴を上げ会場はパニックに陥っていく。明らかに異常な状態に何かしらのメモリの力かと考えが過ぎるも判断する材料が足りない。混乱の中、仮装で動きにくいものの身近で他人に襲いかかろうとする者に体当たりしたり足を引っかけたりして進路を邪魔して正常らしい人々を逃がして被害者を少しでも減らす。そうやって何とか奮闘する中、ちらりと相手の方を見れば男性に首元を襲われ床に倒れたはずの女性が背後でゆらりと立ち上がり相手に襲いかかろうとするのが見えると背筋が冷えて「翔太郎っ!」と叫んで)
とにかくここにいる奴を逃がさねぇと……っ!!
(様々な格好をする人々の中で異常な動きをするのが数名、見た目は人間のようだが正気を失っている。下手に傷つけることができないなら制圧するしかない。再び動こうとする男を押さえつけ服の端を縛り動きを制限し立ち上がる。相手の方も異常な動きをする人を止めにかかっていてその間に参加者達が走って逃げていた。これだけの騒ぎならば警察が来るのも時間の問題、もう少しだけ耐えればなんとかなりそうだと思った矢先に相手が名前を呼ぶのが聞こえ同時に背筋に悪寒が走る。咄嗟に振り返れば先程襲われた女性が口を開けてこちらに飛びかかってきていて反射的に腕でガードを試みた。女性はそのままこちらの腕へと噛み付く、すると本来ありえない何かが刺さるような痛みが腕に走った。女性の体を引き剥がそうとするも噛みつかれたまま動きそうになく、掴んだ手に力を込めるがだんだんと噛み付かれた腕が冷たくなって行くのに気がついた。そこでようやく彼女が血を飲んでいるのだと気がつくが、その時には血を吸われ過ぎたのか体が一気に冷えてその場にガクリと膝をつく。体が崩れる勢いで彼女はやっと離れてくれたが体は上手く動かない。咄嗟に腕を見れば腕の噛み跡には鋭いものが刺さった傷跡が二つあって、その傷跡から赤いモヤが揺らめいた直後に激しい頭痛に襲われた。思わず頭を抱え「ガ、ぁ!」と呻き悶える。その間に爪と犬歯が鋭く尖り皮膚を突き破る形に変化したのには気付かずにいて)
ッ、離したまえ! 翔太郎、
(こちらの声で相手が振り返るも女性は正気を失ったような動きで襲いかかる。突破に腕でガードしているようだがそのまま犬のように噛み付く姿に思わず目を見開く。早く相手から引き剥がさなければと焦るもこちらも異常な動きの男に肩を掴まれて行方を遮られた。女性は相手に噛み付いたまま離れることなく力が抜けたように膝をつく姿が目に入れば頭が真っ白になって必死になって男の手を振り払う。強引に払ったせいか男のやけに長い爪が頬を掠めて一筋の赤い傷を作るがそんなことは気にならず相手の元に駆けつける。相手の腕に一瞬モヤが浮かんだ気がするがそれよりも頭を抱え呻く姿を見れば咄嗟に相手の肩を掴んで声を掛ける。この前の嫌な光景がフラッシュバックして冷静ではいられない。目の前の相手しか見えなくて「頭が痛むのかい?僕の事分かるかい? それにさっき噛まれた腕も、」と焦りと心配に支配された表情で立て続けに声を掛け状態を確認しようとして)
ぐ……、フィリップ……ッ!!
(頭痛と耳鳴りで蹲り暫くその場を動けず必死で痛みに耐える。ようやくそれらが引いてきた頃にまず感じたのは異常な喉の渇きだった。そして相手の声が聞こえてくると同時に鼻腔を極上の香りが擽る。腹の底、本能が求めるほど甘美で美味そうな香り。その香りと相手の声は同じ方向から発せられていて相手の名前を呼びながらそちらへと顔を向けた。すると目は相手の瞳ではなく頬に出来た傷へと吸い込まれる、匂いの出処もあそこだ。いつも耳裏から感じている相手の匂いではない類の匂い、体を掻き立てるような、それこそ気が狂いそうな程の美味そうな匂い。目を見開き相手の頬にある赤い筋を凝視する、そうしていればだんだんと胸の内のざわめきは明確な欲望になっていって、ハッキリと相手の血が欲しいと思ってしまった。なぜそんな思考になるのか全く理解できずもう一人の自分が引き止めようとしているのが分かる。だがそれでも腕はフラフラと上がり相手の頬を捕らえようとしていた。しかし直後にサイレンが聞こえて我に返ると伸ばしていた手を引っ込め手と鼻とを覆う。その間にパトカーが次々到着すると警官がなだれ込んで二人が制圧した正気を失った人を取り押さえていた。一瞬自分も正気を失い掛けていたのかもしれないと思えば背筋に冷や汗が流れる。ひとまずここは警察に任せるとして「俺達は退散するぞ」となるべく相手を見ないようにしながら言い)
…翔太郎? あ、ああ…分かった。
(暫く痛みに苦しんでいるようだったがそれが収まってくると相手が顔をあげる。ひとまず命にかかわる状態ではなさそうだがその目がやけに見開かれこちらを見ているのに視線が交わらないことに気付けば違和感を覚える。思わずもう一度名前を呼んでみるがまるで何か抗いがたい物に惹かれ渇望するようにふらふらと腕が伸ばされるのを呆然と見ていることしか出来なかった。あと少しで手が届きそうなタイミングでパトカーのサイレンが聞こえてくるとその手は引っ込められた。何件も通報があったのかパトカーが何台も停まり警察官がやってきて襲い掛かっていた人を取り押さえその場を鎮圧していく。ひとまずこれ以上被害が広がることがなくなれば安堵の息をついた。だが依然原因は分からないままで彼らの異常な行動と相手の違和感との関連性を考え僅かに眉を寄せるも相手に声を掛けられると戸惑いながらも頷いてこの場を立ち去ることにする。隣に並んで帰路を進んでいくがやはり相手と目が合わない。女性に噛みつかれていたことに加えやせ我慢しがちな相手の性格を考えると何かを隠しているだろうと相棒としての直感が働く。大通りから一つ隣の比較的人が少ない通りに入ったところで相手の前に回り込んで行方を遮れば「…本当に大丈夫かい?」と強引に顔を覗き込もうとして)
…っ、………悪いフィリップ……俺も、さっきの奴らみたいになっちまったかもしれねぇ……
(現場を離れて二人で歩く間も甘美な香りはこの体を誘惑する。周囲に人が居なくなった分相手の頬に走った赤色の匂いが混じり気なく鼻腔まで到達して血を渇望する体を煽ってくる。なるべく周囲の空気を吸わないようにしながら口を固く結んで歩き続けた。しかし人気のない通りに来たところで相手が目の前にやってきて顔を覗き込んでくる、前触れのない行動に視界には固まり掛けた血が映って獲物を見つけた獣のように瞳を揺らしながら頬を凝視する。その場から体を無理やり引き剥がすように大袈裟に後退して相手から思いっきり目を逸らして衝動に耐える、荒い息を吐いてなんどか正気を保った。あの女性に噛まれたあとに起こった体の変化、脳を揺さぶるような衝動を考えれば自分になにが起こったかは明白だ。ここまで挙動不審になってしまえば相手に隠し通せるわけもない。相手と距離を取ったまま口を開く、その口にはあるはずの無い鋭い牙のような歯が見え隠れして鼻を押さえようとした手には鋭い爪が生え揃っていた。仮装だったはずなのにその仮装通りの存在、吸血鬼の特徴をもった姿を相手に晒せば「…血が飲みたくて、仕方ねぇんだ」と押さえつけていた本音を吐露して)
…っ! もしかして、吸血鬼に…?
(相手の顔を覗き込めばまた瞳が揺れて一点を見つめたかと思えば大きく距離を取られる。明確に可笑しい行動に違和感は確信へと変わり、相手が凝視していた目の下辺りに触れてみるといつの間にか切っていたのか手に赤色がついた。遠くで荒い息を吐いた相手が観念したように口を開く。そこで語られた内容とこの位置からも見える人とは違う鋭い牙のような歯と尖った爪に思わず目を見張る。そしてずっと堪えていたであろう欲求が告げられるとその全てが結びつく存在を口にする。道中で聞いた簡易的な知識しかないが吸血鬼は人を襲いその血を吸って生きる怪物だ。あくまで空想上の生き物のはずだが何かしらの影響で吸血鬼に似た存在になったのならば先ほどの彼らの奇妙な行動も血を奪う為のものだと納得がいく。そして今相手が自分の血に惹かれその衝動を押し殺そうとしていることも。明確な原因がわからない以上、悪化させないためにも下手なことをするのは慎むべきだろう。だが本能を抑え込んで耐えている姿は辛そうで見ていられるものではない。少し考え込むように視線を迷わせた後長い袖を捲って肘から下の素肌を晒しながら数歩近づき「試しに飲んでみるかい?」と軽い調子で誘いをかけて)
特徴でいや多分そうだ。まさか本物になっちまうなんて……っ、…んなこと出来るわけねぇだろ!
(鋭い牙と爪、さらに血を欲する衝動となれば思い当たるものはひとつしかない、こちらも相手と同じ意見だ。実際あの女性に血を吸われ血を奪われすぎて吸血鬼になってしまったという点も合致している、まるで伝説の吸血鬼がこの風の街に本当に現れたようだ。この街で起こった事である以上メモリの影響だと思いたい、そうでなければ元に戻る方法も分からなくなってしまう。だがメモリの出処を調査しようにもこの状態では動けそうにない。体は喉を潤すものを欲していて少しのきっかけで何をしでかすか分からない状態だ。そんな瀬戸際だというのに相手がこちらへ近づき軽い調子で腕を差し出してきて晒された肌に目を奪われる。柔らかな肉からも美味そうな匂いが漂ってくるがあれを食い破ればもっと美味い、一番欲しているものが流れでてくる。思わず唾を飲み込むが体が動き出そうとした所で我に返って激しく頭を振った。なにがどうなっているか分からない状態で下手な行動は取るべきではない、恐らく好奇心も混じる相手の行動を全力で断ると再び目をそらす。だが体は素直で口内には美味い肉を目の前にした時と同じように唾液が溢れる、「なにがきっかけで吸血鬼になるかも分かってねぇんだぞ!」と怒るように言うも絶えず衝動は襲ってきて歯を食いしばりながら無理やり先へと進もうとして)
見ている限り異性に噛み付かれた場合は君のようにその性質を受け継ぐことはあったが同性の場合その反応は見られなかった。それに吸血鬼になったのならば血は食事と一緒だ。これから原因を調査することになる以上、我慢の限界を迎えて見境なく他人を襲うようになるよりも適度に摂取して衝動をコントロールした方がお互いに楽だろう?
(相手の目の前に素肌を晒すとそこに釘付けになったのが分かる。やはり牙や爪が鋭くなったようにそういう本能が植え付けられているのだろう。物欲しそうにして動き出そうとするが見えるが途端正気に戻っては頭を激しく振って拒否を示す。無理矢理その衝動を押し込めるように声を荒げているのも気にせずに更に近付くと理論的に反論していく。もし噛みつかれて直ぐに吸血鬼になるのならばあっという間に吸血鬼だらけになって食事である人間はいなくなってしまう。同性同士や直ぐに振りほどいた者は異常が見られなかった辺り何か変異には条件があるはずだ。そして吸血鬼の性質を考えれば吸血は食事と同等でありそれを我慢しているのは飢餓状態と同じだ。その状態でまともに調査出来るとは思えないし、いつかは限界が来て人を襲うかもしれない。そういったリスク管理の意味でも吸血行為という未知の体験という好奇心という目的でも血を吸っておくべきだ。その説明をした後ふと取れかけた飾りを留めておく為に使った安全ピンが目についた。それを手に取って針を出し、腕の内側の皮膚の上を軽くなぞると赤い筋が出来てじわりと血が滲み始める。その傷を呼び水代わりに腕を差し出すと「翔太郎、」と優しく名前を呼んで)
異性だけ…そんな法則があったのか。っ、……そりゃ、そうだけど……
(こちらはあの場で吸血鬼化した人を押さえるのに必死だったがどうやら相手はある程度の法則を見つけ出していたらしい。仮説が正しいなら相手の血を吸っても問題はないということになる。しかし先日意識を封じ込められた時よりもコントロールが効いているとはいえ何をきっかけに正気を失うかは分からない。血の匂いにあてられまた相手の命を奪うような行動をしてしまったらと考えれば手を出す事を躊躇してしまう。しかし相手の言うことも一理あって我慢の果てに手の付けられない状態になってもそれこそ惨事が起こるだけだ。なかなか決断できずにいれば相手が動く気配がして再び目を向ける。すると相手は安全ピンを手にしてきてその後の行動を察するとゾクリと背筋に衝動が走った。そこからは相手から目が離せなくてピンが相手の肌を削り赤い筋ができる様を一部始終目にする。湧き出た血からは極上の香りが沸き立って思わず吐息がこぼれ出た。腕がこちらに差し出されれば未知の本能が暴れだして鼓動を早くさせる、名前を呼ばれればもうダメだった。弾かれたように動き出し赤い筋が走る腕を乱暴に掴む、そのまま口を開けて牙をむき出しにするが一度そこで留まった。あくまでこれはこれからの活動に支障がでないようにするもの、ここで吸血鬼らしく血を吸ってしまっては怪物に成り下がってしまう。唾を飲み込むのと同時に衝動を飲み込むと、震える舌で相手の赤い筋をゆっくりと舐める。舌の表面に赤い血が広がれば極上の旨味が口内へ広がって、熱い息を震えさせながら吐き出した。本来はそこで止めなければならないのに相手の血の味はあまりにも美味くて極上だ。再び滲み出た血を舌で舐め取り飲み下し、気がつけば夢中でその細い傷に舌を這わせていて)
…、……もう少し傷を付けても良いよ、
(相手が求めるものを見せつけ背中を押すように名前を呼ぶと乱暴にその腕が掴まれる。まだ理性はあるようで噛み付こうとするのを留まり相手の舌が赤い筋の上をなぞる。我慢した上で味わう血は余程美味しいのか零された熱い息が肌を撫でるとこちらも無意識に息を飲んだ。再び血が滲むとまた相手の舌が這って丁寧に赤色が舐めとられる。先程人を襲っていた彼らの姿は恐ろしい怪物そのものだったが、細い傷から出る血を夢中に舐める相手の姿はどちらかというと犬や猫に近い可愛らしさがある。その様子を暫し観察していたが軽く表面を削った程度の血ではすぐに塞がってしまって乾きを癒すにも物足りないだろう。もう片方の手でいつもと違う色の髪を軽く撫でて許容の姿勢を見せながら声を掛けて)
、……だ、めだ…そこまでしたら止まれなくなっちまう……それに、見られたらマズイだろ
(舌を動かす度に形容し難い至福が体を満たして相手の血へと没頭していく。相手に触れて相手を求める時よりもさらに食欲が乗っかってそれこそ先程暴走していた人々の如く虚ろな目で相手の腕を見つめ不規則な息を吐きながら何度も傷口へ舌をあてがう。渇望していた喉には舐めるだけの量では到底血が足りなくて理性が揺らめいていく。そんな時に相手から頭を撫でられればさらに思考はぼやけて曖昧になって、さらなる誘惑の言葉をかけられれば動きを止める。唇を震えさせ相手の腕を強く握る、本音では当然この牙で皮膚を食い破り血を吸ってしまいたい。だがそれこそ人間ではない存在の行動だ、完全に吸血鬼になってしまうのはまだ戸惑いがある上、相手から血を奪うのにも抵抗があった。僅かに血を摂取して僅かだが衝動も抑えられている、今はこの姿を他人に見られたり相手の血をすする姿を見られる方が厄介だ。アキコにもこの姿を見せるわけにはいかず、歯を食いしばって相手の腕から手を離すと「とりあえず家帰って落ち着こうぜ」と帰宅を提案して)
…、それもそうだね。一旦帰ろうか
(口付けなどに夢中になることはあれど人の腕に縋って夢中になって舐め取っているという光景は物珍しくついつい観察してしまう。好奇心に近い感情のままさらにその先を提案してみるとその動きが止まる。強く腕を握られている辺りさらなる血を求めているのは間違いないようだが人から逸脱した行為には抵抗があるらしい。未だかつて無い吸血経験の機会を逃すのは惜しいが被害者である相手に無理強いするものでもないだろう。それにこの光景を見せられないというのも正論で同意してはキョンシーの仮装の長い袖を下ろして腕を隠した。原因が分からなくて同類になったであろう相手がいる以上無闇矢鱈に動くより情報が集まってから行動した方が良い。万が一を考えてなるべく人の少ない道を選びながら家へと帰ってくると「ただいま」と言いながら中へ入り)
ただいま………、……くそ…
(我慢するにも相手の血を飲むにも人が通るかもしれない場所に留まり続けるにはリスクが高い。相手の腕は衣装に隠されてみえなくなるもその匂いはまだ体へと纏わりついて本能を擽ってくる。あの場で吸血鬼になった人は全員警察に押さえられたはずだがまだ被害が広がっているかもしれない、早く調査に出るためにも体勢を立て直さなければ。帰宅して家の扉が閉められる、区切られた空間では血の匂いが一気に部屋へと充満して息を止める程度では抗えず、悪手だったと悟るが今更外へ出ることはできない。相変わらず喉は乾いていて部屋に入って早々キッチンへ向かいコップに水を注いで体へ流し込む。普段ならば喉が潤うはずなのに全く体は満たされることはなくて悪態をついた。渇望する体はすぐに血の匂いの元へと誘惑される、ゆらりと視線を相手へと向けるがその瞳は獲物を捕らえる鋭い目と大切なものを守りたいと願う目を交互に行き来していた。覚束無い足で相手へと近づくと肌を傷つけないよう気をつけながら頬へ手を添える。そこには先程走った赤がまだ残っていて視界に入るそれはまさに目の前に置かれた極上の食事に他ならない。目を惑わせながら指の腹で頬の傷を優しくなぞると「フィリップ…」と懇願するような声色で名前を呼んで)
…翔太郎。 本当に駄目だったり君の制御が効かなくなったら殴ってでも僕が止めるから、いいよ
(出た時にはいつもの格好だったのが随分と賑やかな装いで戻ってくることになった。だがただの仮装で終わるはずが本物の吸血鬼に近い体質を持ってしまっている現状は平和な帰宅とは言い難い。御札のついた帽子の向きを変え視界を確保する一方相手はキッチンに直行し水を飲んでいた。反応を見るにやはり血でなくては欲求は満たされないのだろう。ゆらりと相反する気持ちに揺れる瞳が向けられ覚束無い足取りで近付いてきた。鋭くなった爪が当たらないように、宝物でも触るかのように触れられる相手の手はいつもよりひんやりと感じられる。指の腹で傷をなぞりながらも縋るように名前を呼ばれるとそこに含まれる意図を察して腕に手を添えながら名前を紡ぐ。相手が止まれなくなって怪物になってしまうのが怖いのなら自分がストッパーになると約束をしてその衝動を受け止める姿勢を示す。流石に顔面に食らいつられるのはどうかと考えが及ぶと襟元の金具を外して首周りを露出させる。太い血管が通っている場所であり、人間の急所でもある場所。他人には早々明け渡すことの出来ないこの場所は相手の渇望した欲を満たすにはピッタリの場所だろう。髪を軽くかきあげて首筋を見せ付けると「こっちでも良いかい?」と誘うように問いかけ)
っ、……もし、本当に俺が止まれなくなったらドライバー使ってでも止めてくれ……俺は、お前を危険に晒したくない…
(これ以上血を口にしたくない理性と相反して相手の血を求める欲望は膨れ上がるばかりだ。大切な存在であるはずの相手の血はこれまでのどの食事よりも美味くて油断すればそれこそ相手の命を奪うまで血を飲み干してしまいそうだった。自分ではどうしようもなくなって縋るように相手の名前を呼ぶ。するとこちらの意図を察してか何かあった時は止めると宣言がされて、短くも全てを許容する言葉が送られると嬉しさと背徳感がごちゃ混ぜになり胸に溢れて瞳を揺らす。しかも相手は服装の金具を外し首周りをこちらへと晒した、目の刺激もさることながらそこから香ってくる相手の匂いと人間の皮膚の香りを吸血鬼の鼻が敏感に捕らえて頭をグラグラと揺らした。無意識のうちに口が開いて鋭い牙を露わにし今にも肌へと飛びかかってしまいそうになる。しかし衝動的に動いたら終わりだ、震える息を吐き出し一歩近づけば背中に腕を回して抱きしめる。相手が暴走しそうなこちらを前に自ら体を差し出してくれるのが嬉しくて堪らない、だからこそ何かあった時には相手に躊躇しないで欲しい。体は我慢の限界で暴走を押さえつけるために震えている。恐る恐る相手の首筋に目を向けるとそれだけで唾が溢れてゴクリと飲み込んだ。ゆっくり口を近づける、急所のそこを本能のまま噛みちぎってしまわぬように牙の先端をできるだけ優しく押し当てるとプツリと小さく穴を開けた。太い血管に傷がつき腕の時とは違って血が溢れ流れだしてくる、その瞬間に極上の香りが鼻腔を擽って体が身震いした。堪らず食いつくように溢れ出た血を舌と唇とで口内へ摂取する。一度口にすれば忘れられない味だ、相手の匂いが濃く混じった最高の食事に思わず回していた腕に力が入る。少しも経たないうちに思考は相手の首筋に全て奪われてしまって溢れる血を何度も啜り、本能のまま傷口に唇をあてがうと軽くそこに吸い付いて)
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