相乗りで何処までも 【 〆 】

…、っ、緊張というか、何だか照れ臭い感じがする
(相手にもこの距離感について問いかけてみるがいつも通りだと返事がされる。恋人にそう言われると自分の気のせいだとも思えてくるが腰に手が添えられ全身に伝わってくる体温で心臓の鼓動が少し早くなっていくのが分かる。そのタイミングで揶揄うように脇腹をつつかれるとぴくりと身体は震えて相手の腕の中で身を捩り、抗議の意味を含めて相手を見つめる。見知った相手の顔でありながら無表情だったり敵意や殺意を向けられ絶望していた分、今の甘さを含んだ対応が嬉しくいと感じると共に妙に照れてしまう。要するに慣れが一旦リセットされた状態で関係を深める当初のような心境なのだろう。ならば早く慣れていつも通りに戻ってしまおうと身体の向きを変えると相手の背中に両腕を回して緩く抱き着く。肩口に顔を埋めると体温と共に相手の匂いが感じられて深く呼吸しながら「君の匂いだ」と呟いて)

……こうやって二人の時間過ごすの、久しぶりだもんな
(ピタリとくっつく相手の体温はいつもより僅かに熱い気がする、しかし相手を欲しがる心はそれさえも心地よいと思ってしまってこの距離を変えるつもりはなかった。悪戯に脇腹をつつけば抗議するような顔がこちらへ向く、それさえも堪らなく愛おしいと思ってしまうのだからどうしようもない。照れ臭いのだと言われて肯定的な返事をするも一向に手を緩めたり距離を変えることはなかった。なにせ今の自分にとってはこの距離が心を満たして仕方がないのだから。相手が腕の中でもぞもぞ動き、こちらを向いて抱きつけばこちらからも背に手を回して抱き締める。相手が腕の力が緩いのに対してこちらは抱き寄せるような強さで腕に力が籠る、これも無意識のうちだ。相手が肩口で深呼吸をすれば僅かに擽ったくて小さく笑い、こちらからもその匂いを確かめるように耳の縁に鼻先をピタリと当てたあと「ワガママ言わなくていいのか？」と退院前の約束を思い出させるように囁いて)

ん、ずっとこうしたかった。…なら名前呼んで、頭撫でて欲しい。
(やはり相手との距離は近いような気がするが今はそれが安心出来るような気がする。こちらが緩く抱き着くと相手は引き寄せるような力強さで抱きしめるものだから思わず笑い声が漏れた。自分が眠っている間も一人過ごしていたのなら相手も寂しかったのかもしれない。離れていた時間を取り戻すようにこちらも腕に力を込めてみると二人の間は隙間なくくっついて全身で相手を感じることになる。それに何よりも安心出来る匂いが加わると胸は暖かな物に満たされて本音が口から零れる。すっかり病院で過ごして自分の纏う匂いは同じ物ではなくなってしまったがまた一緒に過ごせば相手に染まっていくだろう。耳に鼻の先を当てられ囁かれるとあの時交わした約束を思い出す。この状況でワガママを聞いてくれるとなれば今して欲しい行動はすぐに浮かんで擦り寄りながらも甘やかすようお願いして)

俺も……それならお易い御用だ
(背中に回されていた相手の腕にも力が込められ二人の距離はさらになくなっていく。相手の心地よい体温を抱く中でポツリとこぼされた本音の言葉に口を綻ばせた。対峙を強いられそこから抜け出したあと真っ先に相手を抱き締めたかったのに、病院内でさすがにそれは許されなかった。怪我をしていた事もあり触れるのも遠慮していて結果的にずっとお預け状態で、ようやく腕の中に戻ってきた温もりに心が満たされてしょうがない。そんな中で最初のワガママを問えばこちらに擦り寄りながらなされる可愛らしいオネダリにそれだけで胸が高鳴ってしまう。背中に回していた手をひとつ相手の頭へと添えると「フィリップ、」と愛しいその名を呼んでゆっくりと撫で始める。相手を甘やかすようでいてこちらからも頬を相手の頭に擦り寄せると特別大切なものを愛でるようにまた相手の名前を呼んで)

…ん、…君に名前を呼ばれるの好きだ、
(病院では触れられてもせいぜい手を繋ぐ程度でこうして抱きしめられるのは装甲越しを除けば家に帰ってくるのと同じくらい久しぶりだ。その状態でして欲しい事を伝えると手が頭に添えられてゆっくりと撫でられ始める。優しく触れる手は自分が頑張ったことを褒められているようで、この場所に居ることを求められているようでもあった。同時に好きな相手の声で自分の名前が呼ばれると心地良い幸せに包まれて小さく息を吐いた。段々と甘えるように体重を預けて抱きつくようになりながら相手からも頬を擦り寄せられると口元が緩む。恩人が名付けてくれて今の自分を表すたった一つの言葉。それをまた相手が呼ぶだけで心が揺さぶられてどうしようもなく嬉しく感じてしまう。照れ笑いを滲ませながらその事を告げると相手も同じ気持ちかもしれないと「翔太郎、」と試しに呼んでみて)

それなら今日は沢山名前呼んでやるよ、フィリップ
(抱きしめる体がだんだんとこちらへ傾いて体重を預けられる、その重さ分こちらに甘えられているような気がして胸が幸せに満ちるのが分かる。こちらの声で相手の名を呼んでそれを好きだと言われることに言いようのない幸せを感じていた。たったそれだけで相手に幸せを与えられることに、幸せを感じてくれることに、相手との深い繋がりを感じて思わず抱き締める腕に力を込めてこちらへ傾く体をさらに引き寄せる。そんな中で相手から名前を呼ばれればこちらも同じようにたったそれだけで胸は幸せで満ちていく。応えるように頬を相手の方へ擦り寄せながら背中に回した手で軽くポンポンと背中を叩いた。頭の方はゆっくりと撫で続けるのを継続し、たまに髪を梳くよう指を絡ませたり、地肌を擽ったりしてやる。だがそこから流れてくる相手の香りは消毒液や病院独特の匂いが混じっている、いつものお揃いの香りではない。それを認識すれば途端に寂しくなってしまった、相手とはいつも通り同じシャンプーの香りでいたい。そう思った時には口が動いていて「なぁフィリップ、風呂入らねぇか？」と提案していて)

是非そうしてくれ。…お風呂？いいよ、せっかくなら久しぶりに一緒に入ろうか
（心地良い体温に包まれながら頭を撫でられて一番安心できる場所で名前を呼ばれると無意識にずっと張っていた緊張が解けていきありのままの姿になっていく。力強く引き寄せられる腕は頼もしくて預ける体重ごとすべてを委ねたくなってしまう。温もりに包まれる中で沢山名前を呼んでくれる約束を告げられると今日はずっとこの幸せが続くことが嬉しくて声を弾ませて返事をする。背中をあやすようにぽんぽんと叩かれ頭も優しく撫でられ時折愛でるような違う動作が混ざれば幸せが満ちてとろとろと溶けてしまいそうな心地さえする。いつの間にか目を閉じて全身で相手から与えられる感覚を享受していたが近くで相手から提案を受けるとその顔をあげる。さっきまでの状態で相手が何を思って提案したのかを推理すればその口元はふにゃりと緩んで承諾の返事をする。香りをお揃いに戻すだけなら別々に風呂に入っても叶えることは出来るが今日はひと時も離れたくない。またわがままの権利を発動してご機嫌な様子で一緒に入ることを宣言して）

それもお前のワガママなら聞くしかねぇな
(相手が弾んだ声で返事をすればこちらの胸も弾むというものだ、今日はできるだけ多く相手の名前を呼んでやらなければ。病院から帰ってきたばかりでまだ風呂に入る必要はないのだが、ちらりと盗み見た相手の顔はこちらが提案した意図を察したのか蕩けるような笑顔を見せて、胸にふわりと気持ちが溢れたままに相手の頬に口付けを落とす。相手が提案しなくとも体を洗うためだなんだと理由をつけて一緒に入るつもりだったが先に相手から申し出てくれるならば願ったり叶ったりだ。今は片時も相手から離れる気はない。こちらも望むところなのにあくまでも相手の願いを叶えるという体で返事をすれば、名残惜しいものの一度体を離して「行こうぜフィリップ」と手を引いて脱衣場へと向かう。服を脱いでいくも相手の体にはまだ傷口を押さえている包帯が残っているのを思い出して「傷口は濡れないようにしねぇと」と何処に傷が残っているのか確認するため相手の体を見回して)

ふふ、今日の君は一段と甘いみたいだ。 傷自体は塞がっているからそこまで気にしなくてもいいとは思うけど、
（頬に口づけが落とされると緩んだ口元から笑みが零れる。相手の言い方からして最初から自分一人を入れるつもりは無かったのだろう。こちらの我儘を聞いたという体を取り繕う姿は相変わらずだが相手も同じことを考えていた結果だと思えば愛おしく感じられた。方針が決まれば名残惜しくも体は離れていくが代わりに脱衣場までの僅かな距離さえ手を引かれて移動することになると僅かに目を瞬かせる。これでは相手の方がくっつきたがっているように見えるが勿論異論はなくてご機嫌に感想を口にしながら付いていく。相手と共に服を脱いでいくと素肌とその上に巻いた包帯が現れる。傷の状態が気になるのか体を見て回る相手に気づけば包帯を解いて素直に今の状態を見せる。肌が白い分余計痛々しく見えてしまうが特に深かった肩や背中、腹部辺りの傷口もちゃんと塞がっていて赤い線が走っているような状態だ。医者にも特段制限を受けた記憶もなければこのままでも大丈夫だろうと楽観的に告げて）

そうか？気の所為だろ。…、……そうか…あんまり動くと傷開いちまうだろうし、今日は俺が洗ってやるよ
(普段ならば甘いなんて言葉を言われれば即座に否定するところだが、今日は惚けるに留まっている。心のままに動いていたがこんな狭い家の中でさえ手を繋いでいて、相手の言う通り今日の自分はいつもより甘いのかもしれないと自覚してしまった。今はこうしたいのだから仕方がない、言葉の上だけではメンツを保てればそれでいいだろう。傷の心配をすれば相手の包帯が解かれていく、確かに傷は塞がって風呂に入るのは問題なさそうだが白い肌にくっきりと浮かぶ赤い線の数々はかなり痛々しい見た目だ。退院したとはいえまだ生傷の残る体に顔が曇る。だがうだうだと悩むのは相手が目覚めた日で終わりにした、そんな雰囲気相手も望んでいないだろう。顔を元に戻すと当初の目論見通り相手の体を洗うと申し出る。傷が開く可能性も背中の傷を変に擦ってしまう可能性も考えれば当然の判断だ。「いいだろフィリップ？」とわざわざ名前を呼ぶと共に相手へ確認をとって)

え、君が？…、ならお言葉に甘えてお願いしようかな。
(服の下に隠していた傷を見せれば相手の顔が分かりやすく曇る。その原因と相手の性格を考えれば仕方ない事ではあるが今は痛みも無くやがて消えるものだと分かっていれば自分はあまり気にしていない。だからこそ相手が真意はどうあれ割り切ったように話を流してくれたのは助かった。いざ入浴と言ったところで相手から体を洗う申し出がされると思わず困惑の声をあげる。以前背中を流して貰ったことはあったが他の箇所も含め相手に身体を洗ってもらうというのは何だか恥ずかしく頼り過ぎなような気がする。一方で傷が開くと心配してくれる相手の厚意は無下にしたくない。そうして迷っている所に名前を呼ばれるとぐらりと心の中の天秤が相手を頼る方に傾いてお願いすることにした。二人で浴室に入りシャワーで暖かなお湯を浴びる。程よくお互いの身体が温まった所で「じゃあ頼んだ」と声を掛けて)

ん？あぁそうだ……よし、まかせとけ。
(こちらとしては理にかなった提案だと思ったのだが相手が一瞬返事に詰まったのをみれば不思議そうな顔を浮かべる。この状況ならば当然だろうと言いたげな顔だ。直後にこちらの提案が了承されると自信ありげな顔で胸を叩く、罪滅ぼしというと大袈裟だが立場上少しでも相手の体を労りたい。相手を大切にしたい思いと相手に触れたい思いが膨れ上がった結果の提案だったが、またも本人は無自覚でこうするのが当たり前だと言わんばかりの表情を浮かべていた。浴室に入ってシャワーを浴びれば早速体を洗う時間だ、身を任せられると早速掌にシャンプーを取り出して相手の髪へと乗せる。この一週間で相手の体はすっかり別の香りを纏うようになってしまった。本来髪を洗う動作をしなければならないのに手を動かし泡を作りながらも意識は相手の匂いを書き換えることに傾いていって、地肌はもちろん生え際まで丁寧に指をそわせて洗っていく。途中マッサージするよう手を動かしながら「痛くねぇかフィリップ？」と声をかけて)

…ん、いつもの香りがする。ああ、丁度良い力加減だ。
(元々世話焼きな性格ではあるが今日は輪をかけて気遣ってくれている気がする。そんな相手の顔を覗き見ると当たり前の事をしているといった表情をしていて何処か誇らしげだ。もしかしたらこれが相手なりの罪滅ぼしだとか整理の付け方なのかもしれないという思考に至れば大人しく身を任せることとした。何をするか観察しているとシャンプーを手に取って頭の上で泡立てられていく。ふわり浴室内に先程相手からも感じたシャンプーの香りが広がると口元に笑みを浮かべる。相手に髪を洗ってもらうのも事務所に来たばかりで風呂の使い方も分からなかった時に呆れながら教えて貰った時以来だ。だが相手の指は髪を洗うというよりもシャンプーを地肌や髪の隅々まで浸透させるように動く。普段自分ではあまり手の回らないような生え際や耳の裏まで洗われると若干擽ったくもあるがマッサージするような動きも合わさって気持ちが良くて相手の問いかけにリラックスした声で答える。十分過ぎるほど丁寧に髪を洗って貰えば相手の方を見てその真意を当てるように「そろそろ君の匂いに染まったかな」と弾む声で問いかけ)

っ、……体の方がまだだろ、フィリップ？
(洗い残しがないように、もとい二人のシャンプーの香りの塗り残しがないように丁寧に髪を洗っていく。相手曰く一番その人の匂いが香ってくる耳裏は丁寧に泡を塗り込んでおいた。以前事務所に来たばかりの相手の髪を洗った時は文句や小言を言いながらだったが今やその意味もすっかり変わってしまった。たっぷりの泡と共に隅々まで頭を洗い終えシャンプーの香りに二人包まれていると、こちらの考えを見透かしたような事を言われて目を見開く。しかもそれを楽しげに弾んだ声で言うのだから心臓に悪い。同じ匂いに染め上げる行為を相手は甘んじて受け入れていたことになる、こんな子供のような独占欲さえ肯定されてしまえばどうしたって胸は満たされてしまった。こちらの事を何もかもお見通しなその顔の鼻先にちょんと泡をつけながら、まだ未完成だと返事をする。まだ同じ匂いになったのは頭だけだ、ボディソープで全身同じ匂いにしなければ完成ではない。頭はこんなものだろうとシャワーを手にすると「頭流すぞ」と声をかけ顔の方にお湯が流れないようにしながら泡を洗い流しはじめて)

確かにそうだね。…全身、君の香りにしてくれるのだろう？
(自信たっぷりにその考えを当てて見せれば分かりやすくその目が見開かれる。相棒なのだからこれくらいお見通しだ。そして相手のやりたい事は自分の望みでもあって相手の手によってお揃いの香りを纏っていく工程は幸せが満ちていく時間でもある。鼻先に泡が乗せられまだ未完成だと告げられると表情が華やぐ。髪の匂いだけでは飽き足りず全身も同じ匂いにしようとする独占欲が可愛らしく愛おしくて仕方ない。相手に声を掛けられると「ああ」と返事をして目を閉じる。お湯によって泡が丁寧に洗い流されていき、やがてサラサラとした触り心地と慣れ親しんだ香りの纏った髪が完成する。だがこれだけでは相手の言う通り不十分だ。この身体は相手のモノであると、元の生活に戻ってきたのだと感じたくてボディタオルにボディソープをプッシュして軽く泡立てると揶揄うような言い方でお願いしながらそれを相手に差し出して)

あぁ、当然だ。ちゃんと同じ香りにしてやるから任せとけ
(頭だけでなく体もお揃いの香りにすると宣言すれば相手の表情は華やいで胸がつまる、まるでその表情からも同じ香りが溢れ出るようだ。髪を洗い流せば相手からはいつも通り自分と同じシャンプーの香りが漂ってきて、そこに吸い寄せられるように近づくと軽く髪に口付けを落とした。これであとは体の方だけ、泡立てたタオルを渡されると共に『君の香り』にとお願いがなされればぎゅっと心を掴まれた気分だった。自分色に染まる事を望んでくれるなんて相手のワガママを許しているようでいて、こちらのワガママを許されているようなものだろう。二人でこの家にいる時はいつもお揃いの香りだ、早く全身を染め上げてしまいたい。泡立てられたタオルで早速背中から洗い始める。皮膚を引っ張らないよう優しく、しかし塗り残しがないように隅々までタオルを動かしていく。傷口の上はタオルのままでは擦れるだろうと掌にたっぷり泡を乗せると押さえつけないよう気をつけながら軽く掌で撫でるくらいに留めておく。「染みたり痛かったりしたら言えよ」と声をかけながら背中から腰周りを洗っていって)

今のところは問題ない、少しくすぐったいくらいかな
（香りを確かめるように相手が近づいてきて髪に口づけが落とされる。大切な物を確かめるような仕草にまた口元がにやけてしまう。こうやって相手の手で他所の香りを上書きすることでこの家で過ごす住人に戻っていくような気がして早く全身お揃いにしてしまいたい。タオルを渡せば頼もしい返事が返ってきて大人しく身を預ける。泡立てられたタオルが背中に触れ程よい力加減で動かされていく。傷口の上であろう場所はタオルではなく泡越しに掌で撫でるように洗われて何時にも増して丁重に扱われていることに胸が詰まる想いだ。その甲斐あって痛みなども全くない。強いて言うならば自分の予測できない動きで肌を撫でる動きがくすぐったいと話す。自分の手の届かないような背面をあらかた洗って貰うことが出来れば次は別の場所に移ることになるだろう。足にしろ表側にしろ同じ調子が続くことを考えると妙な羞恥が募る。何となく結果は見えてはいるが一応他の場所に手が向かう前に「翔太郎、あとは自分でもできるから」と申し出てみて）

なら問題ねぇな。…、…なんでだよ。それじゃ意味ねぇだろ。最後までやってやるから
(タオルと掌を使って相手の背面を泡で覆っていく。擽ったいと言われるとつい悪戯心が疼いてしまうが反射的な動きをして傷口が開いてしまえば大変だ、ここは我慢を選択すると肩や首にも泡を塗り込んでいく。そろそろ体勢を変えなければというところで相手は突然あとは自分でやると言い出して目を瞬かせる。まだ半分も終わっていないのにこれで終わりにはできない。せっかく相手との時間を過ごしているのにこのままでは相手はこの手から離れてしまう。相手をできるだけ丁寧に扱いたい気持ちと相手に触れたい気持ちと先程の悪戯心と相手を逃がしたくない気持ちと、相手へのあらゆる感情がごちゃ混ぜに溢れた結果、そのまま背後から抱きしめて腰に腕を回すとこちらへ引き寄せ逃がさないように体を固定する。名目上は傷口が開かないようにするためとしつつも、胸の内が求めているのは相手と触れ合う事だ。そのまま返事を待つことなく泡に塗れた手を胸板に添えると優しく傷口の上を撫でる、一度その感触を与えてから「いいだろ、フィリップ？」と後から許可を求めて)

意味って何のこと、…っ、その聞き方はズルい、
（顔は見えずとも背後から不満げな様子が伺える。自分の手の届きにくい場所である背面ならともかく相手と顔を合わせることになったり洗われている様子を見れてしまうような体勢になるのは羞恥の方が勝る。香りを移すという観点でもあとは自分がやっても問題ないはずだと主張するも相手は納得する気配はなく、逆に腰辺りに腕が回され引き寄せられるとぴたりとくっついて身動きが取れなくなってしまう。抵抗するように幾らか身を捩ったり手で腕を押してみたりしてみるもあまり効果はなく、背中と腕越しに直で感じる相手の体温を余計意識してしまって鼓動が早くなっていく。そんな状態で回された手が泡越しに胸板の傷を撫でられると思わずぴくっと身体が跳ねて反応を示す。やめてもらうべきであるのに相手の声で名前を呼ばれながら許可を問われると断りきることなど出来なくてぽつり文句を口にしながら受け入れるように抵抗の手を緩め）

おい、なんで逃げようとすんだよ！……お前の傷が悪化しないようにするためなんだから大人しく洗われとけ
(下心がなかったとは言わないが後ろから抱き締めると相手は腕から逃れようと動いて、余計に逃がさないようにと意地になってその拘束を強める。何も纏わない同士でくっつけば直に相手の体温を感じる事ができるというのに。いつもならば羞恥の方が上回る行為だが今日に限っては相手へを思う気持ちの方が上回っている。胸板を泡で撫でれば腕の中で相手の体が跳ねて潜んでいた下心が一気にせり上って来そうだったがそこはグッと堪えて体を洗う事に専念する。あくまでもこの体勢は相手の体を思ってのことだ、それにしては体を密着させすぎてはないかというのは棚にあげておく。口の方もあくまでも傷にさわるからだという返事をしつつも、こちらの囁きを断りきれずに受け入れる相手の姿はいじらしくて胸が危うい感情で満たされてしまいそうでつい口角を上げてしまった。相手から許可を得たのなら何も問題はない。腰を引き寄せる腕はそのままに背中と同じようにタオルで前面を洗っていく。胸板と腹部が終わり腕に移れば片手で腕を支えもう片手で脇あたりから手へとかけて洗いあげ、指先まで隅々まで同じ香りで染め上げるために泡に塗れた手を相手の手に重ね指を絡めると細かく動かし指の間までボディソープを塗り込んで)