相乗りで何処までも 【 〆 】

あぁ。俺も初めて来たけど、なんつーか時間の流れがゆっくりだな
(奥側の席に陣取れば相手の隣に腰を落ち着け胡座をかく。カフェというよりは猫が気持ちよく過ごせる空間に人間がいるためのテーブルがあるといった方がいいような猫のための空間だ。様々な種類の猫が壁の出っ張りを飛び移っていたりそこらで寝ていたり非常に穏やかな空間が広がっている。男二人で来る空間にしては穏やかすぎて普段ならば行くのを躊躇するような店だが、客はそれぞれ猫の相手に夢中で周りにどんな客がいるのか全く気にしておらず、デートにしろ見守るにしろなかなか好都合な空間だ。注文を終えれば早速新たな客に猫が興味を示したようで探偵の腕の見せ所だと言われれば自信ありげな笑みを向ければ「猫探しの解決数は伊達じゃねぇからな」とこちらを見ている三毛猫に狙いを絞る。猫の興味を引くように指をクイクイと素早く動かすが三毛猫は無反応でじっとこちらを見つめている。やがてスンとした顔のまま近づいてくると胡座をかいた足の中へと収まってこちらを見あげ、撫でろと言わんばかりに『にゃあ』と一度鳴かれる。全く実力は発揮出来なかったが完全に心を掴まれてしまった。思わず「お前かわいいな…」と呟いたあと要求された通りに頭を撫でてやると猫は目を細め、そうなればもう手を止めることは出来ず頭や顎下を撫で始めて)

リラックスした時間を過ごすにはピッタリだ。…、君の方が虜になったようだね。
(相手の言う通り猫の為に作られたようなこの空間はまったりとしていて外の世界とは区切られたような時間が流れている。自由気ままに動く猫を見ているだけで癒されて猫カフェが最近人気なのも頷ける。例の2人も早速猫と戯れていて順調そうだ。相手をおだててみると自信ありげな笑みで早速近くの三毛猫の気を引こうとする。残念ながらその行為には無反応だったが少しして相手の足の中に入っていき見上げて鳴く。その姿にすっかりやられたようで可愛いと呟き撫でるのを見れば少しむっとなって一瞬眉を寄せるも猫相手に妬くのも変な話でデレデレした相手の姿を見て素直な感想を零す。。同時に何かが触れる感覚がして視線を足元に向けると黒い毛並みの猫がいつの間にか側にいて体を擦り寄せていた。「構って欲しいのかい？」と問いながら目の前にそっと手を伸ばしてみると匂いを確かめたあと指先をぺろりと舐めて擦り寄ってくる。その愛らしい姿に口元は緩んで「良い子だね」と頭を撫で)

……俺んとこの猫は不機嫌みたいだな
(頭を撫でてやった三毛猫はそのまま頭も足の上において完全に眠るモードだ。こちらに撫でられ気持ちよさそうに眠る姿は見覚えがあって思わず口も緩んでしまう。しかしその当の本人から声をかけられると、その言葉の中には少々不満げな色も含んでいるような気がした。猫の頭を撫でてやりながら相手の方を見ていれば、向こうにも一匹猫が近づいてきて甘え始め相手はそれをみて自分と同じように口元を緩めている。もう先程の不満はなくなっているのだろうが一瞬でも猫に妬いていた可愛らしい態度を捨て置けない。しばらく豪達を見守るのをそっちのけで相手と猫とが戯れるのを眺める。相手が彼に写真を撮るようアドバイスをしていたが、それに深く納得するほど好きな人と猫が戯れる光景はずっとみていたくなる。きっと恋人が優しい顔を浮かべているからだろう。十分その光景を見た後不意に手を伸ばせば先程の言葉を揶揄うようなことを言いつつ猫にするように相手の頭を撫でてやって)

…っ! 僕は猫じゃないし、そもそも別に妬いてなんて、…
(いつの間にか傍に寄ってきて徐々に甘えてくる仕草は何とも可愛らしい。すっかりこちらも猫に魅了されていて毛並みに沿うように背中を撫でてやるとゴロンと横になって身を預けられる。その仕草に何処か懐かしい物を覚えながらも和やかな顔で暫く猫を撫で続けていると不意に自分の頭が撫でられ、僅かに身体が跳ねた後視線を向ける。相手の足の上の猫と同じように撫でられている辺り先程の一瞬のヤキモチもお見通しだったのだろう。それでも訪れた猫カフェで猫に妬くなんて恥ずかしくてツンとした態度で反論をしようとするが却って余計な事を言ってしまったことに気付くとバツが悪そうに目を泳がせる。猫と戯れる相手の姿は微笑ましいが可愛いも寄せる関心も自分が一番が良い。そんな事は公のこの場で言える訳ないが撫でられる手を振り払うことなく「猫は気紛れらしいからね」と呟くと僅かにその手に擦り寄って)

……気紛れだから構いたくなっちまうんだよな
(揶揄いの言葉をかけながら撫でると相手は分かりやすく反論してきて嫌でも口角があがる。慌てて否定する程には膝の上にいる三毛猫に妬いていたらしい。少々キツめの言い方が余計に言葉とは裏腹の気持ちを抱いていたのを示すようで撫でる手を止める事が出来なかった。しかし不意に撫でていた手に頭が擦り寄ると、掌越しに胸がグラりと揺さぶられたような感覚を覚えて心臓に悪い。先程までのツンとした言い方が嘘のように甘えられるとはまさしく気紛れの一言に尽きる。思わず指の腹で頭の形を確かめるようにゆっくりそこを撫でる。このままでは永遠に相手の頭を撫で続けてしまいそうだ。だが豪に見つかっては話がややこしくなる、名残惜しいがこの光景が誰かに見つかる前に手を引っ込めると、手持ち無沙汰になった手は猫のお尻をポンポンと叩いていた。こちらを見られていては困ると今回の本分である豪の方を見れば、向こうは向こうで二人の世界に入っているようだった。この店では猫のおやつを買うことができるようで、おやつを開封した途端にワラワラと豪と菜月ちゃんは猫に囲まれ戸惑いながらも二人して幸せそうな顔を浮かべており「向こうは順調そうだな」と猫まみれの二人を眺めながら言い)

…ん。 共通の好きな物に囲まれて幸せそうだ、猫カフェを選んだのは正解だったね。
（揶揄われているのは分かっているが今膝の上にいる猫のように撫でられると心地が良くてついすり寄ってしまう。猫を愛でるための場所ではあるはずなのにこうして撫でられていると大きな猫にでもなった気分だ。大人しく撫でられ、手が離れていく頃には名残惜しい気持ちもあるがすっかり機嫌も直っていた。視線を追って今回の本題でもある二人の方を見ればあちらも多くの猫に囲まれ緩い笑みを浮かべている。それに彼女の抱っこしている猫に彼が近づいておやつをあげたりしていて、合流した時よりも自然と距離が近くなっている気がする。見守る必要がないくらい傍から見ても幸せそうな様子に口元を緩ませながらも同意する言葉を返す。デート先にこの猫カフェを選んだのは当たりだったようだ。提案した相手を褒めながら猫を撫でていると頼んでいたドリンクがテーブルに運ばれてくる。そのカップの縁には尻尾を引っ掛けたような形の猫のクッキーが添えられていて「こんな所まで猫づくしだ」とくすくす笑って)

なんせ俺は相談を受けた身だからな。写真もかなり撮ってるみたいだしこのまま良い雰囲気になってくれりゃいいが
(猫に囲まれた二人は実に幸せそうだ、なにかマズイ事があればどうにかして助太刀するのも考えていたがあの様子なら手を出す方が無粋だろう。相手のアドバイス通り猫におやつをあげる彼女の写真を豪が撮っていてデート後の連絡もバッチリ取れそうだ。相手に褒められれば得意げな笑みを浮かべて返事をして再び二人を見つめる。傍から見てもいい雰囲気だ、あとはこの後の運び次第で豪の願いも叶える事ができるだろうか。運ばれてきたドリンクを見れば猫のクッキーが引っかかっていて徹底的な猫の世界観に相手に釣られて笑みを浮かべる。以前二人でいったテーマパークとは趣旨は違うものの日常とは違う世界という意味では同じなのかもしれない。ふとドリンクの隣を見れば袋が置かれていて手にとってみると少量の猫のおやつが入っている。どうやらこれも猫にあげることが出来そうだ。「おやつ食うか？」と膝の上で眠る三毛猫に話しかけながら袋を開けようとすると、その音に反応してワラワラと今度はこちらを囲むように猫達が集まってくる。どうやら袋を開ける音をおやつが貰える音だと認識しているようだ。臨戦態勢のような空気が流れた後、おやつを手に出すと自分の膝には三毛猫がいるからと相手の膝の上におやつが乗った自分の手を置いた。すると猫達が一斉に相手の膝目掛けて集まり始めておやつの争奪戦が始まり、おやつが欲しいとばかりに自分の腕や相手の膝に時折猫パンチが降ってくると「いてっ」と声をあげる。腕や足に暖かいふわふわした猫の体があたり、二人して猫に囲まれたこの状況に思わず笑ってしまって)

そこは彼の手腕と彼女の想い次第だね。…それは猫用のやつかい？わ、ちょっと、集まりすぎじゃ、
(こちらのアドバイス通り自然に彼女が猫と戯れる様子を撮影していて順調そうだ。こちらが出来ることはもうなく、あとは彼がどうするかと彼女がどう想っているかだろう。この場にピッタリなクッキーも含めてとことん猫に癒されるための空間に表情は緩んだままだが相手がその隣の小袋に気付く。どうやら基本料金についている猫用のおやつのようだ。更に猫たちと仲良くなるためにも相手がその袋を開けると周りの猫たちが一斉にその音と匂いに反応してこちらを振り返る。先程のおっとりした空気とは違うものを感じながらも相手がおやつを手に出して自分の膝に置くと一斉に猫たちが集まり出す。おやつを貰おうと膝に乗ったり猫パンチをしたりする姿に圧倒されながらも血気盛んに争う姿に思わず笑みが零れた。更なるおやつを求めるように腕や足などに猫が寄ってくればふわふわの毛と体温を感じることが出来て「猫にはモテモテみたいだ」と無邪気に口角を上げる。そこに店員が通り掛かると『良かったらお写真撮りましょうか？』と声を掛けてくれた。せっかくならば自分達も思い出に残そうとバ.ッ.ト.シ.ョ.ッ.トを手渡すと猫を膝に乗せたまま相手に近寄って)

これぞ子猫ちゃんにモテ過ぎて困るってやつだな
(猫たちはおやつにまっしぐらのようで次々に相手の膝周りにやって来ておやつを探し、おやつが無いのが分かればもっと欲しいとばかりに鳴いたり腕に擦り寄ったりで随分賑やかになった。相手の方を見やれば猫に囲まれながら無邪気に笑みを浮かべていて、平穏に満ち溢れ恋人が笑っているその光景に胸がグッと掴まれる。口元を引き締める気はなく緩い口元のままいつものハードボイルド気取りな台詞を冗談めかして口にしていた。豪を真似て写真を撮ろうと思ったところで店員から声をかけられる、二人で写真を撮れるなら願ってもないことだ。膝の上の猫を起こさないようにしながらこちらも少し相手へと寄る、すると丁度良い隙間が出来たとばかりに新たな猫が二人の間に入り込んで二人分の暖を取りながら寝始めるとまた笑みを零してしまった。膝に乗ったり周りでゴロゴロする猫達と共に撮ってもらえば猫カフェを満喫する二人の写真の完成だ。バ.ッ.ト.シ.ョ.ッ.トを受け取り写真を確認した後、先程自分の目線でみた光景を残しておきたくなってそのまま相手へレンズを向けると何も言わずに相手と猫とを写真に収めて)

記念になる良い写真が撮れたね。…ん、君はここが良いのかい？
(セリフこそいつものハードボイルド節だがこの口元はゆるゆるで可愛らしい猫に囲まれていては決まるものも決まらない。主目的はあるとはいえプライベートに近い環境だから見ることの出来る相手の表情に目を奪われてはしっかりと記憶に留めておく。店員の提案で写真を撮ることになればお互いに距離を詰めてレンズの方を向く。気ままな猫は相手との隙間に入り込んだりするのを感じながらもシャッターが降りると猫カフェデートの2人の写真が撮影された。返して貰ったバ.ッ.ト.シ.ョ.ッ.トの画面をちらりと覗き見れば幸せそうな二人と猫たちが写っていて満足そうに顔を綻ばせる。これでまた一枚思い出の写真が増えたことになる。すっかり二人の間や足の上を猫によって占領されると起こさない為にも下手には動けなくなってしまっている。そんな中で最初に触れ合っていた黒い毛並みの猫が周りの猫を押し退けて太腿に飛び乗ってきた。膝の上という特等席で撫でてくれと言わんばかりに見上げてくるのを見れば甘えてくる相手と似たような物を感じて柔らかな声と笑みと共にその頭を撫でる。そちらに集中していればバ.ッ.ト.シ.ョ.ッ.トが向けられたのにも気付かず撮られてからその存在に気付く。思わぬ所を撮られてしまったが恋人の姿を撮りたいという気持ちは理解出来るもので「君も撮ってあげようか」と彼に提案したことを自分でも実践しようと持ちかけて)

こっちもいい写真が撮れた。あぁ、頼んだぜ
(受け取ったバ.ッ.ト.シ.ョ.ッ.トを相手に向けると丁度同じタイミングで黒猫が相手の太腿へと飛び乗る。黒猫は相手に撫でるのを要求するよう鳴いて、相手は猫に優しい笑みを浮かべて要求に応えるよう撫で始めた。その光景は微笑ましくシャッターをきると、ベストショットを撮れたとは思うのだが自分ではない誰かが相手に甘えてそれに相手が応えている光景は少々胸に引っかかるものがあって先程相手が膝の上の三毛猫に妬いた気持ちが良く分かる。気を紛らわすために三毛猫の頭を撫でていると相手はレンズが向けられているのに気がついて撮影者が交代する事となった。せっかくならずっと膝の上に乗っている三毛猫との写真を撮りたいところだが無理やり起こすのも忍びない。頭を軽く撫でてやったりするが起きる気配はなかった。どうしたものかと膝上の猫に顔を近づけるため前かがみになっていると、突如として首後ろに重みが加わって「うぉっ？！」と思わず声をだす。どうやら前かがみになったタイミングで壁の出っ張りにいたブチ猫がハットの上目掛けて飛んできたようだ。下手に体を起こせない状況になり身をかがめたまま「どうなってんだこれ？」と身を固めていて)

任せてくれ。どうやら猫はそのハットが気になるようだよ
(撮影者が交代となり相手からバ.ッ.ト,シ,ョ,ッ.トを受け取る。二人で撮った写真が周りから見た自分達や記念写真だとしたらそれぞれの手で恋人を撮る写真は自分から見た相手を切り取ったような物だろう。せっかくならば自然体の相手が撮りたいがカメラに気づいている以上どうしようかと悩んでいた所で目の前で壁のでっぱりで遊んでいた猫が相手に飛び乗った。前かがみになった相手の肩から背中辺りに猫が乗っているせいか状況が把握できず困惑する様が面白くてその様子を写真に収める。相手の頭に乗ったハットが気になるのか軽く猫パンチをしたり匂いを嗅いだりしている。温泉旅行の時といい探偵の象徴でもあるハットは特別猫の興味を引くのかもしれない。楽しそうに状況を説明していると猫はそのハットの端を咥えこんで自分の物にしようと引っ張りはじめ、それに対する相手の反応も含めて今度は動画で撮影を続けて)

いてっ？！……ったく、探偵の魂の中で気持ちよさそうにしやがって
(自分の背にのる猫の様子は当然分からず困惑するも相手はその様子を面白がって写真を撮っていて助ける気はないらしい。猫パンチの軽い衝撃があって思わず声を上げると、直後にハットが引っ張られる感覚があった。慌てて手を添え抑えようとするも猫の方が早くハットが剥がされるのと同時に背中にかかっていた重みはなくなった。猫がひらりと地面に降り立つとハットは裏向きで地面へと落ちる、すると丁度良い空間を見つけたとばかりに猫は口を離してそのままハットの中へモゾモゾと入り込んで丸まってしまった。これではおやっさんから譲り受けた探偵の象徴も型なしだ、だが狭い場所に収まってご満悦な猫をみれば怒るよりも癒される気持ちの方が上回ってしまって、結局はそのまま甘んじてハットを譲ることとなった。すっかり二人して猫カフェを堪能してしまっているが本分である豪の方はというといつの間にか菜月ちゃんと並んで座って二人と猫とでセルフィーを撮るほどにまで距離が縮んでいる。こちらが手出しするまでもなくいい雰囲気だ。二人が笑い合うのを遠くで眺めていると店員が声をかけるのが見える、そろそろ時間のようだ。豪の方がタイムリミットならこちらもそろそろ退店時間だろう、相手の方をみれば「数ヶ月分は猫と触れ合ったな」と猫まみれな時間を振り返りながら膝上の三毛猫を撫でていて)

臆せず自分の居心地の良い場所を求めるとは将来有望そうだ。 ああ、彼らを見守るつもりが猫達に十分癒されてしまったね。
（引き続き撮影を続けていると相手がハットを押さえる前に猫が咥えたまま飛び降りてしまった。床に落ちたハットの中へ猫が入り込んで満足げに丸まるのを見れば思わず口角が上がる。ハードボイルド探偵のハットを奪い取り自らの寝床にするとは随分と肝の据わった猫のようだ。相手にとっては大切な探偵の象徴のはずだがすっかり絆されてしまっているようで仕方ないとその場所を譲る様子に冗談交じりに猫を褒めておいた。猫に癒され時に翻弄された時間を過ごしていたが思い出したかのように二人の方を見ればあちらはあちらで猫カフェを満喫しているようだ。テーブルを見ればちゃっかりもう一つの目的であった甘い物であるミニパフェも食べていたようで並んで座る距離感から見ても大成功と言えるだろう。店員は彼らに声を掛けている辺り自分達もそろそろパックの終わりの時間が近そうだ。相手の言葉に頷きながらも自分の膝に乗っている猫を床に下ろすとずっと相手の膝上を占領している三毛猫に近づいて「そろそろ翔太郎を返してくれるかい？」と交渉を持ち掛ける。違う人物の接触に怪訝そうな目を向けられるも負けじと真剣な顔で見つめていれば漸く渋々動き出して膝の上から退いてくれた。一息ついた所で彼らが店を出ようとしているのを見れば「僕たちも出ようか」と声を掛けて）

……どうやら交渉成立みたいだな。あぁ、まだ今日の依頼は終わっちゃいねぇからな
(猫まみれの非日常空間もそろそろ幕引きの時間らしい。少々心苦しいがハットに入って丸まっている猫を軽くトントンと叩いて起こし、不満気な顔を見せる猫に謝りながら帽子を頭へと戻す。次はずっと膝の上にいる三毛猫にどいてもらおうとしたところで相手がこちらへと近づいてきた。何をするのかと思えば相手は猫に向かって交渉を持ちかけていて思わず笑みを浮かべる。しかも相手の意図を察してか三毛猫は膝から降りていって少々の驚きと共に笑い声が漏れた。相手が猫相手に交渉しようとした事も、それが通じてしまった事も、その言葉に猫への対抗心が見え隠れする事も、おかしくて愛おしくて来店してから一番口元を緩めてしまっていた。相手の言葉をうけて軽くなった膝を立て立ち上がる。豪達とバッティングしないよう少々時間を開けてから店を出た。事前に聞いていたプランではこの後雑貨屋にいくはずだが、豪はその通り目的の店へと菜月ちゃんを誘導している。付かず離れずの距離で後ろから見守っていれば親密になった二人は近い距離で歩いていて、不意に互いの甲があたった。手の動きから二人とも手が触れたのには気がついているようだが何処と無くぎこちない位置のまま手が近づくことはない。後ろでそれを見つめていればもどかしくて「もう繋いじまえよ」とヤキモキしていて)

確か次は雑貨屋に行く予定だったね。 僕達も似たような物だっただろう？ 何かきっかけでもあれば良いのだけど
(三毛猫が相手の膝から降りると御礼代わりにその頭を撫でる。一連の流れを見てか相手の口元は緩みきっていて楽しそうな笑みが浮かべている。そんなに面白かったのだろうか。非日常な空間が終わるのは名残惜しいが猫たちを一撫でしてから立ち上がり店を後にした。彼に聞いた予定では今から雑貨屋に向かう順路のはずだ。またもや距離を取って二人の尾行を始めるが猫カフェに入るよりも近い距離感で歩いていることに気付く。どうやら猫と過ごす時間の中で親密になったらしい。付かず離れずの距離で歩いていればその手の甲同士が当たったのが見えた。繋ぐ訳でもないが直ぐさま離す訳でもない、迷いが感じられるような様子に堪らず相手が言葉を挟むと思わず笑ってしまう。こちらからすればお互いに好意があるように見えてもどかしいが当の本人は緊張の中にいるのだろう。思えば自分達も一時期は僅かに身体が触れたりそれらしい空気になるだけで大袈裟なほど反応したり固まったりしたものだ。その頃を思い出せば何処か懐かしい気持ちになりながらもその一歩を踏み込む方法を考えていた所で目的地の雑貨屋に着いたようだ。最近出来たらしいその雑貨屋はお洒落な外装で彼女くらいの若めの客が店内を見て回っている。二人に接触しないようにより一層尾行と偵察技術が問われそうだが何か良いきっかけで見つかればと「入ろうか」と声を掛けて中に入り)

、まぁそういやそうだったか……いい雰囲気なのは間違いねぇんだが…
(豪と菜月ちゃんがいまいち踏み切れないのにヤキモキしていれば隣からツッコミが飛んできて思わず言葉に詰まる。確かにあの付き合う直前の親密な距離感には覚えがあった。自分達もお好み焼きを作るだけで大騒ぎして一緒に買い物袋を持つのさえ躊躇していたのが懐かしい。今でも外でひとつの買い物袋を一緒に持つのは恥ずかしいが。ともかく、あの踏み切れないのに気持ちだけは膨らんでいく時のことを思えば無茶ができないのも分かる。相手の言うようにあとはきっかけさえあれば手を繋ぐという壁さえ越えられそうな雰囲気だ。その後何かのきっかけがないかと見守り続けたが残念ながら雑貨屋にたどり着いてしまってタイムアップになってしまう。ここは一旦切り替えて彼女へのプレゼントを選ぶ方へ集中してもらう方が良さそうだ。相手の声に「あぁ」と相槌を返して店内へも入る。中は閉鎖空間だけあって鉢合わせでもしたらせっかくの二人の雰囲気が台無しになってしまう。棚の角を利用して視界に入らないようにしつつそれとなく二人の動向を見守った。彼女が気に入るものがあればそれをプレゼントにするのがベストだろうがセンスも問われてなかなかハードルも高い。豪がどう対応するか見守っていたが当の本人は呑気にも店の品々に夢中なようで、可愛いとは決して言えない赤ちゃんの人形を手にして彼女へ笑いかけていて「あれはダメだな…」と思わず呟いてしまい)

僕もあまり贈り物の経験はないけど、彼女が喜ぶものか近付くきっかけになるもの…。
(接近するきっかけが掴めないまま雑貨屋にたどり着けば彼らを追って中へとはいる。比較的中は広そうではあるが鉢合わせをしないように立ち回りをした方が良さそうだ。棚の角を利用して視界に入らないように遠くから彼らを見守るも雑貨屋はオシャレなインテリアや置物などが飾られていてついつい興味がそちらに向かう。ユニークな小物や食器なども並んでいて見たことの無い類のものも多い。ちらり見た彼は赤ちゃんの人形を見せていて彼女もそれに楽しそうに笑ってはいるがプレゼントとしては不適切だろう。かといって自分も贈り物らしい贈り物をした経験はあまりなく何を選ぶのが正解なのか分からない。彼女が喜ぶものか進展するきっかけになる物が無いかと辺りを見るとアクセサリーの売り場が視界に入る。近づいてみるとハンドメイドらしいピアスやネックレス、飾り付きのヘアゴムやヘアピンなどが綺麗に並べてあり傍には美容グッズとしてハンドクリームやリップなんかも置いてあった。女子高生の情報屋ならば喜びそうなものだと考えると「こういうのだろうか？」と相手にも聞いてみて)

ここでもうひとつ思い出を増やしてやりたいとこだが……お、確かにここら辺ならプレゼントの定番だ。それにアクセサリーならお揃いにできるかもしれねぇ
(豪がここに来た目的は菜月ちゃんにプレゼントを買うためだ、ああやっていろいろ見て回るのも二人で楽しめるものだが目的を見失っては決まるものも決まらない。二人を観察しつつプレゼントに最適なものが何かを考えていると相手が近場に移動を始めてそれについていった。そこにあったのはハンドメイドのアクセサリーで可愛らしいものからシンプルな作りのものまで様々ある。しかもハンドメイドとなればどれもこの世にひとつしかないもの、贈り物としてはピッタリだろう。この中なら彼女が気に入るものがあるかもしれないし、なんなら二人お揃いで付けられるものを買うまで行ければグッと親密度はあがるはずだ。大切な人と同じものを持つのは特別な繋がりを示す証にもなる、今もジャケットに忍ばせているお守りもそのひとつだ。こうなると豪達をこのアクセサリーコーナーに誘導する必要がある。相手と僅かに離れた場所へ移動すれば周囲の客の視線を掻い潜ってス.パ.イ.ダ.ー.シ.ョ.ッ.ク.をライブモードにする。物陰に隠れて移動させ豪の近くまで行かせれば全く別の方向に移動しようとする豪の服の袖にワイヤーを放ち、アクセサリーコーナーの方向へ軽く引っ張るとすぐにワイヤーを回収させた。豪は何かに引っ張られ驚いた様子だったものの、そのままの流れでアクセサリーコーナーへ移動することになったようで「狙い通りだな」とほくそ笑んで)

お揃いか、悪くないね。…あれはネックレスだろうか。
(どうやらアクセサリーという選択はプレゼントの定番のようだ。身に付けるものなら買ってすぐ身に付けることが出来るし今日という思い出を残すことが出来るだろう。その中でお揃いという言葉が相手から出ると笑みが浮かぶ。好きな人と同じ物を持つ幸せやお揃いにしたい気持ちはよく分かる。もし彼らがそれを選んだらさらに1歩踏み込むきっかけになるだろう。問題はその案をどう彼に伝えるかだがどうやら相手に策があるようでアクセサリーコーナーから他の場所に移るとその役割を任せることにする。ス.パ.イ.ダ.ー.シ.ョ.ッ.ク.のワイヤーによって合図を送って意識をアクセサリーコーナーに向けさせると狙い通り二人が移動してくる。戻ってきた相手の肩を叩いて成功を労いつつも様子を見守ると早速彼女が興味を示す。色々見ているようだがやがて手に取ったのは並べてあったネックレスだ。それを彼も見て勧めるような仕草をして彼女が笑みを浮かべている。そんな微笑ましい光景をみていると彼が近くの場所にあったネックレスを手に取って少し悩んだ後に何かを伝える。ここからは何を話しているかは分からないが彼女が驚いたような顔をして戸惑った後、大きく頷いてそれぞれネックレスを持ってレジの方に向かう。回り道をしながらアクセサリーコーナーに向かい売り場を見てみると同じ種類のネックレスのシルバーとゴールドがそれぞれ無くなっていてそれを指さしながら「もしかしたらお揃いを買ったのかもしれないね」と弾む声で告げて)