相乗りで何処までも 【 〆 】

じゃあ遠慮なく……思った以上に恥ずかしいな
(人に甘えるということ、寄りかかるということ、それもなかなか上手くできないことのひとつで安易にやるのはハードボイルドに反しているとは思うが、相手と二人きりの空間でこんなにも満たされた気持ちになればひとつお強請りをしてみたくもなるものだ。最初こそ言葉の意味を探っているような様子の相手だったが大体どういうものか理解したのか端によって招くように膝を叩いている。こちらの願望を受け入れられたのにまた胸が華やぐ気がしてベンチに体を横たえると相手の膝の上に頭を乗せて仰向けに寝転んだ。そうすれば自然と相手を見上げる形になって視界の端には花火が夜空で花開くのが見える。見たこともない角度から相手を見上げるのがなんだか新鮮で自分でねだっておいて気恥ずかしくなり頬をかいて)

他の人には見せられないね。 それに君に見上げられるっていうのも何だか新鮮だ。
(どうやらこちらの考える膝枕はおおよそ合っていたようで座った膝の上に相手の頭が乗せられる。結果自分の下に相手がいる形になって甘えるように身体を預けられている事実にまた心が弾む。何処か恥ずかしそうに頬をかく相手に小さく笑いながら揶揄うように言葉を掛けるが正確に言えば他の人に見せたくないという方が近い。どうかこのまま誰もこの場所に来ない事を祈るしかない。ふと下を見れば相手と目が合う。立っている時は目線の高さは一緒で寝る時も一緒に寝転ぶからこうして見上げられるのはなかなか無い経験だ。珍しい状況に声を弾ませながらもせっかくならばもっと甘えさせたくてそっと頭に手を乗せ、ハットの乗っていないそこを優しく撫で始める。こうして相手を撫でて時折手ぐしを通したり持ち上げてパラパラと落としてみたりする時間は割と好きだ。その間にも花火は次々と打ち上がって空が色鮮やかに照らす。絶景と掌越しの相手の感触の両方を味わう贅沢な時間を過ごしながら「膝枕で見る花火はどうだい？」と問いかけ)

だな、ハードボイルド探偵の名折れになっちまう。……最高に幸せだ
(頭を相手の膝の上へ委ねて別の角度から何よりも大切な恋人と愛すべき風の街を視界に収める。クールで何事にも動じないハードボイルドな探偵が恋人に膝枕されている所なんて他人には決して知られてはいけない姿だ。しかしそんな隙だらけでクールさもない姿を相手になら見せる事が出来る、それを許して受け入れてくれるのが恋人の相手という存在だ。不意に相手の手が頭にあたる感触があってその手はそこを優しく撫で始める。柔らかく温かい膝の上でさらに同じ性質を持つ手が頭を撫でれば胸には最上級の安らぎと幸福とが溢れて至福としか言いようがない。それをもっと享受するようにゆっくりと深呼吸して体の隅々までこの幸せを行き届かせる。時折指先が髪をすけば、その心地良さに目を細めて口は蕩けるようにゆっくりと口角をあげた。恋人に膝枕をしてもらって頭を撫でられ美しい花火が相手ごと視界を色どれば、この目に映るのはこれ以上ない光景で噛み締めるようにして返事をする。すっかり心身共に幸せに満たされてしまえば「油断すると寝ちまいそうだ」と冗談を言いつつ相手の体へ頭を擦り寄せていて)

そうかい。 流石に眠った君を連れて帰るのは至難の業だよ。
(ツッコミたいのは山々ではあるが普段カッコつけたがる相手が隙のある姿を見せてくれているのには変わりない。きっとこの姿は自分だけが見ることを許された特別なものなのだろうと思えば独占欲が満たされていく。なんとなしに頭を撫でてみると相手はゆっくりと深呼吸のような動作の後その口角が幸せそうに上がっていく。自らの特にプライベートな領域の中でも安心しきって身を預けてくれている姿は何よりも愛おしくて幸せで可愛らしい。その心地について問えば最高だと嬉しい答えが成されて嬉色に富んだ声で相槌を打つ。冗談混じりなことを言いながら相手の頭が擦り寄ってくると妙に擽ったくて少し身動ぎしてくすくすと笑いながら言葉を返す。相手が眠ってしまえばこの体勢から動けず共に一夜を過ごしてしまうことになるだろう。それも悪くは無いが誰かに見つかってしまう可能性があることは避けたい。そういうのは家に帰ってからの方が良さそうだ。頭を撫で続けながら幸せな時間を噛み締めていたが打ち上がる花火の数が増え派手なものになっていくと去年と同様クライマックスに近づいているのが分かる。次々とあがる花火で空は明るいのに終わりが近付いている気配が切なくて何処か寂しそうに空を見上げていて)

……クライマックスを見逃すわけにはいかねぇな
(こちらの返事に対して相手からも短く返事が返ってくる。その声色は誰が聞いても分かるくらいには幸せに満ちている、こちらが相手からの幸せを享受している時に同じく相手も幸せを感じているのならこれ程嬉しい事は無い。幸福に包まれ浮遊感はあるのにそのまま溶けてしまいそうな心地に浸って、相手が擽ったそうに身を動かすのを頭越しに感じるとまた自然と口が綻んだ。それこそここから一歩も動かず幸福の中に身を沈めてしまいたい気持ちはあるがさすがにここで一夜を明かすのは考えものだ。夜空を彩る花火の数が増えていきこの時間の終わりを予感させる。見上げる相手の顔がどこか寂しげに見えて頭を撫でていない方の手を取るとこちらの腹部辺りに起き、上から自分の手を重ねる。指を絡ませるように握ってそのまま花火を見あげた。次々にあがった花火はまるで花束のように夜空を鮮やかに染め上げて、最後に特別大きな緑色、この風の街を表すような花火が空で光り輝いた。しばらく静寂が流れ祭会場に光が灯るのがみえる、残念ながら花火大会は終わってしまったらしい。しかしあの光景を相手と一緒に最高の幸福の中で観られたのだから心は十二分に満たされていて、上へと手を伸ばすと相手の頬を人差し指の背で撫でながら「綺麗だったな」と感想を口にして)

…、…ああ、何度見ても綺麗だね。 また来年も見に来よう
（相手とくっついて二人だけの空間で美しい空を独占して、何よりも幸せなはずなのに派手になっていく輝きに終わりの気配を感じて妙に寂しく感じた。そんな心情を察してか撫でてない方の手を取られ相手の手と重なれば思わず目を瞬かせて視線を向ける。触れる手のひらから安心できる暖かさが伝わってくれば抱いていた不安も緩やかに溶けていきこちらからも指を絡ませるように握り返しては再び空を見上げる。クライマックスとばかりに次々とあがる花火は色鮮やかに夏の夜空を照らしていく。最後に一際大きな花火が打ちあがり綺麗に光り輝くのを見届ければ静寂の後、会場だった場所に光が灯って街が日常へと戻っていく。少しの間そのまま空を見上げていたが相手の人差し指が頬を撫でると視線を向け、軽く笑みと共に同意するように感想を述べる。前回は会場で見たがこうして二人きりの特別な場所で見るのもまた違った趣があって何より相手と共にいる実感が持てて幸せだ。花火が終わった以上膝枕を続ける理由も無くなったがもう少しだけこのままでいたくて優しく頭を撫でながら次の夏祭りの約束を口にして）

あぁ、来年も絶対にお前と来る。出店全制覇の目標にはまだまだ遠いしな
(一方で頭を撫でられながら一方で手を繋いで、相手の存在を存分に感じながら花火はクライマックスを迎える。花火の眩い光の代わりに遠くにある街灯の薄明かりに照らされるようになった相手の頬を撫でてやればその視線はこちらに向いた。前回は二人の関係にひとつ名前が増えた場所、今回はたっぷりの幸せに包まれ花火を見あげた場所、この場所にまたひとつ特別な意味が加わって二人の特別な思い出が増えた。再び頭を撫でられれば柔らかな心地にまた表情を笑みへと溶かす。そんな中で次の約束が降ってくれば力強い語気で返事をした。思い出深い夏祭りでもあるが、毎回思い出を重ねて行く日にもしたい。所謂二人にとっての記念日というやつなのだから。しかしそれをストレートに言うのは恥ずかしくて、出店を盾にしてこれからも夏祭りに二人で行きたいことを伝えておいた。頬を人差し指で撫でて入れば愛おしさは募るばかりで、もう少し手を伸ばして相手の後頭部に手を添えるとこちらへ引き寄せ、軽く上半身を起こすとまたひとつ口付けを送り)

ふふ、楽しみだ。…ん、すっかりキスは慣れっこのようだね。
(幸せな空間で浮かれた心のまま来年の予定を口にすれば力強い返事がされて幸せそうに笑う相手につられて口角があがる。相棒として歩んできた相手ともう一つの関係を築いた記念日でありその場所でもあるここはすっかり特別な物となった。きっと来年だけでなくその次の年もその次も相手とこの場所に訪れることだろう。そしてそのどれもが思い出に残る特別な一日になるに違いない。これからも続いていく未来に想いを馳せていると頬を撫でていた手が後頭部に回ってまた唇が重なる。大人しくそれを受け入れ先程よりも長く触れ合わせてから離れるとうっとりと嬉しそうに目を細める。思えば初めてキスをしたのもここだった。相手に教えてもらった大切な人とだけする特別な行為。あの時はキスのドキドキに慣れていなくて過剰な反応をしたものだがさりげなく出来るようになったのは進歩と言えるだろうか。その話を楽しそうに持ち出しながら相手の頬に手を添えると先程まで触れていた唇を指先でゆっくりとなぞる。あの時よりも近くなった距離感を感じながらも「もうあの時みたいに顔真っ赤にして狼狽えたりしないのかい？」と揶揄うような言葉向けて)

初めてキスしたのもここだもんな。……、残念だなフィリップ、もうキスくらいで狼狽える男じゃないんでな
(相手を引き寄せゆっくりと長い口付けのあと、またゆっくりと互いの顔が離れる。あちらの瞳も蕩けそうな程甘い色をしていてそれが全てこちらに真っ直ぐ注がれれば、こちらも同じく相手しか見えない柔らかな眼差しで相手を見つめる。所長様には口が裂けても言えなかった告白と同時の口付け、あの時はまだ口付けはただ理想の産物で戸惑いの方が大きかったが、今や相手に想いを伝えたり、戯れの為だったり、深く愛を伝えたり、様々な種類や意味を持つものになった。初めてのキスのことを持ち出されれば思わず言葉を詰まらせる、半分事故のような口付けだったように思うがあの時はあれが精一杯だったのだから仕方がない。しかし今や相手のみとだが経験も積み重ねてきたのだ、簡単に動揺してり狼狽えたりはもうしないだろう。膝枕をしながらでは決まるものも決まらないが、すました顔をうかべながらひらりと手を回して)

そういう意味でも思い出の地だね。…なら、検証してみようか
（柔らかな眼差しが注がれてお互いに幸福に満たされているのが分かる。それまで未遂や他の部位にしたりされたりすることはあれど唇にしたのはここが初めてで今も色濃く記憶に残っている。その話題を持ち出してみれば相手は分かりやすく言葉を詰まらせた。あの時は正に衝動的とも呼べる行動だったが何だが懐かしいような気もする。そんな時期を揶揄うように言葉を続けるとかっこつけたような澄まし顔で今は違うと返された。そんな姿を見れば意地でも狼狽えさせたいと悪戯心が疼いてにやりと笑って楽しそうな声色で呟く。幸い膝枕をしている側で相手に好き勝手出来る立ち位置だ。ひとまずひらりと振る相手の手を?まえると掌に見せつけるようにキスを落とす。わざとリップ音を鳴らしながら離せば静かな空間にやけに響いた。今度は頬に手を添え軽く固定しながら「翔太郎」と甘く囁きゆっくりと焦らすような仕草で顔を近づけては再び唇を重ねて）

え、……、ハードボイルド探偵を揺るがすにはまだ足んねぇな
(幸せな空間に包まれ前回の記憶を振り返っていたはずなのだが急に雲行きが怪しくなって思わず間の抜けた声が出た。にやりと笑う相手に嫌な予感を覚えていると宙に漂わせていた手を取られて、甘い口付けとリップ音を見せつけられて目を見開く。2人きりの特別な空間は薄暗い街灯の光だけしかなくて秘め事をしている雰囲気が一気に漂うが、それに反してリップ音が周囲に甘く響き渡ると思わず息を飲んだ。頬に手を添えられ相手から視線がそらせなくなると、いつもより甘い声色で名前を呼ばれて頭がくらりと揺れる。そのまま再び唇が重なれば先程よりも口付けは甘さが増した気がした。しかし先程簡単に狼狽えないと宣言したばかりの身としてはここで羞恥を出すわけにはいかない。唇を僅かに離して強がりと相手を煽る意味も込めて余裕の表情を見せれば、手を伸ばして相手の首後ろに添えると項を逆撫でるようにして指を滑らせて)

…、…っ、それはもっとしてほしいというお願いかい？
（リップ音と共に手にキスを落として見せればその目が見開かれた。動揺を表すその反応に満足げに笑みを浮かべながら頬に手を添えて視線すら逃がさないようにする。花火も終わって帰宅する街の人がここを通る可能性だってゼロではないがそれよりも今は相手に集中していたい。そのままゆっくりとした動作で口づけを交わす。頬を撫でながら暫し柔らかく甘い唇を味わっていたが僅かに相手が離れる。先程堂々と宣言したからか間近で何とも無いといった余裕そうな表情を見せられると尚更それを崩したくなってくる。だがその前に相手の手が伸びてきて指先が項をなぞると身体がぴくりと跳ねる。相手によって自覚することになった弱い場所だがこういう時に触ってくるのは狡いだろう。仕返しに胸部に手を置くと薄い浴衣の生地の上から筋肉の間をゆっくりと指先でなぞる。その反応を確かめる為に相手を見つめたまま煽りに乗っかる形で言葉の意味を探るように問いかけてみて)

っ、……そうだな、所謂オネダリってやつだ。
(夜のこの時間に遊歩道の果てにくる人間なんてほとんどいないのを知ってこの場所に来たのだが、ここは外であるのは代わりなくていつ誰が来てもおかしくない。しかしこの相手との幸せに満ちた空間を壊す気には、相手から目を逸らす気には到底なれなくて相手を見つめ触れるのを止められなかった。こちらに悪戯な笑みを向けていた相手の弱点を擽ってやれば相手の体が小さく跳ねるのが分かる。膝枕をしているおかげで相手の僅かな動きも後頭部越しによく伝わってくる。笑みを深めながら相手を見つめていたが、今度は相手の指が筋肉の合間をなぞった。守るものがないそこは体の中を直接触られているようで思った以上に直接指の感触が伝わってきて、思わず僅かに身をよじってしまった。反応を示してしまったが故に余計引けなくなってしまえばさらに煽るしか選択肢はない。それにまだここで相手を感じていたい欲が勝ってしまった。相変わらずすました顔のまま言葉と共に今度は背骨にそって人差し指の腹で項をなぞって)

…ん、恋人の可愛らしいお強請りなら聞かない訳にはいかないね。
(密着していれば相手の温かさを常に感じるものだがこちらが項を触れられて跳ねた動きも伝わってしまう。笑みを深める相手に悔しさを覚えながらも仕返しに以前擽ったそうにしていた場所をなぞると膝の上で身動ぎするのが分かって口元が緩む。あくまで花火を見る間だけのものであったのにあと少しを繰り返して相手からは離れ難い。ぼんやりと街灯だけが照らす場所で秘め事のように触れ合っていたがこちらの問いを肯定し、すました顔ながらももっとと素直に強請られると今度はこちらの頭がぐらりと揺れた。それを後押しするように人差し指が骨を沿うように項を滑ると擽ったさと違う何かに小さく息が漏れた。とろりと理性の線が揺らぐような感覚。浮かれつつある頭は余裕そうな表情を崩したいという悪戯心と共に相手がもっと欲しいという欲が疼き、応える言葉を紡ぐと誘われるままもう一度口付ける。最初こそ触れるだけのキスだったが徐々に擦り合わせるような動きに変わっていき、軽く下唇を甘噛みしてみて)

こんなオネダリ言えるのは世界でお前だけだ。だから、俺のオネダリを叶えられるのもお前だけだな……んっ、……
(相手の弱い部分を煽るように撫でると、相手からは蕩けそうなため息が吐き出されてそれが軽く頬をなぞる。幸福が溢れていた空間に少しづつ熱が入り交じり始めたのを感じれば、相手を求める心がゆっくりと肥大化していくのを感じた。再び唇が重なる、重なるそこはさらに甘くなったように感じてじわじわと抑えることの出来ない衝動が溢れ出てくる。まだ離れたくない、ここでこんなことをすべきでないと我に返らないでほしい、その為に相手をもっとこちらにのめり込ませたくてまだ短い口付けの合間に相手が世界でたった一人の特別だと囁いてこちらからも口付けを送る。そう思うこちらも相手に傾倒していくのが分かって、軽く腹筋に力を入れ上体を持ち上げるとより近づいてより離れないようにしながら唇を重ねる。やがて唇は離れなくないよう擦る動きに変わって、柔らかな感触の中に鋭く甘い刺激が走ると吐息混じりの声が漏れた。音もない空間で自分の声はよく響いて、思わず一瞬口を噤むと声が漏れないようまた擦り合わせるキスへと動きをもどして)

…、翔太郎……、…ン…
(今日何度目かのキスだがそこに含まれる意味は少しずつ変容しつつある。頭の片隅ではこの行為のリスクや2人で交わした外での約束が過ぎるが触れる唇は甘く柔らかくてこれを手離したくないという思いの方が強い。そんな心境を知ってか知らずか世界で一人だけだと特別感と独占欲を煽るような言葉を向けられるとじわりと奥底から熱か滲み出してもう止められそうにない。視界いっぱいに相手を写して名前を呼べばまた唇が重なる。相手が上体が持ち上げ更に近付くのが見えれば後頭部に手を添え離さないように支える。求めるがまま下唇を甘く噛み付くとこれまでとは違う吐息混じりの声が響いた。自分だけが聞ける類の声。相手が乱れている証拠でもあるその声をもっと聞きたくて薄く口を開くとその隙間から舌を伸ばす。先程軽く歯を立てた下唇を慰めるように軽く舌先でなぞって唾液で軽く濡らし、噤んでしまった口を開かせようと唇の間に軽く差し入れて)

……フィリ、……っ、…んっ……
(視界が狭くなっていきこの目には相手しか映らなくなっていく。そんな状態の中至近距離で相手が自分の名前を呼べばもうそれだけで甘美な幸福がクラクラと頭を揺らして理性を簡単に揺るがしていく。相手の視線も心も奪ってもっと二人でこの熱に身を委ねてしまいたいのに一方で甘い声を漏らすのには戸惑いがあって矛盾した感情を抱えていた。咄嗟に噤んでしまった口だったがそこを開けるよう誘うように下唇に舌が這えば、まだ軽く痺れが残る場所を刺激して体が震える。僅かに開いた隙間に相手の舌が侵入してくればそれを拒絶することなど出来るはずもなくに舌を迎えいれ、互いのものを絡ませる。もっと相手を感じられるように舌を擦り合わせれば当然二人の間にはこの場に似つかわしくない淫らな水音が響いて焦りを覚え僅かに動きを止めてしまう。しかし後頭部を支えられ引くことはできず、元よりこの行為を止める気もない。僅かに漏れ出す声も他人には聞かせられない程甘くここで出すべき声ではないのに相手との口付けは止められなくて、耳から入る妖艶な音に対する羞恥と相手しか見えない鼓動の高鳴りで顔を僅かに赤くしながら、多少ぎこちない動きで音を鳴らさないように舌を絡めていて)

……ん、…誰かが通りかかるかもしれないね、……っ
（微かに残ったかき氷のシロップを舐めとるように下唇をなぞればその体が震える。その反応に機嫌を良くしたように目を細め舌を差し入れると噤んでいた口は開かれ招かれるまま更に奥へと進める。相手から舌を絡められるとそれに応じるように擦り合わせ、その間から水音が響くと一瞬相手の動きが止まる。それも気にせず舌を絡ませたり歯の内側をなぞったりしていると甘い声が混じり始めて脳を揺らす。触れる相手の身体は熱く顔はほんのり赤く当初の目的は果たしたはずだが一つが叶えばさらにもう一つを求めたくなる。いつもよりもぎこちない動きが音を出さない為だと察すれば僅かに唇を離す。一瞬だけ外に気を配るが近づいてくる足音や気配はない。だがもっと相手を乱したくて薄い笑みを浮かべ低く囁くように他人に聞かれてしまう可能性を提示する。その上で後頭部の手を更に引き寄せ逃がさないようにしてから再び唇を重ねる。口が閉じられないように深く舌を差し入れ、わざと音が大きく響くように動かして）

…、……な、お前っ……ッ！……、……っ…
(互いを愛でるようなこの口付けは続けたいが弾けでる音は出さないようにと舌を動かす、それが僅かに離れると音を我慢しているのに相手が離れた切なさが過ぎり熱い吐息を吐き出す。そんな中で相手が低く囁いたのはこの場面を、熱に塗れた音を誰かに知られてしまう可能性で目を見開く。頭の片隅に追いやっていたものを意識させられてしまうと頬の赤みは増して言葉を詰まらせれば、まさにあの時と同じく顔を真っ赤にして狼狽える姿を晒してしまった。しかしそれでは終わらなくて後頭部が持ち上がり舌が口内の奥へと侵入してきて、中をめいっぱい掻き回すように舌が動かされた。先程まで時折弾けるだけだった音はもっと大きく明確に絶えず響き始めて、より艶めかしく周囲に音を撒き散らす。最初こそその音に本当に誰かに見つかってしまうと焦ったが、舌が口内をぐちゃぐちゃに掻き乱す動きと音にどうしても体が疼いて、縋るように相手の胸元にある布を握りしめる。声が出そうになるのを必死に抑えるもその代わりに体がビクンと時折跳ねて、段々その動きも大きくなっており)

…、…ん……は、 …好きだ、しょうたろう…
(お互いだけを感じて夢中になる行為を続けながらも他者の存在をチラつかせるとその目が見開かれる。想像でもしたのかその顔はみるみると赤くなり狼狽えたよような言葉を零す。あの時を思い出されるような反応に心満たされるが同時に際限ない欲がまた奥底で沸き立つ。今ここが何処で何をしてるかを自覚した上でその表情を崩したくて再び深いキスをすれぱ水音を立てるように舌を動かした。口が閉じられ無い分溜まった唾液をかき混ぜるように舌同士を絡ませて内側を撫でてと弄ぶと艶かしい音が響いて鼓膜を揺らす。縋るように浴衣の生地を握られ、他人に聞かれない為か必死に声を我慢しながらも身体が音に応じるように跳ねるのを見ればいじらしい姿にぞくりと背筋が震える。相手を乱す為に始めた戯れだったが自分の方がのめりこんで夢中になっていくのを感じながらも吐息混じりの息継ぎを挟みながらキスを続ける。やがてゆっくりと唇を離せば溜まった唾液を飲み込みながらも熱に浮かされた瞳を向け、頭に浮かんだままの言葉を覚束無い口調で口にして)