相乗りで何処までも 【 〆 】

っ？！だああああぁぁぁ！！お前！！おい、フィリップ！！何してんだよ！！
(ガレージを見下ろした先の風景はなんとも奇妙なものだった、あるいは地獄絵図と言っていいかもしれない。ホワイトボードには一面に文字が並ぶ、これはまだいい見慣れた範囲内だ。問題はテーブルに収まらない量の知育菓子だろう。顔を引き攣らせた後湧き上がった諸々の感情を雄叫びに変え、叫ぶように相手を呼びながら螺旋階段を駆け下りそこらかしこに放置されたままの知育菓子を踏まないようにしながら相手へ近づいていく。いつの間にこれだけ買ったのかスーパーのお菓子コーナーで見かけた記憶のあるもの全てがこのガレージには揃っている。問題は作ってそのまま放置されている点だろう。こういうものは大体甘ったるい味のものが多いがこれだけの量を消費するのはかなり骨が折れる。相手一人で食べきれないのは目に見えていて、こちらが加わったとしてもかなりキツイ戦いになりそうだ。しかも相手は検索結果を書き出すのに夢中なのかペンをホワイトボード外へと滑らせていて慌てて腕を掴んでそれを止めさせる。壁に書かれた文字を消すのだって一苦労だ、相手が一文字書く事にこちらの労力が増えていく。怒りを隠さない表情を向けたまま「どうすんだよこの量！！」と所構わず撒き散らされたお菓子を指さしていて)

何するんだい、翔太郎。 ああ、僕も知育菓子がここまで種類豊富とは知らなかったよ。それにそれぞれ個性的で単に栄養摂取や嗜好性だけではなく教育という観点が組み込まれているのも面白い点だ。仕組み自体は単純な物だけど興味惹かれるデザインに仕上がっている
（叫ぶように名前を呼ばれるとちらりとそちらを見るも今は検索結果を書き出す方が優先だ。ホワイトボード外であることも気にせず文字を書き込んでいると急に腕を掴まれペンが壁から離れる。横槍が入ったことで漸く相手に意識が向くと邪魔されたことに不服そうな表情で文句を言う。何やら眉間に皺を寄せ怒っているようであるが作った知育菓子の数々を指さされると検索して検証した結果を披露出来ると喜々として話し出す。相手が驚くほど近頃の知育菓子の種類は豊富であり全て買ったらこれだけの量になってしまった。相手などと過ごす中で食事は栄養摂取の面だけなく嗜好性による喜びやコミュニケーションツールの面を含むことは学んだがそれに更に教育という要素を体験できるのは新しい。尽きることのない知的好奇心に興奮した様子で相手の顔色など全く気にせず一方的に語っていて「君もやってみるかい？」と誘いをかけて）

やるわけねぇだろこの検索馬鹿が！！残ってる奴は没収だ！先に作ったヤツ全部食べろ！！
(こちらが腕を掴んで明らかに怒った声をあげているのに、相手は検索結果を披露する機会がやってきたと嬉々とした表情を浮かべる。その後はいつも通り相手は淀みなく知育菓子について検索結果を語っていく。呆れ半分怒り半分で時折眉をヒクつかせながら話を聞いていたが、あろうことかさらに新しいものを作ろうとする相手にとうとう堪忍袋の緒が切れた。再び大声をあげると相手の持つペンを没収し、ズカズカと未だ大量の未開封知育菓子が詰まった箱を取り上げる。知育菓子を楽しむのは大いに結構だが、作ったり混ぜたりした後食べるまでがセットだ。もう既にテーブルとグレーチングに広げられた分で今日消費できるギリギリの量といった所だろう。箱を脇に抱えたままそこらに広がる知育菓子を指さし、食べ終わるまで見張ると言わんばかりにその場で仁王立ちして)

っ、何をそんなに怒っているんだい？ 別に君に迷惑をかけている訳でもないのに。
（何か気に障ったようで大声で怒られたかと思えば手元のペンとまだ手をつけていない知育菓子の入った箱を没収されてしまう。そこでようやくいつも以上に相手が怒っている事態は把握するが検証の邪魔をされたことに分かりやすく不満を露わにしながらじーっと相手を見つめる。先日のように直接相手にちょっかいをかけた訳ではなく寧ろ一人で思うがまま探求をしていただけだ。邪魔をした訳でもないのだから文句を言われる筋合いはないだろう。棘のある口調で言葉を返し、あからさまに面倒そうな溜息をつくが引きそうにない相手の態度に仕方なく作った知育菓子に手をつける。一口目は珍しさと興味本位で楽しそうに食べるが1個を完食したくらいで特有の甘ったるさが目立ち始め「…あまい」と思わず呟いて）

これからかけるんだよ……ほら見ろ！！全部食い終わるまでは検索も禁止だからな！ったく、久々に暴走しやがって。何回やったら気が済むんだよ、もうちょっと自分を抑えろ！
(相手はこの状況よりも検索を邪魔されたことが不服なようで不満を隠さない目を向けてくれば、聞き分けのない相手にさらに怒りのボルテージはあがっていく。屁理屈を言う相手を問答無用で見つめていればやがて面倒臭さを全面に押し出したため息をついて、それにも声をあげそうになるがグッと我慢を貫く。ようやく相手が作りっぱなしだったお菓子に手をつけた。最初は調子が良かったもののすぐにそのペースは落ちてくる。知育菓子は見た目に楽しいがなんせ甘ったるい、しかも口に残り後を引くタイプの甘さでそうそう連続で食べられるものではない。一つ目を完食した所で弱々しい呟きが聞こえてくれば、これまで我慢した分も合わせて再び声をあげた。これで相手もこの量の知育菓子を消費する大変さは分かった事だろう。ついくどくどと棘のある言い方をしてしまいながら文句を一通り言い終えると、ため息と共にテーブルに置かれたお寿司の形をしたお菓子をつまむとそれを口に入れようとして)

ッ、うるさい！ 保護者でも無いのに僕に指図しないでくれ。 それに君に食べるのを手伝ってくれなんか頼んでないし、僕が何に没頭しようが構わないだろう！
(仕方なく作った知育菓子を食べていくがその甘ったるい味に思わず弱々しく呟く。これを広げた分食べるのは大変かもしれないと思い始めていたがこれ見よがしにその事を指摘され更には検索を禁止されると反抗心が芽生えて意固地になって行く。自分は一人で興味のまま検索をしていただけなのに。その後もくどくどと嫌味っぽく文句を言われると限界を迎えて思わず声を張り上げる。そもそも相手とは対等の立場であって一方的に検索を止めたり禁止されたりする権限はないはずだ。それなのにまるで管理や躾をするような態度と物言いで思わずカチンときて相手に鋭い視線を送る。テーブルに並んだ知育菓子の1つを食べようとするのを見ればそれが相手の善意だと分かっていながらも今の心境では受け入れられなくてそれを奪い取り、手助けは必要ないと突き放すように声を荒げて)

なっ……！お前がこんなくだらねぇことしてるから俺が止めてやってんだろ！それならお前一人できっちり全部片付けろよ！俺は手伝わねぇからな！！
(何の味がするかも分からない未知の寿司にしか見えない塊を口にしようとすれば、相手は怒りの声をあげてそれを取り上げてしまい思わず絶句する。怒りが高まった状態では相手の言葉は全て聞き分けのない子供のワガママにしか聞こえず、言い聞かせるような口調に拍車がかかる。思わず相手に詰め寄りながら相手に負けじとこちらも鋭い視線で睨んでいた。相手の知識欲や好奇心は良いところではあるが今回のこれはやり過ぎだ。検索に没頭するのを『くだらない』と言い捨てると、こちらも意地を張って手助けをしないと宣言すれば相手に背を向けその場から離れていく。そのままヅカヅカと怒りを顕にした足取りで螺旋階段を登ればガレージから出ていった。むしゃくしゃした気持ちを抑えきれず「あ゛ー！！」とひとつ叫んだあと事務所の奥にある仮眠ベッドへ近づけば、体を放り投げるようにして横たわりそのままふて寝を決め込んで)

、言われなくてもそのつもりだ。……、…
(知識の探求を【くだらない】と言われるとズキンと胸が痛むも変わらず保護者面をして言う事を聞かせようとする姿に苛立ちが募る。やがて手助けをしないと言い捨てて背中を向けられるとこちらも態度は変えずに言葉を告げる。相手が螺旋階段を登り事務所への扉が閉じられると邪魔する者は居なくなって清々するが検索を再開する気にはなれずに宣言した通り取り上げた寿司のお菓子から食べ始める。手を借りないと宣言した勢いで作った知育菓子を食べていくがやはり特有の甘さが引っかかって三分の一ほど消費した辺りからかなりきつくなってきた。それと同時に自分の事を気にかけて手伝ってくれようとした相手にあんな態度と発言をしてしまった事に後悔と罪悪感を覚えてくる。言い方が気に入らなかったとはいえもっと冷静な伝え方があったはずだ。謝らなければと思えば残りの知育菓子を１箇所にまとめて埃などが入らないようにしてからゆっくり音を立てないように事務所スペースへとあがる。こっそり様子を伺うように扉を開けて覗き込むが相手の姿は無い。だがハットが金具に掛かっていて奥の仮眠ベッド前に靴がある辺り寝ているのだろう。きっと相手はまだ怒っている。そんな相手をわざわざ起こすのは気が引けるとガレージに戻ろうとするがただ謝罪するよりもその気持ちを込めた何かもあった方が良いのかもしれないと思い付く。確か昨日か今日にお気に入りのペンのインクが切れそうと言っていた。このペンのある文具店なら事務所のすぐ近くだ。今はファングもいるし近くなら問題ないだろうと判断すればこっそりと事務所を後にした。予定通り文具店で目的のペンを購入した帰り道、道端で何かビラのようなものを配っている女性の姿があった。いつもなら軽くスルーする所だが『貴方の短所治してみませんか』と呼びかける言葉に思わず足が止まる。思い浮かんだのは先程の自分の言動だ。反応を示した自分にすかさず女性が近付いてきて『短所が無くなれば誰にも嫌われないし迷惑をかけない皆に好かれる人になれますよ！』と熱心にアピールされる。もし自分の没頭癖が無くなれば相手を困らせることが無くなるのでは無いかという思考が一瞬過ぎるとその隙を狙ったように人の手にしてはやけに硬い物が頭にぽんと触れる。その瞬間ふわりと頭が軽くなったような気がして女性に目を向けると『これで貴方も良い子の仲間入りです』と微笑まれた。何が起きたかよく分からないが早く相手に謝らないといけないという思いが急激に強まって立ち去ろうと女性に礼を告げると他の人にも教えてあげて欲しいと同様の趣旨の書かれたビラを受け取る。それに頷いてポケットにビラを入れると帰路を急いでこっそりと事務所に戻ってきて)

____っ、お前一人で外行ってたのかよ！……それよりあの大量のお菓子どうした？
(簡易ベッドに寝転がったものの怒りの感情がグルグルと回ってなかなか寝付けなかった。だが相手と離れ少しずつ冷静になってくれば後悔や反省の方が顔を出し始める。ガレージいっぱいに広がる知育菓子を見て瞬間的に頭が沸騰してしまったが、何かに知的好奇心を発揮して探究心のまま検索を行うのは相手の欠点にもなりうるが個性でもあり長所ともいえる側面だ。それなのにそれを容赦なく否定する言い方をしてしまったのは間違いない。今度はグルグルと思考が巡りはじめるが、体を横たえた状態では堂々巡りの思考は浅い眠りへと変わっていって目を閉じた。ウトウトと眠っていると事務所の出入口が開く音がして目を覚ます。依頼人でも来たのかと慌てて飛び起きるが扉から入ってきたのは喧嘩した相手の姿で思わず目を開いた。今事務所の扉を開いて中に入ってきたということは一人で外へ出た事を示す。ファングを始めとしたガジェットもいるしいざとなればドライバーを装着すればある程度はどうにかなるが、どれくらい外に出ていたかは分からないものの組織に見つかる可能性はゼロではないだろう。次に顔を合わせた時には謝罪をしなければと思っていたのに、先に一人で外へ出たことを咎める様なことを口走ってしまって謝るタイミングを失ってしまう。気まずそうに目線を漂わせたあと、話を戻そうと先程の知育菓子のことに触れて)

少し買いたいものがあって…。三分の一程食べてきつくなったから残りは下で保管したままだ。…さっきは全面的に僕が悪いのに酷い言動をしてすまなかった。もうあんなことしないから食べるの手伝ってくれるかい？
（こっそりと事務所に入ったつもりだったが扉を開く音で相手を起こしてしまったようだ。喧嘩したばかりの相手と顔を合わせるのは気まずい思いもあって外出したことを咎められると言い訳らしいことを口にしながら視線を伏せる。少しの沈黙の後知育菓子のことについて問われると素直にその状況を伝える。相手と目を合わせるとさきほどまで意地を張っていたのがウソみたいにすらすらと素直な謝罪の言葉を告げた。冷静になれば何故あそこまで熱中していたのかも分からない、依頼にかかわることでもないし検索にこだわる理由もなかったはずだ。そう思えば申し訳ない気持ちは強くなって先ほどは拒否した事を同じことをしないと約束した上でお願いする。そして買ってきたペンを差し出すと「謝罪の品という訳ではないけど」と前置きしながら様子を伺うように差し出して）

フィリップ……俺も怒りに任せて酷い言い方しちまった。お前を追い詰めるような言い方もしたし、悪かった。ハードボイルドに甘いもんは似合わねぇけど、二人でとっとと食べちまおうぜ
(知育菓子を食べきれてないのは想定内で軽く頷き話を聞いていたが、相手から謝罪が切り出されて曖昧に漂わせていた目線を真っ直ぐと相手へ向けた。素直な謝罪は相手の真摯な気持ちも伝わってきて、こちらから謝罪出来なかったことを申し訳ないと思えば眉尻が下がっていく。最後にはインクが切れかけていると零していたペンを差し出されると目を見開いた。ここまで真正面から謝ってくれたのだからこちらも同じく真摯な態度で謝罪をしなければならないだろう。「ありがとな」と差し出されたペンを礼と共に受け取れば、こちらからも謝罪を切り出す。当然お菓子を消費するのに手を貸すのも承諾した。何よりあぁやって知識の暴走特急になって厄介な事はあるもののそれが相手のいい所でもあるのだ「検索に没頭するのはお前の個性みたいなもんだしな」と茶化すようにいいながらガレージへ向かおうとして)

気にしてないよ。ありがとう、翔太郎。
（謝罪の品を受け取ってくれて許して貰えれば安堵の息をつく。こちらが一方的に反抗したような物なのにそれでもこうして消費を手伝ってくれるのだからやっぱり相手は優しい。そんな相手に見合うようにいい子でいなくては。改めてこちらからも真っすぐと相手を見つめて礼を伝える。一方で茶化すように言われた言葉はピンとこなくて釈然としない様子で螺旋階段を伝ってガレージへと降りていく。出る前に軽く片付けをしたとは言えまだ散らかっている状態だ。そそくさと食べ終わった容器や包装紙をレジ袋の中にまとめて片付けテーブルの上にスペースを作れば椅子を譲って相手に座るように促す。二人の前に残りの知育菓子を持ってくれば「何か甘さを流せるような飲み物でも買ってくればよかったね」などと呟きながら早速その一つを口にして）

キツくなったらコーヒーでもいれるか。
(相手から貰ったペンはいつもの定位置、デスクへと置いてからガレージへ降りていく。茶化すように検索癖のことを口にするも相手からは反論もそれに乗っかる言葉も返ってこなくて軽く違和感を覚えた。あぁいう時相手なら何かしらの形で一言返してきそうなものだが、今はまだ反省モードなのだろうか。ひとまずはガレージに広がるお菓子の方かと意識をそちらへ向ける。椅子に座るよう促されれば「おぅ、ありがとう」と礼を言うものの、なんとなく接待されているようで微妙な心地だ。こちらが強く言い過ぎたせいでよっぽど反省したのだろうかと考えている間にお菓子が目の前に広げられる。まだまだ量があって一瞬たじろぐもこういう困難も二人で乗り越えてこそ相乗りする相棒だ。相手が菓子を手に取ったのに続いてこちらもひとつお菓子を選び取る。手に取ったのはグミだ、自分で型に流し込んで作るタイプのようなものでイルカやらカメやらがグミになって固まっている。そのなかで見慣れないものがあって小首を傾げる。思わず型から外すようにつまむも検討は付かず、傍においてあった箱をみるに海の天使と呼ばれているようだがピンとこない。思わず相手の方を見ながら「なんだこいつ」と相手に声をかけてしまう。直後自分が相手の知的好奇心を刺激するような発言をしたのに気がつけば「あ」と短く声をあげ)

確かにコーヒーならこの甘みと打ち消し合うかもしれないね。 …それはクリオネという生物らしいよ、ここに型の説明として名前が書いてある。
(この強烈な甘みと組み合わせるなら確かにさっぱりする物以外ならコーヒーのような少し苦味の強いものがピッタリするかもしれない。感心するように呟きながらもお寿司の形のチューイングキャンディを食べていく。辛くなったら後から入れることにしよう。一方で相手が手に取ったのは水を使って自分でグミを作るタイプの知育菓子で動物の型で固めたまま放置していたものだ。その方の一つの形が気になったようで相手が指で摘みあげた。いつもとは逆の立場で相手にこの元になった生き物を問われるがその時にはグミ作りの方に熱中していて型の生物には気が向かなかった。箱を手に取って確認してみると裏の内容物の説明書きの欄に型の名前も添えてあり当てはまるだろう名前を読み上げる。初めて聞く名前だ、海洋の仲間として型になっている辺りこういう生物もこの地球にはいるのだろう。だがそれ以上の感想も興味も湧くことはなく箱の該当箇所を指さしてさらりとその情報を相手に伝えながら菓子を口に運んでいて)

あ、あぁクリオネか………検索しねぇのか？
(知識の暴走によってこの惨事になっているのに何気なく相手の知的好奇心を刺激するようなことを聞いてしまった。この知育菓子のように取り返しのつかなくなる前に止めなければと身構えた矢先、相手は検索ではなく先程自分が目を向けた箱から答えを見つけ出して、さらにはクリオネの話題はそれで終わり元の菓子へと手を伸ばしていて呆気にとられてしまった。あの口振りではクリオネを知らなかったはず、海の生き物でありながらこの奇妙な形となれば速攻で相手が食いつきそうなものなのに今は見向きもしていない。まったくらしくない相手に激しい違和感を覚えながら暫く相手を見つめてみるもクリオネに興味が向くことはなかった。先程散々検索で暴走するなと怒った身としては言い難い事だが、どうしても相手の態度が気になって探るように問いかけていて)

、別に今必要な情報じゃないだろう？ それに先にこのお菓子を何とかする方が優先だと言ったのは君だよ
(相手に聞かれた通りこの形の元となった生物の名前を答えたはずだがその反応は芳しくない。もしかしたら二人でこの生物の名前を当てるゲームでもしたかったのかもしれないが答えてしまったものは仕方ない。不思議に思いながらもお菓子の消費を進めていたが長い間相手から視線を注がれ続けると流石に気になって目を合わせる。その状態で検索しない事について問われると今度はこちらが目を瞬かせる。依頼対象でもないしそもそもこうなった原因だって検索に熱中したせいだ。それは良い子ではない。なのにも関わらず検索する事を望むようにも聞こえる内容に軽く首を傾げながらも当たり前の話をするように言葉を返す。先程の相手の言葉も持ち出して検索しない意志を伝え、そんなに気になるのならと相手の手元の容器からもう一つ作ってあるクリオネのグミをつまみ「あーん」と口元にさしだして)

え？いやそうだけど、それでも検索するのがお前じゃ……ん、…なぁさっきは怒っちまったけど検索したりなんかに興味持つの我慢しろってわけじゃねぇぞ？
(いつも通り検索しないのかと問えば必要じゃないとあっさり言われますます違和感は強まっていく。確かに依頼にも事件にも関係ない事で検索する意味はないかもしれないが、それでも目に付き興味を持った事に事情構わず真っ直ぐ向かっていくのが相手のはずだ。必要なものだけ検索するのは確かに効率的であるし、今素直にお菓子を消費するのに注力する方が手間はかからないがなんとも言いえぬ違和感が胸に渦巻く。実はまだ怒っていてこちらに対する反抗心であえてこういう行動を取っている可能性も考えたが、そうであれば何か嫌味なことでも言いそうなものだし、こちらへとクリオネのグミを差し出す相手の顔は怒っているもののようには見えない。ひとまず差し出されたグミを食べて咀嚼するものの、いつもの歯車が噛み合わない感覚に心地の悪さを感じていた。どうして相手がこんな態度を取るのか理解する事ができない、もっと聞き分けのいい人間になろうとして無理でもしているのかとまたじっと相手の顔を覗き込むようにしながら見つめ、無理していないかと様子を窺い)

我慢している訳じゃないよ。色々思い直すことがあっただけさ。 …君も、手間が掛からない良い子の方が良いだろう？
(グミを差し出せばいつも通り食べてくれるが変わらず歯切れの悪い様子だ。なにがそんなに気になるのだろう。不思議そうにしていると顔を覗き込まれるようにして見つめられて更に問われる。本当に無理している訳でも我慢している訳でもなくて、何かを探求したいという意欲ごと消えてしまったような感じだ。今この状況だって暴走した知的好奇心によって相手を巻き込んでしまっている。ならばそんな欠点とも呼べる部分は改善した方が良い。平然とした顔でそれらを述べていくがふとあの女性の言葉が浮かぶ。相手に嫌われたくは無いし迷惑はかけたくない。抱いていた罪悪感とその想いが重なればこの状態が正しいのだと脳の奥で誰かが囁いている。空気の気まずさにゆらゆらと視線が揺れた後、相手に目を向けると同意を求めるように尋ねて)

(/お世話になっております。今日少し用事があるため次回返すのが明日になってしまいそうです。シリアスな所でお返事をお待たせしてしまうことになって心苦しいのですが、把握のほどよろしくお願いします。/返信不要です。)

な、……待て、お前なんかおかしくないか？良い子ってなんだ。俺は素直で聞き分けの手間がかからない奴が好きなんじゃねぇ、お前が好きなんだ。…外行った時なんかあったのか？
(相手の言い草に思わず絶句してしまった。確かに先程いつもいつも止めることになる知識の暴走を怒って言い合いにはなったが、ではそんな暴走が一切なくて必要な時にだけ検索を行う良い子の方が必要かと聞かれればそういうことではない。最初はこちらが怒りすぎたのかと思ったが相手の性分はこちらがふて寝している短い間で早々に変えられるものではないはず。拗ねてもおらず不貞腐れてもおらずこちらへの当てつけでなくただ純粋に今の態度をとっているのなら、明らかに相手の様子はおかしい。相手の言う良い子になる為に相手の最も核たるものが失われたような状態だ。ここまで相手の本質を変えてしまうものとなればこの街で思い当たるものはひとつしかない。こちらが目を離した時に何かあったとしか考えられず、目を探偵のそれに切り替えれば外出した時の事を聞いて)

(/ご連絡ありがとうございます！背後様の状況承知いたしました。実はこちらも本日はこの時間に1回お返事できるかな、といった状況でしたのである意味ちょうどよかったです。背後事情優先ですし、シリアスないい所なのでじっくりやっていきましょう！/こちら返信不要です)

翔太郎…。何かと言っても文具店でペンを買って、そこから帰る時に女性に話しかけられたくらいだ。 短所を治しませんかって
(こちらの方が良いと思っていた考えに異議を唱える相手を見れば僅かに目を見張る。一般的には良いとされるだろう良い子ではなくストレートに自分自身が好きだと語る相手に世辞や嘘の色は見えなくて何も言えなくなってしまった。何が正しいことなのかと分からなくなって視線を迷わせていると探偵の目になった相手に外出時にあった事を聞かれる。といっても特段何かあった訳では無い。今の自分の認識として何も不審に思ってないような態度で外出時の行動を挙げていく。女性に話しかけられたことを告げるとビラを受け取っていた事を思い出してポケットからそれを取りだして相手に差し出す。ビラには人間関係が上手くいかない方にという書き出しから始まり欠点を無くすことを勧める内容やメリットなどが胡散臭い言葉と共に並べられている。【貴方が望めば良い人になる手助けをします】で締めくくられたビラを見せながら相手の様子を伺って)