相乗りで何処までも 【 〆 】

なんか俺に変装してるみたいだな。いく、か……なッ、…お姫様扱いすんじゃねぇ！いくぞ！！
(万が一の備えも持たせ相手がスーツ姿に加えてガジェットまで装備すればまるでいつもの自分そのままだ。いつか相手にねだられ丸々一式服を貸した事はあったが、スーツに馴染むようにいつもの前髪は崩されてそれだけでも印象はそこそこ変わる。相手が自分と瓜二つの格好をしている事実といつもと違う雰囲気に嫌でも心は浮ついていた。気を引き締めねばと自分に言い聞かせつつ外へ出ようとした矢先、移動しかけた相手がこちらを当然振り返る。何か忘れ物でもしたのだろうかと考えるうちに手を取られて、いつかのように手の甲に短いキスが落ちれば目を見開き固まってしまった。ハードボイルドな格好をした恋人に紳士的にお姫様扱いされて照れないわけがない、先程と立場は逆転して一気に顔を真っ赤にすれば突っ込むように叫ぶしかなかった。格好に似合わぬ大股でガレージの入口に近づけば金具に掛けられたハットを手にして「忘れ物だ！」と相手の頭に無理やり被せると逃げるように外へと出る。外の風に当たって必死に上がった体温を冷ましてから移動を始めた。ひとまず相手と並んで歩き始めたが女装した状態でいつもと雰囲気の違うスーツに身を包んだ相手の隣を歩くのは想定外に緊張して鼓動がうるさくなる。せっかくクールで他人を寄せ付けない印象に仕上げてもらったのにこれではコンセプトが崩れてしまう。周囲に男の声が聞こえないよう相手の方に顔を寄せれば「次の角から別々に歩くぞ」と告げて)

…ふふ、じゃあ行こうか。__＿ 分かった、絶対捕まえるつもりだけど気をつけてくれ。 じゃあまた後で
(相手の服を借りてドライバーやガジェットを装備すれば確かに相手に変装しているのに近い見た目だ。それに服装が変われば心持ちというのも変わるようで気取ったハードボイルドらしく手の甲にキスを落とせば一度固まった後、顔を真っ赤にして叫ばれる。この姿も自分しか見れない物だと思えば悪くなく悪戯は成功だ。照れ隠しなのか無理矢理被せられたハットの位置を整えながらも笑みを浮かべて事務所を後にした。可能な限り人目のない道を選びながら歩き始めるが暮れつつある夕日を浴びても相手の格好は様になっていて誰にも見せたくない気持ちがまた湧き上がってくる。その独占欲を作戦への意気込みに変えながら進んでいき海岸沿いが近くなってくれば相手から別行動の指示を受ける。こちらからも軽い会話をした後に角を曲がり指定したエリアの近くに先回りする。今の所不審な人物は居ないようだ。ひとまずバ.ッ.ト.シ.ョ.ッ.トを近くの電灯に飛ばし広範囲を見張れるようにしてから隠れられる場所を探す。丁度自動販売機が良い所にあればその影に身を潜め動きがあるのを待ち)

接触してきた方が楽に終われそうだが…気をつけとく。お前も気をつけろよ
(当然気を抜くつもりはないが多少動きにくい服装であろうと正面から来てくれた方がこちらとしては対処がしやすい。こそこそしている盗撮犯が接触してくる可能性は低いことを考えれば相手に上手く犯人を抑えてもらう必要がありそうだ。言葉を交わしたあとに相手とは別のルートで海岸沿いの通りを目指す。夕日が差し辺りが段々と暗くなる頃合いに指定場所にたどり着けば何をするでもなくとりあえず歩き始めた。相手が選んだルートを考えれば相手の方が先にこの場所についているはずだ。ざっと見回した様子では相手を見つける事はできず上手く隠れているのだろうとそのまま海の方へと進む。歩く間もなるべく隙のない鋭い空気を崩さないよう表情を作り、写真の彼女を演じ続けた。だが全く隙がないのも盗撮犯としては困るだろう、海岸沿いに設けられた柵へとたどり着けば海を背にして柵へと寄りかかる。こうすれば隠れて撮影を目論む輩には絶好のチャンスになるはずだ。さりげなく周囲を観察しながら風.都.タワーを眺めていると突然隣から「お姉さん一人ですか？」と声がかかって目を向ける。そこにはおおかた人気のない場所を狙ってナンパをしているであろう暇人がいて、珍しい格好に好奇の目を向けながらこちらへと近づいてきた。思わぬ横槍に男を追い払おうと睨みつけるが逆にそれが男を刺激してしまったのか「その視線すごく良いですね」なんて言いながらこちらへと触れようとしてくる。声を出して追い払いたいが盗撮犯に声を聞かれれば男だと一発でバレてしまうだろう、もどかしい思いをしながらもこちらへ伸びてくる手を払いのけるくらいしか出来ることがない。そしてちょうどその時に、海岸沿いに設けられた植木の間から何かがこちらに向けられる。男の相手をしているせいでその何かには気づかず、しつこく迫ってくる男を睨みつけていて)

……っ、………。
(盗撮犯が何処に潜んでいるか分からない以上油断は禁物だ。バ.ッ.ト.シ.ョ.ッ.トのから送られてくる上からの映像と共に辺りに目を光らせていると足音が聞こえてきて抜け道の相手がやってくる。これで誘き寄せるための舞台は整った。相手は鋭く冷たい空気を纏ったまま海辺と近付いていくがシャッターチャンスを誘うためか柵に寄りかかって周りの景色を眺める。その光景は一枚の絵のようでもあって自分でも写真に収めたいと思う程だ。相手に向ける視線がないかと慎重に辺りを警戒していると第三者の声が聞こえてきた。思わずそちらに目を向けると男が相手に声を掛けている。状況や風貌を見るに盗撮犯には見えないが相手が追い払うような仕草をしても引き下がらず挙句の果てには触れようと手を伸ばすのを見れば一気に苛立ちが募って今すぐにも駆け寄って引き剥がしたくなる。だがそうなれば盗撮犯を逃がしてしまう事は容易に想像出来てハットのツバを握りしめながら潜伏に務める。その代わりに自分のス.タ.ッ.グ.フ.ォ.ンからもう一台に指示を飛ばせば相手用のス.タ.ッ.グ.フ.ォ.ンが手元から大回りで二人の元へ向かい男の脛を角で攻撃する。男が急所への思わぬ攻撃に痛がる声をあげれば風も吹いていないのに葉が騒めくような妙な音がしてバ.ッ.ト. シ.ョ,ッ.トの映像も植木の並んだ場所から妙な光の反射を捉えた。カメラを持って潜むにはピッタリな所で盗撮犯が居る可能性は高い。そこにいるのが盗撮犯である確信が持てれば直ぐにでも捕らえたいが今いる場所からは少し距離がある。相手がもう少し引き寄せてくれる事を期待しつつ自動販売機の影から出てその人物の正体を探るよう足音を立てぬように慎重に近づいていき)

……、……
(いくら睨みをきかせても冷たい目線を向けても男は『無口でミステリアスですね』と食い下がってきてこの場を離れる気配はない。盗撮犯を確保すれば相手から何らかの合図があるはずだ、それまではクールな女性に徹しなければならない。どうしようかと考えあぐねていた矢先、突然男が叫び声を上げてその場に蹲った。急な事に目を瞬かせていたが視界の端で何かが素早く駆け抜けていったのがみえれば合点がいく。どうやら相手はかつての自分と同じ手段を使ったらしい、こちらに手を出そうとする男に相手がガジェットを使ってくれたのだろう。似た者同士の行動に思わず笑いそうになるがなんとか表情を引き締めていた。勝手に近づいてきた男を捨て置いても良かったのだが、さすがにそれは良心が傷んで蹲ったナンパ男に手を差し伸べる。男は礼を言いながらこちらの手を取る、力いっぱい引っ張れば男だとバレそうなので軽い支えになる程度にしておいた。立ち上がった男はニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべているが、その間微かに波の音に紛れてシャッター音が聞こえた気がした。盗撮犯も釣れているらしい、後もう少しの辛抱のはずだ。すると今度は目の前の男が『お姉さんみたいな強気の人が隙を見せてる写真ってめちゃくちゃ売れるんですよね』と話しかけてきて思わず目を見開く。立ち上がるために貸した手は未だ握られているどころか離される気配がなかった。今の発言を考えれば目の前の男と盗撮犯はグルだ、それを理解した所で『お姉さんみたいな人のね、怯えてる写真が一番高く売れるんですよ』と笑顔で語りかけてくる。身の危険を感じた直後に背後に車が止まる音がして思わずそちらに気を取られる。その隙に目の前の男はこちらを思い切り押してきて、同時に車の中からもう一人男が現れればあっという間に車の中に引き込まれてしまい、車は慌ただしく走り出してしまった。直後、草葉の陰からカメラを構えた男がガッツポーズをして出てくると、傍らに置いてあったバイクでその場を後にしようとして)

っ、翔太郎！！　、彼女を何処に連れていくつもりだ
（あと盗撮犯を捉えるのにもう少しといった所で事態は急変する。単なるナンパだと思った男が何かを言ったかと思えば今まで車体の一つも通ることのなかった通りにタイミングを合わせたように車が止まって相手が中に連れ込まれる。その光景に頭が真っ白になって慌てて駆けつけるが無慈悲にドアが閉められていく。咄嗟にス.タ.ッ.グ.フ.ォ.ンをその隙間に滑り込ませることには成功するが車は慌ただしく走り去ってしまう。焦りと怒りとで頭の中はぐちゃぐちゃで体の芯から冷えていく感覚がする。だが草葉の陰から男が出てくるのを視界に捉えるとス.パ.イ.ダ.ー.シ.ョ.ッ.クのワイヤーによって逃がさぬようにその身を拘束する。床に落ちてがしゃんと音を立てた男の高級そうなカメラを足蹴にしながら低い声で尋ねる。男は怯えた様子を見せるがその気迫と逃げられないことに観念したように目的地を吐く。その場所は数年前廃業になったホテルで滅多に人目につかないところらしい。場所さえ聞き出せるとカメラの記憶媒体であるSDカードだけ取り出してこの場所の位置情報と男の写真を共に通報してほしい旨を所長に送っておく。そのタイミングで呼び出しておいたリ.ボ.ル.キ.ャ.リーがたどり着けばそれに乗り込んで聞き出した目的地へ向かう。その道中自分がもっと早く行動していればあの男の時点で飛び出していたらと後悔は募るばかりだ。最悪な結末を想像して動けなくなってしまいそうになるのを探偵の証であるハットを掴んで何とか奮い立たせていた。狭い路地に入るようになればバイクに乗り換え進んでいけば目的のホテルに辿り着く。どうやら最短ルートを最速で進んだおかげか先回り出来たようだ。車に滑り込ませたス.タ.ッ,.グ.フ.ォ.ンの信号もこちらに向かっているのを確認するとバイクを近くの建物に隠しホテルの駐車場に身を忍ばせる。確かに感情は昂っているのに頭はやけに冷静で乖離したような気分だ。少しして見覚えのある車が中に入ってきて停車するのを確認すれば足音を立てずに近付き、ドアが開いたタイミングで飛び出して手前の男を引き摺り出せば冷たい顔で容赦なく蹴りを食らわせて)

ッ、……
(車内に押し込められ車が発進してしまうとさすがに背筋が凍る感覚を覚える。対面した人間なら腕っ節で制する事が出来るとタカをくくっていたが、車まで用意して複数人で攫うなんて展開になるとは思ってもみなかった。盗撮した写真を売るサイトはそこそこな規模だった、あれを見た時に盗撮犯は単独ではなく集団で動いている可能性を考えるべきだったか。情報募集欄にあの写真が最優先案件に指定されていたのは強気そうな女性に目をつけより売れる写真を、つまりは対象の女性が恐怖に竦む写真を撮るためなのだろう。醜悪な行為に腸は煮えくり返っているがここで暴れるのは分が悪い。せまい車内で男二人に挟まれるように座っているこの状況では暴れても逆に押さえつけられてしまうだろう。今は女のフリをしたままチャンスを待つしかない、黙って座っていれば先程の男が『ちょっと写真撮るだけだからね』とこちらを宥めるようなことを言ってきて再びキツく睨みつける。だが男はそれにも気味の悪い悪い笑い声を漏らすだけで無視を決め込み視線を下へとやった。その時足下に動く何かを見つける、コツコツと靴を静かに叩くのはス.タ.ッ.グ.フ.ォ.ンだ。それを見て相手が自分を追ってきていることを察すれば心の中で自信たっぷりの笑みを浮かべる。相手がこちらを追っているなら尚のこと心配することは無い、僅かに燻る不安は消し飛んで黙ったまま車は進んでいった。やがて車は廃業したホテルへと入っていき、停車した車から降りるよう促される。だが扉が開いた途端手前の男が引きずり出されて目を開いた。背中を押されて車の外へ放り出されればそこには相手の姿があって予想通りこちらを追いかけてきていた事実に闘志が湧き上がると同時に心底安心していた。後から降りてきたナンパ男は追跡者がいた事実に驚くもまだ余裕の表情を崩さず『ボコボコにやられる人がいたらもっといい表情が撮れそうだね』と恍惚とした表情を浮かべれば、懐からド.ー.パ.ン.ト.メ.モ.リ.を取り出す。『Photograph』と起動音が響くなか『さぁ僕の姿を良くみて！』とその声と共にメモリは男の手首にあるコネクタへと吸い込まれその姿は怪物へと変わった。その様をやはり黙ったまま見守る。怪物はこちらをじっと見つめたまま数秒が経過した。おそらくここでこちらが恐怖で悲鳴をあげる姿を期待していたのだろうが、変わらぬ表情で見つめていれば怪物は『あれ…？』と間の抜けた声を出す。そろそろ化けの皮を剥がす時のようだ。化粧に似合う自信たっぷりで強気な笑みを浮かべながら「悪いな、職業上見慣れてんだ」と声を発すればまた数秒の、先程よりも冷たい沈黙が流れ、怪物はカタカタと震えながら『おとこー？！？！』と悲痛な叫びを挙げていて)

僕の相棒を返して貰おうか。……行くよ、翔太郎。
（手前の男を引きずり出して不意打ちで蹴りを食らわせるといい所に入ったのか男は呻き声と共に脱力してそのまま床に転がす。その後に降りてきた相手は見る限りでは無事なようでひとまず安堵はするがその分今度は静かな怒りが沸いてくる。相手の後ろからナンパ男が下りてくれば彼らに鋭い視線を向けながら低い声で牽制するように宣言する。運転席の男が焦って車を動かそうとするのが見えると何処からかファングが現れて咆哮とともにドアから車内に入り男に飛び掛かることで逃げ道を塞ぐ。ナンパ男はこちらを見ると驚いたような表情を見せるが良い写真を撮るためのスパイスだと考えたのか恍惚とした表情でメモリを取り出した。まさかメモリが絡んでいたとは思わず僅かに目を見開くもコネクタにメモリを刺すと男は異形の怪物へと変化する。生身の人間なら攻撃するのは躊躇われるがド.ー.パ.ン.トなら話は別だ。応戦体勢をとるがド.ー.パ.ントは動くことなく奇妙な沈黙が続く。思い通りの反応が来なかったせいか間の抜けた声を発するが綺麗な女性の姿をした相手から男の声で返事があると再び冷え切った沈黙のあと怪物は悲痛な叫び声があげる。明らかに落胆したような反応を見せるが相手に手を掛けようとしていた事実に変わりはない。表立って声を荒げたりはしないものの十分気が立っていて反応を返す余裕がなくては相手の隣に並び静かに怪物を見据えていた。相手の方を向き預かっていたドライバーと切札のメモリを一緒に差し出すと自分の疾風のメモリを構えながら声を掛けて）

っ、落ち着けフィリップ……無駄口叩いてると痛い目みるぜ？変身ッ！
(車から解放された先に相手を見つけたのは良いものの相手の口からは底冷えするような冷たい声が発せられて、聞きなれない声色にこちらも背筋がゾクリと震える。いつか体が縮んでしまった時にこちらを痛めつけた犯人に向けた態度と似た雰囲気だ、相手の底知れぬ怒りを感じていれば視界にファングが横切っていき息を飲む。前回ファングはなんとか乗りこなせたが怒っている相手が使えば結果はどうなるか分からない。売れる写真を欲していた犯人の鼻を明かしてやってスッキリしたものの相手はそれでは足りないようで、隣に並んだ体からは明らかに怒りを感じる。こちらにドライバーと切札のメモリが差し出され、疾風のメモリが構えられたのを見ればひとまずいつものダブルになれそうで一安心だが、明らかに気が立っている相手を宥めるように声をかけた。運転手の男は車を飛び出し腰を抜かしている、車内を制したファングは車内のシートからこちらをじっと見つめていた。緊張感の漂う中腰へとドライバーを装着するが、怪物はまた奇妙な声で笑い始め『写真じゃ男だって分からないですよね。ボロボロになった君の写真も高く売れそうだなぁ』と相変わらずの調子で、どうしてもこちらに危害を加えたいようだ。さすがにそれには不快感を顕にした顔を向けるがそれにも恍惚とした声を挙げるのだから手が付けられない。口を固く結びながら切札のメモリを構えるとドライバーを起動させて)

さあ、お前の罪を数えろ。…っ、あの光が厄介だ、
(黙っていてもこちらの状態は相手に伝わっているのか宥めるように声を掛けられる。自分としては落ち着いているつもりはあるのだが静かに沸き立つ怒りが伝わっているのかもしれない。そんな心境を知ってか知らずか恍惚とした声で危害を与えようとする発言を聞けば全身の血が熱持って思わず舌打ちの一つでもしそうになってしまう。気を保つように小さく息を吐くと腰に現れたドライバーにメモリを挿入する。切札のメモリもセットされドライバーを開けばから意識は相手の身体に移り二人で一人の姿となる。感情の昂りに応えてか特段激しい突風が吹き荒れながらもいつもの決め台詞を告げる。そのまま怪物の方に駆け出すと力のまま殴りかかる。連続して攻撃するがレンズを模したような頭部がフラッシュのような激しい光を炊くと思わず目が眩む。その隙に距離を取られると苦々しく呟いて)

っ、……だから落ち着けってフィリップ！、…ならあのレンズを塞ぐまでだ
(ドライバーを起動し体は風を纏うが、その風は相手の感情に呼応してかいつもよりも激しい。加えて意識を共有し相手の静かな怒りの感情がなだれ込んでくれば息を詰まらせてしまって、いつもの決めゼリフを言うことはできなかった。二人で一人のこの体は息を合わせて動かなければならないのに相手は勝手に走り出して力の限り攻撃を加えだす。ファングの時ほどではないが暴走気味の相手を制するようまた叫ぶと目の前が真っ白になり目が眩んだ。メモリの名前の通りフラッシュをたく厄介な攻撃だが、カメラと仕組みが同じならばそこを隠してしまえばいい。相手に合図を送ればソウルサイドのメモリをルナへと変える。変幻自在の腕を伸ばし稼がれた距離をあっという間に縮めれば、伸びた腕を怪物の頭部に巻き付けレンズ部分を塞いでしまう。しっかりと腕が絡まった所で一気にこっちに引き寄せれば、飛んできた体を地面へと叩きつけるようにして左の拳を入れた。怪物は地面に伏せてここがチャンスだ、「決めるぞフィリップ！」と相手へ合図を送って)

ああ、これで終わらせる。 ジ.ョー.カース.ト.レンジ！
(相手は意識を共にしていると分かっているのに先程の男の発言のせいか早く倒さなければと妙な焦りを覚える。そんな自分を妨げるようにフラッシュがたかれると思わず目を瞑る。苦々しくそれを呟けば相手が対処法を思いついて伝わってくる考えのままメモリを変えた。確かにその部位を塞いでしまえば光を遮ることが出来る。そんな単純な考えさえ浮かばない程暴走気味であったことを自覚すれば漸く落ち着きを取り戻した。捉えた怪物を引き寄せ地面に伏せさせると相手の合図に合わせて切札のメモリをスロットにセットする。マ.キシ.マ.ムド.ライ.ブを発動後、ルナサイドが複数に分身して伸びる腕で連続攻撃を与える。再び一つの身体に戻れば技名と共に左腕で最後の一撃を叩き込めば怪物の身体は大きく仰け反り、姿が戻っていくと共にメモリが排出され砕けた音がした。人間に戻った男が意識を失ったのを見ると変身を解いて元の身体で起き上がる。危機が去ったのだと確認が取れるとすぐに相手の元に駆け寄って「…何もされなかったかい？」と心配そうに尋ねて)

あぁ大丈夫だ。手は出されてねぇよ。……ったく、あんなに感情的になってちゃお前もハーフボイルドだな。まぁでも、ありがとよ。助かった
(漸く落ち着きを取り戻した相手と息を合わせ超常的な連続攻撃をしかけた後、今度は相手と共に必殺技を叫び渾身の一撃を叩き込んでやれば怪物は床へとのされてメモリが飛び出し砕け散る。これで一件落着だ、最初に盗撮していた奴も含め全員お縄になればまもなくあのサイトも閉鎖されることだろう。ひと段落して変身をとけば元の女装姿へと戻り、相手が心配そうな顔を浮かべてこちらへと近づいてくる。相手が本気で怒って、そして本気で心配してくれていた事は意識を共有しなくとも分かりきった事だ。幸い連れ去られた以外に実害はなく問題ないと首を振る。一身に向けられる相手の気持ちがなんだか気恥ずかしくなって、相手が被るこちらのハットの位置を軽く直してやりながらいつも揶揄われる時に言われるお決まりのフレーズを送ってやった。ハードボイルドを目指していない相手が言われる筋合いはないのだろうが、相手はこちらの格好をしているのだからそこをつついてやってもいいだろう。照れ隠しはしたものの期待した通りに相手はこちらを守ってくれたのだ、不義理を働くつもりはない。一息ついた後にハットに添えていた手を肩へと移動させると目線を合わせ飾らない視線のまま礼を伝えて)

だってあんな集団かつ計画的に君を連れ去ろうとしたんだ、感情的にもなるよ。 …ん、本当に良かった。
(今まで撮ってきたであろう盗撮写真のデータに加えて相手を連れ去る時の映像もバ.ッ..ト.シ.ョ.ッ.トで記録してある。被害者である相手の正体を伏せながらも警察に提出すれば彼らに罪を課すことは出来るだろう。状態について問えば問題ないと返事が成される。ハットの位置を直されながらいつもこちらが呼んでるフレーズでからかわれるが実際あの瞬間から肝が冷えきったような思いだった。車内で何かされる可能性だってあったし幾ら相手でも何とかするのは難しかっただろう。更に彼らの卑劣な目的や更に加害する意思を聞いたのだから冷静でいろという方が酷だ。少し唇を尖らせて開き直りにも近い主張をする。啖呵を切ったにも関わらず危険な目に合わせてしまった後悔はあるがしっかりと目を合わせて礼を言われると素直にそれを受け止める。緊迫した状態への緊張やずっと湧き上がっていた怒りも事態の収束に従って溶けていくのを感じて噛み締めるようにぽつりと呟けば人気のないのを良いことに再び相手の背中に軽く腕を回すと緩く抱きしめて)

まぁ、立場が逆だったら俺も同じようになってたか……、…一人でもなんとか出来る気でいたんだが、車出た時お前がいてめちゃくちゃ安心したんだ。お前が居てくれて良かった…
(いつものおかえしでからかってやったものの、相手は口を尖らせている。だが言うことは尤もで、売れる写真とやらのために車内で手を出される可能性はゼロではなかった。それにもし相手が同じように攫われていたならば正気でいられる自信はない。軽く笑いながら理解を示していると、相手がポツリと呟いてこちらを緩く抱きしめる。その瞬間に胸の奥底で張っていた緊張の糸が漸く切れた気がして微かに震える息を吐き出した。正体が男である切札も持っていたし広い場所にさえでれば腕力で乗り切れると思っていたが、想定外の連続に無意識に脳裏には最悪の結果がチラついていたのかもしれない。それが相手に抱き締められることでやっと綺麗に流し去られた気がして、服が皺になるのも気にせず相手に強く抱きつくと胸の内にある弱い部分ごと吐露していた。だが辛気臭くなるのもごめんで、相手に抱きついたまま場を誤魔化すように軽く笑うと「今回のお礼になんでもひとつお前の望み叶えてやるよ」と提案して)

君が何処に連れていかれようとも僕は君を探して助けに来るよ。望み…、なら今の君の姿を独り占めさせて貰おうかな
（ゆるく相手の体を抱きしめれば小さく震えた息を相手は吐き出した。事務所のときとは違って強く抱きしめられる腕の強さと弱音にいかに彼らに囲まれた車内で不安だったのかが感じられて胸が苦しくなる。少しでもそれが紛れるようにこちらからも腕の力を込め自分の存在を伝えるように軽く背中を擦る。そもそもこういう状況にならないのが一番ではあるが何があるか分からないのが自分達の仕事だ。だからこそどんな手段を使ってでも必ず相手の元にたどり着くと頑固たる決意を告げる。少し湿っぽい空気になったが相手が望みを叶えると提案されると目を瞬かせて反応する。普段からいろいろ我儘を言っている自覚はあるがいざ望みを叶えるといわれると悩んでしまうものだ。考え込むように呟くが相手の服装や顔が目に入れば望みはすぐに決まった。軽い笑みとともにそれを告げれば相手の手を引いて早速歩き出す。やるべきことは終わったのだからまた外で厄介な人に相手が目をつけられる前に帰った方が良い。匿名の通報だけすればバイクを回収し近くに待機させていたリ.ボ.ル.キ.ャ.リーで帰るという厳重体制で事務所へと戻り）

フィリップ……そういうカッコイイこと言うのは俺の役目だったのに。……それならお易い御用だ
(敵に囲まれたってあからさまに怯えるようなことはしないが全く恐怖しないものでもない。今まではそんな小さな弱音は全て飲み込んできたが、相手にならそんな情けなくて弱い自分も見せる事が出来る。相手からも腕に力が込められ背中を擦られると今度は安堵の吐息が漏れた。そんな中で何処へでも助けにくるなんて力強い声で伝えられれば、胸には温かな安心と強い相手への信頼が溢れだす。言われずとも相手が助けに来てくれると確信はしているが、言葉という形で伝えられればそれはこの胸により深く刻まれて頼りになる力となる。思わず最高の相棒の名前を呟くように呼ぶも、真正面からの想いはやはり気恥ずかしいものがあって冗談めかした返事をする。だが事実として、最初こそこちらが一方的に守らなければと思っていた相手は今や真の意味で隣に並び立つ相棒になっていて、支え支えられて同じ道を歩んでいるのだ。その事実を噛み締めながら相手の望みを聞けば目を瞬かせるも尽きぬ独占欲についつい笑みを浮かべる。相手に手を引かれてリ.ボ.ル.キ.ャ.リーにのり誰の目にもつかない形で事務所へと帰ってくる。扉を閉めてしまえばもうそこは二人の空間だ。当然お互いの格好はそのまま、相手の被るハットを取り金具へかけてやると、相手の両手をこちらの両手で包んで「これで今の俺はお前が独り占めだな」とすました顔を作って)

今日は僕がハードボイルド探偵だからね。＿＿ この状態だと僕が捕らえられているようにも見えるけど。…独り占めしてもいいなら写真撮っても良いかい？君の姿を残したい
（関係を深める前なら平気だったと言い張っただろうが今はこうして弱い部分も見せてくれるようになった。それだけ信頼してくれているのだろうと思えば心が温かくなって名前を呼ばれると更に笑みを深める。照れくさいのもあるのか何処か拗ねたようにも聞こえる返答にこの格好らしくハットを軽くつかめば不敵な笑みで相手の目指す代名詞を名乗っておいた。相手の手を引いて家にも近い事務所に戻ってくればやっと本当の意味で緊張が解けていく。一人で行動する中で勇気をくれたハットが相手の手によって金具に戻されるとそのまま両手で自分の手を握られる。澄ました顔で言われる言葉にまたどきっと鼓動が跳ねるが相手に手を取られている様はどちらかというと独り占めされているといった方が近い。思わずツッコミをいれるが二人の空間に戻ってきただけで望みの大半は満たされていて何をするか悩む。今回の事件の発端は無断に撮られた写真とその悪用だったが相手のこの姿を残したいという一点においては理解は出来るものだ。自分だけが見れる写真を残るのも独り占めの一環だろう。そんな心持の元相手の姿を撮る許可を期待する目でみつめながら求めて）

まぁ、俺も珍しい格好のお前を独り占めしたいってことだ。……あぁ、もちろん。なんならちゃんとポーズ決めて撮るか？
(ようやく二人きりになれる安全な場所へと帰ってきて心身ともにリラックスしつつ相手の手を包み込む。確かにこれではこちらが相手を独占しているようだがこちらと同じく相手も見慣れない格好をしているのだ、向こうだけ着替えていつも通りに戻るのは勿体ない。今のままで捕まえていたいという気持ちが行動として出てしまったようだ。おどけた口調ながらも本音を口にしつつ相手を見つめる。そして告げられた次なる望みは写真を撮る事だった。今回の事の発端にもなった写真、盗撮されるなんて元の格好でも二度とごめんだが、レンズ越しに相手の視線を独り占め出来るならこちらとしても喜ばしい事だ。すぐさま笑みと共に相手の望みを承諾する。ただ立ってこの姿を残してもいいがどうせ撮るなら撮影会の時のようにこの格好に似合う雰囲気で撮るのがいいだろう。手始めに事務所の出入口横にある1人がけの赤いソファに横から腰かけ本来肘置きの場所に背中と足を預けて座る。若.菜.姫,のラジオを聴く時によくする姿勢だがこの格好で同じ姿勢になればそこそこ絵になるだろう。撮影会の記憶が呼び覚まされたのか上機嫌に足を組むと軽く首を傾げ相手に向け挑発的な笑みを浮かべ)

ならお願いしようか。 …元の素材からそうだけど大人しくしていると造形の良さが目立つね。それに君の場合、可愛いより美しいの方が良く似合う。
(確かにこの姿をするのは2回目でそうそうあることでは無い。相手が望みを叶えてくれるなら暫くこの格好でいることにしよう。そうして次なる願いとしてあげたのは写真を撮ることだ。女装姿を形に残すことを渋られるのも予想はしていたのだが案外乗り気のようで率先して撮影場所を探す姿に笑みが零れてバ.ッ.ト.シ.ョ.ットを持ってその後を追いかける。相手が撮影場所として選んだのは出入口横のソファーでラジオを聞く時とはぼ同じ体勢なるが化粧と服装が相まって絵になる構図だ。足を肘置きに置いているせいでスカートが若干めくれて立っているときよりも足が見えると妙にまた鼓動が跳ねてそこから視線を逸らす。上機嫌な相手が首を傾げながらこちらを向きその格好に見合うよう挑発的に笑うとまた変に心乱されながらもシャッターを切る。近づいたり遠ざかってみたり角度を変えたりと何枚も写真を撮っていくがこうして見てみると出来上がりの良さに感心するばかりだ。勿論化粧の効果もあるが元の姿でさえ黙っていれば整っている顔立ちである。写真という一瞬を切り取る行動によって改めてそれを認識すれば撮影しながら思ったことを全て素直に口にしていて)